説明

鋼管の成形装置及び成形方法

【課題】鋼管の成形に際して、高速度の溶接時であっても、被成形材の外周長の変動を抑えて高品質の鋼管を安定的に成形可能とする。
【解決手段】少なくとも被成形材1を挟んだ2か所に配置したロール2〜4を有し、これらのロール2〜4により鋼管をロール成形する鋼管の成形装置において、成形中において被成形材1から受ける反力によって変動した各ロールの位置ロール2〜4を、予め定めた所定の位置に押し戻すことにより常時補正して、鋼管の外周長の変動を抑える位置補正手段を設ける。該位置補正手段は、各ロール2〜4の位置変動を常時監視する監視手段と、該監視手段からの出力に基づいて各ロール2〜4の位置を予め定めた所定の位置に逐次移動させる移動手段とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の成形装置及び成形方法に関するものであり、特にレーザー溶接や電気抵抗による溶接等の各種溶接法によって突合せ部の溶接を行う鋼管の成形に適したものに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば電縫による溶接管の製造においては、通常、板状のコイルから成形ロールにより、円周方向に曲げモーメントを与えて成形し、被成形材の両エッジを対向させるようにした後、SQ(スクイズ)ロールと呼ばれる成形スタンドによって該被成形材を加圧し、SQロールの直前に配置した溶接機の位置で両エッジの突合せ部を形成する一方で、その加熱・溶融した該突合せ部をロールで圧着して溶接する。
上記SQロールの成形スタンドは、被成形材を挟んだ2か所以上に配置したロールが用いられおり、各ロールの位置は、成形開始前に、スクリュージャッキによって手動で移動させたり、エンコーダによるパルスカウントを利用して電動モータの駆動力で移動させたりして、成形すべき鋼管の外周長に応じた位置に予め調整しておくのが通常である。
【0003】
しかしながら、このようなSQロールを用いて被成形材の突合せ部の溶接を行っていると、突合せ部の位置や溶接のアップセット位置が通常の位置からずれてしまい、溶接が安定せずに溶接品質にばらつきが発生じることがあった。特に、被成形材を高速で通管させる場合は、この傾向が顕著であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−7428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、発明者らは、被成形材の突合せ部の位置や溶接のアップセット位置の変動が生じる原因について検証したところ、このような突合せ部の位置や溶接のアップセット位置の変動は、被成形材の材料の強度変動、板厚変動がある場合に多く発生し、成形中においては、その被成形材の材料の強度変動等によって各ロールは被成形材から想定外の反力を受けるため、それに伴ってスタンド等が撓んで各ロールの位置が当初の位置から逃げる方向に位置変動していることがわかった。
そこで、各ロールの位置変動と突合せ部や溶接のアップセットの位置変動との関係についてさらに検証を重ねたところ、成形ロールの位置が変動すると、被成形材に対して適切な加圧ができず、突合せ部の溶接後の鋼管の外周長が変動するため、溶接前の被成形材の両エッジの位置や間隔が変動していることが判明した。これによって、突合せ部の位置が適切な位置から前後左右にずれて、該突合せ部に対して適正な位置及び範囲の加熱・溶融が行われないことがわかった。また、突合せ部の溶接後の鋼管の外周長が変動すると、溶接部加圧時において溶鋼の排出量が変動するため、溶接ビードの大きさが変動して、溶接品質がばらつくこともわかった。
これらの検証の結果から、発明者らは、被成形材の材料の強度変動や板厚変動に関わらず、成形中における各ロールの位置変動を抑えて鋼管の外周長ができる限り一定の長さとなるようにすることにより、突合せ部の位置ずれが抑えられ、適正な溶接を安定的に行うことができ、また突合せ部溶接後の溶鋼の排出量の変動も抑えられて溶接品質のばらつきを抑止できるとの知見を得るに至った。
【0006】
ところで、被成形材の材料の強度変動や板厚変動に対応するため、例えば特許文献1に開示されているもののように、カリバー付き成形ロールをワークロールとすると共に、これらのワークロールの負荷を受けるバックアップロールをそれぞれ配置することにより、成形ロールの撓みや位置変動を防止することが考えられる。
