説明

鋼管矢板の施工方法および構造体

【課題】 岩盤上に軟弱地盤が存在するような場合でも、鋼管矢板を打設して地盤に固定することができ、作業性に優れる鋼管矢板の施工方法およびこれを用いた構造体を提供する。
【解決手段】 孔13aよりケーシング11aを抜き取りつつ、ケーシング11a内(孔13a内)に土砂支持部材である超凝結遅延型モルタル15を充填する。超凝結遅延型モルタル15は、岩盤3bと軟弱地盤3aとの境界近傍まで充填される。鋼管矢板5aは、超凝結遅延モルタル充填部の間に挟まれた位置に形成され、鋼管矢板5aの間に挟まれた位置の超凝結遅延モルタル充填部に鋼管矢板5bが設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に硬い地盤である岩盤等の上に、土砂等が堆積したような軟弱地盤が存在する場合に好適な、鋼管矢板の施工方法およびこれを用いた構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地山が崩壊することのない岩盤のみの地盤の場合、鋼管矢板を打設するためには、ケーシングを用いた全周回転掘削機等を用いて地盤を削孔し、ケーシングを抜き取った後に、鋼管矢板を孔に挿入して順次鋼管矢板を設置する方法が採用される。鋼管矢板は、地盤との隙間に充填されるモルタル等で固定される。この際、隣り合う鋼管矢板同士は、鋼管矢板側方に設けられた継手同士を互いに嵌合して設置される。したがって、継手部を含めた鋼管矢板が挿入可能な外径の孔を、地盤へ削孔する必要がある。
【0003】
一方、地盤によっては、鋼管矢板を固定することが可能な硬い地盤である岩盤上に、堆積土砂等の堆積層(軟弱地盤)が存在する場合がある。この場合、同様な方法で鋼管矢板を打設しようとすると、ケーシングを抜き取った際に、上部の堆積層の土砂が孔内に流れ落ち、孔を埋めてしまう場合がある。これを防止するため、全周回転掘削機等で削孔した孔にケーシングを引き抜きながら砂等を投入して地山崩壊を防止する。しかし、岩盤部に形成された孔内へ投入した砂等は、上方からの鋼管矢板の挿入に対して周囲に逃げ場がなく、砂等がますます締まり、挿入が困難となる。また、仮に挿入ができても、その後、鋼管矢板周囲にセメントミルク等を充填することが困難であり、地盤に鋼管矢板を固定することが困難である。
【0004】
このような、削孔後の土砂の孔内への流入を防ぐための方法としては、例えば、掘削孔内のケーシング内に基礎杭を挿入し、基礎杭とケーシングとの間に充填材を充填した後、ケーシングを上昇させる基礎杭の施工方法がある(特許文献1)。
【0005】
また、岩盤層に全周回転掘削機で削孔後、ケーシングを引き抜くとともに、掘削孔内に粘土モルタルを充填する方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−6023
【特許文献2】特開2002−201635
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1記載の方法は、基礎杭のように単独で設置されるものであれば良いが、鋼管矢板のように、互いに隣接する鋼管矢板同士を継手で接合する必要がある場合には、そもそもケーシング同士が重なり合うため、ケーシングを抜き取る前に隣り合う鋼管矢板を嵌合設置することは不可能である。
【0008】
また、特許文献2のような方法では、粘土モルタルがケーシングと置換されるため、充填された粘土モルタル部には土砂等が流入することはないが、そもそも粘土モルタルは強度が弱く、鋼管矢板を岩盤に固定するためには強度不足である。一方、高強度のモルタルを充填したのでは、鋼管矢板自体を挿入することができなくなるため望ましくない。