説明

鋼帯の製造設備

【課題】C反り及びL反りを矯正可能であり且つ設備の小型化及びランニングコスト低減を図ることが可能な、鋼帯の製造設備を提供する。
【解決手段】焼鈍炉を備えた鋼帯の製造ラインに設けられる鋼帯の製造設備であって、調質圧延機及びその出側に配置された通板ロールの下流側に、5本のロールを用いて鋼帯の反りを矯正する反り矯正装置を有し、5本のロールは、パスラインの一方の側に配置された2本のロール、及び、パスラインを挟んで反対側に配置された3本のロールが、パスラインに沿って交互に配置されており、5本のロールのうち、少なくとも2本のロールはパスラインに対する位置を独立に変更可能であり、5本のロールのロール径をパスラインの上流側から順にd1乃至d5とし、隣接するロールの間隔をパスラインの上流側から順にP1乃至P4とするとき、d1=d2=d3=d4<d5、且つ、P1=P2=P3<P4である、鋼帯の製造設備とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍、又は、溶融亜鉛めっき設備の鋼帯の製造ラインにおいて、調質圧延以降に生じる鋼帯の反りを矯正し得る、鋼帯の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼帯などの冷延鋼帯に要求される品質として、機械特性、表面粗さ、及び、平坦度の管理が重要であるが、それ以外にも鋼帯の幅方向、及び、長手方向の反りが重要な項目であり、二次加工工程での通板作業性向上や、自動車用鋼板で使用されるテーラードブランク技術の近年の適用拡大に伴い、反り管理の重要性は増している。
【0003】
冷延鋼帯は、冷間圧延、焼鈍、さらに仕様によっては亜鉛めっきを施された後、調質圧延を経て製品となる。調質圧延ではプレス加工時の降伏点伸びを回避する目的で、圧延によって鋼帯に0.2〜1.0%程度の伸びが付与され、同時に鋼帯の表面粗さの付与、平坦度の改善が行われる。現在は、量産材の焼鈍工程は連続焼鈍が主流であり、焼鈍装置、冷却装置、及び、めっき設備の出側に配置された調質圧延機を用いて、連続的に処理するのが一般的である。
【0004】
ところが、この調質圧延設備には一般に、圧延機の入側並びに出側に、鋼帯の張力を測定し張力制御によって圧延での伸び率を制御するためのテンションメータ(張力計)ロール、極軽圧下圧延で生じやすい鋼帯の絞込みやクロスバックルといった通板トラブルを防止するためのアンチクリンピングロール、及び、クロスブレーキロールなどと呼ばれる通板ロールが配備されている。これらのロールは、いずれも鋼帯を所定の角度で巻きつけることによって機能し、設備の制約上、例えば調質圧延機のワークロール径などと比較しても小径のロールが用いられるため、このロールを通過する際の曲げ−曲げ戻しによって鋼帯が塑性変形する場合がある。さらに、調質圧延機の入側及び出側に設置された通板ロールにより不可避的な曲げ変形を受けることに起因して鋼帯の反りが発生し、製品に有害な反りが残留する問題がある。
【0005】
また、上記原因で発生する反りは、鋼帯の材質や機械的特性、板厚などの材料側の因子、ライン張力、クロスブレーキロール高さ、及び、調質圧延でのパスラインの変動などの設備側の因子など、多くの因子の影響を受ける。そのため、ラインで発生する反りは一定ではなく、ある程度のバラつきを持っている。
【0006】
このような連続ライン出側で生じる鋼帯の反りを矯正する方法として、例えば特許文献1には、連続焼鈍炉よりも下流側のライン内に配置されたロールのうち、最小径で且つライン最下流側に配置されたロールと、そのロールのライン下流側の直近に配置されたロールとの間に、最小径ロールよりも小径でかつ通板ラインに対して進退可能なロールを配置する鋼帯の形状矯正方法が開示されている。また、特許文献2には、鋼帯連続処理ライン出側において、シャー前最終位置の非駆動ラインロール出側に、これに接近して小径の2本ロールを配置して3本式レベラーを構成するL反り矯正装置が開示されている。このほか、特許文献3には、入側のローラから出側ローラに向かって順次ローラピッチを広くした矯正機が、特許文献4には、入側から4本目のロールから下流側のロールピッチのうちの少なくとも一つのロールピッチが、最入側ロールを含む連続する3本の入側ロールのロールピッチの平均値よりも長いローラレベラが、それぞれ開示されている。また、特許文献5には、レべリングローラの径を金属板の導入側から導出側にかけて漸次大きくしたレべリング装置が、特許文献6には、レべリングロールの径を少なくとも2種にすると共に、径ごとに帯板の進行方向に沿って順に配したローラレベラが、それぞれ開示されている。また、特許文献7には、交換可能な作業ロールを有する上下のロールユニットと、各ロールユニットを上下に移動して作業ロール間のインターメッシュ量を調整させるインターメッシュ調整装置と、各ロールユニットを水平に移動して作業ロール間のピッチを変化させるピッチ調整装置と、インターメッシュ調整装置及びピッチ調整装置を制御するロール位置制御装置とを備えた、アタッチドレベラが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−209488号公報
【特許文献2】特開平7−148524号公報
【特許文献3】実開昭59−6008号公報
【特許文献4】特開2004−34113号公報
【特許文献5】特開2001−105026号公報
【特許文献6】特開昭61−245917号公報
【特許文献7】特開2001−9523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されている方法が適用される装置、及び、特許文献2に開示されている装置は、コンパクトであるため、連続焼鈍、又は、溶融亜鉛めっき設備の鋼帯の製造ラインに設置しやすい利点がある。しかし、これらの装置は鋼帯の反りを矯正するロールの数が少な過ぎるため、反り矯正能力が劣り、C反り及びL反りを適正値まで矯正できないという問題があった。これに対し、特許文献3乃至特許文献7に開示されている技術では、ロール本数が多い装置を用いるため、矯正能力は優れる半面、装置の小型化を図り難く、また、使用するロールの径の種類が多いとそのロール径毎に予備品を抱えることになるためランニングコストが増大しやすいという問題があった。
