説明

銅陽極炉及びその操作方法

銅陽極炉は、水平軸の周りを回転でき、かつ銅溶融物が乾式精錬によって陽極銅に精製される、炉ドラム(2)を含む。前記炉ドラム(2)は、精製した銅を吐出するための注ぎ口(10)を備える。摺動閉鎖部材(20)が、炉ドラム(2)の注ぎ口(10)上に配置される。前記摺動閉鎖部材が、少なくとも1つの固定の耐火性閉鎖プレート(21)と、前記閉鎖プレートに対して移動できる耐火性摺動プレート(22)とを含む。摺動プレート(22)の移動により、炉ドラム(2)からの流出物は、調節又は閉鎖でき、かつ従って銅の流出量を制御できる。陽極板の品質を減じる、スラグが鋳物に引き込まれることは、前記摺動閉鎖部材(20)を使用して防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文による銅陽極炉、及びその操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅溶融物が乾式精錬によって陽極銅に精製され、次に銅が陽極板材料として吐出される銅陽極炉が知られている。陽極板は、電解によって更に処理される。陽極板の品質は、電解の電力消費、すなわち費用対効果に実質的に影響を及ぼす。
【0003】
銅陽極炉は、水平軸の周りを回転でき、かつ95〜98%の銅の銅溶融物が、2つの段階で約99%の純度レベルに導かれ、望ましくない付随要素(主に硫黄)の酸化が最初に起こり、次に酸化により著しく上昇した酸素含有量が還元段階で再度減少する、炉ドラムを含むことが知られている。銅は、炉ドラムの周辺に配置された流出孔を介して吐出する。吐出する時、炉ドラムは、鋳造速度を調節し、かつ下降する溶融浴レベルを考慮するために、少しずつ回転される。多数の不都合がここから生じている。流出孔の位置−浴表面に非常に近い−のため、スラグも吐出され、このことが、陽極板の品質に悪影響を及ぼす。その上、流出からチャネルシステムまでの銅の落下高度が非常に高く、従って苦心して除去した酸素が、再度取り込まれ、かつこのことも陽極板の品質悪化に至らせる。更に、飛散銅により環境がひどく汚染され、物質的損失も観察される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の基礎を形成する目的は、改善された陽極板品質を有する陽極材料の効率的な生成を可能にする冒頭で特定されたタイプの銅陽極炉を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1の特徴を有する銅陽極炉によって本発明により達成される。
【0006】
本発明による銅陽極炉の更なる好ましい実施態様は、従属請求項の主題を形成する。
【0007】
本発明による銅陽極炉で、下降する溶融浴レベルに伴って生じる静水圧の低下は、銅の流速を調節するために炉ドラムを回転することによっては考慮されず、むしろ流出物の量が、炉ドラムの注ぎ口に配置された摺動閉鎖部材によって制御される。炉ドラムを、銅溶融物を処理する時に置かれる、溶融浴の上方にある位置から回転することにより、注ぎ口は、陽極材料を吐出するためのチャネルのすぐ上の低い位置に好適には置かれる鋳造位置に導かれることができ、かつその鋳造位置に、鋳造プロセスの間中、留まる。ここで、陽極板の品質に悪影響を及ぼす、スラグが鋳物に引き込まれる危険がないことが、好適である。
【0008】
更に注ぎ口からチャネルシステムへの銅の落下高度が小さく、従って銅の飛散はない。このようにして、精製の複雑さが実質的に減少するだけでなく、実質的に少ない銅の損失が引き起こされる。節約された量の銅は、再度溶かす必要がもはやなく、かつこのことは、CO2の排出減少も意味する。
【0009】
小さい落下高度により、予め苦心して除去した酸素の望ましくない再取り込みも実質的に減少し、かつこのようにして陽極板の品質が、改善される。
【0010】
炉ドラムの注ぎ口に摺動閉鎖部材を備えた、本発明による銅陽極炉の更なる利点は、危険な状況で即時の緊急停止が開始できることである。
【0011】
