説明

鋼材の製造方法

【課題】目標特性を維持するために修正されるべき製造条件を迅速に見出し、種々の場合に応じて適切なフィードバックまたはフィードフォワードを行うことが可能な鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】製造された鋼材において、析出物および/または介在物の組成の情報、析出物および/または介在物のサイズの情報、着目する元素の固溶量の情報の一つ以上を得る。この得られた各情報のうちの少なくとも1つが所定の範囲を外れる場合に、析出物および/または介在物の組成、析出物および/または介在物のサイズ、着目元素の固溶量の一つ以上が変化する製造条件を少なくとも一つ修正する。そして、修正された製造条件により鋼材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、造船、土木および建築などに用いられる鋼材を製造するにあたり、目標特性を維持するために、製造条件の最適化(修正)を容易かつ迅速に行う鋼材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、造船、土木および建築などの材料として用いられる、薄鋼板、厚鋼板、棒鋼・線材等の鉄鋼一次製品(以降、鋼材と称することとする)を製造するにあたっては、所定の成分に調整された素材を熱間圧延や熱間鍛造に代表される熱間加工プロセスを経ることで必要な形状と機械特性などの材質を得ている。
熱間加工プロセスは、素材を例えば1200℃程度に再加熱保持する工程、数回の加工によって減厚する工程、加工後所定の温度まで冷却する工程、さらに所定温度で一定時間保持する巻取り処理工程などの複数の工程からなり、所望の特性を得るにはそれぞれの工程が適正化される必要がある。通常、実機製造プロセスでは、実験室的に調査された結果を基に、それぞれの工程での製造条件の最適化がなされている。
【0003】
しかしながら、ハイテンなどの高級鋼種では、製造条件の狭幅制御がしばしば必要となり、多少の条件変動等により製品品質が劣化する場合がある。このような場合、劣化する原因を早期につきとめて好適製造条件内へ制御を修正する必要があるが、現在は有効な手段が存在しない。そのため、このような高級鋼種の安定製造、歩留向上を図ることが困難である。また、このような問題は高級鋼種で顕著であるが、一般鋼種でも存在している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、特に高級鋼種の製造にあたっては、製品品質が劣化する要因を速やかに見極め、修正すべき製造条件を迅速に見出し、適切にフィードバックすることが、歩留まり低下を最小限に留めるために必要である。
また、製造工程が多い鋼種を製造するにあたっては、製造工程途中の鋼材の状況をより詳細に把握し、その情報に基づいて後工程の製造条件へ的確なフィードフォワードを行うことが、製品歩留まり向上のために必要である。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、目標特性を維持するために修正すべき製造条件を迅速に見出し、種々の場合に応じて適切なフィードバックまたはフィードフォワードを行うことが可能な鋼材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、発明者らは、製造条件のバラツキによる材質はずれと素材情報の点から鋭意検討した。
従来の物理分析法は高精度であるが鋼中の代表値を得ることが困難であり、従来の化学分析法は迅速ではあるが、材料特性を大きく支配する特定情報を選択的に得ることが困難である。そのため、製造条件修正に反映可能で修正されるべき条件を迅速に見出すための材料中の金属成分の固溶含有量や金属炭化物中のサイズ別析出量等の情報を、従来の物理分析法や化学分析法では迅速かつ高精度に得ることができなかった。その結果、適切なフィードバックまたはフィードフォワードを行うことができなかった。
そこで、本発明者らは、上記を鑑み、材料中の金属成分の固溶含有量や金属炭化物中のサイズ別析出量を迅速かつ高精度に求めることによって、多様な製造条件の中から修正すべき条件を迅速に見出し、種々の場合に応じて適切なフィードバックまたはフィードフォワードを行うことを考えた。そして、本発明は、上記思想に基づき、完成するに至ったものである。
【0007】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]鋼材を製造する製造ステップAと、製造ステップAにて製造された鋼材における、析出物および/または介在物の組成の情報、析出物および/または介在物のサイズの情報、着目する元素の固溶量の情報の一つ以上を得る分析ステップと、前記分析ステップにて得られた前記各情報に基づく分析結果のうちの少なくとも1つが所定の範囲を外れる場合に、析出物および/または介在物の組成、析出物および/または介在物のサイズ、着目元素の固溶量の一つ以上が変化する製造条件を少なくとも一つ修正する製造条件修正ステップと、
前記製造条件修正ステップにて修正された製造条件により鋼材を製造する製造ステップBとを有することを特徴とする鋼材の製造方法。
