説明

銀担持触媒及びその製造方法並びに銀触媒担持型ガス拡散電極及びそれを用いた電解酸化処理方法と電解酸化装置

【課題】 高酸化還元活性でかつ水素ガスの発生が抑制された銀担持触媒とその簡便な製造方法を提供すること。また、該銀担持触媒を含む高活性電極、とりわけ銀触媒担持型ガス拡散電極及びそれらの製造方法を提示すること。さらには、産業廃液を安全、且つ効率よく電解無害化するための電解装置を提供すること。
【解決手段】 多孔性の導電性担体の分散液中にて水溶性銀塩を湿式還元して該導電性担体に金属銀を担持させた後、該分散液のpAgを上げて金属銀担持導電性担体を凝集沈降させることによって該金属銀担持導電性担体から吸蔵された共存塩類、残存還元剤及び還元反応生成物を洗浄除去して得られたことを特徴とする銀担持触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元活性の高い電極及びその製造方法に関する。とりわけ、触媒能を有する銀、それを担持した電極及びその製造方法、中でも銀触媒担持型ガス拡散電極及びそれを用いた電解酸化処理方法と電解処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成関連の工場廃液、写真工業廃液(写真処理廃液を含む)に代表される非生分解性又は難生分解性有機化合物を多く含む産業廃液は、活性汚泥による端末処理場で処理可能となるように、一次処理を施す必要がある。一般に、一次処理には操作の簡易性の点で電解酸化処理が適切であるとされているが、有機化合物を多く含む産業廃液の場合には、有機化合物がカルボン酸のような安定な中間酸化状態で反応を停止してしまってCOD除去率が低いという問題がある。
【0003】
これに対して、特許文献1では、ダイヤモンド電極を用いて電解酸化を行うとカルボン酸類もさらに酸化されて高いCOD除去率を実現できるという記載がある。しかしながら、陽極で廃液中の成分を酸化する際に、陰極側では、水素ガスが発生し着火・爆発の危険性がある。
特許文献2には水素ガス生成抑止効果を持つアンスラキノンを電極面に介在させて電解時の水素ガス発生を抑止して水素ガスの爆発危険性を回避するとともに、電解効率を向上させる技術が開示されている。この文献には、水素ガスを副生しない電極としてガス拡散電極の可能性を示唆しているが、その一方、「ガス拡散電極は、技術的理由、経済的理由で実現するに至っていない」との記載もある。
【0004】
ガス拡散電極としては、ガスを透過する多孔質の導電性集電体に、金属銀触媒を接合した電極が検討されている。
ガス拡散電極用の銀触媒は、微粒子金属銀、多孔質銀、発泡銀等が知られている。これらの触媒を用いた場合は、銀粒子のサイズがせいぜい1μm以上なので、銀質量当たりの表面積が小さく、そのため銀の使用量が多くなり、電極の高コストとなるという欠点がある。銀微粒子触媒の作成方法としてもっともよく知られているのは、導電性担体に触媒金属である銀を微粒子状に担持させる方法であり、担持方法としては、水溶性銀塩を水に分散した担体に吸着させ、その後、銀塩を種々の方法で還元することで得られる。銀塩の還元方法としては、吸着させた担体を乾燥後、加熱して銀塩の熱分解還元を起こさせる方法が特許文献3に開示されているが、この方法では高温での焼成により銀粒子が凝集するため銀粒子サイズを制御することが困難である。より一般的方法は、銀塩を吸着させた担体の分散液に、還元剤を作用させて、無電解還元により金属銀とする方法で、例えば特許文献4にこの方法が開示されている。この方法に拠れば、低温で100nm以下のサイズの粒子を形成できること、還元剤の電位、濃度、反応温度等の条件変更で、銀粒子サイズを更に小さくできることなどの理由で、好ましい。
【0005】
湿式還元法を用いて超微粒子の金属銀を導電性の担体に担持させると、比較的少量の銀で高活性のガス拡散電極が作成できるという利点がある。このような利点を持つ湿式還元によって得た金属銀担持担体を撥水性多孔質基板と結合させて銀触媒ガス拡散電極を作製する方法が特許文献5に提示されている。しかしながら、この特許文献の記載にも拘わらず、湿式還元法による還元後の銀担持担体と反応溶液の分離、洗浄、そして電極板への固定が煩雑であり、特に、銀/担体質量比が1を越えると、銀担持担体が沈降せず、分離が極めて困難であることが判明した。
