説明

鉄道車両の車体姿勢制御装置

【課題】 電気的な制御を行うことなく、車体の姿勢を的確に制御することができる鉄道車両の車体姿勢制御装置を提供する。
【解決手段】 台車枠4と車体6間の左右に空気ばね7A,7Bを配置し、車両の圧縮空気源からの空気の出し入れにより前記空気ばね7A,7Bを制御する鉄道車両の車体姿勢制御装置において、車体底面8と前記台車枠4間に取り付けられ、前記車体6に回転支持されるLV9と、このLV9に剛に接続される重りと、前記LV9の回転中心に回転可能に支持されるレバー11と、このレバー11の先端と前記台車枠4間を連結する連結棒14とを備え、遠心力によって前記LV9と前記レバー11の間に角度が生じると、この角度によって前記空気ばね7A,7Bを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車体姿勢制御装置に係り、特に、曲線を高速走行する鉄道車両の車体姿勢制御装置(車体傾斜制御装置)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が曲線を高速で走行すると、乗客に(超過)遠心力が働き不快な乗り心地となる。
【0003】
これを緩和するため、曲線走行時に車体を内軌側に傾けることで乗客にかかる(超過)遠心力を減らす技術が採用されている。例えばJR各社等で在来線特急列車として運用されている(制御付き)振子車両がある。
【0004】
これは台車上にコロやベアリング等で回転支持された回転梁を設け、この回転梁の上に空気ばねを介して車体を載せた構造の車両である。この方式は、車両が曲線にさしかかると、台車枠と回転梁の間に構成されたアクチュエータにより回転梁を所定の角度だけ回転させて、車体を傾けるものである。
【0005】
この他に、最近の新幹線車両や一部の在来線特急車両(下記非特許文献1参照)で実用化されている「空気ばね車体傾斜」という技術がある。この空気ばね車体傾斜は、曲線にさしかかると、外軌側の空気ばねに空気を強制的に送り込むことで空気ばねを伸ばし、車体を内側に傾けるものである(下記特許文献1参照)。
【0006】
従来の空気ばね車体傾斜は、曲線線形情報を車上で保持しており、車両が常に現在走行地点を把握しながら車体傾斜のタイミングを計っている。
【0007】
車体傾斜が必要な地点にくると、車体に設けられた弁を開き、所定の空気ばねの高さになるまで供給空気量の制御を行っている。
【0008】
また、空気ばねを利用した車体傾斜装置の開発が進められており、車体にジャイロや車体水平方向加速度センサ、車高LVを搭載した車体傾斜装置が提案され、実用化されている(下記非特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭47−41165号公報
【非特許文献1】玉置 俊治,「空気ばねを利用した車体傾斜装置の開発と効果(その2)」,R&m 2006.6,pp.50〜53
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の車体傾斜技術では、曲線線形情報や地点情報が必要であったり、また、それらを持たない場合、加速度センサ等を用いて曲線を走行していることを車両が認識する必要があった。さらに、弁等の開閉によって、空気ばねへの供給空気量を制御する必要があった。
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みて、曲線線形情報や複雑なセンサを搭載することなく、電気的な制御を行わずに車体の姿勢を的確に制御することができる鉄道車両の車体姿勢制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕台車枠と車体間の左右に空気ばねを配置し、車両の圧縮空気源からの空気の出し入れにより前記空気ばねの高さを制御する鉄道車両の車体姿勢制御装置において、車体底面と前記台車枠間に取り付けられ、前記車体に回転支持されるLVと、このLVに剛に接続される重りと、前記LVの回転中心に回転可能に支持されるレバーと、このレバーの先端と前記台車枠間を連結する連結棒とを備え、遠心力によって前記LVと前記レバーの間に角度が生じると、この角度によって前記空気ばねの高さを制御することを特徴とする。
【0012】
