説明

金属調建材

【課題】金属ナノペーストによって形成された金属薄膜層を有する金属調建材において、その耐変色性を高める。
【解決手段】基材に対し、下塗層を介して、金属薄膜層が積層された金属調建材において、前記下塗層は、カルボキシル基と反応可能な官能基を少なくとも1種以上有する架橋反応型有機樹脂(A)を含む下塗材により形成されたものとし、前記金属薄膜層は、平均粒子径1〜400nmの金属微粒子の分散体(B)、及びカルボキシル基含有有機樹脂(C)を必須成分とし、固形分換算で、前記(B)成分100重量部に対し前記(C)成分を20〜200重量部含有する上塗材により形成されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐変色性に優れた金属薄膜層を有する金属調建材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属調を有する建材として、アルミニウム等の金属ペーストを含有したインクや金属蒸着フィルムを使用したシート建材が知られているが、近年では、ナノサイズの金属が分散されたペーストが注目をあびており、これらを用いて金属調建材を作製する試みがなされている。しかし、金属ナノペーストを用いて作製した金属薄膜層は容易に変色してしまうという欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような変色の要因は、主に湿度及び紫外線である。金属ナノペーストによって形成された金属薄膜層が高湿度環境下に置かれたり、あるいは紫外線を受けたりした場合、金属薄膜層においては、金属粒子の凝集や配列の乱れが発生し、これによって変色が引き起こされる。
【0004】
このような変色問題の対策としては、例えば、紫外線吸収能を有するトップコートで金属薄膜層の表面を被覆する方法や、透湿性の極めて低い材料を用いて金属反射層を封止する手法等が提案されている(特許文献1等)。しかしながら、このような手法で得られた建材では、切断加工等を行った場合、切断面からの湿度の影響により変色が引き起こされるおそれがある。
【0005】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、金属ナノペーストによって形成された金属薄膜層を有する金属調建材において、その耐変色性を高めることを目的とするものである。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,276,600号
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、基材に下塗層を介して金属薄膜層を積層し、当該下塗層と金属薄膜層の化学特性を利用して金属薄膜層を固定化することにより、耐変色性を高めることができることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.基材に対し、下塗層を介して、金属薄膜層が積層された金属調建材において、
前記下塗層は、カルボキシル基と反応可能な官能基を少なくとも1種以上有する架橋反応型有機樹脂(A)を含む下塗材により形成され、
前記金属薄膜層は、平均粒子径1〜400nmの金属微粒子の分散体(B)、及びカルボキシル基含有有機樹脂(C)を必須成分とし、固形分換算で、前記(B)成分100重量部に対し前記(C)成分を20〜200重量部含有する上塗材により形成されたものであることを特徴とする金属調建材。
2.前記下塗材における架橋反応型有機樹脂(A)がエポキシ基を有するものであることを特徴とする1.記載の金属調建材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐変色性に優れた金属薄膜層を有する金属調建材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0011】
本発明における基材は、金属薄膜層を固定化するための支持体として作用するものである。このような基材の材質としては、例えば金属、ガラス、樹脂系材料、セメント系材料、木質材料等が挙げられる。これら基材は、何らかの表面処理が施されたものであってもよい。基材の形状は特に限定されるものではないが、通常はフィルム状、シート状等の板状である。
【0012】
本発明における下塗層は、カルボキシル基と反応可能な官能基を少なくとも1種以上有する架橋反応型有機樹脂(A)(以下「(A)成分」という)を含む下塗材により形成されるものである。(A)成分における官能基としては、例えばカルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。このうち、本発明では特にエポキシ基が好適である。
【0013】
(A)成分がエポキシ基を有する場合、(A)成分としては、エポキシ基−アミノ基架橋反応型有機樹脂、エポキシ基−カルボキシル基架橋反応型有機樹脂等を使用することができる。このような(A)成分は、1液型、2液型のいずれであってもよい。このうち、2液型においては、主剤、硬化剤のいずれか一方に、エポキシ基を有する反応性化合物が含まれていればよい。エポキシ基を有する反応性化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0014】
また、エポキシ基を有する反応性化合物としては、エポキシ基とアルコキシシリル基を有する化合物を使用することもできる。このような化合物としては、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイミノオキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリイソプロペニルオキシシランまたはγ−シソシアネートプロピルトリメトキシシラン等とグリシドールとの付加物、あるいはγ−アミノプロピルトリメトキシシラン等とジエポキシ化合物との付加物等が挙げられる。
