説明

錦糸線

【課題】本発明は錦糸線に関し、給電導線としての強度が高く、断線が少なくなり、振動が多い環境において動作抵抗が少なく、屈曲性能が向上し、軽量化が達成されることにより、製品としての性能と信頼性とを向上し、また、製品の薄型設計が可能になり、設計の自由度が増大する。
【解決手段】芯糸1、および該芯糸1の外周に金箔、または銀箔、銅箔、そのほか、金属メッキを施した金属箔2の何れかを巻き付けることにより素線3が形成され、所望本数の該素線3を撚るか、または編組した集合線を有する錦糸線Kに形成され、前記錦糸線Kの断面形状が、四角形、五角形、六角形、八角形に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は錦糸線に関し、例えば音響機器におけるスピーカの振動板を駆動するためのボイスコイルとして使用されるか、または、ゲーム機本体と、コントローラとを繋ぐための給電用の線材として最適に使用され、線材としての強度が高く、屈曲性能が飛躍的に向上されることにより、また、製品としての性能と、信頼性とを高めようとする。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば音響機器でのスピーカにおいては、音声出力が高品位で行われることが求められ、高い周波数成分やハイパワーの入力に対しても歪みが少ない音声出力が要求される。そして、振動板を駆動するためのボイスコイルにおいても、強度や抵抗値が所定の特性を発揮されるものが要求されている。
【0003】
ところで、振動板を駆動するボイスコイルのような給電導線として、芯糸に、断面が矩形の平角の導体を巻付けた所望本数の素線を撚るか、または編組した集合線を有する錦糸線があった。この給電導線は、芯糸に、断面が矩形の平角の導体を所望本数巻付けた素線を撚るか、または束ねるか、編組した集合線であることにより、柔軟性を発揮し、振動の多い環境においても動作抵抗が少なく、振動板の振動に対して断線が生ずるのが少ないというものであった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、架空に敷設される絶縁電線、光ケーブルを保護する筒状のプロテクタ等の架空被覆長尺物として、被覆体の外表面の形状が、外径の円に内接するように、辺数が3以上の等辺を周方向に連接させることにより、周方向に等間隔に辺数と同数の三角状山部を有する角型形状になっていて、辺数が外径との関係で、6.785+0.575d−0.006732d2≦辺数N≦6.949+0.8380d−0.009694d2の式の範囲内にあるように選定される架空絶縁電線からからなるものであり、戸外での強風と雨等の降水状態において、抗力係数の増加を低く抑えて抗力係数の見積り誤りを無くすと共に、抗力係数の低減効果を得、被覆体の外径、重量増加を抑えようとするものがあった(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−178638号公報
【特許文献2】特開2005−56652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の上記従来の給電導線は、例えば音響機器におけるスピーカの振動板を駆動するためのボイスコイルとして使用した場合に、振動の多い環境において線材としての強度が充分とはいえず、屈曲性能に難があり、また、振動板の振幅性能が落ちたり、特定の周波数にてボイスコイルに共振が発生し、いわゆる縄跳び現象を生じて振動板に錦糸線が衝突し、ビリ音や異常音が発生することがあった。このため、製品としてのスピーカの性能と、信頼性とに欠けるとともに、給電導体としてのボイスコイルが配置される収容空間が、振動板とダンパとの限られた狭い設置スペースでのスピーカの薄型設計には、不向きであった。
【0006】
