説明

金属複合材および金属複合材の製造方法

【課題】所望の耐摩耗性を維持して摺動寿命を延長できる金属複合材およびその製造方法を提案する。
【解決手段】平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子が、金属母材内に分散されてなり、外表面に、多孔質状を維持したセラミック粒子が露出されてなる金属複合材であるから、外表面に露出したセラミック粒子の微細孔内に潤滑オイルを侵入して保持できるため、耐摩耗性が向上して摺動寿命を延長できる。この金属複合材は、所定の焼結温度により焼結することにより、平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子を備えたプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を含浸し、その外表面を研磨することにより成形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金等の金属母材と強化材とを複合化してなる金属複合材および該金属複合材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車には、燃費や走安性等を向上させるために、軽量化、耐久性、熱膨張性等に優れるアルミニウム合金等の軽金属から製造された部品が増加する傾向にある。さらに、アルミニウム合金等の軽金属とセラミック繊維等の強化材とを複合化した金属複合材は、軽金属の特性を有しかつ優れた耐摩耗性を有していることから、エンジンを構成するシリンダやピストン等の所謂摺動部材に適用されている。尚、このような金属複合材は、一般的に、セラミック短繊維や粒子等の強化材を焼結することにより所定形状のプリフォームを成形し、このプリフォームに、ダイカスト成形等により金属の溶湯を加圧含浸することによって製造される。
【0003】
上記した金属複合材としては、シリンダ等の摺動部材に適用する場合、高速の往復作動に充分に耐え得る耐摩耗性が必要とされていることから、自己摺動性を有する黒鉛や活性炭などのセラミック粒子を含有した構成のものが一般的に良く知られている。具体的には、摺動相手材と対面する摺動面に、前記した黒鉛等のセラミック粒子を露出してなる構成とすることによって、耐摩耗性を向上するようにしている。また、摺動面には、金属母材(例えば、アルミニウム合金)も露出していることから、該摺動面の金属母材と摺動相手材との間で焼き付きが発生することを防止するために、所定の潤滑オイルが使用されている。この摺動オイルによって、摺動面を保護し、金属母材が摺動相手材と直接接触することを防ぐことができるため、所望の耐摩耗性を長期に亘って維持することができ得る。
【0004】
また、本発明の発明者らは、以前に、多孔質状のホウ酸アルミニウム粒子を、外表面に露出してなる構成の金属複合材を提案している(特許文献1)。この金属複合材を上記の摺動部材に適用した場合には、外表面(摺動面)に露出したホウ酸アルミニウム粒子の空孔内に潤滑オイルを保持できるため、摺動時に前記空孔内から潤滑オイルが滲み出ることにより、耐摩耗性を長期に亘って維持し、摺動寿命を向上でき得る。ここで、ホウ酸アルミニウム粒子を外表面に露出した構成とするためには、金属母材の溶湯を含浸する工程で、該溶湯がホウ酸アルミニウム粒子の空孔内に侵入することを防ぐ必要がある。そのため、プリフォームの成形工程で、ホウ酸アルミニウム粒子と、負に帯電したシリカ粒子を有するシリカゾルと、正に帯電したアルミナ粒子を有するアルミナゾルとを水中で混合することによって、電気的に中性となったシリカ粒子とアルミナ粒子とをホウ酸アルミニウム粒子の表面に凝集して被覆する。これにより、当該プリフォームに溶湯を含浸する際に、該ホウ酸アルミニウム粒子の孔内に溶湯が侵入しないようにしている。そして、摺動面(外表面)を研磨することによって、多孔質状を維持したホウ酸アルミニウム粒子を露出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−19484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1にあっては、シリカ粒子とアルミナ粒子とをホウ酸アルミニウム粒子の表面に凝集することによって、金属母材の溶湯の侵入を防止するようにした製造方法を提案しているが、全てのホウ酸アルミニウム粒子を均しく被覆することは難しく、各ホウ酸アルミニウム粒子の多孔質状を維持する作用の発現性にバラツキが生じ易い。これに伴って、ホウ酸アルミニウム粒子の空孔に潤滑オイルを保持できるという作用効果に限界が生じている。尚、ホウ酸アルミニウム粒子を完全に被覆するためには、シリカゾルとアルミナゾルとを多量に添加することを要するが、この場合には、プリフォームの通気性が低減するという懸念もある。
【0007】
以上のことから、本発明は、エンジンのシリンダ等に適用した場合にあっても、潤滑オイルの保持性に優れ、所望の摺動寿命を安定して発揮し得る金属複合材およびその製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子が、金属母材内に分散されてなり、外表面に、多孔質状を維持したセラミック粒子が露出されてなるものであることを特徴とする金属複合材である。ここで、多孔質状のセラミック粒子が平均孔径1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであるとした金属複合材が好適である。
【0009】
本発明の発明者らは、多孔質状のセラミック粒子内に溶湯が侵入することを防ぐ方法について鋭意研鑽したところ、極めて微細な孔には溶湯が侵入できないことを見出した。そして、溶湯の侵入できない孔径についてさらに精究したところ、孔径40nm以下の微細孔には溶湯が侵入しないことを確認した。すなわち、平均孔径40nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子によりプリフォームを成形して、金属溶湯を含浸しても、該金属溶湯が微細孔内に侵入せずに、多孔質状を維持できる。そのため、上述した従来方法のように粒子を被覆して孔への溶湯の侵入を防ぐための手段を必要とせずに、本発明の金属複合材を成形することができる。さらに、微細孔の孔径について検討した結果、孔径80nm以下の場合にも、溶湯が侵入し難く、溶湯の侵入を防ぐことができると予見するに至った。
【0010】
一方、多孔質状のセラミック粒子への潤滑オイルの侵入および保持について精究したところ、孔径1nmより小さい孔には、潤滑オイルが侵入できないことを確認した。そして、平均孔径1nm以上の孔には、潤滑オイルが侵入して保持できるという知見を得た。