【0009】
ここで、反り矯正が不十分であると、出荷後の二次加工工程で製品の精度不良や自動化を阻害する原因となるため、現状、反りの管理が必要な製品については、次工程でリコイリングしてテンションレベラーにより形状、反り矯正を行うのが一般的である。ところが、次工程での精整作業を行うことによって工程増や歩留の悪化によるコスト増大や製造リードタイムが長くなるなどの問題がある。それゆえ、連続焼鈍、又は、溶融亜鉛めっきライン後にそのままインラインで反りを矯正して、製品を得ることが可能な技術が求められていた。
【0010】
そこで、本発明は、C反り及びL反りをインラインで矯正可能であり、且つ、設備の小型化及びランニングコスト低減を図ることが可能な、鋼帯の製造設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするため、添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明は、焼鈍炉を備えた鋼帯の製造ラインに設けられる鋼帯の製造設備(100)であって、焼鈍炉の下流側に設けられた調質圧延機(60)及びその出側に配置された通板ロール(43、44、32)の下流側に、ロール(11、12、13、14、15)を用いて鋼帯の反りを矯正する反り矯正装置(10)を有し、ロールは、パスラインの一方の側に配置された2本のロール(12、14)、及び、パスラインを挟んで上記一方の側の反対側に配置された3本のロール(11、13、15)が、パスラインに沿って交互に配置された5本のロールであり、該5本のロールのうち、少なくとも2本のロール(12、14)は、パスラインに対する位置を独立に変更可能であり、5本のロールを、パスラインの上流側から順に、第1ロール(11)、第2ロール(12)、第3ロール(13)、第4ロール(14)、及び、第5ロール(15)とし、第1ロールのロール径をd1、第2ロールのロール径をd2、第3ロールのロール径をd3、第4ロールのロール径をd4、第5ロールのロール径をd5、第1ロール及び第2ロールの軸心間隔をP1、第2ロール及び第3ロールの軸心間隔をP2、第3ロール及び第4ロールの軸心間隔をP3、第4ロール及び第5ロールの軸心間隔をP4とするとき、d1=d2=d3=d4<d5、且つ、P1=P2=P3<P4であることを特徴とする、鋼帯の製造設備である。
【0013】
ここに、本発明において、「ロール径」とはロールの直径をいい、「軸心間隔」とは、パスラインと平行な方向における軸心間の距離をいう。また、本発明において、d1、d2、d3、及び、d4は、使用中の摩耗やロール研磨後の径のばらつきから、直径で10mm程度のばらつきは許容される。本発明において、「d1=d2=d3=d4」とは、第1ロール、第2ロール、第3ロール、及び、第4ロールが同じ規格のロールであることを意味し、「d1=d2=d3=d4<d5」とは、第5ロールが他のロール(第1ロール乃至第4ロール)よりも直径が大きい別の規格のロールであることを意味する。5本のロール(11、12、13、14、15)を、d1=d2=d3=d4<d5、且つ、P1=P2=P3<P4となるように構成することにより、C反り及びL反りを適切に矯正することが可能になる。また、d1=d2=d3=d4<d5とすることにより、ロール径を2種類にすることができるので、ランニングコストを低減することが可能になる。さらに、5本のロール(11、12、13、14、15)で反りを矯正する形態とすることにより、設備を小型化することが可能になるので、反り矯正装置(10)を調質圧延機(60)の出側に配置することが可能になる。その結果、焼鈍、又は、溶融亜鉛めっき後にそのまま鋼帯(1)の反りをインラインで(製造ラインから外して精整工程を経ることなく)矯正して製品化することが可能になる。
【0014】
また、上記本発明において、P4が変更可能であることが好ましい。かかる形態とすることにより、鋼帯の板厚が変わっても反りを適切に矯正することが可能になる。また、使用に伴って第5ロール(15)のロール径が小さくなっても、P4を大きくすることにより、鋼帯(1)の反りを適切に矯正することが可能になる。
【0015】
また、上記本発明において、調質圧延機(60)の出側に、複数の張力付与装置(22、23)が備えられ、反り矯正装置(10)が、該複数の張力付与装置のうちパスラインの最上流に配置された張力付与装置(22)よりも下流側に配置されていることが好ましい。かかる形態とすることにより、鋼帯(1)の反りを適切に矯正しやすくなる。
【0016】
また、上記本発明において、反り矯正装置(10)が、パスラインの最下流に配置された張力付与装置(23)の上流側に配置されていることが好ましい。かかる形態とすることにより、鋼帯(1)の長手方向の全長に亘って反りを適切に矯正しやすくなる。
【0017】
また、上記本発明において、パスラインの最下流に配置された張力付与装置(23)の上流側に板幅計(71)が設置され、反り矯正装置(10)が板幅計の上流側に配置されていることが好ましい。かかる形態とすることにより、板幅の誤差を低減しやすくなるので、製品の品質を高めやすくなる。
【0018】
また、上記本発明において、パスラインの最下流に配置された張力付与装置(23)の上流側にサイドトリマ装置(72)が設置され、反り矯正装置(10)がサイドトリマ装置の上流側に配置されていることが好ましい。かかる形態とすることにより、トリミングの誤差を低減しやすくなるので、製品の品質を高めやすくなる。
【0019】