[2]前記[1]において、前記分析ステップは、製造された鋼材を電解液中で電解し、前記鋼材に付着している析出物および/または介在物を分散性を有する溶液中に分離後、析出物および/または介在物の組成の情報、析出物および/または介在物のサイズの情報、着目する元素の固溶量の情報の一つ以上を得る分析をすることを特徴とする鋼材の製造方法。
[3]前記[2]において、前記分析ステップは、分離された析出物および/または介在物を含んだ分散性を有する溶液を一段以上ろ過することにより、前記析出物および/または介在物をサイズ別に分別することを特徴とする鋼材の製造方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記分析ステップは、鋼材を電解した後の電解液を分析し、前記電解液中の着目元素の濃度と鉄の濃度との比を求め、求められた比に前記鋼材の鉄の全濃度を乗じることで、着目元素の固溶量を分析することを特徴とする鋼材の製造方法。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記製造ステップAは、熱間加工工程を有し、前記製造条件修正ステップは、前記分析ステップにて得られた着目元素の固溶量が所定の範囲以下の場合、および/または、前記分析ステップにて得られた析出物および/または介在物のサイズが100nm超の析出物に含まれる着目元素の量が所定の範囲以上の場合に、前記熱間加工工程における再加熱温度を修正することを特徴とする鋼材の製造方法。
[6]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記製造ステップAは、熱間加工工程および該熱間加工工程後引き続き行われる冷却工程を有し、前記製造条件修正ステップは、前記分析ステップにて得られた析出物および/または介在物の全体の量に対する、サイズ20〜100nmの析出物および/または介在物の比率が所定の範囲以上の場合に、前記冷却工程における冷却速度を修正することを特徴とする鋼材の製造方法。
[7]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記製造ステップAは、熱間加工、冷却および特定温度域での中間保持の一連の工程を有し、前記製造条件修正ステップは、前記分析ステップにて得られたサイズ20nm未満の析出物および/または介在物に含まれる着目元素の量が所定の範囲以下で、かつ、前記分析ステップにて得られたサイズ20nm以上の析出物および/または介在物に含まれる着目元素の量が所定の範囲である場合に、前記中間保持工程における中間保持条件を修正することを特徴とする鋼材の製造方法。
[8]前記[1]〜[7]のいずれかの方法により製造され、出荷後に熱処理を行い特性調整することを特徴とする鋼材の製造方法。
なお、本発明において、析出物及び/又は介在物を、まとめて析出物等と称することとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、目標特性を維持するための修正すべき製造条件を迅速に見出し、種々の場合に応じて適切なフィードバックまたはフィードフォワードをすることで所望の材料特性を安定的に得ることが可能な鋼材の製造方法を提供することができる。
例えば、あらかじめ材質変動と極めて関連性の高い着目元素の析出挙動を把握しておき、分析により得られる析出情報を着目元素の析出挙動と照らし合わせることで、製造条件のどこの部分を修正すれば良いかが迅速に判断でき、安定した材質確保が達成される。
また、製造工程が長い鋼種を製造するにあたって、製造工程途中の鋼材の状況が修正が効かないほどの規定範囲外となってしまった場合、次工程以降の製造を行うかどうかの判断には、製品品質が劣化する要因を速やかに見極めるための分析データが高精度で迅速に必要になる。このような場合に、本発明の製造方法は有用である。そして、本発明の製造方法を用いることで次工程以降の製造の継続判断が可能となり製造コストの大幅な削減がはかれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、詳細に説明する。
鋼中の化学成分は、鋼材の組織形成に様々な影響を及ぼす重要な因子であり、結晶粒成長挙動、変態現象ならびに析出現象を介して最終組織形成に影響し、マクロな材質を大きく左右する。特に、炭化物等による析出強化を効果的に利用しているハイテン等の高級鋼種においては、鋼中析出物制御が安定材質を確保する上で非常に重要度が高い。そのため、鋼中の析出物挙動に関する詳細情報を得ることにより、材質が変動した原因を高い確度で突き止めることが可能となる。
【0010】
以上の考察の結果、本発明においては、まず、修正すべき製造条件を迅速に見出すために、材質変動に大きな影響を及ぼす含有元素(以下、着目元素と称す)の鋼中での固溶状態と析出状態の定量値および析出物等のサイズ別における析出物等中の定量値を迅速かつ正確に把握することが可能な新しい分析法を、製造条件修正に反映可能な情報を得るための分析法として用いることとした。次いで、製造条件修正に反映可能な情報を得た後、この情報を基に多様な製造条件の中から修正すべき条件を迅速に見出し、適切なフィードバックまたはフィードフォワードを行うこととした。
以上は本発明の特徴であり、重要な要件である。以下にその詳細について説明する。
【0011】
