針状金属粉末の製造装置、針状金属粉末の製造方法および針状金属粉末
【課題】アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造可能な針状金属粉末の製造装置および針状金属粉末の製造方法、および、前記製造装置により製造されたアモルファス金属の微細な針状金属粉末を提供すること。
【解決手段】金属粉末製造装置1は、原材料となる金属材料を溶融してなる溶融金属32を、筒状体2の内壁面20に沿って水(冷却液)を旋回させることによって生じた水流(水層241)に接触させることにより、水勢によって溶融金属32を針状に変形させつつ、急冷固化させ、アモルファス金属の針状粒子を得る。内壁面20には溝が設けられており、この溝に向けて溶融金属32が落下するようになっている。落下した溶融金属32は、その一部が溝に入り込むことによって内壁面20に固定されるが、他部が水流によって引っ張られることにより、針状に変形する。
【解決手段】金属粉末製造装置1は、原材料となる金属材料を溶融してなる溶融金属32を、筒状体2の内壁面20に沿って水(冷却液)を旋回させることによって生じた水流(水層241)に接触させることにより、水勢によって溶融金属32を針状に変形させつつ、急冷固化させ、アモルファス金属の針状粒子を得る。内壁面20には溝が設けられており、この溝に向けて溶融金属32が落下するようになっている。落下した溶融金属32は、その一部が溝に入り込むことによって内壁面20に固定されるが、他部が水流によって引っ張られることにより、針状に変形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状金属粉末の製造装置、針状金属粉末の製造方法および針状金属粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
数mm程度の長さの針状金属(金属短繊維)は、セラミックス材料や樹脂材料等に添加されることにより、重量の著しい増加を伴わない高強度の複合材料を実現することができる。かかる複合材料は、航空、宇宙、運輸等の多岐にわたる分野で用いられている。
また、金属短繊維は、その長手方向における導電性に優れているため、このような複合材料は、電磁遮蔽材料としても利用されている。
【0003】
ところで、上述したような金属短繊維は、従来、ブロック状または帯状の金属材料を、切削法によって微細な針状粒子に加工する方法により製造される。
特許文献1には、複数の外刃を円周面に備えた切削工具を、回転させつつ金属材料に当てることにより、金属材料を針状に切削する方法が開示されている。
ここで、切削加工による方法では、ある程度の大きさの金属材料を用意する必要がある。しかしながら、アモルファス金属のような特殊な結晶構造を有する金属材料は、ある程度の大きさのバルク状材料を作製することができないため、上述した切削加工を適用することができない。
【0004】
また、アモルファス金属の場合、厚さが数十μm程度の金属箔を作製することはできるが、製造に多大な手間とコストを要するとともに、製造効率が極めて悪い。さらに、切削工具の大きさを小さくすることに限界があることから、外径が数μm程度という微細な針状粒子を製造することは困難である。
以上のような問題から、従来は、アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造することができなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平9−183021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造可能な針状金属粉末の製造装置および針状金属粉末の製造方法、および、前記製造装置により製造されたアモルファス金属の微細な針状金属粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の針状金属粉末の製造装置は、内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより生じた冷却液流を保持する筒状体と、
急冷固化によりアモルファス金属になり得る組成の溶融金属を、前記筒状体中の冷却液流に向けて落下または噴出させる溶融金属供給部とを有し、
前記筒状体には、前記内壁面が部分的に凹没してなる凹部が設けられており、
該凹部に向けて前記溶融金属を落下または噴出させることにより、前記冷却液流の水勢によって前記溶融金属を針状に変形させつつ、急冷固化させ、前記アモルファス金属の針状粉末を得るよう構成されていることを特徴とする。
これにより、アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造することができる。
【0008】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記凹部は、溝であることが好ましい。
これにより、溶融金属が凹部に引っかかる確率を高めることができる。その結果、高い確率で溶融金属を針状に変形させることができ、最終的に、針状に変形しないで球形に近い粒子が回収されるのを防止することができる。
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溝は、その形成方向が、前記冷却液流の旋回方向と平行になるよう設けられていることが好ましい。
これにより、溝に対する冷却液流の抵抗が抑制され、溝の摩耗を防止することができる。
【0009】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溝は、前記溝の深さが深くなるにつれて幅が漸減する形状をなしていることが好ましい。
このような溝は、その深さによって溝の幅が異なるため、溶融金属の大きさによらず、溶融金属が入り込んで引っかかり易くなる。これにより、溶融金属をより長期にわたって固定することができるので、より細長い針状の金属粉末を製造することができる。
【0010】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溝の平均深さは、50μm〜3mmであることが好ましい。
これにより、溝の深さと同程度の大きさの溶融金属を確実に捕捉することができる。
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溝は、複数本が平行に形成されており、
前記各溝の平均間隔は、100μm〜20mmであることが好ましい。
これにより、十分な幅の溝を必要かつ十分な密度で溝が設けられることとなり、溶融金属が溝に捕捉される確率をより高めることができる。
【0011】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記複数本の溝の間にできる凸条は、その横断面形状に湾曲凸部を有していることが好ましい。
このような形状の凸条は、冷却液流の流れを妨げ難いので、凸条による冷却液流の流速が低下するのを防止して、冷却液流の冷却能力の低下を防止することができる。
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記筒状体の前記内壁面近傍は、前記アモルファス金属よりも硬度の高い材料で構成されていることが好ましい。
これにより、筒状体の内壁面や凹部の摩耗を軽減することができる。
【0012】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、当該針状金属粉末の製造装置は、前記溶融金属を落下または噴出させる前に、前記溶融金属に衝突することによって前記溶融金属を飛散させる流体ジェットを噴射するためのノズルを有していることが好ましい。
これにより、より微細な針状金属粉末を製造することができる。また、流体ジェットと冷却液流の双方で溶融金属を冷却することができるので、冷却速度の向上を図ることができる。これにより、アモルファス形成能の低い金属材料の溶融金属をも確実にアモルファス化することができる。
【0013】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記アモルファス金属は、Fe−Si−Cr系合金またはFe−Si−B系合金であることが好ましい。
これらの合金は、安価な成分で構成され、かつその中でもアモルファス形成能が比較的高いことから、溶融金属が適度な粘性を有した状態となり、溶融金属の確実な引き延ばしが可能になる。このため、より細長い針状金属粉末を効率よく製造することができる。
【0014】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溶融金属が前記冷却液流に向けて落下または噴出する際の前記溶融金属の飛行経路は、前記筒状体の軸線に対して傾斜するよう構成されていることが好ましい。
これにより、落下または噴出した溶融金属は、筒状体の内壁面および内壁面に形成された冷却液流の比較的広い範囲に対して衝突することとなる。その結果、溶融金属の落下点を分散させることができ、冷却液流による溶融金属の冷却効率を高めるとともに、広い範囲の溝に対して溶融金属が引っかかり、針状金属粉末の製造効率を高めることができる。
【0015】
本発明の針状金属粉末の製造方法は、内壁面が部分的に凹没してなる凹部を有する筒状体を用い、該筒状体の前記内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより冷却液流を発生させるとともに、急冷固化によりアモルファス金属になり得る組成の溶融金属を、前記冷却液流に向けて落下または噴出させることにより、前記溶融金属を飛散させつつ、冷却・固化させる工程を有し、
前記筒状体の前記内壁面に設けられた前記凹部に向けて、前記溶融金属を落下または噴出させることにより、前記溶融金属を針状に変形させつつ、急冷固化させることを特徴とする。
これにより、アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造することができる。
【0016】
本発明の針状金属粉末は、アモルファス金属を主材料とする針状の金属粉末であって、
本発明の針状金属粉末の製造装置を用いて製造されたものであることを特徴とする。
これにより、微細な針状粒子が得られる。
本発明の針状金属粉末では、当該針状金属粉末は、平均外径が2〜200μmであり、かつ平均長さ10μm〜10mmであることが好ましい。
このような針状金属粉末は、外径が十分に細くかつ細長いものとなるため、表面積が大きくなり、これを活かした用途(例えば、フィラー、電磁遮蔽材料用金属粉末等)に対して特に有効である。
【0017】
本発明の針状金属粉末は、アスペクト比が5〜100であることが好ましい。
このような針状金属粉末は、細くかつ長いものとなるため、表面積が特に大きくなる。このため、このような金属粉末を例えばフィラーとして用いた場合、複合材料中の広範囲にわたって金属粉末を行き渡らせることができる。これにより、著しい重量の増大を伴うことなく、複合材料中の広範囲を補強することができる。また、前述したようなアスペクト比の針状金属粉末は、寄せ集めた際に互いに絡み易いものとなる。このため、互いに接触する確率が増大し、例えば複合材料の熱伝導性や導電性をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の針状金属粉末の製造装置、針状金属粉末の製造方法および針状金属粉末について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の針状金属粉末の製造装置(針状金属粉末の製造方法)の第1実施形態について説明する。
