説明

鉄筋腐食検査方法,鉄筋腐食検査装置

【課題】鉄筋コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度を渦電流法によって検査するにあたり,部材の個体差や検査装置の機器配置のばらつきの影響が小さく,安定性の高い検査結果を得ることができること。
【解決手段】鉄筋コンクリート部材10の周囲に巻かれた第1コイル3と,所定の基準部材20に巻かれた第2コイル4とにより構成される差動コイルに複数の周波数の交流電流を供給し,その第1コイル3に供給される交流電流の周波数の差異に対する前記第1コイルのインピーダンスの差異の大きさを,鉄筋12の腐食の程度の指標値として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度を渦電流法によって検査する鉄筋腐食検査方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,電信柱や高架式道路の支柱等は,鉄筋が内包されたコンクリート部材(以下,鉄筋コンクリート部材という)である。このような鉄筋コンクリート部材は,経年変化や使用環境によって内部の鉄筋が腐食し,強度が低下する場合がある。重量物の支持部材として用いられる鉄筋コンクリート部材において,鉄筋の腐食の程度を非破壊で検査することは,適切な時期に取り替えや補強を行い,重大事故を防止する上で重要である。
従来,鉄筋コンクリート部材の非破壊検査に有効な手法として,渦電流法による検査が知られている。渦電流法による鉄筋コンクリート部材の検査は,特許文献1に示されるように,鉄筋コンクリート部材の周囲に巻かれたコイルに交流電流を供給し,そのコイルのインピーダンスを鉄筋の腐食の程度を表す指標値として検出する検査方法である。導電体である鉄筋の周りに巻かれたコイルに交流電流が流れると,その鉄筋に渦電流が発生する。この渦電流はジュール損を発生させ,そのジュール損がコイルのインピーダンスの抵抗成分となるため,ジュール損が大きいほどコイルのインピーダンスが小さくなる。そして,腐食の進んだ鉄筋は,腐食のない鉄筋よりも電気導電率が小さいため,鉄筋の腐食が進むほど,ジュール損が大きくなり,前記コイルのインピーダンスが小さくなる。従って,鉄筋の腐食の程度が既知の鉄筋コンクリート部材の検査により予め得られたコイルのインピーダンスを基準値とし,その基準値と,検査対象の鉄筋コンクリート部材について得られるコイルのインピーダンスとを比較することにより,コイルが巻かれた箇所の鉄筋の腐食の程度を判別することができる。
【特許文献1】特開平9−21786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,渦電流法による鉄筋コンクリート部材の検査において,コイルのインピーダンスは,鉄筋の腐食の程度に加え,外形,コンクリートの材質,鉄筋の配置位置等の鉄筋コンクリート部材の個体差や,コイルと鉄筋コンクリート部材との相対的な位置関係の違いによっても変化する。そのため,渦電流法により検出されるコイルのインピーダンスの絶対値に基づき腐食の程度を評価する従来の検査方法は,部材の個体差や部材に対するコイルの位置のばらつきに起因する不安定性を有するという問題点があっった。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度を渦電流法によって検査するにあたり,部材の個体差や検査装置の機器配置のばらつきの影響が小さく,安定性の高い検査結果を得ることができる鉄筋腐食検査方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明に係る鉄筋腐食検査方法は,鉄筋コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度を渦電流法によって検査する方法であり,次の(1)及び(2)に示される各工程を実行する方法である。
(1)前記鉄筋コンクリート部材の周囲に巻かれたコイルに複数の周波数の交流電流を供給する交流電流供給工程。
