説明

鋳片の製造方法及び表面品質の優れた鋳片

【課題】スラブの表層から離れた位置における気泡や介在物を低減し、気泡や介在物に起因する製品欠陥の発生を回避する。
【解決手段】鋳型内溶鋼に鋳型幅方向の電磁攪拌流を付与する連続鋳造において、鋳型4長辺の外側に配置する電磁攪拌コイル1における磁極鉄芯1aのメニスカス2位置より鋳造方向下流側の長さLが、浸漬ノズル3の吐出孔3aから鋳型長辺の下端までの長さNの0.8倍以上とした電磁攪拌装置で、鋳型内溶鋼に電磁攪拌を行いながら鋳造することで、炭素含有率が0.004質量%以下の極低炭素鋼薄板用鋳片に対し、面積が0.005mm2以上の気泡及び非金属介在物の、鋳片表層から10〜50mm以内の鋳片中に存在する数の合計が0.020個/mm3以下である鋳片を製造する。
【効果】表面品質に優れたスラブを安定して製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造によって鋳片を製造する方法、及びこの方法によって製造した厚み方向の広い範囲で気泡及び介在物が存在する数を低減した表面品質の優れた鋳片に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造したスラブ中に存在する気泡や非金属介在物は、製品とした場合に表面欠陥の原因となるので、その低減が求められている。従来、連続鋳造工程では、溶鋼を凝固させる鋳型内、特に鋳片の表層に近いメニスカス部における気泡や介在物の低減対策が進められており、特に電磁攪拌によってメニスカス部に積極的な溶鋼流動を付与する効果の大きいことが知られている。
【0003】
一方で、製品の品質に影響を与える気泡や介在物は、連続鋳造したスラブの表層のみに存在するわけでは無く、厚み方向の中心に近い部分にも存在している。しかしながら、この表層から離れた位置に存在する気泡や介在物に起因する製品欠陥に対する問題は解決されていない。
【0004】
図5は、スラブ表層からの各範囲における製品欠陥の発生頻度を示した図であり、スラブ表層から10mmの範囲における製品欠陥の発生頻度を1とした時の値である。製品欠陥の原因となった欠陥の表層からの距離Sは、スラブの厚みをT、圧延後の製品厚みをU、製品欠陥の製品表層からの距離をVとしたとき、S=V×T÷Uで算出しているが、製品欠陥は表層から10mmの範囲に留まらず、表層から50mmにおよぶ位置でも発生している。
【0005】
そこで、例えば特許文献1,2では、健全な凝固層を得るため、熱延工程における加熱炉におけるスケールロス厚みを超える、表層から5mm以上の凝固層が形成される区間に、気泡や介在物の捕捉防止を目的とした攪拌流を付与する方法が提案されている。
【0006】
一方、特許文献3では、電磁攪拌した際のスラブの表層5〜10mmのデンドライト偏向角を定義することで、適正な速度の攪拌流をスラブの表層に付与し、表面品質に優れた鋳片を得る方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献4では、気泡や介在物の捕捉防止を目的としたメニスカス部での電磁攪拌に伴い、メニスカスの下方1m程度の距離までの部位の凝固層に流動を付与し、スラブ表層の広い範囲での介在物低減を図る方法が提案されている。但し、この際の表層介在物除去に十分な流動付与範囲として読み取れる凝固層厚みは22mmである。
【0008】
また、特許文献5では、メニスカス近傍への吐出反転流の影響をできる限り低減することを目的として、浸漬ノズルの吐出角度を下向き35〜70°の範囲で開口し、また、吐出孔を電磁攪拌装置のコアの下面よりも低い位置とする方法が提案されている。そして、このようにすることで、メニスカス部にて淀みのない攪拌流を付与することができるとしている。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜5で提案された何れの方法も、スラブの表層から厚み方向中心方向に離れた位置における電磁攪拌による気泡や介在物の低減効果は不十分であり、また、気泡や介在物に起因する製品欠陥の発生を防止する方法は確立されていない。従って、さらなる改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭58−52458号公報