また、上記本発明において、反りを矯正される鋼帯(1)の機械的性質及び板厚、並びに、テンションリール(90)に巻き取られた鋼帯の長さに応じて、反り矯正装置による鋼帯の反り矯正条件が変更されることが好ましい。
【0020】
ここに、「鋼帯(1)の機械的性質」とは、例えば、降伏応力や引張強度、加工硬化係数をいう。テンションリール(90)に巻き取られたコイル状の鋼帯をほどくと、軸心側(鋼帯の先端側)ほどL反りが確認されやすい。そこで、コイル状の鋼帯をほどいた時にL反りが確認されないようにするため、鋼帯の先端側を巻き取る際には、コイル状に巻き取られる際に付与されるL反りの向きとは反対側の反りを意図的に付与できるように、鋼帯の反り矯正条件を設定し、L反りが存在しやすい鋼帯の先端部が巻き取られた後は、上記反対側の反りを付与しないように(鋼帯が平らになるように)鋼帯の反り矯正条件を設定する。かかる形態とすることにより、ほどいた際に長手方向の全長に亘って反りが適切に矯正された鋼帯を製造することが可能な、鋼帯の製造設備(100)を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、C反り及びL反りをインラインで矯正可能であり、且つ、設備の小型化及びランニングコスト低減を図ることが可能な、鋼帯の製造設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】鋼帯の製造設備100を説明する図である。
【図2】C反り量の変化を示す図である。
【図3】クロスブレーキロールの高さ設定値とライン出側における反りとの関係を示す図である。
【図4】ロール配置を説明する図である。図4(a)は3本のロールを備えた装置のロール配置を示す図であり、図4(b)は4本のロールを備えた装置のロール配置を示す図であり、図4(c)及び図4(d)は5本のロールを備えた装置のロール配置を示す図である。
【図5】反り矯正後に残留した反り矯正前の反りとロール本数との関係を示す図である。
【図6】C反り量と本発明の設備に備えられる反り矯正装置における出側ロールのインターメッシュとの関係を示す図である。
【図7】ロール径d、ロールピッチP、インターメッシュH、及び、巻付角θを説明する図である。
【図8】本発明の設備に備えられる反り矯正装置による反り矯正後の鋼帯の反りの実測値と計算値との比較を示す図である。
【図9】入側ロールのインターメッシュと、反り量と、出側ロールのインターメッシュとの関係を示す図である。
【図10】本発明の設備に備えられる反り矯正装置による反り矯正の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。
【0024】
図1は、本発明にかかる鋼帯の製造設備100の形態例を説明する図である。鋼帯の製造設備100を用いて製造される鋼帯1は、図1の紙面左側から右側へと送られる。図1に示したように、鋼帯の製造設備100は、不図示の熱処理炉(焼鈍炉)の下流側に配置された調質圧延機60を挟んで上流側(入側。図1の紙面左側。以下において同じ。)及び下流側(出側。図1の紙面右側。以下において同じ。)の近傍にそれぞれ、調質圧延における絞り込みやクロスバックルなどの平坦不良を防止するためのアンチクリンプロール42及びクロスブレーキロール43が配置されている。さらに、アンチクリンプロール42及びクロスブレーキロール43の外側には、鋼帯1の張力を測定するテンションメータロール31、32、及び、該テンションメータロール31、32に対する鋼帯1の巻き付け角度を一定に保つためのロール41、44が、それぞれ配置されている。そして、ロール41、44のさらに外側には、調質圧延される鋼帯1に張力を付与するためのブライドルロール21、22がそれぞれ配置されている。調質圧延機60の下流側に配置されたブライドルロール22の下流側には、反り矯正装置10が配置されている。反り矯正装置10は、パスラインの上流側から順に、第1ロール11、第2ロール12、第3ロール13、第4ロール14、及び、第5ロール15(以下において、これらをまとめて「5本のロール」ということがある。)を有しており、5本のロールによる鋼帯1の反り矯正条件は、制御装置16によって制御されている。第1ロール11、第3ロール13、及び、第5ロール15はパスラインの下側に配置され、パスラインの上側に配置された第2ロール12及び第4ロール14は図1の紙面上下方向に移動可能に構成されており、第5ロール15は図1の紙面左右方向に移動可能に構成されている。第1ロール11のロール径をd1、第2ロール12のロール径をd2、第3ロール13のロール径をd3、第4ロール14のロール径をd4、第5ロール15のロール径をd5、第1ロール11及び第2ロール12の軸心間隔(図1の紙面左右方向の軸心間距離。以下において同じ。)をP1、第2ロール12及び第3ロール13の軸心間隔をP2、第3ロール13及び第4ロール14の軸心間隔をP3、第4ロール14及び第5ロール15の軸心間隔をP4とするとき、反り矯正装置10は、d1=d2=d3=d4<d5、且つ、P1=P2=P3<P4とされている。この反り矯正装置10の下流側には、板幅計71及びサイドトリマ72のほか、図示しない疵検査装置などの付帯装置が配置されている。板幅計71の下流側には、設備出側のライン張力を巻取り張力まで下げるためのブライドルロール23、図示しない塗油装置、及び、コイルの溶接部でコイルを切断するフライングシャー80などが配置されており、フライングシャー80の下流側に配置されたテンションリール90によって、鋼帯1が巻き取られる。鋼帯の製造装置100には、テンションリール90によって巻き取られた鋼帯コイルの外径を検知可能な検知器73が備えられている。この検知器73を用いて検知された、テンションリール90によって巻き取られた鋼帯コイルの外径に関する情報は、制御装置16へと送られる。制御装置16は、鋼帯1の機械的特性や板厚、及び、テンションリール90によって巻き取られた鋼帯1の長さに応じて、反り矯正条件(例えば、インターメッシュ量)を決定する。5本のロールは、制御装置16で決定された反り矯正条件に応じて作動し、5本のロールを用いて鋼帯1の反りが矯正される。