(2)前記コイルに供給される前記交流電流の周波数の差異に対する前記コイルのインピーダンスの差異の大きさを検出するインピーダンス差異検出工程。
そして,本発明に係る鉄筋腐食検査方法においては,前記インピーダンス差異検出工程の検出結果を前記鉄筋の腐食の程度の指標値とする。
【0005】
前述したように,導電体である鉄筋の周りに巻かれたコイルに交流電流が流れると,渦電流によるジュール損が生じ,そのジュール損が大きいほどコイルのインピーダンスが小さくなる。ここで,鉄筋の腐食は主としてその鉄筋の表層で発生する。
一方,ジュール損は,コイルの交流電流の周波数,即ち,鉄筋に生じる渦電流の周波数が高いほど大きくなり,また,渦電流の周波数が高いほど,鉄筋(鋼材)の中心軸に近い部分よりも表層部で生じるジュール損がより支配的となる。
図4は,渦電流法における供給電流の周波数とジュール損との関係を表すグラフである。図4において,黒丸で記されたグラフは鉄筋の腐食(錆)がないときのジュール損を表し,白丸で記されたグラフは鉄筋の表層1mmの範囲が腐食部(マグネタイト)であるであるときのジュール損を表す。両グラフにおいて,鉄筋表層の腐食の有無以外の条件は同じである。
図4に示されるように,鉄筋の腐食の程度が大きいほど,コイルに流れる交流電流の周波数(渦電流の周波数)が低いときに対する同周波数が高いときのジュール損の差異が大きくなり,これに伴いコイルのインピーダンスの差異も大きくなる。また,その傾向は,供給電流の周波数が100kHz以上であるときに特に顕著である。
また,コイルのインピーダンスは,渦電流の周波数に関わらず,前記鉄筋コンクリート部材の個体差や検査装置の機器配置のばらつきの影響を同様に受ける。
従って,渦電流の周波数の違いにより生じるコイルのインピーダンスの差異は,前記鉄筋コンクリート部材の個体差や検査装置の機器配置のばらつきの影響が小さく,安定性の高い検査結果(腐食の程度の指標値)となる。
【0006】
より具体的には,前記交流電流供給工程が,前記コイルに対して供給する前記交流電流の周波数を変化させる工程であることが考えられる。この場合,前記インピーダンス差異検出工程は,周波数の異なる前記交流電流が前記コイルに供給されるごとにそのコイルのインピーダンスを検出回路により検出し,それらの差異の大きさを演算手段により算出する工程である。
これにより,発振周波数が可変の発振器やコイルのインピーダンスを検出する回路等が採用されたシンプルな検査装置によって検査を行うことができる。
その他,前記交流電流供給工程が,複数の周波数成分の電流が重畳された前記交流電流を前記コイルに供給する工程であることも考えられる。この場合,前記インピーダンス差異検出工程は,前記交流電流が供給される前記コイルのインピーダンスを検出回路により検出し,その検出信号を解析装置により周波数解析することによって前記交流電流の周波数成分の差異に対応する前記コイルのインピーダンスの差異の大きさを検出する工程である。
これにより,検査箇所1箇所につき前記コイルのインピーダンスの検出を1回行うだけで済むため,検査時間を短縮できる。
また,前記交流電流供給工程が,パルス電流を前記コイルに供給する工程であることも考えられる。前記パルス電流は,多数の周波数成分の電流が重畳された交流電流とみなせることが知られている。この場合,前記インピーダンス差異検出工程は,前記交流電流が供給される前記コイルのインピーダンスを検出回路により検出し,その検出信号を解析装置により周波数解析することによって前記交流電流の周波数成分の差異に対応する前記コイルのインピーダンスの差異の大きさを検出する工程である。なお,前記パルス電流が供給されたときに得られる前記コイルのインピーダンスの検出信号は,高調波成分を含む歪み波形の信号となり,これは,周波数解析が可能な信号である。
この場合も,検査箇所1箇所につき前記コイルのインピーダンスの検出を1回行うだけで済むため,検査時間を短縮できる。
【0007】
また,本発明は,鉄筋コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度の指標値を渦電流法によって検出する鉄筋腐食検査装置として捉えることもできる。
