説明

鉄粒子の有機コロイド分散体を含む内燃機関用エンジン燃料添加剤、その調製方法及びそれを含む内燃機関用エンジン燃料

【課題】内燃機関用エンジン燃料燃焼の際の問題を解決できる添加剤を提供すること。
【解決手段】本発明の内燃機関用エンジン燃料添加剤に用いられるコロイド分散体は、有機相;非晶質形態にある鉄化合物の粒子;及び少なくとも1種の両親媒性物質を含むことを特徴とする。この分散体は、鉄錯化剤の存在下の鉄塩と塩基とを又は鉄錯体と塩基とを、反応媒体のpHをせいぜい8の値に保ちながら反応させて沈殿を得て(前記鉄錯化剤は、pKが少なくとも3となるような錯化定数Kを有する水溶性カルボン酸から選択され、前記鉄錯体は鉄塩と前記酸との反応生成物から選択される);次いで得られた沈殿又は該沈殿を含有する懸濁液を両親媒性物質の存在下で有機相と接触させて有機相中の分散体を得る方法によって調製される。この分散体は、液体燃料又はエンジン燃料中の燃焼添加剤として優れた有用性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄粒子の有機コロイド分散体を含む内燃機関用エンジン燃料添加剤、その調製方法及びそれを含む内燃機関用エンジン燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン中のガス油の燃焼の際に、炭素質物質が煤煙(soot)を形成する傾向があることが知られており、これは環境及び健康の両方に対して有害であることが知られている。かかる炭素質粒子(以下、「煤煙」と呼ぶ)の放出を減少させるための技術は、長い間研究されてきている。
【0003】
1つの満足できる解決策は、煤煙中に触媒を導入してフィルターに採集される煤煙を頻繁に自己発火させることから成る。この目的で、煤煙は、エンジンの通常の動作の間に頻繁に達成される有意に低い自己発火温度を有していなければならない。
【0004】
希土類又は鉄組成物の分散体を添加剤として用いることによって煤煙の自己発火温度を低下させることができるということが知られている。
【0005】
かかるコロイド分散体は、それらが導入される媒体中における良好な分散性、高い経時安定性、及び比較的低濃度においても充分な触媒活性を有しているべきである。
【0006】
既知のコロイド分散体は、これらの基準の全てを常に満足するわけではない。それらは例えば、良好な分散性は有するが充分な安定性を持たなかったり、良好な安定性は有するが経済上有益であるのには高すぎる濃度を必要とする触媒活性を有していたりという場合がある。
【0007】
さらに、それらは調製方法が複雑である場合もある。例として、かかる分散体は有機相中の粒子の分散体であり、一般的には水性相中の出発分散体を最終有機相中に移すことによって得られる。かかる移動は、実施することが困難なことがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、改善された特性を有し、調製を実施するのが容易である内燃機関用エンジン燃料添加剤としてのコロイド分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的で、第1の局面において、本発明は、
・有機相;
・非晶質形態にある鉄化合物の粒子;
・少なくとも1種の両親媒性物質:
を含むことを特徴とするコロイド分散体を含む、内燃機関用エンジン燃料添加剤に関する。
【0010】
本発明の第2の局面に従えば、本発明はまた、
・有機相;
・非晶質形態にある鉄化合物の粒子;
・希土類化合物の粒子;
・少なくとも1種の両親媒性物質:
を含むことを特徴とするコロイド分散体を含む、内燃機関用エンジン燃料添加剤にも関する。
【0011】
本発明はまた、前記の第1の局面に従う燃料添加剤の調製方法にも関し、この方法は、
・反応媒体のpHをせいぜい8の値に維持しながら、鉄錯化剤の存在下の鉄塩と塩基とを又は鉄錯体と塩基とを反応させて沈殿を得る工程(ここで、前記鉄錯化剤はpKが少なくとも3となるような錯化定数Kを有する水溶性(hydrosoluble)カルボン酸から選択され、前記鉄錯体は鉄塩と前記酸との反応生成物から選択される);
・得られた沈殿又は該沈殿を含有する懸濁液を両親媒性物質の存在下で有機相と接触させて有機相中の分散体を得る工程:
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内燃機関用エンジン燃料添加剤に用いられるコロイド分散体は、非常に安定であるという利点を有する。また、高い活性も有する。第1の局面の燃料添加剤に用いられるコロイド分散体を調製するための方法は、水性相の有機相への効率よい移動を可能にする。
【0013】
