説明

鋼材の熱処理方法

【課題】燃料を浪費することなく高品質な丸棒鋼が得られる熱処理方法の提供。
【解決手段】制御装置4は、記録計6、第一熱電対8、第二熱電対10及び第三熱電対12を備えている。第一熱電対8は、パイロット鋼材2の表面に位置している。第三熱電対12は、径方向において、パイロット鋼材2の中心に位置している。第二熱電対10は、径方向において、第一熱電対8と第三熱電対12との中間に位置している。バッチ炉に、多種類の丸棒鋼と共に、パイロット鋼材2が装入される。パイロット鋼材2の径は、装入される丸棒鋼のうち最も太いものの径と同じか、それ以上である。制御装置4によって温度が測定されつつ、バッチ炉の温度が制御される。このバッチ炉によって、丸棒鋼に焼鈍しが施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸棒鋼等の鋼材の熱処理方法に関する。詳細には、バッチ炉においてなされる焼鈍し、焼ならし等の熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
丸棒鋼の製造方法として、圧延による方法が広く知られている。この製造方法では、まず精錬、造塊、分塊圧延等の工程を経て、鋼片が得られる。この鋼片に大型圧延機による圧延が施される。大型圧延機では、楕円形カリバーを備えたロールによる圧延及び円形カリバーを備えたロールによる圧延がなされる。この圧延によって鋼片が細径化し且つ長尺化して、丸棒鋼が得られる。
【0003】
この丸棒鋼には、焼鈍しが施される。焼鈍しでは、丸棒鋼がバッチ炉に装入される。このバッチ炉の雰囲気が熱処理温度まで昇温させられる。雰囲気温度は、この熱処理温度に、所定時間維持される(均熱)。その後炉内が徐々に降温する。この焼鈍しにより、丸棒鋼の内部応力が除去される。焼鈍しにより、その後に鋼材になされる塑性加工及び切削加工における加工性が高められる。
【0004】
バッチ炉の温度制御に関する工夫が、特開昭56−163223号公報に開示されている。
【特許文献1】特開昭56−163223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高品質な丸棒鋼が得られるには、熱処理温度が制御される必要がある。従来、炉の雰囲気温度が測定され、この測定値に基づいて熱処理温度が制御されている。しかし、図4に示されるように、雰囲気温度と丸棒鋼の温度とは、必ずしも一致しない。さらに、昇温途中の丸棒鋼は温度分布を有し、表面が熱処理温度に達しても中心が熱処理温度に達していない場合がある。しかも、径の異なる複数種の丸棒鋼が同時に炉に装入されるときは、丸棒鋼ごとに到達温度がばらつく。小径の丸棒鋼は早期に熱処理温度に達するが、大径の丸棒鋼が熱処理温度に達するには時間を要する。
【0006】
図4に示された時間T1は、丸棒鋼の中心が熱処理温度に達する時間である。従来の熱処理方法では、この時間T1は正確に把握されていない。従来は、高品質な丸棒鋼を得る目的で、大きな安全率に基づいて均熱時間が設定されている。具体的には、時間T1の予測値T1’から十分遅れて時間T2が設定され、この時間T2から冷却が開始される。実際の時間T1が予測値T1’より遅れた場合でも、時間差(T2−T1’)が十分に大きくされば、丸棒鋼の中心が十分に焼き鈍される。しかし、大きな安全率は、燃料の浪費を招来する。燃料の浪費は、地球環境にも悪影響を与える。
【0007】
本発明の目的は、燃料を浪費することなく高品質な鋼材が得られる熱処理方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る熱処理方法は、
(1)多数の鋼材と共に、温度計が装着されたパイロット鋼材がバッチ式の炉に装入される装入工程
及び
(2)この温度計が所定温度に到達するまで、炉内温度が上昇させられる加熱工程
を含む。この熱処理方法が、
(3)温度計が所定温度に到達してから所定時間、炉内温度が実質的に一定に維持される均熱工程
をさらに含んでもよい。
【0009】
好ましくは、温度計はパイロット鋼材の中心に位置する。好ましくは、パイロット鋼材の径は、炉に装入される多数の鋼材の中で最も太いものの径以上である。
【0010】
この熱処理方法が、
(4)均熱工程の後に、炉の内部が徐々に降温される徐冷工程