【0025】
調質圧延機60の出側に配置された、クロスブレーキロール43、ロール44、テンションメータロール32、ブライドルロール22、及び、ブライドルロール23(以下において、これらをまとめて「出側通板ロール」ということがある。)、並びに、反り矯正装置10によって、鋼帯1は曲げ変形を受け、鋼帯1のロールと接する面では圧縮、反対側の面では引張の表裏逆向きのひずみが付与される。ロールによって受ける曲げの曲率半径が十分大きければ、ひずみは弾性変形の範囲に収まるため、ロール通過後の鋼帯1に反りは発生しないが、これらの出側通板ロールのうち、クロスブレーキロール43、テンションメータロール32は設備配置の制約上、比較的小径のロールであり、且つ、それらのロールが近接して配置されていること、また、比較的高い鋼帯張力が付与されていることから、ロールによる曲げひずみは弾性ひずみを越え、塑性変形が生じることによって、ブライドルロール22通過後の鋼帯1には反りが残留する。そこで、鋼帯の製造設備100では、ブライドルロール22の出側に配置した反り矯正装置10によって、鋼帯1に残留した反りを矯正する。
【0026】
ここで、ロールでの曲げによる板の反り変形を理解するため、一般的な教科書に記載されている曲げの初等理論を引用する[例えば、日本塑性加工学会編「例題で学ぶはじめての塑性力学」(第1版)、森北出版、p.74−85]。
板厚t、板幅bの板を長手方向に曲げ、曲率半径ρとなるように曲げモーメントMを負荷して曲げた場合、板厚の中心(中立面)から板厚方向に距離yの位置における長手方向ひずみεxは、幾つかの仮定をおくことで、近似的に下記式(1)で表される。
εx=y/ρ …式(1)
このときの長手方向応力σxは、弾性変形の状態ではフックの法則より、下記式(2)で表される。
σx=E・y/ρ …式(2)
ここで、Eは縦弾性係数(ヤング率)である。
【0027】
板全体が弾性変形の状態であれば、曲げモーメントMを除荷することにより、変形前のまっすぐな状態に戻すことができる。しかし、長手方向応力σxが材料の降伏応力Yに達すると塑性変形(永久ひずみ)が生じ、材料を弾−完全塑性体(加工硬化しない)と仮定すれば、長手方向応力:σxは、下記式(3)に示す一定値となる。
σx=±Y …式(3)
ここで、+は引張側、−は圧縮側である。
【0028】
式(1)及び式(2)より、長手方向ひずみεx及び応力σxは、板厚中心(中立面)からの距離yに比例し、板表面ほど大きくなるため、板厚の表層域が塑性変形、中心域が弾性変形となる弾塑性状態となる。この状態から曲げモーメントMを除荷すると、塑性変形領域は元に戻らないため、板厚方向に残留応力が生じ、曲率半径ρ’の状態で反りが生じる。曲げモーメントMと除荷前後の曲率半径との関係は、近似的に下記式(4)で表される。
−M=EI(1/ρ’−1/ρ) …式(4)
ここで、Iは板の断面二次モーメント(=bt/12)である。
【0029】
以上の初等理論から導かれる曲げ変形の挙動として、板の反り量は、曲げの曲率半径ρ、板厚t、材料の機械特性値、特に降伏応力Yの影響を受ける。また、上記引用文献には記載されていないが、板に引張応力(張力)σが負荷されている条件では、式(2)は下記式(5)となり、表裏面での塑性変形領域の分布が変化するため、反りに影響する。
σx=E・y/ρ+σ …式(5)
【0030】
定性的には、鋼帯の板厚tが厚いほど板表層の曲げひずみは大きくなり、塑性変形を生じ易く、曲げによる曲率半径ρが大きい条件でも反りが発生する場合があり、同じく、降伏応力Yの小さい材質や、通板時の張力の高い操業条件でも反りが発生しやすい傾向にある。同様に、製造ロット間やコイル長手方向での降伏応力の変動・バラツキ、張力変動などが反りを変化させる外乱になることは明らかである。
【0031】
実際の製造工程では、上記の初等解法のような単純な変形ではなく、板は曲げ−曲げ戻しを繰返し受け、また、板は幅方向にも三次元的に変形するため、反りを簡便なモデルで表すことは困難である。
【0032】
本発明者らは、反り矯正装置10、制御装置16、及び、検知器73が備えられていないほかは鋼帯の製造設備100と同様に構成される連続ライン出側における反りの発生と、各種因子の影響を検証した。ただし、実機ラインの各地点における反り量を詳細に調査するのは困難であるため、ここでは数値シミュレーションを用いた。数値モデルは、「美坂・益居:塑性と加工、17−191(1976)、p.988−994」(以下において、当該文献を「参考文献1」という。)に記載のものを用い、曲げ−曲げ戻しによる鋼帯の長手方向反り(L反り)、及び、幅方向反り(C反り)量を評価した。解析はTS=590MPa鋼(YP=440MPa)、板厚=0.8mm、1.0mm、1.4mm、1.6mmと、TS=440MPa鋼(YP=300MPa)、板厚=1.8mmの条件で行った。
【0033】
図2に、ロール径や配置など設備側の条件を同一とした場合の、ライン出側での各ロール位置でのC反り量の変化を示す。図2の縦軸はC反り量[mm]であり、同横軸はライン出側に配置されたロールの、上流側から1、2、…と順に付与されたロールの番号である。また、図2において、入B/Rは調質圧延機の上流側に配置されたブライドルロール、T/Mはテンションメータロール、A/Cはアンチクリンプロール、調圧ミルは調質圧延機、C/Bはクロスブレーキロール、出B/Rは調質圧延機の下流側に配置されたブライドルロール、#4B/Rは最終ブライドルロールである。また、図2において、60K−0.8tは厚さ0.8mmのTS=590MPa鋼、60K−1.0tは厚さ1.0mmのTS=590MPa鋼、60K−1.4tは厚さ1.4mmのTS=590MPa鋼、60K−1.6tは厚さ1.6mmのTS=590MPa鋼、45K−1.8tは厚さ1.8mmのTS=440MPa鋼である。図2、図3、図6、図8乃至図10では、パスラインの上側に凸になる反りを正の値で示し、パスラインの下側に凸になる反りを負の値で示した。図2に示したように、調質圧延機入側のテンションメータロールから、アンチクリンピングロール、調質圧延機、クロスブレーキロール、及び、調質圧延機出側のテンションメータの範囲で反りは大きく変化しており、これらロールでの曲げ−曲げ戻しによって鋼帯が塑性変形を受け、ここで生じた反りは、ブライドルロールではほぼ変化せずライン出側まで残留していることがわかる。また、鋼種や板厚によって最終的な反り量は変化している。