また、特許文献2に記載の上記従来の架空に敷設される絶縁電線、光ケーブルを保護するプロテクタ等の架空被覆長尺物は、戸外での強風と雨等の降水状態において、抗力係数の増加を低く抑えることを意図し、戸外で用いることを対象とするものであり、室内での給電導線の使用や電気機器、電子機器における給電導線の使用を対象としたものではない。また、特許文献2に記載の発明は、戸外での架線として用いるのに強度を高めるために、絶縁電線、光ケーブル等の電線径が太く、単位長さ当たりの重量も大きく、それらの数値は、絶縁電線や光ケーブル等を保護するためのプロテクタ等の架空被覆長尺物を加味した場合にはかなり、大きいものとなっていた。そのため、給電導線自体が、例えばスピーカの振動板等のような可動系に対する運動追従性を良好にしようとすることを意図するものとは異なる。スピーカに用いる錦糸線自体の重量の増加は、音圧レベルが低下する要因になるし、振動板への偏加重の要因にもなり、振動板がローリング運動する原因になる。さらには、特定の周波数にてボイスコイルに共振が発生し、いわゆる縄跳び現象を起こし易いという欠点があった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、給電導線としての強度が高く、断線が少なくなり、振動が多い環境において動作抵抗が少なく、屈曲性能が向上し、軽量化が達成されることにより、製品としての性能と信頼性とを向上し、また、製品の薄型設計が可能になり、設計の自由度が増大する錦糸線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の発明は、
芯糸、および該芯糸の外周に金箔、または銀箔、銅箔、そのほか、金属メッキを施した金属箔の何れかを巻き付けることにより素線が形成され、所望本数の該素線を撚るか、または束ねるか、編組した集合線を有する錦糸線において、
前記錦糸線の断面形状が、四角形、五角形、六角形、八角形の何れかの多角形に形成された
ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記四角形が、正方形、矩形、菱形の何れかに形成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1または2の何れかにおいて、断面形状が前記四角形の前記錦糸線が、内側部分に配列される大径の複数本の素線と上下左右の外側部分に配列される小径の複数本の素線とが集合されて成ることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1において、断面が前記多角形に形成された前記錦糸線が、断面の一辺の長さに対して少なくとも断面の他辺の長さが70%以上に形成されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項において、前記錦糸線は、断面形状が、四角形、五角形、六角形、八角形の何れかの多角形に形成される電気絶縁被覆部にて被覆されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項6に記載の発明は、請求項5において、前記電気絶縁被覆部が、合成樹脂、或いはゴムにより被覆されるか、もしくは前記合成樹脂、或いは前記ゴムの何れかを浸漬した繊維の何れかにより被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
また、本発明の請求項1に記載の発明によれば、芯糸、および該芯糸の外周に巻付けられる金箔、銀箔、銅箔、そのほか、金属メッキを施した金属箔により素線が形成され、所望本数の該素線を撚るか、または束ねるか、編組した集合線を有する錦糸線において、前記錦糸線の断面形状が、四角形、五角形、六角形、八角形の何れかの多角形に形成されたので、給電導線としての強度が高く、断線が少なくなり、スピーカの振動板を駆動するためのボイスコイルとして使用した場合のように、振動が多い環境において動作抵抗が少なく、屈曲性能が向上し、振動板に対する追従性に優れ、振幅性能が落ちたり、断線が生ずることが極めて少なく、しかも、屈曲性が向上されるのと、電線径は細く、単位長さ当たりの重量が小さくなって軽量化されることにより、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられることにより、いわゆる縄跳び現象を生じて振動板に錦糸線が衝突し、ビリ音や異常音が発生することがなくなるとともに、音圧レベルが低下したり、振動板への偏加重や振動板がローリング運動する要因が一掃されて製品としての性能と信頼性とを向上でき、また、製品の薄型設計が可能になり、設計の自由度が増大する。