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、岩盤上に軟弱地盤が存在するような場合でも、鋼管矢板を打設して地盤に固定することができ、作業性に優れる鋼管矢板の施工方法およびこれを用いた構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、鋼管矢板の施工方法であって、後打ち鋼管矢板打設予定部にケーシングを用いて地盤に第1の孔を形成する工程(a)と、前記第1の孔よりケーシングを引き抜くとともに、前記第1の孔の内部に、土砂支持部材を設ける工程(b)と、前記後打ち鋼管矢板打設予定部と隣り合う先打ち鋼管矢板打設予定部にケーシングを用いて前記第1の孔と端部が重なるように地盤に第2の孔を形成する工程(c)と、前記第2の孔の内部のケーシング内に先打ち鋼管矢板を設置し、前記先打ち鋼管矢板とケーシングとの隙間および前記先打ち鋼管矢板の内部に第1のモルタルを充填し、前記第2の孔よりケーシングを引き抜く工程(d)と、前記第1の孔の内部の前記土砂支持部材に対して、後打ち鋼管矢板を打設する工程(e)と、を具備することを特徴とする鋼管矢板の施工方法である。
【0011】
前記後打ち鋼管矢板打設予定部および/または前記先打ち鋼管矢板打設予定部の地盤は、岩盤上に軟弱地盤が形成された地盤であり、前記工程(a)は、前記岩盤と前記軟弱地盤との境界近傍まで前記土砂支持部材が設けられることが望ましい。
【0012】
前記工程(d)は、前記第1のモルタルの充填前に、前記先打ち鋼管矢板の側面に長手方向に沿って形成される第1の継手の内部に棒状部材を挿入し、前記第1の継手の内部への前記第1のモルタルの浸入を抑制し、前記工程(e)の前に、前記棒状部材を撤去し、前記工程(e)は、前記後打ち鋼管矢板の側面に長手方向に沿って形成される第2の継手と前記第1の継手とが嵌合するように前記後打ち鋼管矢板を打設することが望ましい。
【0013】
前記土砂支持部材は超凝結遅延型モルタルであってもよい。この場合、前記超凝結遅延型モルタルは、前記工程(c)および前記工程(d)に要する日数の2倍以上の凝結遅延性を有し、かつ、最終圧縮強度が10N/mm以上であってもよく、また、前記超凝結遅延型モルタルには、後打ち鋼管矢板用骨材および増粘剤が添加されていてもよい。
【0014】
前記土砂支持部材は、鉛直方向に連通する複数の仕切りにより区画された構造体であり、前記構造体の上方には蓋が形成設けられ、前記工程(e)の後、前記構造体の内部に第2のモルタルを充填してもよい。この場合、前記構造体の前記仕切りには、水平方向に貫通する複数の流通孔が設けられ、前記第1のモルタルは先打ち鋼管矢板用骨材を含み、前記先打ち鋼管矢板用骨材の大きさが、前記流通孔よりも大きいことが望ましい。
【0015】
第1の発明によれば、第1の孔にはケーシングを引き抜くとともに土砂支持部材が設けられ、これと隣接する第2の孔は、ケーシング内に先打ち鋼管矢板を設置した後にモルタルを充填してケーシングを抜き取るため、隣り合うケーシング同士が干渉することがなく、隣接する鋼管矢板を効率良く打設することができる。また、後打ち鋼管矢板を土砂支持部材に打設するため、後打ち鋼管矢板打設部位に土砂等が流入することがない。なお、先打ち鋼管矢板用のケーシングは、土砂支持部材の一部を除去するように設置(削孔)されるため、鋼管矢板同士を接合することが可能である。
【0016】
また、土砂支持部材を岩盤と軟弱地盤との境界近傍まで設ければ、より確実に土砂の流入(岩盤側の孔内への土砂の流入)を防ぐことができる。
【0017】
また、先打ち鋼管矢板へのモルタルの充填前に、鋼管矢板側面の継手内に棒状部材を挿入しておくことで、継手内へモルタルが流入することを防ぎ、継手が閉塞することを防ぐことができる。このため、後打ち鋼管矢板の打設時に、互いの継手を嵌合させることができる。
【0018】
また、土砂支持部材が超凝結遅延型モルタルであれば、後打ち鋼管矢板設置部に土砂支持部材を充填し、先打ち鋼管矢板を設置した後でも、超凝結遅延型モルタルの硬化が進行していないため後打ち鋼管矢板の設置が容易である。また、設置後は超凝結遅延型モルタルの硬化が進行し、高い強度で鋼管矢板を固定することができる。この際、超凝結遅延型モルタルの凝結遅延性は、少なくとも先打ち鋼管矢板の施工日数の2倍(後打ち鋼管矢板の両側分の施工期間)であれば、先打ち鋼管矢板設置後でも超凝結遅延型モルタルの効果が進行せず、後打ち鋼管矢板の打設が容易である。また、超凝結遅延型モルタルの最終圧縮強度が10N/mm以上であれば、確実に鋼管矢板を地盤に固定することができる。