以下で、本発明は、図面を用いて極めて詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による銅陽極炉の代表的な実施態様の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、水平軸Aの周りを回転できる炉ドラム2を含む銅陽極炉1を示す。炉ドラム2は、円筒形鋼鉄コーティング3と、耐火性ライニング4とを有する。95〜98%の銅の銅溶融物が、充填剤開口部5を介して炉ドラム2に流し込まれ、炉ドラム容量の最大60%が充填される。銅溶融物は、それ自体公知であり、従って詳細に記載しない方法で、約99%の銅の陽極銅への乾式精錬により炉ドラム2内で精製される。ここで望ましくない付随要素(主に硫黄)の酸化は、最初に起こり、次に酸化により極めて上昇した酸素含有量が還元段階で再度減少する。
【0014】
炉ドラム2は、図面から明らかでない、精製した銅をチャネルシステムに吐出するために役立つ注ぎ口10がその周辺に備えられる。耐火性ライニング4の吐出領域に、排出開口部12を有する耐火性有孔れんが11と、それに排出開口部14により隣接する耐火性容器13とが置かれる。有孔れんが11の排出開口部12は、容器13に向かって先細になり、かつ対応する供給角度を形成するように設計される。耐火性容器13の排出開口部14は、有孔れんが11に向かって円錐形に伸長し、かつ有孔れんが11に向かって円錐形に伸長する少なくとも1つの部分を有する。
【0015】
本発明によれば、摺動閉鎖部材20は、固定の耐火性閉鎖プレート21と、それに対して移動できる耐火性摺動プレート22とを含む炉ドラム2の注ぎ口10上に配置される。固定の耐火性閉鎖プレート21は、炉ドラム2に取り付けられたハウジング23内に固着され、かつ耐火性容器13に対してきつく固定された状態にある。耐火性摺動プレート22は、摺動ユニット24内に保持される。摺動ユニット24及びそれに挿入された摺動プレート22を移動させることにより、排出開口部12、14によって形成される排出口は、図1に示した開放位置から調節又は閉鎖位置に炉ドラム2から引き出すことができる。
【0016】
言うまでもなく、1つのみの固定閉鎖プレートを含む摺動閉鎖部材の代わりに、2つの固定閉鎖プレートと、それらの間に移動自在に配置された摺動プレートとを有するものも、使用できる。
【0017】
耐火性有孔れんが11の大きな供給角度、及び耐火性容器13の設計(排出開口部14の円錐形部分)は、できるだけ高温の銅が、摺動閉鎖部材20の近傍に導かれることに寄与し、それにより摺動閉鎖部材20が閉鎖されている時、鋳造チャネル内に入り込む銅の傾向が、減少する。
【0018】
排出口における銅のかかる凝固は、好ましくは摺動プレート22内に備えられたガス接続を有するフラッシュストッパ(flush stopper)により(図示せず)、摺動閉鎖部材20を閉鎖して排出口に吹き付けられるアルゴンガスによってその上妨げることができる。
【0019】
銅溶融物を処理する時、摺動閉鎖部材20を備えた注ぎ口10は、溶融浴の上にある位置に置かれる。吐出するために、炉ドラム2を回転させることによって、炉ドラムは、陽極材料を吐出するためのチャネルのすぐ上の低い位置に置かれ、かつそこに鋳造プロセスの間中、留まる鋳造位置に導かれる。下降する溶融浴レベルに伴って生じる静水圧の低下は、銅の流速(鋳造速度)を調節するために炉ドラム2を回転することによっては考慮されず、むしろ流速は、摺動ユニット24を移動することにより、摺動閉鎖部材20によって制御される。このことは、幾つかの実質的な利点と関連する。
【0020】
注ぎ口10が常に低い位置にあるので、陽極板の品質に悪影響を及ぼす、スラグが鋳物に引き込まれる危険がない。
【0021】
更に注ぎ口10からチャネルシステムへの銅の落下高度が小さく、従って銅の飛散はない。このようにして、精製の複雑さが実質的に減少するだけでなく、実質的に少ない銅の損失が引き起こされる。それ故に、例えば120tの陽極炉に関して、100〜120t多い陽極材料が、1月当たりで吐出される。節約された量の銅は、再度溶かす必要がもはやなく、かつこのことは、CO2の排出減少も意味する。
【0022】
小さい落下高度により、予め苦心して除去した酸素の望ましくない再取り込みも実質的に減少し、かつこのようにして陽極板の品質が、改善される。シュラウドチューブにより空気中の酸素を完全に密封することも可能である。
【0023】