本発明のさらなる特徴、詳細及び利点は、本発明を例示するための以下の説明、実施例及び図面からより一層明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において用語「コロイド分散体」とは、液相中の懸濁液状になっているコロイド寸法の鉄化合物又は希土類化合物の微細固体粒子から構成される任意の系を意味し、前記粒子は残留量の結合し又は吸着したイオン、例えば酢酸イオン又はアンモニウムイオンのようなイオンを含有していてもよい。かかる分散体において、鉄又は希土類は、完全にコロイドの形にあってもよく、同時にイオンの形とコロイドの形とにあってもよいということに留意されたい。
【0015】
以下に、本発明の第1の局面の内燃機関用エンジン燃料添加剤を構成するコロイド分散体(以下、単に本発明の(コロイド)分散体とも言う)を説明する。
【0016】
本発明の分散体は、有機相中の分散体である。
【0017】
この有機相は、分散体の用途に応じて選択される。
【0018】
有機相は、非極性炭化水素をベースとするものであることができる。
【0019】
有機相の例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン又はノナンのような脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロペンタン又はシクロペンタンのような不活性環状脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン又は液状ナフテンのような芳香族炭化水素を挙げることができる。また、Isopar又はSolvesso(EXXON所有の登録商標)石油留分、特にSolvesso 100(これは本質的にメチルエチルベンゼンとトリメチルベンゼンとの混合物を含む)、Solvesso 150(これはアルキルベンゼンの混合物、特にジメチルベンゼンとテトラメチルベンゼンとの混合物を含む)及びIsopar(これは本質的にイソ−及びシクロパラフィン系C−11及びC−12炭化水素を含有する)も好適である。
【0020】
また、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン又はクロルトルエンのような塩素化炭化水素を有機相として用いることもできる。エーテル類並びに脂肪族及び環状脂肪族ケトン、例えばジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン又はメシチルオキシドも利用可能である。
【0021】
もちろん、有機相は、上記のタイプの2種以上の炭化水素の混合物をベースとすることもできる。
【0022】
本発明の分散体の粒子は、その組成が本質的に鉄の酸化物及び/又は水酸化物及び/又はオキシ水酸化物に相当する鉄化合物の粒子である。鉄は本質的に酸化状態3で存在するのが一般的である。該粒子はまた、錯化剤をも含有する。錯化剤は、分散体を調製するための方法において用いられるもの(それ自体又は鉄錯体の形にあるもの)に相当する。
【0023】
本発明の分散体の粒子は、非晶質である鉄化合物をベースとする。非晶質特徴は、X線分析によって示すことができ、得られるX線図は有意のピークを何ら示さない。
【0024】
本発明の1つの特徴に従えば、粒子の少なくとも85%、特に少なくとも90%、より一層特定的には少なくとも95%が一次粒子である。用語「一次粒子」とは、完全に離散しており、他の粒子と凝集していない粒子を意味する。この特徴は、TEM(高解像度透過電子顕微鏡)を用いて分散体を検査することによって示すことができる。
【0025】
また、基本粒子の凝集の度合いを決定するために、低温TEM技術を用いることもできる。これは中性媒体中で凍結させた試料の透過電子顕微鏡(TEM)検査を可能にする。前記中性媒体は、水或は有機希釈剤、例えば芳香族若しくは脂肪族溶剤、例えばSolvesso及びIsopar、又はエタノールのようなある種のアルコールである。
【0026】
凍結は、水性試料については液状エタン中で、その他のものについては液体窒素中で、厚さ約50nm〜100nmのフィルム上で行われる。
【0027】
低温TEMは、粒子の分散の度合いを保ち、実際の媒体中に存在するものを表わす。
【0028】
この分散体粒子の特徴は、その安定性に寄与する。
【0029】
さらに、本発明の分散体中の粒子は微細な粒子寸法を有する。それらは、1nm〜5nmの範囲、より特定的には3nm〜4nmの範囲のd50を有する。
【0030】
粒子寸法は、透過電子顕微鏡(TEM)により、銅グリッド上に担持させた炭素膜上で乾燥させた試料を用いて慣用の態様で測定される。
【0031】
この試料調製技術は、粒子寸法測定においてより一層良好な正確さを可能にするので好ましい。測定のために選択されるゾーンは、低温TEMにおいて観察されるものと同様の分散度を有するものである。