〔2〕上記〔1〕記載の鉄道車両の車体姿勢制御装置であって、曲線を高速走行する鉄道車両の車体傾斜制御装置として用いることを特徴とする。
【0013】
〔3〕上記〔1〕記載の鉄道車両の車体姿勢制御装置であって、乗客の乗降や、走行中の車体高さの変動により、前記空気ばねの高さが変動する場合に、鉄道車両の車体の高さの制御装置として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0015】
(1)電気的な制御を行うことなく、車体の姿勢を的確に制御することができる。
【0016】
(2)曲線を高速走行する鉄道車両の車体傾斜制御装置として用いることができる。
【0017】
(3)空気ばねの高さが変動する場合に鉄道車両の車体の高さの制御装置として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の台車枠と車体枠間の左右に空気ばねを配置し、車両の圧縮空気源からの空気の出し入れにより前記空気ばねの高さを制御する鉄道車両の車体姿勢制御装置において、車体底面と前記台車枠間に取り付けられ、前記車体に回転支持されるLVと、このLVに剛に接続される重りと、前記LVの回転中心に回転可能に支持されるレバーと、このレバーの先端と前記台車枠間を連結する連結棒とを備え、遠心力によって前記LVと前記レバーの間に角度が生じると、この角度によって前記空気ばねの高さを制御する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明の実施例を示す鉄道車両の車体姿勢制御装置を搭載した車両が直線走行中の状態を示す図、図2は曲線を高速走行する状態(空気ばねへの空気供給、排出前の状態)を示す図、図3はその車両が曲線を高速走行する状態(空気ばねへの空気供給、排出完了後の状態)を示す図である。
【0021】
これらの図において、1は走行レベル、2は輪軸、3は輪軸2に固定された車輪、4は台車枠、5は輪軸2と台車枠4との間に設けられたバネ体,6は車体であり、台車枠4と車体6との間には外軌側空気ばね7A,内軌側空気ばね7Bがそれぞれ配置されている。8は車体底面、9は車体6に回転支持されるLV(自動高さ調整機構)(外軌側のLV9A、内軌側のLV9B)、10はLV本体に剛に接続される重り(外軌側の重り10A、内軌側の重り10B)、11はレバー(外軌側のレバー11A、内軌側のレバー11B)、12はLV9の回転中心位置に配置され、LV9に対して回動自在に配置されるレバー基部の支持軸、14はレバー11の先端と台車枠4間を連結する連結棒であり、端部は回転支持され、伸縮はしない。
【0022】
通常、車両のLVは、車体6に対して剛に結合されている。LV9からはレバー11が横方向に伸び、その先端部と台車枠4の間が連結棒14によって接続されている。レバー11の両端部は、連結棒14およびLV9に回転支持されている。
【0023】
本発明では、上記したように、空気ばねの自動高さ調整機構を有するLV9を利用するが、そのLV9を車体6に対して回転支持する。LV9から下方向に腕を伸ばし、LV9の重り10を結合する。
【0024】
鉄道車両が曲線を高速で走行しているときには、図2に示すように、LV9の重り10に超過遠心力が生じ、外軌側のLV9Aおよび内軌側のLV9Bが車体6に対して回転する。
【0025】
すると、図2に示すように、LV9Aとレバー11Aの間に角度が生じて、外軌側の空気ばね7Aには空気が供給され、図3に示すように、外軌側の空気ばね7Aが膨らむ。同時に、LV9Bとレバー11Bの間に角度が生じて、内軌側の空気ばね7Bからは空気が排出され、図3に示すように内軌側の空気ばね7Bが縮む。これにより、車体6が内軌側に傾く。
【0026】
ここで、空気ばね7A,7Bを制御する空気の流れを、図4及び図5を用いて説明する。
【0027】
図4は本発明の曲線に入るときの鉄道車両の車体姿勢制御装置の空気ばねを制御する空気の流れを示す図(その1)、図5は本発明の曲線を出るときの鉄道車両の車体姿勢制御装置の空気ばねを制御する空気の流れを示す図(その2)である。
【0028】
まず、外軌側の空気ばね7Aを制御する空気の流れを説明する。
【0029】