【0015】
また、本発明の請求項2に記載の発明によれば、前記四角形が、正方形、矩形、菱形の何れかに形成されるので、給電導線としての錦糸線の強度が高く、断線が少なくなり、スピーカの振動板を駆動するためのボイスコイルとして使用した場合のように、振動が多い環境において動作抵抗が少なく、屈曲性能が向上し、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられることにより、いわゆる縄跳び現象を生じて振動板に錦糸線が衝突し、ビリ音や異常音が発生することがなくなる。
【0016】
また、本発明の請求項3に記載の発明によれば、断面形状が前記四角形の前記錦糸線が、内側部分に配列される大径の複数本の素線と上下左右の外側部分に配列される小径の複数本の素線とが集合されて成るので、振動が多い環境において強度が強くなり、屈曲性能が向上し、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられることにより、いわゆる縄跳び現象を生じて振動板に錦糸線が衝突し、ビリ音や異常音が発生することがなくなる。
【0017】
本発明の請求項4に記載の発明によれば、断面が前記多角形に形成された前記錦糸線が、断面の一辺の長さに対して少なくとも断面の他辺の長さが70%以上に形成されたので、給電導線としての錦糸線としての強度が高く、断線が少なくなり、スピーカの振動板を駆動するためのボイスコイルとして使用した場合のように、振動が多い環境において動作抵抗が少なく、屈曲性能が向上し、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられることにより、いわゆる縄跳び現象を生じて振動板に錦糸線が衝突し、ビリ音や異常音が発生することがなくなる。
【0018】
また、本発明の請求項5に記載の発明によれば、前記錦糸線は、断面形状が、四角形、五角形、六角形、八角形の何れかの多角形に形成される電気絶縁被覆部にて被覆されているので、電気絶縁被覆部により錦糸線は電気絶縁性が良好になる。そして、振動が多い環境において、屈曲性能が向上し、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられ、いわゆる縄跳び現象が防止されるので、断線が少なくなり、寿命が延びる。また、錦糸線が、多角形に形成された前記電気絶縁被覆部にて被覆されるだけの簡単な取り扱いにより、製作および組付けが容易かつ確実に行え、錦糸線の電気的絶縁処理が確実になる。
【0019】
また、本発明の請求項6に記載の発明によれば、前記電気絶縁被覆部が、合成樹脂、或いはゴムにより被覆されるか、もしくは前記合成樹脂、或いは前記ゴムの何れかを浸漬した繊維の何れかにより被覆されているので、電気絶縁被覆部により錦糸線は電気絶縁性が良好になる。そして、振動が多い環境において、屈曲性能が向上し、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられ、いわゆる縄跳び現象が防止されるので、断線が少なくなり、寿命が延びる。また、錦糸線が、多角形に形成された前記電気絶縁被覆部内に配挿するだけの簡単な取り扱いにより、製作および組付けが容易かつ確実に行え、錦糸線の電気的絶縁処理が確実になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に従って本発明の実施の最良の形態により、本発明の詳細を説明する。
【0021】
図1は同じく本発明の錦糸線の実施形態1を示す拡大断面図、図2は同じく錦糸線を構成する素線を示す斜視図、図3は同じく本実施形態1の錦糸線の変形例を示す拡大断面図、図4は同じく錦糸線の強度を測定する屈曲試験機を示す正面図、図5は比較例としての錦糸線の拡大断面図、図6は上記比較例の錦糸線を構成する素線を示す斜視図である。
【0022】
<実施形態1>
