説明

鉛フリー抵抗体組成物

電子用途において厚膜抵抗体ペーストとして使用するための鉛フリー組成物。この組成物は、直径が0.5〜5ミクロンであるLiRuOの粒子および鉛フリーのフリットを含む。この粒子は、主として粒子の表面またはその近傍のリチウムの少なくとも一部が他の金属の原子と交換されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子用途に用いられる抵抗器の製造に使用するための組成物に関する。この組成物は、リチウムおよびルテニウムを含む鉛フリー材料から調製され、厚膜ペーストの形態に調製してもよい。
【背景技術】
【0002】
既存の導電性中間体(二酸化ルテニウム、銀/パラジウム固溶体、ルテニウム酸ビスマス等)は、鉛フリーフリットと組み合わせることにより、基本的に低抵抗端(low−resistance end)(10〜1000オーム)の鉛フリー抵抗システムを形成することができる。一方、既存の導電物(二酸化ルテニウム、ルテニウム酸ビスマス、ルテニウム酸ストロンチウム等)は、鉛フリーフリットと一緒に、10キロオームの部材の作製に使用することができるであろう。セラミック抵抗システムは、通常、10オーム/□〜1メグオーム/□の範囲の個々の同一桁(10進法)のメンバー(decade member)を含む。このような一連の抵抗体は、高速製造ラインで用いられる熱処理条件の変動に十分に耐えるものでなくてはならない。現在、最も多く市販されている100キロオーム〜1メグオームの範囲の抵抗システムは、ルテニウム酸鉛またはRuOおよび高鉛フリットのいずれかを含む配合物等の鉛含有フリットおよび/または鉛含有導電相を利用している。
【0003】
非特許文献1は、アルミナ基板またはそこに記載されているLTCCシステム上で焼成することができるRuO/アルミノホウケイ酸ナトリウムアルカリ土類フリットの抵抗システムについて記載している。このシステムの抵抗値は、通常、10オームから500キロオームの範囲にわたる。100オーム〜500キロオームのTCRは±100ppm/℃と報告されている。
【0004】
非特許文献2は、M2−xCuRuO7−β(式中、xは、0.2〜0.4であり、βは、0〜1であり、Mは、希土類元素である)から構成される抵抗体について記載している。6.15メグオームの厚膜抵抗体の例が示されている。
【0005】
特許文献1は、RuOと、ルテニウム酸ビスマスを含むかまたは含まないビスマス系フリットとから構成される抵抗体について記載している。
【0006】
特許文献2には、RuOおよび数種のルテニウム酸塩(CaRuO等)を、多くのホウケイ酸アルカリおよびアルカリ土類から構成されるフリットならびに多くの遷移金属調整剤(driver)と組み合わせたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】西野敦(Atsushi)ら、2002年、特願2002−101903号(特開2003−257703号)
【特許文献2】特開2003−197405号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】深谷(Fukaya)および松尾(Matsuo)、1997,97 ISHM Symposia Proceedings,pp.65〜71
【非特許文献2】Hormadaly、2002,02 IMAPS Symposia Proceedings,pp.543〜547
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Alで置き換えられたLiの量を変化させたLiRuOの粉末X線回折パターンを示すものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それにも関わらず、100キロオーム〜10メグオームの範囲にあり、好ましくはTCRが±100ppm/℃である抵抗体組成物を提供することができるであろう鉛フリーの導電物−酸化物/フリットの組合せを見出すことが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態において、本発明は、Li原子が、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、H、Na、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、もしくはTi原子、またはこれらの組合せと交換されているLiRuOの粒子を含む組成物を提供する。
【0012】
他の実施形態において、本発明は、以下の式:M+1+2+3Li2−x−2y−3zRuO(式中、(x+2y+3z)≦1.5であり、Mは、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、Na、H、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、およびTiからなる群の1種またはそれ以上の構成要素から選択される)で表される組成物を提供する。
【0013】
さらなる実施形態において、上述した組成物は、アルミノホウケイ酸アルカリ金属亜鉛フリットおよびアルミノホウケイ酸アルカリ土類金属亜鉛フリットの一方または両方と混合してもよい。結果として得られた組成物は、所望のシート抵抗およびTCR特性を有する抵抗体として作製してもよく、こうして得られた抵抗体を電子デバイスに使用してもよい。
【0014】
さらなる他の実施形態においては、本発明は、(a)平均粒径が約0.5〜約5ミクロンのLiRuO粒子を提供するステップと、(b)このLiRuO粒子を、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、Na、H、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、およびTiからなる群から選択される1種またはそれ以上の元素から調製されるイオンを含む溶液と接触させるステップとによってLiRuO組成物を調製する方法を提供する。
【0015】