【0019】
超凝結遅延型モルタルには、後打ち鋼管矢板用骨材が添加されていればより強度を高くすることができ、また増粘剤が添加されていれば、長時間の保持により骨材が下方に沈降することを抑制することができる。
【0020】
また、土砂支持部材として、鉛直方向に連通する複数の孔(複数の仕切り)を有する構造体を用い、上部に蓋を形成することで、上方からの土砂の流入を防ぐことができるとともに、当該構造体に対して後打ち鋼管矢板を打設すれば、後打ち鋼管矢板を確実に打設することができる。この際、構造体にモルタルが充填されれば、後打ち鋼管矢板を確実に地盤に固定することができる。
【0021】
また、構造体の仕切りに水平方向に貫通する複数の流通孔が形成されれば、モルタル充填時に、モルタルが流通孔を通ることで、より確実に構造体内部に充填させることができる。この際、先打ち鋼管矢板打設時に使用されるモルタルに先打ち鋼管矢板用骨材を含み、先打ち鋼管矢板用骨材が流通孔よりも大きければ、先打ち鋼管矢板打設時に先打ち鋼管矢板用骨材が流通孔に詰まり、モルタルが構造体内部に侵入することを抑制することができる。なお、後打ち鋼管矢板用骨材を用いる場合には、後打ち鋼管矢板用骨材は流通孔よりも小さい。
【0022】
第2の発明は、第1の発明にかかる鋼管矢板の施工方法によって施工される構造体であって、前記土砂支持部材に設けられる前記後打ち鋼管矢板と、前記第1のモルタルによって固定される前記先打ち鋼管矢板とが交互に形成されることを特徴とする構造体である。
【0023】
第2の発明によれば、岩盤上に堆積土砂等が存在する場所でも、確実に鋼管矢板が地盤に固定され、隣り合う各鋼管矢板同士が確実に接合された構造体を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、岩盤上に軟弱地盤が存在するような場合でも、鋼管矢板を打設して地盤に固定することができ、作業性に優れる鋼管矢板の施工方法およびこれを用いた構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】構造体1を示す図で、(a)は立面図、(b)は平面図。
【図2】鋼管矢板の施工方法を示す図で、ケーシングを貫入する工程を示す図。
【図3】鋼管矢板の施工方法を示す図で、ケーシングを抜きながら超凝結遅延型モルタルを充填する工程を示す図。
【図4】鋼管矢板の施工方法を示す図で、超凝結遅延型モルタルの充填が完了した状態を示す図。
【図5】鋼管矢板の施工方法を示す図で、さらに隣接する部位にケーシングを貫入する工程を示す図で、(a)は立面図、(b)は(a)のB−B線断面図。
【図6】鋼管矢板の施工方法を示す図で、ケーシング内に鋼管矢板を設置する工程を示す図で、(a)は立面図、(b)は(a)のC−C線断面図。
【図7】鋼管矢板の施工方法を示す図で、ケーシングを抜きながらモルタルを充填する工程を示す図で、(a)は立面図、(b)は(a)のC−C線断面図。
【図8】鋼管矢板の施工方法を示す図で、超凝結遅延型モルタルに鋼管矢板を打設する工程を示す図で、(a)は立面図、(b)は(a)のC−C線断面図。
【図9】鋼管矢板の打設が完了した状態を示す図。
【図10】構造体の平面図であり、鋼管矢板の打設順序を示す図。
【図11】超凝結遅延型モルタルに代えて構造体25を設置した状態を示す図で、(a)は立面図、(b)は(a)のG−G線断面図、(c)は(a)のH−H線断面図。
【図12】構造体25に鋼管矢板を打設する工程を示す図。
【図13】図12(b)のK−K線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態にかかる鋼管矢板の施工方法等について説明する。図1は、本発明にかかる構造体1を示す図であり、図1(a)は構造体1の立面図、図1(b)は構造体1の平面図である。構造体1は、主に、鋼管矢板5、底版9、腹起し7等により形成される。