【0011】
本発明は、上記した知見に基づいて成し得たものであり、平均孔径1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子が、その多孔質状を維持して外表面に露出していることから、外表面に露出したセラミック粒子の微細孔内に潤滑オイルを侵入して保持できる。そして、当該セラミック粒子の多孔質状が安定かつ確実に維持されていることから、外表面に露出したセラミック粒子によって潤滑オイルの保持量も安定する。尚、このような潤滑オイルを侵入して保持するという作用効果は、多孔質状のセラミック粒子が平均孔径1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものとした場合に、一層安定かつ確実に発揮され得る。
【0012】
本発明の金属複合材は、上記したシリンダ等の摺動部材へ適用することによって、長期に亘って摺動を繰り返しても、外表面に露出したセラミック粒子の微細孔から滲み出る潤滑オイルにより外表面の摩耗を抑制でき、摺動寿命を著しく向上することができ得る。さらに詳述すれば、摺動部材と摺動相手材との間では、長期に亘って摺動を繰り返すと、潤滑オイルは徐々に劣化していく。しかし、外表面に露出したセラミック粒子の微細孔内に保持した潤滑オイルが滲み出ることによって補充されることから、所望の耐摩耗性を維持して摺動寿命を向上でき得る。
【0013】
ここで、本発明の金属複合材により摺動部材を構成する場合には、少なくともその摺動面となる特定の外表面に、多孔質状を維持したセラミック粒子が露出したものであれば、上記した作用効果を発揮できる。
【0014】
尚、多孔質状のセラミック粒子としては、一般的に、微細孔の孔径にバラツキを有していたり、様々な孔形状の微細孔を有するものもある。本発明にあって、平均孔径により規定した微細孔は、前記孔径のバラツキや様々な孔形状をも含むものである。そして、このように規定した微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子を備えた構成では、上述した作用効果が発揮され得る。また、通常、このような極めて微細な平均孔径を規定した多孔質状のセラミック粒子を積極的に使用することはないことから、当該セラミック粒子を備えた本発明の意義は極めて高い。
【0015】
また、本発明にかかる多孔質状のセラミック粒子としては、ガス吸着法に基づいて測定される細孔容積が0.1cc/g以上である微細孔を有するものが好適である。細孔容積は、セラミック粒子が有する各微細孔の内容積の総和であり、これによりセラミック粒子がその微細孔内に保持できる潤滑オイル量が定まる。すなわち、細孔容積が小さければ、潤滑オイルの保持量が小さいことを示す。このようなことから、上記した摺動部材に適用した場合に、所望の耐摩耗性を維持して摺動寿命を向上するためには、細孔容積が0.1cc/g以上である微細孔を有することが好ましい。一方、細孔容積の上限としては、微細孔の平均孔径を考慮すると、1.0cc/g以下であることが好適にである。
【0016】
尚、多孔質状のセラミック粒子としては、その微細孔の平均孔径が2nm以上のものが一層好適に用い得る。これにより、潤滑オイルが微細孔内に一層容易に侵入し易く、該潤滑オイルを一層安定して保持できる。また、微細孔の平均孔径が30nm以下であるものが一層好適に用い得る。これにより、溶湯の侵入を防ぐ効果がさらに向上する。
【0017】
一方、強化材としては、アルミナ繊維などのセラミック繊維、ウィスカ等が適用できる。さらには、上記した平均孔径の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子に該当しない他のセラミック粒子を、強化材として使用した構成としても良い。
【0018】
上述した本発明の金属複合材にあって、多孔質状のセラミック粒子は、微細孔内に結晶水を結合しているセラミック粒子の水和物を所定温度で加熱することによって、微細孔内の結晶水を除去してなるものであるとした構成が提案される。
【0019】
ここで、微細孔内に結晶水を結合しているセラミック粒子の水和物は、その微細孔内の結晶水を除去することにより、上記した平均孔径1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子となる。尚、セラミック粒子の水和物としては、結晶水を結合している微細孔の平均孔径が1nm以上かつ80nm以下であるものであって、所定温度で加熱することにより前記平均孔径が維持されるものが好適に用い得る。
【0020】
上述した本発明の金属複合材にあって、多孔質状のセラミック粒子が、水酸化酸化アルミニウム粒子である構成が提案される。水酸化酸化アルミニウム粒子は、平均孔径が1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであることから、上述した本発明の作用効果を適正に発揮できる。
【0021】
一方、本発明にかかる金属複合材の製造方法としては、所定の焼結温度で焼結することにより、平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子と所定の強化材とが混在するプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を加圧含浸して、所定の外表面を研磨することにより、当該外表面に多孔質状を維持したセラミック粒子が露出する金属複合材を成形するようにしていることを特徴とする製造方法である。ここで、多孔質状のセラミック粒子は、平均孔径が1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであるとした製造方法が好適である。
【0022】
かかる方法によれば、上述したように、平均孔径1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子を適用することにより、微細孔を維持したセラミック粒子が外表面に露出する金属複合材を成形可能である。ここで、このセラミック粒子は、金属複合材内に分散している状態でも、その微細孔が埋っていないため、外表面を研磨することにより、該外表面に露出したセラミック粒子の微細孔が開口する。さらに、外表面に露出したセラミック粒子によって、当該金属複合材の外表面に保持できる潤滑オイルの保持量も安定する。したがって、本発明の製造方法によれば、上述した作用効果を安定して発揮する本発明の金属複合材を安定かつ確実に製造することができる。尚、平均孔径1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子を適用した方法では、上述した溶湯の侵入防止効果と潤滑オイルの保持効果とを一層確実かつ安定して発揮できる。
