説明

銅張積層板の製造方法

【課題】 銅箔とポリイミド樹脂との接着力を向上させた銅張積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】 表面処理された銅箔上に樹脂層を形成して得られる銅張積層板の製造方法であって、銅箔を酸水溶液でソフトエッチングする工程、銅箔と樹脂層との接着力を向上させる機能を有するアミノ基とチオール基のような少なくとも1種以上の官能基を有する有機表面処理剤を溶解した処理液で銅箔を表面処理する表面処理工程、前記有機表面処理剤を溶解可能な有機溶剤を使用して有機表面処理剤の表面層を部分的に溶解除去する洗浄工程と、表面処理が施された銅箔上にポリイミド前駆体のフィルムを密着する密着積層工程と、ポリイミド前駆体をイミドするイミド化工程を有する銅張り積層板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面処理された銅箔に樹脂フィルムを密着積層した銅張積層板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の電子回路には、絶縁材と導電材からなる積層板を回路加工したプリント配線板が使用されている。プリント配線板は、絶縁基板の表面(及び内部)に、電気設計に基づく導体パターンを、導電性材料で形成固着したものであり、基材となる樹脂の種類によって、板状のリジットプリント配線板と、柔軟性に富んだフレキシブルプリント配線板とに大別される。フレキシブルプリント配線板は、可撓性を持つことが特徴であり、常時屈曲を繰り返すような可動部では接続用必需部品となっている。また、電子機器内で折り曲げた状態で収納することも可能であるために、省スペース配線材料としても用いられる。フレキシブルプリント配線板の材料となるフレキシブル基板は、基材となる樹脂にはポリイミドエステルやポリイミドが多く用いられているが、使用量としてはポリイミドが圧倒的に多い。一方、導電材には導電性の点から一般に銅が用いられている。
【0003】
フレキシブル基板は、その構造から三層フレキシブル基板と、二層フレキシブル基板がある。三層フレキシブル基板は、ポリイミドなどのベースフィルムと銅箔を貼り合わせ一体化するためエポキシ樹脂やアクリル樹脂などの接着剤を使用し、ベースフィルム、接着剤、銅箔の3層で構成される積層板である。一方、二層フレキシブル基板は特殊工法を採用して、接着剤を使用せずに、ベースフィルム、銅箔の2層で構成される積層板である。二層フレキシブル基板は有機材料として耐熱性に優れたポリイミド樹脂だけを使用しているので、耐熱性の劣るエポキシ樹脂やアクリル樹脂などの接着剤を用いている三層フレキシブル基板よりも信頼性が高く、また、回路全体の薄膜化が可能でありその使用量が増加している。
【0004】
近年、電子機器における高性能化、高機能化の要求が高まっており、それに伴って電子デバイスに使用される回路基板材料であるプリント配線版の高密度化が望まれている。プリント配線版を高密度化するためには、回路配線の幅と間隔を小さくする、すなわちファインピッチ化する必要がある。先に記述したように、プリント配線板は導電性材料と樹脂フィルムを貼り合わせたものであるが、従来、導電性材料としては、樹脂との接着力を高めるために粗度が高い若しくは粗化処理された銅箔を用いていた。しかしながら、ファインピッチが要求される用途に、粗度が高い銅箔を用いて作成した積層板を使用すると、エッチングで回路を形成する際に、樹脂に銅箔が残る根残りが生じたり、エッチング直線性が低下して回路幅が不均一になりやすい等の問題が生じる。このため、プリント配線板を高密度化、ファインピッチ化するためには、表面粗さの小さい銅箔を使用する必要がある。
【0005】
しかしながら、表面粗さの小さい銅箔は、アンカー効果、すなわち樹脂の銅箔表面の凸凹への食い込みが小さいため、機械的な接着強度が得られず、そのため樹脂に対する接着力が低い。そこで、表面粗さの小さい銅箔と樹脂との接着力を高めることが課題となっている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−27162号公報
【特許文献2】特開2002−321310号公報
【0007】
例えば、特開2003−27162号公報には、ポリアミック酸を含むワニスを原料として樹脂基板とする2層プリント配線板用の積層板において、ワニスとの濡れ性が良好で粗化処理を施さずにポリイミドとの直接接合が可能な表面粗さの小さい積層板用の銅合金箔を提供する方法が開示されている。しかし、上記方法においては、接着性を向上するために、銅合金中へ副原料としてニッケル、銅シリコン母合金、銀、アルミニウム、銅ベリリウム母合金、コバルト、銅鉄母合金、マグネシウム、マンガン、銅リン母合金、鉛、スズ、チタン、亜鉛等の添加が必要であり、また、銅箔への有機防錆処理はポリアミック酸を含むワニスとのぬれ性を改善するために行うことを示すのみで接着性の向上効果は不十分である。