しかしながら、特許文献1の装置を用いた場合、被成形材のエッジの切り子や、溶接時に発生する酸化スケール、溶接スパッタなどがロール間に入り込み、その噛み込みによるロール間の間隔の変動や焼きつきが生じる可能性が高い上、バックアップロールを設ける分、装置全体が大型化するという欠点もあり、実用性に乏しい。特に、ロール間の間隔が開いてしまうと、成形中においては間隔調整等の対応をとることが困難であるため、やはり被成形材の外周長の変動が通管速度に関わらず発生し、溶接が不安定となる。
【0007】
如上に鑑み、本発明の技術的課題は、鋼管の成形に際して、高速度の溶接時であっても、被成形材の外周長の変動を抑えて高品質の鋼管を安定的に成形可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の鋼管の成形装置は、少なくとも被成形材を挟んだ2か所に配置したロールを有し、これらのロールにより鋼管をロール成形する鋼管の成形装置であって、成形中において被成形材から受ける反力によって変動した各ロールの位置を、予め定めた所定の位置に押し戻すことにより常時補正して、鋼管の外周長の変動を抑える位置補正手段を有することを特徴とするものである。
【0009】
この場合、上記位置補正手段は、各ロールの位置変動を常時監視する監視手段と、該監視手段からの出力に基づいて各孔型ロールの位置を予め定めた所定の位置に逐次移動させる移動手段とを備えているものとすることができる。
【0010】
一方、上記課題を解決するため、本発明の鋼管の成形方法は、少なくとも被成形材を挟んだ2か所に配置したロールにより鋼管をロール成形する鋼管の成形方法であって、被成形材から受ける反力により変動した各ロールの位置を、予め定めた所定の位置に押し戻すことによりそれぞれ常時補正して、鋼管の外周長の変動を抑えながら成形を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形中において、被成形材からの反力により変動した各ロールの位置を予め定めた位置に常時補正して、鋼管の外周長の変動を抑えるため、たとえ被成形材の材料に強度変動、板厚変動があったとしても、早期にその変動に対応して鋼管の外周長をほぼ一定に保つことができる。したがって、特にSQロールに採用する場合には、突合せ部の位置や溶接のアップセット位置を一定の位置に保持することができるため、突合せ部に対する溶接加工性が向上して溶接を高速度であっても安定的且つ確実に行うことができ、また、溶接部の品質のばらつきを抑えて安定化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る鋼管の成形装置を模式的に示す正面図である。
【図2】被成形材を加熱・溶融した状態を模式的に示す要部拡大図である。ただし、(a)は正常に加熱・溶融された状態、(b)は両エッジ間の距離が広すぎて加熱・溶融が不良となった状態、(c)は両エッジの位置が相互にずれて加熱・溶融が不良となった状態をそれぞれ示している。
【図3】被成形材の溶接部の状態を模式的に示す要部拡大図である。ただし、(a)は溶鋼の排出量が正常である状態、(b)は溶鋼の排出量が不良である場合をそれぞれ示している。
【図4】本発明に係る位置補正手段によって各ロールの位置変動が補正されている状態を模式的に示す要部拡大図である。なお、各ロール及び各軸受部材についてはそれぞれ簡略化した態様としている。
【図5】本発明に係る位置補正手段の監視手段の他の実施の形態を模式的に示す説明図である。ただし、(a)は監視手段の概要を示す図、(b)はロールの位置変動が生じる前の状態を示す図、(c)はロールの位置変動が生じた後の状態を示す図である。
【図6】本発明に係る位置補正手段の監視手段の、さらに他の実施の形態を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明に係る成形装置の位置補正手段を使用した場合と使用しなかったについて、ロールに負荷された荷重と該ロールの変位との関係をそれぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の鋼管の成形装置の一実施の形態を示すもので、この実施の形態の成形装置は、板状のコイルから略円筒状に成形された被成形材1を挟んだ対向する左右位置に配設された左右一対のサイドロール2,3と、被成形材の上方側に配設された一対のトップロール4,4とを備えている。
