説明

鋼帯の通電加熱方法

【課題】通電加熱範囲内に配置した鋼帯の送給方向を変えるための方向転換ロールへの鋼帯からの抜熱による鋼帯温度の低下を抑制し、かつ、板巾方向の抜熱ムラを低減し、板巾方向も含めた最終到達板温精度の確保、加熱効率の向上を図ることができる鋼帯の通電加熱方法を提供する。
【解決手段】連続送給される鋼帯の通電範囲内でその鋼帯の送給方向を変えるための方向転換ロールとしてロール表面にセラミック溶射被膜を形成した非磁性体ロールを用いる通電加熱装置において、通電加熱の開始時には板厚及び板巾が大きい鋼帯を加熱して前記方向転換ロールを板温近くまで昇温し、その後、板厚が小さく、板巾も方向転換ロール昇温時に通電加熱した鋼帯より小さい鋼帯を加熱することにより、前記鋼帯から方向転換ロールへの抜熱による鋼帯温度の低下を抑制すると共に板巾方向の板温偏差を低減することを特徴とする鋼帯の通電加熱方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続送給される鋼帯の通電範囲内でその鋼帯の送給方向を変えるための方向転換ロールを備えた通電加熱装置を用いた鋼帯の加熱方法に係り、例えば鋼帯を焼入れ、焼なまし、メッキ用予熱などの各種熱処理のために加熱する際に用いられる鋼帯の通電加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯を焼入れ、焼なまし、メッキ用予熱などの各種熱処理のために加熱する際に用いられる鋼帯の通電加熱方法に関しては、従来から種々の提案がなされており、例えば、実用新案登録第2532825号公報には、通電加熱範囲内で被加熱材の送給方向を変える方向転換ロールとして、ロール表面にセラミック溶射被膜を形成したロールが提案されている。
しかし、この実用新案登録第2532825号公報に記載されたセラミック溶射ロールで板厚が薄い鋼帯を通電加熱すると、特に方向転換ロールが常温である操業開始時にロール抜熱が大きくなり、その抜熱量が時間と共に減少方向に変化するため、鋼帯温度が安定しないという問題点があった。
【0003】
更に、板巾方向の温度偏差も大きいため、最終到達点の板温精度の確保が困難となるうえ、抜熱量が大きいため加熱効率も低下するという問題点もあった。
その対策として、方向転換ロールをゴムロールとし、耐熱ゴムが使用可能な板温位置に配置することにより鋼帯からの抜熱を低減する方法も考えられるが、鋼帯に流れる電流制御異常時に、耐熱ゴム部の板温が許容値以上に上昇し、ゴムが焼損する恐れがあるうえ、ゴムの耐熱温度が低いため高温側に方向転換ロールを設置することができないので設備配置の自由度がなくなるという問題点があった。
【特許文献1】実用新案登録第2532825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、連続送給される鋼帯の通電範囲内でその鋼帯の送給方向を変えるための方 向転換ロールを備えた通電加熱装置おける前述のような従来技術の問題点を解決し、通 電加熱範囲内に配置した鋼帯の送給方向を変えるための方向転換ロールへの鋼帯からの 抜熱による鋼帯温度の低下を抑制し、かつ、板巾方向の抜熱ムラを低減し、板巾方向も 含めた最終到達板温精度の確保、加熱効率の向上を図ることができる鋼帯の通電加熱方 法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果なされたものであり、その要旨 とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)連続送給される鋼帯の通電範囲内でその鋼帯の送給方向を変えるための方向転換ロールとしてロール表面にセラミック溶射被膜を形成した非磁性体ロールを用いる通電加熱装置において、
通電加熱の開始時には板厚及び板巾が大きい鋼帯を加熱して前記方向転換ロールを板温近くまで昇温し、その後、板厚が小さく、板巾も方向転換ロール昇温時に通電加熱した鋼帯より小さい鋼帯を加熱することにより、前記鋼帯から方向転換ロールへの抜熱による鋼帯温度の低下を抑制すると共に板巾方向の板温偏差を低減することを特徴とする鋼帯の通電加熱方法。
(2)連続送給される鋼帯の通電範囲内でその鋼帯の送給方向を変えるための方向転換ロールとしてロール表面にセラミック溶射被膜を形成した非磁性体ロールを用いる通電加熱装置において、
前記方向転換ロールをロールシェルにヒートパイプを内蔵した均温ロールとし、
通電加熱の開始時には板厚が大きい鋼帯を加熱して前記方向転換ロールを板温