本発明に係る鉄筋腐食検査装置は,次の(A1)〜(A3)に示される各構成要素を備えた装置である。
(A1)前記鉄筋コンクリート部材の周囲に巻かれるコイル(以下,第1コイルという)。
(A2)前記第1コイルに複数の周波数の交流電流を供給する交流電流供給手段。
(A3)前記第1コイルに前記交流電流が供給されたときのその交流電流の周波数の差異に対する前記第1コイルのインピーダンスの差異の大きさを,前記鉄筋の腐食の程度の指標値として検出するインピーダンス差異検出手段。
前記インピーダンス差異検出手段により検出される前記第1コイルのインピーダンスの差異は,前記鉄筋コンクリート部材の個体差や検査装置の機器配置のばらつきの影響が小さく,安定性の高い検査結果(腐食の程度の指標値)となる。
また,本発明に係る鉄筋腐食検査装置が,さらに,次の(A4)に示される構成要素を備えることが考えられる。
(A4)検査対象となる前記鉄筋コンクリート部材以外の基準部材に巻かれ,前記第1コイルと対をなして差動コイルを構成する第2コイル。
この場合,前記インピーダンス差異検出手段は,前記交流電流供給手段により前記差動コイルに前記交流電流が供給されたときの前記第1コイル及び前記第2コイルそれぞれに生じる電圧の差に基づいて前記交流電流の周波数の差異に対する前記第1コイルのインピーダンスの差異の大きさを検出する。
これにより,前記インピーダンス差異検出手段の検出信号から,雰囲気温度の変動に起因するノイズ成分やオフセット成分が除去され,より精度の高い検出信号が得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,鉄筋コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度を渦電流法によって検査するにあたり,部材の個体差や検査装置の機器配置のばらつきの影響が小さく,安定性の高い検査結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の第1実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X1の概略構成を表すブロック図,図2は本発明の第2実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X2の概略構成を表すブロック図,図3は本発明の第3実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X3の概略構成を表すブロック図,図4は渦電流法における供給電流の周波数とジュール損との関係を表すグラフである。
【0010】
まず,図1を参照しつつ,本発明の第1実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X1について説明する。
鉄筋腐食検査装置X1は,鉄筋コンクリート部材10に内包された鉄筋12の腐食の程度の指標値を渦電流法によって検出する装置である。前記鉄筋コンクリート部材10は,柱状(円柱状或いは角柱状等)のコンクリート部材11の内部に1本又は複数本の鉄筋12が埋め込まれたものであり,例えば,電信柱や高架式道路の支柱等である。
図1に示されるように,鉄筋腐食検査装置X1は,発振器1,定電流源2,第1コイル3及び第2コイル4と,差動増幅器5,位相検波器6及び計算機7を備えている。
前記発振器1は,交流信号(正弦波)を出力するものであり,前記計算機7からの指令に従ってその交流信号の周波数が可変のデバイスである。
前記定電流源2は,前記発振器1から供給される交流信号に同期した交流電流(正弦波電流)を出力する電源回路である。前記定電流源2は,同じ交流電流を出力する2つの出力端を備えている。
【0011】