【0032】
本発明の分散体の粒子は、等方性の形態、特にL(最大寸法)/l(最小寸法)の比が多くとも2である形態を有することができる。
【0033】
本発明の有機コロイド分散体は、有機相と共に少なくとも1種の両親媒性物質を含む。
【0034】
この両親媒性物質は、一般的には10〜50個、好ましくは15〜25個の炭素原子を有するカルボン酸であることができる。
【0035】
前記の酸は、直鎖状又は分枝鎖状であってよい。これは、随意に他の官能基を有するアリール、脂肪族又はアリール脂肪族酸から選択することができ、但し、前記官能基は本発明の分散体が用いられる媒体中で安定なものであることとする。かくして、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族スルホン酸、脂肪族ホスホン酸、アルキルアリールスルホン酸及びアルキルアリールホスホン酸(天然のものであるか合成のものであるかに拘わらず)を用いることができる。もちろん、酸の混合物を用いることもできる。
【0036】
包含される例としては、タル油、大豆油、獣脂、亜麻仁油、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸及びそれらの異性体、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−エチルヘキサン酸、ナフテン酸、ヘキサン酸、トルエンスルホン酸、トルエンホスホン酸、ラウリルスルホン酸、ラウリルホスホン酸、パルミチルスルホン酸及びパルミチルホスホン酸を挙げることができる。
【0037】
本発明の範囲内において、両親媒性物質はまた、ポリオキシエチレン化アルキルエーテルホスフェートから選択することもできる。これは、次式:
【化1】

を有するホスフェート又は次式:
【化2】

を有するポリオキシエチレン化ジアルキルホスフェートを意味する。これら式中、
1、R2及びR3は同一であっても異なっていてもよく、直鎖状又は分枝鎖状アルキル基(特に2〜20個の炭素原子を有するもの);フェニル基;アルキルアリール基、より特定的にはアルキルフェニル基(特に8〜12個の炭素原子を有するアルキル鎖を有するもの);又はアリールアルキル基、より特定的にはフェニルアリール基であり;
nはエチレンオキシド単位の数を表わし、これは例えば0〜12であることができ;
Mは水素、ナトリウム又はカリウム原子を表わす。
1は特にヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オレイル又はノニルフェニル基であることができる。
【0038】
このタイプの両親媒性化合物の例としては、Rhodia社よりLubrophos(登録商標)及びRhodafac(登録商標)の商品名で販売されているもの、特に次の製品を挙げることができる:
・Rhodafac(登録商標)RAポリオキシエチレン(C8〜C10)アルキルエーテルホスフェート;
・Rhodafac(登録商標)RS710又はRS 410ポリオキシエチレントリデシルエーテルホスフェート;
・Rhodafac(登録商標)PA 35ポリオキシエチレンオレオデシルエーテルホスフェート;
・Rhodafac(登録商標)PA17ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルホスフェート;
・Rhodafac(登録商標)RE610ポリオキシエチレン(分枝鎖状)ノニルエーテルホスフェート。
【0039】
最後に、両親媒性物質は、式R4−(OC24)n−O−R5のポリオキシエチレン化アルキルエーテルカルボキレートであることもできる。ここで、R4は直鎖状又は分枝鎖状アルキル基(これは特に4〜20個の炭素原子を有することができる)であり、nは例えば12までであることができる整数であり、R5は−CH2COOHのようなカルボン酸残基である。このタイプの両親媒性化合物の例としては、Kao Chemicals社より商品名AKIPO(登録商標)の下で販売されているものを挙げることができる。
【0040】
本発明の分散体は、少なくとも8%、より特定的には少なくとも15%、さらにより特定的には少なくとも30%の鉄化合物濃度を有する。この濃度は、分散体の総重量に対する鉄(III)酸化物の当量として表わされる。この濃度は、40%までであることができる。
【0041】
本発明の分散体は、すぐれた安定性を有する。数か月後にも沈降物は何ら観察されない。
【0042】
上記のように第2の局面において本発明はまた、有機相中の混合物としての非晶質形態にある鉄化合物の粒子及び希土類化合物の粒子の有機相中の分散体を含む内燃機関用エンジン燃料添加剤に関し、前記分散体は両親媒性物質をさらに含む。
【0043】
本発明の第1の局面に関する上記の説明並びに有機相及び両親媒性物質の性状に関する上記の説明は、ここでも当てはまる。
