説明

銀めっきボタン

【課題】金属光沢があり、装飾性に富むとともに、人体への影響を考慮して安全性が高く、かつ検針機が作動することのないボタンを提供する。
【解決手段】ボタンの基材の表面に、少なくとも無電解めっきの前処理をする工程と、銀鏡用めっき液を吹き付けて銀鏡皮膜を形成する工程と、銀鏡皮膜上にトップコート層を設ける工程を経て得ることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボタンの基材の上に、銀鏡皮膜(以下「銀めっき」と記す)層及びトップコート層を備え、基材がポリアミド、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、尿素樹脂等のプラスチックや、金属、木、皮革、陶磁器であるボタンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
服飾付属品としてボタンは、子供から大人まで殆どの衣服や寝間着等の衣料品において、留める機能と装飾性を兼ね備えて、多くの種類が作られてきた。その中でも金属光沢を目的とした従来のボタンには、クロムめっきボタン、ニッケルめっきボタン、銀めっきボタン、あるいは金属ボタン等がある。
【0003】
しかし、今日では衣服等の縫製品は製造最終段階において、折れたミシン針や鉄片等が製品内に混入していないか調べるために、すべての製品を対象に検針機を用いて検査が実施されている。この検針機は、鉄や鉄製品といった磁性体が磁場を乱すことによって、探知コイル内に微小な電流が生じ、警報回路が作動するという仕組みであるが、金属ボタンやニッケルめっきボタンも作動してしまうという問題がある。つまり、折れたミシン針や鉄片等が混入していない縫製品でも金属ボタンやニッケルめっきボタンを使用すれば、検針機の警報回路が作動するため、再検査等が必要となり作業に手間がかかってしまう。
【0004】
一方、クロムめっきボタンは、酸化されて六価のクロムイオンを含むことが多く、皮膚につくと皮膚炎や腫瘍の原因になるだけでなく、発ガン性の疑いもあるとされる物質であるため使用されなくなっている。
【0005】
そこで、これらの代替品として銀めっきボタンに着目したが、これまでの銀めっきボタンは、銀めっき表面が酸化されて黒色化及び変色、腐食や、剥離といった欠点があった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−335858号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属光沢があり、装飾性に富むとともに、人体への影響を考慮して安全性が高く、かつ検針機が作動することのないボタンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るボタンは前記目的を達成するために、少なくとも無電解めっきの前処理済み基材の表面に銀鏡用めっき液を吹き付けて銀鏡皮膜を形成する工程(1)と、銀鏡皮膜上にトップコート層を設ける工程(2)を経て得られることを特徴としている。
【0008】
また、前記のトップコート層を形成する樹脂組成物に着色料を含む構成としてもよい。
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明のボタンの基材としては、ポリアミド、ポリエチレン(PE)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、尿素樹脂等のプラスチックで成型されたボタン、並びにラバーキャスト、ダイキャスト製法等の型流しで製造された金属ボタン、及び打ち抜き、型押し等の製法で製造された金属ボタン、並びに木、皮革、陶磁器等で成型されたボタンに使用できる。
【0010】
請求項1に記載の「無電解めっきの前処理」としては主に、塩酸以外の酸を含有し、かつ第1スズ化合物と第2スズ化合物を含有する活性化処理液を基材にスプレー塗布する工程と、金属塩化合物の水溶液を基材にスプレー塗布する工程が挙げられる。必要に応じて、清浄化した基材表面にアンダーコート層を設ける場合もある。
【0011】
基材の表面を清浄する方法としては、特に限定されないが、基材がプラスチック、ゴム、木材、皮革のボタンの場合は、表面の油脂分や汚れをイソプロピルアルコール、洗剤等で素材を傷めないように取り除き、充分に乾燥させる方法が挙げられる。また、基材がガラス又は陶磁器のボタンの場合にはエチルアルコールで油脂分を取り除くが、特に多孔質の場合はイソプロピルアルコール、洗剤等で取り除く方法が挙げられる。基材が金属の場合には、表面が油脂分、錆びで汚染されているので充分に取り除き、プラスチックと同様に行う方法が挙げられる。
【0012】
基材によっては処理がしやすくなるように、必要に応じてアンダーコート層を設ける場合がある。アンダーコート層としては、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、2液硬化型ポリウレタン樹脂等からなるアンダーコート層、あるいは、アルコキシチタニウムエステル並びにエポキシ基を有するシランカップリング剤及びエポキシ樹脂のうち少なくともどちらか一方を含有する塗料からなるアンダーコート層が挙げられる。