前記第1コイル3及び前記第2コイル4は,それらが一対となって差動コイルを構成している。即ち,前記第1コイル3及び前記第2コイル4は同一のコイルであり,一端が前記定電流源2の2つの出力端各々に接続され,多端が接地されている。そして,前記第1コイル3は,検査対象である鉄筋コンクリート部材10に巻かれ。前記第2コイル4は,その鉄筋コンクリート10以外の所定の基準部材20の周囲に巻かれる。前記基準部材20は,例えば,検査対象である鉄筋コンクリート部材10と寸法や材質が同じで鉄筋の腐食のない鉄筋コンクリート部材等である。
前記計算機7は,前記発振器1に対して発振周波数を指定する制御信号の出力インターフェース(不図示)を備え,発振周波数の指定値を予め設定された内容で順次変化させる。即ち,前記計算機7,前記発振器1及び前記定電流源2は,前記差動コイル(前記第1コイル3及び前記第2コイル4)に対して供給する交流電流の周波数を順次変化させることにより,前記差動コイルに複数の周波数の交流電流を供給する交流電流供給工程を実行する。
【0012】
前記差動増幅器5は,前記第1コイル3及び前記第2コイル4それぞれに生じる電圧の差(電位差)を検出し,その検出信号を増幅するデバイスである。具体的には,前記差動増幅器5は,前記定電流源2により前記差動コイル(前記第1コイル3及び前記第2コイル4)に対して周波数の異なる交流電流が供給されるごとに前記電位差の検出を行う。
前記位相検波器6は,前記発振器1の出力信号を基準信号として,前記差動増幅器5の出力信号の振幅(電圧の振幅)及び位相を検出するデバイスである。具体的には,前記位相検波器6は,前記定電流源2により前記差動コイル(前記第1コイル3及び前記第2コイル4)に対して周波数の異なる交流電流が供給されるごとに前記差動増幅器5の出力信号の振幅及び位相を検出する。検出された振幅及び位相の情報は,前記計算機7に取り込まれる。
前記差動コイルへの交流電流の供給により,その交流信号の変化(周波数)に同期して,前記第1コイル3及び前記第2コイル4それぞれに生じる電圧が変化する。ここで,前記定電流源2から出力される交流電流の振幅を一定とすると,前記第1コイル3及び前記第2コイル4それぞれに生じる電圧の振幅も一定となる。従って,前記差動増幅器5の出力信号の振幅及び位相は,前記第1コイル3のインピーダンスと前記第1コイル4のインピーダンスとの差を表す。ここで,前記基準部材20は,全ての検査対象に対して共通,或いは検査対象の種類ごとに共通な部材であるため,前記差動増幅器5の出力信号は,前記第1コイル4のインピーダンスを基準に正規化された前記第1コイル3のインピーダンスを表す。
従って,前記差動増幅器5及び前記位相検波器6は,周波数の異なる交流電流が前記第1コイル3及び前記第2コイル4に供給されるごとに,前記第1コイル3のインピーダンスを検出する回路の一例である。また,そのインピーダンスは,前記差動コイル3,4に交流電流が供給されたときの前記第1コイル3及び前記第2コイル4それぞれに生じる電圧の差(前記差動増幅器5の出力信号)に基づき検出される。
【0013】
そして,前記計算機7は,前記発振器1及び前記定電流源2を通じて周波数の異なる交流電流を前記差動コイル3,4に供給するごとに,前記位相検波器6の検出結果を入力し,その検出結果をインピーダンス検出値に換算する。さらに,前記計算機7(演算手段の一例)は,周波数の異なる交流電流が両コイル3,4に供給されるごとに得られる前記インピーダンス検出値(前記第1コイル3のインピーダンスの検出値に相当)の差異の大きさΔYを,前記鉄筋12の腐食の程度の指標値として算出する。以下,前記計算機7により算出されるΔYを鉄筋腐食指標値と称する。
前記鉄筋腐食指標値ΔYとしては,以下のようなものが考えられる。
例えば,2種類の周波数の交流電流の供給時に得られた2つの前記インピーダンス検出値の比を前記鉄筋腐食指標値ΔYとすることが考えられる。
また,3種類以上の周波数の交流電流の供給により得られた3つ以上の前記インピーダンス検出値に基づいて線形のフィッティング処理を行い,これにより得られる一次式の傾きを前記鉄筋腐食指標値ΔYとすることも考えられる。