【0006】
この出願の発明に関連する前記の先行技術には、次の文献がある。
【特許文献1】特登3442888号公報
【特許文献2】特開平9−94580号公報
【特許文献3】特開2004−76084号公報
【特許文献4】特開2001−9278号公報
【特許文献5】特開平9−41181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の背景に基づいてなされたものであり、その目的は、第一に高酸化還元活性でしかも水素ガスの発生が抑制された銀担持触媒とその簡便な製造方法を提供することであり、第二には該銀担持触媒を含む高活性電極、とりわけ銀触媒担持型ガス拡散電極及びそれらの製造方法を提示することである。本発明の更なる目的は、産業廃液を安全、且つ効率よく電解無害化するための電解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の本発明の課題は、下記(1)〜(6)の銀担持触媒及びその製造方法並びに該触媒担持型ガス拡散電極、電解酸化処理装置及び処理方法によって達せられる。
(1)多孔性の導電性担体の分散液中にて水溶性銀塩を湿式還元して該導電性担体に金属銀を担持させた後、該分散液のpAgを上げて金属銀担持導電性担体を凝集沈降させることによって得られたことを特徴とする銀担持触媒。
(2)水溶性銀塩の湿式還元が、アルカリ金属元素の水素化ホウ素塩、アルデヒド類、糖類、澱粉、脂肪族多塩基酸類、ヒドラジン類および水素から選択される還元剤によって行われることを特徴とする上記(1)に記載の銀担持触媒。
(3)触媒担体が、多孔性の導電性担体であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀担持触媒
(4)多孔性の導電性担体の分散液中にて水溶性銀塩を湿式還元して該導電性担体に金属銀を担持させた後、該分散液のpAgを上げて金属銀担持導電性担体を凝集沈降させることを特徴とする銀担持触媒の製造方法。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の銀担持触媒からなる親水性多孔性層と、ガス透過性を有する疎水性多孔性層と両層間に挟まれた集電体層とから構成されたことを特徴とする銀触媒担持型のガス拡散性電極。
(6)上記(5)に記載の銀触媒担持型のガス拡散性電極を陰極として用いることを特徴とする産業排水の電解酸化処理方法。
(7)上記(5)に記載の銀触媒担持型のガス拡散性電極を陰極として用いたことを特徴とする産業廃水の電解酸化処理装置。
【0009】
本発明の銀担持触媒の特徴は、(1)該導電性担体への金属銀の担持を、多孔性の導電性担体の分散系で水溶性銀塩の湿式還元によって行ったこと、(2)湿式還元によって金属銀が担持された導電性担体の分離生成を分散液のpAg調整による凝集沈降によって行ったこと及び(3)沈降させたことによって担体から吸蔵された共存塩類、残存還元剤及び還元反応生成物の洗浄除去を単純操作で可能にしたことにある。この簡易な操作方法によって、高い酸化還元活性を有する銀担持触媒が得られ、この触媒を活用して次項に述べるような発明の効果が発現する。
【発明の効果】
【0010】
前記したように、高い酸化還元活性を有する銀担持触媒を簡易な操作方法によって得られることが本発明の第1の効果である。この銀担持触媒を親水性表面側に配した銀触媒担持型ガス拡散性導電性電極は、有機化合物濃度の高い産業廃水の処理に陰極として用いると水素の発生が抑制されて電解効率を高いレベルに維持し、高いCOD除去率で有機物濃度が高い産業排水をも処理することができる。
また、産業廃水処理への適用のほかに、化合物の電解合成への適用、とくに過酸化水素、及び過硫酸や過ほう酸などの過酸類の電解合成にも好ましく適用できる。本発明のガス拡散性陰極がこれらの高酸化性化合物の合成に適しているのは、陰極の水素発生電位を押し下げる結果として両極間の印可電圧範囲を広げることができるためと考えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をさらに具体的に詳述する。
[銀担持触媒]