【0023】
また、本発明の製造方法は、平均孔径1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子を用いてプリフォームを成形することによって、該セラミック粒子の多孔質状を維持可能とする方法であるから、様々なプリフォームの成形方法や該プリフォームを用いた金属複合材の製造方法に、比較的容易に適用することができる。そして、上述した従来方法のように、セラミック粒子を被覆するような手段を要しないことから、セラミック粒子の多孔質状を安定して維持できる。以上のことから、本発明の製造方法によれば、上述した摺動寿命の向上という作用効果を安定して発揮する金属複合材を、安定して製造することができ得る。
【0024】
上述した本発明の金属複合材の製造方法にあって、平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔内に結晶水を結合しているセラミック粒子の水和物と、所定の強化材とを水中で混ぜて混合水溶液を調合する混合工程と、該混合水溶液から水分を除去して、予備混合体を形成する脱水工程と、該予備混合体を、前記セラミック粒子の水和物の結晶水を除去すると共に平均孔径1nm以上かつ80nm以下の微細孔を維持する所定の焼結温度で焼結することにより、多孔質状のセラミック粒子と強化材とが混在するプリフォームを成形する焼結工程と、該プリフォームに、金属の溶湯を加圧鋳造により含浸させる溶湯含浸工程と、金属との結合後に、所定の外表面を研磨することにより、当該外表面に多孔質状を維持したセラミック粒子を露出させる研磨工程とを実行するようにした製造方法が提案される。ここで、多孔質状のセラミック粒子は、平均孔径が1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであるとした製造方法が好適であり、上述した溶湯の侵入防止効果と潤滑オイルの保持効果とを一層確実かつ安定して発揮できる。
【0025】
かかる製造方法にあっては、微細孔内に結晶水を結合しているセラミック粒子の水和物を混合した予備混合体を、所定の焼結温度で焼結することにより、多孔質状を維持したセラミック粒子が分散したプリフォームを成形できるため、金属複合材の外表面に多孔質状のセラミック粒子を安定して露出形成することができる。これは、混合工程により、セラミック粒子の水和物と強化材とを混合した混合水溶液を調合していることから、該セラミック粒子の水和物と強化材とを均一に分散し易く、その後の焼結工程によって多孔質状のセラミック粒子と強化材とを均一に混在したプリフォームを安定して形成できることに因る。これにより、上述した潤滑オイルを安定かつ確実に保持できるという本発明の作用効果を一層安定して発揮できる金属複合材を製造できる。
【0026】
尚、焼結工程により、セラミック粒子の水和物の結晶水を除去することと、強化材の焼結とを一度に行うようにしている。
【0027】
また、上述の金属複合材の製造方法にあって、混合工程は、無機バインダーとしてアルミナゾル又はシリカゾルのいずれか一方を混合することにより、混合水溶液を調合するようにした製造方法が提案される。
【0028】
かかる製造方法にあっては、アルミナゾルまたはシリカゾルのいずれか一方を混合することにより、セラミック粒子と強化材とを粘着し、予備混合体を所定の形状に保つことができる。そのため、焼結工程により、所望の形状のプリフォームを容易かつ安定して成形することができ得る。本製造方法では、アルミナゾルとシリカゾルを無機バインダーとして用いているため、いずれか一方を混合すれば足りる。すなわち、上述した従来方法のようにアルミナゾルとシリカゾルとを混合して中和する必要がなく、多孔質状のセラミック粒子を被覆することも要しない。
【0029】
さらに、アルミナゾル又はシリカゾルは、無機バインダーとしての性能を発揮するに足る適量を混合すれば良いことから、セラミック粒子と強化材との間の空隙が低減してしまうことを充分抑制できるため、高い通気性を有するプリフォームを成形し易いという利点がある。これにより、溶湯含浸工程で溶湯の含浸性が向上し、巣(未含浸部位)の発生を抑制することができるため、所望の機械的特性を充分に発揮し得る金属複合材を安定して製造できる。
【0030】
上述した金属複合材の製造方法にあって、多孔質状のセラミック粒子が、水酸化酸化アルミニウム粒子であるとした製造方法が提案される。水酸化酸化アルミニウム粒子は、平均孔径が1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであることから、上述した本発明の作用効果を適正に発揮できる。尚、上記した混合工程にあっては、微細孔内に結晶水を結合している水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物を用いる。
【0031】
ここで、焼結温度が、1100℃以上かつ1250℃以下であるとした製造方法が提案される。水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物を1250℃より高い温度に加熱すると、結晶水を除去できるものの、形状変化を生じて、該結晶水を除去後の微細孔が平均孔径1nm以上を維持し難くなる。そのため、微細孔の形状変化を抑制して平均孔径1nm以上かつ80nm以下を維持できるように、1250℃以下の焼結温度によりプリフォームを成形する。一方、焼結温度が低いと、強化材同士が充分に焼結せず、また、結晶水の除去作用の安定性も低減する傾向にある。そのため、強化材同士を充分に焼結でき、かつ水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物から結晶水を充分に除去できるように、1100℃以上の焼結温度とする。このように1100℃以上かつ1250℃以下の焼結温度で焼結することによって、上述した本発明にかかる金属複合材を一層安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の金属複合材は、平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子が、金属母材内に分散されてなり、外表面に、多孔質状を維持したセラミック粒子が露出されてなるものであるから、外表面に露出したセラミック粒子の微細孔内に潤滑オイルを侵入して保持できると共に、その保持量も安定する。したがって、本発明の金属複合材により構成されるシリンダ等の摺動部材は、その外表面に露出したセラミック粒子の微細孔から滲み出る潤滑オイルにより外表面の摩耗を抑制できるため、高い摺動寿命を安定して発揮できる。ここで、多孔質状のセラミック粒子が、平均孔径1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであるとした場合には、多孔質状を維持する効果が一層確実かつ安定して発揮されるため、前記した本発明の作用効果が一層向上する。
