説明

金属部材接合方法

【課題】溶融点の異なる二の金属部材を互いに重ね合わせて接合する場合において、安定した接合部品質を得ることができ、大型で複雑な形状の金属部材同士の接合も可能な接合方法を提案する。
【解決手段】複数の金属部材(アルミニウム部材1、銅部材2)を、溶融点の高い順に互いに重ね合わせて配置し、円周方向に回転する円板状の接合ツール3のツール本体3aの周面を、重ね合わせ部において前記金属部材のうち最も溶融点の高い金属部材(銅部材2)の表面2aに押し込みつつ該金属部材(銅部材2)の表面2aに沿って移動させることにより、前記複数の金属部材(アルミニウム部材1、銅部材2)を互いに接合することを特徴とする金属部材接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融点の異なる金属部材同士を互いに重ね合わせて接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融点の異なる二の金属部材を互いに重ね合わせて接合する方法としては、通常、ろう接や爆発圧接が用いられる。
ろう接とは、溶融したろう材を接合部の間隙に流入させ、母材との「ぬれ」及び「流れ」を利用して接合する方法であって、ろうの溶融あるいは反応拡散によってできた液相が毛細現象等によって界面間隙を埋め、やがて冷却に伴い凝固するという過程をたどって接合が完了するものである。
また、爆発圧接とは、火薬の爆発時に生じる極短時間での高エネルギーを金属間の接合に利用する方法であって、金属部材同士を適当な間隔をあけて設置し、一方の金属部材の上に載せた火薬の一端を雷管によって起爆させて両金属部材を高速度で衝突させ、その衝突点での金属の著しい流動現象(メタルジェット)によって、金属表面の汚染層を排除し、同時に高圧で密着・接合するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ろう接は、接合部の品質が安定せず、接合可能な金属の種類が限定されるという欠点がある。
また、爆発圧接は、コストが高く、大きな金属部材や複雑な形状の金属部材を接合できないという欠点がある。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑み、溶融点の異なる二の金属部材を互いに重ね合わせて接合する場合において、安定した接合部品質を得ることができ、大型で複雑な形状の金属部材同士の接合も可能な接合方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、複数の金属部材を、溶融点の高い順に互いに重ね合わせて配置し、円周方向に回転する円板状の接合ツールの周面を、重ね合わせ部において前記金属部材のうち最も溶融点の高い金属部材の表面に押し込みつつ該金属部材の表面に沿って移動させることにより、前記複数の金属部材を互いに接合することを特徴とする金属部材接合方法である。
また、請求項2に係る発明は、溶融点の異なる二の金属部材を互いに重ね合わせて配置し、円周方向に回転する円板状の接合ツールの周面を、重ね合わせ部において前記金属部材のうち溶融点の高い一方の金属部材の表面に押し込みつつ該一方の金属部材の表面に沿って移動させることにより、前記両金属部材同士を接合することを特徴とする金属部材接合方法である。
【0006】
かかる金属部材接合方法は、接合ツールの押圧力によって金属部材の重ね合わせ部における隙間をなくしつつ、回転する接合ツールと金属部材との接触により生ずる振動によって金属部材の重ね合わせ面に存在する酸化皮膜を分断破壊するとともに、摩擦熱によって重ね合わせ部を高温化して塑性変形させることにより、金属部材同士の接触面積と拡散速度を増大させながら重ね合わせ部を接合する方法であって、ここでは摩擦振動接合と称する。
そして特に、複数の金属部材を、溶融点の高い順に互いに重ね合わせて配置しておき、最も溶融点の高い金属部材側から接合ツールを押し込みつつ接合するようにすれば、金属部材同士の重ね合わせ部が接合に必要な温度まで上昇したときに、接合ツールに近い側の金属部材ほどその変形抵抗を高く保って接合ツールの押圧力を重ね合わせ面に対して効率よく伝達できるので、金属部材間に隙間のない高強度の接合が可能となる。
【0007】
請求項3に係る発明は、アルミニウム部材と銅部材とを重ね合わせて配置し、円周方向に回転する円板状の接合ツールの周面を、重ね合わせ部において前記銅部材の表面に押し込みつつ該銅部材の表面に沿って移動させることにより、前記アルミニウム部材と前記銅部材とを接合することを特徴とする金属部材接合方法である。