その他,3種類以上の周波数の交流電流の供給により得られた3つ以上の前記インピーダンス検出値に基づいて非線形のフィッティング処理を行い,これにより得られる曲線式における接線の傾きの平均値或いは代表値を前記鉄筋腐食指標値ΔYとすることも考えられる。非線形のフィッティング処理は,例えば,N次式(N≧2)や指数関数へのフィッティング処理等が考えられる。
なお,前記インピーダンス検出値に相当する前記位相検出値から前記鉄筋腐食指標値ΔYを導出してもよい。
【0014】
また,前記計算機7の記憶部(ハードディスクドライブ等)には,当該鉄筋腐食検査装置X1により,鉄筋の腐食の程度が許容される最大限の状態である鉄筋コンクリート部材のサンプルを事前に測定して得られた前記鉄筋腐食指標値ΔY又はそれに相当する値が,許容限度検出値ΔYsとして記憶されている。
そして,前記計算機7は,検査対象の前記鉄筋コンクリート部材10について得られた前記鉄筋腐食指標値ΔYと前記許容限度検出値ΔYsとの比較により,検査対象の前記鉄筋コンクリート部材10における前記鉄筋12の腐食の程度が許容範囲内であるか否かを判別し,その判別結果をディスプレイへの表示やランプの点灯,アラーム音の出力等によって通知する。
また,前記計算機7の記憶部に,検査対象である前記鉄筋コンクリート部材10につい過去の検査により得られた過去の鉄筋腐食指標値ΔYo及びその検査日が記憶されていることも考えられる。この場合,前記計算機7が,前記鉄筋腐食指標値ΔYが前記許容限度検出値ΔYsを超える時期,即ち,前記鉄筋12の腐食の程度が許容範囲を超える時期を推定する処理を行うことが可能である。前記時期の推定は,前記過去の鉄筋腐食指標値ΔYoと,今回の検査により得られた前記鉄筋腐食指標値ΔYと,両検査日の間隔とに基づく外挿演算により行われる。
【0015】
鉄筋腐食検査装置X1を用いた検査では,図4に示されるように,前記鉄筋12の腐食の程度が大きいほど,前記第1コイル3に流れる交流電流の周波数(渦電流の周波数)が低いときに対する同周波数が高いときのジュール損の差異が大きくなり,これに伴い前記第1コイル3のインピーダンスの差異も大きくなる。
また,前記第1コイル3のインピーダンスは,渦電流の周波数に関わらず,前記コンクリート部材11の材質,前記鉄筋12の配置位置等の個体差や,部材に対する前記第1コイル3の位置のばらつきの影響を同様に受ける。
従って,渦電流の周波数の違いにより生じる前記第1コイル3のインピーダンスの差異(前記鉄筋腐食指標値ΔY)は,前記コンクリート部材11の個体差や検査時の機器配置のばらつきの影響が小さく,安定性の高い検査結果(腐食の程度の指標値)となる。
また,前記差動コイルが用いられることにより,前記差動増幅器5の出力信号から,雰囲気温度の変動に起因するノイズ成分やオフセット成分が除去され,より精度の高い前記鉄筋12の腐食の指標値が得られる。
【0016】
次に,図2を参照しつつ,本発明の第2実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X2について説明する。なお,図2において,図1に示される構成要素と同じ構成要素については同じ符号が付されている。
鉄筋腐食検査装置X2による検査の対象及び原理は,前記鉄筋腐食検査装置X1と同様であるが,鉄筋腐食検査装置X2は,前記第2コイル4が省略され,平衡ブリッジ回路により前記第1コイル3に交流電流が供給される。また,交流電流の周波数の変更は手動により行われる。
【0017】
図2に示されるように,鉄筋腐食検査装置X2は,前記鉄筋腐食検査装置X1が備えるものと同様の前記発振器1,前記定電流源2及び前記第1コイル3を備えている。但し,前記発振器1の出力信号の周波数は手動により変更される。
さらに,鉄筋腐食検査装置X2は,第1抵抗素子5a,第2抵抗素子5b,電流計6a及びブリッジ回路4xを備えている。前記ブリッジ回路4xは,可変抵抗器4aと可変容量コンデンサ4bとが並列接続された回路である。
前記定電流源2から出力される交流電流(正弦波電流)は,前記第1抵抗素子5aを通じて前記第1コイル3に供給されるとともに,前記第2抵抗素子5b及びこれに直列接続された前記ブリッジ回路4xにも供給される。