近くまで昇温し、その後、板厚が小さい鋼帯を加熱することにより、板巾方向
の板温偏差を低減すると共に鋼帯温度の低下を抑制することを特徴とする鋼帯
の通電加熱方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、鋼帯から方向転換ロールへの抜熱による鋼帯の温度低下がほとんどなくなるため、最終到達点での板温精度が板巾方向含めて確保可能となり、加熱効率も向上する。また方向転換ロールにゴムロールを用いた場合のような方向転換ロールの設置位置の制約もほとんどなくなるため、設備設計上の自由度が向上するなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を適用した通電加熱方法の実施形態を図1乃至図5を参照して説明する。なお、この実施形態は、鋼帯を亜鉛メッキするために予熱する装置である。
図1乃至図4において、10は鋼帯、25は方向転換ロール、26はヒートパイプを示す。
本発明は、鋼帯10に誘導電流を発生させて加熱する鋼帯の通電加熱方法において、通電加熱の開始時には板厚が大きい鋼帯を加熱して該鋼帯の方向転換を行う方向転換ロール25を板温近くまで昇温し、その後、板厚が小さく、板巾も方向転換ロール昇温時に通電加熱した鋼帯より小さい鋼帯を加熱することにより、前記鋼帯から方向転換ロール25への抜熱による鋼帯温度の低下を抑制することを特徴とする。
通電加熱の開始時には板厚が大きい鋼帯を加熱することにより、鋼帯の熱容量を大きくなるので、常温の方向転換ロール25による抜熱による鋼帯温度の低下を抑制することができ、例えば20〜30分程度、板厚の大きい鋼帯を加熱した後、板厚の小さい鋼帯を加熱することによって鋼帯を適正な温度に加熱することができる。
【0008】
ここに、板厚が大きい鋼帯とは、板厚が1.0mm以上の鋼帯をいう。
また、昇温した方向転換ロール25の温度は、通電加熱後の板温である200〜400℃とすることが好ましい。
また、前記方向転換ロール25として、例えば図5に示すようにロールシェルにヒートパイプ26を内蔵した均温ロールを用いることにより、通電加熱開始時の板巾制約を無くした状態で板巾方向の板温偏差を低減することができる。
ロールシェルに、例えばφ10〜15mm程度で熱伝導率が銅の50〜100倍という複数のヒートパイプ26を内蔵した均温ロールを用いることにより、板巾方向の熱伝導特性を向上させることができるので、特に極薄物材を通電加熱する場合に生じる方向転換ロールの巾方向温度偏差(板センター部温度>板エッシ゛部温度)によって顕著となる板巾方向抜熱ムラを低減することができる。
なお、本発明においては、ヒートパイプ26に封入する熱媒体は問わないが、入手の容易性と伝熱特性から真空状態にした純水又はナフタレンを用いることが好ましい。
【0009】
さらに、前記方向転換ロール25として、ロール表面にセラミック溶射被膜を形成したステンレス製ロールを用いることが好ましい。
ロール表面に例えば数100μm程度の厚さのセラミック溶射被膜を形成して誘導電流を絶縁することによって、誘導電流がロール内をショートカットすることによるスパークの発生を防止することができる。
また、方向転換ロールを鉄ロールではなく、非磁性体であるステンレス製ロールとすることによって、誘導電流によるロールの過加熱を防止することができる。
【0010】
以下、図1乃至図4を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は装置全体の部分切欠き正面図であり、鋼帯10の送給路Lに沿って、加熱入側の通電用のロール対20、方向転換ロール25、加熱出側の通電手段である金属浴30が配置されている。
まず、加熱入側のロール対20は、ゴム材等がライニングされた押えロール21と導電性の通電ロール22との対によって構成され、鋼帯10を挟んで対向配置されている。押えロール21及び通電ロール22はそれぞれ回転自在であり、通電ロール22は鋼帯10の矢印方向への連続送給に同期してモータにより回転駆動される場合もある。押えロール21は例えばシリンダ40等からなる圧下手段により圧下力が付与されて鋼帯10に圧着されている。なお、ロール対20は同一のものが2組配置されており、一方が故障等した場合は他方が代用される。
【0011】
鋼帯10の送給方向を変えるための方向転換ロール25は、非磁性体のステンレスによって円柱状に形成され、回転自在に構成されている。なお、方向転換ロール25は鋼帯10に無理な変形力を与えないように充分に大きな直径となっている。