本発明において、担持とは金属微粒子等の付加物が多孔性担体表面及び/又は内部表面に脱離困難に保持された状態を指す。特に担体内部表面に担持させるとより凝集が起こりにくくなるので好ましい。金属微粒子が担持される際に、表面及び/または内部が金属微粒子の生成に係る酸化物、水酸化物、ハロゲン化物又はその他の共存物等が混在する可能性があり、これら共存物があるために、触媒活性が低下する、あるいは、これら共存物が触媒毒の吸着を促進して、結果的に触媒活性を低下させる、等の弊害の可能性が知られている。そのため、後述のように触媒調製後の工程で、除去することが好ましい。
担持される銀微粒子の平均粒径は特に限定されないが、0.2nm以上、20μm未満である。200nm未満のものでは、比表面積が増加して活性が向上し、さらに平均粒径50nm以下の微粒子であると、特に好ましいと言える。
【0012】
本発明では、銀微粒子担持方法として、水などの極性溶媒中で、担体の表面に金属イオンを担体上のOH、C=O、CO2H等の極性官能基に吸着させた後、吸着した金属イオンを還元することにより、微粒子の製造及び担持を一度に行う湿式の金属担持方法を用いることができる。この方法は、製法の簡単さ等から好ましいのみならず、担体の細孔内部に金属微粒子を生成させることが出来るため、優れた方法といえる。
また、この方法は、室温付近の穏和な条件で、還元剤種、還元剤濃度、反応温度、pHなどの条件を制御することにより、担持される銀微粒子の平均粒径を容易に制御出来る点でも優れた方法である。
この方法では、まず、担体と銀塩溶液を適当な溶媒中に入れ、十分に攪拌することにより溶液中の銀イオンの担体表面(内部表面も含む)への吸着又は担体表面イオンとのイオン交換を行う。イオンの交換された担体と還元剤を混合することで銀イオンを還元させ、その後洗浄、乾燥することによって目的の銀担持触媒を得ることが出来る。以下に、銀担持触媒作成方法を詳細に説明する。
【0013】
<担体>
担体微粒子としてはカーボンブラック、ジルコニア、アルミナ、シリカ、二酸化チタン等の微粒子が使用できる。電極を作成したときの電極の通電性の向上のためには、導電性の微粒子が好ましく、導電性カーボンブラックが好ましく、銀イオンの吸着に好ましく、銀粒子と単体微粒子の接合が良好で導電性の向上が期待できる、親水性の導電性カーボンブラックが好ましい。
【0014】
<還元剤>
還元する際の還元剤としては、金属の標準電極電位よりも低い標準電極電位を持つものであれば、何でも良い。特に、均一で小粒径の金属微粒子を得るためには、希薄な溶液から、比較的低還元性条件で還元剤を用いて合成するのがよい。水素、ヒドラジン、アルコール、水素化ホウ素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコースなどを挙げることができる。還元剤として、デンプン、糖類などのを用い、アルカリ条件下で還元する方法、あるいは、ヒドロキノン、亜硫酸塩を用いて、酸性条件下で還元する方法も可能である
<溶媒>
溶媒は、水でも良いが、還元剤の溶解度や、担体の塗れ性などを考慮して、アルコールなどの水と混和する有機溶剤を併用しても良い。
【0015】
還元させる際、反応性をあげるため温度を加えることが好ましいが、反応温度としては、還元剤や媒体の沸点まで任意の温度を選択することができる。また、反応時間も還元する割合に応じて任意の時間を選択することができる。還元する雰囲気は好ましくは不活性雰囲気が望ましい。アルコールを還元剤及び媒体として用いる場合は、沸点にて加熱するのがより好ましい。
還元の際に、反応性(還元速度)を最適化するために、酸、アルカリを加えてpHを調整することも好ましい。例えば、デキストリンのような弱い還元剤を用いる場合は、KOHのような強アルカリでpHを12程度に上げてやることが好ましい。また、ハイドロキノン類と亜硫酸水素ナトリウムの混合溶液のような比較的還元速度の速い還元剤を用いる場合は、pHを弱酸性(4〜6)にして、反応速度を制御することも可能である。
担持させる金属微粒子の粒径は、層状化合物の層間や多孔材料の細孔径の大きさや還元処理温度、還元反応pH、還元剤の種類で、調節が可能であり、また、乾燥後の加熱処理温度により凝集させて大きくすることも可能である。
上記の担体中に担持させる銀微粒子の質量は、担体の2%〜400%(質量比)が好ましく、より好ましい範囲は50%〜200%である。
【0016】
<洗浄>