鋼材における、析出物等の組成の情報、析出物等のサイズの情報、着目する元素の固溶量の情報の一つ以上を得る分析ステップでは、本発明者らが開発した、高精度に、析出物等の組成、サイズおよび着目元素の固溶量を分析する方法を用いることとし、先ず、これについて説明する。
【0012】
鋼材試料を適切な条件で電解し、析出強化元素の固溶部分をマトリクスの鉄とともに電解液中に溶解させ、析出物等を試料表面に露出させる。このとき、露出した析出物等は電気的引力によって陽極である試料表面に付着するので、析出物等と電解液(固溶部分)とを分離できる。すなわち、析出物等の付着した試料を電解液から取り出すだけで、ほとんどすべての析出物等が電解液から取り出せることになる。そして、試料とともにポリ燐酸水溶液のような分散性を有する溶液に浸漬して超音波を付与し、試料に付着している析出物等を試料から剥離する。このとき、分離された析出物等は、ポリ燐酸塩から表面電荷が付与されて、互いに反発しあって分散性を有する溶液中に分散する。
【0013】
先ず、析出物等をサイズ別に分けない場合には、析出物等を含んだ分散性を有する溶液を動的光散乱分光分析方法で分析し、全析出物等の平均粒径や粒径分布を求める。
【0014】
次に、析出物等をサイズ別に分ける場合には、以下の手順による。析出物等の分散した分散性を有する溶液をフィルタ孔径YとZ(ただし、Y>Z)のフィルタを用いて順次ろ過する。このとき、孔径Yのフィルタ上の残渣がサイズY以上の析出物等であり、孔径Zのフィルタ上の残渣がサイズZ以上Y未満の析出物等であり、孔径Zのフィルタを透過したろ液にはサイズZ未満の析出物等が含まれる。次いで、ろ過後のフィルタ上の析出物等とろ液を、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、ICP質量分析法および原子吸光分析法等により分析し、サイズY以上、サイズZ以上Y未満、サイズZ未満の析出物等中の着目元素の含有量を求める。または、ろ過後のろ液を動的光散乱分光分析方法で分析し、サイズZ未満の析出物等の平均粒径や粒径分布を求める。
【0015】
このように、複数のフィルタ孔径のフィルタを用いてろ過することにより、析出物等をサイズ別に分別することが可能となる。なお、析出物等を含んだ分散性を有する溶液を所定のフィルタ孔径のフィルタでろ過すると、析出物等のサイズに応じてフィルタに捕集されるものとフィルタを通過するものとに分かれるが、このとき、比較的大きな析出物等によりフィルタ孔の閉塞が進行し、本来通過するべきサイズの析出物等がフィルタを通過せずに捕集されることがある。このような場合は、フィルタに捕集された析出物等の分析値は正しい値より高くなり、反対にろ液の分析値は正しい値より低くなる。しかし、フィルタとして、直孔でかつ4%以上の空隙率を有するフィルタを用いれば、フィルタ孔径より小さい析出物等が捕集されることなく、より正確な析出物等のサイズ別分析が可能となる。ここで、直孔とは、一定の開口形状で貫通しているフィルタ孔のことをいう。
【0016】
着目元素の固溶量を求めるには、析出物等と分離された電解液中の着目元素の絶対量を測定して、鋼材試料の電解重量で除算する必要がある。しかしながら、一般的な電解液はメタノールを主体とした有機溶媒で揮発性が高いうえに数百ミリリットルもの液量となることから、着目元素の含有量を測定することは容易ではない。そこで、多量の電解液から1/10以下の適当量を採取して乾燥した後、適切な溶液で溶解して水溶液としてから着目元素と鉄をそれぞれ適切な溶液分析法で測定し、その濃度比(即ち、着目元素の測定濃度/鉄の測定濃度)に鋼材試料中の鉄の含有量を乗算することにより、着目元素の鋼中の固溶量を求めた。なお、水溶液を分析する方法としては、ICP発光分光分析法、ICP質量分析法および原子吸光分析法が適当である。また、鋼材試料中の鉄の含有量を求めるための方法としては、スパーク放電発光分光分析方法(JIS G1253)、蛍光X線分析方法(JIS G1256)、ICP発光分光分析法およびICP質量分析法等により得られた鉄以外の元素の合計値を100mass%から減算する方法が適当である。
【0017】
本発明の鋼材の製造方法においては、こうして得られた析出物等の組成、サイズおよび着目元素の固溶量のうち少なくとも一つの情報(分析結果)を、製造条件の修正に反映させる。析出物等の組成の結果のみを用いる場合は、例えば、析出物を構成する着目元素の種類とその含有量のうちいずれかで提示可能である。また、析出物等のサイズの結果のみを用いる場合は、例えば、前述の動的光散乱分光分析方法で得られた平均粒径や粒径分布で提示できる。析出物等の組成とサイズの両方の結果を用いる場合は、例えば、析出物等のサイズ別における着目元素の析出物等中の含有量で提示できる。なお、着目元素の析出物等中の含有量とは、例えば、着目する元素に関して、その元素が析出物等としてどれくらい存在しているかを、(a)鋼材全体に対する含有率、(b)着目元素量全体に対する比、(c)着目元素の固溶量に対する比、等、必要に応じて提示できる。また、着目元素の固溶量は、例えば、着目する元素に関して、その元素が固溶した状態でどれくらい存在しているかを、(d)鋼材全体に対する含有率、(e)着目元素量全体に対する比、(f)析出物等中の着目元素の含有量に対する比、等、必要に応じて提示できる。
【0018】