本発明は、粒子表面またはその近傍にあるLi原子が他の元素の原子と置き換えられているLiRuO粒子である粒子を含む組成物を提供する。この材料を含むことにより、鉛やカドミウム等の有毒元素を使用することなく、抵抗値が高くかつTCRが±100ppm/℃である抵抗体を作製することができる。
【0016】
本明細書に開示する導電性組成物が、焼成されたセラミック抵抗体配合物(例えば、ガラス、導電物、および媒体を用いたもの)中において導体体積の等しいRuOよりも電気抵抗を大幅にシフトさせるのに好適であるという発見によって、鉛フリーの成分から6または7桁(10進法)高い値を持つ抵抗システムを得ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、化学変性された導電性酸化物であるルテニウム酸リチウム提供する。この材料は、アルミノホウケイ酸アルカリおよび/またはアルカリ土類フリットと組み合わせることにより、望ましくはシ−ト抵抗のオーム値の高い(例えば、シート抵抗が約100キロオーム/□〜約1メグオーム/□の範囲、好ましくは約100キロオーム/□〜約5メグオーム/□の範囲、より好ましくは約100キロオーム/□〜約10メグオーム/□の範囲)未封入の抵抗体として作製することができる組成物を提供する。このような抵抗体はまた、TCR(抵抗温度係数)値を±100ppm/℃とすることができる。
【0018】
LiRuOの構造は、JamesおよびGoodenoughによりJournal of Solid State Chemistry、74、pp.287〜294、1988で述べられているように、通常は2つの隣接する交互層から構成されており、1つの層はLiイオンのみを含み、他はRuおよびLiイオンの両方を含む(酸素原子は除く)。Liのみの層は、構造内にリチウムを約75モル%含むと考えられており、これらのリチウムイオンはイオン交換によって容易に除去されるであろう。リチウムイオンはLiRuOのLi層内で移動しやすいが、Liよりも原子価の高い陽イオン(Mg+2やAl+3等)は電荷がより高く、それに伴い結合がより強いことからより移動しにくい。したがって、本発明を何らかの特定の作用原理に限定するものではないが、イオンをマグネシウム等で交換することにより、まず粒子表面またはその近傍およびLiのみの層のリチウムイオンと置き換わり、基本的にその位置に留まると考えられている。しかしながら、リチウムイオンとの交換に利用可能なマグネシウムイオンが多くなるほど、マグネシウムイオンは、交換可能なリチウムがすべて除去されるかまたは溶液中のマグネシウムイオンがすべて消費されるまで粒子のより深層に移動するであろう。Liのみの層において交換用イオンで置き換えられたLiイオンの量がその層内のLiイオンの量を大きく上回らない場合は、このLi層から交換用イオンの表面殻が生成し、残留しているリチウムイオンの内核が生成する傾向にある。
【0019】
リチウムイオンが電荷および/または電荷密度の異なるイオンと置き換えられているため、LiRuO結晶のイオン交換された部分の層間隔は変化するであろう。マグネシウムやアルミニウム等のより電荷の高い陽イオンは層間隔を低減させる傾向にあるであろう。図1に示すように、LiがAlに置き換えられた組成物の粉末X線回折パターンにおいて、(002)線の位置の2θがより高角側にシフトしていることがこの縮小を反映している。これとは対照的に、電荷密度がより低いNa等の陽イオンは(002)線の2θはより低角側にシフトするであろう。図1において、出発物質の最大(100%)ピーク[2θ≒18°の(002)ピーク]がイオン交換の程度に応じて減少し、新しいピーク(2θ≒19°)が増大する様子に注目されたい。一旦、リチウムのみの層のリチウムがすべて除去(約75モル%のLiイオンが交換)されると、元の100%ピークが消失する。
【0020】
LiRuO中のLiイオンを交換するためには、LiRuOの粒子を好ましくは直径が約0.5〜約5ミクロンの範囲(これは、抵抗体を形成するための後段のスクリーン印刷に通常好適な大きさの範囲である)に粉砕する。振動ミル、ボールミル、ハンマーミル、ビーズミル、ロッドミル、ジェットミル、またはディスクミルによる粉砕等の任意の湿式または乾式粉砕技術を用いてLiRuO粒子の大きさを低減することができる。粉砕ステップは、イオン交換ステップの前に順番に実施してもよし、あるいはその最中に同時に実施してもよい。粉砕およびイオン交換ステップは別個の槽で実施しても同じ槽で実施してもよい。
【0021】
しかしながら、特に好ましい実施形態においては、元はLiのみであったが既に交換が行われた層、隣接するLi/Ru層、およびそれに隣接する、交互に現れる次のLiのみの層が基本的にコア−シェル配置となっている状態を保存するために、粒子の粉砕はイオン交換ステップの前に完了または実質的に完了すべきである。イオン交換ステップの後に粉砕ステップが実施されると、粒子のリチウム含有コアがこじ開けられて露出して、フリットと直接接触することとなり、結果として得られた組成物から作製された抵抗体は、本明細書の組成物から作製された抵抗体に特徴的な所望の特性を有しない傾向が非常に強くなるであろう。
【0022】
代替的な実施形態においては、本発明は、以下の一般式:M+1+2+3Li2−x−2y−3zRuO(式中、(x+2y+3z)≦1.5であり、Mは、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、Na、H、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、およびTiからなる群の1種またはそれ以上の構成要素から選択される)で表される組成物を提供する。この組成物中においては一部のLi原子がM原子に交換されていることになるので、x+2y+3zの値はゼロを超えることになる。
【0023】