【0033】
上述した金属複合材にあって、多孔質状のセラミック粒子が、微細孔内に結晶水を結合しているセラミック粒子の水和物を所定温度で加熱することによって、微細孔内の結晶水を除去してなるものであるとした構成の場合には、当該セラミック粒子が、平均孔径1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有するものとして、容易かつ安定して得られる。そのため、当該セラミック粒子を備えた金属複合材が、上記した作用効果を一層安定かつ適正に発揮できるものなる。
【0034】
上述した金属複合材にあって、多孔質状のセラミック粒子が、水酸化酸化アルミニウム粒子である構成とした場合には、水酸化酸化アルミニウム粒子が平均孔径1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであることから、上述した本発明の作用効果を適正に発揮できる。
【0035】
一方、本発明の金属複合材の製造方法は、所定の焼結温度で焼結することにより、平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子と所定の強化材とが混在するプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を加圧含浸して、所定の外表面を研磨することにより、前記微細孔を維持したセラミック粒子が当該外表面に露出する金属複合材を成形するようにした製造方法であるから、多孔質状が維持されたセラミック粒子を外表面に露出した金属複合材を安定して製造することができる。したがって、本製造方法によれば、上述した作用効果を発揮する本発明の金属複合材を安定して製造できる。ここで、平均孔径1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子を適用した方法では、微細孔への溶湯の侵入を防止する効果が一層確実かつ安定して発揮されるため、前記した本発明の作用効果が一層向上する。
【0036】
上述した金属複合材の製造方法にあって、平均孔径1nm以上かつ80nm以下の微細孔内に結晶水を結合しているセラミック粒子の水和物と所定の強化材とを混合した混合水溶液から予備混合体を形成し、該予備混合体を所定の焼結温度で焼結することにより、前記平均孔径を維持して結晶水を除去した多孔質状のセラミック粒子と強化材とが混在するプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を含浸し、外表面を研磨することにより金属複合材を製造する方法とした場合には、微細孔を有するセラミック粒子が均一に分散したプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を含浸することから、該微細孔が維持されたセラミック粒子を均一に分散した金属複合材を安定して得ることができる。そして、このように製造される金属複合材は、微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子が外表面に安定かつ均しく露出したものであることから、本発明の製造方法によれば、摺動寿命の向上という作用効果を安定して発揮できる金属複合材を一層安定して製造できる。ここで、平均孔径1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子を適用した方法では、微細孔への溶湯の侵入を防止する効果が一層確実かつ安定して発揮されるため、前記した本発明の作用効果が一層向上する。
【0037】
上述した金属複合材の製造方法にあって、多孔質状のセラミック粒子が、水酸化酸化アルミニウム粒子であるとした製造方法の場合には、水酸化酸化アルミニウム粒子が平均孔径1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであることから、金属複合材の製造安定性が一層向上する。
【0038】
ここで、焼結温度が、1100℃以上かつ1250℃以下であるとした製造方法の場合には、水酸化酸化アルミニウム粒子を、所望の形態に維持することができるため、上述した本発明にかかる金属複合材を一層安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1のプリフォーム成形工程を表す説明図である。
【図2】ダイカスト成形装置33による溶湯含浸工程を表す説明図である。
【図3】図2から連続する溶湯含浸工程を表す説明図である。
【図4】水酸化酸化アルミニウム粒子3の拡大写真である。
【図5】実施例1〜4の各金属複合材10の外表面をカラーチェックした状態を示す拡大写真である。
【図6】実施例1〜4および比較例1,2の各金属複合材の、オイル保持性を測定した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施例を添付図面を用いて詳述する。
図1は、プリフォーム1を成形する工程を表した図であり、このプリフォーム成形工程は、混合工程(図1(A)参照)、脱水工程(図1(B)参照)、乾燥工程(図示せず)、焼結工程(図1(C)参照)から構成されている。これら各工程を順次行うことにより、所望のプリフォーム1を得る。
【0041】
次に、上記のプリフォーム成形工程により成形したプリフォーム1に、ダイカスト成形装置33を用いて溶湯含浸工程(図2,3参照)を行うことによって、上記したプリフォーム1にアルミニウム合金の溶湯6を含浸した金属複合材10を成形する。その後、溶湯含浸工程により成形した金属複合材10を、その外表面を切削加工することにより、この外表面を所望の形状寸法に整える研磨工程を行う。これにより、所望の形状寸法の金属複合材10を得る。
【0042】
尚、上記のプリフォーム成形工程、溶湯含浸工程、研磨工程により、本発明にかかる金属複合材の製造方法を構成している。
【0043】
以下に、本発明にかかる金属複合材10を製造する上述の各工程について、順次説明する。
【0044】
プリフォーム成形工程にあって、混合工程では、図1(A)のように、所定の容器21内の水中に下記(i)〜(iv)の各材料を入れて混合する。
(i)アルミナ短繊維2(平均繊維径3μm、平均繊維長400μm)
(ii)水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3(平均粒径10μm)
(iii)アルミナゾル4(水素イオン濃度pH3、濃度約30%のコロイド状水溶液)