【0008】
特開2002−321310号公報には、銅表面をアゾール化合物及び有機酸を含有する水溶液と接触させることで、銅表面にアゾール化合物の厚い皮膜を形成し、樹脂との接着力を向上する方法が開示されている。しかし、この方法を採用するだけでは、接着性の向上効果は不十分であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、銅箔と樹脂との接着力を向上させる方法及び銅張り積層板の製造方法が種々検討されているが、これを満足する方法はいまだ見出されていない。本発明は、接着性が良好な銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者等が検討を行ったところ、銅箔と樹脂層との接着力を向上させる機能を有する有機表面処理を施した表面処理銅箔を、ポリアミック酸を含むワニスを加熱乾燥することで作成したポリイミド前駆体フィルムと密着することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、表面処理された銅箔上に樹脂層を形成して得られる銅張積層板の製造方法であって、銅箔を、少なくとも1種以上の官能基を有し、銅箔と樹脂層との接着力を向上させる機能を有する有機表面処理剤を溶解した処理液で表面処理する表面処理工程と、前記有機表面処理剤を溶解可能な有機溶剤を使用して、有機表面処理剤の表面層を部分的に溶解除去する洗浄工程と、表面処理が施された銅箔上に、ポリイミド前駆体のフィルムを密着する密着積層工程とを有する銅張り積層板の製造方法である。
【0012】
まず、銅箔を、少なくとも1種以上の官能基を有し、銅箔と樹脂層との接着力を向上させる機能を有する有機表面処理剤を溶解した処理液で表面処理する表面処理工程(表面処理工程Aともいう)について説明する。
本発明で用いられる銅箔は特に限定されるものではないが、フレキシブル基板用途に用いる場合の銅箔の好ましい厚みは5〜50μmの範囲であり、より好ましくは8〜30μmの範囲であるが、ファインピッチの要求される用途で用いられる銅張積層板には、薄い銅箔が好適に用いられ、この場合、8〜20μmの範囲が適している。また、本発明は表面粗度が小さい銅箔を用いても樹脂層に対する優れた接着性が得られることから、特に、表面粗度が小さい銅箔を用いる場合に適している。好ましい銅箔の表面粗度は、十点平均粗さで0.1〜3μmの範囲が適している。特にファインピッチの要求される用途で用いられる銅箔については、表面粗度は十点平均粗さで0.1〜1μmが適している。なお、銅箔には銅を主成分とする銅合金箔を含む。
【0013】
表面処理工程Aを良好に行うために、銅箔表面の表面酸化物を除去するために予め酸水溶液で洗浄する工程を設けることが好ましい。この工程をソフトエッチングする工程という。ここで、用いられる酸水溶液は、酸性であればいかなる水溶液も用いることができるが、特に、塩酸水溶液や硫酸水溶液が好ましい。また、濃度は0.5〜50wt%の範囲がよいが、好ましくは1〜5wt%の範囲である。pHは2以下とすることが好ましい。
【0014】
表面処理工程Aで使用される有機表面処理剤としては、少なくとも1種以上の官能基を有する化合物であり、処理液はこの有機表面処理剤を溶解可能な溶剤に溶解したものである。有機表面処理剤は銅箔と樹脂層の接着力を高めるものから選択される。そのためには、有機表面処理剤は両者の接着力を高める官能基を有する。かかる官能基としては、アミノ基又はチオール基が好ましいものとして例示される。有利には、官能基としてアミノ基とチオール基を有する化合物であり、より好ましくはアミノ基とチオール基を置換基として有する複素環化合物である。
この複素環化合物を構成する複素環としては、異種元素としてNを1〜4個有する単環又は2〜3の環を有する縮合環があり、その他の異種元素としてOやSを1〜2個含んでもよい。そして、好ましくは5〜6員環の芳香族複素環又はその縮合環である。
【0015】
好ましい有機表面処理剤の具体例を挙げると次のような化合物があるが、これに限定されるものではない。
【0016】
