説明

鋼材ハンドリング装置のマグネットハンド装置

【課題】 平置きもしくは平積みされたワークを確実に取り出し搬送することができる鋼材ハンドリング装置のマグネットハンド装置を提供する。
【解決手段】 一対の電磁石5a、5bと、各電磁石の吸着面5c、5dが互いに相対する内向きの状態から下向きの状態まで回動するように各電磁石5a、5bを支持する開閉リンク機構6a、6bと、この開閉リンク機構6a、6bを駆動するシリンダ装置7とを本体フレーム1に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スティフナ等のワークを吸着搬送する鋼材ハンドリング装置のマグネットハンド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
造船の船殻ブロックや橋梁の鈑桁等の製造にあたっては、スティフナ等を仮置き場所から取り出し、その取り出しから搬送、さらには母材上での位置決め、および仮付け溶接までの一連の作業を自動的に行う鋼材ハンドリング装置が搬送および溶接装置として本出願人より提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この鋼材ハンドリング装置は、母材上を跨いで走行する門型台車の横桁に、一対の把持装置を適宜の支持軸(駆動軸)を介して横行・上下動・旋回・上下揺動(傾動)が可能に構成したものである。また、この鋼材ハンドリング装置の把持装置として、メカニカルハンド装置が同出願人より提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−336994号公報
【特許文献2】特開2002−331486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に示す把持装置は、メカニカルハンドであるため、しかも固定部材と可動部材とが下向き状態で開閉してスティフナ等を把持する構成であるため、スティフナ等が平置きもしくは平積みされている場合には把持が不可能である。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、平置きもしくは平積みされたワークを確実に取り出し搬送することができる鋼材ハンドリング装置のマグネットハンド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鋼材ハンドリング装置のマグネットハンド装置は、一対の電磁石と、各電磁石の吸着面が互いに相対する内向きの状態から下向きの状態まで回動するように各電磁石を支持する開閉リンク機構と、この開閉リンク機構を駆動するシリンダ装置とを備えたものである。
【0007】
本発明のマグネットハンド装置では、各電磁石の吸着面が下向きの状態になるように回動してから、いずれか一方の電磁石を平置きもしくは平積み状態のワークに押し付けて吸着する。このときの押し付け力は、モータのトルクをモニタすることで適正な力で制御することができる。
【0008】
また、本発明のマグネットハンド装置は、本体フレームに前記電磁石、開閉リンク機構およびシリンダ装置が装着され、その本体フレームを傾斜させる傾動装置をさらに備えたものである。
したがって、この傾動装置により本体フレームを傾斜させることにより、吸着保持されたワークを母材上に配置する際、ワークを所要の角度に傾けて配置することも可能である。
【0009】
また、本発明のマグネットハンド装置は、電磁石または本体フレームにワークとの距離を検出する距離計を設けたものである。
この距離計によってワークとの距離、あるいはワークが取り付けられる母材との距離を計測し、その計測値に基づいて、一連の吸着・搬送・肌付けの動作をシーケンス制御することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマグネットハンド装置は、一対の電磁石を開閉リンク機構を介してシリンダ装置により押し開くように駆動することにより、各電磁石の吸着面が互いに相対する内向きの状態から下向きの状態まで回動するようになっているので、いずれか一方の電磁石により、平置きもしくは平積み状態のワークを確実に吸着して仮置き場所から取り出すことができ、さらに両方の電磁石を閉じることにより吸着搬送が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明のマグネットハンド装置を備えた鋼材ハンドリング装置の正面図、図2は側面図である。なお、鋼材ハンドリング装置の構成は基本的に前記特許文献1に示したものと同様である。