本発明の針状金属粉末の製造装置および針状金属粉末の製造方法は、アモルファス金属で構成された微細な針状の金属粉末を製造する装置および方法である。
【0019】
図1は、本発明の針状金属粉末の製造装置の第1実施形態を示す模式図(縦断面図)、図2は、図1に示す針状金属粉末の製造装置の部分拡大図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示す金属粉末製造装置(本発明の針状金属粉末の製造装置)1は、原材料となる金属材料を溶融してなる溶融金属32を、筒状体(筒状体)2の内壁面20に沿って水(冷却液)を旋回させることによって生じた水流(冷却液流)に接触させることにより、水勢によって溶融金属32を飛散させつつ、冷却・固化させ、金属粉末を製造する装置である。
このような金属粉末製造装置1は、内壁面20に沿って水が流下するよう構成された筒状体2と、溶融金属を貯留し、筒状体2の内部に形成した水流に向けて、溶融金属を供給する供給部(タンディシュ)3とを有する。
【0020】
筒状体2は、円筒形状をなしており、その軸線方向が鉛直方向に対して10〜30°程度傾斜するよう設置されている。筒状体2の上端には、開口部210を有する蓋体21が装着されている。一方、筒状体2の下端は、内径および外径が下方に向かって漸減する漏斗部22となっている。
また、筒状体2の上部の内壁面20には、筒状体2の内部に水を供給する配管23の吐出口231が開口している。なお、配管23は、吐出口231付近の管軸方向が、筒状体2の内周面の接線方向の沿っており、かつ、筒状体2の軸線に対して直交する方向に配設されている。これにより、配管23の吐出口231から吐出された水は、筒状体2の内壁面20に沿って高速で回転しつつ、重力にしたがって流下する旋回流(冷却液流)を形成する。
【0021】
また、配管23の吐出口231と反対側は、水を貯留したタンク5に接続されている。そして、配管23の途中には、ポンプ232が設けられている。このポンプ232を動作させることにより、タンク5に貯留した水を吸い上げて、配管23を介して筒状体2の内部に供給することができる。
また、筒状体2の吐出口231と漏斗部22との間の内壁面20には、筒状体2の内径が部分的に縮小するように前記内壁面20から突出したリング状の縮径部24が設けられている。この縮径部24は、吐出口231から吐出された水をせき止めることにより、旋回流の流下速度を低下させる。その結果、縮径部24の上方に水が滞留し、縮径部24の高さ分の厚さの水層241が形成される。また、縮径部24を乗り越えた水は、その下方に流下する。
【0022】
なお、縮径部24は、筒状体2から取り外して交換可能になっている。したがって、所望の高さの縮径部24を適宜用いることにより、水層241の厚さを調整することができる。
また、縮径部24は、その設置位置を上下に調整することができる。
また、筒状体2の縮径部24と漏斗部22との間の壁部は、網状体26で構成されている。この網状体26は、多数の孔を有しているため、筒状体2の内部を流下してきた水は、網状体26を介して筒状体2の外部に流れ出る。
さらに、網状体26の外側には、網状体26を取り囲むようにカバー4が設けられている。このカバー4は、有底筒状をなしており、網状体26から筒状体2の外部に流れ出た水を受け止めるよう構成されている。
【0023】
なお、カバー4の底部の端には、筒状体2から流れ出た水を回収し、カバー4から排出するための排出口41が設けられている。そして、排出口41から回収した水は、タンク5内に戻されるようになっている。これにより、タンク5内の水を繰り返し使用することができるようになっている。
筒状体2の上方には、溶融金属供給部3が設けられている。
【0024】
溶融金属供給部3は、有底筒状をなしており、その内部に製造すべき金属粉末の原材料を溶融した溶融金属32を貯留する。本発明では、原材料として、固化した際にアモルファス金属となるような組成の金属材料を用いる。
溶融金属供給部3の外周には、溶融金属供給部3を加熱するコイル33が巻き回されている。このコイル33に通電し、溶融金属供給部3を加熱することにより、原材料を溶融するとともに、溶融金属供給部3に貯留された溶融金属の温度が低下しないようになっている。
【0025】
また、溶融金属供給部3の底部に貫通孔31が設けられている。この貫通孔31からは、筒状体2の開口部210を通過するように溶融金属32が吐出される。
なお、溶融金属供給部3は、その内部に不活性ガスを導入することができるようになっており、不活性ガスの導入量を調整することにより、内部圧力を調整可能になっている。このように溶融金属供給部3の内部圧力を調整することによって、貫通孔31から押し出され、吐出される溶融金属32の吐出量を制御することができる。
【0026】
また、図1に示す溶融金属供給部3においては、貫通孔31の軸線の延長が、筒状体2内に形成された水層241に位置している。これにより、貫通孔31から吐出された溶融金属32は、貫通孔31の軸線に沿って落下し、水層241に衝突する。その結果、溶融金属32は、水層241の水勢によって飛散(分断)されるとともに、急激に冷却される。そして、溶融金属32は、その融点を下回り、固化に至る。このようにして、水層241中に金属粉末が生成される。
【0027】
また、図1に示す金属粉末製造装置1では、水層241によってせき止められていることにより、その厚さが厚くなっている。せき止められた水層241は、流下速度が低下するため、溶融金属32は水層241に対してより長く接触し続ける。その結果、熱容量の大きい溶融金属32であっても、十分に冷却することができる。
また、筒状体2の内壁面20のうち、貫通孔31の軸線の延長線上には、図2に示すように、複数の環状の溝271が設けられている。
【0028】
この溝271は、内壁面20の周方向に沿って形成されている。すなわち、溝271の形成方向は、旋回流の回転方向とほぼ平行になるように設けられている。
また、複数の溝271は、筒状体2の軸方向に沿って所定間隔で設けられている。
図2に示す溝271の横断面形状は、溝が深くなるにつれて溝の幅が加速的に狭くなるような形状をなしている。
一方、複数の溝271同士の間は、溝271に対して相対的に突出することとなり、この突出した複数の部分は、それぞれ環状の凸条28になっている。
【0029】
次に、本発明の針状金属粉末の製造方法について説明する。
本発明の針状金属粉末の製造方法は、溶融金属32を、筒状体2の内壁面20に沿って冷却液を旋回させることによって生じた水層(冷却液流)241に向けて落下または噴出させることにより、溶融金属32を飛散させつつ、冷却・固化させる工程を有する方法である。
このような方法によれば、前述したように、アモルファス金属で構成された微細な針状の金属粉末を製造することができる。
以下、この製造方法について詳述する。
【0030】
[1]まず、固化した際にアモルファス金属となるような組成の金属材料を用意する。
次いで、この金属材料を金属粉末製造装置1の供給部3内に投入し、コイル33に通電して高周波誘導加熱により金属材料を溶融する。これにより、溶融金属供給部3に溶融金属32が貯留されることとなる。
ここで、アモルファス金属は、原子配列が不規則であり、内部に結晶構造や結晶粒界をほとんど含まない。このため、結晶金属のように転位による変形や結晶粒界を起点とする破壊が生じ難く、硬度および靭性が高いという特徴を有する。
このようなアモルファス金属は、後述するようにして、原材料を溶融状態から急速に冷却することによって作製される。原材料が溶融された状態では、原材料の各原子が液体状態の無秩序に配置しているが、これを急速に冷却すると、この無秩序な原子配置を保存したまま、溶融金属が固化に至る。このようにしてアモルファス金属が作製される。
【0031】
固化した際にアモルファス金属となり得る組成の金属材料としては、例えば、Fe−Si−B系、Fe−Si−Cr系、Fe−B系、Fe−P−C系、Fe−Co−Si−B系、Fe−Si−B−Nb系、Fe−Zr−B系のようなFe系合金、Ni−Si−B系、Ni−P−B系のようなNi系合金、Co−Si−B系のようなCo系合金等が挙げられる。また、用いる金属材料は、後述する過冷却液体状態が比較的安定な、いわゆる「金属ガラス」となり得る組成の金属材料であってもよい。なお、本明細書中では、金属ガラスも含めてアモルファス金属と言う。
【0032】
このような金属材料のうち、Fe−Si−B系合金またはFe−Si−Cr系合金が好ましく用いられる。これらの合金は、安価な成分で構成され、かつその中でもアモルファス形成能が比較的高いことから、溶融金属32が適度な粘性を有した状態となり、溶融金属32の確実な引き伸ばしが可能になる。このため、より細長い金属粉末を効率よく製造することができる。また、これらの合金は磁気特性や耐候性に比較的優れていることから、これらの特性を活かした用途に適用可能な金属粉末が得られる。
【0033】
[2]次に、溶融金属供給部3に貯留された溶融金属32を、貫通孔31から落下させる。これにより、落下した溶融金属32は、前述したように、貫通孔31の軸線に沿って落下し、水層241に衝突する。その結果、溶融金属32は、水層241の水勢によって飛散(分断)されるとともに、急激に冷却される。また、飛散され、液滴となった溶融金属32は、その落下の勢いで水層241を突き抜け、筒状体2の内壁面20に設けられた溝271に到達する。溝271に到達した溶融金属32は、その一部が溝271に入り込んで引っかかることにより、筒状体2の内壁面20に固定されることとなる。なお、溝271は、単なる錐状の穴(凹部)であってもよいが、本実施形態のように細長い溝であることにより、溶融金属32が引っかかる確率を高めることができる。これにより、高い確率で溶融金属32を針状に変形させることができ、最終的に、針状に変形しないで球形に近い形状の粒子が回収されるのを防止することができる。
【0034】
溶融金属32が溝271に引っかかる状態としては、多様な状態が考えられるが、その一例を図3に示す。
図3は、図1に示す針状金属粉末の製造装置において金属粉末が製造される過程を説明するための模式図である。
溝271に到達した溶融金属32の液滴は、図3(A)に示すように、その一部が溝271に入り込んでいる。
【0035】
ここで、水層241は、高速で旋回しているため、溝271に引っかかった溶融金属32の一部は、旋回流(水層241)の水勢によって引っ張られることとなる。溶融金属32は、水層241との接触で急激に冷却されるものの、固化には至っていないことから、水層241によって引っ張られることにより、図3(B)に示すように、細長く引き伸ばされる。その結果、溶融金属32は、細長い針状の形状をなす粒子となる。
その後、針状となった溶融金属32は、水層241の水勢でさらに引っ張られ、溝271から外れる。その結果、溶融金属32は、水層241とともに筒状体2の下方に流下していく。また、それとともに、溶融金属32は、水層241によって冷却され、固化に至る。
【0036】
なお、アモルファス金属は、溶融状態から固化に至る冷却期間の途中で「過冷却液体」の状態になる。この過冷却液体状態では、溶融金属32が適度な粘性を有する液体の状態になっている。この状態では、無秩序な原子配置を維持しつつ、適度な粘性に基づいて溶融金属32の形状を容易に変化させることができる。したがって、溶融金属32の液滴は、溝271に容易に入り込んで引っかかるとともに、水層241の水勢によって容易に引き伸ばされることとなる。これにより、溶融金属32は、そのアモルファス状態を維持しつつ、針状の形状に確実に変化し、その後固化に至ることによって針状の金属粉末になる。