上に示した式は、この式中の、(1)変化可能なイオンまたは係数の数値のうちの1つを規定の範囲内で選択すると同時に、それ以外の変化可能なイオンまたは係数の数値をすべて一定に維持し、(2)今度は、他の変化可能なイオンまたは係数の数値のそれぞれを規定の範囲内で同様に選択すると同時に、他を一定に維持することによって形成することができる個々の別々の化合物のそれぞれすべてを示している。変化可能なイオンまたは係数の数値のいずれかに関する規定の範囲内から、この規定の範囲によって表される群の構成要素を1つだけ選択することに加えて、このイオンまたは係数の数値の群全体の全部よりも少ないが1を超える構成要素を選択することによって複数の化合物を表してもよい。変化可能なイオンまたは係数の数値のいずれかに関する規定の範囲内から、i)この範囲で表される群全体の構成要素うちの1つのみ、または(ii)群全体の全部よりは少ないが1つを超える構成要素、を含む部分群を選択した場合、この選択された構成要素は、この部分群を形成する際に群全体の中から選択されなかった構成要素を省くことによって選択される。このような場合における1種または複数の当該化合物の特徴付けは、変化可能なイオンまたは係数の数値に関する規定の範囲の群全体(ただし、部分群を形成する際に省かれた構成要素はこの群全体の中に存在しない)を指す1つまたはそれ以上の該変化可能なイオンまたは係数の数値を定めることによって行ってもよい。
【0024】
イオン交換ステップを行う際は、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、Na、H、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、Ti、またはこれらの混合物のイオンを含む溶液中で、粒子を撹拌または粉砕または他の好適な手段を用いてかき混ぜる。イオンは、所望の元素の可溶性塩を、好適な溶媒、好ましくは水または水および水混和性溶媒(メタノール等の有機液体等)の混合物に溶解することにより得られる。塩溶液に接触させると、LiRuO粒子内のリチウム原子は溶液由来の陽イオンと置き換わる。好適な塩は、Alfa Aesar(Ward Hill,Massachusetts)、City Chemical(West Haven,Connecticut)、Fisher Scientific(Fairlawn,New Jersey)、Sigma−Aldrich(St.Louis,Missouri)、Stanford Materials(Aliso Viejo,California)等の供給業者から市販されているものを購入してもよい。好適な塩は、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、フッ化物、亜硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、または使用される溶媒に可溶な他の塩である。出発物質から除去されるリチウムの量は、イオン交換に利用できるように提供される金属イオンを、約75モル%以下のリチウムを除去するように換算することによって制御してもよい。出発物質から除去されるLiイオンの量は、典型的には、約25モル%〜約60モル%の範囲にある。例えば、2価のイオンであれば、Liイオンのモル数の半分のモル数で置き換えることになり、3価のイオンであれば、Liイオンのモル数の3分の1のモル数で置き換えることになる。溶媒に水が使用される場合は、水由来のプロトンもルテニウム酸リチウム中のリチウムとある程度置き換わる可能性がある。したがって、除去されたリチウムは、イオン交換処理に使用した金属塩の量から化学量論的に予想されるよりもやや多くなる可能性がある。
【0025】
イオン交換処理は、LiRuO組成物中で所望の程度のイオン交換を達成するのに必要であると決定された平均的な時間(典型的には24時間未満)実施してもよいし、あるいは、交換過程の進行を、溶液中のリチウム濃度の増加を分析することによって監視してもよい。このような分析は、例えば、誘導結合プラズマ−発光分光分析によって実施してもよい。別法として、例えば、金属塩が制限的な試剤である場合などでは、マグネシウム等のイオン交換用陽イオンが使い果たされたのを処理が完了した合図として監視してもよい。次いで、試料は、任意の残留塩を除去するために洗浄されるであろう。洗浄は、遠心分離、傾瀉、再懸濁、濾過、またはこれらの組合せを含む任意の好都合な手段を用いて、回分または連続方式のいずれかで実施してもよい。次いで、洗浄された粒子を乾燥し、所望により、篩にかけて解凝集する。
【0026】
抵抗体を作製するために、交換後のLiRuO組成物の乾燥粒子を、フリットとして周知の1種またはそれ以上のガラス材料と混合してもよい。本明細書において抵抗体を作製してもよい組成物の調製に好適なフリットとしては、アルミノホウケイ酸アルカリ金属亜鉛フリットおよびアルミノホウケイ酸アルカリ土類金属亜鉛フリットの一方または両方が挙げられ、これらに限定されるものではないが、以下の表1に記載の組成物が挙げられる。しかしながら、この一覧は代表的なものを示すのみであって、網羅的なものでないと解釈すべきである。表1に記載したようなフリットは、上に挙げたものなどの様々な供給業者から市販されるものを入手してもよい。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明に使用するのに好適なフリットは、典型的には、平均粒度が約0.5〜約1.5μmの範囲、好ましくは約0.8〜約1.2μmの範囲にある。これらのフリットは、約800〜約900℃の範囲、より典型的には約825〜約875℃の範囲の温度で焼成することにより抵抗体を作製するのに好適である。本明細書において使用するのに好適なフリットは従来のガラス製造技術を用いて製造してもよい。ガラスは、例えば、原材料である金属酸化物および炭酸塩から500〜1000グラムの量で製造してもよい。典型的には、材料を秤量して所望の比率で混合した後、ボトムローディング炉で加熱することによって、白金合金坩堝内で溶融物を形成させる。加熱は、溶融物が完全に液状または均質になるようなピーク温度(多くの場合、約1400〜約1600℃)および時間で実施する。溶融したガラスを逆回転するステンレス鋼ローラ間で急冷することによって、肉厚が10〜15ミル(0.25〜0.38mm)の板状ガラスを形成する。次いで、結果として得られた板状ガラスを粉砕(典型的には水中で行い、次いで乾燥させる)することによって、Microtrac X100 Laser Particle Size Analyzer(Montgomeryville,PA)等の装置で測定されたd50(50%体積分布)が0.8〜1.5ミクロンの粉末を形成する。