【0034】
図3に、調質圧延機出側のクロスブレーキロールの高さ設定値(パスラインに対する位置の設定値)と、ライン出側での反りの関係を示す。図3の縦軸は、板幅方向の長さ1000mmに対するC反り量[mm]であり、横軸はクロスブレーキロールの高さ(パスラインに対するクロスブレーキロールの位置。以下において同じ。)[mm]である。また、図3において、45K−1.8tは厚さ1.8mmのTS=440MPa鋼、60K−0.8tは厚さ0.8mmのTS=590MPa鋼、60K−1.0tは厚さ1.0mmのTS=590MPa鋼、60K−1.4tは厚さ1.4mmのTS=590MPa鋼、60K−1.6tは厚さ1.6mmのTS=590MPa鋼である。図3に示したように、クロスブレーキロールの高さによってC反り量が変化しているが、上記のロールの本来目的である通板安定化のため、通常設定されている100mm程度のロール高さでは反り発生は避けられないことがわかる。
【0035】
この検討結果より、本発明で目的とする、連続ライン作業後に、次工程の精整作業を経ずにインラインでそのまま製品化可能な反り管理を行うには、調質圧延機出側、好ましくは調質圧延機出側のテンションメータロールよりも下流側に反り矯正装置を設置する必要があることは自明である。
【0036】
また、調質圧延機出側のブライドルロール(調質圧延機の下流側に配置された最初のブライドルロール。以下において同じ。)では反りは殆ど変化しないか、または、当該ブライドルロールが反りに与える影響はわずかであるので、通板中に一定のライン張力が安定的に付与される最終のブライドルロールよりも上流側に反り矯正装置を設置するのが良いことが分かる。
【0037】
調質圧延機出側のブライドルロールよりも上流側に反り矯正装置を配置しても、インラインでそのまま製品化可能な反り管理を行うことは可能だが、調質圧延機の入側及び出側では設定張力レベルが高く、調質圧延での目標伸び率付与、伸び率制御での要求が優先され、鋼種・サイズによって単位断面積当りの張力も変化するため、反り矯正に関しては外乱となる。そのため、調質圧延機出側のブライドルロールよりも下流側に反り矯正装置を設置することがより望ましい。
【0038】
更には、幅方向の反り(C反り)を持つ鋼帯はもちろんのこと、長手方向の反り(L反り)の残留ひずみを持つ鋼帯をラインの長手方向に張力を付与すると幅方向の反りが現れるため、ライン通板中であってもロールなどによる拘束が無い場合、鋼帯は幅方向に反る。鋼帯の製造において、当該の連続ラインでは出側に板幅計を設置し、全長にわたって幅を測定し品質保証データとして管理している。また、同じく出側にサイドトリマ装置を設置して製品の要求の幅に鋼帯のエッジをトリミングすることも広く行われている。上記のライン通板中の幅反りはこれら幅測定やトリミングの誤差となるため、反り矯正装置をこれら板幅計やサイドトリマ装置の上流に配置して反りを矯正した上で通板することは、品質管理・造り込みにおいて有効である。
【0039】
本発明者らは、続いて、反り矯正装置の仕様について検討した。ロールによる曲げ−曲げ戻し変形で反りを矯正する場合、矯正前の鋼帯の反りと、絶対値が等しく反りの方向が反対となるような曲げ変形を付与し、反りをキャンセルする方法が一般には考えられ、特許文献1乃至特許文献7に開示されている技術でもその思想に基づいて反り矯正が行われているが、先に述べたように矯正前の反りが常に一定とは限らず、鋼種やサイズによる差異だけではなく、種々の操業因子によってばらつくことが考えられる。その場合、反り矯正装置入側の反りの状況によって反り矯正の条件を修正・制御する必要があるが、連続焼鈍のような連続ラインで反りを実測することは困難であり、走行する鋼帯の反りを連続的に測定可能な計測装置も上記の使用に耐えるものはまだ開発されていないのが実情である。そこで、本発明者らは矯正前の反りの変動、バラツキを無害化できるような装置構成を検討した。
【0040】
従来技術を見るまでも無く、鋼帯を挟んで対向する複数のロールによって構成されるレベラーなどでは、ロールの相対的な位置関係を変化させることによって反り量を制御できる。図4(a)に示したように、ロールによって板に付与される曲げ変形量を決定する装置側の因子としては、隣接するロールの水平方向の軸心間隔(ロールピッチ)、ロール径、及び、隣接するロールの垂直方向のラップ量(インターメッシュ)を挙げることができる。
【0041】
図4(a)のような3本のロールで構成され、ライン方向の2本のロール間に位置するロール(図4(a)ではパスラインの上側に位置するロール)を押し引きする基本的3本ロール曲げの場合、インターメッシュと呼ぶロールの押し込み(ラップ)量と反りとの関係は、他の条件が同じであれば一義に決まることになる。この場合、矯正前の鋼帯が持つ反りをキャンセルできる条件は原則、1点のみとなる。これに対して、図4(b)や図4(c)に示したように、構成するロールの本数を増やし、圧下可能なロールを複数にすると反り矯正の自由度は増し、複数の条件で反りをキャンセルする条件を設定することが可能になる。すなわち、矯正前の鋼帯が持つ反りと逆方向で絶対値が等しい反りを付与するだけでなく、矯正前の反りを完全に打ち消すに足る十分に大きな変形を付与した後、そこで生じた反りをキャンセルすることも可能であり、反り矯正装置入側での反りのばらつきの影響を無害化することが可能になる。