また、上記一対のサイドロール2,3の回転軸を回転自在に支持する左右のサイドロール用軸受部材5,6と、各軸受部材5,6が固定された左右の軸受基体部7,8と、上記一対のトップロール4,4の回転軸を回転自在に支持するトップロール用軸受部材9.9と、これらトップロール用軸受部材9,9が固定された単一の上方側軸受基体部10、及び該上方側軸受基体10が取付けられた昇降部材11と、上記左右の軸受基体部6,7と昇降部材11の外方側を囲むように設けられたスタンド12と、該スタンド12が取付けられた基台13とを有している。
なお、この実施の形態の成形装置は、被成形材1の上部に位置する突合せ部14に対して電縫溶接する際に使用されるSQロールとして使用している例を示しており、この成形装置における通管方向の上流側の近傍には、図示しない溶接手段が配設されている。
【0014】
上記一対のサイドロール2,3は、外周面に所定の曲率に成形された凹溝状のカリバー(孔型)が設けられた孔型ロールであり、該被成形材1を左右から加圧して、上記一対のトップロール4,4と共に予定の外周長の円筒状にロール成形する。なお、左右のサイドロール2,3は互いに同形となっている。
また、上記一対のトップロール4,4は、該被成形材1の左右の両エッジ1a,1bをそれぞれ加圧して、これらの両エッジ1a,1bを同じ高さに相互に向かい合わせるものである。なお、この一対のトップロール4,4も相互に同形となっている。
【0015】
上記左右の軸受基体部7,8は、基台13上に設けられたガイド部材16上に、左右方向に略水平に移動自在にそれぞれ載置されていて、上端部における他方の軸受基台部と対向する位置に、上記サイドロール用軸受部材5,6が位置不動に固定されている。したがって、左右の各サイドロール2,3は、各軸受基体部7,8が左右に移動することにより、サイドロール用軸受部材5,6を介して軸受基体部7,8と一体的且つ直線的に左右方向に移動する構成となっている。
なお、上記ガイド部材16は、後述する位置補正手段の移動手段による駆動力が適切に伝達されてサイドロール2,3の位置補正を精度よく行えるよう、また、監視手段であるロードセル20,20による荷重の検出の誤差を可及的に小さくするため、各軸受基体部7,8を左右方向のみに滑らかにスライド移動させることが可能となっており、例えば摩擦の小さいリニアガイド機構等が用いられる。
【0016】
上記上方側軸受基体部10は、下面側に上記一対のトップロール用軸受部材9,9が、トップロール4,4の傾斜が保持された状態で取付けられ、上面側には上記昇降部材11に連結されている。
上記昇降部材11は、後述する位置補正手段の移動手段である油圧シリンダ24,24のピストンロッド24a,24aの上下動と同期して一体的に鉛直方向に昇降するものであり、したがって、上記一対のトップロール4,4は、昇降部材11の昇降により、上方側軸受基体部10及びトップロール用軸受部材9,9を介して一体的且つ直線的に上下方向に移動する構成となっている。
【0017】
この昇降部材11は、略水平な板面を有する面板部11aと、該面板部11aの左右両端の下面側に直角に取付けられた略鉛直方向に延びる左右の側板部11b,11bとを有している。そして、左右の側板部11b,11bにおける上記スタンド12の内側面と対向する面と、該スタンド12の内側面との間には、昇降用のガイド部材17が配設されている。
上記昇降用のガイド部材17は、後述する位置補正手段の移動手段よるトップロール4の位置補正や監視手段であるロードセル21,21の荷重検出が精度よく行えるように、昇降部材全体を滑らかに上下動させることが可能となっており、例えば摩擦の小さいリニアガイド機構等が用いられる。
なお、上記上方側軸受基体部10は、この昇降部材11の面板部11aの下面側に連結されている。
【0018】
ところで、既に述べたように、鋼管の成形を行うと、被成形材1の材料に強度変動、板厚変動が生じていた場合には、鋼管の成形中、各ロールは被成形材1から想定していた以上の反力を受け、各ロールは初期位置から逃げる方向、具体的には左側のサイドロール2は左方に、右側のサイドロールは右方3に、トップロール4,4は上方にそれぞれ押される。
そうすると、ロールがスタンド12を押して該スタンド12を撓ませるため、結果としてロールが初期位置からずれてしまい、何も対処しなければ、当初予定していた外周長を有する鋼管を成形することができなくなる。
【0019】