本発明の湿式金属担持方法においては、銀イオンの還元後に残存するカウンターアニオン、還元剤の反応生成物、余剰の還元剤や、銀イオンが残存するため、洗浄によって、除去する必要がある。洗浄には、水、極性有機溶媒又はこれらの混合溶媒を用いることが出来る。
通常一般の洗浄としては、銀担持触媒を自然沈降、あるいは、遠心沈降させて、デカンテーションする方法、または濾過が好ましく用いられる。また、沈降速度を上げたり、濾過の際の目詰まりをなくす等の目的で銀担持触媒を凝集沈降させてから洗浄することも行われる。しかしながら、微粒子の凝集沈降促進に凝集剤を用いる場合、無機凝集剤、有機高分子凝集剤のいずれも銀表面の酸化還元触媒機能に対して触媒毒になり、残留凝集剤量が多いと触媒活性を抑制するので、本発明に関しては凝集沈降促進剤の使用は好ましくない。
【0017】
<pAg及び凝集・濾過>
上記の問題点を回避して被毒を被らなくする方法として、本発明では銀担持触媒の触媒能を高いレベルで有し、かつ作製の迅速化と効率化が図られた工業的な作製方法、具体的には導電性担体を分散させた水性分散系に水溶性銀塩を添加しながら又は添加したのち、水性分散系を還元性にして導電性担体の内部空間に銀微粒子を担持させる方法を用いる。その後ハロゲンイオンの添加やpH調整あるいはその両方によってpAgをあげると、銀担持触媒の凝集が起こり、沈降・ろ過が容易になる。
pAgを上げる方法としては、ハロゲン塩(NaCl,KBr等)の添加やpH調整以外に、銀塩形成性あるいは銀錯塩形成性の有機化合物を添加しても良い。これらの添加物としては、水溶性が高く、洗浄しやすいことが好ましい。具体例としては、水溶性のアルコール類、ケトン類、メルカプト化合物類、含窒素ヘテロ環化合物、含硫黄ヘテロ環化合物などが微量で効果があり、この目的に用いることが出来る。
【0018】
好ましいpAgは、9〜18(25℃基準)の範囲であり、10〜16がより好ましい。
pAg調整用の添加剤としては、NaCl,KBrが低コストで且つ電極作成後に水性除去しやすく好ましい。水酸化銀又は酸化銀沈殿生成の抑止のためにpHは、7以上でかつpAgの値以下に制御されることが好ましい。好ましくは、pH8以上でかつpAgの値以下に制御されることが好ましい。
【0019】
[ガス拡散電極]
ガス拡散電極は、電極自体が気体を拡散透過し得る電極であり、通常陰極として用いられる。本発明のガス拡散電極は、電解槽の両電極間に通電して電解する際に、ガス拡散電極を酸素陰極(素材が多孔質体からなりガス供給室から酸素含有ガスが供給される)として用いて電解することにより、陰極で酸素還元反応が起こり、陰極電位が低下するため、電解電圧が著しく低減されるという利点を有する。また、水素ガスが発生することがないので、水素ガスに引火・爆発する危険性が回避できる。酸素陰極には酸素を供給するガス供給室を設けてもよく、それによって電解反応を加速することができる。しかしながら、ガス拡散電極の接液面と反対側が空気と接している限り空気中の酸素を利用できるので酸素供給用のガス供給機構は必須ではない。
【0020】
<ガス拡散電極の構成>
本発明のガス拡散電極は、上記銀触媒を担持した導電性で多孔性の担体を有していることが好ましい。触媒活性を有する導電性で多孔性の担体層は、電解液に接する側に設けられ、その親水性の面から反対側の撥水性の多孔性の薄層へと段階的に変わるように親水性カーボン、撥水性カーボン、フッ素樹脂微粒子などを混合成形し一体化されている。従って多孔性の酸素陰極は、酸素含有ガス供給側面から電解液に接する側面へ効率よく酸素含有ガスを供給することができ、また電解液に接する側面からは電解液が電極内に容易に浸透拡散する。陰極で発生した水素は、酸素陰極を使用した場合には発生せず、従って電解電圧の低下が可能となる。
【0021】
ガス拡散電極は、液部に接している側は、液体の浸透できる微細な孔を有する親液層すなわち銀触媒担持担体層、気体部に接している側は、液体が洩れずガスは浸透できる微細な孔を有する撥水性層とし、これらを金網などでつくられた集電体などを介して積層してなるものである。触媒活性を有する多孔性の薄層の親液層から撥水性層への変化は段階的に、好ましくは連続的に変わるように、液部に接して液体の浸透できる微細な孔を有する親液部(通路)と気体部に接して気体の出入が可能な微細な孔を有する撥水部(通路)が入り組み接し合って混在している反応層を金属網に張り合わせた構成のものも好ましい。