前記第1抵抗素子5aから前記第1コイル3への電流経路と,前記第2抵抗素子5bから前記ブリッジ回路4xへの電流経路との間に接続された前記電流計6aは,ブリッジ回路の平衡点を検出するためのものである。
前記定電流源2から所定の周波数の交流電流が供給されているときに,前記電流計6aの指示値が安定する平衡点となるように,前記ブリッジ回路4xにおける前記可変抵抗器4aの抵抗値及び前記可変容量コンデンサ4bの容量が手動調節される。
【0018】
前記平衡点における前記第1コイル3のインピーダンスZにおける抵抗R及びインダクタンスLは,前記第1抵抗素子5a,前記第2抵抗素子5b及び前記可変抵抗器4aそれぞれの既知の抵抗値R1,R2,R3,及び前記可変容量コンデンサ4bの容量C1に基づく次式により求まる。
R=R1・R2/R3 , L=C1・R1・R2
従って,鉄筋腐食検査装置X2を用いた検査では,前記発振器1に対する設定周波数を変更するごと(即ち,交流電流の周波数を変更するごと)に,前記平衡点となるように前記ブリッジ回路4xを調節し,その調節結果である前記可変抵抗器4aの抵抗値R3に基づいて,不図示の計算機を用いて前記第1コイル3のインピーダンスZを算出し,その算出結果を記録する。
さらに,前記計算機により,前記交流電流の周波数の変化に応じて得られる前記第1コイル3のインピーダンスZに基づいて前記鉄筋腐食指標値ΔYを算出し,その算出結果と前記許容限度検出値ΔYsとの比較により,検査対象の前記鉄筋コンクリート部材10における前記鉄筋12の腐食の程度が許容範囲内であるか否かを判別する。
【0019】
鉄筋腐食検査装置X2により,直径が10mmの鉄筋のサンプルについて,その表層0.1mmの範囲に錆が生じている箇所(腐食箇所)と,錆の生じていない箇所(非腐食箇所)とのそれぞれの検査(測定)を行ってみた。
実際の測定対象となる電信柱では,例えば直径10mmの鉄筋の表層1mm程度の範囲に錆が存在するか否かを検出できれば十分である。これに対し,直径10mmの鉄筋の表層0.1mmにおける錆の有無を検査対象とする前記サンプルは,前記第1コイル3のインピーダンスZの絶対値に基づく従来の検査では,錆の有無を判別できないサンプルである。
その際に用いた前記第1コイル3は,100ターンの円筒状であり,その円筒の中心軸の方向の長さが10mmのコイルである。また,前記交流電流の周波数は,1MHzと4MHzとに変化させた。
また,前記鉄筋腐食指標値ΔYとして,前記交流電流の周波数が1MHzであるときの前記第1コイル3のインピーダンスZ1における抵抗R1に対する同周波数が4MHzであるときの前記第1コイル3のインピーダンスZ2における抵抗R2の比(R2/R1)を算出した。
その結果,複数の前記腐食箇所それぞれについて得られた前記鉄筋腐食指標値ΔY(=R2/R1)はいずれも21程度の値となったのに対し,複数の前記非腐食箇所それぞれについて得られた前記鉄筋腐食指標値ΔY(=R2/R1)はいずれも19程度となり,錆の有無を十分に識別できる検査結果が得られた。
【0020】
次に,図3を参照しつつ,本発明の第3実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X3について説明する。なお,図3において,図1に示される構成要素と同じ構成要素については同じ符号が付されている。
鉄筋腐食検査装置X3による検査の対象及び基本原理も,前記鉄筋腐食検査装置X1と同様である。鉄筋腐食検査装置X3は,前記鉄筋腐食検査装置X1に対し,前記第1コイル3及び前記第2コイル4への周波数の異なる交流電流の供給方法と,その周波数の差異に応じた前記第1コイル3のインピーダンスの差異の検出方法とが異なる。
【0021】
図3に示されるように,鉄筋腐食検査装置X3は,前記鉄筋腐食検査装置X1と同様に,前記定電流源2,前記第1コイル3,前記第2コイル4,前記差動増幅器5及び前記計算機7を備えている。
さらに,鉄筋腐食検査装置X3は,それぞれ周波数の異なる交流信号(正弦波信号)を出力する複数の発振器1a,1bと,それらの出力信号を重畳させる合波器1cとを備えている。そして,その合波器1cによって周波数の異なる複数の交流信号が重畳された信号が前記定電流源2に供給される。また,前記計算機7により,各発振器1a,1bからの交流信号の出力タイミングが制御される。