加熱出側の金属浴30は、浴槽31に溶融亜鉛32を満たすことにより構成されている。鋼帯10は溶融亜鉛32の中に浸されて送給され、ロール33を介して上方に引き上げられる。
【0012】
次に、この実施形態においては、鋼帯10への通電手段として、通電ロール22と金属浴30との間において鋼帯10の外周囲に複数の環状トランス50が配置されている。これら環状トランス50は、図2にも示すように、例えば磁路として好適な性質を有する珪素鋼板を矩形環状に形成して所定の長さに積層した環状鉄心51と、この環状鉄心51の内外周に沿って巻回させた一次コイル52とによって構成されている。その環状鉄心51の環内に鋼帯10が挿通されている。そして、環状トランス50の一次コイル52は、パワーコントロールスイッチを有する交流電源60に接続されている。
【0013】
次に、前記通電ロール22は例えばその軸22aに受電部を有し、この受電部に摺動子71が摺接されている。そして、この摺動子71と前記金属浴30との間に導電部材(いわゆるブスバー)70が架設され、これによって通電ロール22と金属浴30との間が電気的に接続されている。この導電部材70は、所定の巾及び厚さを有する銅材などの良導電材が用いられる。ここで、通電ロール22と金属浴30との間における鋼帯10の電気抵抗R1と導電部材70の電気抵抗R2との関係は、R1>>R2に設定されている。鋼帯10は比較的電気抵抗が大きく、銅材などからなる導電部材70は電気抵抗が極めて小さい上に断面積などを任意に設定可能であるので、R1>>R2にすることは極めて容易である。
【0014】
そして、摺動子71に接続された導電部材70の接続部70aは環状トランス50の直前で上側部70bと下側部70cとに分岐され、図2にも示すように、これら上側部70bと下側部70cとが環状トランス50の上下両側に近接してほぼ等間隔で配設されている。上側部70bと下側部70cとは環状トランス50の直後即ち方向転換ロール25の直前で結合され、図3にも示すように、上側部70dとなって方向転換ロール25の反対側で鋼帯10に近接して配設されている。そして、方向転換ロール25の直後で上側部70dから下側部70eが分岐され、図4にも示すように、これら上側部70dと下側部70eとが鋼帯10の上下両側に近接してほぼ等間隔で配設されている。そして、上側部70d及び下側部70eの先端が電極部材72に接続され、この電極部材72が前記溶融亜鉛32に浸されている。なお、導電部材70の上下の分岐及び結合は鋼帯10の左右両外方で行われる。また、導電部材70の各部要所には可撓性導電部材が結合されており、導電部材70の熱膨脹を吸収可能となっている。このように、導電部材70は、環状トランス50及び鋼帯10の上下両側に近接してほぼ等間隔で配設され、かつ、方向転換ロール25が配置された部分においては鋼帯10を挟んで方向転換ロール25の反対側のみに配設されている。
【0015】
なお、この実施形態においては、加熱出側の金属浴30が接地されており、加熱入側の通電ロール22の直前には、漏れ電圧を防止するためのチョーク80が設けられている。チョーク80は、珪素鋼板などを積層した環状鉄心によって構成され、鋼帯10の外周囲に近接配置されている。さらに、チョーク80の直前には鋼帯10を挟持する接地ロール81が配置されており、この接地ロール81は接地専用ケーブル(図示せず)によって金属浴30に接続されて、無用な迷走電流が他の部分に流れないようにしている。また、通電ロール22の直後には鋼帯10を挟持するシールロール85が配置され、このシールロール85の直後から金属浴30近傍までは、鋼帯10が密封管体86内を送給されるように構成されている。密封管体86の内部には主に窒素ガス等が封入され、鋼帯10を無酸素状態で加熱してメッキ前に酸化膜が生じないようにしている。なお、密封管体86は非磁性材料により形成され、その先端に前記電極部材72が取付けられている。
【0016】
上記のように構成された実施形態においては、交流電源60から環状トランス50の一次コイル52に一次電圧が印加されると、一次コイル52の環内に挿通された鋼帯10が二次コイルとして機能するので、その鋼帯10に二次電圧が誘起される。通電ロール22と金属浴30との間が導電部材70によって電気的に接続されているので、通電ロール22と金属浴30とを介して鋼帯10及び導電部材70によって短絡回路が形成され、鋼帯10に発生した二次電流は導電部材70を帰線として流れることになる。鋼帯10に誘起された二次電圧は、鋼帯10における電圧降下と導電部材70における電圧降下とによって消費されるが、(鋼帯10の電気抵抗)>>(導電部材70の電気抵抗)に設定されているので、二次電圧の殆どが鋼帯10の加熱のために消費され、導電部材70における損失は極めて少ない。これにより、鋼帯10が極めて効率良く通電加熱される。そして、所定の温度に加熱された鋼帯10は金属浴30において溶融亜鉛32が付着されて亜鉛メッキされる。