炉ドラムの注ぎ口に摺動閉鎖部材を備えた、本発明による銅陽極炉の更なる利点は、危険な状況で即時の緊急停止が開始できることである。
【符号の説明】
【0024】
2 炉ドラム、3 円筒形鋼鉄コーティング、4 耐火性ライニング、10 注ぎ口、11 耐火性有孔れんが、12 排出開口部、13 耐火性容器、14 排出開口部、20 摺動閉鎖部材、21 固定の耐火性閉鎖プレート、22 耐火性摺動プレート、A 水平軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平軸の周りを回転でき、かつ銅溶融物が乾式精錬によって陽極銅に精製され、かつ精製した銅を吐出するための注ぎ口(10)を有する炉ドラム(2)を含む銅陽極炉であって、
摺動閉鎖部材(20)が、炉ドラム(2)の注ぎ口(10)上に配置され、前記摺動閉鎖部材が、少なくとも1つの固定の耐火性閉鎖プレート(21)と、前記閉鎖プレートに対して移動できる耐火性摺動プレート(22)とを含み、前記耐火性摺動プレート(22)を移動することにより、前記炉ドラム(2)の排出口を調節又は閉鎖し、かつ従って銅の流出量を制御することが可能であることを特徴とする銅陽極炉。
【請求項2】
前記炉ドラム(2)が、円筒形鋼鉄コーティング(3)と、耐火性ライニング(4)とを含み、吐出領域に、耐火性有孔れんが(11)と、それに隣接する耐火性容器(13)とが備えられ、それぞれ排出開口部(12、14)を形成し、前記有孔れんが(11)の前記排出開口部(12)が、前記容器(13)に向かって円錐形に先細になり、かつ供給角度を形成することを特徴とする請求項1に記載の銅陽極炉。
【請求項3】
鋳造位置で、前記注ぎ口(10)が、陽極材料の流し込みのためにチャネルのすぐ上に、ほぼ垂直に下向きで低い位置に置かれることを特徴とする請求項2に記載の銅陽極炉。
【請求項4】
前記耐火性容器(13)の前記排出開口部(14)が、前記有孔れんが(11)に向かって円錐形に伸長するか、又は前記有孔れんが(11)に向かって円錐形に伸長する少なくとも1つの部分を有することを特徴とする請求項3に記載の銅陽極炉。
【請求項5】
前記耐火性容器(13)の前記排出開口部(14)が、前記有孔れんが(11)に向かって円錐形に伸長するか、又は前記有孔れんが(11)に向かって円錐形に伸長する少なくとも1つの部分を有することを特徴とする請求項4に記載の銅陽極炉。
【請求項6】
少なくとも1つの固定の耐火性閉鎖プレート(21)及びそれに対して移動できる耐火性摺動プレート(22)が提供され、前記摺動プレート(22)を移動することにより、炉ドラム(2)からの排出口を調節又は閉鎖し、かつ従って銅の流出量を制御することが可能であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の銅陽極炉用の摺動閉鎖部材。
【請求項7】
前記摺動プレート(22)に備えられたフラッシュストッパが、好ましくはガス接続を備え、前記ガス接続により、前記摺動閉鎖部材(20)を閉鎖してアルゴンガスが、前記排出口(14)に吹き付けられることを特徴とする請求項6に記載の摺動閉鎖部材。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載の銅陽極炉を操作する方法であって、炉ドラム(2)をその軸(A)の周りで回転させることにより、摺動閉鎖部材(20)を備えた注ぎ口(10)が、銅溶融物の処理中置かれる溶融浴の上にある位置から、鋳造プロセスの間中留まる鋳造位置に導かれ、ことを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−502247(P2012−502247A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525470(P2011−525470)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006448
【国際公開番号】WO2010/025940
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(597102923)シュトピンク・アクティーエンゲゼルシャフト (12)
【Fターム(参考)】