説明

鋳鉄管鋳造用中子の塗型剤塗布方法

【課題】鋳物用中子17のどぶ漬けによる塗型剤eの塗布において、その塗型剤の液切れを円滑に行う。
【解決手段】どぶ漬け後の中子17をその軸心cを鉛直方向に対し30度傾けその軸心周りに回転させる。中子17が傾むけば、中子17下方の一点が最下部となって、その最下部に塗型剤eが集まり、その集まった塗型剤eは、落下しやすく液切れし易くなり、中子を回転させれば、塗型剤eは遠心力によって移動が活発となり、最下部の液切れはさらに促進され、中子17表面の余分な塗型剤eは遠心力によって塗布面上を活発に移動して、垂れ跡を残すことなく剥離されるとともに、塗布面は満遍なく均される。このため、塗型剤eの液切れが円滑に行なわれ、垂れ跡の残らない塗布面となって、鋳鉄管受口内面の鋳肌は良好なものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋳鉄管を鋳造する際、その受口部に装填する中子への塗型剤塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心力鋳造は、鋳造物内部にブローホール、引け巣などの欠陥が生じ難く、材質も緻密と成り、機械的性質等の良好な品質の鋳造物を円滑に得ることができる。このため、鋳鉄管においても、今日、前記良好な品質、生産性などの点からその遠心力鋳造により製造されている。
【0003】
その遠心力鋳造法による鋳鉄管Pの製造は、例えば、図1に示すように、円筒形モールド(鋳型)11をローラ12により回転し、そのモールド11内面に、取鍋13から、三角取鍋14を介して鋳込用トラフ15に溶湯aを送り込み、そのトラフ15を介して溶湯aをモールド11内に鋳込んで(注湯し)、所要厚の円筒状溶湯層(管状体)を形成することによって行うのが一般的である(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開昭54−38229号公報
【特許文献2】特開2004−58094号公報
【0004】
この遠心力鋳造法において、同図に示すように、受口1内面1aの形成のために、中子17をモールド11の受口部分内に装着し、その中子17とモールド11内面との間(受口形成部)に溶湯aを送り込んで受口1を鋳造するようにしている。図中、2は挿し口である。
【0005】
その中子17には、溶湯aの焼き付けを防止して良好な鋳肌面を得るために、塗型剤が塗布される。その塗布に、例えば、塗型剤槽に浸漬させる、所謂、どぶ漬け法が採用されている。このとき、中子17を塗型剤槽に浸漬させて取出した後、その塗布面の余分な塗型剤(液溜まり)を除去する、所謂、塗型剤の液切り(垂れ切り)が必要である。液切りしないと、その溜まった余分な塗型剤が他の塗布面に垂れ、その垂れ跡が残るととともに、塗型剤が無駄となるからである。垂れ跡は、製品の鋳肌に凹凸を生じさせて、形状不具合や寸法不具合を招く。
なお、塗型剤の塗布には、中子17の表面強度の向上や表面組織の改質を図り得る効能もある。
【0006】
このため、従来では、中子17を塗型剤槽に浸漬させて取出した後、その軸心を45度程度傾斜させた状態で、10〜30秒程度維持させ、中子17表面の余分な塗型剤を除去して(液切りして)乾燥工程に送るようにしている(特許文献3段落0020、図3参照)。
また、液切れ作業を極力少なくするため、中子17を回転させながら、その表面に塗型剤を噴射して塗布し、その塗布後、中子の回転速度を下げて中子表面に付着する余分な塗型剤を滴下除去する技術もある(特許文献4参照 段落0019)。
【特許文献3】特開2002−254140号公報
【特許文献4】特開平09−168851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3の中子17の軸心を45度程度傾斜させて塗型剤の液切りをする技術はそれなりに有効であるが、液切りを塗型剤の自重にゆだねているため、その液切り速度が