これにより,複数の前記発振器1a,1b,前記合波器1c及び前記定電流源2は,複数の周波数成分の電流が重畳された交流電流を前記第1コイル3及び前記第2コイル4に供給する工程を担う回路となっている。
なお,図3に示される例は,2つの前記発振器1a,1bを用いて2種類の周波数成分が重畳された交流電流を生成する例であるが3つ以上の前記発振器を用いて3種類以上の周波数成分が重畳された交流電流を生成することも考えられる。
【0022】
また,鉄筋腐食検査装置X3は,前記位相検波器6の代わりに,前記差動増幅器5の出力信号が入力される信号解析装置8を備えている。
前記信号解析装置8は,前記差動増幅器5の出力信号に対する周波数解析処理を実行することにより,前記差動増幅器5の出力信号から,前記交流電流における複数の周波数成分の信号,即ち,複数の前記発振器1a,1bの発振周波数の成分の信号を抽出する。周波数解析処理では,入力信号のフーリエ変換処理が行われ,これにより得られる周波数領域の信号から,複数の前記発振器1a,1bの発振周波数それぞれの成分の信号を個別に抽出し,抽出された個別の信号に逆フーリエ変換処理を施すことにより,各周波数成分の信号が時間領域の信号に戻される。
さらに,前記信号解析装置8は,周波数解析処理により抽出された複数の周波数成分の信号の位相の差異を検出し,その検出結果を前記計算機7に出力する。なお,前記信号解析装置8が,各周波数成分の初期位相の検出のために,各発振器1a,1bの信号を基準信号として用いることが考えられる。
そして,前記計算機7は,前記信号解析装置8から得られた複数の周波数成分の信号の位相の差異に基づいて,前記鉄筋腐食検査装置X1の場合と同様に,前記鉄筋腐食指標値ΔY,即ち,前記交流電流の周波数の差異に対応する前記第1コイル3のインピーダンスの差異の大きさを算出する。
鉄筋腐食検査装置X3によれば,検査箇所1箇所につき前記第1コイル3のインピーダンスの検出を1回行うだけで済むため,検査時間を短縮できる。但し,発振器の数が増える点,及び,信号処理能力が高く高価な信号解析装置が採用される点で,前記鉄筋腐食検査装置X1に比べ,装置構成がやや複雑となりコスト高となる。
【0023】
また,前記鉄筋腐食検査装置X3において,前記発振器1a,1b,前記合波器1c及び前記定電流源2の代わりに,前記第1コイル3及び前記第2コイル4に対してパルス電流を供給するパルス電流回路が設けられた検査装置も考えられる。前記パルス電流回路は,例えば,0.1μsec程度のパルス幅のパルス電流(パルス電流)を発生させる。このようなパルス電流は,多数の周波数成分の電流が重畳された交流電流とみなせることが知られている。
そして,前記パルス電流が供給されたときに得られる前記差動増幅器5の出力信号(前記第1コイル3のインピーダンスの検出信号)は,高調波成分を含む歪み波形の信号となり,これは,周波数解析が可能な信号である。
従って,前述したように,前記信号解析装置8により,前記差動増幅器5の出力信号に対する周波数解析処理を実行し,前記差動増幅器5の出力信号から,前記交流電流における複数の周波数成分の信号を抽出することができる。
この場合も,検査箇所1箇所につき前記コイルのインピーダンスの検出を1回行うだけで済むため,検査時間を短縮できる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は,コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度を渦電流法によって検査する鉄筋腐食検査方法及びその装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X1の概略構成を表すブロック図。
【図2】本発明の第2実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X2の概略構成を表すブロック図。