【0022】
具体的には、集電体である金属網の一方に、撥水性のガス拡散層を、反対側に、銀担持触媒微粒子を含む親水性の多孔性導電体層を接合させて作ることが出来る。
【0023】
<電解セルの構成>
本発明の電解酸化処理装置は、上記した銀触媒担持型導電性担体を陰極として使用し、電気化学的に貴の材料を陽極として構成される。
【0024】
<陽極>
本発明では、酸化電位が高い公知の電極材料、例えば白金、炭素とくにグラファイト、酸化鉛などの陽極を用いることができるが、導電性ダイヤモンドを陽極用電極物質として使用することが好ましく、この電極を用いれば被処理液中の難生分解性物質の電気分解を一層効率良く行うことができる。本発明において“導電性ダイヤモンド電極”とは1MΩcm未満の電気抵抗率を有するダイヤモンド構造の炭素電極を意味するが、誤解の恐れのない限り“導電性”を省略して“ダイヤモンド電極”と記すこともある。
【0025】
導電性ダイヤモンドについて述べる。電極物質であるダイヤモンドは、粉末ダイヤモンドを基体であるチタン、ニオブ、タンタル、シリコン、カーボン、ニッケル、タングステンカーバイド等の板、打抜き板、金網、粉末焼結体、金属繊維焼結体等の表面に後述の方法により被覆して構成してもよく、また板状のダイヤモンドをそのまま電極として使用しても良いが、コスト面から前者を採用することが望ましい。前者におけるダイヤモンド被覆層を本明細書では、ダイヤモンド層と記す。又密着性の確保と基体の保護とを目的として基体とダイヤモンド層の間に中間層を設けることが好ましい。中間層の材質としては基体を構成する金属の炭化物や酸化物が使用できる。基体表面は密着性と反応面積増大に寄与するため研磨することが望ましい。又電極物質としてダイヤモンド以外に少量の他の電極物質を含有していても良い。基体はダイヤモンドの集電体としても機能し、ダイヤモンド板を使用する場合には、別に集電体を用意してダイヤモンド電極への給電を行う必要がある。
【0026】
十分な電導性を付与するためのドーピングには、プラズマ増強CVD(PECVD)ダイヤモンド蒸着法を利用することが好ましい。ドーピングされた電極の製作方法の詳細は、例えば、Ramesham, Thin Solid Films 229巻 (1993)、 44〜50頁に記載されている。PECVDダイヤモンド層は、マイクロ波プラズマにより活性化したメタン及び水素ガスの混合物から製造したホウ素ドーピング化多結晶質ダイヤモンドである。この方法によるダイヤモンド層の蒸着は当業者によく理解されている(例えば、Klages, Appl.Phys. A56巻 (1993) 、513〜526頁 を参照)。
【0027】
熱フィラメントCVD(HFCVD)法(Klages, Appl.Phys. A56巻 (1993) 、513〜526頁を参照)により製造したダイヤモンド層は、Advanced Technology Materials.Inc., 7 Commerce Drive, Danbury,CT 06810から市販されている。
ダイヤモンド電極の製法としては、特開平8-225395号公報段落0007に記載されている真空チャンバー内での化学蒸着法も好ましい。
【0028】
<電解酸化装置の構成>
前記したように、本発明の銀触媒担持型ガス拡散電極は、電解酸化合成、とくに過酸化水素、及び過硫酸や過ほう酸などの過酸類の電解合成、並びに産業廃水、特に化学産業廃水の電解酸化処理が好ましい適用対象であるが、以下の電解酸化装置の構成の説明は、後者の電解酸化処理装置について説明する。前者の電解合成装置についても実質的に同様の装置を用いることができる。
図1には、本発明の電解酸化処理装置の典型的構成例を模式的に示した。図1の電解酸化処理装置において、電解酸化処理装置1は、電解槽2と銀触媒担持型導電性ガス拡散電極3と陽極4から構成されている。廃液タンク5は、被処理廃液6が貯留されている。廃液6は矢印で示す配管10とポンプ9を含む循環系によって廃液タンクから電解酸化処理装置1に送液され、装置1において電解槽2の被処理液とガス拡散電極2表面の銀触媒担持型導電性担体との接触面で接触還元され、被処理液と陽極4との接触面で陽極酸化が行なわれる。電解酸化が行なわれた被処理液は、配管10により再び廃液タンク5に還流される。廃液タンク5の上部空間7の滞留ガスは抜き取られて水素ガス検知器8で水素ガスがモニターされる。なお、電解槽2で電極発生したガスは、装置外へ漏れることなく上部空間7に導入される構造となっている。また、図1には示してないが、電解槽2には、銀触媒担持型導電性ガス拡散電極3と陽極4の間に被処理液の流通可能の隔膜が設けられている態様が好ましい。