【0027】
地盤3が掘削され、複数の鋼管矢板5が円形に配列される。地盤3は、下方が岩盤3bであり、岩盤3bの上方に堆積土砂等の軟弱地盤3aが形成される。鋼管矢板5は岩盤3bの深さまで設けられる。構造体1の鋼管矢板5で囲まれた範囲の底部には底版9が設けられる。また、円形に配列された鋼管矢板5の内面には、補強部材である腹起し7が円形に設置される。なお、詳細は後述するが、鋼管矢板5同士は継手によって接合される。また、鋼管矢板の配列は円形に限られず、矩形等さまざまな形状に適用可能である。
【0028】
次に、構造体1の施工方法を説明する。図2は、ケーシング11aを設置した状態を示す立面図である。まず、地盤3を岩盤3bに達するように、全周回転掘削機によってケーシング11aを用いて孔13aを掘削する。ケーシング11a内部の土砂等は排出される。したがって、ケーシング11aの下端が岩盤3bに達し、また、ケーシング11aの上端は軟弱地盤3aよりも上方に達する。
【0029】
次に、図3に示すように、孔13aよりケーシング11aを抜き取りつつ(図中矢印A方向)、ケーシング11a内(孔13a内)に土砂支持部材である超凝結遅延型モルタル15を充填する。超凝結遅延型モルタル15は、岩盤3bと軟弱地盤3aとの境界近傍まで充填される。すなわち、超凝結遅延モルタル15は、岩盤3bおよび軟弱地盤3aの下方の一部に充填される。軟弱地盤3a部分は、ケーシング内部の掘削土あるいは別途投入する砂にて埋め戻される。なお、超凝結遅延型モルタル15の充填は、岩盤3bと軟弱地盤3aとの境界近傍まで行えばよく、境界よりもやや低い高さまででもよい。
【0030】
なお、超凝結遅延モルタル15としては、凝結遅延材としてグルコン酸やグルコヘプトン酸、オキシカルボン酸、などが用いられ、例えばグルコン酸を0.3〜1.5%程度モルタルに添加すれば良い。グルコン酸を0.3%添加すれば、約200時間の凝結遅延性を得ることができる。なお、凝結遅延性とは、モルタルの生成後凝結が開始されるまでの時間を指す。
【0031】
以上のような超凝結遅延モルタル15の充填部位(孔13aの掘削位置)は後打ち鋼管矢板打設予定部に形成される。すなわち、詳細は後述するが、後打ち鋼管矢板が打設される部位となる。同様の工程を繰り返し、図4に示すように、所定間隔をあけて後打ち鋼管矢板を打設する部位(後打ち鋼管矢板打設予定部)に超凝結遅延モルタル15が充填される。なお、後打ち鋼管矢板打設予定部同士の間隔は、後述する先打ち鋼管矢板が打設可能な距離だけあけられる。すなわち、後打ち鋼管矢板打設予定部の間が先打ち鋼管矢板打設予定部となる。なお、以下の図面では、中央の超凝結遅延モルタル15のみを図示し、間隔をあけて両隣に形成される部分については図示を省略する。
【0032】
図5はケーシング11bを設置した状態を示す図で、図5(a)は立面図、図5(b)は図5(a)のB−B線断面図である。図5(a)に示すように、前述した先打ち鋼管矢板打設予定部(後打ち鋼管矢板打設予定部の隣)の地盤3に、全周回転掘削機によってケーシング11bを用いて孔13bを掘削する。ケーシング11bも下端が岩盤3bまで達し、上端が地盤3上に露出する。この際、図5(b)に示すように、孔13aの一部と孔13bの一部が互いに重なり合うように、孔13bが形成される。なお、ケーシング11b内の土砂やモルタル等は排出される。
【0033】
図6はケーシング11b内に鋼管矢板5aを設置した状態を示す図で、図6(a)は立面図、図6(b)は図6(a)のC−C線断面図である。図6に示すように、ケーシング11b内に先打ち鋼管矢板である鋼管矢板5aを挿入する。鋼管矢板5aは、図6(b)に示すように、両端に継手19aが設けられる。継手19aは、鋼管矢板5aの長手方向に沿って鋼管矢板外面の対向する位置に一対設けられる。継手19aは一部が開口したC字断面形状の部材である。
【0034】