【0029】
交換後のLiRuO粒子およびフリットの混合物から厚膜ペーストを作製することにより抵抗体を製作してもよい。このペーストは、典型的には、スクリーン印刷可能なペーストを生成させるための有機媒体中に分散された、導電性粒子、ガラス粉末、および任意的な添加剤を含む。個々の抵抗体ペーストの抵抗値は、抵抗体組成物中の導電相の含有量を調整することならびに組成物中に存在するフリットおよび導電相の重量比を変化させることによって変化させることができる。組成物の導電相の含有量は、従来の導電性組成物に関し周知の方法と同様の方法で調整してもよく、その場合、例えば、シ−ト抵抗が約10オーム/□未満の抵抗体の場合はAg/Pd固溶体粉末の含有量を調整し、シ−ト抵抗が約10オーム/□以上の抵抗体の場合はRuOの含有量を調整する。導電相としての交換後のルテニウム酸リチウム組成物および表1からのガラス組成物を使用し、導電相をペースト組成物の約15〜約20重量パ−セントの範囲で配合することによって、100キロオーム/□〜1メグオーム/□のシ−ト抵抗を達成することができる。導電相およびフリットを合わせた含有量は、典型的には、ペースト組成物の約70重量%を構成する。
【0030】
無機成分は、典型的には、機械的混合により有機媒体と混合することによって、ペーストとして周知の粘性組成物の形態に形成される。このペーストの重要な特性は、スクリーン印刷に好適な稠度およびレオロジーを有することにある。多種多様な不活性な粘性材料を有機媒体として使用してもよい。有機媒体は、無機成分が安定に分散できるものでなければならない。媒体のレオロジー特性は、固体の安定な分散、スクリーン印刷可能な粘度およびチクソ性、基板およびペーストの固形分に対する濡れ性、乾燥の速さ、焼成時の安定性等の印刷に有用な特性を組成物に付与するものでなくてはならない。本明細書においてLiRuO組成物から形成される厚膜組成物中に使用される有機媒体は、好ましくは非水性の不活性液体である。増粘剤、安定剤、および/または他の従来の添加剤を含んでいても含んでいなくてもよい様々な任意の有機媒体を利用してもよい。有機媒体は、典型的には、ポリマーの溶媒中溶液である。さらに、少量の界面活性剤等の添加剤を有機媒体の一部としてもよい。この目的に最も頻繁に使用されているポリマーはエチルセルロースである。他の好適なポリマーの例としては、エチルヒドロキシエチルセルロース、ウッドロジン、エチルセルロースおよびフェノール樹脂の混合物、低級アルコールのポリメタクリル酸エステル、およびエチレングリコールモノ酢酸エステルのモノブチルエーテルが挙げられる。厚膜組成物中に最も幅広く使用されている溶媒は、エステルアルコール類およびテルペン類(アルファもしくはベータテルピネオール等)またはこれらと他の溶媒(ケロセン、フタル酸ジブチル、ブチルカルビトール、酢酸ブチルカルビトール、ヘキシレングリコール、ならびに高沸点アルコールおよびアルコールエステル等)との混合物である。さらに、基板に塗布した後の速やかな硬化を促進するために揮発性液体を媒体中に含有させてもよい。ルテニウム酸リチウム系の抵抗体に好適な界面活性剤としては、大豆レシチンおよびリン酸アルカリ金属塩が挙げられる。これらと他の溶媒との様々な組合せを配合することにより所望の粘度および揮発性に関する要求特性が達成される。
【0031】
有機媒体中に存在するポリマーの含有量は、典型的には、組成物全体の約8重量%〜約11重量%の範囲にある。本発明の厚膜抵抗体組成物は、有機媒体を用いて予め定められたスクリーン印刷可能な粘度に調整してもよい。厚膜組成物中の有機媒体対分散体中の無機成分の比率は、印刷設備の能力で対処できる具体的な粘度、チクソ性、および揮発性(これらは使用した有機媒体の種類に影響される)という観点で調整してもよい。通常、分散体は、良好な濡れを達成するために無機成分を約70〜約95重量%および有機媒体を約5〜約30重量%含むであろう。
【0032】
粉末は、機械的混合によって有機媒体で濡らす。少量の試料であればガラス表面上でへらを用いて手混合してもよいが、大量のペーストの場合は、通常は羽根付き撹拌機が用いられる。粉末粒子の最終的な混合および分散は、例えば、Ross(Hauppauge,NY)3本ロールミル[直径4インチ(10.16cm)×長さ8インチ(20.32
cm)のロールを備えた床置き型]等の3本ロールミルを用いて達成される。スクリーン印刷に好適なペーストの最終粘度は、約150〜約300Pa−sec[例えば、ブルックフィールドHBF粘度計(Middleboro,MA)で#6スピンドルを使用し、10rpm、25℃で測定]である。スクリーン印刷は、例えば、自動スクリーン印刷機(Engineering Technical Products,Sommerville,NJからのもの等)を用いることによって達成してもよい。乾燥後の厚みが18ミクロンの抵抗体(長さおよび幅が0.8mmの抵抗体の場合)となるように200または325メッシュのいずれかのステンレス鋼スクリーンを使用してもよい。抵抗体は、1インチ(2.54cm)四方の96%アルミナ基板上に印刷してもよい。CoorsTek(Golden,CO)が製造するような、厚みが25ミル(0.635mm)の基板などを印刷に使用してもよい。抵抗体は、850℃で予備焼成しておいたAg厚膜終端のパターン上に印刷してもよい。推奨されている30分間の焼成プロファイル(ピーク焼成温度で10分間)を用いて焼成されたDuPont5426終端(DuPont MicroCircuit Materials,Wilmington,DE)が好適である。抵抗体は、30分間のプロファイル(ピーク温度で10分間)を用いて850℃で焼成してもよい。ベルト長が233.5インチ(593.1cm)のLindberg Model 800(Riverside,MI)10ゾーンベルト式炉等の炉を使用してすべての焼成を行ってもよい。
【0033】