をさらに含んでもよい。パイロット鋼材の表面に位置する他の温度計により、この徐冷工程の冷却速度が計測される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る熱処理方法では、パイロット鋼材の温度が直接測定されるので、この値によって熱処理に供される鋼材の温度が正確に推定されうる。従って、大きな安全率が設定される必要がない。この製造方法では、必要最小限の均熱時間が設定されうる。この製造方法により、燃料が浪費されることなく、高品質な鋼材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱処理方法に用いられるパイロット鋼材2が示された断面図である。図1には、パイロット鋼材2と共に、制御装置4も示されている。パイロット鋼材2は、熱処理の対象ではないが、熱処理に供される鋼材と共に炉に装入される鋼材である。パイロット鋼材2の断面は、円形である。制御装置4は、記録計6、第一熱電対8、第二熱電対10及び第三熱電対12を備えている。第一熱電対8、第二熱電対10及び第三熱電対12は、それぞれ、本発明にいう「温度計」である。第一熱電対8、第二熱電対10及び第三熱電対12は、それぞれ記録計6に接続されている。第一熱電対8は、パイロット鋼材2の表面に位置している。第三熱電対12は、径方向(図1の上下方向)において、パイロット鋼材2の中心に位置している。第二熱電対10は、径方向において、第一熱電対8と第三熱電対12との中間に位置している。第一熱電対8、第二熱電対10及び第三熱電対12は、パイロット鋼材2に埋設されている。第一熱電対8、第二熱電対10及び第三熱電対12は、パイロット鋼材2の長手方向中央付近に埋設される。これにより、パイロット鋼材2の端からの熱伝導の影響が無視されうる。
【0014】
図2は、図1のパイロット鋼材2が用いられた熱処理方法が示されたフローチャートである。この熱処理方法では、バッチ炉に、互いに径の異なる多種の丸棒鋼が装入される(STEP1)。これらの丸棒鋼は、精錬、造塊、分塊圧延、大型圧延等の工程を経て得られたものである。他の方法によって得られた丸棒鋼がバッチ炉に装入されてもよい。バッチ炉には、丸棒鋼と共にパイロット鋼材2も装入される。パイロット鋼材2の径は、装入される丸棒鋼のうち最も太いものの径と同じか、それ以上である。典型的には、パイロット鋼材2の径は、装入される丸棒鋼のうち最も太いものの径と同じである。
【0015】
装入後、燃料がバーナーで燃焼される(STEP2)。燃焼により、炉内温度が上昇する。この工程は、加熱工程と称される。加熱工程では、各熱電対8、10、12により、パイロット鋼材2の温度が測定される。得られた測定値は、記録計6に記録される。記録計6のデータは、図示されない燃焼制御装置に送られる。この燃焼制御装置は、バーナーの出力を調整して炉の雰囲気温度を制御する。
【0016】
加熱工程では、雰囲気から丸棒鋼に熱が伝導する。熱は、丸棒鋼の表面から中心に向かって伝導する。従って、加熱工程の初期段階では、丸棒鋼の表面温度は雰囲気温度よりも低く、丸棒鋼の中心温度は表面温度よりも低い。丸棒鋼は、温度分布をもつ。パイロット鋼材2も、同様に温度分布を持つ。
【0017】
加熱工程の初期段階では、細い丸棒鋼の中心には熱が十分に伝導し、太い丸棒鋼の中心には熱が十分に伝導しない。換言すれば、丸棒鋼の太さに依存して、中心温度がばらつく。パイロット鋼材2は太いので、その中心温度は、最も太い丸棒鋼の中心温度と同等か、やや低い。
【0018】
雰囲気温度が熱処理温度に達した段階で、バーナーが弱火に設定される(STEP3)。その後は、雰囲気は熱処理温度にほぼ維持される。バーナーが弱火に設定された後も、丸棒鋼は雰囲気からの熱を受け昇温する。パイロット鋼材2も同様に、雰囲気からの熱を受け昇温する。やがて、第三熱電対12が熱処理温度に達する。この時間は、図3において符号T1で示されている。時間T1は、カウンターのスタート時間である。第三熱電対12はパイロット鋼材2の中心に位置するので、この第三熱電対12で得られた測定値が熱処理温度に達したことにより、パイロット鋼材2の全体が熱処理温度以上に達したと推定されうる。
【0019】
第三熱電対12で得られた測定値が熱処理温度に達したことにより、このパイロット鋼材2の径と同じ径の丸棒鋼の中心も、熱処理温度に達したと推定されうる。第三熱電対12で得られた測定値が熱処理温度に達したことにより、このパイロット鋼材2の径よりも小さな径の丸棒鋼も、熱処理温度に達したと推定されうる。