車両が曲線に入り、LV9の重り10が超過遠心力を受けると、図4に示すように、(1)外軌側のLV9Aとレバー11Aの間に角度が生じる(この状態では、レバー11Aに対してLV9Aが反時計回りに動く)。(2)LV9A内部の弁が開き、圧縮空気源15から空気ばね7Aへ通じる空気配管16A,17Aによる空気通路が構成される。(3)圧縮空気源15から空気ばね7Aに空気配管16A,17Aを介して空気が供給され、空気ばね7Aが膨らむ(伸びる)。(4)空気ばね7Aが伸びるにつれてLV9Aとレバー11Aの角度が小さくなり、空気の供給は停止される。
【0030】
一方、車両が曲線を抜けて、LV9の重り10から超過遠心力がなくなると、図5に示すように、(1)LV9Aとレバー11Aの間に角度が生じる(この状態では、レバー11Aに対して、LV9Aが時計回りに動く)。(2)LV9A内部の弁が開き、空気ばね7Aから空気配管17Aを介して大気に通じる空気通路が構成される。(3)空気ばね7Aから空気が排出されて、空気ばね7Aは縮む。(4)空気ばね7Aが縮むにつれてLV9Aとレバー11Aの角度が小さくなり、空気の排出は停止する。
【0031】
次に、内軌側の空気ばね7Bを制御する空気の流れを説明する。
【0032】
車両が曲線に入り、LV9の重り10が超過遠心力を受けると、図4に示すように、(1)内軌側のLV9Bとレバー11Bの間に角度が生じる(この状態では、レバー11Bに対してLV9Bが反時計回りに動く)。(2)LV9B内部の弁が開き、空気ばね7Bから空気配管17Bを介して大気に通じる空気通路が構成される。(3)空気ばね7Bから空気が排出されて、空気ばね7Bは縮む。(4)空気ばね7Bが縮むにつれてLV9Bとレバー11Bの角度が小さくなり、空気の排出は停止する。
【0033】
一方、車両が曲線を抜けて、LV9の重り10から超過遠心力がなくなると、図5に示すように、(1)LV9Bとレバー11Bの間に角度が生じる(この状態では、レバー11Bに対して、LV9Bが時計回りに動く)。(2)LV9B内部の弁が開き、圧縮空気源15から空気ばね7Bへ通じる空気配管16B, 17Bによる空気通路が構成される。(3)圧縮空気源15から空気ばね7Bに空気が供給され、空気ばね7Bが膨らむ(伸びる)。(4)空気ばね7Bが伸びるにつれてLV9Bとレバー11Bの角度が小さくなり、空気の供給は停止される。
【0034】
図6は本発明の変形例を示す倍速機構を有する鉄道車両の車体姿勢制御装置を搭載した車両が曲線を高速走行する状態(空気ばねへの空気供給前の状態)を示す図、図7はその倍速機構の構成例の正面図、図8はその倍速機構の構成例の側面図である。
【0035】
図6に示すように、遠心力によって生じる重りの角度を倍速機構により増幅してLV9をより大きく傾けるように構成した。θを遠心力によって生じる重りの角度、Nを倍速機構の倍速比とすると、LV9の傾きはN×θ度となり、LV9とレバー11の角度をより大きくすることができる。したがって、空気ばね7Aへの供給空気量、および空気ばね7Bからの排出空気量を増やし、車体6の傾斜角をより大きくすることができる。
【0036】
倍速機構21は、図7に示すように、LV20に連結される歯車(歯数20)22と、中間歯車(歯数40)23と、最終歯車(歯数100)24とからなり、この最終歯車24の軸25の先端に重り吊り下げ用腕26が配置される。27,28は垂直状支持板、29は水平状ベースである。
【0037】
図9は本発明の他の実施例を示す鉄道車両の車体姿勢制御装置を搭載した車両の重量が増して空気ばねの高さが低くなった状態を示す図である。
【0038】
例えば、駅等で乗客が大勢乗車すると、車体6が空気ばね7A,7Bを圧縮して車体6の高さが低くなる。このときには、図4に示すように、LV9とレバー11の間に角度が付き、この角度によって車両の圧縮空気源(図示なし)から空気が送り込まれ、空気ばね7A,7Bが膨らむ。空気ばね7A,7Bが膨らみ、図1に示すように、レバー11とLV9との間の角度が0になると、空気の供給を停止する。このように車体6の高さを一定に保つように動作し、車体の姿勢制御を行うことができる。
【0039】
このように構成したので、本発明は、電気的な制御を行うことなしに車体の姿勢を制御することができる。また、その際の曲線線形情報等のデータベースを必要としないので、曲線を走行していることを認識するためのセンサも必要としない。
【0040】
さらに、機械的なシステムとしたので、車両の電源フェール等を心配する必要がなく、また、低コストである。