本実施形態1は、芯糸1、および該芯糸1の外周に金箔、または銀箔、銅箔、そのほか、金属メッキを施した金属箔2の何れかを巻き付けることにより素線3が形成され、所望本数の該素線3を撚るか、または束ねるか、編組した集合線を有する錦糸線Kに形成される点は、例えば特許文献1に記載の従来の給電導線と同様の構成である。
【0023】
ところで、本実施形態1では、前記錦糸線Kの断面形状が、多角形としての四角形、例えば図1では菱形に形成されているが、四角形としては図には示さないが、正方形、矩形がある。
【0024】
前記素線3は、芯糸1として高強度、高弾性、低伸縮性、耐熱性、電気絶縁性に優れたアラミド繊維と、このアラミド繊維と同様に高強度、高弾性、低伸縮性、耐熱性、電気絶縁性に優れた他の繊維、例えばポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッソ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、さらには、綿糸等の何れかの繊維とを用い、該芯糸1を所望本数撚りつつ、その外周に幅qが、例えば0.3mm、厚さtが、例えば0.023mmからなる金属箔2としての銅箔を巻付けて形成される。この金属箔2は、外表面が裸のまま使用されるのに限らず、絶縁材により絶縁処理されたものでも良い。この絶縁材は、合成樹脂、ゴム等が挙げられる。
【0025】
前記錦糸線Kは、所望本数、本実施形態1では11本の素線3を図1に示すように撚って形成されるか、または、図には示さないが、編組した集合線4を有することにより形成される。
【0026】
そして、本実施形態1では、図1に示すように、断面が菱形に形成された前記錦糸線Kが、四辺とも同一の長さLに形成されているが、図示されたものは代表的な例示であり、これに限ることなく、例えば図3に示すように、断面が四角形にて形成された前記錦糸線Kが、断面の一辺の長さLに対して他の三辺のうち少なくとも一辺、図3においては二辺の長さL1が70%以上に形成された変形な四角形であっても良く、要は四角形の外形に捕らわれない。
【0027】
また、図示する本実施形態1では、前記素線3の集合より成る前記集合線4により形成される前記錦糸線Kは、錦糸線Kの内側部分に位置して横3列に配列された3本の大径φ1の素線3Aと、中央の大径な素線3Aの上側に3本、下側に3本、左右の大径の素線3A,3Aの左右にそれぞれ1本づつの、上下左右の外側部分に配列された合計8本の小径φ2の素線3Bとが集合されることにより、左右均衡した安定構造に形成される。このうち、大径φ1の素線3Aは、所望数本の芯糸1と、この芯糸1の外周に巻き巻付けられる金属箔2とにより形成される。また、小径φ2の素線3Bは、同様に所望数本の芯糸1と、この芯糸1の外周に所望の厚みで巻き巻付けられる金属箔2とにより形成される。この際、芯線1の太さ、本数、また金属箔2の巻付け数は適当に選択される。このように、断面形状が菱形のような四角形の前記錦糸線Kが、内側部分に配列される大径φ1の複数本の素線3Aと上下左右の外側部分に配列される小径φ2の複数本の素線3Bとを集合させるのは、振動が多い環境において、全て単一の太さの素線を用いて錦糸線Kを用いた場合に比較して強くなり、屈曲性能が向上し、特定の周波数にて共振が発生するのが抑え、いわゆる縄跳び現象を生じて振動板に錦糸線が衝突し、ビリ音や異常音を発生させなくするためである。
【0028】
本発明の錦糸線の実施形態1は以上の構成から成り、芯糸1、および該芯糸1の外周に巻付けられる金箔、銀箔、銅箔、そのほか、金属メッキを施した金属箔2により素線3が形成され、所望本数の該素線3を撚るか、または編組した集合線4を有する錦糸線Kの断面形状が、図1に示すように菱形に形成されているので、錦糸線Kの屈曲性能は大幅に向上された。
【0029】
そして、本実施形態1の得られた錦糸線Kにつき、図4に示すように屈曲試験機Tを用いて実際に屈曲試験を行った。図4において、20A,20Bは錦糸線の屈曲試験を行う際に回路をなすサンプルの上下を図には示さない駆動機構により開閉されて把持するための屈曲試験機Tの試料把持部材、21はサンプルに電流を供給するための電源、22は電源21からの電流が屈曲試験により荷重Wを加えながらサンプルの厚み方向I(左右方向)に揺動させて屈曲する際の疲労により各サンプルの金属箔2が試料把持部材20Bにおける作用点Sにて断線されて電流が導通されたり、不導通になることにより点滅される電球である。γは屈曲角度である。