【0008】
アルミニウム部材と銅部材とはCuAl層を介して摩擦振動接合されるが、このような接合を実現するには、両部材の重ね合わせ面を共晶温度(548℃)以上とする必要がある。しかし、銅部材よりも溶融温度の低いアルミニウム部材側から接合ツールを押し込んで摩擦振動接合すると、両部材の重ね合わせ部が共晶温度以上に達したときにアルミニウム部材の変形抵抗が小さくなってしまうので、接合ツールによる押圧力を重ね合わせ面に対して充分に伝達できず、接合不良が生じやすい。そこで、アルミニウム部材よりも溶融温度の高い銅部材側から接合ツールを押し込んで摩擦振動接合することにすれば、両部材の重ね合わせ部が共晶温度以上に達したときであっても銅部材の変形抵抗が比較的大きいので、充分な押圧力を重ね合わせ面に伝達しながら確実な接合を行うことができるのである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の金属部材接合方法において、接合時の接合ツールを、次式(A)で求められる周速度R(m/min)で回転させることを特徴とする。
250≦R≦2000 … (A)
【0010】
接合時の接合ツールの周速度が250m/minより小さいと、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が小さすぎて、銅部材とアルミニウム部材との重ね合わせ面の温度が低く、接合不良となってしまう。一方、接合時の接合ツールの周速度が2000m/minより大きいと、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が必要以上に大きくなって、接合ツールの駆動エネルギーロスが大きいだけでなく、接合ツールと接触している銅部材の温度が局所的に大きくなりすぎて当該部分が塑性変形してしまい、接合ツールの押圧力が重ね合わせ面に充分に伝達されず、両部材間に隙間が生じてしまうおそれがある。したがって、接合時の接合ツールを周速度250〜2000m/minで回転させれば、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が適正な値となって、良好な接合を行うことができる。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項3又は請求項4に記載の金属部材接合方法において、接合時の接合ツールを、次式(B)で求められる押込量α(m)だけ銅部材の表面に押し込むことを特徴とする。
0.1×t≦α≦0.3×t … (B)
t:重ね合わせ部における銅部材の厚み(m)
【0012】
接合時の接合ツールの銅部材表面への押込量αが0.1tよりも小さいと、銅部材とアルミニウム部材との重ね合わせ面に隙間が残って接合不良となり、一方、押込量αが0.3tよりも大きいと、銅部材とアルミニウム部材との重ね合わせ面に隙間は残らないが、接合ツールの押し込み過大によって銅部材表面に凹みが顕著に残ってしまい、部材ロスが発生する。したがって、接合時の接合ツールの銅部材表面への押込量αを0.1t以上0.3t以下とすれば、接合ツールの押圧力が適正な値となって、銅部材とアルミニウム部材との重ね合わせ面に隙間を発生させずに接合することができ、銅部材表面の凹みも小さくできる。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項3乃至請求項5のいずれか一項に記載の金属部材接合方法において、接合時の接合ツールを、次式(C)によって求められる送り速度V(m/min)で銅部材の表面に沿って移動させることを特徴とする。
0.1≦V≦R/(5.0×10×t) … (C)
R:接合時の接合ツールの周速度(m/min)
t:重ね合わせ部における銅部材の厚み(m)
【0014】
接合時の接合ツールの周速度が大きくなれば、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が大きくなるので、接合ツールの送り速度Vを大きくしても、重ね合わせ部の温度を一定以上に保つことができる。しかし、銅部材の厚みが大きくなると、重ね合わせ面が一定温度以上に達するまでの時間がかかるので、接合ツールの送り速度を大きくしすぎると、重ね合わせ部が一定温度以上に達する前に接合ツールが通過してしまい、接合不良となってしまう。つまり、良好な摩擦振動接合を行うには、接合ツールの送り速度V、周速度R、銅部材の厚みtを相互に調節する必要があり、発明者らは実験の結果、V≦R/(5.0×10×t)を満足するときに良好な接合が可能であることを確認した。