【0044】
さらに、希土類化合物中の希土類は、セリウム、ランタン、イットリウム、ネオジム、ガドリニウム及びプラセオジムから選択することができる。より特定的には、セリウムが選択される。
【0045】
希土類化合物の粒子は随意に、鉄化合物について上に与えたものと同じ特徴(特にそれらの寸法及び形態に関してのもの)を有することができる。かくして、これらは上に与えたものと同じ値のd50を有することができ、そして上に示したような一次粒子であることができる。
【0046】
鉄化合物と希土類化合物との割合は広く変化し得る。しかしながら、鉄化合物/希土類化合物のモル比は0.5〜1.5の範囲であるのが一般的であり、より特定的にはこの比は1であることができる。
【0047】
前記希土類化合物は、希土類酸化物及び/又は水酸化物及び/又はオキシ水酸化物であることができる。この化合物はまた、有機金属化合物であることもできる。
【0048】
以下、本発明の第1の局面に従う本発明の内燃機関用エンジン燃料添加剤を構成する分散体の調製方法を説明する。
【0049】
この方法の第1工程は、錯化剤の存在下の鉄塩と塩基とを又は鉄錯体と塩基とを反応させることから成る。この反応は、水性媒体中で実施される。
【0050】
塩基の特定的な例は、水酸化物タイプの物質であることができる。アルカリ又はアルカリ土類水酸化物及びアンモニアを挙げることができる。また、第2、第3又は第4級アミンを用いることもできる。しかしながら、アルカリ又はアルカリ土類カチオンによる汚染の危険性が少なくなるのでアミン及びアンモニアの方が好ましい。また、尿素を挙げることもできる。
【0051】
鉄塩としては、任意の水溶性塩を用いることができる。より特定的には、硝酸第二鉄を挙げることができる。
【0052】
本発明の方法の特定的な特徴に従えば、鉄錯化剤の存在下で鉄塩と塩基とを反応させる。
【0053】
鉄錯化剤は、pKが少なくとも3となるような錯化定数Kを有する水溶性カルボン酸から選択される。次の反応:
【化3】

(ここで、Lは錯化剤を表わす)
については、定数Kは次のように定義される。
K=FeLx3-x/[Fe3+]・[L-]x
pK=log(1/k)
【0054】
上の特徴を有する酸としては、ギ酸又は酢酸のような脂肪族カルボン酸を挙げることができる。また、酸−アルコール又はポリ酸−アルコールも好適である。酸−アルコールの例としては、グリコール酸及び乳酸を挙げることができる。ポリ酸−アルコールとしては、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸を挙げることができる。
【0055】
その他の好適な酸としては、リシン、アラニン、セリン、グリシン、アスパラギン酸又はアルギニンのようなアミノ酸を挙げることができる。また、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸又はN,N−二酢酸グルタミン酸(HCOO-)CH2CH2−CH(COOH)N(CH2COO-H)2若しくはそのナトリウム塩(NaCOO-)CH2CH2−CH(COONa)N(CH2COO-Na)2を挙げることもできる。
【0056】
用いることができるその他の好適な錯化剤には、ポリアクリル酸及びそれらの塩、例えばナトリウムポリアクリレート、より特定的には質量平均分子量が2000〜5000の範囲のものがある。
【0057】
最後に、複数の錯化剤を組み合わせて用いることもできるということにも留意されたい。
【0058】
上記のように、塩基との反応はまた、鉄錯体について実施することもできる。この場合、用いられる鉄錯体は、錯化性鉄と上記のタイプの錯化剤とから得られる物質である。この物質は、鉄塩と前記錯化剤とを反応させることによって得ることができる。
【0059】
錯化剤/鉄のモル比で表わした錯化剤の使用量は、0.5〜4の範囲であるのが好ましく、0.5〜1.5の範囲であるのがより一層好ましく、0.8〜1.2の範囲であるのがさらにより一層好ましい。
【0060】
鉄塩と塩基との間の反応は、形成される反応混合物のpHがせいぜい8となるような条件下で実施する。より特定的には、このpHはせいぜい7.5であることができ、特に6.5〜7.5の範囲であることができる。
【0061】
水性混合物と塩基性媒体との接触は、鉄塩の溶液を塩基含有溶液中に導入することによって行なうことができる。鉄塩の溶液及び塩基含有溶液のそれぞれの流量を調節することによってpH条件を満足させながら、接触を連続的に実施することができる。
【0062】