【0029】
[被処理液]
本発明の銀担持触媒を適用した銀触媒担持型導電性ガス拡散電極を用いた電解酸化処理によって、とりわけ高酸化電位の陽極特にダイヤモンド電極との組合せによって、高いCOD値の廃液の環境負荷を軽減することができる。
好ましい適用対象は、有機合成関連の工場廃液、写真工業廃液(写真処理廃液を含む)に代表される非生分解性又は難生分解性有機化合物を多く含む産業廃液である。
多くの有機溶剤類や有機合成原料は、微生物生長阻害性であり、また、微生物分解を進めることができても、COD値が高い中間酸化段階で生分解が停止してしまう。
【0030】
写真廃液もそのような有機化合物を写真処理剤として多量に含んでいる。写真廃液には処理液処方に含まれて消費されなかった構成薬品、すなわち現像液由来の現像主薬、アルカリ化合物、緩衝剤、亜硫酸塩やヒドロキシルアミン誘導体などの補恒剤、アルカリハライドなど、定着系処理液由来のチオ硫酸や亜硫酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アルカリハライドなど、漂白系処理液由来のポリアミノポリカルボン酸鉄(III)錯塩などの漂白剤、再ハロゲン化剤、緩衝塩など、その他各工程槽から排出される硬水軟化剤、界面活性剤などの機能性化合物など、が含まれているほかに、処理中に感光材料から溶出した例えばゼラチンや感光色素などの溶出成分及び処理中に生じた反応生成物が混在しており、多岐に亘る化学成分を含んでいる。
写真廃液を水質環境要因からみれば、高濃度のBOD 、COD 、窒素、リンを含み、且つ、生物処理または化学処理によっても難分解性成分が多量に含まれている。処理の種類及びその処理の各工程からの廃液の混合比率によりかなり変動はするが、おおよそCOD 30,000〜50,000 mg/l、BOD 5,000 〜15,000 mg/l、TOC(Total Organic Carbon) 10,000〜25,000 mg/l、ケルダール窒素 10,000 〜15,000 mg/l、トータル燐 100〜500mg/l の範囲である。COD:BOD:TOC の比率は概ね 4:1:1.5でCOD が高い特徴があり、またC:N:P の元素比率はほぼ 100:100:1でN の含有率が高い特徴がある。
【実施例】
【0031】
(銀触媒担持型ガス拡散電極の作製)
1)銀担持カーボン担体試料1の作製
200質量%(担体基準)の銀を担持したカーボン担体を以下のように作製した。カーボンブラック(電気化学工業製 アセチレンブラックHT−100)2gと硝酸銀(試薬級、和光純薬製)6.79gを300mlの水溶液中に分散又は溶解させた。水性分散液を氷冷し、攪拌子を用いて、15分間攪拌しながら、反応容器内を窒素置換した後、NaBH4、1.81gを0℃の冷水40ccと混合して撹拌溶解し5分以内一気に添加し、そのまま1時間撹拌した。NaClを5.0g添加し、銀担持したカーボンブラックを凝集進行させた。このとき、反応液のpAgは10.2であった。一時間撹拌後、富士ミクロフィルターFM40を用いて、ろ過した。ろ過は、1時間で終了し、蒸留水100ccで3回洗浄した。40℃のオーブン中で水分を蒸発し、乾燥させ、200質量%銀担持カーボン担体試料1の粉末を得た。
【0032】
2)銀担持カーボン担体試料2の作製
カーボンブラックをLION社製ケッチェンブラックEC−600JDに変更した以外は、上記担体試料1の作製と同様にカーボンブラック存在下で硝酸銀をNaBH4で還元し、NaCLを5.0g添加し、銀担持したカーボンブラックを凝集進行させた。このとき、反応液のpAgは9.8であった。一時間撹拌後、富士ミクロフィルターFM40を用いてろ過した。ろ過は1時間で終了し、蒸留水100ccで3回洗浄した。40℃のオーブン中で水分を蒸発し、乾燥させ、200質量%銀担持カーボン担体試料2の粉末を得た。
【0033】
3)銀担持カーボン担体試料3の作製