ペーストは、CuO、P、およびTiOから選択される1種またはそれ以上の成分をさらに含んでいてもよい。
【0034】
様々な代替的実施形態において、本発明は、Li原子が、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、H、Na、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、もしくはTi原子、またはこれらの組合せで交換されているLiRuOの粒子を含む組成物を提供する。この組成物においては、Li原子の少なくとも50モル%が交換されていてもよく、あるいはLi原子の少なくとも75モル%が交換されていてもよい。
【0035】
この組成物中におけるLiRuO粒子は、第1および第2層を備えていてもよく、第2層よりも第1層のLi原子の方がより多く交換されていてもよい。例えば、第1層のLi原子の基本的に全部(例えば、80%超、90%超、95%超、または99%超)が交換されていてもよく、かつ/または第2層のLi原子は基本的に全く(例えば、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満)交換されていなくてもよい。第1および第2層は隣接していてもよい。また、第2層の他方の面は、第2層よりも多くのLi原子が交換されていてもよいし、あるいは基本的にすべてのLi原子が交換されていてもよい第3層と隣接していてもよい。
【0036】
この組成物中において、Liと交換される原子は+2価であってもよいし、+3価であってもよい。Liと交換される原子は、Al、Cu、Mg、Zn、Fe、Ga、およびMnからなる群の1種またはそれ以上の構成要素を含んでいてもよい。この組成物は、鉛を100ppm未満、50ppm未満、または10ppm未満含んでいてもよい。
【0037】
本発明による任意の組成物から抵抗体を作製してもよく、このような抵抗体を用いて回路基板等の電子デバイスを作製してもよい。
【0038】
本発明はまた、(a)平均粒径が約0.5〜約5ミクロンのLiRuO粒子を準備し、(b)このLiRuO粒子を、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、Na、H、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、およびTiからなる群から選択される1種またはそれ以上の元素から調製されたイオンを含む溶液と接触させることによる、LiRuO組成物の調製方法も提供する。
【0039】
このような方法においては、LiRuO粒子をイオンの溶液と接触させる前に粉砕して平均粒径を約0.5〜約5ミクロンとしてもよいし、あるいはLiRuO粒子をイオンの溶液と接触させながら粉砕して平均粒径を約0.5〜約5ミクロンにしてもよい。この方法ではまた、LiRuO粒子を、水、または水および水混和性有機液体の混合物のいずれかを含む溶媒の存在下にイオンの溶液と接触させてもよい。この方法はまた、(c)結果として得られた粒子から可溶性塩を洗浄して除去するステップ、(d)洗浄した粒子を乾燥するステップ、および(e)乾燥した粒子を篩にかけることなどによって解凝集するステップを含んでいてもよい。
【0040】
本明細書における粒度は、米国特許出願公開第2007/0102427号明細書に開示された方法に従い測定してもよく、その開示内容全体を本明細書の一部としてあらゆる目的のために参照により援用するものとする。
【実施例】
【0041】
本明細書における組成物および方法の有利な特性および効果は以下に記載する一連の実施例(実施例1〜13)から理解されるであろう。実施例の基礎となるこれらの組成物および方法の実施形態は代表的なものを示すのみであって、本発明を例示するこれらの実施形態の選択は、その実施例に記載されていない材料、条件、成分、反応体、原料、技法、または手順がこれらの組成物および方法の実施に好適でないことを示すものでも、その実施例に記載されていない対象物が添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲から除外されることを示すものでもない。実施例の意義は、そこから得られる結果を、対照実験(対照A)として設計された実験から得られる結果と比較することによってより十分に理解される。対照Aにはイオン交換ではなく成分をそのまま混合することが用いられているので、このような比較の基礎となる。
【0042】
実施例においては、RuOは、Colonial Metals(Elkton,MD)より入手した。消泡剤(Surfynol(登録商標)DF−58)は、Air Products(Allentown,PA)より入手した。他の薬剤はすべてSigma−Aldrich(St.Louis,MO)より入手した。粉砕ジャーは、Paul O.Abbe(Bensenville,IL)より入手した。媒体は、イットリア安定化ジルコニアの3/8インチの円柱または2mmの球体とした。
【0043】
実施例1:LiRuOの合成
LiCOおよびRuOを使用前に100℃で一夜乾燥させた。LiCOを54.42gおよびRuO97.99gを、ゴムで内張した1リットルの粉砕ジャーに、全容積の半量の3/8インチ媒体(1700g)と一緒に装入した。ジャーを80rpmで24時間回転させた。内容物を篩別することにより媒体を除去し、粉末を浅型のアルミナトレーに載せた。空気中、トレーを1000℃で12時間加熱した。この合成により、LiRuO約120gを得た。粉末X線回折により、不純物相のないLiRuOの存在が確認された。
【0044】
実施例2:Alイオン交換
実施例1で調製したLiRuO100gを、ゴムを内張した1リットルの粉砕ジャーに、3/8インチの媒体1700gと一緒に装入した。媒体および粉末を丁度覆うのに十分な水を加えた。起泡を防ぐために消泡剤(約1.5g)も添加した。ジャーを80rpmで48時間回転させた。次いで、ジャーを開けてAl(NO・9HO76.81gを加えた。ジャーの約4分の3が満たされるまで水も追加した(粒子がさらに粉砕されるのを最小限に抑えるため)。回転をさらに24時間継続した。ミルの内容物を篩にかけてスラリーから媒体を分離し、ジャーおよび媒体を洗浄して試料を回収した。スラリーおよび洗浄液を合わせて遠心分離にかけた。上清(#1)を傾瀉したところ、重量は1133gであった。固体に水を追加して固体を再分散させた。スラリーを再び遠心分離にかけた。上清(#2)を傾瀉したところ、重量は1301gであった。再びメタノールを加えて固体を再分散させた。スラリーを再び遠心分離にかけて上清(#3)を傾瀉したところ、重量は1040gであった。固体を70℃で真空乾燥し、篩にかけて325メッシュ以下にした。