次に、図7に示すように、ケーシング11bと鋼管矢板5aとの隙間および鋼管矢板5a内部に第1のモルタルであるモルタル21を充填しつつ、モルタル21固化前にケーシング11bを引き抜く(図中矢印D方向)。したがって、モルタル21は、鋼管矢板5aと孔13b(岩盤3b)との隙間および鋼管矢板5a内部に充填される。モルタル21の充填の際には、あらかじめ継手19a内部に棒状部材23が挿入される。したがって、継手19a内部にはモルタル21は充填されない。モルタル21は、例えば、超凝結遅延モルタル15の充填高さと略同じ程度の高さまで充填されればよい。以上により、鋼管矢板5aが設置される。
【0035】
なお、棒状部材23は、円形断面のみではなく、継手19aのスリット部が埋まらないような凸部を有してもよく、また、後述する継手19bが継手19aと嵌合可能なように、モルタルの非充填部を形成できるような断面形状のものを用いればよい。また、棒状部材23の外周には、モルタルとの剥離部材を設けておくことが望ましい。
【0036】
次に、図8(a)に示すように、モルタル21が固化した後、後打ち鋼管矢板である鋼管矢板5bを超凝結遅延モルタル15内に挿入する(図中矢印E方向)。鋼管矢板5bの挿入に当たっては、あらかじめ、継手19a内の棒状部材を撤去し、図8(b)に示すように、鋼管矢板5bの継手19bと鋼管矢板5aの継手19aとを嵌合させるように挿入する。なお、軟弱地盤3aにおいては、鋼管矢板5bの挿入時に、挿入部位に埋め戻した掘削土あるいは砂等が容易に周囲に逃げることができるため、鋼管矢板5bを容易に挿入することができる。また、岩盤3bにおいては、超凝結遅延モルタル15の凝結前であり、まだ流動性を有する状態であるため、鋼管矢板5bの挿入は容易である。
【0037】
なお、超凝結遅延モルタル15の凝結遅延性としては、上述のように、少なくとも両隣に鋼管矢板5aを設置後、鋼管矢板5bを設置するまでに凝結しなければよい。このため、少なくとも、鋼管矢板5aの打設工数の2倍(2本の鋼管矢板5aを打設するまでの期間)以上の凝結遅延性を有すれば良い。たとえば、鋼管矢板5aの打設日数がおよそ4日である場合には、8日間以上(約200時間)の凝結遅延性を有すれば良い。また、鋼管矢板5bを確実に固定するためには、少なくとも、最終圧縮強度が10N/mm以上である必要がある。例えば、グルコン酸0.3%の添加では、最大50N/mm程度が可能である。なお、鋼管矢板の打設順序や工程等に応じて、凝結遅延性(凝結遅延材の添加量)は適宜調整すれば良い。
【0038】
図9は、以上の工程により、鋼管矢板5a、5bが設置された状態を示す図である。超凝結遅延モルタル15が所定の凝結遅延後に凝結して固化することで、鋼管矢板5bも岩盤3bに固定される。以上により、鋼管矢板5a、5bが打設される。
【0039】
次に、各鋼管矢板の打設順序を説明する。図10は、鋼管矢板5a、5bが打設された状態を示す図である。先打ち鋼管矢板である鋼管矢板5aは、前述のように、先打ち鋼管矢板打設予定部である鋼管矢板打設予定部24aに打設され、後打ち鋼管矢板である鋼管矢板5bは後打ち鋼管矢板打設予定部である鋼管矢板打設予定部24bに打設される。鋼管矢板打設予定部24aと鋼管矢板打設予定部24bとは交互に設定される。鋼管矢板の打設は、例えば、隣り合う数本のグループに分けて行ってもよい。たとえば、図10のグループIについて施工後、グループII、グループIII、・・・、グループIXの順に施工してもよい。いずれにしても、鋼管矢板5aと鋼管矢板5bとが交互に形成されれば良い。
【0040】
例えば、T位置の鋼管矢板打設予定部24bに、超凝結遅延モルタル15を充填(第1工程)し、超凝結遅延モルタル15充填部で挟まれたS位置の鋼管矢板打設予定部24aに鋼管矢板5aを打設した後(第2工程)、V位置の鋼管矢板打設予定部24bに、超凝結遅延モルタル15を充填し(第3工程)、U位置の鋼管矢板打設予定部24aに鋼管矢板5aを打設する(第4工程)。次に、鋼管矢板5aで挟まれた超凝結遅延モルタル15充填部であるT位置に鋼管矢板5bを打設する(第5工程)。以上のように、一つずつ円周方向に構築してもよい。