【0017】
なお、この内部トランス方式の場合、鋼帯10の内部で発生した電圧が鋼帯10自身の電圧降下により消費されるので、通電ロール22及び金属浴30にかかる電圧は導電部材70の内部で発生する電圧降下に等しくなる。導電部材70の電気抵抗は極めて小さいので、通電ロール22及び金属浴30にかかる電圧は極めて小さな電圧になる。例えば、この実施形態のように接地された金属浴30側を基準にすると、通電ロール22に現れる電圧は僅か数ボルトである。従って、付近の作業者の感電事故や周辺機器の損傷などを未然に防止することができ、安全性を著しく向上させることができる。さらに、漏れ電圧がチョーク80部分の鋼帯10に現れると、チョーク80のリアクタンスによって鋼帯10に逆向きの電圧が発生し、電圧の漏れが阻止されるが、通電ロール22にかかる電圧が非常に低いので、小型軽量のチョーク80を用いることができる。
【0018】
ところで、導電部材70が鋼帯10の上下両側に近接してほぼ等間隔で配設されているので、上側部70dを流れる電流は下側部70eを流れる電流とほぼ同一の値となり、何れも鋼帯10を流れる電流の1/2の値となる。従って、上側部70dと鋼帯10との間に生じる電磁力は、下側部70eと鋼帯10との間に生じる電磁力と等しくて方向が逆になる。これらの電磁力が釣り合うことによって、鋼帯10は上下何れにも殆ど動かず、鋼帯10の振動を防止することができる。さらに、導電部材70が鋼帯10の両側に配設された場合、磁気的並列回路となり、片側のみの配設に比べインダクタンスが1/2となる。この結果、力率が良くなって加熱の効率が高くなる。従って、所定電流を流すために余分の電圧を必要としないため、設備容量を低減することができると共に設備費用も削減することができる。
【0019】
また、導電部材70が環状トランス50の上下両側に近接してほぼ等間隔で配設されているので、上側部70bを流れる二次電流と鋼帯10を流れる二次電流とによる磁束を、これらの間にある環状トランス50の一次コイル51を流れる一次電流による磁束で打ち消し、下側部70cを流れる二次電流と鋼帯10を流れる二次電流とによる磁束を、これらの間にある環状トランス50の一次コイル51を流れる一次電流による磁束で打ち消すため、一次回路と二次回路との磁気結合が良くなり、インダクタンスが小さくなる。この結果、力率が良くなって加熱の効率が高くなる。従って、所定電流を流すために余分の電圧を必要としないため、設備容量を低減することができると共に設備費用も削減することができる。
【0020】
次に、方向転換ロール25が配置された部分においては、導電部材70の上側部70dが鋼帯10を挟んで方向転換ロール25の反対側のみに配設されているので、その方向転換ロール25は、鋼帯10と上側部70dとを流れる往復電流によって生じる強い交番磁界の外部に位置することになる。従って、方向転換ロール25が誘導加熱されることは殆どない。以上のように、導電部材70を鋼帯10及び環状トランス50の上下両側に近接して配設することによって、鋼帯10の振動が防止されると共に加熱効率が高められる。それでいて、導電部材70の特殊な配設構造によって、方向転換ロール25が無用に誘導加熱されることも防止することができる。
【0021】
なお、通電加熱の際には、鋼帯10のサイズ、送給速度、比熱、所定昇温温度などから予め求められる所要電力、所要電流、所要電圧の何れかを鋼帯10に与えるように、環状トランス50への入力を予め所定の値に設定して運転するプリセット方式が採られる。また、加熱出側で鋼帯10の温度を測定し、この測定値と予定された温度との間に差異がある場合には、その測定値と予定値とに基づいて交流電源60のパワーコントロールスイッチを制御して、差異に相当する電力、電流、電圧の何れかを調整するフィードバック方式が採られても良い。
【0022】
以上、本発明の一実施形態に付き説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の有効な変更並びに応用が可能である。例えば、実施形態では加熱出側の電極手段を金属浴としたが、一般的な通電ロールであっても良い。また、実施形態では環状トランスによって鋼帯に電圧を誘起させて加熱する構成を説明したが、電源供給手段(交流電源及び外部トランス)から通電ロール及び通電手段に直接給電する構成でも良い。なお、本発明は、鋼帯をメッキのために予熱する装置以外に、各種の被加熱材を各種目的のために通電加熱する様々な通電加熱装置に適用可能である。