【0045】
Perkin Elmer Optima 5300 V(Waltham,Massachusetts)を用いたICP−OEP(誘導結合プラズマ−発光分光分析)によって、3つの上清のLi、Al、およびRuを分析した。リチウム含有量は、#1の2985ppmから、#2の245ppm、#3の115ppmへと減少した。アルミニウム含有量は、#1で8ppm、#2で3ppm、#3では検出されなかった(<1ppm)。ルテニウムは3つの溶液すべてで検出されなかった(<1ppm)。3つの上清のリチウム含有量およびその重量を用いることにより、除去されたリチウムの総重量、したがって重量パーセントを求めることが可能である。この場合は、最初に存在していたリチウムの45%が除去されてアルミニウムに置き換えられた。これらのデータは、試料中のリチウムの約半分がアルミニウムに置き換わり、洗い流されずに構造内に強固に結合したままになっていることを示している。結果として得られた化合物であるAl0.3Li1.1RuOを粉末X線回折によって分析した(図1の中央のパターン参照)。このパターンから、100%であったLiRuOのピーク(2θ≒18.2°)の強度がもはや低下しており、2θ≒19°に新たなピークが増大していることが示された。
【0046】
実施例3:Cuイオン交換
硝酸アルミニウムに替えて酢酸銅二水和物62.49gを用いたことを除いて、実施例2の合成を繰り返した。ICP−OES分析では、各洗浄ごとにLiが減少していた点が実施例2と類似しており、どの上清でもごく微量のCuが検出された。3つの上清のリチウム含有量およびその重量を用いることにより、除去されたリチウムの総重量、したがって重量パーセントを求めることが可能である。この場合は、最初に存在していたリチウムの52.9%が除去されて銅に置き換えられた。結果として得られた化合物であるCu0.5LiRuOを粉末X線回折により分析した。このパターンから、100%であったLiRuOのピーク(2θ≒18.2°)の強度がもはや低下しており、2θ≒19°に新たなピークが増大していることが示された。
【0047】
実施例4:Mgイオン交換
硝酸アルミニウムに替えて酢酸マグネシウム四水和物65.66gを用いたことを除いて、実施例2の合成を繰り返した。上清のICP−OES分析では、各洗浄ごとにLiが減少した点が実施例2と類似しており、上清にごく微量のMgが検出された。3つの上清のリチウム含有量およびその重量を用いることにより、除去されたリチウムの総重量、したがって重量パーセントを求めることが可能である。この場合は、最初に存在していたリチウムの49.66%が除去されてマグネシウムに置き換えられた。結果として得られた化合物であるMg0.5LiRuOを粉末X線回折により分析した。このパターンから、100%であったLiRuOのピーク(2θ≒18.2°)の強度がもはや低下しており、2θ≒19°に新たなピークが増大していることが示された。
【0048】
実施例5:Znイオン交換
硝酸アルミニウムに替えて酢酸亜鉛二水和物68.64gを用いたことを除いて、実施例2の合成を繰り返した。上清のICP−OES分析では、各洗浄ごとにLiが減少した点が実施例2と類似しており、上清にごく微量のZnが検出された。3つの上清のリチウム含有量およびその重量を用いることにより、除去されたリチウムの総重量、したがって重量パーセントを求めることが可能である。この場合は、最初に存在していたリチウムの39.9%が除去されて亜鉛に置き換えられた。結果として得られた化合物であるZn0.4Li1.2RuOを粉末X線回折により分析した。このパターンから、100%であったLiRuOのピーク(2θ≒18.2°)の強度がもはや低下しており、2θ≒19°に新たなピークが増大していることが示された。
【0049】
実施例6:Hイオン交換
実施例1で調製したLiRuO81.47gを、ゴムで内張された1リットルの粉砕ジャーに、3/8インチの媒体1700gと一緒に装入した。媒体および粉末を丁度覆うのに十分な99.99%酢酸および水の溶液63.12gを加え、ジャーを93時間回転させた。実施例2と同様に粉末を単離および洗浄した。上清のICP−OES分析では、各洗浄ごとにLiが減少した点が実施例2と類似していた。3つの上清のリチウム含有量およびその重量を用いることにより、除去されたリチウムの総重量、したがって重量パーセントを求めることが可能である。この場合、最初に存在していたリチウムの69.77%が除去されてプロトンに置き換えられた。結果として得られた化合物であるH1.40Li0.6RuOを粉末X線回折により分析した。このパターンから、100%であったLiRuOのピーク(2θ≒18.2°)の強度がもはや大幅に低下しており(Liのみの層のLiがほとんどすべて除去されているため)、2θ≒19°に新たなピークが増大していることが示された。
【0050】
実施例7:メタノール中における予備粉砕後のCuイオン交換
実施例1で調製したLiRuO100gを、1リットルのナイロン製粉砕ジャーに、3/8インチの媒体1700gと一緒に装入した。媒体および粉末を丁度覆うのに十分なメタノールを加えた。ジャーを80rpmで6日間回転させた。次いで、酢酸銅一水和物30.69gおよび水100gを加えてさらに回転を24時間継続した。このパターンから、100%であったLiRuOのピーク(2θ≒18.2°)の強度がもはや低下しており、2θ≒19°に新たなピークが増大していることが示された。ICP−OES分析では、各洗浄ごとにLiが減少した点が実施例2と類似していた。どの洗浄液においても銅は検出されなかった(<1ppm)。3つの上清のリチウム含有量およびその重量を用いることにより、除去されたリチウムの総重量、したがって重量パーセントを求めることが可能である。この場合、最初に存在していたリチウムの37.03%が除去されて、銅およびプロトンに置き換えられた。