(iv)ポリアクリルアミド5(濃度約10%の水溶液)
ここで、平均繊維径、平均繊維長、平均粒径は、それぞれ繊維径、繊維長、粒径の平均値であり、バラツキを有している。尚、アルミナ短繊維2が、本発明にかかる強化材であり、アルミナゾル4が、無機バインダーである。また、ポリアクリルアミド5が、いわゆる凝集剤であり、各材料を安定して接着する。
【0045】
本実施例にあっては、上記したアルミナ短繊維2の添加量を、後述する脱水工程および乾燥工程により成形した予備混合体9の体積率で5体積%以上かつ15体積%以下の添加量となるように調整している。また、水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3の添加量を、同じく予備混合体9の体積率で8体積%以上かつ12体積%以下の添加量となるように調整している。また、アルミナゾル4の添加量は、アルミナ短繊維2と水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3との総重量に対して約0.05〜0.10の重量比とするように調整している。
【0046】
上記した水酸化酸化アルミニウム粒子3’の拡大写真を図4に示す。この水酸化酸化アルミニウム粒子3’は、平均孔径が1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものである。この水酸化酸化アルミニウム粒子3’と結晶水とが結合した結晶構造をなすものが、上記した水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3である。この水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3は、水酸化酸化アルミニウム粒子3’の微細孔内に結晶水が結合しており、結晶水と結合した微細孔の平均孔径が1nm以上かつ40nm以下のものである。そして、この水和物3を所定温度に加熱することにより、結晶水を除去しかつ前記平均孔径の微細孔を維持した多孔質状の水酸化酸化アルミニウム粒子3を得ることができる。
【0047】
混合工程では、図1(A)のように、上記(i)〜(iv)の各材料を入れた水溶液を攪拌棒31で攪拌することにより、各材料がほぼ均一に混在した混合水溶液8を得る。尚、混合水溶液8中では、無機バインダーであるアルミナゾル4がアルミナ短繊維2や水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3に付着するが、該水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3を被覆できない。
【0048】
次に、この混合水溶液8を吸引成形器22に移し、図1(B)のように、脱水工程を行う。この吸引成形器22は、混合水溶液8を流入する円筒状の流入槽26と、該流入槽26の下部領域26bと連通する吸水槽27と、該吸水槽27を介して流入槽26から水分を吸引する真空ポンプ23とを備えている。ここで、流入槽26には、その内部を上下に区画するようにフィルター24が配設されており、該フィルター24上の上部領域26aに混合水溶液8を流入する。
【0049】
脱水工程にあっては、流入槽26の上部領域26aに混合水溶液8を流入した後、真空ポンプ23を作動させることにより、該混合水溶液8の水分を、流入槽26から吸水槽27へ吸引する。すなわち、真空ポンプ23により混合水溶液8が吸引されて、混合水溶液8がフィルター24により濾過されることによって、該混合水溶液8の水分が、フィルター24を通過し、流入槽26の下部領域26bを介して吸水槽27へ入る。これにより、混合水溶液8中の上記各材料が、流入槽26の上部領域26aに残り、円柱状の予備混合体9が形成される。
【0050】
ここで、上記した脱水工程後の予備混合体9は、混合工程で各材料がほぼ均一に分散されて存在する混合水溶液8から得られるものであるから、同様に各材料がほぼ均一に分散された状態となっている。すなわち、水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3も、予備混合体9の全体に亘ってほぼ均一に分散している。この予備混合体9では、アルミナゾル4を無機バインダーとして混合していることから、アルミナ短繊維2や水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3の互いに夫々隣接するもの同士がアルミナゾル4により接着されている。これにより、焼結工程までの搬送時に、円筒形状の予備混合体9が変形したり壊れたりすることを防止でき、該予備混合体9の形態が維持され得る。さらに、アルミナゾル4を上記した適量混合していることから、予備混合体9では、アルミナ短繊維2と水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3との間の空隙が、比較的広く維持されている。
【0051】
脱水工程後に、吸引成形器22の流入槽26から予備混合体9を取り出し、約100℃の乾燥炉等に入れ、充分に水分を除去する乾燥工程を行う(図示省略)。
【0052】
次に、焼結工程(図1(C))に移行する。上記の予備混合体9を、加熱炉28内に設置されたテーブル29上に置く。そして、1100℃〜1250℃の焼結温度で約10分間保持する。このような焼結温度で加熱すると、予備混合体9を構成する水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3では、その微細孔内に結合している結晶水が除去されると共に、該微細孔が平均孔径1nm以上かつ40nm以下の孔形態で維持される。これにより、平均孔径1nm以上かつ40nm以下に維持された微細孔を有する多孔質状の水酸化酸化アルミニウム粒子3’が生成される。
【0053】
この焼結工程により、上記の水酸化酸化アルミニウム粒子3’とアルミナ短繊維2とを焼結した円柱形状のプリフォーム1を得る。このプリフォーム1では、アルミナ短繊維2や水酸化酸化アルミニウム粒子3’の表面に付着したアルミナゾル4に含まれるアルミナ粒子が結晶化することによって、それぞれに隣り合うもの同士が比較的強く結合している。しかし、上述したように、アルミナゾル4は、水酸化酸化アルミニウム粒子3’を被覆していないことから、該水酸化酸化アルミニウム粒子3’の微細孔は開口した状態で維持されている。
【0054】
このプリフォーム1は、アルミナ短繊維2や水酸化酸化アルミニウム粒子3’が、全体に亘ってほぼ均一に分散しているものとなっている。さらに、このプリフォーム1は、上述したように、アルミナ短繊維2や水酸化酸化アルミニウム粒子3’の間の空隙が比較的広い予備混合体9を焼結したものであるから、この比較的広い空隙が維持され、通気性に優れたものである。