また、接合ツールの周速度Vが小さすぎると、接合効率が低下するという観点から、発明者らは、0.1≦Vを満足するときに接合効率がよいことを実験によって確認した。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、請求項1、請求項2に係る発明によれば、金属部材同士の重ね合わせ部が接合に必要な温度まで上昇したときに、接合ツールに近い側の金属部材ほどその変形抵抗を高く保って接合ツールの押圧力を重ね合わせ面に対して効率よく伝達できるので、金属部材間に隙間のない高強度の摩擦振動接合を行うことができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、アルミニウム部材よりも溶融温度の高い銅部材側から接合ツールを押し込んで摩擦振動接合するので、両部材の重ね合わせ部が共晶温度以上に達したときであっても銅部材の変形抵抗が比較的大きく、充分な押圧力を重ね合わせ面に伝達しながら確実な接合を行うことができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が適正な値となって、良好な接合を行うことができる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、接合ツールの押圧力が適正な値となって、銅部材とアルミニウム部材との重ね合わせ面に隙間を発生させずに接合することができ、銅部材表面の凹みも小さくできる。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、接合ツールの送り速度、周速度、銅部材の厚みが適正な関係となって、接合強度の高い摩擦振動接合を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、説明において、同一要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略するものとする。
【0021】
図1(a),(b)は、本発明に係る金属部材接合方法の一実施形態の各工程を表す正面断面図であり、図1(c)は図1(b)の側面図である。本金属部材接合方法では、まず、図1(a)に示すようにアルミニウム部材1と銅部材2とが面接触するように互いに重ね合わせて配置し、図示しない冶具で固定する。
【0022】
次に、図1(b)に示すように、回転軸3bを中心として円周方向に周速度R(m/min)で高速回転する接合ツール3のツール本体3aの周面を銅部材2の表面2aに垂直に押し込みつつ、図1(c)に示すように接合ツール3を銅部材2の表面2aに沿って送り速度V(m/min)で移動させることによって、アルミニウム部材1と銅部材2とを重ね合わせて接合する。接合ツール3は回転軸3bの先端部に円板状のツール本体3aを固定してなるものであり、ツール本体3aはJIS:SKD61などの工具鋼からなる。ツール本体3aは、銅部材2の表面2aを押さえ込みつつ進行方向後方に送り込むような向きで回転軸3bのまわりに回転する。
【0023】
ツール本体3aは、図2(a)に示すように、その周面が銅部材2の表面2aに一定量α(m)だけ押し込まれた状態で円周方向に高速回転しつつ、銅部材2の表面2aに沿って移動する。そして、このようなツール本体3aの銅部材2への押し込みによってアルミニウム部材1と銅部材2の重ね合わせ面の隙間をなくしつつ、高速回転するツール本体3aと銅部材2との接触により生ずる振動によってアルミニウム部材1と銅部材2の重ね合わせ面の酸化皮膜を分断破壊するとともに、図2(b)に示すように、ツール本体3aと接触する銅部材2の所定領域及びその近傍領域と、これらの領域に隣接するアルミニウム合金1の所定領域とを、ツール本体3aと銅部材2との摩擦接触により発生した熱で高温化し、それぞれ固相状態のまま可塑化(流動化)させる。その結果、銅部材2とアルミニウム部材1は、互いの境界面においても流動拡散し、それぞれ当初の表面から塑性変形する。
【0024】