遅く、余分な塗型剤が十分に液切りされず、その残った塗型剤が垂れて塗布面に垂れ跡が残る。この垂れ跡は、上記のように、製品の鋳肌に凹凸を生じさせ、形状不具合や寸法不具合を招く。
【0008】
特許文献4の技術は、中子17を回転させながらの塗型剤の噴射による塗布のため、塗布層厚を均一にできる利点はあるが、その装置が大掛かりとなるうえに、塗型剤の飛散による作業環境の悪化及び塗型剤の無駄が多く、どぶ漬けによる場合に比べて、コスト的な問題等がある。
【0009】
この発明は、このような状況下、どぶ漬けにおいて、塗型剤の液切れを円滑に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明は、まず、どぶ漬け後の中子をその軸心を鉛直方向に対し傾け、つぎに、特許文献4記載技術と同様に、その軸心周りに回転させて余分な塗型剤を液切りすることとしたのである。
中子が傾むけば、中子下方の一点が最下部となって、その最下部に塗型剤が集まり、その集まった塗型剤は、落下しやすく液切れされ易くなり、さらに、中子を回転させれば、塗型剤(液)は遠心力によって移動が活発となり、最下部の液切れはさらに促進され、中子表面の余分な塗型剤は遠心力によって塗布面上を活発に移動して、垂れ跡を残すことなく剥離されるとともに、塗布面は満遍なく均される。
【0011】
これらの作用が、塗布面である中子外周全面において繰り返し行なわれて塗布面が均一厚さになるとともに、余分な塗型剤は、垂れ跡を極力残すことなく、均一かつ円滑に液切りされる。
【0012】
なお、特許文献4における中子が傾いた状態で回転させて、余分な塗型剤を除去する技術は、中子を傾斜させて塗型剤の噴射による塗布を行なっており、その塗布作業に連続する塗型剤除去作用のため、その塗型剤除去作用においても中子が傾いた状態で回転させているのであって、この発明における上記中子を傾斜させることによる液切れ作用の利点(中子下方の一点が最下部となって、その最下部に塗型剤が集まり、その集まった塗型剤は、落下しやすく液切れされ易くなる点)を認識して成したものではない。また、噴霧による塗布のため、その塗布面の液溜まりは少なく、回転による塗型剤除去作用の効果は余り期待できない。
これに対し、この発明は、どぶ漬けによる塗型剤の塗布に関するものであって、特許文献4記載技術の噴射による塗型剤の塗布とは異なり、そのどぶ漬けによる塗布面は、十分な塗膜厚が容易にできる反面、余分な塗型剤の液溜まりが生じやすく、傾いた状態での回転による液切り効果は大いに期待できる。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、以上のように、中子を傾けて回転させ、余分な塗型剤の液切れを行うようにしたので、垂れ跡も残さず、円滑な液切れを行うことができる。このため、鋳鉄管受口内面の鋳肌を良好なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施形態としては、鋳鉄管鋳造用中子をチャックによってチャッキングして塗型剤槽に浸漬させて、前記中子に塗型剤を塗布する際、チャックによって前記中子を塗型剤槽に浸漬させて取出した後、その中子を、その軸心を鉛直方向に対し傾けてその軸心周りに回転させて、余分な塗型剤を液切りする構成を採用することができる。
【0015】
このとき、上記中子軸心の鉛直方向に対する傾斜角度及び回転速度は、塗型剤の移動状態、垂れ跡の生じ度合等を考慮し、実験、実操業等によって適宜に設定すれば良いが、傾斜角度は、20〜60度程度とすることが好ましい。この範囲を出ると、中子下方の最下部のエリヤが広くなり(点に近づかず)、その最下部への塗型剤の集まり度合が悪くなって、落下しにくく液切れし難くなるからである。後述の実験では、30度前後が良好であった。
【0016】
このどぶ漬けによって、塗型剤を塗布する際、中子が砂から成る場合には、その中子を塗型剤槽に浸漬させる前に、中子の被塗布面をエアブローして、結合力の弱い砂を剥離することが好ましい。剥離した砂は、どぶ漬け時に塗型剤槽中の浮遊粒子になり、塗型剤を塗布した後、そのまま塗布面に残れば、異物咬みの原因になり易いからである。