【0042】
上記の効果を検討するため、矯正前(反り矯正装置入側。以下において同じ。)の反り変動の、矯正後(反り矯正装置通過後。以下において同じ。)の残留比率を、下記式(6)に示す指標で定義する。矯正前の反り量をCe1とし、あるロール押込み条件での矯正後の反り量をCd1とする。次に、矯正前の反り量がCe2へと変化した時に、上記と同一のロール押込み条件で矯正を行った時の矯正後の反りがCd2になるとすると、入側反り変動の残留比率は、
残留比率=(Cd2−Cd1)/(Ce2−Ce1) …式(6)
で表わせる。
【0043】
図4(a)〜(c)に示した各ロール配置でシミュレーション計算した結果を図5に示す。図5より、3本ロールでは入側反り変動の影響が多く残留し、4本ロールでも殆ど改善はされていないのに対して、5本ロールでは入側反り変動の影響をほぼ無害化できた。したがって、矯正能力確保のためには、5本以上のロールが必要であることが分かった。ここで、シミュレーションに用いた条件は、ロール径:150mmφ、ロールピッチ:150mmであり、インターメッシュは矯正後の反り量Cd1≒0となるように設定した。
【0044】
反り矯正装置の制御性を左右する因子として、ロールの配列が考えられる、図4(c)に示した5本ロールで構成され、同径の5本のロールを同ピッチで配置した場合の出側ロールのインターメッシュ制御に対する反りの変化と、図4(d)に示したように5本目のロール径を大径とした場合の反り制御特性との比較を、図6に示す。図6の縦軸はC反り量[mm]であり、横軸は4本目のロールと5本目のロールのインターメッシュ(図4(d)におけるb。以下において、「出側インターメッシュ」ということがある。)[mm]である。ここで、図4(c)のロール配列では、すべてのロール径:150mmφ、且つ、ロールピッチ(軸心間隔):150mmで一定とした。これに対し、図4(d)のロール配列では1本目から4本目までのロール径及びロールピッチは図4(c)のロール配列と同様とし、5本目のロール径d5を200mmφ、250mmφ、及び、300mmφの3通りとし、4本目のロールと5本目のロールとの軸心間隔P4を150mm、175mm、及び、200mmの3通りとした。なお、反りを矯正される対象材はTS=590MPa鋼(YP=440MPa)、板厚は1.4mmとし、図4(c)のロール配列及び図4(d)のロール配列共に、1本目のロールと2本目のロールのインターメッシュ(図4(d)におけるa。以下において、「入側インターメッシュ」ということがある。)は20mmとした。
【0045】
図4(c)のロール配列では、4本目のロールを押し込んで出側インターメッシュを大きくするに従って反りがマイナスからプラス方向へと変化した後、出側インターメッシュを更に大きくしていくと逆にプラスからマイナス側へと変化した。これは、出側インターメッシュが比較的小さい範囲では4本目のロールによる曲げ変形が支配的であるが、出側インターメッシュがある程度以上になると5本目のロールによる逆曲げが作用し、反りの挙動が逆転するためである。これに対して、図4(d)のロール配列では、d5及びP4が大きくなるに従って5本目のロールによる逆曲げの影響が緩和され、d5=300mmφ且つP4=200mmの条件では、インターメッシュの増大に対して、反りもマイナスからプラス側へ単調に変化し、5本目のロールによる逆曲げの影響が作用していない。制御アクチュエータとして考えた場合、極値を持つ図4(c)の様な系よりも図4(d)の方が制御性がよいと考えられる。
【0046】
先に述べたように、曲げによる板の塑性変形量を支配する因子のひとつは板の曲率半径であり、各ロールにおける板の曲率半径を適正に制御することにより上記の効果を得ることが可能である。しかしながら、図4に示すような装置にて板に曲げを与える場合、インターメッシュの小さな条件では、板はロールには完全に巻きつかず、実際の板の曲率半径はロール径よりも大きくなることが知られており、単にロール配置やロール径などの幾何学的な装置構成から曲率半径を正確に特定することはできない。
【0047】
参考文献1には、隣接するロール間の幾何学的な配置と、材料の機械特性値及び張力条件とから、実験式によって板の曲率半径を予測する方法が示されている。図7に示したように、ロールピッチP、インターメッシュHにて対向する直径dの2本のロールに接する板厚2aの真直ぐな板を考えると、ラップアングルとよぶ巻付角θは幾何学的な関係から求まる。参考文献1では、板の曲率半径ρを以下の実験式(7)で近似している。
【0048】
【数1】

ここで、Θは当該ロールとその上流側ロールによって形成されるラップアングルと、同じく下流側ロールによって形成させるラップアングルとの和である。また、σx0は材料の降伏応力であり、σは引張応力(張力)である。
【0049】
上記式(7)より、ラップアングルΘが大きくなるほど、板の曲率半径ρは減少してロールの半径に近づき、ロール径dが小さくなるほど、曲率半径ρは小さくなる。
【0050】
また、図7から、ロールピッチPが小さくなるほど、ラップアングルΘは大きくなり、曲率半径ρは小さくなる。したがって、定性的には、図6の効果を得るためには、最終ロールのロール径を大きくするか、最終ロールとその1本上流のロールとの間のロールピッチを大きくすれば、最終ロールでの曲げ変形による過剰な逆曲げの影響を抑制することができる。このほか、最終ロールが研磨されてロール径が小さくなった場合には、最終ロールのロール径に応じて、最終ロールとその1本上流のロールとの間のロールピッチを大きくすることも有効である。ここで、注意すべきことは、図4(d)での最終ロール(5本目のロール)は一見、板の反り矯正に寄与していないように思われるが、1本上流のロール(4本目のロール)でのラップアングルを形成するために必要である。
【0051】