接合ツール3のツール本体3aが通過した跡は、図2(c)に示すように、ツール本体3aの押圧力によって銅部材2の表面2aに一対の浅い段部2b,2bが形成される。また、アルミニウム部材1と銅部材2の重ね合わせ面は、塑性変形したアルミニウム部材1及び銅部材2が互いに噛み合うように断面凹凸形で固化した接合面Sとなり、この接合面Sを介して銅部材2とアルミニウム部材1とが確実に接合される。
【0025】
ここで、接合ツール3をアルミニウム部材1側から押し込むことも考えられるが、アルミニウム部材1の溶融点は銅部材2の溶融点よりも低く、アルミニウム部材1と銅部材2の重ね合わせ面が接合に必要な共晶温度(548℃)以上に達したときにアルミニウム部材1の変形抵抗が比較的小さくなってしまうので、接合ツール3による押圧力がアルミニウム部材1と銅部材2の重ね合わせ面に充分に伝達されず、接合不良となりやすい。一方、接合ツール3をアルミニウム部材1よりも溶融点の高い銅部材2側から押し込むようにすれば、アルミニウム部材1と銅部材2の重ね合わせ面が接合に必要な共晶温度以上に達したときに銅部材2の変形抵抗を比較的大きく保持して、接合ツール3の押圧力をアルミニウム部材1と銅部材2の重ね合わせ面に充分に伝達できるので、両部材間の隙間をなくした高強度の接合を行うことができる。
【0026】
なお、本金属部材接合方法は、アルミニウム部材と銅部材との重ね合わせ接合に限定されるわけではなく、金属部材同士の重ね合わせ接合に広く適用することができる。そして、そのような金属部材の形状は、互いに重ね合わせて接合ツールを押し込むことができるものであればよい。さらに、金属部材の重ね合わせ数も二つに限定されるわけではなく、三つ以上としてもよい。
たとえば、図3に他の実施形態として示した金属部材接合方法は、三つの金属部材(5000系アルミニウム部材1、1000系アルミニウム部材1’、銅部材2)を互いに重ね合わせて配置し、三つの金属部材のうち最も溶融点の高い銅部材2側から接合ツール3のツール本体3aを押し込んで摩擦振動接合するものである。ここで、接合時に金属部材同士の重ね合わせ部が共晶温度以上になることと、そのときの各金属部材の変形抵抗が金属部材同士の重ね合わせ面への接合ツールによる押圧力の伝達効率に影響することを考慮すると、三つの金属部材を溶融点の高い順(ここでは銅部材2、1000系アルミニウム部材1’、5000系アルミニウム部材1の順)に重ね合わせて配置し、最も溶融点の高い金属部材(ここでは銅部材2)の表面から接合ツール3を押し込んで摩擦振動接合することが望ましい。この他、三つの金属部材を銅、アルミニウム、マグネシウムとした場合には、銅部材、アルミニウム部材、マグネシウム部材の順に重ね合わせ、銅部材側から接合ツールを押し込んで摩擦振動接合すればよい。
【0027】
図4は、本発明に係る放熱部材の一実施形態を表す斜視図である。同図に示す放熱部材4は、アルミニウム部材からなるヒートシンク材5と、銅部材からなる伝熱板6とで構成されている。ヒートシンク材5は、ベース板5aと、ベース板5aの一方の面(同図では下面)から立設する複数の放熱フィン5b,5b,…とで構成されている。そして、ベース板5aの他方の面(同図では上面)に伝熱板6が重ね合わせられ、上記の摩擦振動接合方法によってヒートシンク材5と伝熱板6とが接合されている。つまり、この放熱部材4は、アルミニウム部材よりも溶融点の高い銅部材からなる伝熱板6側から接合ツールを押し込みつつ摩擦振動接合したものであるので、ベース板5aと伝熱板6との重ね合わせ面に隙間がなく、高強度で接合されたものとなっている。なお、ベース板5aと伝熱板6との重ね合わせ面は全面で摩擦振動接合されていてもよいし、一部で摩擦振動接合されていてもよいが、全面で摩擦振動接合されていたほうが接合強度や放熱性能の高いものとなる。
【0028】
なお、本発明に係る放熱部材はこれに限定されるものではなく、ベース板5aとこのベース板5aの一方の面から立設する放熱フィン5b,5b,…とを有するアルミニウム部材からなるヒートシンク材5と、上記の摩擦振動接合に係る金属部材接合方法によってベース板5aの他方の面に対して重ね合わせて接合された銅部材からなる伝熱板6と、を備えるものであれば、その他の点については自由に変更できる。
たとえば、図5に示す放熱部材4は、いずれも放熱性能を高めるために放熱フィン5b,5b,…の表面積を大きくしたものであって、図5(a)は、放熱フィン5b,5b,…が長さ方向に波状に走る形状となったもの、図5(b)は、放熱フィン5b,5b,…が伝熱板6に対して傾斜して立設されたもの、図5(c)は、放熱フィン5b,5b,…が高さ方向に屈曲しているもの(伝熱板6の幅方向に対して左右対称断面形でも左右非対称断面形でもよい。)を示している。