【0037】
また、過冷却液体状態では、格子欠陥や偏析といった不均一な構造を含まないため、均質なアモルファス金属の金属粉末を容易に製造することができる。
以上のような過程は、極めて短時間で行われることとなる。その結果、アモルファス金属で構成された針状の粉末を効率よく製造することができる。
なお、溶融金属32が冷却され、固化に至るまでの具体的な冷却速度は、105〜108K/sec程度とされる。冷却速度を前記範囲内とすることにより、溶融金属32中の各原子が規則的に配置し、結晶化してしまうのを防止しつつ、溶融金属32が著しく早く固化するのを防止し、溶融金属32が過冷却液体状態下で引き伸ばされるのに十分な時間を確保することができる。すなわち、冷却速度が前記範囲内であれば、針状のアモルファス金属の粉末を確実に製造することができる。
【0038】
また、旋回流(水層241)の流速は、5〜100m/sec程度であるのが好ましく、10〜70m/sec程度であるのがより好ましい。水の流速が前記範囲内であれば、溶融金属32の冷却速度を前記範囲内とすることができる。なお、水の流速が前記上限値を上回った場合、水の流速が速くなり過ぎて、筒状体2の内壁面20が水との摩擦によって摩耗してしまうおそれがある。
【0039】
ところで、前述したように、図2に示す溝271の横断面形状は、溝が深くなるにつれて溝の幅が加速的に狭くなるような形状をなしている。このような溝271は、その深さによって溝の幅が異なるため、溶融金属32の大きさによらず、溶融金属32が入り込んで引っかかり易くなる。また、溝の幅が加速的に狭くなっていることにより、溶融金属32をより確実に固定することができる。これにより、溶融金属32をより長期にわたって固定することができるので、より細長い針状の金属粉末を製造することができる。
【0040】
また、溝271の平均深さは、50μm〜3mm程度であるのが好ましく、100μm〜2mm程度であるのがより好ましい。溝271の平均深さを前記範囲内とすることにより、溝271の深さと同程度の大きさの溶融金属32を確実に捕捉することできる。
なお、溝271の平均深さが前記下限値より小さいと、溝271が浅過ぎるので、溶融金属32が引っかかり難くなる。一方、溝271の平均深さが前記上限値より大きいと、溝271が深過ぎるので、溶融金属32が入り込んでしまい、容易に抜け出せなくなる。このようになると、旋回流(水層241)の水勢では溶融金属32を溝271から外すことができず、溝271が溶融金属32によって埋まってしまうおそれがある。
【0041】
一方、溝271の平均幅は、深さと同程度であるのが好ましく、すなわち、50μm〜3mm程度であるのが好ましく、100μm〜2mm程度であるのがより好ましい。前記溝271の平均幅を前記範囲内とすれば、前述したように、溝271の幅と同程度の大きさの溶融金属32を確実に捕捉することができる。
また、筒状体2の内壁面20には、前述したように、筒状体2の軸方向に沿って複数の溝271が所定間隔で設けられている。
このとき、各溝271の平均間隔は、100μm〜20mm程度であるのが好ましく、200μm〜10mm程度であるのがより好ましい。各溝271の平均間隔を前記範囲内とすれば、十分な幅の溝271を必要かつ十分な密度で溝271が設けられることとなり、溶融金属32が溝271に捕捉される確率をより高めることができる。
【0042】
すなわち、各溝271の平均間隔が前記下限値を下回ると、溶融金属32が溝271に入り込む確率が著しく低下するので、溶融金属32を針状に引き伸ばすことができなくなるおそれがある。一方、各溝271の平均間隔が前記上限値を上回ると、溝271の幅が狭くならざるを得ないので、溶融金属32が入り込めないおそれがある。
また、前述したように、複数の溝271同士の間は凸条28になっているが、図2に示す凸条28の横断面形状に湾曲凸部を有している。このような形状の凸条28は、水層241の流れを妨げ難いので、凸条28による水層241の流速が低下するのを防止することができる。その結果、水層241の冷却能力の低下を防止することができる。
【0043】
ところで、旋回流は、非常に高速で筒状体2の内壁面20を流れているので、水や、それに含まれる溶融金属32、溶融金属32の固化物(金属粉末)によって内壁面20が削られ、摩耗することとなる。特に、凸条28のように突出している部位は、摩耗の進行が著しい。
凸条28が摩耗すると、削られた凸条28が製造される金属粉末中に不純物として混入するおそれがある。また、溝271の深さや幅が経時的に変化してしまうので、製造される針状金属粉末の製造条件が変化することとなる。その結果、針状金属粉末の形状特性が不安定になるおそれがある。
【0044】
これに対し、凸条28の横断面形状が湾曲凸部を有していると、水層241が凸条28をスムーズに通過するため、凸条28が摩耗し難くなる。したがって、針状金属粉末の製造条件を経時的に一定に維持することができ、針状金属粉末の形状特性のバラツキを抑制することができる。
なお、前述したように、各溝271の形成方向が水層241の旋回方向と平行になっていることにより、溝271に対する水層241の抵抗が抑制され、溝271の摩耗も防止することができる。
【0045】
また、筒状体2の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、チタン合金等が挙げられる。このうち、筒状体2は、ステンレス鋼を主材料とするものが好ましい。ステンレス鋼は耐候性が高く、長期にわたって水に曝されても、著しい錆の発生を防止することができる。このため、最終的に得られる針状の金属粉末中に不純物が混入するのを防止することができる。
【0046】
また、内壁面20付近は、溶融金属32が固化してなるアモルファス金属より高硬度の材料で構成されているのが好ましく、かかる高硬度材料としては、例えば、超硬合金、タングステンまたはその合金、モリブデンまたはその合金等が挙げられる。このような高硬度材料を用いることにより、前述した溝271や凸条28の摩耗を軽減することができる。なお、かかる高硬度材料は、例えば、各種めっき法、各種溶射法等の成膜方法により内壁面20の表面に成膜可能である。
【0047】
また、前述した摩耗の軽減を図るため、内壁面20付近に硬度を高める表面処理を施すようにしてもよい。かかる表面処理としては、例えば、窒化処理等が挙げられる。
以上のようにして生成された針状の金属粉末は、水に懸濁した状態で筒状体2内を流化し、網状体26で濾し取られる。そして、針状金属粉末は、漏斗部22内を流下して筒状体2の下端から回収される。一方、網状体26を通過し、筒状体2の外部に流れ出た水は、カバー4によって集められ、タンク5内に戻される。
【0048】
なお、回収された針状金属粉末は、水に懸濁した状態であるため、これを乾燥させることによって、針状金属粉末のみを回収することができる。
以上のような方法によれば、従来の方法のように、ブロック状または帯状(バルク)のアモルファス金属(金属ガラス)を用意する必要がないので、アモルファス形成能が低い組成の原材料からも、針状の金属粉末を効率よく製造することができる。
【0049】
また、従来のように切削加工を伴わないので、切削工具が摩耗することによって金属粉末中に不純物が混入してしまうのを防止することができる。また、従来は、微細な金属粉末を製造する場合に、その大きさ(長さ)や細さ(外径)に応じた種々のサイズの切削工具を用意する必要があったが、本発明によれば、そのような切削工具を用意する手間も省くことができる。
さらに、本発明により製造された金属粉末は、アモルファス金属で構成されており、かつ、針状の細長い形状をなしているが、この金属粉末は、従来の方法で製造された針状の金属粉末に比べて微細なものである。
【0050】
このような針状金属粉末(本発明の針状金属粉末)は、例えば、セラミックス材料や樹脂材料等の材料中に分散されることにより、これらの材料を補強する補強材(フィラー)となる。すなわち、セラミックス材料や樹脂材料中に針状金属粉末を含む複合材料は、機械的強度や耐摩耗性に優れたものとなる。さらに、この複合材料は、針状金属粉末に由来する優れた熱伝導性、導電性、電磁波遮蔽性、不燃性等の特性を備えたものとなる。
【0051】
また、本発明の針状金属粉末は、アモルファス金属で構成されているため、結晶金属で構成された金属粉末に比べて、軟磁性特性に優れている。このため、本発明の針状金属粉末またはこの粉末を含む複合材料は、例えば、ノイズフィルタ、チョークコイル、トランス等の各種電磁気部品のコア、回転センサー、磁界センサー、変位センサー、距離センサー、応力センサー、トルクセンサー、歪センサー等の各種センサーのコア、万引き防止タグとして好適に用いられる。
【0052】
また、本発明によれば、溶融金属32の組成や、水層241の条件(流速、水層の厚さ)、溝271の深さや幅、配設密度等の各種条件によって異なるものの、一例として、平均外径が2〜200μm程度、平均長さが10μm〜10mm程度の針状の金属粉末を得ることができる。このような金属粉末は、外径が十分に細くかつ細長いものとなるため、表面積が大きくなり、これを活かした用途(例えば、フィラー、電磁遮蔽材料用金属粉末等)に対して特に有効である。
【0053】
また、本発明によれば、各種条件によって異なるものの、一例として、アスペクト比が5〜100程度の針状の金属粉末を得ることができる。このような金属粉末は、細くかつ長いものとなるため、表面積が特に大きくなる。このため、例えば金属粉末をフィラーとして用いた場合、複合材料中の広範囲にわたって細長いフィラーを行き渡らせることができる。これにより、著しい重量の増大を伴うことなく、複合材料中の広範囲を補強することができる。また、前述したようなアスペクト比の針状の金属粉末は、寄せ集めた際に互いに絡み易いものとなる。このため、互いに接触する確率が増大し、例えば複合材料の熱伝導性や導電性をさらに高めることができる。
【0054】
また、図1に示す金属粉末製造装置1では、溶融金属32が落下する際の溶融金属32の飛行経路が、筒状体2の軸線に対して傾斜している。これにより、落下した溶融金属32は、筒状体2の内壁面および内壁面に形成された水層241の比較的広い範囲に対して衝突することとなる。その結果、溶融金属32の落下点を分散させることができ、溶融金属32の冷却効率を高めるとともに、広い範囲の溝271に対して溶融金属32が引っかかり、針状金属粉末の製造効率を高めることができる。
なお、筒状体2の内壁面20に設けられる溝271の形状は、例えば図4に示すような形状であってもよい。
【0055】
図4に示す溝271は、その横断面形状が、溝が深くなるにつれて溝の幅が一定の割合で狭くなるような形状をなしている。すなわち、溝271の横断面形状は、いわゆる「V字」をなしている。
また、溝271は、必ずしも溝である必要はなく、例えば、円錐状、角錐状等の凹部(穴)であってもよい。
【0056】
<第2実施形態>
次に、本発明の針状金属粉末の製造装置(針状金属粉末の製造方法)の第2実施形態について説明する。
図5は、本発明の針状金属粉末の製造装置の第2実施形態を示す模式図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる金属粉末製造装置1は、溝の形状および位置が異なる以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0057】
図5において、溶融金属供給部3の貫通孔31は、その軸線の延長が、筒状体2の内壁面20とリング状の縮径部24の壁面242とで形成される溝272に位置している。これにより、貫通孔31から吐出された溶融金属32は、水層241の水勢で飛散した後、溝272に到達し、引っかかる。その結果、前記第1実施形態と同様に、溶融金属32は細長く引き伸ばされることとなり、細長い針状の金属粉末を製造することができる。