【実施例】
【0023】
<実施例1>操業開始時に板厚の厚い材料を通板
まず、比較例として通電加熱開始時に、板厚0.4mm、板巾1200mmの薄物材をライン速度60mpmで通電加熱した。この時方向転換ロールでの抜熱による板温降下は最大90℃でそれから減少方向に変化したため、チューニンク゛が難しく、また板巾方向での温度偏差も20〜30℃程度発生したため、方向転換ロールの温度が板温(約280℃)近くになるまで、最終到達点の板温精度500℃±10℃を確保するのは困難であった。
次に、本発明例として通電加熱開始時に、板厚3.0mm、板巾1600mmの厚物、広巾材をライン最低速度40mpmで通電加熱した。この時方向転換ロールでの抜熱による板温降下は最大10℃、巾方向の温度偏差も2〜3℃で最終到達点の板温精度も確保できた。
その後続けて板厚0.4mm、板巾1000mmという少し巾の狭い薄物材を通電加熱したが、方向転換ロールが板温近くになっており、方向転換ロールでの抜熱はほとんどなく、巾方向の温度偏差も5〜6℃で最終到達点の板温精度も確保できた。
【0024】
<実施例2>均温ロールを方向転換ロールに適用
本発明例として通電加熱開始時に、板厚3.0mm、板巾1000mmの厚物材をライン最低速度40mpmで通電加熱した。この時方向転換ロールでの抜熱による板温降下は最大10℃、巾方向の温度偏差も2〜3℃で最終到達点の板温精度も確保できた。
その後続けて板厚0.2mm、板巾1700mmの薄物、広巾材を通板したが、方向転換ロールの板センター部と板エッシ゛部の温度偏差による抜熱差でライン速度を下げると板の巾方向温度偏差が30〜40℃発生した。
そこで、方向転換ロールをヒートハ゜イフ゜を内蔵した均温ロールに取替えて、同様の通電加熱を行った結果、巾方向の板温偏差は1〜2℃以内となり、目標の板温精度が確保できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態における装置全体の部分切欠き正面図である。
【図2】図1のII−II線における拡大断面図である。
【図3】図1のIII−III線における拡大断面図である。
【図4】図1のIV−IV線における拡大断面図である。
【図5】ヒートパイプを内蔵する方向転換ロールを例示する図である。
【符号の説明】
【0026】
10 鋼帯(被加熱材)
22 加熱入側の通電ロール
25 方向転換ロール
26ヒートパイプ
30 加熱出側の金属浴(通電手段)
50 環状トランス
51 環状鉄心
52 一次コイル
60 交流電源
70 導電部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続送給される鋼帯の通電範囲内でその鋼帯の送給方向を変えるための方向転換ロールとしてロール表面にセラミック溶射被膜を形成した非磁性体ロールを用いる通電加熱装置において、
通電加熱の開始時には板厚及び板巾が大きい鋼帯を加熱して前記方向転換ロールを板温近くまで昇温し、その後、板厚が小さく、板巾も方向転換ロール昇温時に通電加熱した鋼帯より小さい鋼帯を加熱することにより、前記鋼帯から方向転換ロールへの抜熱による鋼帯温度の低下を抑制すると共に板巾方向の板温偏差を低減することを特徴とする鋼帯の通電加熱方法。
【請求項2】
連続送給される鋼帯の通電範囲内でその鋼帯の送給方向を変えるための方向転換ロールとしてロール表面にセラミック溶射被膜を形成した非磁性体ロールを用いる通電加熱装置において、
前記方向転換ロールをロールシェルにヒートパイプを内蔵した均温ロールとし、通電加熱の開始時には板厚が大きい鋼帯を加熱して前記方向転換ロールを板温近くまで昇温し、その後、板厚が小さい鋼帯を加熱することにより、板巾方向の板温偏差を低減すると共に鋼帯温度の低下を抑制することを特徴とする鋼帯の通電加熱方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−328447(P2006−328447A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150344(P2005−150344)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】