次いで、分析ステップにて得られた前記各情報に基づく分析結果のうちの少なくとも1つが所定の範囲を外れる場合に、析出物等の組成、析出物等のサイズ、着目元素の固溶量の一つ以上が変化する製造条件を少なくとも一つ修正する。そして、修正された製造条件により鋼材を製造する。
上記に基づき、以下に、本発明の実施態様を例示する。
まず、本発明と従来の方法との違いについて図1と図2を基に説明する。図1は、従来の製造条件決定プロセスを示すフロー図である。従来は、実験室段階である程度絞込みができている製造条件をベースに実機試作し、実機と実験室レベルの違いを保証する形で、実機製造での製造条件最適化がなされてきた。従って、最終的な材料試験値が所望特性を満足しなかった場合は、図1に示すようにその都度要因解析し、種々の製造条件について再検討するという必要性があった。
【0019】
一方、図2は、本発明の実施態様の一つである製造条件決定プロセスを示すフロー図である。本発明においては、図2に示すように所定の範囲を外れ材質はずれを起こした場合、析出物等の組成の情報、析出物等のサイズの情報、着目元素の固溶量の情報のうち少なくとも1つを活用することにより、変更すべき製造条件の絞込みが迅速に行え、絞り込んだ製造条件へフィードバックすることが可能となる。
例えば、材質に大きな影響を及ぼす特に重要な金属元素に関して着目し、その元素の固溶量を求める。そして、この固溶量の値を、目標とする品質・性能を得るためにあらかじめ実験室で検討し決定される標準値もしくは実機で適切に処理された時の標準値と比較し、標準値をもとに設定される許容の範囲(以降、この許容の範囲を所定の範囲と称することとする)内かどうか確認する。そして、所定の範囲を外れる場合に、巻取り温度を再設定する。
例えば、着目元素が析出状態で存在する場合、特に炭化物もしく窒化物として存在する場合には、析出物等の組成の情報および析出物等のサイズの情報のうち少なくとも1つを求め、この値を、所定の範囲と比較する。そして、その結果をもとに、スラブ再加熱条件、熱間加工後の冷却速度を修正する。
例えば、強度780MPa以上の鋼板を製造する際に、強度不足が発生した場合、従来の製造方法では、スラブ加熱条件が適正でないため強化に寄与する微細な析出物等の絶対量が不足しているのか、熱間圧延後巻取り処理にいたる冷却条件が適正でないため再析出した析出物が粗大化しているのかを簡単に判別することが困難であった。そのため、要因と考えられる各工程の条件を再確認するとともに、これらを種々変更しながら強度不足要因を特定する必要があった。しかしながら、本発明の鋼材の製造方法を用いれば、最終製品における着目元素の固溶量もしくは析出物等の組成の情報および析出物等のサイズの情報のうち少なくとも1つを迅速に高精度で求め所定の範囲と比較することで、強度不足要因の絞りこみが効率的に行える。所定の範囲と比較した結果、鋼材の成分組成が適正であるにも関わらず、鋼材に含まれている着目元素の大半が強化に全く有効でない100nm以上のサイズであった場合は、スラブ加熱温度が不足していることが主要因であり、加熱温度の高温化や加熱時間の確保といった製造条件の修正が即座に実施可能である。また、所定の範囲と比較した結果、20nm以上から100nm未満程度の析出物が所定の範囲に比べて多い場合には、熱間圧延後の制御冷却条件が不適切であったことが伺え、冷却条件を修正するように製造条件をフィードバックする。また、100nm以上の粗大な析出物が少ないにも関わらず強化に有効な20nm未満の析出量も確保されていない場合には、析出処理に相当する巻取り条件が変動していることが伺える。この場合は巻取り条件を修正することで、直ちに製造条件へのフィードバックが可能である。
【0020】
また、本発明では、フィードフォワードによって製品歩留まりを改善することも可能である。
製造工程が非常に長い鋼種を製造する場合、最終製品がスペック外れを生じた場合には、多大な時間とエネルギー損失につながることになる。そのため、このような鋼種を製造する際に、目標特性を得るためには、製造工程途中の鋼板内の状態を調べ後に続く工程の製造条件を修正することが重要となる。
例えば、工程Aにおいて、鋼板内の特定金属元素の析出物等のサイズやその量をモニタリングする。あらかじめラボ実験などによって分かっている20nm以上の析出物の値に対して、モニタリングの値が所定の範囲を満足していれば、後に続く工程Bの条件は変更しない。一方、モニタリングの値が所定の範囲を外れる場合には、その値に応じて、工程Bにおける製造条件(例えば、熱処理時間や温度)を適宜変更し、最終製品板の特性をスペック範囲に制御する。
このようなフィードフォワードを用いて製造する方法は、従来では行われなかった。工程Bの条件を微調整するために必要な工程Aにおける析出状態(情報)を迅速かつ高精度に得ることが従来では困難であったためである。しかし、本発明における鋼材の製造方法を用いれば、特定金属元素の固溶状態、析出状態あるいは析出物等のサイズ情報を迅速かつ正確に得られるため、上述したようにフィードフォワードを用いて製造することが可能となる。
また、本発明の鋼材の製造方法により、工程途中の析出物状態の情報を基に、後に続く工程の修正を行ったとしても修正できない程度に工程途中の析出物状態が所定の範囲を大きく外れてしまった場合には、次工程以降を実施しないというアクションを行うことも可能である。このような処理は、早い段階で製品の良・不良の判定が行なえ、無駄な製造を行なわないとという工業的なメリットが得られる。特に製造工程の長い鋼種においては、メリットが大きい。