【0029】
図6(a),(b)は、本発明に係る放熱部材の製造方法の一実施形態として、図4に示した放熱部材4を製造する方法の各工程を表す正面断面図であり、図6(c)は図6(b)の断面図である。
まず、図6(a)に示すように、放熱フィン5b,5b,…を下向きにしてアルミニウム部材からなるヒートシンク材5を、接合テーブル7上に固定する。そして、ヒートシンク材5のベース板5aの上面に、銅部材からなる伝熱板6を互いに面接触するように重ね合わせて配置し、図示しない冶具で固定する。
【0030】
次に、図6(b)に示すように、回転軸3bを中心として円周方向に高速回転する接合ツール3のツール本体3aの周面を伝熱板6の表面6aに垂直に押し込みつつ、図6(c)に示すように接合ツール3を伝熱板6の表面6aに沿って移動させることによって、ヒートシンク材5のベース板5aと伝熱板6とを重ね合わせ接合する。ツール本体3aは、伝熱板6の表面6aを押さえ込みつつ進行方向後方に送り込むような向きで回転軸3bのまわりに回転させる。接合ツール3の移動領域は、伝熱板6の全面でも一部の面でもよいが、伝熱板6の全面領域を移動させることによって伝熱板6とベース板5aの重ね合わせ面を全面接合したほうが、接合強度や放熱性能の高い放熱部材4を製造することができる。また、ツール本体3の押込力によって伝熱板6の表面6aに残った凹みが大きい場合には、伝熱板6の表面6aを一定厚みで切削することによって、外観美麗な放熱部材4を得ることができる。
【0031】
また、放熱フィン5bの幅が小さい場合には、図7(a)に示すように、放熱フィン5b,5b,…の間に嵌まりこむ断面形状の放熱フィン支持具8を接合テーブル7上に固定し、次に図7(b)に示すように、放熱フィン支持具8に放熱フィン5b,5b,…を嵌めこんで摩擦振動接合するようにすれば、接合ツール3の押込力による放熱フィン5bの変形を確実に防止することができる。
さらに、接合ツール3に代えて、図7(c)に示すように、回転軸3bのまわりに所定間隔でツール本体3a,3a,…が固定された接合ツール3’を用いることもできる。この場合、一度に多数箇所を摩擦振動接合できるので、接合に要する時間を短縮でき、より接合効率が向上する。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨に応じた適宜の変更を加えて実施されるべきものであることは言うまでもない。
【実施例】
【0033】
<実験1>
図1、図2に示したように、アルミニウム部材と銅部材とを重ね合わせて銅部材側から摩擦振動接合する場合において、接合ツールのツール本体の周速度Rの適正範囲を検証すべく、以下の実験を行った。
供試材として、厚み0.001mの銅部材と、厚み0.001mのアルミニウム部材(1050−O)を用いた。また、接合ツールとして、ツール本体の直径が0.08m、板厚が0.005mのものを用いた。接合ツールのツール本体の銅部材表面への押込量αは0.0003mに設定した。
結果を表1に示す。
ここで、材料剥離とは、重ね合わせ面で両部材が剥がれた(剥離した)ものを指し、やや不完全ながら接合がなされたことを示す。また、材料接合部破断とは、接合部の重ね合わせ面以外で部材が破断したものを指し、接合が完全であったことを示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から、接合時の接合ツールを周速度250〜2000m/minで回転させれば、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が適正な値となって、良好な接合を行うことができることが分かった。また、接合時の接合ツールを周速度500〜2000m/minで回転させれば、より良好な接合を行うことができることが分かった。
【0036】
<実験2>
実験1における銅部材の厚みt(m)と接合ツールのツール本体の銅部材への押込量α(m)とを変化させ、実験1と同様の実験を行った。