【0013】
次いで、前記の処理を施した基材の表面に活性化処理液をスプレー塗布する。ここで、活性化処理液とは、塩酸以外の酸を含有し、かつ第1スズ化合物と第2スズ化合物を含有するものである。
【0014】
塩酸以外の酸としては、例えば臭化水素等の非塩素系の水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等のオキソ酸が挙げられる。塩酸以外の酸の使用量としては、活性化処理液の使用液1リットルあたり0.01モル〜0.4モル、より好ましくは0.02モル〜0.3モルの範囲で用いることができる。また、活性化処理液のpHは2.0以下に調製することが好ましく、更に1.5以下がより好ましい。
【0015】
活性化処理液は第1スズ化合物と第2スズ化合物を含有する。第1スズ化合物と第2スズ化合物を合わせたスズ化合物の総モル量に対して、第2スズ化合物が20〜85モル%の範囲で用いられる。更に30〜75モル%の範囲がより好ましい。また、第1スズ化合物と第2スズ化合物を合わせたスズ化合物の総モル量としては、活性化処理液の使用液1リットルあたり0.01モル〜0.4モル、より好ましくは0.02モル〜0.3モルである。
【0016】
第1スズ化合物としては、塩化第1スズ、酸化第1スズ、硫酸第1スズ、及びこれらの混合物を用いることができる。また、第2スズ化合物としては、塩化第2スズ、酸化第2スズ、及びこれらの混合物を用いることができる。
【0017】
第1スズ化合物の溶解方法は、第1スズ化合物の水への溶解性をさらに高める等の目的で、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、エーテル、アセトン、及び少量の塩酸等を加えた水溶液中で溶解することもできる。塩酸を使用する場合、活性化処理液の使用液1リットルあたり0.06モル以下、好ましくは更に0.02モル以下とする。
【0018】
このようにして活性化処理を行った後、活性化処理工程で基材表面に付着した活性化処理液を脱イオン水又は精製蒸留水で洗浄することが好ましい。洗浄後、塩化物を形成しうる金属塩化合物の水溶液を基材にスプレー塗布する。金属塩化合物としては、特に硝酸銀が好適である。
【0019】
続いて、前記の工程を経た基材の表面に銀鏡用めっき液を吹き付けて銀鏡皮膜を形成する(工程(1))。銀鏡用めっき液は、例えば以下のように調製される。
【0020】
水、好適には脱イオン水1リットルに対して、硝酸銀1〜20g、好ましくは3〜15g、28%アンモニア水溶液2〜150g、好ましくは5〜75g、例えば、モノエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノー2−ヒドロキシメチルー1,3−プロパンジオール、1−アミノー2−プロパノール、2−アミノー1−プロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミノアルコール化合物、及び例えば、グリシン、アラニン、グリシンナトリウム等のアミノ酸又はその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物0〜50g、好ましくは0〜10gを含有する銀溶液(A)を調製する。
【0021】
別に、脱イオン水1リットルに対して、例えば、硫酸ヒドラジン又はヒドラジン水和物等のヒドラジン化合物1〜50g、好ましくは2〜15gと、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム0〜20g、好ましくは0〜10gと、前記銀溶液(A)と同様のアミノアルコール化合物及びアミノ酸又はその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物0〜50g、好ましくは0〜10gとを含有する還元溶液(B)を調製する。
【0022】
銀溶液(A)及び/又は還元溶液(B)へのアミノアルコール化合物及びアミノ酸又はその塩よりなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の配合量は、これらの液を混合して得られる銀鏡用めっき液において、銀鏡用めっき液1リットル当たり、合計量が1〜50g、好ましくは3〜10gとなるように調製することが好ましい。
【0023】
前記により得られた銀溶液(A)と還元溶液(B)とを別々の圧送タンクに収納しておき、各溶液用のスプレーガンによって、両溶液を同時に表面に吹き付けて銀鏡反応処理を行い、銀鏡皮膜を形成する。処理後、脱イオン水又は精製蒸留水で洗浄し、充分に乾燥させる。
【0024】