本発明の好ましい局面においては、鉄塩と塩基との間の反応の際に、形成される反応媒体のpHが一定に保たれるような条件下で操作することができる。「pHが一定に保たれる」とは、固定値に対するpH変化が±0.2pH単位内であることを意味する。かかる条件は、鉄塩と塩基との間の反応の際に(例えば鉄塩溶液を塩基の溶液に導入する時に)形成される反応混合物に追加量の塩基を添加することによって達成することができる。
【0063】
この反応は通常、周囲温度において実施される。この反応は空気若しくは窒素雰囲気中又は窒素−空気混合物中で有利に実施することができる。
【0064】
反応終了時に、沈殿が得られる。随意に、この沈殿を所定時間、例えば数時間、反応媒体中に保つことによって熟成させることができる。
【0065】
この沈殿は、任意の既知の手段を用いて反応媒体から分離することができる。この沈殿は、洗浄することができる。
【0066】
好ましくは、この沈殿は、乾燥若しくは凍結乾燥工程又はそのタイプのいずれの操作にも付されない。
【0067】
この沈殿は、随意に水性懸濁液中に取り出すことができる。
【0068】
しかしながら、沈殿が製造された反応媒体から沈殿を分離しないことも充分可能であることに留意されたい。
【0069】
有機相中のコロイド分散体を得るためには、コロイド分散体の媒体にしようとしている有機相を、分離された沈殿と、又は反応媒体から沈殿を分離した後の上で得られた水性懸濁液と、又は反応媒体中に懸濁状の沈殿と、接触させる。前記有機相は、上記のタイプのものである。
【0070】
この接触は、両親媒性物質の存在下で行われる。両親媒性物質の添加量は、モル比r:
r=両親媒性物質のモル数/鉄元素のモル数
によって規定することができる。
【0071】
このモル比は、0.2〜1の範囲であることができ、0.4〜0.8の範囲であるのが好ましい。
【0072】
有機相の添加量は、上に挙げたような酸化物の濃度が得られるように調節される。
【0073】
このステージにおいては、沈殿の懸濁液から出発する場合には水性相から有機相への鉄化合物の粒子の移動を加速させる働きをし、そしてさらに得られる有機コロイド分散体の安定性を改善する働きもする促進剤を有機相に添加するのが有利である。
【0074】
促進剤は、アルコール官能基を有する化合物、より特定的には6〜12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状脂肪族アルコールであることができる。特定的な例としては、2−エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0075】
促進剤の割合は臨界的ではなく、広く変化し得る。しかしながら、分散体全体に対して2〜15重量%の範囲の割合が一般的に好適である。
【0076】
分散体の各種成分の導入順序は重要ではない。水性懸濁液、両親媒性物質、有機相及び随意としての促進剤を同時に混合することができる。また、両親媒性物質、有機相及び随意としての促進剤を予備混合することもできる。
【0077】
水性懸濁液又は沈殿と有機相との接触は、空気雰囲気、窒素雰囲気又は空気−窒素混合雰囲気にある反応器中で行なうことができる。
【0078】
水性懸濁液と有機相との接触は周囲温度(約20℃)において行なうことができるが、60℃〜150℃の範囲、有利には80℃〜140℃の範囲の温度において操作するのが好ましい。
【0079】
場合によっては、有機相が揮発性であるので、その沸点より低い温度に冷却することによってその蒸気を凝縮させることができる。
【0080】
得られた反応混合物(水性懸濁液、両親媒性物質、有機相及び随意としての促進剤の混合物)を、全加熱時間(これは変化し得る)の間、撹拌する。
【0081】
加熱を停止した時に、コロイド分散体を含有する有機相及び残りの水性相との2つの相が観察される。
【0082】
有機相及び水性相を次いで慣用の分離技術(例えばデカンテーション、遠心分離)を用いて分離する
【0083】
本発明に従えば、上に挙げた特徴を有する有機コロイド分散体が得られる。
【0084】
本発明の第2の局面の内燃機関用エンジン燃料添加剤を構成する分散体は、有機相中の希土類化合物の粒子の第1のコロイド分散体と鉄化合物の粒子の第2のコロイド分散体(この第2の分散体は本発明の第1の局面に従う燃料添加剤用のもの)とを混合することによって得ることができる。
【0085】
第1の希土類分散体は、例えばヨーロッパ特許公開0206907A号若しくは同第0671205A号公報又は国際公開WO00/49098号に記載されたものであることができる。
【0086】
好ましくは、有機相が同一である分散体を混合する。
【産業上の利用可能性】
【0087】
直前に記載した有機コロイド分散体は、内燃機関用ガス油添加剤として、より特定的にはディーゼルエンジン用ガス油添加剤として用いることができる。
【0088】
これらはまた、内燃機関(爆発機関)や家庭用オイルバーナー、反動推進エンジンのようなエネルギー発生装置用の液体燃料又はエンジン燃料中の燃焼添加剤として用いることもできる。