【0030】
この屈曲試験は、本実施形態1により得られた錦糸線Kと、比較例として図5、図6に示すように、アラミド繊維と、高強度、高弾性、低伸縮性、耐熱性、電気絶縁性に優れた他の繊維、例えばポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッソ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、さらには、綿糸等の何れかの繊維とを撚り合わせた芯糸1′に、例えば幅q′が0.3mm、厚さt′が0.023mmの導体としての銅箔よりなる金属箔2′を巻付けた22本の小径の素線3′を、さらに、撚り合わせた集合線4′を有する従来の錦糸線K′とを、それぞれ4個づつのサンプルについて下記条件にもとずいて行われることにより、下記表[1]に示すような結果を得た。
【0031】
<屈曲試験条件>
折り曲げ角度;270度
折り曲げ速度;180 time/min
負荷重量;500g
屈曲最小半径;1.5mm
【0032】
【表1】

【0033】
屈曲試験は、本実施形態1により得られた錦糸線Kと、比較例として図5、および図6に示すように、アラミド繊維と、高強度、高弾性、低伸縮性、耐熱性、電気絶縁性に優れた他の繊維、例えばポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッソ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、さらには、綿糸等の何れかの繊維とを撚り合わせる芯糸1′に、幅q′が0.3mm、厚さt′が0.023mmの導体としての銅箔よりなる金属箔2′を巻付けた22本の素線3′を撚った集合線4′を有する従来の錦糸線K′とにより形成されるそれぞれ4個づつの回路をなすサンプルにつき、図4に示すように各サンプルの上下を屈曲試験機Tの試料把持部材20A,20Bにより挟持した後に、例えば500gの荷重Wを加えながら、各サンプルの厚み方向Iに屈曲させることにより生ずる疲労により各サンプルの金属箔2が断線されて電球22が点灯するまでの屈曲回数を計測するという方法で行われた。
【0034】
上記表[1]から、4個づつのサンプルについての屈曲回数の合計の平均値が、本実施形態1の錦糸線Kでは平均値が39,885回であるのに対して、比較例における錦糸線K′では8,226回である。従って、本実施形態1の錦糸線Kは、比較例における従来の錦糸線K′に比べて実に4倍強もの屈曲強度が発揮されることが分かった。
【0035】
このことは、本実施形態1の錦糸線Kを例えばスピーカの振動板を駆動するためのボイスコイルとして使用した場合に、振動が多い環境において動作抵抗が少なく、屈曲性能が向上し、給電導線としての強度が高くなって振動板に対する追従性に優れ、振幅性能が落ちたり、断線が生ずることが極めて少なくなる。
【0036】
しかも、本発明の錦糸線の実施形態1は上述のように、アラミド繊維と、高強度、高弾性、低伸縮性、耐熱性、電気絶縁性に優れた他の繊維、例えばポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッソ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂、さらには、綿糸等の何れかの繊維とを撚り合わせる芯糸1に、銅箔よりなる金属箔2を巻付けた所望本数の素線3を撚った集合線4を有する錦糸線Kの断面形状が、四角形として菱形に形成されたことにより屈曲性が向上されるのと、図1と、図5とを比較して分かるように、電線径は細く、単位長さ当たりの重量が小さくなって軽量化されるので、特定の周波数にて錦糸線Kが共振されるのが抑えられることにより、いわゆる縄跳び現象を生じないため、図には示さない振動板に錦糸線Kが衝突し、ビリ音や異常音が発生することがなくなるとともに、音圧レベルが低下したり、振動板への偏加重や振動板がローリング運動する要因が一掃されて製品としてのスピーカの性能と信頼性とを向上でき、また、製品の薄型設計が可能になり、設計の自由度が増大する。