【実施例1】
【0021】
表1に示す鋼組成(Fe以外の主要組成のみ示す)からなる鋼素材を溶製し、得られた溶製スラブを1250℃に加熱後、熱延終了温度:890〜920℃で熱間圧延し、600℃近傍(巻取り温度+10℃)まで25〜30℃/sの冷却速度で冷却した。次いで、巻取り温度(CT)575〜675℃にて巻き取り、板厚3mmの熱延板A〜Dを実機熱延機で製造した。
【0022】
【表1】

【0023】
次いで、鋼A、B、C、Dについて、析出強化元素として重要なTiおよびMoの固溶状態と析出状態を前述した分析方法で調べた。
具体的には、TiおよびMoの析出物のサイズ別定量は以下のように実施した。熱延板から適当な大きさの試験片を切り出し、10%AA系電解液中(10%アセチルアセトン-1%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)で電流密度20mA/cm2で0.2gだけ定電流電解後、表面に析出物等が付着している試験片を電解液から取り出して、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(以下SHMP水溶液)500mg/l中に浸漬し、超音波振動を付与して、析出物等を試験片から剥離しSHPM水溶液中に分離した。この析出物等を含むSHMP水溶液を、フィルタ孔径100nmのフィルタを用いてろ過した後、さらにフィルタ孔径20nmのフィルタを用いてろ過し、ろ過後のフィルタ上の残渣と、ろ液に対してICP発光分光分析装置を用いて分析し、ろ過後のフィルタ上の残渣と、ろ液中のTiおよびMoの絶対量を測定した。次いで、TiおよびMoの絶対量を電解重量で除して、サイズ100nm以上、サイズ20nm以上100nm未満およびサイズ20nm未満に分類された析出物等中に含まれるTiおよびMoの含有量を求めた。なお、電解重量は、析出物等剥離後の試験片に対して重量を測定し、電解前の試験片重量から差し引くことで求めた。このTiとMoの含有量は、試験鋼材の全組成を100mass%とした場合の値である。
さらに、得られた析出物中のTiおよびMoの含有量を、Tiごと、Moごとに合計して、析出Ti量と析出Mo量を算出した。この算出した析出Ti量と析出Mo量をそれぞれ分母とし、サイズ別の含有量から求めた比を析出物のサイズ別比率とした。
また、TiおよびMoの固溶量の定量は以下のように実施した。上記電解後の電解液を分析溶液とし、ICP質量分析法を用いてTi、Moおよび比較元素としてFeの液中濃度を測定した。得られた濃度を基に、Feに対するTiおよびMoの濃度比をそれぞれ算出し、さらに、試料中のFeの含有量を乗じることで、Tiの固溶量およびMoの固溶量を求めた。なお、試料中のFeの含有量は、表1に示したFe以外の組成値の合計を100mass%から減算することで求めることができる。このTiとMoの固溶量は、試験鋼材の全組成を100mass%とした場合の値である。
そして、得られたTiおよびMoの固溶量から、表1に示したTiもしくはMoの総含有量に対する比を求めて固溶比率とした。この固溶比率に関しては、析出物としてサイズ別に定量した結果から算出した析出Ti量もしくは析出Mo量と、TiもしくはMoの総含有量との差をそれぞれの総含有量で除した場合と大差ないことを確認している。
なお、上記の分析をする際には、板厚方向の不均一性をも考慮し、熱延板のL断面から試料を採取して実施した。得られた結果を表2および表3に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
表2および表3の結果より、以下の点が明らかとなった。
鋼Aと鋼B、C、Dの間では、Ti、Moの析出量に大きな差があることが明確である。析出しているTiのうち鋼Aでは析出物等のサイズが100nm以上の粗大なものの比率が析出物等のサイズが20nm未満のものと同等程度ある。しかし、これは鋼Aの析出量自体が少ないために僅かに存在する未固溶析出の影響が強く出ているためである。また、析出物等のサイズが20nm以上〜100nm未満の中間領域の比率が高いわけではない。これらの結果から、鋼Aは熱延工程の重要な条件のうち、スラブ加熱温度や熱延仕上げ温度およびその後の冷却速度に異常があったとは考えられない。鋼Aでは、強度不足の直接の原因となる、強化に有効なサイズ20nm未満の析出物等を積極的に得るための巻取り工程での温度不足が考えられる。
【0027】
鋼Dについては、Moの析出量においては鋼B、Cとほとんど大差ないが、Tiに着目するとTiの析出量が微増しサイズ20nm未満の析出物中のTi量が微減している。これは、巻取り温度が高く、析出の促進、粗大化および母相組織の回復が進んだ結果である。
鋼BとCではTiとMoの析出状態に大差はなく、製造条件が適切であることが伺える。
【0028】
次いで、上記にて得られた熱延板について、酸洗したのち、JIS5号引張試験片を採取し機械的特性を調査した。得られた結果を表4に示す。なお、機械的特性は、JIS Z2241に準じて行った。
【0029】
【表4】

【0030】
表4の結果から、鋼Bおよび鋼Cが、引張強度(TS):800MPa以上、全伸び:(EL) 20%以上を有し、強度、伸びのいずれも良好であり、目標特性をクリアしていた。