【0058】
ここで、図5では、筒状体2の内壁面20と縮径部24の壁面242とで形成される溝272の角度が90°になっている。この角度は、特に限定されないが、20〜100°程度であるのが好ましく、30〜90°程度であるのがより好ましい。溝272の角度を前記範囲内とすることにより、筒状体2の鉛直上方から下方への旋回流(水層241)を澱みなく流下させることができる。その結果、水層241が澱むことによる冷却能の著しい低下を抑制することができる。
以上のような本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0059】
<第3実施形態>
次に、本発明の針状金属粉末の製造装置(針状金属粉末の製造方法)の第3実施形態について説明する。
図6は、本発明の針状金属粉末の製造装置の第3実施形態を示す模式図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第3実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0060】
本実施形態にかかる金属粉末製造装置1は、溶融金属32に向けて流体ジェットを噴射するノズルを備える以外は、前記第1実施形態と同様である。
図6に示す金属粉末製造装置1は、流体ジェット61を噴射させる2本のノズル6を有している。これらのノズル6は、筒状体2の蓋体21の開口部210に上方から挿入されている。そして、各ノズル6の軸線の延長線は、図6に示すように、溶融金属供給部3の貫通孔31の軸線の延長線と、1つの交差点62で交差している。
【0061】
このような構成の金属粉末製造装置1では、貫通孔31から落下した溶融金属32が、交差点62において、各ノズル6から噴射される流体ジェット61に衝突する。これにより、溶融金属32は微細な液滴63に分断されるとともに、この液滴63は、水層241に衝突してさらに分断される。すなわち、溶融金属32は、流体ジェット61による一次分断と、水層241による二次分断とを経て粉末化される。このため、本実施形態によれば、前記第1実施形態に比べて、より微細な金属粉末を製造することができる。また、水層241に衝突する時点では、溶融金属32がより細かく分断された状態で衝突するため、溶融金属32と水層241との接触面積が増大し、溶融金属32の冷却速度のさらなる向上を図ることができる。このため、アモルファス形成能の低い金属材料の溶融金属32をも確実に冷却し、アモルファス化することができる。
【0062】
また、流体ジェット61の流体の種類や流速を適宜設定することにより、金属粉末の粒径や粒度分布等の粉末特性を容易に制御することができる。
なお、ノズル6から噴射される流体ジェット61は、水等の液体ジェットや、空気、窒素ガス、アルゴンガス等の気体ジェット等で構成される。
また、ノズル6の本数は、特に限定されず、3本以上であってもよい。なお、ノズル6を3本以上用いる場合には、全てのノズル6の軸線の延長線が交差点62を通過するように配置されるのが好ましい。また、各ノズル6の水平方向における配置は、交差点62を中心に点対称になっているのが好ましい。これにより、溶融金属32をムラなく均一に飛散させることができる。
【0063】
以上のような本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
以上、本発明の針状金属粉末の製造装置、針状金属粉末の製造方法および針状金属粉末について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、針状金属粉末の製造装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、針状金属粉末の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【実施例】
【0064】
1.針状金属粉末の製造
(実施例1)
まず、以下の各元素が、それぞれ以下の含有率で含まれるように原料を秤量し、各原料の混合物を溶融して溶融金属を得た。
<原料の組成>
・Si:7.5質量%
・B :3.8質量%
・Cr:2.3質量%
・C :0.5質量%
・Fe:残部
次に、得られた溶融金属を、図1に示す針状金属粉末の製造装置を用いて粉末化し、針状の金属粉末を得た。
なお、針状金属粉末の製造装置に設けた溝の形成条件は、以下の通りである。
【0065】
<溝の形成条件>
・溝の平均深さ :500μm
・溝の平均幅 :500μm
・溝の平均間隔 :1mm
・凸条の形状 :湾曲形状
・筒状体の構成材料 :ステンレス鋼
【0066】
(実施例2)
図5に示す針状金属粉末の製造装置を用いた以外は、前記実施例1と同様にして針状の金属粉末を得た。
(実施例3)
図6に示す針状金属粉末の製造装置を用いた以外は、前記実施例1と同様にして針状の金属粉末を得た。
【0067】
(比較例1)
原料を以下のものに変更した以外は、前記実施例1と同様にして金属粉末を得た。なお、以下の組成の金属材料は、急冷固化させてもアモルファス金属にはならないものである。
<原料の組成>
・Si:3質量%
・Fe:残部
(比較例2)
溶融金属を、図1に示す針状金属粉末の製造装置の筒状体の内壁面の、溝以外の部分に滴下するようにした以外は、前記実施例1と同様にして金属粉末を得た。
【0068】
2.評価
2.1 外観
前記各実施例および前記各比較例で得られた金属粉末について、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図7には、代表として、実施例1で得られた金属粉末の観察像を示す。各実施例で得られた金属粉末は、いずれも、図7に示すような非常に細長い針状をなしていた。
観察像から金属粉末の平均外径および平均長さを見積もったところ、平均外径は10μm、平均長さは1mmであった。また、平均のアスペクト比は50であった。
一方、各比較例で得られた金属粉末は、球形に近く、針状にはなっていなかった。
【0069】
2.2 結晶構造
前記各実施例で得られた金属粉末について、X線回折法による結晶構造解析を行った。その結果、いずれの金属粉末においても、X線回折スペクトルには先鋭なピークが認められなかった。このことから、各金属粉末は、いずれもアモルファス金属で構成されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の針状金属粉末の製造装置の第1実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【図2】図1に示す針状金属粉末の製造装置の部分拡大図である。
【図3】図1に示す針状金属粉末の製造装置において金属粉末が製造される過程を説明するための模式図である。
【図4】第1実施形態にかかる針状金属粉末の製造装置が備える溝の他の構成例である。
【図5】本発明の針状金属粉末の製造装置の第2実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【図6】本発明の針状金属粉末の製造装置の第3実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【図7】実施例1で得られた金属粉末の走査型電子顕微鏡による観察像である。
【符号の説明】
【0071】
1……金属粉末製造装置 2……筒状体 20……内壁面 21……蓋体 210……開口部 22……漏斗部 23……配管 231……吐出口 232……ポンプ 24……縮径部 241……水層 242……壁面 26……網状体 271、272……溝 28……凸条 3……溶融金属供給部 31……貫通孔 32……溶融金属 33……コイル 4……カバー 41……排出口 5……タンク 6……ノズル 61……流体ジェット 62……交差点 63……液滴
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状金属粉末の製造装置、針状金属粉末の製造方法および針状金属粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
数mm程度の長さの針状金属(金属短繊維)は、セラミックス材料や樹脂材料等に添加されることにより、重量の著しい増加を伴わない高強度の複合材料を実現することができる。かかる複合材料は、航空、宇宙、運輸等の多岐にわたる分野で用いられている。
また、金属短繊維は、その長手方向における導電性に優れているため、このような複合材料は、電磁遮蔽材料としても利用されている。
【0003】
ところで、上述したような金属短繊維は、従来、ブロック状または帯状の金属材料を、切削法によって微細な針状粒子に加工する方法により製造される。
特許文献1には、複数の外刃を円周面に備えた切削工具を、回転させつつ金属材料に当てることにより、金属材料を針状に切削する方法が開示されている。
ここで、切削加工による方法では、ある程度の大きさの金属材料を用意する必要がある。しかしながら、アモルファス金属のような特殊な結晶構造を有する金属材料は、ある程度の大きさのバルク状材料を作製することができないため、上述した切削加工を適用することができない。
【0004】
また、アモルファス金属の場合、厚さが数十μm程度の金属箔を作製することはできるが、製造に多大な手間とコストを要するとともに、製造効率が極めて悪い。さらに、切削工具の大きさを小さくすることに限界があることから、外径が数μm程度という微細な針状粒子を製造することは困難である。
以上のような問題から、従来は、アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造することができなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平9−183021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造可能な針状金属粉末の製造装置および針状金属粉末の製造方法、および、前記製造装置により製造されたアモルファス金属の微細な針状金属粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の針状金属粉末の製造装置は、内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより生じた冷却液流を保持する筒状体と、
急冷固化によりアモルファス金属になり得る組成の溶融金属を、前記筒状体中の冷却液流に向けて落下または噴出させる溶融金属供給部とを有し、
前記筒状体には、前記内壁面が部分的に凹没してなる凹部が設けられており、
該凹部に向けて前記溶融金属を落下または噴出させることにより、前記冷却液流の水勢によって前記溶融金属を針状に変形させつつ、急冷固化させ、前記アモルファス金属の針状粉末を得るよう構成されていることを特徴とする。
これにより、アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造することができる。
【0008】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記凹部は、溝であることが好ましい。
これにより、溶融金属が凹部に引っかかる確率を高めることができる。その結果、高い確率で溶融金属を針状に変形させることができ、最終的に、針状に変形しないで球形に近い粒子が回収されるのを防止することができる。