【0041】
いずれにしても、鋼管矢板5aは、所定の間隔をあけて形成された鋼管矢板5bの打設位置予定部の超凝結遅延モルタル充填部の間に挟まれた位置に形成され、鋼管矢板5aの間に挟まれた位置の超凝結遅延モルタル充填部に鋼管矢板5bを設置すれば良い。以上を繰り返すことで、超凝結遅延モルタルによって固定される鋼管矢板5bとモルタル21によって固定される鋼管矢板5aとが交互に形成される。
【0042】
本実施の形態にかかる鋼管矢板の施工方法によれば、下部に岩盤3b上に軟弱地盤3aが形成される部位においても、確実に鋼管矢板を設置することができる。特に、土砂支持部材が用いられ、埋め戻した掘削土や砂等が岩盤内の孔へ崩れ落ちることによる、孔の閉塞がない。このため、岩盤部における鋼管矢板の挿入作業や、鋼管矢板の固定を確実に行うことができる。なお、軟弱地盤においては、周囲に容易に土砂が流動可能であるため、孔が埋まってしまっても、鋼管矢板の挿入には問題がない。
【0043】
また、土砂支持部材が超凝結遅延モルタルであるため、上方からの土砂を支持し、岩盤における孔内への土砂の流入を防ぐことができるとともに、鋼管矢板5bの打設時には、凝結が遅延しているため鋼管矢板5bの挿入が容易であり、その後、所定強度以上で凝結するため、鋼管矢板5bが確実に固定される。すなわち、超凝結遅延モルタルは、隣り合う2本の鋼管矢板5aの打設の間は凝結が開始しないため、鋼管矢板5b打設時に超凝結遅延モルタルが凝結することがなく、凝結後は、鋼管矢板5bの固定に十分な強度を発現するため、鋼管矢板が確実に固定される。
【0044】
なお、超凝結遅延モルタルには、骨材を添加してもよい。この場合、長時間にわたって保持される間に骨材が下部に沈殿しないように、増粘剤を添加することが望ましい。増粘剤としては、例えばスルホン基を有する芳香族化合物および/またはその塩と、アルキルトリメチルアンモニウム塩の複合体、セルロース系高分子、ベントナイトやセピオライトなどの粘土鉱物などが使用できる。
【0045】
次に、第2の実施の形態にかかる、鋼管矢板の施工方法について説明する。なお、本実施の形態において、図2〜図9と同様の構成については、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。第2の実施の形態は、第1の実施の形態と略同様であるが、土砂支持部材として、超凝結遅延モルタルに代えて、構造体25を用いる点で異なる。
【0046】
図11(a)は、構造体25を用いた工程を示す図で、図3に対応する図であり、図11(b)は図11(a)のG−G線断面、図11(c)は図11(a)のH−H線断面図である。構造体25は、図11(b)に示すように、内部にハニカム断面構造を有する筒部材である。すなわち、構造体25は、長手方向に設けられた複数の仕切り27によって仕切られた、複数の孔29が連通する部材である。構造体25は、外径がケーシング11aの内径よりもわずかに小さい。構造体25の外面の孔は後打ち鋼管矢板用骨材よりも大きく、先打ち鋼管矢板用骨材よりも小さければ良い。また、構造体25内部の孔29の形状は、6角形でなくてもよく、四角形や丸形などいずれでも良い。構造体25は、セラミックス製やモルタル製などの部材である。
【0047】
構造体25の仕切り27には、水平方向に隣接する孔29同士を連通する流通孔31が複数形成される。さらに、構造体25の上方には、蓋17aが複数設けられる。蓋17aは、ゴム製や樹脂製などで良く、構造体25上方の孔29を塞ぐように設置される。
【0048】
構造体25は、ケーシング11aを抜き取る際(図中矢印F方向)、ケーシング11a内に挿入され、孔13a内に挿入される。構造体25は、岩盤3bと軟弱地盤3aとの境界近傍まで設けられる。また、一番下側に設置された蓋17aは、境界部と同一かわずかに下方側に来るように設置される。
【0049】