【0089】
最後に、本発明は、上記のタイプのコロイド分散体又は上記の方法によって得られるコロイド分散体を含有する内燃機関用エンジン燃料にも関する。このエンジン燃料は、本発明の分散体と混合することによって得られる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を与える。
【0091】
例1
最初に、酢酸鉄の溶液を調製した。
ビーカー中に412.2gの98%Fe(NO3)3・5H2Oを導入し、脱イオン水を2リットルの容量になるまで添加した。この溶液は、Fe0.5Mだった。撹拌しながら周囲温度において650ミリリットルの10%アンモニアを滴下してpHを7にした。
【0092】
これを4500rpmにおいて10分間遠心分離した。母液を取り除いた。水中の懸濁液として取り出して総容量2650cm3にした。これを10分間撹拌した。これを4500rpmにおいて10分間遠心分離し、次いで脱イオン水中の懸濁液として取り出して総容量2650cm3にした。これを30分間撹拌した。次いで206ミリリットルの濃酢酸を添加した。これを撹拌しながら一晩放置した。この溶液は透明だった。
【0093】
次いで、
・500cm3の脱イオン水から構成される初期原料及びパドル式撹拌機を備えた1リットル反応器(この反応容量はオーバーフローによって一定に保った);
・上記の酢酸鉄溶液及び10Mアンモニウム溶液を含有させた2個の供給フラスコ:
を含む連続式装置中で固体を沈殿させた。
酢酸鉄溶液及び10Mアンモニア溶液を添加した。この2つの溶液の流量は、pHが8で一定に保たれるように設定した。
【0094】
得られた沈殿を4500rpmにおいて10分間遠心分離することによって母液から分離した。95.5gの回収された水和物、21.5%乾燥抽出物(即ち20.0g当量のFe23又は0.25モルのFe)を、42.7gのイソステアリン酸及び141.8gのIsopar Lを含有する溶液中に再分散させた。この懸濁液を、恒温浴及び撹拌機を備えたジャケット付き反応器中に導入した。この反応装置を90℃に5時間30分間加熱した。
冷却後、試験管中に移した。分離が観察され、50cm3の水性相及び220cm3の有機相が回収された。
【0095】
透過電子低温顕微鏡によって、寸法約3nmの完全離散粒子が観察された。
分散体のX線分析により、粒子が非晶質であることが示された。
この分散体を1日6回のサイクルの−20℃及び+80℃における一定温度ステージから成る熱処理に付した。6か月後にも沈殿は何ら観察されなかった。
【0096】
例2
この例は、前の例の分散体を用いたエンジンベンチテストに関する。
マニュアル式変速機を備えたフォルクスワーゲンの1.9リッター気筒容量ターボ式ディーゼルエンジンをダイナモメーター装置上に乗せて用いた。排気ラインには、2.5リットル炭化ケイ素粒子フィルター(IBIDEN2000cpsi、5.66×6.00)を設けた。熱電対を用いて粒子フィルター入口において排気ガスの温度を測定した。また、粒子フィルターの入口と出口との間の圧力差も測定した。
【0097】
前の例で得られた有機分散体を燃料に、添加された燃料に対して金属7ppmの量になるように添加した。
粒子フィルターに粒子を次の条件下で装填した:
・エンジン回転速度=2000rpm;
・トルク60Nm;
・フィルターへのガスの入口温度=250℃;
・装填期間=8時間。
【0098】
粒子フィルターに捕捉された煤煙を、次の条件下で2000rpmのエンジン速度で、それぞれ下記の通りの15分間の8つのステージを含むサイクルに従って燃焼させた。
【表1】

【0099】
粒子フィルターによってもたらされる圧力低下は、最初は温度上昇のために増大し、最大値に達した後に、粒子フィルター中に蓄積される炭素質材料の燃焼のせいで小さくなった。圧力低下がもはや増大しなくなる時点(その温度によって記録される)が、添加剤による粒子フィルターの再生ポイントを表わすものと考えられた。
【0100】
ステージ6からステージ7への推移の際に、圧力低下の減少が観察された。これはフィルター中の煤煙の燃焼に対応する。燃焼開始温度は、400〜425℃の範囲であり、もっと正確には405℃だった。煤煙燃焼は、425℃において6.49ミリバール/分の圧力低下の減少をもたらした。
これらの結果は、燃料中の添加剤の低濃度について低い再生温度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・有機相;
・非晶質形態にある鉄酸化物、鉄水酸化物、鉄オキシ水酸化物又はそれらの混合物から選択される鉄化合物の1nm〜5nmの範囲のd50を示す粒子;
・少なくとも1種の両親媒性物質:
を含むことを特徴とするコロイド分散体を含む、内燃機関用エンジン燃料添加剤。