【0020】
第三熱電対12で得られた測定値が熱処理温度に達した段階(図3のT1)で、炉内の全ての丸棒鋼の全ての部位が、熱処理温度に達している。雰囲気が熱処理温度に維持されているので、丸棒鋼も熱処理温度に維持される。この工程は、均熱工程と称される。均熱工程において、バーナーがON−OFFを繰り返してもよい。均熱工程により、丸棒鋼から残留応力が十分に除去される。
【0021】
カウンターのスタートから所定時間の経過後、バーナーが停止される(STEP4)。この時間は、図3において符号T2で示されている。時間差(T2−T1)は、均熱時間である。第三熱電対12が熱処理温度に達した時間T1が記録計6で把握されているので、時間差(T2−T1)の設定に過剰の安全率は不要である。図3における時間差(T2−T1)は、図4における時間差(T2−T1)よりもはるかに短い。時間差(T2−T1)が必要最小限の時間に設定されることにより、燃料の使用量が抑制されうる。
【0022】
バーナーの停止により、丸棒鋼は徐冷される。徐冷された丸棒鋼では、残留応力が生じにくい。図3から明らかなように、徐冷のとき、丸棒鋼の表面温度は中心温度よりも低い。同様に、パイロット鋼材2の表面温度も、中心温度よりも低い。徐冷のときは、第一熱電対8によってパイロット鋼材2の温度が測定される。この測定により、冷却速度が算出されうる。冷却速度が速すぎる場合は、バーナーの追加燃焼により、冷却速度が制御される。この制御により、高品質な丸棒鋼が得られる。径の細い他のパイロット鋼材2が用意され、このパイロット鋼材2の表面で温度が測定されてもよい。
【0023】
加熱工程において、丸棒鋼の表面が限界温度以上に達することを防ぐ目的で、第一熱電対8が用いられてもよい。
【0024】
パイロット鋼材2よりも細い丸棒鋼のみが熱処理に供されるときは、この丸棒鋼の温度が第二熱電対10で予測されうる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係る熱処理方法は、種々の鋼材に適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る熱処理方法に用いられるパイロット鋼材が示された断面図である。
【図2】図2は、図1のパイロット鋼材が用いられた熱処理方法が示されたフローチャートである。
【図3】図3は、図2の熱処理方法が示されたヒートチャートである。
【図4】図4は、従来の熱処理方法が示されたヒートチャートである。
【符号の説明】
【0027】
2・・・パイロット鋼材
4・・・制御装置
6・・・記録計
8・・・第一熱電対
10・・・第二熱電対
12・・・第三熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の鋼材と共に、温度計が装着されたパイロット鋼材がバッチ式の炉に装入される装入工程
及び
この温度計が所定温度に到達するまで、炉内温度が上昇させられる加熱工程
を含む鋼材の熱処理方法。
【請求項2】
上記温度計が所定温度に到達してから所定時間、炉内温度が実質的に一定に維持される均熱工程をさらに含む請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
上記温度計が、パイロット鋼材の中心に位置する請求項1又は2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
上記パイロット鋼材の径が、炉に装入される多数の鋼材の中で最も太いものの径以上である請求項1から3のいずれかに記載の熱処理方法。
【請求項5】
上記均熱工程の後に、炉の内部が徐々に降温される徐冷工程をさらに含んでおり、上記パイロット鋼材の表面に位置する他の温度計により、この徐冷工程の冷却速度が計測される請求項1から4のいずれかに記載の熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−144944(P2009−144944A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320323(P2007−320323)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】