【0041】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の鉄道車両の車体姿勢制御装置は、電気的な制御を行うことなく、鉄道車両の車体の姿勢制御を行うことができる装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例を示す鉄道車両の車体姿勢制御装置を搭載した車両が直線走行中の状態を示す図である。
【図2】本発明の実施例を示す曲線を高速走行する鉄道車両の車体姿勢制御装置を搭載した車両が曲線を高速走行する状態(空気ばねへの空気供給、排出前の状態)を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す曲線を高速走行する鉄道車両の車体姿勢制御装置を搭載した車両が曲線を高速走行する状態(空気ばねへの空気供給、排出完了後の状態)を示す図である。
【図4】本発明の曲線に入るときの鉄道車両の車体姿勢制御装置の空気ばねを制御する空気の流れを示す図(その1)である。
【図5】本発明の曲線を出るときの鉄道車両の車体姿勢制御装置の空気ばねを制御する空気の流れを示す図(その2)である。
【図6】本発明の変形例を示す倍速機構を有する鉄道車両の車体姿勢制御装置を搭載した車両が曲線を高速走行する状態(空気ばねへの空気供給前の状態)を示す図である。
【図7】本発明の変形例を示す倍速機構を有する鉄道車両の車体姿勢制御装置の倍速機構の構成例の正面図である。
【図8】本発明の変形例を示す倍速機構を有する鉄道車両の車体姿勢制御装置の倍速機構の構成例の側面図である。
【図9】本発明の他の実施例を示す鉄道車両の車体姿勢制御装置を搭載した車両の重量が増して空気ばねの高さが低くなる状態を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 走行レベル
2 輪軸
3 車輪
4 台車枠
5 バネ体
6 車体
7A,7B 空気ばね(外軌側空気ばね7A,内軌側空気ばね7B)
8 車体底面
9 回転支持されるLV(自動高さ調整機構)
9A 外軌側のLV
9B 内軌側のLV
10 重り
10A 外軌側の重り
10B 内軌側の重り
11 レバー
11A 外軌側のレバー
11B 内軌側のレバー
12 支持軸
14 連結棒
15 圧縮空気源
16,17 空気配管
θ 遠心力によって生じる重りの角度
N 倍速機構の倍速比
20 LV
21 倍速機構
22 歯車
23 中間歯車
24 最終歯車
25 軸
26 重り吊り下げ用腕
27,28 垂直状支持板
29 水平状ベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車枠と車体間の左右に空気ばねを配置し、車両の圧縮空気源からの空気の出し入れにより前記空気ばねの高さを制御する鉄道車両の車体姿勢制御装置において、
(a)車体底面と前記台車枠間に取り付けられ、前記車体に回転支持されるLVと、
(b)該LVに剛に接続される重りと、
(c)前記LVの回転中心に回転可能に支持されるレバーと、
(d)該レバーの先端と前記台車枠間を連結する連結棒とを備え、
(e)遠心力によって前記LVと前記レバーの間に角度が生じると、該角度によって前記空気ばねの高さを制御することを特徴とする鉄道車両の車体姿勢制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道車両の車体姿勢制御装置であって、曲線を高速走行する鉄道車両の車体傾斜制御装置として用いることを特徴とする鉄道車両の車体姿勢制御装置。
【請求項3】
請求項1記載の鉄道車両の車体姿勢制御装置であって、乗客の乗降や、走行中の車体高さの変動により、前記空気ばねの高さが変動する場合に、鉄道車両の車体の高さの制御装置として用いることを特徴とする鉄道車両の車体姿勢制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−137622(P2010−137622A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313842(P2008−313842)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【Fターム(参考)】