一方、鋼帯をコイルに巻き取った後、需要家が需要家のラインでコイルを払いだした(ほどいた)際、鋼帯には(L反り)がついている。コイルの内周側ほど半径が小さいので、巻き癖の程度はコイルの内周側ほど大きくなる。需要家のラインには、一般に、ラインの入側にレベラーが備えられているため、巻き癖の矯正は可能である。しかし、需要家にはライン入側のレベラーを使いたくない理由が有る。
【0052】
近年、レベラーロールには鋼製ロールの表面に丈夫なコーティングが施されているため起こりにくくなったものの、やはり鋼製ロールで鋼帯を挟んで搬送すると、鋼帯に擦傷や凹み疵が生じる虞がある。ゴムや樹脂でライニングした搬送ロールであれば、擦傷や凹み疵は生じないが、レベラーロールにはこのようなライニングしたロールは使用できない。ライニングは強度が不足しているため、摩耗の結果ロール毎の周速が合わなくなる、ライニングが柔らかく矯正がうまくできないなどがその理由である。鋼帯の最先端においては鋼帯のラインへの導入のために、最尾端においては設備保護のために、ライン入側に設置したレベラーを使用するものの、その他の箇所(特にコイル内周側)においては、レベラーを使用しなくても平坦を確保した製品が、需要家から求められている。
【0053】
そこで、本発明では、払いだされた鋼帯の略全長に亘ってL反りを有しない製品を製造するために、鋼帯の先端側には、巻き取られる際に付与されるL反りとは反対向きのL反り(図1や後述する図8の例では負のL反り)を予め付与するように、制御装置16によって5本のロールによる反り矯正条件を決定し、鋼帯1の先端側から尾端側へと向かうにつれて、予め付与するL反りの量を徐々に低減するように、5本のロールによる反り矯正条件を決定することが好ましい。このような制御は、製造ラインの最下流に配置された張力付与装置(ブライドルロール23)よりも上流側に反り矯正装置10を配置することにより、鋼帯の反りを安定して矯正することが可能になる。
【0054】
鋼帯1の板厚が薄い場合や、テンションリール90によって巻き取られた鋼帯1の長さが長くなると、コイルを払いだした際のL反りは、問題にならない程度にまで低減する。そのため、本発明において、反り矯正装置10によって予め付与するL反り量は、鋼帯の巻き取り途中で0になっても良い。なお、後述するように、出側インターメッシュがL反り量に影響するため、出側インターメッシュを変更することにより、反り矯正装置10によって鋼帯1に予め付与するL反り量を変更することができる。本発明において、払いだされた鋼帯を略全長に亘って平坦にしやすくする観点からは、例えば検知器73を用いて、テンションリール90に巻き取られた鋼帯コイルの外径を検知し、検知器73で検知された外径と鋼帯1の板厚から、テンションリール90に巻き取られた鋼帯1の長さを制御装置16で計算し、計算された鋼帯1の長さと、鋼帯1に関する情報(降伏強度等の機械的特性や板厚等)とから、予め付与すべきL反り量に応じた出側インターメッシュを導出して、パスラインに対する第4ロールの位置を制御することが好ましい。なお、本発明において、テンションリール90に巻き取られた鋼帯1の長さは、検知器73を用いて導出する形態に限定されず、フライングシャー80で鋼帯先端を切断してからの搬送距離を用いても良い。また、鋼帯最先端部にL反りを付与するとテンションリール90への鋼帯最先端部の導入に支障をきたす場合、最先端部にはL反りを付与しなくても良い。
【0055】
以上、本発明について説明したが、実際の設備設計においては、製造対象となる多岐にわたる材料の板厚や機械的特性、張力などの操業条件を考慮して、それぞれの条件で反りの挙動を評価し、反りを適正に制御するための設備構成を精緻な反り予測シミュレーションや実験によって求めることが必要である。なお、本発明に関する上記説明では、サイドトリマ72の下流側に板幅計71が配置されている鋼帯の製造設備100を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。製品の品質保証の観点からは、サイドトリマ装置の下流側に板幅計を設置することが好ましいが、板幅計で測定した母材幅に応じてサイドトリマ装置の動作を制御可能な形態にする等の観点からは、サイドトリマ装置の上流側に板幅計を設置することができる。本発明において、板幅計は、サイドトリマ装置の上流側若しくは下流側、又は、サイドトリマ装置の上流側及び下流側に設置することができ、いずれの形態においても、パスラインの最下流に配置された張力付与装置の上流側に設置することが好ましい。
【実施例】
【0056】
図4(d)のように配置された5本のロールを有する反り矯正装置10を備えた鋼帯の製造設備100を模擬した実機を用いて試験することにより、本発明の効果を検証した。ここで、反りを矯正される対象材はTS=590MPa鋼(YP=440MPa)、板厚は1.4mmとし、図4(d)におけるロール径はd4=150mmφ及びd5=300mmφ、ロールピッチはP3=150mm及びP4=200mmとした。実機にて反り矯正装置10の反り矯正条件を種々変化させて通板を行ったのち、ライン出側で鋼帯よりサンプルを切り出し、反りを測定した結果を図8に示す。図8の縦軸は長さ1000mm(C反りの場合は板幅方向の長さ1000mm、L反りの場合は長手方向の長さ1000mm。)当たりの反り量[mm]であり、横軸は出側インターメッシュ[mm]である。
【0057】
図8より、C反り、L反りとも、本発明を行う際に検討したシミュレーション結果とよく一致しており、発明の前提となる計算の妥当性が確認された。また、図8より、出側インターメッシュを変更すると、C反り量及びL反り量が変化した。
【0058】
入側インターメッシュ以外は図8の結果が得られた条件と同一とし、入側インターメッシュを10mm、15mm、20mm、及び、25mmの4通りとしたシミュレーション結果を図9に示す。図9の縦軸は長さ1000mm(C反りの場合は板幅方向の長さ1000mm、L反りの場合は長手方向の長さ1000mm。)当たりの反り量[mm]であり、横軸は出側インターメッシュ[mm]である。また、図9において、入側IMは入側インターメッシュのことである。