【特許文献2】特公昭59−24903号公報
【特許文献3】特許第3527122号公報
【特許文献4】特許第4427429号公報
【特許文献5】特開2004−42062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする問題点は、従来提案された方法では、スラブの表層から厚み方向中心方向に離れた位置における電磁攪拌による気泡や介在物の低減効果は不十分で、気泡や介在物に起因する製品欠陥の発生を防止する方法は確立されていないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の鋳片の製造方法は、
電磁攪拌によってスラブの表層のみならず、厚み方向に比較的深い範囲に存在する気泡や介在物を低減し、気泡や介在物に起因する製品欠陥の発生を回避するために、
鋳型長辺の外側のメニスカス近傍に対向して配置した電磁攪拌装置によって鋳型内溶鋼に鋳型幅方向の電磁攪拌流を付与する連続鋳造において、
鋳型長辺の外側に配置する電磁攪拌コイルにおける磁極鉄芯のメニスカス位置より鋳造方向下流側の長さLが、浸漬ノズルの吐出孔から鋳型長辺の下端までの長さNの0.8倍以上となるようにした電磁攪拌装置で、鋳型内溶鋼に電磁攪拌を行いながら鋳造することを最も主要な特徴としている。
【0013】
本発明の鋳片の製造方法によれば、炭素含有率が0.004質量%以下の極低炭素鋼薄板用鋳片に対し、面積が0.005mm2以上の気泡及び非金属介在物の、鋳片表層から10mm以上で50mm以下の鋳片中に存在する数の合計が0.020個/mm3以下である表面品質に優れた本発明の鋳片を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、電磁攪拌コイルの磁極鉄芯と浸漬ノズルとの位置関係を明らかにし、鋳片の表層のみならず、厚み方向に比較的深い範囲に存在する気泡と非金属介在物数の範囲を限定することで、表面品質の優れたスラブを安定して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)(b)は鋳型と電磁攪拌コイルの磁極鉄芯、浸漬ノズルとの相対位置関係を説明する図で、(a)は平面図、(b)は断面して示す正面図、(c)は電磁攪拌流と上向き反転流について説明する図である。
【図2】製品欠陥起点のスラブ表層からの位置と製品欠陥発生指数の関係を示した図である。
【図3】気泡及び介在物の個数と鋼板の表面欠陥発生指数の関係を示した図である。
【図4】電磁攪拌コイルの磁極鉄芯のメニスカス位置より鋳造方向下流側の長さLを、浸漬ノズルの吐出孔から鋳型の長辺の下端までの長さNで割った指標L/N及び電磁攪拌と、気泡及び介在物指数の関係を示した図である。
【図5】スラブ表層からの各範囲における製品欠陥の発生頻度を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では、スラブの表層のみならず、厚み方向に比較的深い範囲に存在する気泡や介在物を低減し、気泡や介在物に起因する製品欠陥の発生を回避するという目的を、電磁攪拌コイルの磁極鉄芯と浸漬ノズルの位置関係を最適範囲に規定することで実現した。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図4を用いて説明する。
本発明は、前述のような問題点を解決するためになされたもので、スラブの表層だけでなく、表層から離れた位置においても気泡や介在物の低減が可能な連続鋳造鋳片の製造方法を明らかにし、重篤な品質欠陥の発生を回避することを目的としている。
【0018】
電磁攪拌によって凝固シェルへの気泡や介在物の捕捉を防止することは、品質欠陥の発生防止に対する有効な手段となり得る。しかしながら、当該スラブに対して十分に気泡や介在物が低減されているかどうかは明確で無い。そこで、発明者らは、気泡及び介在物の個数密度を指標として、電磁攪拌条件を含む鋳造条件を適正化することを考えた。
【0019】
本発明は、上記課題を解決するため、表層からの距離が10mm以上で50mm以下の範囲に存在する、1個当りの面積が0.005mm2以上の気泡及び介在物の合計個数の存在密度が0.020個/mm3以下の、炭素含有率が0.004質量%以下の極低炭素鋼薄板用鋳片を対象としている。