これらの図において、20は鋼材ハンドリング装置であり、門型の走行台車21が定盤からなるワーク載置台50を跨ってレール22上を往復走行可能に設けられている。この走行台車21の横桁上には双腕方式のアーム23がそれぞれ独立に横行可能かつ昇降可能に設けられている。さらに、各アーム23の先端部には垂直軸を中心に旋回する旋回台24が設けられ、この旋回台24の下面に本発明のマグネットハンド装置10と多関節の溶接ロボット25が装着されている。なお図中、26は鋼材ハンドリング装置20を制御する制御盤である。
【0012】
次に、本発明のマグネットハンド装置について図3ないし図5を参照して説明する。
図3は本発明のマグネットハンド装置の正面図、図4は側面図である。また、図5はワークの吸着搬送の手順を示す説明図で、図4のA−A断面に対応する図である。
【0013】
このマグネットハンド装置10は、その本体フレーム1がメインフレーム2に対して減速機3付き駆動モータ4(傾動装置)により水平軸を中心に回動可能に装着されている。
マグネットハンド装置10は、図5によく示されるように、一対の電磁石5a、5bがそれぞれ開閉リンク機構6a、6bを介して本体フレーム1に支持されており、さらに開閉リンク機構6a、6bは、例えばエアシリンダからなるシリンダ装置7のピストンロッド8に取り付けられたカップリング9に連結されている。この開閉リンク機構6a、6bは、本体フレーム1に中間部を枢着されたベルクランク14、14と、ベルクランク14、14の一端とピストンロッド8先端部のカップリング9とを連結するリンク15、15とから構成されている。そして、ベルクランク14、14の他端は各電磁石5a、5bの背面部に枢着されている。そのため、この開閉リンク機構6a、6bを「ハ」の字状に押し開くことにより、各電磁石5a、5bの吸着面5c、5dを互いに相対する内向きの状態から下向きの状態までほぼ90゜回動させることができる。
【0014】
メインフレーム2は、上記走行台車21に装備されたアーム23に設けられた旋回台24に上下動可能に装着されている。このアーム23は走行台車21の横桁上に左右一対設けられており、したがって、左右一対の上記マグネットハンド装置10により、長尺部材であるスティフナ等のワークを両側の2箇所で吸着保持して搬送することができる。
なお、図4において、12は電磁石5a、5bとワーク間の距離(あるいはワークの高さ)を検出するための超音波センサやレーザセンサ等からなる距離計であり、この距離計12は電磁石5a、5bまたは本体フレーム1の適宜の位置に取り付けられている。
【0015】
次に、図5を参照してマグネットハンド装置10によるワーク100の吸着搬送の手順を説明する。
【0016】
まず、距離計12は平積みされたワーク100との距離を計測し、その距離が所定の近接距離になるまではメインフレーム2を高速で降下させる。
ついで、図5(a)に示すように、シリンダ装置7のピストンロッド8を伸ばして開閉リンク機構6a、6bを「ハ」の字状に押し広げ、左右の電磁石5a、5bの吸着面5c、5dが下向きの状態になるように開く。そして、電磁石5a、5bをこのように下向き開の状態のままきわめて低速で、一方の例えば電磁石5bの吸着面5dを隙間ができないように適正な力でワーク100の表面に押し付ける。このとき、図示しない昇降モータのトルクをモニタすることにより、適正な押し付け力となるように力制御を行うこととしている。したがって、特別なセンサなどを使用しなくても、昇降モータのトルクをモニタすることだけで力制御を行うことができる。
適正な押し付け力になったときには、メインフレーム2すなわち電磁石5a、5bの降下を停止し、ワーク100に接している側の電磁石5bに通電し磁界を発生させて一番上のワーク100を吸着する。
【0017】