【0015】
本発明における下塗材は、上記(A)成分を主成分とするものであるが、必要に応じ種々の添加剤等を混合することもできる。このような添加剤としては、例えば粘性調整剤、可塑剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。下塗材は、以上のような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。
【0016】
下塗材の塗工量は、基材の種類や形状等によって調整することができる。例えば吸いこみの大きな基材であれば、吸いこみを防止し、下塗層の表面が平滑になるように下塗材の塗工量を設定すればよい。また、基材表面に凹凸形状が設けられている場合は、当該凹凸形状を損なわない範囲で下塗材の塗工量を設定すればよい。通常、下塗材の塗工量は湿潤膜厚で50〜200μm程度である。下塗材の塗工においては、例えばスプレー塗工、ロールコーター、カーテンフローコーター等の各種方法を適宜採用することができる。
【0017】
本発明では、上記下塗材を塗工し、その被膜を乾燥して得られる下塗層に上塗材を塗工して金属薄膜層を形成する。本発明における上塗材は、平均粒子径1〜400nmの金属微粒子の水分散体(B)(以下「(B)成分」という)、及びカルボキシル基含有有機樹脂(C)(以下「(C)成分」という)を必須成分とするものである。本発明では、上記下塗材の上に、このような上塗材によって金属薄膜層を形成することにより、金属薄膜層の変色を抑制することができる。このような効果は、下塗材中の架橋反応型有機樹脂と上塗材中の有機樹脂との化学的な相互作用によって、金属薄膜層が下塗材に強固に固定化され、金属微粒子の凝集や配列の乱れが起こりにくくなっているために得られるものと推測される。
【0018】
(B)成分は、金属調の外観を表出するために不可欠の成分である。このような(B)成分は、気相法、液相法等の公知の方法で作製することができる。このうち液相法としては、例えば、金属水溶液に保護剤を添加し、さらに還元剤を添加することにより、金属イオンを金属粒子に還元すると同時に保護剤で粒子表面を保護し、その後余分な成分を除去する方法等を採用することができる。
【0019】
(B)成分における金属微粒子の平均粒子径は、通常1〜400nm、好ましくは50〜200nmである。金属微粒子の平均粒子径がこのような範囲内であれば、金属光沢の高い層を形成することが可能となる。
金属微粒子としては、例えば金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、銅、ニッケル、アルミニウム等が挙げられ、これらの1種また2種以上を使用することができる。本発明では、特に金属微粒子として銀を使用した場合に有利な効果を得ることができる。
(B)成分の媒体としては、水、アルコール類、セロソルブ類、ケトン類等が挙げられる。この中でもアルコール類が好適である。
【0020】
上塗材においては、上記(B)成分にカルボキシル基含有有機樹脂(C)を混合する。このような(C)成分は、(B)成分の分散性を高めるとともに、下塗材中の官能基との作用により(B)成分の金属微粒子を固定化する役割を担う成分である。
【0021】
(C)成分としては、カルボキシル基を有する限り、その樹脂組成は特に限定されず、例えばセルロース、ポリビニルアルコール、エチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等を使用することができる。本発明おける(C)成分としては、特にカルボキシル基含有水溶性アクリル樹脂が好適である。このようなカルボキシル基含有水溶性アクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーと、アクリル酸アルキルエステル及び/またはメタクリル酸アルキルエステルとの共重合により得ることができる。
【0022】
(C)成分の混合比率は、固形分換算で、前記(B)成分100重量部に対し20〜200重量部、好ましくは30〜100重量部である。(C)成分の混合比率がこのような範囲内であれば、耐変色性において十分な効果を得ることができる。(C)成分が少なすぎる場合は、金属薄膜層において変色が生じやすくなる。(C)成分が多すぎる場合は、金属薄膜層内の自由電子の移動が制限され、金属薄膜層の金属光沢感が不十分となるおそれがある。
【0023】
本発明における上塗材には、上述の成分に加え、必要に応じ種々の添加剤等を混合することもできる。このような添加剤としては、例えば粘性調整剤、可塑剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が挙げられる。上塗材は、以上のような成分を常法により均一に混合することで製造することができる。
【0024】
上塗材の塗工量は、湿潤膜厚で通常1〜100μm、好ましくは10〜50μm程度である。このような範囲内であれば、本発明の効果を十分に得ることができる。上塗材の塗工においては、例えばスプレー塗工、ロールコーター、カーテンフローコーター等の各種方法を適宜採用すればよい。上塗材の乾燥は、常温で行えばよいが、加熱することも可能である。加熱温度は、通常80℃以下とすればよい。
【0025】