5−アミノ−1H−テトラゾール、2−アミノ−1,3,5−トリアジン−4,6−ジチオール、3−アミノ−1,2,4−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−カルボン酸、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−チオール、2−アミノ−5−トリフルオロメチル−1,3,4−チアジアゾール、5−アミノインダゾール、4−アミノインドール、5−アミノインドール、3−アミノ−1H−イソインドール、1−アミノイソキノリン、5−アミノイソキノリン、3−アミノイソキサゾール、5−アミノ−2−メルカプトベンズイミダゾール、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール、4−アミノ−6−メルカプトピラゾロ[3,4−d]ピリミジン、2−アミノ−4−メトキシベンゾチアゾール、3−アミノ−5フェニルピラゾール、3−アミノ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン、2−アミノ−4−フェニル−5−テトラデシルチアゾール、2−アミノ−5−フェニル−1,3,4−チアジアゾール、2−アミノ−4−フェニルチアゾール、4−アミノ−5−フェニル−4H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール、3−アミノフタルヒドラジン、2−アミノ−6−(メチルスルフォニル)ベンゾチアゾール、2−アミノ−4−メチルチアゾール、2−アミノ−5−(メチルチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3−アミノ−5−メチルチオ−1H−1,2,4チアゾール、6−アミノ−1−メチルウラシル、3−アミノ−5−ニトロベンズイソチアゾール、9−アミノ−1,2,3,4−テトラヒドロアクリジン、9−アミノアクリジン、2−アミノ−1,3,4−チアジアゾール、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、2−アミノチアゾール、2−アミノ−4−チアゾールアセチックアシッド、2−アミノ−2−チアゾリン、2−アミノ−6−チオシアネートベンゾチアゾール、DL−α−アミノ−2−チオフェンアセチックアシッド、3−アミノ−5−ヒドロキシピラゾール、2−アミノ−3−ヒドロキシピリジン、5−アミノ−8−ヒドロキシキノリン、2−アミノ−4−ヒドロキシ−6−トリフルオロメチルピリミジン、2−アミノイミダゾール、5−アミノイミダゾール−4−カルボキシアミド、4−アミノ−5−イミダゾールカルボキシアミド、2−アミノ−4,5−イミダゾールジカルボニトリル、4−アミノ−6−ヒドロキシ−2−メルカプトピリミジン、2−アミノ−4−ヒドロキシ−6−メチルピリミジン、2−アミノ−6−プリンチオール、アミノピラジン、3−アミノピラジン−2−カルボン酸、3−アミノピラゾール、3−アミノ−4−ピラゾールカルボニトリル、3−アミノ−4−ピラゾールカルボキシアミド、3−アミノ−4−ピラゾールカルボン酸、4−アミノピラゾロ[3,4−d]ピリミジン、1−アミノピレン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、4−アミノ−5−(4−ピリジル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール、2−アミノピリミジン、4−アミノピリミジン、N4−(2−アミノ−4−ピリミジニル)スルファニルアミド、3−アミノピロリジン、4−アミノキナリジン、3−アミノキノリン、3−アミノロダニン、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、2−アミノプリン、アデニン、4−(アミノメチル)ピペリジン、3−(アミノメチル)ピペリジン、2−(アミノメチル)ピペリジン、3−アミノ−5−メチルピラゾール、2−(アミノメチル)ピリジン、3−(アミノメチル)ピリジン、4−(アミノメチル)ピリジン、2−アミノ−4−メチルピリミジン、3−アミノ−2−メチル−4(3H)キナゾリノン、5−アミノ−2−メチルインドール、5−アミノ−3−メチルイソチアゾール、3−アミノ−5−メチルイソキサゾール、3−アミノ−2−メトキシジベンゾフラン、2−アミノ−α−(メトキシイミノ)−4−チアゾールアセチックアシッド、2−アミノ−4−メトキシ−6−メチルピリミジン、2−アミノ−4−メトキシ−6−メチル−1,3,5−トリアジン、3−アミノ−5−(4−メトキシフェニル)ピラゾール、5−アミノ−2メトキシピリジン、4−アミノ−6−メトキシピリミジン、8−アミノ−6メトキシキノリン、2−(アミノメチル)ベンズイミダゾール、2−アミノ−1−メチルベンズイミダゾール、アザアデニン、チオグアニン等。これらを単独にあるいは組み合わせて用いることができる。