【0055】
次に、上記したプリフォーム1を、図2,3のダイカスト成形装置33により、アルミニウム合金と複合化させる溶湯含浸工程を行い、金属複合材10を成形する。このダイカスト成形装置33は、図2のように、固定型34aと可動型34bとから構成される金型34を備え、可動型34bを案内軸44に沿って開放位置(図2(A)参照)と閉鎖位置(図2(B)参照)とに移動制御し、該閉鎖位置で円柱状のキャビティ35を形成する。ここで、固定型34aには、その下部にスリーブ37が連結されており、該スリーブ37の先端側に湯口36が形成されている。そして、このスリーブ37には、その内部で進退作動するプランジャーチップ38が配されている。さらに、スリーブ37の上部には、該スリーブ37内へ溶湯6を注入するための注入口39が設けられている。
【0056】
上記の可動型34bには、キャビティ35を構成する内面と整一な保持位置(図2参照)と、キャビティ35内へ突出する突出位置(図3(B)参照)とに変換される押出ピン41が設けられている。尚、この押出ピン41の位置変換作動、可動型34bの開閉作動、プランジャーチップ38の進退作動は、図示しない制御装置により夫々に作動制御するようになっている。さらに、このダイカスト成形装置33には、スリーブ37内へ所定量の溶湯6を流入するための柄杓42(図2(B)参照)を備えており、この柄杓42も、図示しない制御装置により作動制御するようにしている。
【0057】
ここで、本実施例にあっては、アルミニウム合金として、ADC12(JIS規格)のものを用いており、上記したダイカスト成形装置33により、当該アルミニウム合金の溶湯6をプリフォーム1に含浸するようにしている。
【0058】
このダイカスト成形装置33による溶湯含浸工程は、以下の順序で実行される。
先ず、上記したプリフォーム1を約500℃で予熱すると共に、金型34を約100℃に保持しておく。そして、図2(A)のように、可動型34bを開放位置とした状態で、キャビティ35を形成する空域内に、予熱したプリフォーム1を配置する。その後、図2(B)のように、可動型34bを閉鎖位置へ移動して、キャビティ35を形成する。これにより、キャビティ35内にプリフォーム1が収容される。ここで、可動型34bを閉鎖位置とすると、キャビティ35と湯口36とを連通する湯路40が形成される。
【0059】
そして、上記したプランジャーチップ38を、スリーブ37の注入口39より後方となる退避位置で待機させた状態で、約680℃に保持されたアルミニウム合金の溶湯6を注入口39からスリーブ37内へ所定量注入する。そして、図3(A)のように、プランジャーチップ38を退避位置から所定の駆動速度で進出作動することにより、スリーブ37内の溶湯6を、湯口36から湯路40を通じてキャビティ35内へ射出する。これにより、キャビティ35内に配したプリフォーム1へ溶湯6が含浸する。尚、上記の湯路40は、スリーブ37や湯口36の各断面積より小さい断面積として形成されていることにより、プランジャーチップ38の駆動速度に比して、キャビティ35内へ射出される溶湯6の射出速度が高速化するようにしている。本実施例にあっては、プランジャーチップ38の駆動速度を2m/sとすることにより、射出速度が30m/sとなる。また、含浸圧力は、約300atmに設定している。
【0060】
ここで、プリフォーム1は、上述したように、優れた通気性を有していることから、その内部へ溶湯6が比較的容易に含浸する。さらに、プリフォーム1を構成する水酸化酸化アルミニウム粒子3’は、その微細孔を開口した状態であるが、この微細孔に溶湯6が侵入しない。これは、水酸化酸化アルミニウム粒子3’の微細孔が、平均孔径2nm〜40nmと極めて小さいために、溶湯6が侵入できないことに因る。これにより、水酸化酸化アルミニウム粒子の多孔質状が維持される。
【0061】
そして、キャビティ35内に溶湯6が充填されると、プランジャーチップ38が停止して該溶湯6の注入が止まり、冷却後に、図3(B)のように、可動型34bを開放位置とし、該可動型34bの押出ピン41を保持位置(図2参照)から突出位置へ移動することにより、可動型34bから金属複合材10を取り出す。
【0062】
次に、上述したダイカスト成形工程で成形した金属複合材10を、フライス盤により切削加工する。この切削加工により、湯口36及び湯路40により形成された部位(図3(D)参照)を除去して、所望の円柱形状とする。さらに、この金属複合材10の外周表面を切削することにより、該外周表面を機械研磨する(図示省略)。これにより、金属複合材10を所望寸法形状に整えている。すなわち、このフライス盤による切削加工により、本発明にかかる研磨工程を行っている。
【0063】
このように製造された金属複合材10の外周表面を観ると、水酸化酸化アルミニウム粒子3’が露出しており、該水酸化酸化アルミニウム粒子の微細孔が維持されていることを確認できる(図5参照)。すなわち、水酸化酸化アルミニウム粒子3’の微細孔にアルミニウム合金6’が侵入しておらず、多孔質状が維持されている。これは、上述したように、水酸化酸化アルミニウム粒子3が、孔径1nm〜40nmの微細孔を有するものであることから、該微細孔に溶湯が侵入できないために、多孔質状を維持して金属複合材10内に分散していることに因る。そして、金属複合材10は、その外周表面に、多孔質状を維持した水酸化酸化アルミニウム粒子3が露出してなるものとなっている。
【0064】
また、本実施例の金属複合材10は、アルミニウム合金6’が充分に含浸されており、巣(未含浸部位)を生じていない。さらに、金属複合材10には、亀裂や割れ等も生じていない。このことから、プリフォーム1は、溶湯6の加圧含浸に充分耐え得る強度と優れた通気性とを有していることがわかる。
【0065】
尚、本実施例にあっては、円筒形状の外周表面を研磨することにより所望の金属複合材10を製造していることから、この外周表面が、本発明にかかる外表面である。
【0066】
次に、このような実施例の金属複合材10について、その評価試験を行った結果について説明する。
金属複合材10を構成する水酸化酸化アルミニウム粒子について、その微細孔の平均孔径と細孔容積とを測定する。水酸化酸化アルミニウム粒子は、結晶水を結合している水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3を所定温度で加熱することにより、該結晶水を除去して生成する。ここで、本実施例では、水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3を、1150℃、1200℃、1225℃、1250℃で夫々加熱した場合について、それぞれ水酸化酸化アルミニウム粒子を生成した。