結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示すように、接合時の接合ツールの周速度を250m/minより小さくしたときには、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が小さすぎて、銅部材とアルミニウム部材との重ね合わせ面の温度が低く、接合不良となってしまった(比−1〜比−4)。一方、表2には示していないが、接合時の接合ツールの周速度を2000m/minより大きくしたときには、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が必要以上に大きく、接合ツールと接触している銅部材の温度が局所的に大きくなりすぎて当該部分が塑性変形してしまい、接合ツールの押圧力が重ね合わせ面に充分に伝達されず、両部材間に隙間が生じてしまった。また、この場合には、接合ツールの駆動エネルギーロスが大きく、接合効率が悪かった。したがって、接合時の接合ツールを周速度250〜2000m/minで回転させれば、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が適正な値となって、良好な接合を行うことができることが分かった(2−1〜2−17)。
【0039】
<実験3>
実験3として、実験2と同様の実験を行い、接合ツールのツール本体の銅部材への押込量α(m)と銅部材の厚みt(m)との関係を検証した。
結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示すように、接合時の接合ツールの銅部材表面への押込量αが0.1tよりも小さいときには、銅部材とアルミニウム部材の重ね合わせ面に隙間が残って接合不良となってしまった(比−5〜比−8)。一方、表3には示していないが、押込量αが0.3tよりも大きいときには、銅部材とアルミニウム部材との重ね合わせ面に隙間は残らなかったが、接合ツールの押し込み過大によって銅部材表面に凹みが顕著に残ってしまい、部材ロスが発生した。したがって、接合時の接合ツールの銅部材表面への押込量αを0.1t以上0.3t以下とすれば、接合ツールの押圧力が適正な値となって、銅部材とアルミニウム部材の重ね合わせ面に隙間を発生させずに接合することができ、銅部材表面の凹みも小さくできることが分かった。
【0042】
<実験4>
実験4として、実験2と同様の実験を行い、接合ツールのツール本体の送り速度V(m/min)の適正範囲を検証した。なお、銅部材の厚みtを0.005m、接合ツールのツール本体の板厚を0.01mに設定した。
結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表4から分かるように、接合時の接合ツールのツール本体の送り速度Vは、接合時の接合ツールの周速度をR(m/min)、重ね合わせ部における銅部材の厚みをt(m)とすれば、V≦R/(5.0×10×t)の範囲にあることが望ましい。
その理由として、接合時の接合ツールの周速度が大きくなれば、接合ツールと銅部材との摩擦接触によって発生する熱量が大きくなるので、接合ツールの送り速度Vを大きくしても、重ね合わせ部の温度を一定以上に保つことができるが、銅部材の厚みtが大きくなると、重ね合わせ部が一定温度以上に達するまでの時間がかかるので、接合ツールの送り速度を大きくしすぎると、重ね合わせ部が一定温度以上に達する前に接合ツールが通過してしまい、接合不良となってしまうということが挙げられる。つまり、良好な摩擦振動接合を行うには、接合ツールの送り速度V、周速度R、銅部材の厚みtを相互に調節する必要があり、発明者らは実験の結果、V≦R/(5.0×10×t)を満足するときに良好な接合が可能であることを確認した。
また、表4には示していないが、接合ツールの周速度Vが小さすぎると、接合に時間を要し接合効率が低下するという観点から、100≦Vを満足するときに接合効率がよいことも確認した。
したがって、接合時の接合ツールを、次式(C)によって求められる送り速度V(m/min)で銅部材の表面に沿って移動させれば、良好な摩擦振動接合が可能であることが分かった。
0.1≦V≦R/(5.0×10×t) … (C)
R:接合時の接合ツールの周速度(m/min)
t:重ね合わせ部における銅部材の厚み(m)
【0045】
<実験5>
図6に示した方法を用いて図4に示した形状の放熱部材を実際に製作した。ヒートシンク材はアルミニウムの押出形材とし、ベース板の厚みを0.005m、幅を0.06m、長さを0.2m、放熱フィンの幅を0.0005m、配置間隔を0.002m、高さを0.015mとした。伝熱板の厚みは0.005m、幅及び長さはヒートシンク材のベース板と同じにした。摩擦振動接合に用いた接合ツールは、ツール本体の直径を0.08m、厚みを0.01mとし、接合条件として、ツール本体の回転数を3000rpm、送り速度を0.25m/min、伝熱板への押込量を0.0005mに設定した。また、摩擦振動接合後に、伝熱板の表面に0.001mの深さで機械加工による切削を行った。