【0017】
また、有機表面処理剤を溶解する溶剤としては、炭素数1〜8の炭化水素系アルコール類、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等、炭素数3〜6の炭化水素系ケトン類、例えば、アセトン、プロパノン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等、炭素数4〜12の炭化水素系エーテル類、例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等、炭素数3〜7の炭化水素系エステル類、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、マロン酸ジエチル等、炭素数3〜6のアミド類、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド、炭素数2のスルホキシド化合物、例えば、ジメチルスルホキシド等、炭素数1〜6の含ハロゲン化合物、例えば、クロロメタン、ブロモメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロルエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン等、炭素数4〜8の炭化水素化合物、例えば、ブタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0018】
処理液の有機表面処理剤濃度は、0.0001〜1mol/lで用いることが好ましく、低濃度である方が銅箔表面への余分な有機表面処理剤の付着が少ない点で有利と考えられるが、低濃度すぎると銅箔と樹脂との接着力向上効果がなくなるので、より好ましくは0.0005〜0.002mol/lである。
【0019】
上記処理液で銅箔表面を処理する場合、処理面全面に処理液と銅箔表面が接触すればよく、その方法は限定されないが、均一に接触させることが好ましい。銅箔を処理液に浸漬してもよく、また、スプレー等で銅箔に吹き付けても、適当な工具で銅箔に塗布してもよい。また、この際の処理液の温度は、好ましくは10〜100℃、より好ましくは10〜50℃の範囲である。
【0020】
表面処理工程Aの終了後、銅箔表面に余分に付着した有機表面処理剤を有機溶剤で溶解除去する洗浄工程(洗浄工程Bともいう)を行うことを必要とする。この洗浄工程Bで使用する有機溶剤には、有機表面処理剤を溶解することができる溶剤を使用することができる。例としては、上記記載の有機溶剤を用いることができるが、経済的な観点から、安価なメタノールが好適に用いられる。
【0021】
洗浄工程Bで銅箔表面を有機溶媒で洗浄する方法は限定されない。溶媒に浸漬してもよく、また、スプレー等で吹き付けて洗い流しても、適当な基材にしみ込ませてふき取ってもよい。この洗浄では、銅箔表面に余分に付着した有機表面処理剤を溶解除去するが、有機表面処理剤の全部を除去してはならない。有利には、有機表面処理剤の膜が銅箔表面に単分子膜程度の厚みとなるように有機表面処理剤を洗浄除去する。この方法としては、まず水で洗浄する工程を上記洗浄工程の前に設け、次に上記洗浄工程Bを行い、その後、更に水で洗浄する工程を設ける方法がある。この際の上記洗浄工程における溶剤の温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは5〜50℃の範囲である。また、洗浄時間は、好ましくは1〜1000秒間、より好ましくは3〜600秒間の範囲である。溶剤の使用量は、好ましくは銅箔1m2あたり1〜500L、より好ましくは3〜50Lの範囲である。
【0022】
本発明においては、上記洗浄工程によって銅箔表面に存在する有機表面処理剤の量を調整することで、銅張積層板とした場合のポリイミド樹脂との接着力をより向上させることができる。有機表面処理剤としては、前記したアミノ基とチオール基とを官能基として有する複素環化合物を使用した場合、その銅箔上の存在量は、エネルギー分散型X線(EDX)分析装置(堀場製作所製)を用い、加速電圧は10kV、エミッション電流は10.0μA、収集時間は600秒の測定条件として銅箔表面を測定した場合に検出される硫黄濃度の範囲が、0.05〜0.5wt%であることが好ましく、0.1〜0.4%wtであることがより好ましい。別の観点からは、通常の方法(洗浄処理なし)で有機表面処理剤を使用して表面処理した場合の有機表面処理剤の存在量Aと、有機表面処理剤を溶解する有機溶剤を使用して有機表面処理剤で表面処理した表面層を部分的に溶解洗浄処理する洗浄工程を経た後の有機表面処理剤の存在量Bが、B/A=0.12〜0.8、好ましくは0.2〜0.6となる範囲とすることがよい。ここで、有機表面処理剤の存在量はチオール、アミン等の官能基中のS、N等の元素をEDX分析することにより計算される。有機表面処理剤の濃度(チオール基を官能基として有する表面処理剤を使用した場合は硫黄濃度)の範囲が上記範囲から外れると、銅箔と樹脂層との接着力の確保が難しくなる。