【請求項2】
・有機相;
・非晶質形態にある鉄酸化物、鉄水酸化物、鉄オキシ水酸化物又はそれらの混合物から選択される鉄化合物の1nm〜5nmの範囲のd50を示す粒子;
・希土類化合物の粒子;
・少なくとも1種の両親媒性物質:
を含むことを特徴とするコロイド分散体を含む、内燃機関用エンジン燃料添加剤。
【請求項3】
鉄化合物粒子の少なくとも85%が一次粒子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料添加剤。
【請求項4】
鉄化合物粒子の少なくとも90%が一次粒子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料添加剤。
【請求項5】
鉄化合物粒子の少なくとも95%が一次粒子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料添加剤。
【請求項6】
鉄が酸化状態3で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料添加剤。
【請求項7】
粒子のd50が3nm〜4nmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の燃料添加剤。
【請求項8】
有機相が非極性炭化水素をベースとすることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の燃料添加剤。
【請求項9】
両親媒性物質が10〜50個の炭素原子を有するカルボン酸であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の燃料添加剤。
【請求項10】
希土類がセリウム、ランタン、イットリウム、ネオジム、ガドリニウム及びプラセオジムから選択されることを特徴とする、請求項2〜9のいずれかに記載の燃料添加剤。
【請求項11】
(a)反応媒体のpHをせいぜい8の値に維持しながら、鉄錯化剤の存在下の鉄塩と塩基とを又は鉄錯体と塩基とを反応させて沈殿を得る工程(ここで、前記鉄錯化剤はpKが少なくとも3となるような錯化定数Kを有する水溶性カルボン酸から選択され、前記鉄錯体は鉄塩と前記酸との反応生成物から選択される);
(b)・反応工程(a)から直接得られて反応媒体から分離した沈殿、
・その反応媒体中に懸濁状の沈殿、又は
・反応工程(a)から直接得られて反応媒体から分離して水性懸濁液中に取り出した沈殿
を両親媒性物質の存在下で有機相と接触させて有機相中の分散体を得る工程:
を含むことを特徴とする、請求項1及び3〜10のいずれかに記載の燃料添加剤の製造方法。
【請求項12】
前記沈殿が反応媒体から分離されて洗浄されたものであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記沈殿が工程(a)終了時の反応媒体中に保って熟成させたものであることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記カルボン酸が脂肪族カルボン酸、酸−アルコール又はポリ酸−アルコール、アミノ酸及びポリアクリル酸から選択されることを特徴とする、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記脂肪族カルボン酸がギ酸又は酢酸であり、前記ポリ酸−アルコールが酒石酸又はクエン酸であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
反応媒体のpHをせいぜい7.5の値に保つことを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
有機相中の希土類化合物の粒子のコロイド分散体を請求項1及び3〜9のいずれかに記載の鉄化合物の粒子のコロイド分散体と混合することを特徴とする、請求項2〜10のいずれかに記載の燃料添加剤の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれかに記載の燃料添加剤を含有することを特徴とする、内燃機関用エンジン燃料。

【公開番号】特開2008−144176(P2008−144176A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327674(P2007−327674)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【分割の表示】特願2003−554314(P2003−554314)の分割
【原出願日】平成14年12月19日(2002.12.19)
【出願人】(503124252)ロディア エレクトロニクス アンド カタリシス (13)
【Fターム(参考)】