特に、SQロールの場合、直前に突合せ部の加熱・溶融が行われるため、各ロールによる加圧時に被成形材1が所望する外周長にならないと、突合せ部の位置が変動し、例えば図2(b)に示すように両エッジ1a,1b間の幅が広がったり、図2(c)に示すように両エッジ1a,1bの位置がずれたりして、加熱・溶融部分18の位置や範囲がずれて加熱・溶融不良が発生する(なお、図2(a)は、加熱・溶融が安定的に行われた場合を示している。)。
あるいは、図3(b)に示すように、両エッジ1a,1bの圧接時に溶鋼19の排出量が少なくなり、溶接部の強度不良が生じたりするおそれがある(なお、図3(a)は、溶鋼19の排出量が正常である場合を示している。)。
【0020】
この問題を解消するため、図4に示すように、各ロールに対して、被圧延材1からの想定外の反力に抗してロールを被成形材側に押し込む適切な力(図4中の矢印)を高応答で積極的に付与し、これによっていわゆるミル剛性を高めるべく、本発明の成形装置には、鋼管の成形中における被成形材からの反力によって変動した各ロールの位置を、予め定めた所定の位置に押し戻すことによりそれぞれ常時補正して、被成形材の外周長の変動を抑える位置補正手段が設けられている。
【0021】
ここで、この発明において、各ロールを「予め定めた所定の位置」に補正するとは、各ロールを、目標とする外周長を有する鋼管を成形するために必要な位置に補正するという意味である。通常、「予め定めた所定の位置」は、目標とする外周長とするための各ロールの初期位置、即ち、被成形材からの反力によって位置変動する前の各ロールの位置となる。この実施の形態においては、位置補正手段が行う各ロールの位置補正は、各ロールを初期位置に押し戻す場合について説明する。
なお、上記「ミル剛性」とは、この発明においては、ロールが位置変動することなく被成形材の反力に抗することができる強さを意味している。したがって、ミル剛性が高まると、ロールの位置変動が抑えられ、鋼管の外周長の変動(溶接時のアップセット量の変動)も抑止されることとなる。
【0022】
上記位置補正手段は、各ロールの位置変動を常時監視する監視手段と、該監視手段からの出力に基づいて各ロールの位置を予め定めた所定の位置に逐次移動させる移動手段とを備えている。
上記監視手段は、この実施の形態では、各ロールに作用する荷重をロードセルによって測定して、その荷重変動に基づいて各ロールの位置の変動を常時監視する構成を採用しており、ロードセルの測定結果を後述する図示しない制御手段に出力して、上記移動手段の制御に供されるようにしている。
【0023】
具体的に、サイドロール2,3については、上記左右の軸受基体部7,8における上記スタンド12と対向する面と該スタンド12の内側面との間にそれぞれロードセル20.20を配設して、左右のサイドロール2,3に作用する荷重を常時且つ個別に測定する構成としている。このサイドロール用のロードセル20,20は、サイドロール2,3とほぼ同じ高さに配設されていて、軸受基体部6,7の影響できるだけ小さくし、サイドロール2,3に作用する水平方向の荷重をできるだけ正確に計測できるようにしている。
また、トップロール4,4については、上記各トップロール用軸受部材9,9の各上端部と、上方側軸受基体部10における各トップロール用軸受部材9,9の各上端部と対向する面との間に、それぞれロードセル21,21を配設し、各トップロール4,4に作用する荷重を常時且つ個別に測定する構成としている。このように、トップロール用のロードセル21,21を各トップロール4,4の近傍に設けることにより、トップロール4,4に作用する荷重の測定の精度を向上させている。
【0024】
一方、上記移動手段は、上記スタンド12の左右の側面にそれぞれ設けられて、ピストンロッド22a,23aが水平方向に前後進する左側及び右側の油圧シリンダ22,23と、スタンド12の上面に載置されて、ピストンロッド24a,24aが鉛直方向に上下動する2つの上側の油圧シリンダ24,24とを備えている。
具体的に、上記左側及び右側の各油圧シリンダ22,23は、シリンダボディ22b,23bが上記スタンド12の外側面に固定されていると共に、ピストンロッド22a,23aが上記スタンド12を貫通して軸受基体部側の内側面側に略水平に導出されていて、そのロッド先端側が上記左右の軸受基体部7,8(厳密には上記ロードセルの部分20,20)に連結されている。そして、監視手段からの出力信号に基づいて、図示しないピストンを前後進させることによりピストンロッド22a,23aを水平方向に前後進させ、これにより、左側の軸受基体部7は右左方向に、右側の軸受基体部8は左右方向にそれぞれ直線的に移動させることができるようになっている。