【0023】
次に、このようにして表面処理された銅箔は、銅箔上にポリイミド前駆体フィルムを密着させる密着積層工程(密着積層工程Cともいう)に付される。
密着積層工程Cでは、上記のようにして得られた表面処理銅箔上に、ポリイミド樹脂の前駆体フィルムを密着し、積層する。ここで、前駆体フィルムとしては、ポリアミック酸を含むワニスを加熱乾燥することで作成したポリイミド前駆体フィルムが好ましい。その後、熱処理によりポリイミド前駆体をイミド化するイミド化工程に付して、銅箔上にポリイミド樹脂層が形成された積層体とすることがよい。
【0024】
ポリアミック酸を含むワニスは、一般に、酸成分としてテトラカルボン酸類(好ましくは酸二無水物)を用い、アミン成分としてジアミン化合物を用いて、両者を無水の条件下、有機極性溶媒中、0〜100℃で縮重合することにより合成される。また、このポリイミド前駆体にアクリロイル基を導入した前駆体やo−ニトロベンジルエステル基を導入した感光性ポリイミド前駆体を用いることもできる。感光性ポリイミド前駆体には、必要に応じて光重合開始剤、光増感剤、架橋助剤等を含有してもよい。
【0025】
ポリイミド前駆体溶液の原料として使用されるジアミン化合物としては、例えば、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、1,3-ビス-(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノ-2'-メトキシベンズアニリド、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメチルビフェニル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィドなどが挙げられる。これらのジアミン化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
また、テトラカルボン酸類としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,4,3',4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3',4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸エステル系テトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物などが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
ポリイミド前駆体溶液に使用する有機溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、硫酸ジメチル、スルフォラン、ブチロラクトン、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノール、シクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライムなどを使用することができる。これらの溶剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、DMAcやNMPなどが特に好ましい。溶剤の使用量は、各成分を均一に溶解するのに充分な量とする。
【0028】
ポリイミド前駆体のフィルムは、ポリアミック酸を含むワニスを加熱乾燥することで作成する。この場合、加熱乾燥の条件は、低温ではフィルムの形成が難しく、高温ではポリアミック酸がイミド化し、接着性が著しく低下するため、100〜200℃で1〜20分が好ましく、より好ましくは、110〜160℃で1〜10分である。このフィルムは溶剤を含有してもよく、好ましい含有量は重量百分率で5〜70%、好ましくは10〜60%である。ポリイミド前駆体のフィルム厚みは10〜200μmであり、好ましくは20〜100μmである。
【0029】