【0051】
実施例8:CuおよびAlイオン交換
実施例1で調製したLiRuO100gを、ゴムを内張した1リットルの粉砕ジャーに、3/8インチの媒体1700gと一緒に装入した。媒体および粉末を丁度覆うのに十分な水を加えた。起泡を防止するために消泡剤(約1.5g)も加えた。ジャーを80rpmで48時間回転させた。次いで、ジャーを開けてAl(NO・9HOを61.67gおよび硝酸銅2.5水和物14.27gを加えた。ジャーの約4分の3が満たされるまでさらに水も追加した(粒子がさらに粉砕されるのを最小限に抑えるため)。回転をさらに24時間継続した。ミルの内容物を篩別することによりスラリーを媒体から分離し、ジャーおよび媒体を洗浄して試料を回収した。スラリーおよび洗浄液を合わせて遠心分離にかけた。上清(#1)を傾瀉した。メタノールを加えて、固体を再分散した。スラリーを再び遠心分離にかけた。上清(#2)を傾瀉した。さらにメタノールを加え、固体を再分散させた。スラリーを再び遠心分離にかけて、上清を傾瀉した(#3)。固体を70℃で真空乾燥し、篩にかけて325メッシュ以下にした。上清#1のICP−OESから、Alが5ppm認められ、Cuは認められず、添加した陽イオンを使い果たすまでイオン交換過程が進行し、最終組成物であるAl0.267Cu0.1LiRuOが得られたことがわかった。
【0052】
実施例9:Alイオン交換速度
本実施例は、アルミニウムが構造内のリチウムといかに速やかに交換されるかを実証するものである。実施例1で調製したLiRuO100gを、1リットルのナイロン製粉砕ジャーに、3/8インチの媒体1700gと一緒に装入した。媒体および粉末を丁度覆うのに十分な2−ヘプタノンを加えた。ジャーを80rpmで96時間回転させた。試料を、メタノールを用いて単離した。スラリーを遠心分離にかけて、上清を傾瀉した。固体を70℃で真空乾燥した。この粉末90.82gを、ゴムを内張した1リットルの粉砕ジャーに、3/8インチの媒体1700gと一緒に装入した。Al(NO・9HOを、70.15gを水100gに溶解してジャーに加えた。媒体および粉末を丁度覆うようにさらに水を追加した。消泡剤1.46gも加えた。ジャーを80rpmで回転させ、間隔を置いてICP−OES分析用の試料を採取した。1時間後のAl含有量は3990ppmであった。2時間後のAl含有量は2306ppmであった。4時間後のAl含有量は40ppmであった。6時間後のAl含有量は1ppm未満であった。
【0053】
実施例10:Feイオン交換
Fe(NO・9HO12.38gを水約20gに溶解した。LiRuO10gを125mlのプラスチックボトルに2mmの媒体250gと一緒に装入した。この鉄溶液を加えて、媒体および粉末を丁度覆うのに十分な水を追加した。このボトルをさらに大きなボトルの中に入れて、大きい方のボトルの回転に従い転動するようにした。試料を70時間回転させた。実施例2と同様にして固体を単離した。結果として得られた粉末のX線回折から、100%であったLiRuOのピークがもはや低下しており、2θ=19°に新たなピークが増大していたことから、一部のLiイオンがFeイオンに置き換わったことが確認された。
【0054】
実施例11:Gaイオン交換
硝酸ガリウム水和物7.90gを水約20gに溶解した。LiRuO10gを125mlのプラスチックボトルに2mmの媒体250gと一緒に装入した。このガリウム溶液を加えて、媒体および粉末を覆うのに十分な水を追加した。このボトルをさらに大きなボトルの中に入れて、大きい方のボトルの回転に従い転動するようにした。試料を70時間回転させた。実施例2と同様にして固体を単離した。結果として得られた粉末のX線回折により、100%であったLiRuOのピークがもはや低下しており、2θ=19°に新たなピークが成長していたことから、Liイオンの一部がGaイオンに置き換わったことが確認された。
【0055】
実施例12:Mnイオン交換
LiRuO10gを125mlのプラスチックボトルに2mmの媒体250gと一緒に装入した。硝酸Mn(II)の9.32%溶液18.05gを加えて、媒体および粉末を覆うのに十分な水を追加した。このボトルをさらに大きなボトルの中に入れて、大きい方のボトルの回転に従い転動するようにした。試料を70時間回転させた。実施例2と同様にして固体を単離した。結果として得られた粉末のX線回折により、100%であったLiRuOのピークがもはや低下しており、2θ=19°に新たなピークが成長していたことから、Liイオンの一部がMnイオンに置き換わったことが確認された。
【0056】
実施例13:抵抗体の配合
アルミニウムで交換した後のLiRuO(実施例2)を1種または数種のガラスフリットと3本ロールミルで混合した。このフリットまたはフリットの組合せは鉛フリーである。フリット組成物は、SiOが50〜63重量%、Alが0〜10%、Bが0〜10%、ZnOが10〜30%、CuOが0〜3%、BaOが3〜8%、NaOが5〜10%、SrOが7〜17%、KOが0〜3%、およびPが0〜4%の範囲にある。固体粉末を上述した方法に従い有機媒体と混合した。粉末を70重量%および有機物質を30重量%使用した。有機物質は、Aqualon T200エチルセル
ロース(Hercules,Wilmington,DE)、テルピネオール、および大豆レシチンの混合物から構成されるものとした。ペーストの粘度は、220〜260Pa.−secであった。
【0057】
結果として得られたペーストを長さおよび幅が0.8×0.8mmの長方形のパターンで、乾燥後の厚みが18ミクロンとなるようにアルミナ基板に印刷した。予備焼成した5426 Ag終端を使用した。部品をLindberg10ゾーンベルト型炉で焼成温度を850℃(ピーク焼成温度の保持時間10分間)として焼成した。焼成後の厚みは10〜14ミクロンの範囲内であった。導電物が14および16重量%のペーストの電気データを以下に示す。
【0058】