カーボンブラックをCabot社製Valcum XC−72に変更した以外は、上記担体試料1の作製と同様にして銀担持カーボン担体試料3の粉末を得た。
【0034】
4)銀担持カーボン担体試料4の作製(比較例)
NaClを5.0g添加しない以外は上記担体試料1の作製と同様に銀担持したカーボンブラックを作成した。ろ過には6時間かかり、蒸留水による洗浄にも一回2時間以上かかり、作業効率が悪かった。
【0035】
(反応層用粉末の調製)
得られた200質量%の銀担持カーボン担体試料1の0.18gを、蒸留水15mlに加え、ポリテトラフルオロエチレン懸濁重合液(ポリフロンディスパージョン、D−1;ダイキン工業製、平均粒径 0.3μm分散剤:Triton X-100)を0.04g加え、超音波分散機で10分間分散させた後、エタノールを30ml加えて、30分攪拌した。これをろ過したのち、40℃において24時間乾燥し、反応層用粉末を得た。
【0036】
(ガス拡散層用粉末の調製)
カーボンブラック(電気化学工業製のデンカブラックAB−7(登録商標)):界面活性剤(ロームアンドハース社製のトライトンX−100):水=1:1:20(質量比)の混合物に、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン(ダイキン工業製のPOLYFLON(登録商標)TFE D−1(固形分60質量%))を、カーボンブラック:ポリテトラフルオロエチレン=7:3(質量比)となるように加えて、超音波分散機で10分間分散させた。その後、エタノールを加えて分散液中の粒子を凝集させた。続いて凝集物の吸引ろ過を行い、得られた固形分を100℃において24時間乾燥した後に、粉砕機で粉砕して一次微粉化を行い200メッシュの「ふるい」で粗大粒子を除去した。次いで、エタノール中でこの粉末を1時間攪拌し、界面活性剤の洗浄除去を行った。その後、さらに粉砕機を用いて微粉化し、200メッシュの「ふるい」で粗大粒子を除去することによってガス拡散層用粉末を得た。
【0037】
(ガス拡散電極GDEの作製)
内径20mmのホットプレス用金型の底部にアセトンで脱脂したアルミニウム箔を載置し、アルミニウム箔上に、線径0.1mm、100メッシュのニッケル網を置き、ガス拡散層用粉末を0.1g充填した後、反応層用粉末を0.05g充填して、冷間プレスを行った。その後、金型を370℃に保ってホットプレス機(テスター産業株式会社製SA−303)に保持し、60kg/cmで1分間のホットプレスを行って、ガス拡散電極を得た。
【0038】
(電解装置の構成)
陽極に三井物産プラント(株)より購入したダイヤモンド電極(BDD)を、陰極にSUS316を使用した無隔膜の電解槽を作製した。電解液に接する電極面積は、陽極、陰極共に、40cmであった。電極間距離は、15mmとした。
これを比較用の電解酸化処理装置とした。
また、上記比較用電解酸化処理装置のSUS316陰極を、前記の各ガス拡散電極GDEに置き換えて本発明の電解酸化処理装置とした。
【0039】
(写真廃液)
富士フイルム製ミニラボフロンティア340Eの廃液1Lを、スチールウール200gに浸漬し、一晩放置した。廃液をデカンテーションして、スチールウールを除去した後、アルカリを加えてpH=12とした。沈殿した、水酸化鉄を、静置沈降後、ろ別し、電解用の廃液に用いた。
【0040】
(電解実験)
電解酸化処理装置は、図1を用いて説明した態様の装置を使用した。本発明例では、ガス拡散電極3に前記銀担持カーボン担体試料1を用いた銀担持型ガス拡散電極を用い、比較例ではSUS316陰極を使用した。電解槽と廃液タンクの間を、流速1L/minで廃液を循環させた。高砂製作所製、KX100Lを電源に用い、通電量1Aで定電流電解(電流密度0.25A/dm)を行った。
廃液タンク上部空間(図1の空間7)で電解発生ガスを採取し、10倍に希釈後、北川式ガス検知管で水素濃度を測定した。
【0041】
SUS316陰極を使用した比較例では、水素濃度は3%であり、水素ガス/空気混合気体の爆発限界に近いので危険であった。
一方、陰極を、上記のガス拡散電極に変更した以外は、同様にして、定電流電解を行い、電解ガス中の水素濃度を測定したところ、空気希釈せずに測定しても水素濃度は0.05%であり、明らかに電解水素ガス発生が抑えられていることがわかった。