密着積層工程Cにおいては、表面処理銅箔上にポリイミド前駆体のフィルムを密着する。この場合の密着方法は、ラミネート法が好ましい。ラミネート条件は、圧力0.1〜1.5MPa、ラミネート温度60〜200℃、ラミネート時間1〜1000秒であるのが好ましく、特に好ましくは圧力0.5〜1.2MPa、ラミネート温度80〜180℃、ラミネート時間30〜600秒である。ラミネートにおいては、バッチ式でもよいし、連続的にラミネートを行うロールトゥロール方式でもよく、その方法は限定されない。
【0030】
密着積層工程Cにより表面処理銅箔上にポリイミド前駆体のフィルムを密着した後、ポリイミド前駆体層をイミド化のために加熱するイミド化工程を行う。この場合の硬化条件は、温度120〜420℃で、1〜300分であるのが好ましく、特に好ましくは130〜380℃で3〜30分である。溶媒の乾燥及び硬化においては、段階的に温度を上げて行うバッチ式でもよいし、連続的に温度を上げて行う連続硬化式でもよく、その方法は限定されない。
【0031】
本発明の銅張積層板の製造方法によって得られる積層板は、ポリイミド層の片面又は両面に銅箔を有し、ポリイミド層の好ましい厚み範囲は3〜100μm、より好ましくは10〜50μmの範囲である。両面に銅箔を有する銅張積層板は、片面に銅箔を有する片面銅張積層板を製造したのち、2枚の片面銅張積層板のポリイミド層を重ね合わせて加熱圧着したり、片面銅張積層板のポリイミド層に銅箔を重ね合わせて加熱圧着したりすることにより製造できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、従来、接着力向上のために行われていた銅箔への粗化処理及び金属処理を必要とすることなく銅箔とポリイミドをラミネート法により密着することができ、接着性に優れ、ファインピッチ形成に適した高密度のプリント配線板に用いられる銅張積層板の製造が可能となり、その工業的価値は高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施例について述べる。なお、以下の実施例において特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0034】
[銅箔表面硫黄濃度の測定]
エネルギー分散型X線(EDX)分析装置(堀場製作所製)を用いて分析を行った。加速電圧は10kV、エミッション電流は10.0μA、収集時間は600秒の条件で測定した。銅箔表面の硫黄濃度は、検出される全原子の質量に対する硫黄原子の質量を百分率で表した値である。
【0035】
[接着力の評価]
金属箔とポリイミド系樹脂層との間の接着力は、銅箔上にポリイミド系樹脂層を形成した後、プレス機を用いて幅10mmの短冊状に切断し、東洋精機社製STROGRAPH V1を用いて、銅箔を180°方向に引き剥がし測定した。
【0036】
[ポリアミック酸フィルムの溶剤含有量の評価]
示差熱熱重量同時測定装置SSC/5200(セイコーインスツル社製)を用いてポリアミック酸フィルムの重量減少を測定した。ポリアミック酸フィルムの溶剤含有量は、100℃から400℃までの重量減少の割合を百分率で表した値である。
【0037】
合成例1
実施例で使用したポリアミック酸を含むワニスは、次のようにして調製した。3つ口フラスコにジメチルアセトアミドを425g、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニルを31.8g及び1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを4.9gを加え、室温で30分攪拌した。その後、ピロメリット酸二無水物28.6g及びビフェニル−3,4,3',4’−テトラカルボン酸二無水物を加え、窒素雰囲気下、室温で3時間攪拌した。粘度を測定したところ、30℃で28000cpsであった。
【0038】
合成例2
離型剤が塗布されたPETフィルムへ、合成例1で調製したポリアミック酸を含むワニスを厚さ約400μmで塗布し、120℃で2分間加熱乾燥することでポリイミド前躯体フィルムを作成した。ポリイミド前躯体フィルムの厚みは56μmであり、溶剤含有量は40%であった。
【実施例1】
【0039】
銅箔には、表面処理を施していない未処理電解銅箔(表面粗度:十点平均粗さ=約0.8μm、厚さ:18μm、20cm×13cm角)を用いた。まず、その銅箔表面の表面酸化皮膜を除去するため、5%塩酸水溶液(pH < 1、浴温約20℃)に60秒間浸漬した。付着した酸を除くため、イオン交換水で十分に洗浄し、圧縮空気を吹き付けて乾燥した。このように処理した銅箔を、2−アミノ−1,3,5−トリアジン−4,6−ジチオール160mgをメタノール1Lに溶解した有機表面処理剤を溶解した処理液(浴温約20℃)に30秒間浸漬して表面処理を行い、一旦空気中に引き上げ、余分な液を落とした。次いで、イオン交換水750mL(浴温約20℃)に60秒間浸漬し、その後圧縮空気を約15秒吹き付けて乾燥した(第一洗浄)。更に、銅箔表面に付着した余分な有機表面処理剤を洗浄するため、メタノール750mL(浴温約20℃)にこの銅箔を60秒間浸漬して洗浄し(第二洗浄)、次いでイオン交換水750mL(浴温約20℃)に60秒間浸漬し、その後圧縮空気を約15秒吹き付けて乾燥して(第三洗浄)、表面処理銅箔Aを得た。この表面処理銅箔Aの銅箔表面における全原子の質量に対する硫黄原子の質量の割合は0.22%であった。