鋼Aでは、強度、伸びともに不足していた。
鋼Dでは、全伸び(EL)は確保され良好であるが、引張強度(TS)の低下が認められた。
【0031】
そして、以上の表2、表3および表4の結果から、以下のことが言える。
鋼Aでは、巻取り工程での温度不足により、強度、伸びともに不足していた。
鋼Dでは、巻取り温度が高く、析出の促進、粗大化および母相組織の回復が進んだため、全伸び(EL)は確保され良好であるが、引張強度(TS)の低下が認められた。
より高い引張強度TSと全伸びELを両立する最適な巻取り温度は、サイズ20nm未満の析出物におけるTi量が最も高い鋼B、Cであることがこの分析結果から導き出せる。
以上より、析出強化機構を利用している鋼種において、機械的性質の巻取り温度の依存性について、析出物等の詳細情報によって裏付けすることが可能であることがわかる。
【0032】
次に、以上の結果をもとに、図2の分析フローに従って、鋼Dについて、製造条件のフィードバックを行った。
上記サイズ別の析出物の分析結果情報より、鋼Dにおいて、伸びが不純分であり劣化した要因は、巻取り温度が高く、析出の促進、粗大化および母相組織の回復が進んだことと考えられる。また、本鋼においては、鋼B、Cにおける巻取り温度が最適と考えられる。そこで、巻取り温度を鋼B、Cにおける巻取り温度付近(630℃)と修正し、それ以外の組成、製造条件は鋼Dと同様として、鋼D’を製造した。そして、上記鋼A〜Dと同様の方法にて機械特性を測定した。また、TiおよびMoの固溶状態と析出状態を上記鋼A〜Dと同様の方法にて分析した。得られた結果を表5に示す。なお、鋼Bの巻取り温度は625℃、鋼Cの巻取り温度は650℃であった。
【0033】
【表5】

【0034】
D’は、Dと同じ成分であり、Dの分析結果を踏まえて、巻取り温度を適正な値に制御しなおして製造したものである。表5より、巻取り温度を低めに修正した鋼D’では、鋼Bに匹敵する良好な特性が得られており、巻取り温度を適正に修正することで、鋼Bと同様な析出状態を再確認することができた。
以上のように、得られた析出情報と固溶情報のうち少なくとも1つと機械的特性と製造条件との関係をデータベースとして保有し、当該データベース内で析出情報と固溶情報の標準値を設定して参照すれば、巻取り温度起因の材質はずれを直ちに修正することが可能となる。
【実施例2】
【0035】
表6に示す鋼組成(Fe以外の主要組成のみ示す)からなる鋼素材を溶製し、得られた溶製スラブを1050〜1200℃に加熱後、熱延終了温度:900〜920℃で熱間圧延し、600℃近傍(巻取り温度+10℃)まで25〜30℃/sの冷却速度で冷却した。次いで、巻取り温度(CT)600〜625℃にて巻き取り、板厚3mmの熱延板P〜Sを実機熱延機で製造した。
【0036】
【表6】

【0037】
次いで、鋼P、Q、R、Sについて、析出強化元素として重要なTiおよびMoの固溶状態と析出状態を実施例1と同様の分析方法にて調べた。
得られた結果を表7および表8に示す。
【0038】
【表7】

【0039】
【表8】

【0040】
表7および表8の結果より、以下の点が明らかとなった。
鋼Rと鋼Sにおいては、Ti、Moともに固溶比率が微減傾向ではあるが、より明瞭な変化としては、特にTiのサイズ100nm以上の比率が他の2鋼種に較べて明らかに増大し、結果的にサイズ20nm未満での比率の低下が著しい。このことは、スラブ加熱温度が低いことによる粗大析出物等の増加が強度不足につながることを示している。
【0041】
次いで、上記にて得られた熱延板について、酸洗したのち、JIS5号引張試験片を採取し機械的特性を調査した。得られた結果を表9に示す。
【0042】
【表9】

【0043】
表9の結果から、鋼Pおよび鋼Qは、引張強度(TS):1000MPa以上、全伸び:(EL)18%以上を有し、強度、伸びのいずれも良好であり、目標特性をクリアしていた。
鋼Rと鋼Sは鋼Pと鋼Qと比較して、全伸び(EL)は余り差がないが引張強度(TS)が明らかに劣っていた。
【0044】
そして、以上の表7、表8および表9の結果から、以下のことが言える。
鋼Rと鋼Sにおいては、スラブ加熱温度が低いによる粗大析出物等の増加により、引張強度(TS)が不足した。
より高い引張強度TSと全伸びELを両立する最適なスラブ加熱温度は、鋼Pおよび鋼Qのスラブ加熱温度であることがこの分析結果から導き出せる。
以上より、機械的性質のスラブ加熱温度の依存性について、析出物等の詳細情報によって裏付けすることが可能であることがわかる。
【0045】
次に、以上の結果をもとに、図2の分析フローに従って、鋼Rについて、製造条件のフィードバックを行った。
上記サイズ別の析出物の分析結果情報より、鋼Rにおいて、引張強度が不純分であり劣化した要因は、スラブ加熱温度が低く、100nm以上の粗大析出物等が増加したことが考えられる。また、本鋼においては、鋼P、Qにおけるスラブ加熱温度が最適と考えられる。そこで、スラブ加熱温度を鋼P、Qにおけるスラブ加熱温度付近(1200℃)と変え、それ以外の組成、製造条件は鋼Rと同様として、鋼R’を製造した。そして、上記鋼P〜Sと同様の方法にて機械特性を測定した。また、TiおよびMoの固溶状態と析出状態を上記鋼P〜Sと同様の方法にて分析した。得られた結果を表10に示す。なお、鋼Pのスラブ加熱温度は1150℃、鋼Qのスラブ加熱温度は1200℃であった。