その後、図5〜図7と同様の手順で両隣に鋼管矢板5aを打設する。なお、この際、構造体25の一部は孔13b掘削時に切除される。また、鋼管矢板5bの固定に用いられるモルタル21には、先打ち鋼管矢板用骨材が添加される。先打ち鋼管矢板用骨材の大きさは、構造体25の流通孔31の径よりも大きい。したがって、モルタル21が構造体25内部に流入することがない。
【0050】
両隣の鋼管矢板5aが固定されたのち、図12(a)に示すように構造体25上に鋼管矢板5bを配置し、鋼管矢板5bを打設する(図中矢印J方向)。鋼管矢板5bは、軟弱地盤3bにおいては、埋め戻した掘削土や砂等が周囲に容易に移動できるため、挿入が容易である。また、岩盤3bにおいては、鋼管矢板5bの先端が構造体25の仕切り27を破壊しながら挿入される。なお、蓋17aは、鋼管矢板5bの先端で同様に切断または破断される。
【0051】
図12(b)に示すように、鋼管矢板5bが完全に挿入されると、構造体25(鋼管矢板5bの内部および外周部)に第2のモルタルであるモルタル22が充填される。
【0052】
図13は図12(b)のK−K線断面図である。図13に示すように、モルタル22は、構造体25の流通孔31を通り、全孔29内に充填される。すなわち、鋼管矢板5bは、モルタル22によって固定される。構造体25は、鋼管矢板5bの打設に伴い、多くの部位が破損するが、これらの破片はモルタル22と一体に固化し、鋼管矢板5bは確実に固定される。なお、モルタル22に後打ち鋼管矢板用骨材が含まれる場合には、後打ち鋼管矢板用骨材の大きさを流通孔31よりも小さくしておけばよい。
【0053】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、超凝結遅延モルタルを用いないため、超凝結遅延モルタルの凝結時間等を気にすることもない。このため、温度や工程等に基づいて、凝結遅延材の添加量等を制御したり管理したりする必要がない。
【0054】
また、構造体25は、上方に蓋17aが形成されるため、上方からの土砂を確実に支持し、構造体25b内部(岩盤における孔13a内)に土砂が流入することを防止することができる。特に、蓋17aが複数形成されるため、より確実に土砂を支持することができる。
【0055】
構造体25は、セラミックス製やモルタル製であり、鋼管矢板5bによって容易に破壊できる。このため、鋼管矢板5bの打設時には、鋼管矢板5bの先端部によって、構造体の25の蓋17a、仕切り27が破壊され、構造体25内部に鋼管矢板5bが挿入される。このため、鋼管矢板5bの打設の際に、土砂等による悪影響がない。また、構造体25は、内部に多くの空間(孔29)が形成されているため、破壊された破片等は、これらの空間に押しのけられる。したがって、鋼管矢板5bの打設が容易である。
【0056】
構造体25の仕切り27には、流通孔31が設けられるため、鋼管矢板5b打設後にモルタル22が構造体25全体に充填される。したがって、鋼管矢板5の固定を確実に行うことができる。
【0057】
また、流通孔の大きさは、隣接する鋼管矢板5aの設置および固定に用いられるモルタル21に添加される先打ち鋼管矢板用骨材よりも小さい。したがって、構造体25の一部が切除された状態でモルタル21が充填されても、先打ち鋼管矢板用骨材が流通孔31に詰まるため、モルタル21が構造体25内部に流入して空間を埋めてしまうことがない。また、流通孔の大きさは、モルタル22に含まれる後打ち鋼管矢板用骨材よりも大きい。したがって、モルタル22が流通孔に詰まることがない。
【0058】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0059】
1………構造体
3………地盤
3a………軟弱地盤
3b………岩盤
5、5a、5b………鋼管矢板
7………腹起し
9………底版
11a、11b………ケーシング
13a、13b………孔
15………超凝結遅延型モルタル
17、17a………蓋
19a、19b………継手
21………モルタル
23………棒状部材
24a、24b………鋼管矢板打設予定部
25………構造体