【0037】
<実施形態2>
図7に示すものは、本発明の錦糸線の実施形態2を示す。この実施形態2では、前記錦糸線Kが、断面形状が、四角形の多角形に形成される電気絶縁被覆部30内により被覆されている。そして、前記電気絶縁被覆部30が、ポリ酢酸ビニール樹脂、または、ポリ塩化ビニール樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂の何れかの合成樹脂、或いはゴムにより被覆されて形成されるか、もしくは前記ポリ酢酸ビニール樹脂、または、前記ポリ塩化ビニール樹脂、前記シリコン樹脂、前記フッ素樹脂、前記ポリウレタン樹脂、前記ポリアミド樹脂、前記ポリイミド樹脂、前記ポリエステル樹脂、前記ポリエチレン樹脂の何れかの合成樹脂を浸漬する繊維の何れかにより形成されている点が、前記実施形態1と異なる構成であり、その他は前記実施形態1と同様の構成、作用である。前記合成樹脂或いはゴム等の電気絶縁材は、例えばデッピング法により浸漬されて絶縁処理が行われる。
【0038】
そして、この実施形態2では、前記錦糸線Kは、断面形状が、四角形の多角形に形成される電気絶縁被覆部30により絶縁被覆されているので、電気絶縁被覆部30により錦糸線Kは電気絶縁性が良好になる。また、錦糸線Kを、断面形状が多角形に形成される前記電気絶縁被覆部30により被覆されるだけの簡単な取り扱いにより、製作および組付けが容易かつ確実に行えるほか、本実施形態2の錦糸線Kは、前記実施形態1と同様に、例えば音響機器におけるスピーカの振動板を駆動するための給電導線として使用した場合に、振動板が振動するというように、振動が多い環境において、錦糸線Kの屈曲性能が向上し、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられ、いわゆる縄跳び現象が防止されるので、断線が少なくなり、寿命が延びるという効果がある。
【0039】
<実施形態3>
また、図8に示すものは、本発明の錦糸線の実施形態3を示す。この実施形態3では、芯糸1に金属箔2を巻付けた所望本数の素線3を撚るか、または編組した集合線4を有する錦糸線Kの断面形状を五角形に形成することにより、多角形の辺数を前記実施形態1よりも増大した。そして、本実施形態の前記錦糸線Kは、図において下側に横3列の3本、および上側中央に1本の、合計4本の大径φ1の素線3Aと、中央に配した大径な素線3Aの左右にそれぞれ1本づつが配された2本の小径φ2の素線3Bとの、合計6本の素線3が集合されることにより、左右均衡した安定構造に形成されるほかは、前記実施形態1と同様の構成であり、同様に錦糸線Kの屈曲強度が発揮され、振動板に対する追従性に優れ、振幅性能が落ちることなく、断線を生じなくなり、軽量化されることにより、共振が抑えられ、いわゆる縄跳び現象を生ぜず、音圧レベルが低下されたり、振動板が偏加重されたり、ローリングがなくなる等の作用・効果を奏する。
【0040】
<実施形態4>
図9に示すものは、本発明の実施形態4を示すものであり、断面形状Kが五角形に形成された錦糸線Kが、断面形状が、五角形に形成される電気絶縁被覆部30内に被覆される構成により、電気絶縁被覆部30により錦糸線Kは電気絶縁性が良好になる。また、錦糸線Kを、断面形状が五角形の前記電気絶縁被覆部30により被覆するという簡単な取り扱いにより、製作および組付けが容易かつ確実に行える点で前記実施形態3とは異なる構成であるほか、本実施形態4の錦糸線Kは、前記実施形態1、実施形態2、実施形態3と同様に、振動が多い環境において、屈曲性能が向上し、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられ、いわゆる縄跳び現象が防止されることにより、断線が少なくなり、寿命が延びるという同様の効果がある。
【0041】
<実施形態5>
また、図10に示すものは、錦糸線Kの断面形状を六角形に形成した本発明の錦糸線Kの実施形態5を示し、この実施形態5では、大径の直径φ1の素線3Aが左右に縦に2段の4本と、また、中央に縦3段に3本の小径の直径φ2の素線3Bとの、合計7本の素線3により錦糸線Kの断面形状を六角形の左右均衡した断面形状に形成している。