【0046】
【表10】

【0047】
R’は、Rと同じ成分であり、Rの分析結果を踏まえて、スラブ加熱温度を適正な値に制御しなおして製造したものである。表10より、SRTを高めに修正した鋼R’では、鋼Qに匹敵する良好な特性が得られており、SRTを適正に修正することで、鋼Qと同様な析出状態を再確認することができた。
以上のように、得られた析出情報と固溶情報のうち少なくとも1つと機械的特性と製造条件との関係をデータベースとして保有し、当該データベース内で析出情報と固溶情報の標準値を設定して参照すれば、SRT起因の材質はずれを直ちに修正することが可能である。
【0048】
以上のように、本発明では、熱間圧延条件(圧延パススケジュール、終了温度等)、熱延後の冷却条件さらには冷間圧延後の焼鈍条件等、鋼材中の元素の析出・固溶状態が大きく材質に影響するあらゆる製造パラメータへの適用が可能である。
【実施例3】
【0049】
次に、析出物の平均粒径を迅速に評価し、次工程の熱処理条件を変更するフィードフォワードの適用例を説明する。
具体的には、方向性電磁鋼板を対象とした場合の、鋼材の製造方法を記載する。なお、方向性電磁鋼板における重要な特性としては磁気特性があり、この磁気特性に関与する重要なファクターとして、結晶粒径のサイズが挙げられる。更に、この結晶粒径のサイズ決定には析出物の状態が大きく影響するので、析出物の大きさを、迅速・高精度に評価することは工程的に大きなメリットを生じる。すなわち、ある工程において迅速・高精度に析出物サイズを評価することができれば、同じ熱処理条件で製造した際の、次工程における結晶粒径が予測可能となる。そして、評価した析出物サイズが所定の範囲から外れている場合には、次工程の熱処理条件を変更することができる。また、修正が不可能なほどに評価した析出物サイズが所定の範囲を大きく異なる場合には、次工程以降の処理を中止し、不良材に対する次工程以降の無駄な処理を未然に防止することも可能である。
【0050】
これを実現するためには、結晶粒径と高度に相関する指標としての、析出物のサイズを迅速・高精度に評価できることが必要条件となるため、以下の試料・手法でフィードフォワードの可能性について検討した。
【0051】
C:0.055mass%、Si:3.15mass%、Mn:0.05mass%、S:0.02mass%およびSn:0.02mass%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物よりなる珪素鋼スラブを1380℃で30分加熱後、熱間圧延を施して2.2mmの板厚にしたのち、図3に示す工程に基づき、1000℃前後で1分間の焼鈍工程と圧延工程を二回実施し、板厚0.23mmの試料を製造した。ここで、析出物粒径を意図的に変化させるために、焼鈍工程1および2の温度は表11に示す6水準で変化させた。
(比較例)
上記により得られた試料A、C、Fについて、表面を電解エッチングし、SEMで観察した結果を画像解析処理して粒径分布を求めた。そして、粒径分布に基づき平均値および繰返しの評価を実施した際の精度(1σ)を求めた。得られた結果を焼鈍温度と併せて表11に示す。
(発明例)
上記により得られた試料A〜Fを適当な大きさに切断し、10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン-1mass%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)中で、約0.2gを電流密度20mA/cm2で定電流電解した。電解後の、表面に析出物が付着している試料片を電解液から取り出して、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液(500mg/l)(以下、SHMP水溶液と称す)中に浸漬し、超音波振動を付与して、析出物を試料片から剥離しSHMP水溶液中に分離した。次いで、析出物を含むSHMP水溶液を、動的光散乱方式の粒径分布測定装置にて計測し、含まれた析出物の平均粒径値および繰返しの評価を実施した際の精度(1σ)を求めた。得られた結果を表11に併せて示す。
【0052】
また、表11には、焼鈍工程3を経た各試料について平均結晶粒径を光学顕微鏡観察によって評価した結果も併せて示した。光学顕微鏡観察は、焼鈍工程3を経た各試料の板面を3%硝酸メタノール溶液にてエッチングし、観察倍率50倍で5視野観察し、切断法によって平均結晶粒径を求めた。
【0053】
【表11】

【0054】
表11より、比較例では、2μm×3μm程度の視野で100視野前後の観察を行ない、視野内に存在する析出物を対象として画像解析処理による粒径分布を算出したが、同じ試料に対する繰返しの計測でありながらばらつき(1σ)が大きく、試料全体を代表した結果であるとはいえないと判断される。また、迅速性の観点からも、工程のフィードフォワードに適用するには充分ではないと考えられる。
一方、本発明例では、比較例にて使用した粒径測定方法に比べ、各工程において熱処理条件を変化させた場合の鋼中の析出物平均粒径および繰り返し精度良く評価できていることがわかる。
【0055】