【0020】
これは、発明者らが調査した結果によれば、上記の条件を満足する鋳片は、図2に示すように、鋳片の表面のみならず、厚み方向に比較的深い範囲に存在する、製品欠陥の起点となる気泡や介在物を低減することができたからである。
【0021】
さらに、上記の条件を満足する鋳片を圧延した鋼板は、後述する図3に示すように、ヘゲ、スリバーと呼ばれる気泡や介在物を起因とする表面欠陥発生率が大幅に減少することを確認できたからである。
【0022】
また、発明者らは、電磁攪拌の条件とスラブ表層の気泡及び介在物数との関係を詳細に調査した。
【0023】
その結果、図1(b)に示すように、電磁攪拌コイル1の磁極鉄芯1aのメニスカス2位置より鋳造方向下流側の長さLを、浸漬ノズル3の吐出孔3aから鋳型4の長辺の下端までの長さNで割った指標L/Nが0.8以上とした条件で電磁攪拌を実施することが望ましいことを知見した。
【0024】
上記の条件で電磁攪拌を実施した場合、後述する図4に示すように、鋳片表層から10〜50mmの範囲内の鋳片中に存在する気泡と非金属介在物の合計数が0.020個/mm3以下の鋳片を安定して得ることができる。これが本発明の鋳片の製造方法である。
【0025】
発明者らが、電磁攪拌コイルの代表長さとして、磁極鉄芯のメニスカス位置より鋳造方向下流側の長さLを選んだのは、電磁攪拌コイルにおいて磁力発生の要となるものがコイル磁極鉄芯であるからである。
【0026】
また、通常の鋳造時、一定深さに設定する浸漬ノズルの吐出孔から鋳型長辺の下端までの長さNは、浸漬ノズルの浸漬深さの大小を示すパラメータであることを勘案し(Nが小さいと浸漬深さは大きくなる)、これを分母としたL/Nのパラメータを提案した。
【0027】
図1(c)に示すように、鋳型4の水平断面内で電磁攪拌流5を付与する場合、電磁攪拌流5への影響因子としての浸漬ノズル3からの吐出流の影響を防止することが重要である。
【0028】
スラブ表層における品質確保のためにはメニスカス部における安定した流速分布を得る必要がある。これは、電磁攪拌流5と浸漬ノズル3からの吐出された上向き反転流6の向きが重なり合う位置では溶鋼流速の過剰な増速によるパウダーの巻き込みなどに伴う品質悪化につながる一方、電磁攪拌流5上向き反転流6の向きが逆転する場所では、溶鋼の減速・滞留に伴う凝固核への気泡や介在物の捕捉が発生し、同様に品質の悪化につながるためである。
【0029】
従って、メニスカス流動に対する浸漬ノズルからの吐出流の影響は、鋳型内への吐出流量Tの増加に伴って増加することになるため、鋳型内への吐出流量Tの影響は最小限にする必要があり、前述の条件での電磁攪拌を実施することで、安定して上記の条件を満足する清浄性に優れた鋳片を製造することが可能となる。
【0030】
すなわち、本発明方法によれば、磁極鉄芯をメニスカス位置より鋳造方向下流側に延長させることで、メニスカスから離れた位置における凝固層から溶鋼界面における溶鋼流速付与能を向上させて、スラブ表層からより離れた(スラブ厚み中心に近い)部位での品質欠陥回避が可能となるのである。
【0031】
つまり、本発明では、メニスカス、浸漬ノズルの吐出孔位置、及び電磁攪拌コイルの磁極鉄芯の位置関係を適切に決定することにより、本発明の目的である、スラブ表層から離れた位置における欠陥を起点とする鋼板の表面欠陥の発生を抑制する効果を安定して得ることができる。
【0032】
加えて、本発明の鋳片の製造方法により製造した本発明の鋳片は、図2に示すように、従来の課題であったスラブ表層から深い位置にある気泡や非金属介在物数が低減し、これら気泡や非金属介在物を起点とした製品欠陥の発生指数が大きく低減する。
【0033】
以下に、本発明の効果を確認するために行った実施結果について説明する。
試験は、下記表1に示す、鋳型直下に位置する垂直部が3.0m、その後の湾曲部が半径10.5mの垂直曲げ型連続鋳造機を使用した。
【0034】
また、浸漬ノズルの吐出孔中心位置から鋳型下端までの距離N、及びメニスカスから電磁攪拌コイルにおける磁極鉄芯の下端までの距離Lを、下記表1に示した範囲内で変化させることで、鋳造条件を調整した。
【0035】