【図3】本発明の第3実施形態に係る鉄筋腐食検査装置X3の概略構成を表すブロック図。
【図4】渦電流法における供給電流の周波数とジュール損との関係を表すグラフ。
【符号の説明】
【0026】
X1,X2,X3:鉄筋腐食検査装置
1,1a,1b:発振器
1c:合波器
2 :定電流源
3 :第1コイル
4 :第2コイル
4x:ブリッジ回路
4a:可変抵抗器
4b:可変容量コンデンサ
5 :差動増幅器
5a:第1抵抗素子
5b:第2抵抗素子
6 :位相検波器
6a:電流計
7 :計算機
8 :信号解析装置
10:鉄筋コンクリート部材
11:コンクリート部材
12:鉄筋
20:基準部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度を渦電流法によって検査する鉄筋腐食検査方法であって,
前記鉄筋コンクリート部材の周囲に巻かれたコイルに複数の周波数の交流電流を供給する交流電流供給工程と,
前記コイルに供給される前記交流電流の周波数の差異に対する前記コイルのインピーダンスの差異の大きさを検出するインピーダンス差異検出工程と,
を有し,前記インピーダンス差異検出工程の検出結果を前記鉄筋の腐食の程度の指標値とする鉄筋腐食検査方法。
【請求項2】
前記交流電流供給工程が,前記コイルに対して供給する前記交流電流の周波数を変化させる工程であり,
前記インピーダンス差異検出工程が,周波数の異なる前記交流電流が前記コイルに供給されるごとに該コイルのインピーダンスを検出回路により検出し,それらの差異の大きさを演算手段により算出する工程である請求項1に記載の鉄筋腐食検査方法。
【請求項3】
前記交流電流供給工程が,複数の周波数成分の電流が重畳された前記交流電流を前記コイルに供給する工程であり,
前記インピーダンス差異検出工程が,前記交流電流が供給される前記コイルのインピーダンスを検出回路により検出し,その検出信号を解析装置により周波数解析することによって前記交流電流の周波数成分の差異に対応する前記コイルのインピーダンスの差異の大きさを検出する工程である請求項1に記載の鉄筋腐食検査方法。
【請求項4】
前記交流電流供給工程が,パルス電流を前記コイルに供給する工程であり,
前記インピーダンス差異検出工程が,前記交流電流が供給される前記コイルのインピーダンスを検出回路により検出し,その検出信号を解析装置により周波数解析することによって前記交流電流の周波数成分の差異に対応する前記コイルのインピーダンスの差異の大きさを検出する工程である請求項1に記載の鉄筋腐食検査方法。
【請求項5】
鉄筋コンクリート部材に内包された鉄筋の腐食の程度の指標値を渦電流法によって検出する鉄筋腐食検査装置であって,
検査対象となる前記鉄筋コンクリート部材の周囲に巻かれる第1コイルと,
前記第1コイルに複数の周波数の交流電流を供給する交流電流供給手段と,
前記第1コイルに前記交流電流が供給されたときの該交流電流の周波数の差異に対する前記第1コイルのインピーダンスの差異の大きさを,前記鉄筋の腐食の程度の指標値として検出するインピーダンス差異検出手段と,
を具備してなることを特徴とする鉄筋腐食検査装置。
【請求項6】
検査対象となる前記鉄筋コンクリート部材以外の基準部材に巻かれ,前記第1コイルと対をなして差動コイルを構成する第2コイルを具備し,
前記インピーダンス差異検出手段が,前記交流電流供給手段により前記差動コイルに前記交流電流が供給されたときの前記第1コイル及び前記第2コイルそれぞれに生じる電圧の差に基づいて前記交流電流の周波数の差異に対する前記第1コイルのインピーダンスの差異の大きさを検出してなる請求項5に記載の鉄筋腐食検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−48723(P2010−48723A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214619(P2008−214619)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】