【0067】
上記した平均孔径と細孔容積との測定方法としては、「ガス吸着による粉体(固体)のメソ細孔の特性および細孔径分布の測定方法」を規定するJIS Z8831−2に従い、その詳細については省略する。尚、本実施例では、窒素ガスを用いて測定している。
【0068】
水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3を1150℃で加熱して生成した水酸化酸化アルミニウム粒子は、その平均孔径が6nmであり、細孔容積が0.35cc/gであった。1200℃で加熱して生成した水酸化酸化アルミニウム粒子は、その平均孔径が11nmであり、細孔容積が0.25cc/gであった。また、1225℃で加熱して生成した水酸化酸化アルミニウム粒子は、その平均孔径が15nmであり、細孔容積が0.22cc/gであった。また、1250℃で加熱して生成した水酸化酸化アルミニウム粒子は、その平均孔径が30nmであり、細孔容積が0.16cc/gであった。いずれの水酸化酸化アルミニウム粒子にあっても、結晶水が除去されると共に、平均孔径が1nm以上かつ40nm以下に維持されていることを確認した。
【0069】
この水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物3を用いて、上述したプリフォーム成形工程、溶湯含浸工程、研磨工程により、金属複合材10を成形した。ここで、焼結工程における焼結温度を、1150℃、1200℃、1225℃、1250℃の夫々に設定しており、それぞれについて金属複合材10を成形している。焼結温度1150℃で成形した金属複合材10を実施例1とし、1200℃で成形した金属複合材10を実施例2とし、1225℃で成形した金属複合材10を実施例3とし、1250℃で成形した金属複合材10を実施例4とする。各実施例1〜4の金属複合材10について、その外表面をカラーチェックした状態を図5の拡大写真に示す。ここで、各金属複合材10の外表面は、探傷剤の「カラーチェック液」を塗布し、その後ふき取って水洗いした状態である。焼結温度1150℃の実施例1(図5(A))、焼結温度1200℃の実施例2(図5(B))、焼結温度1225℃の実施例3(図5(C))では、焼結温度の上昇に伴って、カラーチェック液による着色箇所が増加する傾向を示し、1250℃の実施例4(図5(D))では、1225℃の実施例3に比して着色箇所が減少していることが確認できる。着色箇所が多くなるに従って、外表面に露出した水酸化酸化アルミニウム粒子内に保持できるオイル量が増加すると考えられる。
【0070】
さらに、上記した実施例1〜実施例4の各金属複合材10について、オイル保持性を測定する試験を実施した。このオイル保持性の測定試験は、各金属複合材の外周表面を30mm×80mmの長方形とするように切り出した矩形状の試験片を準備し、該試験片の外周表面に、自動車用のエンジンオイル(潤滑オイル)を塗布し、塗布前後の重量増加を測定する。ここで、エンジンオイルを塗布した後は、10分間放置し、外周表面を布で拭き取る作業を行う。この拭き取り作業は、測定した重量が安定するまで繰り返し行う。そして、安定した重量から得た重量増加分がオイルの保持量を表しており、これに従って保持性を評価している。尚、本実施例にあっては、オイル保持量を単位面積当りの値として求めている。
【0071】
オイル保持性の比較検討のために、ホウ酸アルミニウム粒子を備えた比較例1の金属複合材と、ゼオライト粒子を備えた比較例2の金属複合材とについて、同様のオイル保持性の測定を行った。ここで、比較例1の金属複合材は、上述したプリフォーム成形工程の混合工程で、水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物に代えて、ホウ酸アルミニウム粒子を混合し、1200℃の焼結温度で焼結工程を行うことにより、成形したものである。このホウ酸アルミニウム粒子は、その平均孔径が100nmであり、細孔容積が0.14cc/gであった。一方、比較例2の金属複合材は、上述したプリフォーム成形工程の混合工程で、水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物に代えて、ゼオライト粒子を混合し、1200℃の焼結温度で焼結工程を行うことにより、成形したものである。ゼオライト粒子は、その平均孔径が0.5nmであり、細孔容積が0.1cc/gであった。尚、前記の比較例1,2の各金属複合材は、前記以外は上述した実施例と同じ製造工程により成形している。
【0072】
実施例1〜4の金属複合材10と比較例1,2の金属複合材とについて、オイル保持性の測定試験結果を図6に示す。この結果により、実施例1〜4の各金属複合材10では、オイル保持性を有していることが明らかである。これは、エンジンオイルが、実施例1〜4の各金属複合材10の外周表面に露出した水酸化酸化アルミニウム粒子の微細孔内に保持されているためであると言える。特に、焼結温度1225℃に設定して成形した実施例3の金属複合材10にあっては、高いオイル保持性を発揮している。各実施例1〜4の各金属複合材10を比較すると、オイル保持性の測定結果は、上記したカラーチェック状態の結果(図5参照)と同じ傾向を示している。このことからも、外周表面に露出した水酸化酸化アルミニウム粒子の微細孔によってオイル保持性が発揮されることが明らかである。
【0073】
一方、比較例1,2の各金属複合材では、オイル保持性をほとんど有していない。比較例1の場合には、ホウ酸アルミニウム粒子が平均孔径100nmの孔を有するものであることから、溶湯含浸工程によりホウ酸アルミニウム粒子内に溶湯が侵入してしまうために、エンジンオイルが侵入できず、オイル保持性が無い。また、比較例2の場合には、ゼオライト粒子が平均孔径0.5nmの孔を有するものであることから、溶湯含浸工程により溶湯が侵入せずに多孔質状が維持されるものの、平均孔径が小さいためにエンジンオイルが侵入できず、オイル保持性が発揮できない。
【0074】
このように本実施例の各金属複合材10は、高いオイル保持性を有していることから、シリンダやピストン等の摺動部材に適用することにより、高い耐摩耗性を発揮することが可能である。すなわち、本実施例の金属複合材10と同様に所望の摺動部材を形成し、その摺動面を、上記の外周表面と同様に研磨して成形する。このように製造した摺動部材は、その摺動面に、多孔質状を維持した水酸化酸化アルミニウム粒子が露出形成されたものとなる。
【0075】