そして、炭素含有率が0.001〜0.004質量%の極低炭素溶鋼に対し、溶鋼過熱度ΔT20〜35℃の溶鋼を、浸漬ノズルから幅950〜1625mm、厚さ270mm、銅板高さ900mmの鋳型に注入し、鋳造速度1.0〜1.8m/minで鋳造した。
【0036】
電磁攪拌の印加強度は交流電流の周波数によって規定されるが、周波数が低すぎると鋳型銅板に対する磁束の浸透深さが深くなって、対面するコイル同士で干渉してしまい、効率的に鋳型内の溶鋼を攪拌できない。従って、本試験を実施した連続鋳造機を含む一般的なスラブの連続鋳造機の鋳型厚みである200〜300mmの鋳型の厚み中央で磁束を50%以上確保できる印加周波数条件である0.5Hz以上を条件とした。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明によるスラブ表層の気泡や介在物個数の評価を行うべく、各製造条件におけるスラブ表層部の気泡、介在物個数密度の評価を行った。
【0039】
以下、調査方法及び調査結果について説明する。
鋼の炭素含有量(質量%)、及び連続鋳造時における鋳型内電磁攪拌の有無等、下記表2に示すように鋳造条件を変化させてスラブ表層部の気泡及び介在物の個数密度の異なるスラブを製造した。
【0040】
表2中の気泡及び介在物の個数密度は、スラブ表層位置より厚み方向75mm×幅方向3mm×鋳造方向50mmのサンプルを、スラブ幅方向より5箇所切り出し、それぞれのサンプルについて測定して求めた。そして、その測定は、超音波端子の探傷周波数が50MHz、探傷ピッチが0.05mmの高精度超音波探傷装置を使用し、大きさが0.005mm2以上である介在物と気泡を特定してその個数を測定し、平均の個数密度を求めることにより行った。
【0041】
【表2】

【0042】
表2における発明例1〜10は請求項1及び2の実施例であり、これら発明例1〜10では、鋳片表層から10mm以上で50mm以下の鋳片中に存在する、面積が0.005mm2以上の気泡及び非金属介在物の合計は、何れも0.020個/mm3以下であった。
【0043】
そして、これらの鋳片より製造した鋼板の表面欠陥発生率は何れも0.3%以下と良好な品質検査結果を得た。この気泡及び介在物の個数と鋼板の表面欠陥発生率の関係を図3に示す。
【0044】
なお、前記鋼板の表面欠陥発生率は、気泡及び介在物数の調査を行ったスラブと同一ヒート内で鋳込まれたスラブが基となったコイルを、溶融亜鉛メッキラインにて最終検査した際に、ヘゲやスリバーによってスクラップとなった重量を、圧延したコイル総重量で割った重量比である。
【0045】
一方、比較例1〜3はL/Nが0.80未満であり、比較例4、5はL/Nが0.80以上ではあるものの電磁攪拌を実施しなかったので、何れも請求項1の範囲を外れた結果、気泡及び介在物の数が0.020個/mm3を超え、表面欠陥発生率は高位となった。このL/Nと気泡及び介在物数の関係を図4に示す。
【0046】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
1 電磁攪拌コイル
1a 磁極鉄芯
2 メニスカス
3 浸漬ノズル
3a 吐出孔
4 鋳型
5 電磁攪拌流
6 上向き反転流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型長辺の外側のメニスカス近傍に対向して配置した電磁攪拌装置によって鋳型内溶鋼に鋳型幅方向の電磁攪拌流を付与する連続鋳造において、
鋳型長辺の外側に配置する電磁攪拌コイルにおける磁極鉄芯のメニスカス位置より鋳造方向下流側の長さLが、浸漬ノズルの吐出孔から鋳型長辺の下端までの長さNの0.8倍以上となるようにした電磁攪拌装置で、鋳型内溶鋼に電磁攪拌を行いながら鋳造することを特徴とする鋳片の製造方法。
【請求項2】
炭素含有率が0.004質量%以下の極低炭素鋼薄板用鋳片に対し、面積が0.005mm2以上の気泡及び非金属介在物の、鋳片表層から10mm以上で50mm以下の鋳片中に存在する数の合計が0.020個/mm3以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法で製造された鋳片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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