本発明では、金属薄膜層の上に、クリヤー保護層を設けることが望ましい。このようなクリヤー保護層は、クリヤートップコートを塗工することにより形成することができる。クリヤートップコートに用いる樹脂としては特に限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の他、紫外線硬化(UV)樹脂、電子線硬化(EB)樹脂等を使用することもできる。このようなクリヤートップコートには、紫外線吸収剤や紫外線安定剤を添加することが望ましい。また、金属薄膜層の金属光沢を損なわない範囲であれば着色剤を添加しても構わない。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をより詳細に示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
基材としてPETフィルムを用いた。下塗材としては、アミノ基含有アクリル樹脂(固形分50重量%)100重量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン18重量部、重質炭酸カルシウム15重量部、酸化チタン12重量部の混合物である下塗材1を用いた。上塗材としては、銀の分散体(平均粒子径100nm、固形分3重量%、媒体:アルコール類)100重量部、カルボキシル基含有水溶性アクリル樹脂(固形分30重量%)5重量部の混合物である上塗材1を用いた。クリヤートップコートとしては、アクリル樹脂(固形分50重量%)100重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤3重量部の混合物であるトップコート1を用いた。
基材に対し、上記下塗材1を湿潤膜厚100μmで塗工し、80℃で20分乾燥後、上記上塗材1を湿潤膜厚30μmで塗工し、80℃で20分乾燥した。次いで、トップコート1を湿潤膜厚100μmで塗工し、80℃で20分乾燥することにより試験体を作製した。
【0028】
(実施例2)
下塗材として、カルボキシル基含有アクリル樹脂(固形分50重量%)100重量部、酸化チタン30重量部、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル0.3重量部の混合物である下塗材2を用いた。
下塗材1に代えて下塗材2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験体を作製した。
【0029】
(実施例3)
下塗材として、アミノ基含有アクリル樹脂(固形分50重量%)100重量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン18重量部、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル0.2重量部、重質炭酸カルシウム15重量部、酸化チタン12重量部の混合物である下塗材3を用いた。
下塗材1に代えて下塗材3を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験体を作製した。
【0030】
(比較例1)
上塗材としては、銀の分散体(平均粒子径100nm、固形分3重量%、媒体:アルコール類)100重量部、カルボキシル基含有水溶性アクリル樹脂(固形分30重量%)1重量部の混合物である上塗材2を用いた。
基材としてPETフィルムを用い、下塗材を塗工せず、基材に直接上塗材2を塗工して試験体を作製した。
【0031】
(比較例2)
基材としてPETフィルムを用い、下塗材を塗工せず、基材に直接上塗材2を塗工し、次いでクリヤートップ1を塗工して試験体を作製した。
【0032】
(比較例3)
下塗材として、カルボキシル基含有アクリル樹脂(固形分50重量%)100重量部、酸化チタン30重量部の混合物である下塗材4を用いた。
下塗材1に代えて下塗材4を使用し、上塗材1に代えて上塗材2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験体を作製した。
【0033】
(比較例4)
下塗材1に代えて下塗材4を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験体を作製した。
【0034】
(比較例5)
下塗材1に代えて下塗材2を使用し、上塗材1に代えて上塗材2を使用した以外は、実施例1と同様の方法で試験体を作製した。
【0035】
(耐変色性試験)
以上の方法で作製した各試験体に対し、湿度90%下で紫外線ランプを10日間照射した後、照射前後の色差(ΔE)を測定することにより、耐変色性を評価した。その結果を表1に示す。実施例1〜3では、耐変色性に優れる結果が得られた。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に対し、下塗層を介して、金属薄膜層が積層された金属調建材において、
前記下塗層は、カルボキシル基と反応可能な官能基を少なくとも1種以上有する架橋反応型有機樹脂(A)を含む下塗材により形成され、
前記金属薄膜層は、平均粒子径1〜400nmの金属微粒子の分散体(B)、及びカルボキシル基含有有機樹脂(C)を必須成分とし、固形分換算で、前記(B)成分100重量部に対し前記(C)成分を20〜200重量部含有する上塗材により形成されたものであることを特徴とする金属調建材。
【請求項2】
前記下塗材における架橋反応型有機樹脂(A)がエポキシ基を有するものであることを特徴とする請求項1記載の金属調建材。

【公開番号】特開2007−268809(P2007−268809A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95922(P2006−95922)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】