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溝は、その形成方向が、前記冷却液流の旋回方向と平行になるよう設けられていることが好ましい。
これにより、溝に対する冷却液流の抵抗が抑制され、溝の摩耗を防止することができる。
【0009】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溝は、前記溝の深さが深くなるにつれて幅が漸減する形状をなしていることが好ましい。
このような溝は、その深さによって溝の幅が異なるため、溶融金属の大きさによらず、溶融金属が入り込んで引っかかり易くなる。これにより、溶融金属をより長期にわたって固定することができるので、より細長い針状の金属粉末を製造することができる。
【0010】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溝の平均深さは、50μm〜3mmであることが好ましい。
これにより、溝の深さと同程度の大きさの溶融金属を確実に捕捉することができる。
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溝は、複数本が平行に形成されており、
前記各溝の平均間隔は、100μm〜20mmであることが好ましい。
これにより、十分な幅の溝を必要かつ十分な密度で溝が設けられることとなり、溶融金属が溝に捕捉される確率をより高めることができる。
【0011】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記複数本の溝の間にできる凸条は、その横断面形状に湾曲凸部を有していることが好ましい。
このような形状の凸条は、冷却液流の流れを妨げ難いので、凸条による冷却液流の流速が低下するのを防止して、冷却液流の冷却能力の低下を防止することができる。
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記筒状体の前記内壁面近傍は、前記アモルファス金属よりも硬度の高い材料で構成されていることが好ましい。
これにより、筒状体の内壁面や凹部の摩耗を軽減することができる。
【0012】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、当該針状金属粉末の製造装置は、前記溶融金属を落下または噴出させる前に、前記溶融金属に衝突することによって前記溶融金属を飛散させる流体ジェットを噴射するためのノズルを有していることが好ましい。
これにより、より微細な針状金属粉末を製造することができる。また、流体ジェットと冷却液流の双方で溶融金属を冷却することができるので、冷却速度の向上を図ることができる。これにより、アモルファス形成能の低い金属材料の溶融金属をも確実にアモルファス化することができる。
【0013】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記アモルファス金属は、Fe−Si−Cr系合金またはFe−Si−B系合金であることが好ましい。
これらの合金は、安価な成分で構成され、かつその中でもアモルファス形成能が比較的高いことから、溶融金属が適度な粘性を有した状態となり、溶融金属の確実な引き延ばしが可能になる。このため、より細長い針状金属粉末を効率よく製造することができる。
【0014】
本発明の針状金属粉末の製造装置では、前記溶融金属が前記冷却液流に向けて落下または噴出する際の前記溶融金属の飛行経路は、前記筒状体の軸線に対して傾斜するよう構成されていることが好ましい。
これにより、落下または噴出した溶融金属は、筒状体の内壁面および内壁面に形成された冷却液流の比較的広い範囲に対して衝突することとなる。その結果、溶融金属の落下点を分散させることができ、冷却液流による溶融金属の冷却効率を高めるとともに、広い範囲の溝に対して溶融金属が引っかかり、針状金属粉末の製造効率を高めることができる。
【0015】
本発明の針状金属粉末の製造方法は、内壁面が部分的に凹没してなる凹部を有する筒状体を用い、該筒状体の前記内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより冷却液流を発生させるとともに、急冷固化によりアモルファス金属になり得る組成の溶融金属を、前記冷却液流に向けて落下または噴出させることにより、前記溶融金属を飛散させつつ、冷却・固化させる工程を有し、
前記筒状体の前記内壁面に設けられた前記凹部に向けて、前記溶融金属を落下または噴出させることにより、前記溶融金属を針状に変形させつつ、急冷固化させることを特徴とする。
これにより、アモルファス金属の微細な針状粒子を効率よく製造することができる。
【0016】
本発明の針状金属粉末は、アモルファス金属を主材料とする針状の金属粉末であって、
本発明の針状金属粉末の製造装置を用いて製造されたものであることを特徴とする。
これにより、微細な針状粒子が得られる。
本発明の針状金属粉末では、当該針状金属粉末は、平均外径が2〜200μmであり、かつ平均長さ10μm〜10mmであることが好ましい。
このような針状金属粉末は、外径が十分に細くかつ細長いものとなるため、表面積が大きくなり、これを活かした用途(例えば、フィラー、電磁遮蔽材料用金属粉末等)に対して特に有効である。
【0017】
本発明の針状金属粉末は、アスペクト比が5〜100であることが好ましい。
このような針状金属粉末は、細くかつ長いものとなるため、表面積が特に大きくなる。このため、このような金属粉末を例えばフィラーとして用いた場合、複合材料中の広範囲にわたって金属粉末を行き渡らせることができる。これにより、著しい重量の増大を伴うことなく、複合材料中の広範囲を補強することができる。また、前述したようなアスペクト比の針状金属粉末は、寄せ集めた際に互いに絡み易いものとなる。このため、互いに接触する確率が増大し、例えば複合材料の熱伝導性や導電性をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の針状金属粉末の製造装置、針状金属粉末の製造方法および針状金属粉末について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明の針状金属粉末の製造装置(針状金属粉末の製造方法)の第1実施形態について説明する。
本発明の針状金属粉末の製造装置および針状金属粉末の製造方法は、アモルファス金属で構成された微細な針状の金属粉末を製造する装置および方法である。
【0019】
図1は、本発明の針状金属粉末の製造装置の第1実施形態を示す模式図(縦断面図)、図2は、図1に示す針状金属粉末の製造装置の部分拡大図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示す金属粉末製造装置(本発明の針状金属粉末の製造装置)1は、原材料となる金属材料を溶融してなる溶融金属32を、筒状体(筒状体)2の内壁面20に沿って水(冷却液)を旋回させることによって生じた水流(冷却液流)に接触させることにより、水勢によって溶融金属32を飛散させつつ、冷却・固化させ、金属粉末を製造する装置である。
このような金属粉末製造装置1は、内壁面20に沿って水が流下するよう構成された筒状体2と、溶融金属を貯留し、筒状体2の内部に形成した水流に向けて、溶融金属を供給する供給部(タンディシュ)3とを有する。
【0020】
筒状体2は、円筒形状をなしており、その軸線方向が鉛直方向に対して10〜30°程度傾斜するよう設置されている。筒状体2の上端には、開口部210を有する蓋体21が装着されている。一方、筒状体2の下端は、内径および外径が下方に向かって漸減する漏斗部22となっている。
また、筒状体2の上部の内壁面20には、筒状体2の内部に水を供給する配管23の吐出口231が開口している。なお、配管23は、吐出口231付近の管軸方向が、筒状体2の内周面の接線方向の沿っており、かつ、筒状体2の軸線に対して直交する方向に配設されている。これにより、配管23の吐出口231から吐出された水は、筒状体2の内壁面20に沿って高速で回転しつつ、重力にしたがって流下する旋回流(冷却液流)を形成する。
【0021】
また、配管23の吐出口231と反対側は、水を貯留したタンク5に接続されている。そして、配管23の途中には、ポンプ232が設けられている。このポンプ232を動作させることにより、タンク5に貯留した水を吸い上げて、配管23を介して筒状体2の内部に供給することができる。
また、筒状体2の吐出口231と漏斗部22との間の内壁面20には、筒状体2の内径が部分的に縮小するように前記内壁面20から突出したリング状の縮径部24が設けられている。この縮径部24は、吐出口231から吐出された水をせき止めることにより、旋回流の流下速度を低下させる。その結果、縮径部24の上方に水が滞留し、縮径部24の高さ分の厚さの水層241が形成される。また、縮径部24を乗り越えた水は、その下方に流下する。
【0022】
なお、縮径部24は、筒状体2から取り外して交換可能になっている。したがって、所望の高さの縮径部24を適宜用いることにより、水層241の厚さを調整することができる。
また、縮径部24は、その設置位置を上下に調整することができる。
また、筒状体2の縮径部24と漏斗部22との間の壁部は、網状体26で構成されている。この網状体26は、多数の孔を有しているため、筒状体2の内部を流下してきた水は、網状体26を介して筒状体2の外部に流れ出る。
さらに、網状体26の外側には、網状体26を取り囲むようにカバー4が設けられている。このカバー4は、有底筒状をなしており、網状体26から筒状体2の外部に流れ出た水を受け止めるよう構成されている。
【0023】
なお、カバー4の底部の端には、筒状体2から流れ出た水を回収し、カバー4から排出するための排出口41が設けられている。そして、排出口41から回収した水は、タンク5内に戻されるようになっている。これにより、タンク5内の水を繰り返し使用することができるようになっている。
筒状体2の上方には、溶融金属供給部3が設けられている。
【0024】
溶融金属供給部3は、有底筒状をなしており、その内部に製造すべき金属粉末の原材料を溶融した溶融金属32を貯留する。本発明では、原材料として、固化した際にアモルファス金属となるような組成の金属材料を用いる。
溶融金属供給部3の外周には、溶融金属供給部3を加熱するコイル33が巻き回されている。このコイル33に通電し、溶融金属供給部3を加熱することにより、原材料を溶融するとともに、溶融金属供給部3に貯留された溶融金属の温度が低下しないようになっている。
【0025】
また、溶融金属供給部3の底部に貫通孔31が設けられている。この貫通孔31からは、筒状体2の開口部210を通過するように溶融金属32が吐出される。
なお、溶融金属供給部3は、その内部に不活性ガスを導入することができるようになっており、不活性ガスの導入量を調整することにより、内部圧力を調整可能になっている。このように溶融金属供給部3の内部圧力を調整することによって、貫通孔31から押し出され、吐出される溶融金属32の吐出量を制御することができる。
【0026】
また、図1に示す溶融金属供給部3においては、貫通孔31の軸線の延長が、筒状体2内に形成された水層241に位置している。これにより、貫通孔31から吐出された溶融金属32は、貫通孔31の軸線に沿って落下し、水層241に衝突する。その結果、溶融金属32は、水層241の水勢によって飛散(分断)されるとともに、急激に冷却される。そして、溶融金属32は、その融点を下回り、固化に至る。このようにして、水層241中に金属粉末が生成される。
【0027】