したがって、上記左右のサイドロール3,4は、対応する軸受基体部7,8を介して油圧シリンダ22,23の駆動力が伝達され、左右方向に自在に移動させることが可能となる。
【0025】
また、上記2つの上側の油圧シリンダ24,24は、相互に同形のもので、シリンダボディ24b,24bが上記スタンド12の上面に固定されていると共に、ピストンロッド24aは上記スタンド12を貫通して上記昇降部材11の面板部11aの上面側に略鉛直に導出されていて、そのロッド先端側が昇降部材11の面板部11aの上面に連結されている。そして、監視手段からの出力信号に基づいて、両油圧シリンダ24,24の図示しない各ピストンを同時且つ同じストロークで上下動させることにより、それぞれのピストンロッド24a,24aを同時且つ同じストロークで鉛直方向に上下動させ、これにより昇降部材11全体を、面板部11aの水平状態が保たれた状態で直線的に昇降させることができるようになっている。
したがって、2つのトップロール4,4は、昇降部材11を介して油圧シリンダ24,24の駆動力が伝達され、上下方向に自在に移動させることが可能となる。
なお、この2つの上側の油圧シリンダ24,24は、相互に同等の荷重が負荷されるように、各油圧シリンダ24,24のピストンロッド24a,24aが昇降部材11の面板部11aの中心から等距離の位置にそれぞれ連結されるように配置されている。
【0026】
さらに、上記各油圧シリンダ22〜24には、ピストンの位置あるいはピストンロッド22a〜24aの位置を検出する位置センサ(図示せず)が取付けられおり、ピストンあるいはピストンロッド22a〜24aの位置を常時正確に把握することができるようになっている。
また、上記移動手段の各油圧シリンダ22〜24には、応答性及び精度に優れたデジタルサーボバルブ25がそれぞれ取付けられていて、上記監視手段からの出力に基づいて後述する制御手段から出力された制御信号に応じて、油圧シリンダ22〜24内のピストンヘッド側及びピストンロッド側の両圧力室の油量を短時間のうちに適切に調整し、ピストンの位置、延いてはピストンロッド22a〜24aのそれぞれの位置を正確且つ素早く制御可能となっている。
この実施の形態においては、上記サーボバルブ25は、高応答を実現するために各油圧シリンダ22〜24のシリンダボディ22b〜24bに直接取付けられていて、油圧シリンダ22〜24との間の配管距離を可能な限り短縮させている。
なお、この実施の形態においては、この移動手段の各油圧シリンダ22〜24により、目標とする外周長とするため決定された、各ロールの初期位置も設定することができるようにしている。
【0027】
ここで、位置補正手段においては、監視手段であるロードセルからの荷重データに基づいて決定されたロールの位置補正量(移動量)が、移動手段の油圧シリンダのピストン及びピストンロッドの位置の制御にフィードバックされることにより、各ロールの位置補正が逐次行われる
より具体的に、この実施の形態では、各ロードセルから出力された各荷重データは、図示しない制御手段に逐次送られ、この制御手段において、その得られた各荷重データに応じて、位置補正すべきロールを決定すると共に、位置補正させるロールに必要な位置補正量(移動量)の算出を行う。このとき、ロールに作用する荷重とその荷重によるロールの位置変動量との関係(即ち、どの程度の荷重が作用した時にどの程度ロールが位置変動するか)が、各ロールごとに事前にデータとして蓄積されており、このデータと上記荷重データとから位置補正量が算出される。
そして、位置補正すべき油圧シリンダ(この場合、厳密にはサーボバルブ)に対してその位置補正量に係る制御信号を出力することにより、各油圧シリンダのピストン及びピストンロッドの位置を上記位置センサによって位置検出しながら逐次正確に制御し、各ロールを速やかに初期位置に戻すように常時補正している。
【0028】
上記構成を有する成形装置を用いて鋼管を成形する場合、この成形装置の直前に配設された溶接手段によって両エッジ1a,1bが加熱・溶融された被成形材1を、目標とする外周長の鋼管を成形するための位置(初期位置)に予め位置調整された左右のサイドロール2,3及び2つのトップロール4,4により加圧して、その突合せ部14を溶接する。