【0059】
図9に示したように、出側インターメッシュが小さい範囲では、C反り量及びL反り量は入側インターメッシュに応じて大きく変化したが、出側インターメッシュを大きくすることにより、入側インターメッシュの違いが反り量に与える影響は小さくなった。
【0060】
パスラインに対するクロスブレーキロール43の位置(クロスブレーキロール高さ)を変更することにより反り矯正装置10入側における鋼帯1の反りを変化させた条件における、反り矯正後の矯正効果を図10に示す。図10の縦軸はC反り量[mm]、横軸はL反り量[mm]である。また、図10において、◇及び◆は板厚1.4mmのTS=590MPa鋼の結果、△及び▲は板厚1.6mmのTS=590MPa鋼の結果、◇及び△は反り矯正装置10による反り矯正前の結果、◆及び▲は反り矯正装置10による反り矯正後の結果であり、aは入側インターメッシュ[mm]、bは出側インターメッシュ[mm]である。また、図10において、C/Bロール高さは、クロスブレーキロールの高さ設定値のことである。厚さ1.4mmのTS=590MPa鋼は、入側インターメッシュa=20mm且つ出側インターメッシュb=10mm、及び、入側インターメッシュa=20mm且つ出側インターメッシュb=20mmのそれぞれの条件で、反りを矯正し、厚さ1.6mmのTS=590MPa鋼は、入側インターメッシュa=20mm且つ出側インターメッシュb=20mmの条件で、反りを矯正した。
【0061】
図10に示したように、反り矯正装置10を用いることにより、L反り、C反りともほぼ問題の無い範囲に矯正可能であった。また、反り矯正装置10の入側の反りが大きく変化した場合であっても、同一の反り矯正条件で、入側の反り変動の影響を無害化できることが立証された。
【符号の説明】
【0062】
1…鋼帯
10……反り矯正装置
11…第1ロール
12…第2ロール
13…第3ロール
14…第4ロール
15…第5ロール
16…制御装置
21、22、23…ブライドルロール(張力付与装置)
31、32…テンションメータロール(通板ロール)
41、44…ロール(通板ロール)
42…アンチクリンプロール(通板ロール)
43…クロスブレーキロール(通板ロール)
60…調質圧延機
71…板幅計
72…サイドトリマ(サイドトリマ装置)
73…検知器
80…フライングシャー
90…テンションリール
100…鋼帯の製造設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍炉を備えた鋼帯の製造ラインに設けられる鋼帯の製造設備であって、
前記焼鈍炉の下流側に設けられた調質圧延機及びその出側に配置された通板ロールの下流側に、ロールを用いて前記鋼帯の反りを矯正する反り矯正装置を有し、
前記ロールは、パスラインの一方の側に配置された2本のロール、及び、前記パスラインを挟んで前記一方の側の反対側に配置された3本のロールが、前記パスラインに沿って交互に配置された5本のロールであり、
前記5本のロールのうち、少なくとも2本のロールは、前記パスラインに対する位置を独立に変更可能であり、
前記5本のロールを、前記パスラインの上流側から順に、第1ロール、第2ロール、第3ロール、第4ロール、及び、第5ロールとし、前記第1ロールのロール径をd1、前記第2ロールのロール径をd2、前記第3ロールのロール径をd3、前記第4ロールのロール径をd4、前記第5ロールのロール径をd5、前記第1ロール及び前記第2ロールの軸心間隔をP1、前記第2ロール及び前記第3ロールの軸心間隔をP2、前記第3ロール及び前記第4ロールの軸心間隔をP3、前記第4ロール及び前記第5ロールの軸心間隔をP4とするとき、
d1=d2=d3=d4<d5、且つ、P1=P2=P3<P4
であることを特徴とする、鋼帯の製造設備。
【請求項2】
前記P4が変更可能であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼帯の製造設備。
【請求項3】
前記調質圧延機の出側に、複数の張力付与装置が備えられ、
前記反り矯正装置が、前記複数の張力付与装置のうち前記パスラインの最上流に配置された張力付与装置よりも下流側に配置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼帯の製造設備。
【請求項4】
前記反り矯正装置が、前記パスラインの最下流に配置された張力付与装置の上流側に配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼帯の製造設備。
【請求項5】
前記パスラインの最下流に配置された張力付与装置の上流側に板幅計が設置され、前記反り矯正装置が前記板幅計の上流側に配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の鋼帯の製造設備。
【請求項6】
前記パスラインの最下流に配置された張力付与装置の上流側にサイドトリマ装置が設置され、前記反り矯正装置が前記サイドトリマ装置の上流側に配置されていることを特徴とする、請求項4又は5に記載の鋼帯の製造設備。
【請求項7】
反りを矯正される前記鋼帯の機械的性質及び板厚、並びに、テンションリールに巻き取られた前記鋼帯の長さに応じて、前記反り矯正装置による前記鋼帯の反り矯正条件が変更されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の鋼帯の製造設備。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−75304(P2013−75304A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215819(P2011−215819)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】