また、図1に示す金属粉末製造装置1では、水層241によってせき止められていることにより、その厚さが厚くなっている。せき止められた水層241は、流下速度が低下するため、溶融金属32は水層241に対してより長く接触し続ける。その結果、熱容量の大きい溶融金属32であっても、十分に冷却することができる。
また、筒状体2の内壁面20のうち、貫通孔31の軸線の延長線上には、図2に示すように、複数の環状の溝271が設けられている。
【0028】
この溝271は、内壁面20の周方向に沿って形成されている。すなわち、溝271の形成方向は、旋回流の回転方向とほぼ平行になるように設けられている。
また、複数の溝271は、筒状体2の軸方向に沿って所定間隔で設けられている。
図2に示す溝271の横断面形状は、溝が深くなるにつれて溝の幅が加速的に狭くなるような形状をなしている。
一方、複数の溝271同士の間は、溝271に対して相対的に突出することとなり、この突出した複数の部分は、それぞれ環状の凸条28になっている。
【0029】
次に、本発明の針状金属粉末の製造方法について説明する。
本発明の針状金属粉末の製造方法は、溶融金属32を、筒状体2の内壁面20に沿って冷却液を旋回させることによって生じた水層(冷却液流)241に向けて落下または噴出させることにより、溶融金属32を飛散させつつ、冷却・固化させる工程を有する方法である。
このような方法によれば、前述したように、アモルファス金属で構成された微細な針状の金属粉末を製造することができる。
以下、この製造方法について詳述する。
【0030】
[1]まず、固化した際にアモルファス金属となるような組成の金属材料を用意する。
次いで、この金属材料を金属粉末製造装置1の供給部3内に投入し、コイル33に通電して高周波誘導加熱により金属材料を溶融する。これにより、溶融金属供給部3に溶融金属32が貯留されることとなる。
ここで、アモルファス金属は、原子配列が不規則であり、内部に結晶構造や結晶粒界をほとんど含まない。このため、結晶金属のように転位による変形や結晶粒界を起点とする破壊が生じ難く、硬度および靭性が高いという特徴を有する。
このようなアモルファス金属は、後述するようにして、原材料を溶融状態から急速に冷却することによって作製される。原材料が溶融された状態では、原材料の各原子が液体状態の無秩序に配置しているが、これを急速に冷却すると、この無秩序な原子配置を保存したまま、溶融金属が固化に至る。このようにしてアモルファス金属が作製される。
【0031】
固化した際にアモルファス金属となり得る組成の金属材料としては、例えば、Fe−Si−B系、Fe−Si−Cr系、Fe−B系、Fe−P−C系、Fe−Co−Si−B系、Fe−Si−B−Nb系、Fe−Zr−B系のようなFe系合金、Ni−Si−B系、Ni−P−B系のようなNi系合金、Co−Si−B系のようなCo系合金等が挙げられる。また、用いる金属材料は、後述する過冷却液体状態が比較的安定な、いわゆる「金属ガラス」となり得る組成の金属材料であってもよい。なお、本明細書中では、金属ガラスも含めてアモルファス金属と言う。
【0032】
このような金属材料のうち、Fe−Si−B系合金またはFe−Si−Cr系合金が好ましく用いられる。これらの合金は、安価な成分で構成され、かつその中でもアモルファス形成能が比較的高いことから、溶融金属32が適度な粘性を有した状態となり、溶融金属32の確実な引き伸ばしが可能になる。このため、より細長い金属粉末を効率よく製造することができる。また、これらの合金は磁気特性や耐候性に比較的優れていることから、これらの特性を活かした用途に適用可能な金属粉末が得られる。
【0033】
[2]次に、溶融金属供給部3に貯留された溶融金属32を、貫通孔31から落下させる。これにより、落下した溶融金属32は、前述したように、貫通孔31の軸線に沿って落下し、水層241に衝突する。その結果、溶融金属32は、水層241の水勢によって飛散(分断)されるとともに、急激に冷却される。また、飛散され、液滴となった溶融金属32は、その落下の勢いで水層241を突き抜け、筒状体2の内壁面20に設けられた溝271に到達する。溝271に到達した溶融金属32は、その一部が溝271に入り込んで引っかかることにより、筒状体2の内壁面20に固定されることとなる。なお、溝271は、単なる錐状の穴(凹部)であってもよいが、本実施形態のように細長い溝であることにより、溶融金属32が引っかかる確率を高めることができる。これにより、高い確率で溶融金属32を針状に変形させることができ、最終的に、針状に変形しないで球形に近い形状の粒子が回収されるのを防止することができる。
【0034】
溶融金属32が溝271に引っかかる状態としては、多様な状態が考えられるが、その一例を図3に示す。
図3は、図1に示す針状金属粉末の製造装置において金属粉末が製造される過程を説明するための模式図である。
溝271に到達した溶融金属32の液滴は、図3(A)に示すように、その一部が溝271に入り込んでいる。
【0035】
ここで、水層241は、高速で旋回しているため、溝271に引っかかった溶融金属32の一部は、旋回流(水層241)の水勢によって引っ張られることとなる。溶融金属32は、水層241との接触で急激に冷却されるものの、固化には至っていないことから、水層241によって引っ張られることにより、図3(B)に示すように、細長く引き伸ばされる。その結果、溶融金属32は、細長い針状の形状をなす粒子となる。
その後、針状となった溶融金属32は、水層241の水勢でさらに引っ張られ、溝271から外れる。その結果、溶融金属32は、水層241とともに筒状体2の下方に流下していく。また、それとともに、溶融金属32は、水層241によって冷却され、固化に至る。
【0036】
なお、アモルファス金属は、溶融状態から固化に至る冷却期間の途中で「過冷却液体」の状態になる。この過冷却液体状態では、溶融金属32が適度な粘性を有する液体の状態になっている。この状態では、無秩序な原子配置を維持しつつ、適度な粘性に基づいて溶融金属32の形状を容易に変化させることができる。したがって、溶融金属32の液滴は、溝271に容易に入り込んで引っかかるとともに、水層241の水勢によって容易に引き伸ばされることとなる。これにより、溶融金属32は、そのアモルファス状態を維持しつつ、針状の形状に確実に変化し、その後固化に至ることによって針状の金属粉末になる。
【0037】
また、過冷却液体状態では、格子欠陥や偏析といった不均一な構造を含まないため、均質なアモルファス金属の金属粉末を容易に製造することができる。
以上のような過程は、極めて短時間で行われることとなる。その結果、アモルファス金属で構成された針状の粉末を効率よく製造することができる。
なお、溶融金属32が冷却され、固化に至るまでの具体的な冷却速度は、105〜108K/sec程度とされる。冷却速度を前記範囲内とすることにより、溶融金属32中の各原子が規則的に配置し、結晶化してしまうのを防止しつつ、溶融金属32が著しく早く固化するのを防止し、溶融金属32が過冷却液体状態下で引き伸ばされるのに十分な時間を確保することができる。すなわち、冷却速度が前記範囲内であれば、針状のアモルファス金属の粉末を確実に製造することができる。
【0038】
また、旋回流(水層241)の流速は、5〜100m/sec程度であるのが好ましく、10〜70m/sec程度であるのがより好ましい。水の流速が前記範囲内であれば、溶融金属32の冷却速度を前記範囲内とすることができる。なお、水の流速が前記上限値を上回った場合、水の流速が速くなり過ぎて、筒状体2の内壁面20が水との摩擦によって摩耗してしまうおそれがある。
【0039】
ところで、前述したように、図2に示す溝271の横断面形状は、溝が深くなるにつれて溝の幅が加速的に狭くなるような形状をなしている。このような溝271は、その深さによって溝の幅が異なるため、溶融金属32の大きさによらず、溶融金属32が入り込んで引っかかり易くなる。また、溝の幅が加速的に狭くなっていることにより、溶融金属32をより確実に固定することができる。これにより、溶融金属32をより長期にわたって固定することができるので、より細長い針状の金属粉末を製造することができる。
【0040】
また、溝271の平均深さは、50μm〜3mm程度であるのが好ましく、100μm〜2mm程度であるのがより好ましい。溝271の平均深さを前記範囲内とすることにより、溝271の深さと同程度の大きさの溶融金属32を確実に捕捉することできる。
なお、溝271の平均深さが前記下限値より小さいと、溝271が浅過ぎるので、溶融金属32が引っかかり難くなる。一方、溝271の平均深さが前記上限値より大きいと、溝271が深過ぎるので、溶融金属32が入り込んでしまい、容易に抜け出せなくなる。このようになると、旋回流(水層241)の水勢では溶融金属32を溝271から外すことができず、溝271が溶融金属32によって埋まってしまうおそれがある。
【0041】
一方、溝271の平均幅は、深さと同程度であるのが好ましく、すなわち、50μm〜3mm程度であるのが好ましく、100μm〜2mm程度であるのがより好ましい。前記溝271の平均幅を前記範囲内とすれば、前述したように、溝271の幅と同程度の大きさの溶融金属32を確実に捕捉することができる。
また、筒状体2の内壁面20には、前述したように、筒状体2の軸方向に沿って複数の溝271が所定間隔で設けられている。
このとき、各溝271の平均間隔は、100μm〜20mm程度であるのが好ましく、200μm〜10mm程度であるのがより好ましい。各溝271の平均間隔を前記範囲内とすれば、十分な幅の溝271を必要かつ十分な密度で溝271が設けられることとなり、溶融金属32が溝271に捕捉される確率をより高めることができる。
【0042】
すなわち、各溝271の平均間隔が前記下限値を下回ると、溶融金属32が溝271に入り込む確率が著しく低下するので、溶融金属32を針状に引き伸ばすことができなくなるおそれがある。一方、各溝271の平均間隔が前記上限値を上回ると、溝271の幅が狭くならざるを得ないので、溶融金属32が入り込めないおそれがある。
また、前述したように、複数の溝271同士の間は凸条28になっているが、図2に示す凸条28の横断面形状に湾曲凸部を有している。このような形状の凸条28は、水層241の流れを妨げ難いので、凸条28による水層241の流速が低下するのを防止することができる。その結果、水層241の冷却能力の低下を防止することができる。
【0043】
ところで、旋回流は、非常に高速で筒状体2の内壁面20を流れているので、水や、それに含まれる溶融金属32、溶融金属32の固化物(金属粉末)によって内壁面20が削られ、摩耗することとなる。特に、凸条28のように突出している部位は、摩耗の進行が著しい。
凸条28が摩耗すると、削られた凸条28が製造される金属粉末中に不純物として混入するおそれがある。また、溝271の深さや幅が経時的に変化してしまうので、製造される針状金属粉末の製造条件が変化することとなる。その結果、針状金属粉末の形状特性が不安定になるおそれがある。
【0044】
これに対し、凸条28の横断面形状が湾曲凸部を有していると、水層241が凸条28をスムーズに通過するため、凸条28が摩耗し難くなる。したがって、針状金属粉末の製造条件を経時的に一定に維持することができ、針状金属粉末の形状特性のバラツキを抑制することができる。
なお、前述したように、各溝271の形成方向が水層241の旋回方向と平行になっていることにより、溝271に対する水層241の抵抗が抑制され、溝271の摩耗も防止することができる。
【0045】
