説明

金属黒鉛質ブラシ

【課題】 高温多湿中での比抵抗増加を抑制し、高信頼性の金属黒鉛質ブラシを提供する。
【解決手段】 銅及び黒鉛を主成分とする材料を成形、焼成した焼成体の内部及び表面に有する気孔に飽和炭化水素を含む有機化合物を含有せしめてなる金属黒鉛質ブラシに関し、飽和炭化水素を含む有機化合物に少なくとも炭素数5以上の飽和炭化水素を含む有機化合物を用いることが好ましく、これらの飽和炭化水素を含む有機化合物として、パラフィンを用いることがさらに好ましいとされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電動機用直流電動機、特に自動車のスタータモータに使用される金属黒鉛質ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の回転電動機用直流電動機は、対環境性の要求から、従来潤滑剤及び酸化抑制剤として使用していた鉛の削減が要求されている。
鉛を削減することによって、高温多湿中で抵抗率が増加し、特に自動車のスタータモータに使用される金属黒鉛質ブラシは、大電流が通電された際に発熱量が大きいため割損の問題を生じる可能性がある。
【0003】
この改善策として、鉛を使用しない替わりに銅−亜鉛合金を配合し、高湿や多湿中の抵抗率変化を抑制する方法が特許文献1などに記載されている。
【特許文献1】特開2003−221607号公報
【0004】
ところが、上記特許文献1に記載されているような金属黒鉛質ブラシは、潤滑性が悪化し、ブラシ摩耗が増大する可能性があり、使用するには問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高温多湿中での抵抗率の増加を抑制し、高信頼性の金属黒鉛質ブラシを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、次のものに関する。
1. 銅及び黒鉛を主成分とする材料を成形、焼成した焼成体の内部及び表面に有する気孔に飽和炭化水素基を含む有機化合物を含有せしめてなる金属黒鉛質ブラシ。
2. 飽和炭化水素基を含む有機化合物が、少なくとも炭素数5以上の飽和炭化水素基を含む有機化合物である項1記載の金属黒鉛質ブラシ。
3. 飽和炭化水素基を含む有機化合物が、パラフィンである項1又は2記載の金属黒鉛質ブラシ。
4. 気孔が、焼成体に対して15体積%以下である項1、2又は3記載の金属黒鉛質ブラシ。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属黒鉛質ブラシは、高温多湿の条件下に放置しても抵抗率の増加を抑制し、安定性に優れた金属黒鉛質ブラシであり、工業的に極めて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、金属黒鉛質ブラシの主成分となる銅は、出力向上及び機械的強度向上の点で、平均粒径が75μm以下の電解銅粉を用いることが好ましい。また黒鉛は、結晶の発達した潤滑性のよい天然黒鉛を用いることが好ましい。黒鉛の粒径については特に制限はないが、通常平均粒径が30〜200μm程度の粒子径のものを用いることが好ましい。
【0009】
上記以外の成分としては、潤滑性の観点から、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化硼素等の固体潤滑剤を配合することが好ましい。固体潤滑剤の含有量については特に制限はないが、金属黒鉛質ブラシに対して0.5〜5重量%が好ましく、1〜4重量%がより好ましく、2〜3重量%がさらに好ましい。また固体潤滑剤の粒径についても特に制限はなく、通常平均粒径が0.5〜50μm程度の粒子径のものを用いることが好ましい。
なお、平均粒径は、レーザー散乱型粒度分布測定装置により測定することができる。
【0010】
金属黒鉛質ブラシは、上記に示す成分を混合機で均一に混合した後、成形プレスで200〜600MPaの圧力で成形し、その後、水素を含む還元雰囲気中で焼成し、得られた焼成体の内部及び表面に有する気孔に飽和炭化水素基を含む有機化合物を含有せしめ、その後所定の形状に機械加工して得られる。
【0011】
焼成体に有する気孔の割合は、焼成体に対して15体積%以下が好ましく、1〜15体積%の範囲がより好ましく、5〜10体積%の範囲がさらに好ましい。気孔の割合が15体積%を超えると、焼成体の曲げ強さが減少し、機械的な割れが生じる傾向がある。