次に、銀担持型ガス拡散電極の銀担持カーボン担体試料1を銀担持カーボン担体試料2及び銀担持カーボン担体試料3に変更して同じ試験を行った。同様に電解水素ガス発生が抑えられていることがわかった。
【0042】
さらに、銀担持触媒を、比較用の銀担持カーボン担体試料4に変更してガス拡散電極を作成し、同様に定電流電解を行ったところ、廃液タンク上部空間の水素濃度は、空気希釈せずに測定して0.2%であり、水素ガス発生は抑えられていることが示されたが、触媒担持担体の凝集と洗浄が不十分であり、水素ガス発生低減活性が劣ることが示された。
上記各廃液処理試験において、120時間の通電処理の時点で被酸化処理液を採取してCOD除去率を測定した。CODの測定は、JIS K0102(工業排水試験方法)に準拠した。結果は次の通りであった。
【0043】
陰極 COD除去率 参考
SUS316陰極 75% 比較例
銀担持カーボン担体試料1を用いたガス拡散電極 76% 本発明
銀担持カーボン担体試料2を用いたガス拡散電極 74% 本発明
銀担持カーボン担体試料3を用いたガス拡散電極 72% 本発明
銀担持カーボン担体試料4を用いたガス拡散電極 73% 比較例
【0044】
上記の電解中の平均セル電圧を下表に示す。
陰極種 セル電圧
比較例 SUS陰極 5.2V
本発明 銀担持カーボン担体試料1を用いたガス拡散電極 4.7V
本発明 銀担持カーボン担体試料2を用いたガス拡散電極 4.7V
本発明 銀担持カーボン担体試料3を用いたガス拡散電極 4.7V
比較例 銀担持カーボン担体試料4を用いたガス拡散電極 5.0V

【0045】
すなわち、pAg調整下で銀触媒担持担体を凝集させて作製したガス拡散電極(本発明例)では、水素ガスの発生の危険がなく、約10%少ない電解電力でCODを除去できることが示された。
一方、洗浄不十分なガス拡散電極の場合は、電解電力の節減は4%に留まった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の銀担持触媒型導電性担体を用いたガス拡散電極を有する電解酸化処理装置の一実施形態の概略断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 電解酸化処理装置
2 電解槽
3 銀触媒担持型導電性ガス拡散電極
4 陽極
5 廃液タンク
6 被処理廃液
7 上部空間
8 水素ガス検知器
9 ポンプ
10 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体の分散液中にて水溶性銀塩を湿式還元して該担体に金属銀を担持させた後、該分散液のpAgを上げて金属銀担持担体を凝集沈降させることによって得られたことを特徴とする銀担持触媒。
【請求項2】
水溶性銀塩の湿式還元が、アルカリ金属元素の水素化ホウ素塩、アルデヒド類、糖類、澱粉、脂肪族多塩基酸類、ヒドラジン類および水素から選択される還元剤によって行われることを特徴とする請求項1に記載の銀担持触媒。
【請求項3】
触媒担体が、多孔性の導電性担体であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀担持触媒
【請求項4】
担体の分散液中にて水溶性銀塩を湿式還元して該担体に金属銀を担持させた後、該分散液のpAgを上げて金属銀担持担体を凝集沈降させることを特徴とする銀担持触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の銀担持触媒を含有する親水性多孔性層と、ガス透過性を有する疎水性多孔性層と、両層間に挟まれた集電体層とから構成されたことを特徴とする銀触媒担持型のガス拡散性電極。
【請求項6】
請求項5に記載の銀触媒担持型のガス拡散性電極を陰極として用いることを特徴とする産業廃水の電解酸化処理方法。
【請求項7】
請求項5に記載の銀触媒担持型のガス拡散性電極を陰極として用いたことを特徴とする産業廃水の電解酸化処理装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−51457(P2006−51457A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235770(P2004−235770)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】