【0017】
また、上記塗型剤槽に多孔の容器を沈め、その容器内に中子を浸漬させて、その中子から剥がれて塗型剤槽内に浮遊・沈降する砂粒子を前記容器によって捕捉するようにすることが好ましい。このようにすれば、例えば、一日の作業終了後に、その容器を塗型剤槽から引き上げることによって、塗型剤槽内に浮遊・沈降する砂粒子を取り出すことにより、塗型剤槽内に砂を極力溜めないようにすることができ、これによって、塗型剤塗布面への砂の混入を抑制できる。
その容器としては、砂を捕捉できる孔径の多孔板から成る、例えば、パンチングメタル、金網などの材料から成る、ざる等を採用する。
【0018】
さらに、上記中子内にその内部への塗型剤の流入を阻止する閉塞板を設ければ、塗型剤の塗布が不要な中子内面への塗型剤の侵入が阻止されるため、塗型剤の無駄が少なくなるとともに、中子内表面への塗型剤の侵入による中子の劣化を防止できる。
このとき、閉塞板をチャックに設けて中子内に移動自在とすれば、閉塞板がチャックとともに移動してその中子との当接作用等の取扱いが容易となるとともに、中子の回転時、どぶ漬け時には閉塞板が当接していた中子部分からその閉塞板を離すことによって、その中子部分の液切れを促進させることができる。
【0019】
また、上記閉塞板の態様としては、上記塗型剤槽内に閉塞板をばねを介して設け、その閉塞板はその表面がばねによって常時は塗型剤表面から出ている構成を採用できる。
この構成では、中子を閉塞板に当接させて押し下げることにより、その閉塞板が中子の内部への塗型剤の流入を阻止しつつばねに抗して押し下げられる。また、中子を塗型剤槽から引き上げて塗型剤液面から離せば、閉塞板も中子から離れ、その当接していた中子部分の液切れは促進される。
【実施例】
【0020】
この実施例は、図1に示した中子17の外周面にどぶ漬けによって塗型剤eを塗布するものであって、まず、中子17の被塗布面をエアブローして、結合力の弱い砂を剥離する。また、塗型剤槽6にはざる9を沈める。
【0021】
つぎに、図2(a)に示すように、チャック5によりこの中子17を鉛直方向に吊り下げ、同図(b)に示すように、その吊り下げ状態で、中子17を塗型剤eの槽6に浸積する。このとき、チャック5の中心軸上には吊り杆7が中子17の内部に延びてその先に鉄板等の閉塞板8が設けられており、この閉塞板8によって中子17の開口が閉塞される。このため、塗型剤eの塗布が不要な中子17内面への塗型剤eの侵入が阻止されて、塗型剤eの無駄がない。チャック5は、その各爪5aが中心から放射方向に進退して中子17をその内面でもってチャッキングする。
【0022】
十分な時間のどぶ漬け後、図2(c)に示すように、中子17を塗型剤槽6の真上に引
き上げ、さらに、図2(d)に示すように、その中子17を、その軸心cが鉛直方向に所要角度θとなるように傾け、その傾斜した状態で、中子17をその軸心c回りに回転させる。
【0023】
中子17が傾むけば、中子17下方の一点が最下部となって、その最下部に塗型剤eが集まり、その集まった塗型剤eは、落下しやすく液切れし易くなり、中子を回転させれば、塗型剤eは遠心力によって移動が活発となり、最下部の液切れはさらに促進され、中子17表面の余分な塗型剤eは遠心力によって塗布面上を活発に移動して、垂れ跡を残すことなく剥離されるとともに、塗布面は満遍なく均される。
液切れ作業が終了すれば(塗布面が均され、垂れ跡が無くなれば)、つぎの乾燥工程に中子17を移動させる。以後、同様にして、未塗布の中子17に順々に塗型剤eを塗布する。
【0024】
所要数の中子17への塗型剤塗布が終了すれば、例えば、一日の作業終了後、ざる9を塗型剤槽6から引き上げて、塗型剤槽6内に浮遊・沈降する砂粒子を取り出す。
【0025】
この実施例において、中子17の浸積時間を1〜3秒、回転数を2.5〜5rpm、各傾斜角度θを30〜40度、回転時間を15〜30秒で行なったところ、液切れが円滑になされ、特に、中子17の傾斜角度θは、30度程度が好ましかった。
【0026】