このとき、被成形材1の材料に強度変動、板厚変動がある場合には、成形装置の各ロールは、被成形材1から想定外の反力を受けて位置変動が生じるが、鋼管の成形中においてはロールの位置補正手段が機能しており、被成形材1から受ける反力により位置変動した各ロールは、初期位置に押し戻す補正が常時行われ、被成形材1の外周長の変動が常に抑えた状態で成形が進められる。
即ち、各ロールの位置変動は監視手段により常時監視され、位置変動が生じた場合には、該監視手段からの出力に基づいて各ロールを初期位置に逐次押し戻して移動させることにより各ロールの位置が常時補正され、材料の強度変動、板厚変動に関わらず鋼管の外周長の変動が抑えられる。
【0029】
このように、鋼管の成形中において、各ロールの位置が予め定めた位置に常時補正されることによりミル剛性が高まって被成形材の外周長の変動が抑えられるため、突合せ部が一定の位置に保たれて、直前に行われる溶接手段による加熱・溶融部分の位置及び範囲をほぼ一定に保つことができ、突合せ部の位置やアップセット位置の変動を抑えることが可能となる。また、被成形材の外周長の変動が抑えられたことにより突合せ部に対して常に適正な加圧を行うことができるため、溶接時における溶鋼の排出量もほぼ一定に保つことができる。
この結果、突合せ部の溶接加工性が飛躍的に向上するため、溶接を高速度であっても安定的に行うことができ、また、溶接部の品質のばらつきを抑えて高品質の鋼管を成形することが可能となる。
【0030】
上記実施の形態では、左右のサイドロール2,3及び2つのトップロール4,4の計4つの成形ロールを有する成形装置を使用しているが、ロールの数については、各ロールについて位置補正手段を設けることができれば2つや3つ、あるいは5つであってもよく、任意に選択することができる。
さらに、上記実施の形態では、電縫溶接によって突合せ部を溶接する場合を示しているが、これ以外にもレーザーによる溶接等、任意の溶接法によって溶接するようにしてもよい。
【0031】
また、上記実施の形態においては、位置補正手段の監視手段として、各ロールに作用する荷重を測定して、その荷重変動に基づいて各ロールの位置の変動を常時監視する構成を採用していたが、監視手段としてはこれ以外の任意の手段を用いることができる。
例えば、図5(a)に示すように、各ロールの前後(通管方向の上流側及び下流側)に、ロールに対して通管方向の光を照射する発光手段30と、該発光手段30からの光をして受光する受光手段31を設けて、受光した光に基づいて把握された形状によって各ロールの位置変動の感知と変位量の測定を行う、いわゆる光切断法を用いてもよい。
この場合、図5(b)に示すようにロール(図5の場合は右側のサイドロール3を示している。)の位置変動前に得られた形状の最大幅δと、ロールの位置変動後に得られた形状の最大幅δとの差が、図5(c)に示すようにロールが被成形材の反力によって位置変動した量となるため、この変動量を解消する位置補正を行えばよい。
なお、上記発光手段30及び受光手段31は、スタンド12の撓みの影響を受けない場所に設けることが肝要である。
【0032】
あるいは、図6に示すように、レーザー変位計や光学式変位計等のいわゆる非接触式の変位計32を用い、各ロール(図6の場合は右側のサイドロール3を示している。)に対して通管方向と直交する水平方向からレーザー等を照射して、ロールの位置変動量を常時計測するようにしてもよい。(図6は右側のサイドロール3の変位量を計測する場合を示している。)
なお、この場合、上記変位計32は、スタンドの撓みの影響を受けない場所に設置したアーム33に取り付けて、ロールと軸受部材との間の空間において該ロールの変位量を正確に測定することが肝要である。
【0033】
さらに、上記実施の形態では、本発明の成形装置及び成形方法をSQロールとして用いる場合について述べているが、これ以外にも、次工程の定形工程において鋼管の外径を整えるサイザーロールとして、あるいは溶接機よって被成形材を加熱・溶融する前において鋼管の外周長の調整に供されるフィンパスロールとしてそれぞれ使用することができる。
いずれの場合であっても、成形中、被成形材の材料の強度変動、板厚変動による想定外の反力がロールに作用したとしても、被成形材からの反力により変動した各ロールの位置を予め定めた位置に常時補正し、鋼管の外周長を常に一定の長さに保つことが可能であるため、成形される鋼管の寸法精度等が向上する。
【実施例1】
【0034】