また、筒状体2の構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、チタン合金等が挙げられる。このうち、筒状体2は、ステンレス鋼を主材料とするものが好ましい。ステンレス鋼は耐候性が高く、長期にわたって水に曝されても、著しい錆の発生を防止することができる。このため、最終的に得られる針状の金属粉末中に不純物が混入するのを防止することができる。
【0046】
また、内壁面20付近は、溶融金属32が固化してなるアモルファス金属より高硬度の材料で構成されているのが好ましく、かかる高硬度材料としては、例えば、超硬合金、タングステンまたはその合金、モリブデンまたはその合金等が挙げられる。このような高硬度材料を用いることにより、前述した溝271や凸条28の摩耗を軽減することができる。なお、かかる高硬度材料は、例えば、各種めっき法、各種溶射法等の成膜方法により内壁面20の表面に成膜可能である。
【0047】
また、前述した摩耗の軽減を図るため、内壁面20付近に硬度を高める表面処理を施すようにしてもよい。かかる表面処理としては、例えば、窒化処理等が挙げられる。
以上のようにして生成された針状の金属粉末は、水に懸濁した状態で筒状体2内を流化し、網状体26で濾し取られる。そして、針状金属粉末は、漏斗部22内を流下して筒状体2の下端から回収される。一方、網状体26を通過し、筒状体2の外部に流れ出た水は、カバー4によって集められ、タンク5内に戻される。
【0048】
なお、回収された針状金属粉末は、水に懸濁した状態であるため、これを乾燥させることによって、針状金属粉末のみを回収することができる。
以上のような方法によれば、従来の方法のように、ブロック状または帯状(バルク)のアモルファス金属(金属ガラス)を用意する必要がないので、アモルファス形成能が低い組成の原材料からも、針状の金属粉末を効率よく製造することができる。
【0049】
また、従来のように切削加工を伴わないので、切削工具が摩耗することによって金属粉末中に不純物が混入してしまうのを防止することができる。また、従来は、微細な金属粉末を製造する場合に、その大きさ(長さ)や細さ(外径)に応じた種々のサイズの切削工具を用意する必要があったが、本発明によれば、そのような切削工具を用意する手間も省くことができる。
さらに、本発明により製造された金属粉末は、アモルファス金属で構成されており、かつ、針状の細長い形状をなしているが、この金属粉末は、従来の方法で製造された針状の金属粉末に比べて微細なものである。
【0050】
このような針状金属粉末(本発明の針状金属粉末)は、例えば、セラミックス材料や樹脂材料等の材料中に分散されることにより、これらの材料を補強する補強材(フィラー)となる。すなわち、セラミックス材料や樹脂材料中に針状金属粉末を含む複合材料は、機械的強度や耐摩耗性に優れたものとなる。さらに、この複合材料は、針状金属粉末に由来する優れた熱伝導性、導電性、電磁波遮蔽性、不燃性等の特性を備えたものとなる。
【0051】
また、本発明の針状金属粉末は、アモルファス金属で構成されているため、結晶金属で構成された金属粉末に比べて、軟磁性特性に優れている。このため、本発明の針状金属粉末またはこの粉末を含む複合材料は、例えば、ノイズフィルタ、チョークコイル、トランス等の各種電磁気部品のコア、回転センサー、磁界センサー、変位センサー、距離センサー、応力センサー、トルクセンサー、歪センサー等の各種センサーのコア、万引き防止タグとして好適に用いられる。
【0052】
また、本発明によれば、溶融金属32の組成や、水層241の条件(流速、水層の厚さ)、溝271の深さや幅、配設密度等の各種条件によって異なるものの、一例として、平均外径が2〜200μm程度、平均長さが10μm〜10mm程度の針状の金属粉末を得ることができる。このような金属粉末は、外径が十分に細くかつ細長いものとなるため、表面積が大きくなり、これを活かした用途(例えば、フィラー、電磁遮蔽材料用金属粉末等)に対して特に有効である。
【0053】
また、本発明によれば、各種条件によって異なるものの、一例として、アスペクト比が5〜100程度の針状の金属粉末を得ることができる。このような金属粉末は、細くかつ長いものとなるため、表面積が特に大きくなる。このため、例えば金属粉末をフィラーとして用いた場合、複合材料中の広範囲にわたって細長いフィラーを行き渡らせることができる。これにより、著しい重量の増大を伴うことなく、複合材料中の広範囲を補強することができる。また、前述したようなアスペクト比の針状の金属粉末は、寄せ集めた際に互いに絡み易いものとなる。このため、互いに接触する確率が増大し、例えば複合材料の熱伝導性や導電性をさらに高めることができる。
【0054】
また、図1に示す金属粉末製造装置1では、溶融金属32が落下する際の溶融金属32の飛行経路が、筒状体2の軸線に対して傾斜している。これにより、落下した溶融金属32は、筒状体2の内壁面および内壁面に形成された水層241の比較的広い範囲に対して衝突することとなる。その結果、溶融金属32の落下点を分散させることができ、溶融金属32の冷却効率を高めるとともに、広い範囲の溝271に対して溶融金属32が引っかかり、針状金属粉末の製造効率を高めることができる。
なお、筒状体2の内壁面20に設けられる溝271の形状は、例えば図4に示すような形状であってもよい。
【0055】
図4に示す溝271は、その横断面形状が、溝が深くなるにつれて溝の幅が一定の割合で狭くなるような形状をなしている。すなわち、溝271の横断面形状は、いわゆる「V字」をなしている。
また、溝271は、必ずしも溝である必要はなく、例えば、円錐状、角錐状等の凹部(穴)であってもよい。
【0056】
<第2実施形態>
次に、本発明の針状金属粉末の製造装置(針状金属粉末の製造方法)の第2実施形態について説明する。
図5は、本発明の針状金属粉末の製造装置の第2実施形態を示す模式図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる金属粉末製造装置1は、溝の形状および位置が異なる以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0057】
図5において、溶融金属供給部3の貫通孔31は、その軸線の延長が、筒状体2の内壁面20とリング状の縮径部24の壁面242とで形成される溝272に位置している。これにより、貫通孔31から吐出された溶融金属32は、水層241の水勢で飛散した後、溝272に到達し、引っかかる。その結果、前記第1実施形態と同様に、溶融金属32は細長く引き伸ばされることとなり、細長い針状の金属粉末を製造することができる。
【0058】
ここで、図5では、筒状体2の内壁面20と縮径部24の壁面242とで形成される溝272の角度が90°になっている。この角度は、特に限定されないが、20〜100°程度であるのが好ましく、30〜90°程度であるのがより好ましい。溝272の角度を前記範囲内とすることにより、筒状体2の鉛直上方から下方への旋回流(水層241)を澱みなく流下させることができる。その結果、水層241が澱むことによる冷却能の著しい低下を抑制することができる。
以上のような本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0059】
<第3実施形態>
次に、本発明の針状金属粉末の製造装置(針状金属粉末の製造方法)の第3実施形態について説明する。
図6は、本発明の針状金属粉末の製造装置の第3実施形態を示す模式図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第3実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0060】
本実施形態にかかる金属粉末製造装置1は、溶融金属32に向けて流体ジェットを噴射するノズルを備える以外は、前記第1実施形態と同様である。
図6に示す金属粉末製造装置1は、流体ジェット61を噴射させる2本のノズル6を有している。これらのノズル6は、筒状体2の蓋体21の開口部210に上方から挿入されている。そして、各ノズル6の軸線の延長線は、図6に示すように、溶融金属供給部3の貫通孔31の軸線の延長線と、1つの交差点62で交差している。
【0061】
このような構成の金属粉末製造装置1では、貫通孔31から落下した溶融金属32が、交差点62において、各ノズル6から噴射される流体ジェット61に衝突する。これにより、溶融金属32は微細な液滴63に分断されるとともに、この液滴63は、水層241に衝突してさらに分断される。すなわち、溶融金属32は、流体ジェット61による一次分断と、水層241による二次分断とを経て粉末化される。このため、本実施形態によれば、前記第1実施形態に比べて、より微細な金属粉末を製造することができる。また、水層241に衝突する時点では、溶融金属32がより細かく分断された状態で衝突するため、溶融金属32と水層241との接触面積が増大し、溶融金属32の冷却速度のさらなる向上を図ることができる。このため、アモルファス形成能の低い金属材料の溶融金属32をも確実に冷却し、アモルファス化することができる。
【0062】
また、流体ジェット61の流体の種類や流速を適宜設定することにより、金属粉末の粒径や粒度分布等の粉末特性を容易に制御することができる。
なお、ノズル6から噴射される流体ジェット61は、水等の液体ジェットや、空気、窒素ガス、アルゴンガス等の気体ジェット等で構成される。
また、ノズル6の本数は、特に限定されず、3本以上であってもよい。なお、ノズル6を3本以上用いる場合には、全てのノズル6の軸線の延長線が交差点62を通過するように配置されるのが好ましい。また、各ノズル6の水平方向における配置は、交差点62を中心に点対称になっているのが好ましい。これにより、溶融金属32をムラなく均一に飛散させることができる。
【0063】
以上のような本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
以上、本発明の針状金属粉末の製造装置、針状金属粉末の製造方法および針状金属粉末について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、針状金属粉末の製造装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、針状金属粉末の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【実施例】
【0064】
1.針状金属粉末の製造
(実施例1)
まず、以下の各元素が、それぞれ以下の含有率で含まれるように原料を秤量し、各原料の混合物を溶融して溶融金属を得た。
<原料の組成>
・Si:7.5質量%
・B :3.8質量%
・Cr:2.3質量%
・C :0.5質量%
・Fe:残部
次に、得られた溶融金属を、図1に示す針状金属粉末の製造装置を用いて粉末化し、針状の金属粉末を得た。
なお、針状金属粉末の製造装置に設けた溝の形成条件は、以下の通りである。
【0065】
<溝の形成条件>
・溝の平均深さ :500μm
・溝の平均幅 :500μm
・溝の平均間隔 :1mm
・凸条の形状 :湾曲形状
・筒状体の構成材料 :ステンレス鋼
【0066】
(実施例2)
図5に示す針状金属粉末の製造装置を用いた以外は、前記実施例1と同様にして針状の金属粉末を得た。
(実施例3)
図6に示す針状金属粉末の製造装置を用いた以外は、前記実施例1と同様にして針状の金属粉末を得た。
【0067】
(比較例1)
原料を以下のものに変更した以外は、前記実施例1と同様にして金属粉末を得た。なお、以下の組成の金属材料は、急冷固化させてもアモルファス金属にはならないものである。
<原料の組成>
・Si:3質量%
・Fe:残部