次に、図5(b)に示すように、電磁石5a、5bをゆっくりと上昇(メインフレーム2を上昇)させながらシリンダ装置7のピストンロッド8を徐々に引っ込めることにより、電磁石5a、5bを吸着面5c、5dが互いに内向きの状態になるように閉じてゆく。これによりワーク100は平積みされた仮置き場所から取り出され、吸着保持された状態で仮付け溶接すべき母材101上に搬送することができる。
【0018】
次に、図5(c)に示すように、当該ワーク100を位置決めした後、母材101上に押し付けて肌付けする。このとき、電磁石5a、5bはその吸着面5c、5dが互いに内向きの状態になるように完全に閉じているので、当該ワーク100は吸着面5cと5dの間に保持され、当該ワーク100の下端が母材101に当たるとその上端が本体フレーム1の下端に当接し、これにより母材101上に垂直に押し付けられる。このワーク100の肌付けの際における高さの計測についてさらに図6を参照して詳しく説明する。
【0019】
例えばスティフナを配材し仮付けする場合、後工程の本溶接で品質を維持するために肌付け部のギャップを規定値(一般的に2mm)以内に管理する必要がある。そのため、本マグネットハンド装置では、例えばパレット上に平積みされたスティフナを取り出した後、一旦、正確な水平面を持つ押し付け台110に押し付けてその表面までの基準距離d1を距離計12で計測する(図6(a)参照)。その後、所定の配材位置までハンドリングし、母材101のパネル表面に再度スティフナを押し付けたときの距離d2を計測する(図6(b)参照)。このときの計測値の差が式(1)であらわされるギャップGとなる。
G=d2−d1 (1)
なお、ギャップGの許容値は以下のとおりである。
G<2.0(mm)
通常、ギャップGは図6に示すようにスティフナ下端とパネル材の間に仮付け溶接時に発生するスパッタなどの異物が入り込む場合や、パネル自体が変形している場合などに発生する。
【0020】
また、ワーク100の降下時にも距離計12が母材101までの距離(高さ)を計測し、所定の高さ以下に到達したときには降下速度をきわめて低速に制御する。そして、上記のように肌付けが終わった後には、図2に示す多関節の溶接ロボット25により当該ワーク100を仮付け溶接する。仮付け溶接の終了後は当該電磁石5bの吸引力を解除し上昇後退して次のワークの吸着動作に向かう。
なお、図5(c)の例は、ワーク100を母材101に垂直に肌付けする場合であるが、ワーク100をある傾斜角で斜めに肌付けする場合は、傾動用のモータ4により本体フレーム1を水平軸の周りに回動し傾けてから肌付けする。
【0021】
また、図5の例は、一方の電磁石3bによりワーク100を吸着搬送する場合であるが、他方の電磁石5aによっても同様に吸着搬送することができる。したがって、ワーク100に対し、どの方向から接近しても吸着搬送することができるので、勝手違いは生じない。
【0022】
ここで、前述したマグネットハンド装置10の力制御方法についてさらに図7ないし図9を参照して詳しく説明する。
図7はスティフナの位置決めで用いる力制御の説明図、図8は鋼材ハンドリング装置のアームのリンク構造の模式図とパラメータを示す図、図9は位置と力のハイブリッド制御の制御ブロック図である。
【0023】
鋼材のハンドリング時には、パネル材やパネル材に既に取り付けられているスティフナに対して肌付けが必要となる。実際の配置では画像処理により±1mmの精度で位置決めされているが、スティフナの加工精度や把持状態などにより位置決め制御だけでは対応できない場合がある。そのため、スティフナの取付作業では、図7に示すようにスティフナとパネル材の接触検知機能、接触した後の押し付け制御および一定の力で押し付けながら移動する押し付け倣い制御などが必要となる。特に、押し付け倣い制御では、押し付け方向には力制御、それ以外の方向には位置制御を行う「位置と力のハイブリッド制御」を採用している。また、本マグネットハンド装置10では力センサなど特殊なセンサを用いることなくモータの出力トルクをモニタすることでこれらの力制御を実現している。
【0024】
スティフナの取付のための溶接ロボット25は、図2に示すように全体としてはガントリ構造に双腕アーム23が搭載されているが、力制御はアーム毎に独立して制御しているため、ここでは片側のアームでの力制御の実現方法を説明する。
【0025】
アーム先端に作用する力/モーメントと関節力の関係は、以下の式で表せる。
【0026】
【数1】