そして、例えば、摺動部材としてエンジンのシリンダやピストンを、本実施例の金属複合材10により夫々形成した場合には、この摺動部材はエンジンオイル中で摺動することから、その摺動面に露出した水酸化酸化アルミニウム粒子の微細孔内にエンジンオイルが吸入して保持される。そして、摺動が繰り返されるに従って、水酸化酸化アルミニウム粒子の微細孔内に保持したエンジンオイルが徐々に滲み出てくる。そのため、各摺動部材間に存在するエンジンオイルが、摺動を繰り返すことによって徐々に劣化しても、水酸化酸化アルミニウム粒子の微細孔内からエンジンオイルが滲み出ることにより、該摺動部材の摩耗を抑制することができ、総じて摺動寿命を向上することができ得る。
【0076】
このように、本実施例の金属複合材により構成したシリンダやピストンは、所望の耐摩耗性を維持できる摺動寿命が延び、耐久性が著しく向上する。
【0077】
さらにまた、実施例の金属複合材は、水酸化酸化アルミニウム粒子が平均孔径1nm〜40nmの微細空孔を有するものであるため、該金属複合材を構成する全ての水酸化酸化アルミニウム粒子が多孔質状を維持している。そのため、上記した研磨工程により、外表面を研磨して露出した水酸化酸化アルミニウム粒子は、全て微細孔が維持されており、上記したオイル保持性を安定して発揮する金属複合材を安定して製造することができ得る。そして、上記したシリンダ等の摺動部材に適用した場合にあって、高い品質のものを安定供給することが可能である。尚、水酸化酸化アルミニウム粒子の他の、平均孔径1nm〜40nmの微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子の場合にあっても、同様の作用効果を奏し得る。さらに、平均孔径1nm〜80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子を適用しても、同様の作用効果を奏すると予見される。
【0078】
上述した実施例にあっては、混合工程で無機バインダーとしてアルミナゾルを用いた方法であるが、アルミナゾルに代えてシリカゾルを用いることもできる。また、上述した実施例にあっては、混合工程で水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物を添加し、その結晶水を焼結工程で除去するようにした製造方法であるが、その他の製造方法として、水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物を所定温度で加熱することにより生成した水酸化酸化アルミニウム粒子を、混合工程で添加するようにしてもよい。
【0079】
本発明にあっては、上述した実施例に限定されるものではなく、その他の構成についても、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 プリフォーム
2 アルミナ短繊維(強化材)
3 水酸化酸化アルミニウム粒子の水和物
3’ 水酸化酸化アルミニウム粒子
6 アルミニウム合金の溶湯(金属の溶湯)
6’ アルミニウム合金(金属母材)
8 混合水溶液
9 予備混合体
10 金属複合材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子が、金属母材内に分散されてなり、外表面に、多孔質状を維持したセラミック粒子が露出されてなるものであることを特徴とする金属複合材。
【請求項2】
多孔質状のセラミック粒子は、平均孔径が1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の金属複合材。
【請求項3】
多孔質状のセラミック粒子は、微細孔内に結晶水を結合しているセラミック粒子の水和物を所定温度で加熱することによって、微細孔内の結晶水を除去してなるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属複合材。
【請求項4】
多孔質状のセラミック粒子が、水酸化酸化アルミニウム粒子であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の金属複合材。
【請求項5】
所定の焼結温度で焼結することにより、平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔を有する多孔質状のセラミック粒子と所定の強化材とが混在するプリフォームを成形し、該プリフォームに金属の溶湯を加圧含浸して、所定の外表面を研磨することにより、当該外表面に多孔質状を維持したセラミック粒子が露出する金属複合材を成形するようにしていることを特徴とする金属複合材の製造方法。
【請求項6】
平均孔径が1nm以上かつ80nm以下の微細孔内に結晶水を結合しているセラミック粒子の水和物と、所定の強化材とを水中で混ぜて混合水溶液を調合する混合工程と、
該混合水溶液から水分を除去して、予備混合体を形成する脱水工程と、
該予備混合体を、前記セラミック粒子の水和物の結晶水を除去すると共に平均孔径1nm以上かつ80nm以下の微細孔を維持する所定の焼結温度で焼結することにより、多孔質状のセラミック粒子と強化材とが混在するプリフォームを成形する焼結工程と、
該プリフォームに、金属の溶湯を加圧鋳造により含浸させる溶湯含浸工程と、
金属との結合後に、所定の外表面を研磨することにより、当該外表面に多孔質状を維持したセラミック粒子を露出させる研磨工程と
を実行するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の金属複合材の製造方法。
【請求項7】
混合工程は、無機バインダーとしてアルミナゾル又はシリカゾルのいずれか一方を混合することにより、混合水溶液を調合するようにしていることを特徴とする請求項6に記載の金属複合材の製造方法。
【請求項8】
多孔質状のセラミック粒子は、平均孔径が1nm以上かつ40nm以下の微細孔を有するものであることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の金属複合材の製造方法。
【請求項9】
多孔質状のセラミック粒子が、水酸化酸化アルミニウム粒子であることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれか1項に記載の金属複合材の製造方法。
【請求項10】
焼結温度が、1100℃以上かつ1250℃以下であることを特徴とする請求項9に記載の金属複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−57205(P2012−57205A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200443(P2010−200443)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】