本発明の効果を確認するため、上記実施の形態において使用した図1の成形装置と、本発明のようなロールの位置補正手段を有してない従来の成形装置との性能の比較実験を行った。具体的には、成形装置のロールに荷重をかけて、そのロールの位置変動量を測定した。
なお、従来の成形装置は、ロールの位置補正手段がない点、及びスクリュージャッキによって手動でロールの初期位置を調整することができる点以外は、基本的に本発明の成形装置と同じである。
この実験の結果を図7に示す。
【0035】
図7からわかるように、本発明の成形装置の場合は、従来の成形装置と同等の荷重をロールに負荷しても、該ロールの変位量は約1/10以下であった。
したがって、本発明の成形装置は、従来のものに比べてミル剛性が10倍以上向上していることがわかった。
【実施例2】
【0036】
次に、本発明における位置補正手段による被成形材の外周長の変動の抑止効果を確認するため、上記実施の形態と同じ成形装置を用い、位置補正手段を使用した場合と、位置補正手段を使用しなかった場合とについて、強度差のある素材を被成形材から同一条件で鋼管を成形して、溶接後の鋼管の外周長を半径方式の絶対値で測定可能な外径測定装置で測定し、各素材平均半径を測定した。
被成形材の素材としては、引張強さが300MPaと500MPaとである鋼板を用い、外径60.5mm、板厚2.0mmで成形、溶接を行った。溶接は、本発明・従来例ともワークコイル方式の高周波電気抵抗溶接(ERW) 250KHzを用いた。
本発明に係る成形装置においては、使用した油圧サーボの圧力は15MPa、サーボシリンダーのロッドヘッド受圧面積はロッド22cm、 ヘッド32cmで、サーボバルブはノズルフラッパータイプ(180Hz、−3dB)を用いた。
なお、制御系の応答周波数は、制御周期は1msで25Hz、−3dBを用いた。
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
この実験の結果、位置補正手段を使用しなった場合、平均半径の径差に50μm以上の差が生じ、また、強度変動があった位置で段差が発生した。
これに対し、位置補正手段を使用した場合は、平均半径の径差を20μm以下に抑えながら溶接を行うことができた。
この結果、被成形材の材料に強度変動(板厚変動よる強度変動を含む)があったとしても、被成形材となるコイルの先端、中央部、後端部における外径変動(延いては外周長の変動)を抑えることが可能であることがわかった。したがって、溶接時の突合せ部やアッ
プセットの位置の変動、及び最終製品の寸法のばらつきを抑えることができることが実証された。
【符号の説明】
【0039】
1 :被成形材
2 :左側のサイドロール
3 :右側のサイドロール
20:サイドロール用のロードセル
21:トップロール用のロードセル
22〜24:油圧シリンダ
25:サーボバルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被成形材を挟んだ2か所に配置したロールを有し、これらのロールにより鋼管をロール成形する鋼管の成形装置であって、
成形中において被成形材から受ける反力によって変動した各ロールの位置を、予め定めた所定の位置に押し戻すことにより常時補正して、鋼管の外周長の変動を抑える位置補正手段を有することを特徴とする鋼管の成形装置。
【請求項2】
上記位置補正手段は、各ロールの位置変動を常時監視する監視手段と、該監視手段からの出力に基づいて各ロールの位置を予め定めた所定の位置に逐次移動させる移動手段とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の鋼管の成形装置。
【請求項3】
少なくとも被成形材を挟んだ2か所に配置したロールにより鋼管をロール成形する鋼管の成形方法であって、
被成形材から受ける反力により変動した各ロールの位置を、予め定めた所定の位置に押し戻すことによりそれぞれ常時補正して、鋼管の外周長の変動を抑えながら成形を行うことを特徴とする鋼管の成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−230141(P2011−230141A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100868(P2010−100868)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】