次に、試料C、DおよびFに対して、圧延工程2後の析出物の平均粒径測定結果に基づいて、焼鈍工程3の条件を変更し、新たに試料C’D’およびF’を製造し、上記と同様の方法にて析出物粒径、析出物粒径精度、および焼鈍工程3後の結晶粒径を求めた。得られた結果を表12に示す。
【0056】
【表12】

【0057】
表12より、焼鈍工程3を経た各試料の結晶粒径が他の鋼と同様に20μm程度に制御されていることがわかる。
このように本発明により圧延工程2を行った後の鋼中に存在する析出物の大きさを繰り返し精度良く評価することができれば、次工程の熱処理条件を変更することにより、適切な結晶粒径の確保が可能であることを示している。
【産業利用の可能性】
【0058】
本発明の鋼材の製造方法では、製造条件の最適化(修正)を容易かつ迅速に行うことで所望の材料特性を安定的に得ることができるため、自動車、造船、土木および建築などの材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】製造条件決定プロセスにおける従来の方法の一例を示した図である。
【図2】本発明に係る製造条件決定プロセスにおける本発明法の一例を示した図一例を示す図である。
【図3】本発明に係る製造条件決定プロセスにおける本発明法の一例を示した図一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を製造する製造ステップAと、製造ステップAにて製造された鋼材における、析出物および/または介在物の組成の情報、析出物および/または介在物のサイズの情報、着目する元素の固溶量の情報の一つ以上を得る分析ステップと、前記分析ステップにて得られた前記各情報に基づく分析結果のうちの少なくとも1つが所定の範囲を外れる場合に、析出物および/または介在物の組成、析出物および/または介在物のサイズ、着目元素の固溶量の一つ以上が変化する製造条件を少なくとも一つ修正する製造条件修正ステップと、前記製造条件修正ステップにて修正された製造条件により鋼材を製造する製造ステップBとを有することを特徴とする鋼材の製造方法。
【請求項2】
前記分析ステップは、製造された鋼材を電解液中で電解し、前記鋼材に付着している析出物および/または介在物を分散性を有する溶液中に分離後、析出物および/または介在物の組成の情報、析出物および/または介在物のサイズの情報、着目する元素の固溶量の情報の一つ以上を得る分析をすることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の製造方法。
【請求項3】
前記分析ステップは、分離された析出物および/または介在物を含んだ分散性を有する溶液を一段以上ろ過することにより、前記析出物および/または介在物をサイズ別に分別することを特徴とする請求項2に記載の鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記分析ステップは、鋼材を電解した後の電解液を分析し、前記電解液中の着目元素の濃度と鉄の濃度との比を求め、求められた比に前記鋼材の鉄の全濃度を乗じることで、着目元素の固溶量を分析することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記製造ステップAは、熱間加工工程を有し、前記製造条件修正ステップは、前記分析ステップにて得られた着目元素の固溶量が所定の範囲以下の場合、および/または、前記分析ステップにて得られた析出物および/または介在物のサイズが100nm超の析出物に含まれる着目元素の量が所定の範囲以上の場合に、前記熱間加工工程における再加熱温度を修正することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記製造ステップAは、熱間加工工程および該熱間加工工程後引き続き行われる冷却工程を有し、前記製造条件修正ステップは、前記分析ステップにて得られた析出物および/または介在物の全体の量に対する、サイズ20〜100nmの析出物および/または介在物の比率が所定の範囲以上の場合に、前記冷却工程における冷却速度を修正することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記製造ステップAは、熱間加工、冷却および特定温度域での中間保持の一連の工程を有し、前記製造条件修正ステップは、前記分析ステップにて得られたサイズ20nm未満の析出物および/または介在物に含まれる着目元素の量が所定の範囲以下で、かつ、前記分析ステップにて得られたサイズ20nm以上の析出物および/または介在物に含まれる着目元素の量が所定の範囲である場合に、前記中間保持工程における中間保持条件を修正することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの方法により製造され、出荷後に熱処理を行い特性調整することを特徴とする鋼材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126771(P2010−126771A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303355(P2008−303355)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】