更に、この銀鏡皮膜上にトップコート層を設ける(工程(2))。トップコート層は銀鏡皮膜上に、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、シリコーン樹脂系塗料、紫外線硬化型樹脂系塗料等を塗布することにより得られる。
【0025】
また、トップコート層を形成する樹脂組成物に着色料を含有したものを、銀鏡皮膜上にスプレー塗布することにより多様な色のボタンを得ることができる。着色料としては、非磁性体のものであればよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1に記載の銀めっきボタンは、クロムめっきボタン及びニッケルめっきボタンの代替品として使用でき、人体に安全であり、検針機が作動せず、耐密着性、耐磨耗性、耐変色性が得られるという利点に加え、銀鏡皮膜の変色及び腐食がなく、長時間に渡り銀の光沢を保持することができる優れた効果を奏し得る。
【0027】
本発明の請求項2に記載の銀めっきボタンは、前記の効果を奏し、かつ、ゴールド色、赤、青、緑、黄又はそれらの色を組み合わせた多様な色を容易に展開することが可能であるという効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下実施例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明の内容は実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)(以下のようにして、活性化処理液、銀鏡用めっき液としての銀溶液(A)、還元溶液(B)を調製した。)
(活性化処理液の調製)
0.1モルの濃硫酸中に0.1モルの硫酸第1スズを添加し攪拌した。この液を水500ミリリットルへ少しずつ攪拌しながら添加した。この後、硝酸を0.1モル、塩化第2スズを0.1モル添加し、攪拌して水を加え1リットルとした。
【0030】
(銀溶液(A)の調製)
脱イオン水1リットルに硝酸銀9gを溶解して(1)液とし、別に脱イオン水1リットルに28%アンモニア水溶液40g、モノエタノールアミン5gを溶解して(2)液とし、使用前に、これら(1)液及び(2)液を1対1で混合してアンモニア性銀溶液(A)とした。
【0031】
(還元溶液(B)の調製)
脱イオン水1リットルに硫酸ヒドラジン8g、モノエタノールアミン5g及び水酸化ナトリウム8gを溶解して還元溶液(B)とした。
【0032】
ABS樹脂及びポリエステル製品の基材表面に付着した油脂分、汚れを取り除き、水洗、乾燥し、アンダーコート塗料(BASFコーティングスジャパン社、ハイウレタンNo.5000)を、溶剤と混合して、アンダーコート層の厚さが20ミクロンとなるように塗布し、80℃で60分乾燥させ、アンダーコート層を形成した。
【0033】
次に、活性化処理液をスプレーガンで10cm四方に対し約10ミリリットルの排出量で吹き付けて活性化処理を行い、精製水にて洗浄した。
【0034】
続いて、脱イオン水1リットルに塩化物を形成しうる金属塩化合物としての硝酸銀9gを1リットルの水に溶解した水溶液をスプレーガンで吹き付けて処理し、洗浄した。
【0035】
調製した銀溶液(A)と還元溶液(B)を基材の表面に、2頭スプレーガンを使用して同時に吹き付けて銀鏡皮膜の厚さ0.2ミクロンとなるように形成させ、精製水にて洗浄した。
【0036】
最後に、銀鏡皮膜表面にトップコート剤としてBASFコーティングスジャパン社、ハイウレタンNo.5000を厚さ15〜20ミクロンになるようにスプレー塗布し、約80℃で60分乾燥させることによりトップコート層を形成した。
【0037】
(実施例2)
銀鏡皮膜を形成するまでの工程を実施例1と同様に行い、その後、トップコート剤BASFコーティングスジャパン社、ハイウレタンNo.5000に着色料としてマイクロ顔料を約5%含有させ、厚さ15〜20ミクロンになるように銀鏡皮膜上にスプレー塗布し、約80℃で60分乾燥させることにより着色の銀めっきボタンを作成した。
【0038】
実施例1及び2に記載した銀めっきボタンに対し検針機が作動するか実験した。
【0039】
その結果、実施例1及び2に記載した銀めっきボタンは、検針機が作動しなかったが、市販の金属ボタンは検針機が作動した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも無電解めっきの前処理済み基材の表面に銀鏡用めっき液を吹き付けて銀鏡皮膜を形成する工程(1)と、銀鏡皮膜上にトップコート層を設ける工程(2)を経て得られることを特徴とするボタン。
【請求項2】
トップコート層を形成する樹脂組成物が着色料を含む請求項1に記載のボタン。

【公開番号】特開2008−110101(P2008−110101A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295466(P2006−295466)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(506367124)
【Fターム(参考)】