(比較例2)
溶融金属を、図1に示す針状金属粉末の製造装置の筒状体の内壁面の、溝以外の部分に滴下するようにした以外は、前記実施例1と同様にして金属粉末を得た。
【0068】
2.評価
2.1 外観
前記各実施例および前記各比較例で得られた金属粉末について、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図7には、代表として、実施例1で得られた金属粉末の観察像を示す。各実施例で得られた金属粉末は、いずれも、図7に示すような非常に細長い針状をなしていた。
観察像から金属粉末の平均外径および平均長さを見積もったところ、平均外径は10μm、平均長さは1mmであった。また、平均のアスペクト比は50であった。
一方、各比較例で得られた金属粉末は、球形に近く、針状にはなっていなかった。
【0069】
2.2 結晶構造
前記各実施例で得られた金属粉末について、X線回折法による結晶構造解析を行った。その結果、いずれの金属粉末においても、X線回折スペクトルには先鋭なピークが認められなかった。このことから、各金属粉末は、いずれもアモルファス金属で構成されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の針状金属粉末の製造装置の第1実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【図2】図1に示す針状金属粉末の製造装置の部分拡大図である。
【図3】図1に示す針状金属粉末の製造装置において金属粉末が製造される過程を説明するための模式図である。
【図4】第1実施形態にかかる針状金属粉末の製造装置が備える溝の他の構成例である。
【図5】本発明の針状金属粉末の製造装置の第2実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【図6】本発明の針状金属粉末の製造装置の第3実施形態を示す模式図(縦断面図)である。
【図7】実施例1で得られた金属粉末の走査型電子顕微鏡による観察像である。
【符号の説明】
【0071】
1……金属粉末製造装置 2……筒状体 20……内壁面 21……蓋体 210……開口部 22……漏斗部 23……配管 231……吐出口 232……ポンプ 24……縮径部 241……水層 242……壁面 26……網状体 271、272……溝 28……凸条 3……溶融金属供給部 31……貫通孔 32……溶融金属 33……コイル 4……カバー 41……排出口 5……タンク 6……ノズル 61……流体ジェット 62……交差点 63……液滴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより生じた冷却液流を保持する筒状体と、
急冷固化によりアモルファス金属になり得る組成の溶融金属を、前記筒状体中の冷却液流に向けて落下または噴出させる溶融金属供給部とを有し、
前記筒状体には、前記内壁面が部分的に凹没してなる凹部が設けられており、
該凹部に向けて前記溶融金属を落下または噴出させることにより、前記冷却液流の水勢によって前記溶融金属を針状に変形させつつ、急冷固化させ、前記アモルファス金属の針状粉末を得るよう構成されていることを特徴とする針状金属粉末の製造装置。
【請求項2】
前記凹部は、溝である請求項1に記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項3】
前記溝は、その形成方向が、前記冷却液流の旋回方向と平行になるよう設けられている請求項2に記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項4】
前記溝は、前記溝の深さが深くなるにつれて幅が漸減する形状をなしている請求項2または3に記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項5】
前記溝の平均深さは、50μm〜3mmである請求項2ないし4のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項6】
前記溝は、複数本が平行に形成されており、
前記各溝の平均間隔は、100μm〜20mmである請求項1ないし5のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項7】
前記複数本の溝の間にできる凸条は、その横断面形状に湾曲凸部を有している請求項6に記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項8】
前記筒状体の前記内壁面近傍は、前記アモルファス金属よりも硬度の高い材料で構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項9】
当該針状金属粉末の製造装置は、前記溶融金属を落下または噴出させる前に、前記溶融金属に衝突することによって前記溶融金属を飛散させる流体ジェットを噴射するためのノズルを有している請求項1ないし8のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項10】
前記アモルファス金属は、Fe−Si−Cr系合金またはFe−Si−B系合金である請求項1ないし9のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項11】
前記溶融金属が前記冷却液流に向けて落下または噴出する際の前記溶融金属の飛行経路は、前記筒状体の軸線に対して傾斜するよう構成されている請求項1ないし10のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項12】
内壁面が部分的に凹没してなる凹部を有する筒状体を用い、該筒状体の前記内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより冷却液流を発生させるとともに、急冷固化によりアモルファス金属になり得る組成の溶融金属を、前記冷却液流に向けて落下または噴出させることにより、前記溶融金属を飛散させつつ、冷却・固化させる工程を有し、
前記筒状体の前記内壁面に設けられた前記凹部に向けて、前記溶融金属を落下または噴出させることにより、前記溶融金属を針状に変形させつつ、急冷固化させることを特徴とする針状金属粉末の製造方法。
【請求項13】
アモルファス金属を主材料とする針状の金属粉末であって、
請求項1ないし11のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置を用いて製造されたものであることを特徴とする針状金属粉末。
【請求項14】
当該針状金属粉末は、平均外径が2〜200μmであり、かつ平均長さ10μm〜10mmである請求項13に記載の針状金属粉末。
【請求項15】
当該針状金属粉末は、アスペクト比が5〜100である請求項13または14に記載の針状金属粉末。
【請求項1】
内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより生じた冷却液流を保持する筒状体と、
急冷固化によりアモルファス金属になり得る組成の溶融金属を、前記筒状体中の冷却液流に向けて落下または噴出させる溶融金属供給部とを有し、
前記筒状体には、前記内壁面が部分的に凹没してなる凹部が設けられており、
該凹部に向けて前記溶融金属を落下または噴出させることにより、前記冷却液流の水勢によって前記溶融金属を針状に変形させつつ、急冷固化させ、前記アモルファス金属の針状粉末を得るよう構成されていることを特徴とする針状金属粉末の製造装置。
【請求項2】
前記凹部は、溝である請求項1に記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項3】
前記溝は、その形成方向が、前記冷却液流の旋回方向と平行になるよう設けられている請求項2に記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項4】
前記溝は、前記溝の深さが深くなるにつれて幅が漸減する形状をなしている請求項2または3に記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項5】
前記溝の平均深さは、50μm〜3mmである請求項2ないし4のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項6】
前記溝は、複数本が平行に形成されており、
前記各溝の平均間隔は、100μm〜20mmである請求項1ないし5のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項7】
前記複数本の溝の間にできる凸条は、その横断面形状に湾曲凸部を有している請求項6に記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項8】
前記筒状体の前記内壁面近傍は、前記アモルファス金属よりも硬度の高い材料で構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項9】
当該針状金属粉末の製造装置は、前記溶融金属を落下または噴出させる前に、前記溶融金属に衝突することによって前記溶融金属を飛散させる流体ジェットを噴射するためのノズルを有している請求項1ないし8のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項10】
前記アモルファス金属は、Fe−Si−Cr系合金またはFe−Si−B系合金である請求項1ないし9のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項11】
前記溶融金属が前記冷却液流に向けて落下または噴出する際の前記溶融金属の飛行経路は、前記筒状体の軸線に対して傾斜するよう構成されている請求項1ないし10のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置。
【請求項12】
内壁面が部分的に凹没してなる凹部を有する筒状体を用い、該筒状体の前記内壁面に沿って冷却液を旋回させることにより冷却液流を発生させるとともに、急冷固化によりアモルファス金属になり得る組成の溶融金属を、前記冷却液流に向けて落下または噴出させることにより、前記溶融金属を飛散させつつ、冷却・固化させる工程を有し、
前記筒状体の前記内壁面に設けられた前記凹部に向けて、前記溶融金属を落下または噴出させることにより、前記溶融金属を針状に変形させつつ、急冷固化させることを特徴とする針状金属粉末の製造方法。
【請求項13】
アモルファス金属を主材料とする針状の金属粉末であって、
請求項1ないし11のいずれかに記載の針状金属粉末の製造装置を用いて製造されたものであることを特徴とする針状金属粉末。
【請求項14】
当該針状金属粉末は、平均外径が2〜200μmであり、かつ平均長さ10μm〜10mmである請求項13に記載の針状金属粉末。
【請求項15】
当該針状金属粉末は、アスペクト比が5〜100である請求項13または14に記載の針状金属粉末。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−275269(P2009−275269A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129293(P2008−129293)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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