−155、25、および125℃における抵抗値を、2探針法を用いて測定した。Keithley 2000マルチメーターおよびKeithley 224プログラム電源(Cleveland,OH)を使用して測定を実施した。3種の温度を得るためにS&A Engineering 4220AQ恒温槽(Scottsdale,AZ)を使用した。シ−ト抵抗データを25℃におけるオーム/□として報告した。低温側抵抗温度係数(「CTCR」)は、[(R55℃−R25℃)/(R25℃×ΔT)]×1,000,000として定義される。高温側抵抗温度係数(「HTCR」)は、[(R125℃−R25℃)/(R25℃×ΔT)]×1,000,000として定義される。HTCRおよびCTCRの単位はいずれもppm/℃である。
【0059】
【表2】

【0060】
このデータは、本明細書に記載したLiRuO組成物を含む組成物から作製された100キロオーム/□の抵抗体のH/CTCRが+10/−40ppm/℃となり、厚膜抵抗体組成物の通常の規格の上下限である±100ppmの範囲内に十分収まることを示している。
【0061】
対照A:Al0.333LiRuOの直接合成
Al、LiCO、およびRuOを、使用前に100℃で一夜乾燥した。ゴムで内張した1リットルの粉砕ジャーの半量を3/8インチの媒体(1700g)で満たし、そこにAlを8.497g、LiCOを18.473g、およびRuOを66.535g装入した。ジャーを80rpmで24時間回転させた。内容物を篩別して媒体を除去し、粉末を浅型のアルミナトレーに載せた。空気中、トレーを1000℃で12時間加熱した。粉末X線回折から、AlLiO、RuO、およびLiRuOの存在が示された。LiRuOにAlが添加されたことの根拠になるであろう2θ≒19°の特徴的な線は存在しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li原子のみが、Al、Ga、K、Ca、Mn、H、Na、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、もしくはTi原子、またはこれらの組合せで交換されているLi2RuO3の粒子を含む組成物。
【請求項2】
Li原子の少なくとも50モル%または少なくとも75モル%が交換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Li2RuO3粒子が第1および第2層を含み、第2層よりも第1層の方がより多くのLi原子が交換されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
第1および第2層が隣接している、請求項4に記載の組成物。
【請求項5】
以下の式:M+1x+2y+3zLi2-x-2y-3zRuO3(式中、(x+2y+3z)≦1.5であり、Mは、Al、Ga、K、Ca、Mn、Na、H、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、およびTiからなる群の1つまたはそれ以上の構成メンバーから選択される)で表される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
Liと交換された原子が、Al、Cu、Mg、Zn、Ga、およびMnからなる群の1つまたはそれ以上の構成メンバーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
Li原子が、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、H、Na、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、もしくはTi原子、またはこれらの組合せで交換されており、ここでLi2RuO3粒子が第1および第2層を含み、そして第2層よりも第1層の方がより多くのLi原子が交換される、Li2RuO3の粒子を含む、組成物。
【請求項8】
Li原子の少なくとも50モル%または少なくとも75モル%が交換されている、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
第1層のLi原子の80%より多くが交換され、かつ/または第2層のLi原子の20%未満が交換される、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
第1および第2層が隣接する、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
アルミノホウケイ酸アルカリ金属亜鉛フリットおよびアルミノホウケイ酸アルカリ土類金属亜鉛フリットの一方または両方をさらに含む、請求項1または7に記載の組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の組成物を含む抵抗器。
【請求項13】
シ−ト抵抗が約100キロオーム/□〜約10メグオーム/□であり、かつ/またはTCRが±100ppm/℃である、請求項12に記載の抵抗器。
【請求項14】
請求項12に記載の抵抗器を含む電子デバイス。
【請求項15】
Li2RuO3組成物の調製方法であって、
(a)平均粒径が約0.5〜約5ミクロンであるLi2RuO3粒子を備えるステップと、
(b)Li2RuO3粒子を、Al、Ga、K、Ca、Mn、Fe、Na、H、Cr、Co、Ni、V、Cu、Zn、およびTiからなる群から選択される1つまたはそれ以上の元素から調製されるイオンを含む溶液と接触させるステップと
を含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−523612(P2011−523612A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505196(P2011−505196)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/040786
【国際公開番号】WO2009/129378
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】