なお、気孔率は水中置換法による一般的な気孔率測定法で求めることができる。
【0012】
金属黒鉛質ブラシの前工程で得られる焼成体の内部及び表面に有する気孔に含有せしめる飽和炭化水素(CnH2n+1)を含む有機化合物は、炭素数5以上の飽和炭化水素基を含む有機化合物を用いることが好ましく、特にパラフィンを用いることがさらに好ましい。飽和炭化水素(CnH2n+1)を含まない有機化合物を含有せしめる場合は、金属黒鉛質ブラシの銅と反応し、銅を変質させる可能性がある。
なお、焼成体の内部及び表面に有する気孔に飽和炭化水素(CnH2n+1)を含む有機化合物を含有せしめる方法については特に制限はないが、充填、含浸、埋設等による方法が好ましい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例を説明する。
比較例1
平均粒径が35μmの天然黒鉛粉(日本黒鉛工業(株)製、商品名CB−150)80重量%フェノール樹脂(日立化成工業(株)製、商品名VP−11N)20重量%を配合し、混合した後、70℃で10時間乾燥させ顆粒状とした300μm以下の樹脂処理黒鉛を得た。
【0014】
次に、この樹脂処理黒鉛42重量%、平均粒径が35μmの電解銅粉(福田金属箔紛(株)製、商品名CE−25)55重量%、平均粒径が5μmの二硫化モリブデン粉3重量%を秤量し、50分間混合し、全成分を均一に分散した混合粉を得た。
【0015】
その後、該混合粉を銅撚り線のピグテールつき成形プレスで、392MPaの圧力で成形し、水素を含む還元性雰囲気中で700℃まで3時間で昇温し、700℃で1時間保持して焼成した。次いで、得られた焼成体を所定の形状に機械加工して金属黒鉛質ブラシを得た。
【0016】
実施例1
比較例1で得られた焼成体を、トルエンを溶媒とした流動パラフィン5重量%溶液中に5分間浸漬し、それを取出した後10時間大気中で乾燥し、さらに、80℃で3時間乾燥させ、所定の形状に機械加工して金属黒鉛質ブラシを得た。
【0017】
実施例2
比較例1で得られた焼成体を、トルエンを溶媒とした固形パラフィン5重量%溶液中に5分間浸漬し、それを取出した後10時間大気中で乾燥し、さらに、80℃で3時間乾燥させ、所定の形状に機械加工して金属黒鉛質ブラシを得た。
【0018】
次に、実施例1、2及び比較例1で得られた金属黒鉛質ブラシの抵抗率及び80℃、95%雰囲気中に100時間放置後の抵抗率を調べた。その結果を表1に示す。
なお、抵抗率の測定は、実施例1、2及び比較例1で得られた金属黒鉛質ブラシを機械加工して3×6×12mmの試片を作製し、12mmの方向に2Aの電流を流した際の5mm間の電圧降下を測定し、次式により算出した。ここで測定用試験片は12mm方向を成形加圧直角方向とした。
【0019】
【数1】

但し、Sは断面積(m)、Vは電圧降下、Iは電流及びLは電圧降下測定スパンである。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示されるように実施例1及び実施例2の金属黒鉛質ブラシは、80℃、95%放置後の抵抗率は放置前の抵抗率とほとんど変わらなかったが、比較例1の金属黒鉛質ブラシは、80℃、95%放置後の抵抗率は放置前の抵抗率の4倍程度増加するのが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅及び黒鉛を主成分とする材料を成形、焼成した焼成体の内部及び表面に有する気孔に飽和炭化水素基を含む有機化合物を含有せしめてなる金属黒鉛質ブラシ。
【請求項2】
飽和炭化水素基を含む有機化合物が、少なくとも炭素数5以上の飽和炭化水素基を含む有機化合物である請求項1記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項3】
飽和炭化水素基を含む有機化合物が、パラフィンである請求項1又は2記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項4】
気孔が、焼成体に対して15体積%以下である請求項1、2又は3記載の金属黒鉛質ブラシ。

【公開番号】特開2006−25568(P2006−25568A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203103(P2004−203103)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】