27………仕切り
29………孔
31………流通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管矢板の施工方法であって、
後打ち鋼管矢板打設予定部にケーシングを用いて地盤に第1の孔を形成する工程(a)と、
前記第1の孔よりケーシングを引き抜くとともに、前記第1の孔の内部に、土砂支持部材を設ける工程(b)と、
前記後打ち鋼管矢板打設予定部と隣り合う先打ち鋼管矢板打設予定部にケーシングを用いて前記第1の孔と端部が重なるように地盤に第2の孔を形成する工程(c)と、
前記第2の孔の内部のケーシング内に先打ち鋼管矢板を設置し、前記先打ち鋼管矢板とケーシングとの隙間および前記先打ち鋼管矢板の内部に第1のモルタルを充填し、前記第2の孔よりケーシングを引き抜く工程(d)と、
前記第1の孔の内部の前記土砂支持部材に対して、後打ち鋼管矢板を打設する工程(e)と、
を具備することを特徴とする鋼管矢板の施工方法。
【請求項2】
前記後打ち鋼管矢板打設予定部および/または前記先打ち鋼管矢板打設予定部の地盤は、岩盤上に軟弱地盤が形成された地盤であり、
前記工程(a)は、前記岩盤と前記軟弱地盤との境界近傍まで前記土砂支持部材が設けられることを特徴とする請求項1記載の鋼管矢板の施工方法。
【請求項3】
前記工程(d)は、前記第1のモルタルの充填前に、前記先打ち鋼管矢板の側面に長手方向に沿って形成される第1の継手に棒状部材を挿入し、前記第1の継手の内部への前記第1のモルタルの浸入を抑制し、
前記工程(e)の前に、前記棒状部材を撤去し、
前記工程(e)は、前記後打ち鋼管矢板の側面に長手方向に沿って形成される第2の継手と前記第1の継手とが嵌合するように前記後打ち鋼管矢板を打設することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼管矢板の施工方法。
【請求項4】
前記土砂支持部材は超凝結遅延型モルタルであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の鋼管矢板の施工方法。
【請求項5】
前記超凝結遅延型モルタルは、前記工程(c)および前記工程(d)に要する日数の2倍以上の凝結遅延性を有し、かつ、最終圧縮強度が10N/mm以上であることを特徴とする請求項4記載の鋼管矢板の施工方法。
【請求項6】
前記超凝結遅延型モルタルには、後打ち鋼管矢板用骨材および増粘剤が添加されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の鋼管矢板の施工方法。
【請求項7】
前記土砂支持部材は、鉛直方向に連通する複数の仕切りにより区画された構造体であり、前記構造体の上方には蓋が形成設けられ、前記工程(e)の後、前記構造体の内部に第2のモルタルを充填することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の鋼管矢板の施工方法。
【請求項8】
前記構造体の前記仕切りには、水平方向に貫通する複数の流通孔が設けられ、前記第1のモルタルは先打ち鋼管矢板用骨材を含み、前記先打ち鋼管矢板用骨材の大きさが、前記流通孔よりも大きいことを特徴とする請求項7記載の鋼管矢板の施工方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の鋼管矢板の施工方法によって施工される構造体であって、前記土砂支持部材に設けられる前記後打ち鋼管矢板と、前記第1のモルタルによって固定される前記先打ち鋼管矢板とが交互に形成されることを特徴とする構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−94430(P2011−94430A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251063(P2009−251063)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】