このようにして、熱伝導性に優れた放熱部材を、効率よく製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a),(b)は本発明に係る金属部材接合方法の一実施形態の各工程を表す正面断面図であり、(c)は(b)の側面図である。
【図2】図1におけるアルミニウム部材と銅部材との重ね合わせ面の塑性変形の様子を時系列的に表す断面図である。
【図3】本発明に係る金属部材接合方法の他の実施形態を表す正面断面図である。
【図4】本発明に係る放熱部材の一実施形態を表す斜視図である。
【図5】(a)は本発明に係る放熱部材の他の実施形態を表す底面図であり、(b),(c)は同横断面図である。
【図6】(a),(b)は本発明に係る放熱部材の製造方法の一実施形態の各工程を表す正面断面図であり、(c)は(b)の断面図である。
【図7】本発明に係る放熱部材の製造方法の他の実施形態を表す正面断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 … アルミニウム部材
2 … 銅部材
2a … 表面
2b … 段部
3 … 接合ツール
3a … ツール本体
3b … 回転軸
4 … 放熱部材
5 … ヒートシンク材
5a … ベース板
5b … 放熱フィン
6 … 伝熱板
7 … 接合テーブル
8 … 放熱フィン支持具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属部材を、溶融点の高い順に互いに重ね合わせて配置し、円周方向に回転する円板状の接合ツールの周面を、重ね合わせ部において前記金属部材のうち最も溶融点の高い金属部材の表面に押し込みつつ該金属部材の表面に沿って移動させることにより、前記複数の金属部材を互いに接合することを特徴とする金属部材接合方法。
【請求項2】
溶融点の異なる二の金属部材を互いに重ね合わせて配置し、円周方向に回転する円板状の接合ツールの周面を、重ね合わせ部において前記金属部材のうち溶融点の高い一方の金属部材の表面に押し込みつつ該一方の金属部材の表面に沿って移動させることにより、前記両金属部材同士を接合することを特徴とする金属部材接合方法。
【請求項3】
アルミニウム部材と銅部材とを重ね合わせて配置し、円周方向に回転する円板状の接合ツールの周面を、重ね合わせ部において前記銅部材の表面に押し込みつつ該銅部材の表面に沿って移動させることにより、前記アルミニウム部材と前記銅部材とを接合することを特徴とする金属部材接合方法。
【請求項4】
接合時の前記接合ツールを、次式(A)で求められる周速度R(m/min)で回転させることを特徴とする請求項3に記載の金属部材接合方法。
250≦R≦2000 … (A)
【請求項5】
接合時の前記接合ツールを、次式(B)で求められる押込量α(m)だけ前記銅部材の表面に押し込むことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の金属部材接合方法。
0.1×t≦α≦0.3×t … (B)
t:重ね合わせ部における銅部材の厚み(m)
【請求項6】
接合時の前記接合ツールを、次式(C)によって求められる送り速度V(m/min)で前記銅部材の表面に沿って移動させることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか一項に記載の金属部材接合方法。
0.1≦V≦R/(5.0×10×t) … (C)
R:接合時の接合ツールの周速度(m/min)
t:重ね合わせ部における銅部材の厚み(m)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−12593(P2008−12593A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258281(P2007−258281)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【分割の表示】特願2002−30663(P2002−30663)の分割
【原出願日】平成14年2月7日(2002.2.7)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】