ここで、τは関節力、Jはヤコビヤン、Fはアーム先端に作用する力/モーメントを示している。
【0027】
このアームのリンク構造およびパラメータ(Denavit-Hartenberg記法)を図8に示す。これより、アームフレーム{R}からツールフレーム{T}までの同時変換行列は式(3)で表せる。
【0028】
【数2】

【0029】
これより、アームフレーム{R}を基準とするツールフレーム{T}のヤコビアンは以下の式(4)で表せる。
【0030】
【数3】

【0031】
これらより、本マグネットハンド装置10における位置と力のハイブリッド制御は、図9に示す制御ブロックで実現している。図9の上側の制御ループが位置制御、下側の制御ループが力制御を行っている。
ここで、r、fはそれぞれアームフレーム{R}を基準とする位置指令値および力/モーメント指令値を示す。Sは位置制御と力制御のいずれの制御を行うかを決定するための選択行列を示しており、以下の式で表せる。このとき、対角要素が1のとき位置制御、0のとき力制御を実行する。Sx〜Szはそれぞれx、y、z方向の位置/力を示し、Sa〜ScはそれぞれX、Y、Z軸回りの角速度/モーメントを示している。
【0032】
【数4】

【0033】
このとき、図9の位置指令ではオイラー角での速度が与えられていることになるため角速度ベクトルに変換する必要がある。そのための変換式EはZYX(a,b,c)オイラー角の場合、以下の式(6)で表せる。
【0034】
【数5】

【0035】
また、図9のKp、KFi、KFはそれぞれ位置ループゲイン、力ループ積分ゲイン、力ループゲインを示し、1/Sは積分演算子を示している。Pは関節変数からモータ回転指令パルスへの変換定数を示している。力制御ループで外乱成分として与えられているτ0はアームの自重補償成分を示している。(なお、前述の力制御は非常に低速で実行するため、慣性項、コリオリなどの動的な影響は考慮していない)
例えば、図7に示した(a)接触検知機能では、選択行列式(5)の対角要素を全て1にした上で、低速でパネル材(母材)方向にスティフナを位置制御し、図9の力フィードバック値の注目する成分が閾値を越えた時点で接触したものと判定する。
図7の(b)押し付け制御では、接触後に、押し付け方向の選択行列成分を0にすることで指令された力/モーメントに制御される。
図7の(c)押し付け倣い制御では、押し付け方向の選択行列を0に設定した上で移動方向の押し付け力および位置指令値を与えることで容易に倣い制御を実現できる。
【0036】
前述したように、本実施形態のマグネットハンド装置は、一対の電磁石5a、5bを開閉リンク機構6a、6bを介して吸着面5c、5dが互いに内向きの状態から下向きの状態までシリンダ装置7により押し開くように構成したものであるので、いずれか一方の電磁石により平積みないし平置き状態のワークを簡単確実に吸着して取り出し搬送することができる。また、電磁石5a、5bは左右一対設けられているので、平積みないし平置き状態のワークに対し勝手違いは生じない。
【0037】
また、本マグネットハンド装置の本体フレーム1は傾動用のモータ4により垂直面内で回動することにより傾斜するので、ワークを所要の傾斜角で母材上に取り付けることも可能である。
【0038】
また、電磁石5a、5bまたは本体フレーム1にワーク100との距離を検出する距離計12が設けられているので、距離計12によるワーク100との距離、あるいは母材101との距離の計測値に基づいて、一連の吸着・搬送・肌付けの動作をシーケンス制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のマグネットハンド装置を備えた鋼材ハンドリング装置の正面図。
【図2】鋼材ハンドリング装置の側面図。
【図3】本発明のマグネットハンド装置の正面図。
【図4】マグネットハンド装置の側面図。
【図5】ワークの吸着搬送の手順を示す説明図。
【図6】肌付け時のギャップ計測方法の説明図。
【図7】スティフナの位置決めで用いる力制御の説明図。
【図8】鋼材ハンドリング装置のアームのリンク構造の模式図とパラメータを示す図。
【図9】位置と力のハイブリッド制御の制御ブロック図。
【符号の説明】
【0040】
1 本体フレーム
2 メインフレーム
3 減速機
4 回動モータ
5a、5b 電磁石
5c、5d 吸着面
6a、6b 開閉リンク機構
7 シリンダ装置
8 ピストンロッド
9 カップリング
10 マグネットハンド装置
12 距離計
14 ベルクランク
15 リンク
20 鋼材ハンドリング装置
21 走行台車
22 レール
23 アーム
24 旋回台
25 溶接ロボット
26 制御盤
50 ワーク載置台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電磁石と、各電磁石の吸着面が互いに相対する内向きの状態から下向きの状態まで回動するように各電磁石を支持する開閉リンク機構と、この開閉リンク機構を駆動するシリンダ装置とを備えたことを特徴とする鋼材ハンドリング装置のマグネットハンド装置。
【請求項2】
本体フレームに前記電磁石、開閉リンク機構およびシリンダ装置が装着され、その本体フレームを傾斜させる傾動装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載の鋼材ハンドリング装置のマグネットハンド装置。
【請求項3】
電磁石または本体フレームにワークとの距離を検出する距離計を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の鋼材ハンドリング装置のマグネットハンド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−247782(P2006−247782A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67318(P2005−67318)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【Fターム(参考)】