なお、閉塞板8をチャック5に対し進退可能とすれば、中子17の軸心方向の長さ変化に対応できると共に、図2(d)鎖線に示すように、回転時、閉塞板8を上方に退去させて、中子17の閉塞板8が当接していた部分の液切れを促進させることができる。
また、図3に示すように、発泡スチロール等からなる浮子型閉塞板8を塗型剤槽6内に浮かべて、同図鎖線に示すように、その閉塞板8を沈めながら中子17をどぶ漬けすることもできる(特許文献3参照)。
【0027】
さらに、図4に示すように、塗型剤槽6内に閉塞板8をばね8aを介して設け(固定し)、同図(a)のように、その閉塞板8はその表面がばね8aによって常時は塗型剤e表面から出ているようにすることができる。
この構成では、同図(b)から(c)に示すように、中子17を閉塞板8に当接させて押し下げることにより、その閉塞板8が中子17の内部への塗型剤eの流入を阻止しつつばね8aに抗して押し下げられる。
このとき、ばね8aによって、閉塞板8は支持されているため、その動きはスムースである。また、閉塞板8は、発泡スチロールでも良いが、硬質の樹脂板、ステンレス板、さび止め塗装の鉄板、アルミニウム板等の硬質板を使用すれば、耐久性がよいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】遠心鋳造の概略図
【図2(a)】一実施例の作用図
【図2(b)】同実施例の作用図
【図2(c)】同実施例の作用図
【図2(d)】同実施例の作用図
【図3】他の実施例の作用図
【図4(a)】他の実施例の作用図
【図4(b)】同実施例の作用図
【図4(c)】同実施例の作用図
【符号の説明】
【0029】
1 鋳鉄管の受口
2 同挿し口
5 中子チャック
6 塗型剤槽
8 閉塞板
8a ばね
9 ざる(容器)
11 モールド
17 中子
a 溶湯
e 塗型剤
P 鋳鉄管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄管鋳造用中子17をチャック5によりチャッキングして塗型剤槽6に浸漬させて、前記中子17に塗型剤eを塗布する際、前記チャック5によって、前記中子17を前記塗型剤槽6に浸漬させて取出した後、その中子17を、その軸心cを鉛直方向に対し傾けてその軸心c周りに回転させて、余分な塗型剤eを液切りすることを特徴とする鋳物用中子の塗型剤塗布方法。
【請求項2】
上記中子17軸心cの鉛直方向に対する傾斜角度θを20〜60度内としたことを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄管鋳造用中子の塗型剤塗布方法。
【請求項3】
上記中子17軸心cの鉛直方向に対する傾斜角度θを30度前後としたことを特徴とする請求項2に記載の鋳鉄管鋳造用中子の塗型剤塗布方法。
【請求項4】
上記中子17が砂から成って、その中子17を塗型剤槽6に浸漬させる前に、中子17の被塗布面をエアブローして、結合力の弱い砂を剥離することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳鉄管鋳造用中子の塗型剤塗布方法。
【請求項5】
上記塗型剤槽6に多孔の容器9を沈め、その容器9内に上記中子17を浸漬させて、その中子17から剥がれて塗型剤槽6内に浮遊・沈降する砂粒子を前記容器9によって捕捉するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の鋳鉄管鋳造用中子の塗型剤塗布方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図2(d)】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【公開番号】特開2006−192496(P2006−192496A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241252(P2005−241252)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】