【0040】
表面処理銅箔Aに、合成例2で調製したポリイミド前躯体フィルムを圧力1MPa、温度150℃、時間300秒でラミネートし、その後130℃で加熱処理後、最終温度360℃で3分間加熱硬化することでポリイミドの皮膜としてポリイミドと銅箔の2層からなる銅張積層版を作製した。ここでポリイミド皮膜の厚さは約25μmであった。
得られた銅張積層版について、プレス機を用いて幅10mmの短冊状に切断し、室温で180°、10mmピール強度を引っ張り試験機を用いて測定することにより接着力を評価した結果、接着力は0.94kN/mであった。
【0041】
比較例1
銅箔を、2−アミノ−1,3,5−トリアジン−4,6−ジチオール320mgをメタノール1Lに溶解した有機表面処理剤を溶解した処理液(浴温約20℃)に30秒間浸漬して表面処理を行った後に、洗浄処理として(第一洗浄)のみを行い、メタノール洗浄(第二洗浄)及び第三洗浄を行わなかった以外は実施例1と同様に行った。この表面処理銅箔の銅箔表面における全原子の質量に対する硫黄原子の質量の割合は0.69%であった。
【0042】
比較例2
銅箔に対して、有機表面処理剤(2−アミノ−1,3,5−トリアジン−4,6−ジチオール)を含有する処理液による表面処理を行わなかった以外は実施例1と同様に行った。この表面処理銅箔の銅箔表面における全原子の質量に対する硫黄原子の質量の割合は0.00%であった。
【0043】
接着力の評価結果をまとめて表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理された銅箔上に樹脂層を形成して得られる銅張積層板の製造方法であって、銅箔を、少なくとも1種以上の官能基を有し、銅箔と樹脂層との接着力を向上させる機能を有する有機表面処理剤を溶解した処理液で表面処理する表面処理工程と、前記有機表面処理剤を溶解可能な有機溶剤を使用して、有機表面処理剤の表面層を部分的に溶解除去する洗浄工程と、表面処理が施された銅箔上に、ポリイミド前駆体のフィルムを密着する密着積層工程、とを有することを特徴とする銅張り積層板の製造方法。
【請求項2】
密着積層工程の次に、イミド化工程を有する請求項1記載の銅張り積層板の製造方法。
【請求項3】
表面処理工程の前に、銅箔を酸水溶液でソフトエッチングする工程を有する請求項1又は2に記載の銅張り積層板の製造方法。
【請求項4】
ソフトエッチングに用いる酸水溶液がpH2以下である請求項3に記載の銅張り積層板の製造方法。
【請求項5】
洗浄工程に用いる有機溶剤が、炭素数1〜8のアルコール類、炭素数3〜6のケトン類、炭素数4〜12のエーテル類、炭素数3〜7のエステル類、炭素数3〜6のアミド類、炭素数2のスルホキシド化合物、炭素数1〜6の含ハロゲン化合物及び炭素数4〜8の炭化水素化合物からなる群れから選ばれる少なくとも1種の有機溶剤である請求項1〜4のいずれかに記載の銅張り積層板の製造方法。
【請求項6】
洗浄工程に用いる有機溶剤が、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トルエン、ヘキサン及びジクロロメタンからなる群れから選ばれる少なくとも1種の有機溶剤である請求項5に記載の銅張り積層板の製造方法。
【請求項7】
洗浄工程における有機溶剤による洗浄が、0〜50℃の溶液温度で3〜600秒間行われる請求項1〜6のいずれかに記載の銅張り積層板の製造方法。
【請求項8】
有機表面処理剤が官能基としてアミノ基を有する化合物であり、樹脂層がポリイミド層である請求項1〜7のいずれかに記載の銅張り積層板の製造方法。
【請求項9】
有機表面処理剤が官能基としてアミノ基とチオール基を有する複素環化合物である請求項1〜8のいずれかに記載の銅張り積層板の製造方法。

【公開番号】特開2007−76243(P2007−76243A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268870(P2005−268870)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】