【0042】
<実施形態6>
また、図11に示すものは、錦糸線Kの断面形状を六角形に形成した本発明の錦糸線Kの実施形態6を示し、この実施形態6では、断面形状が六角形の錦糸線Kを、断面形状が、六角形に形成される電気絶縁被覆部30により被覆されている構成により、電気絶縁被覆部30により錦糸線Kは電気絶縁性が良好になり、また、錦糸線Kが、六角形の前記電気絶縁被覆部30により被覆されるという簡単な取り扱いにより、製作および組付けを容易かつ確実に行うようにしている点が前記実施形態5とは異なる構成、作用・効果であるほかは、前記実施形態5と同様の構成、作用である。
【0043】
<実施形態7>
また、図12に示すものは、錦糸線Kの断面形状を八角形に形成した本発明の錦糸線Kの実施形態7を示し、この実施形態7では、小径の直径φ2の素線3Bが左右の縦に2段の4本と、中央に1本との、合計5本、および、前記左右と、中央との小径の素線3B,3Bとの間に、左右に配列される縦に2段、合計4本の大径φ2の素線3Aの、合計9本の素線3により錦糸線Kの断面形状を八角形に形成して左右、均衡した多角形の辺数をさらに増大したほかは、実施形態1、実施形態3、実施形態5と同様の構成であり、同様の作用・効果を奏する。
【0044】
<実施形態8>
そして、図13に示すものは錦糸線Kの断面形状を八角形に形成した本発明の錦糸線Kの実施形態8を示し、この実施形態8では、八角形の錦糸線Kは、断面形状が、八角形に形成される電気絶縁被覆部30により被覆されている構成により、電気絶縁被覆部30により錦糸線Kは電気絶縁性が良好になり、また、錦糸線Kが、八角形の前記電気絶縁被覆部30内により被覆されるという簡単な取り扱いにより、製作および組付けを容易かつ確実に行うようにした点が前記実施形態7とは異なる。
【0045】
また、上記実施形態1では、図1に示すように、四辺の長さLが等辺の長さLの菱形に形成されたものが示されているが、四角形の断面形状はこれに限ることなく、図には示さないが、正方形、矩形が挙げられる。また、四角形の断面形状が菱形に形成される前記実施形態1においては、例えば等辺の長い長さLに対して残りの少なくとも一辺の長さが70%以上に短く形成された場合、すなわち、例えば図3に示すように、断面四角形の四辺のうち、長い二辺の長さLに対して、残りの他辺、すなわち、残りの二辺が短い長さL1に形成された変形な四角形に形成されても良い。また、錦糸線Kの断面形状が五角形の場合には、図には示さないが長い長さLの等辺の五角形に限らず、例えば図8に示す実施形態3、および図9に示す実施形態4に示すように錦糸線Kの断面形状が五角形のうち、一辺の長い長さLに対して残りの少なくとも四辺の長さが70%以上に短い長さL1に形成された変形の五角形でも良い。また、錦糸線Kの断面形状が六角形では、図には示さないが長い長さLの等辺の等角六角形に限ることなく、例えば図10に示す実施形態5、および図11に示す実施形態6に示すように、断面形状が六角形のうち、二辺の長い長さLに対して残りの少なくとも四辺の長さが70%以上に短い長さL1に形成された変形の六角形でも良い。また、錦糸線Kの断面形状が八角形では、図には示さないが長い長さLの等辺の等角八角形に限らず、図12に示す実施形態7、および図13に示す実施形態8に示すように、断面形状が八角形のうち、上下の長い長さLの二辺に対して残りは、長さL1の四辺と、長さL2の二辺との長さが70%以上に短く形成された変形の八角形に形成されたことにより、スピーカの振動板を駆動するためのボイスコイルとして使用した場合に、振動が多い環境において動作抵抗が少なく、屈曲性能が向上して強度が高く、断線が少なくなり、特定の周波数にて共振が発生するのが抑えられ、いわゆる縄跳び現象を生じて振動板に錦糸線Kが衝突し、ビリ音や異常音が発生することがなくなる。なお、前述の多角形において、変形の四角形、変形の五角形、変形の六角形、変形の八角形に形成する場合に、長い長さLを有する辺に対して残りの他辺は少なくとも一辺の長さが70%以上に短く形成したのは、70%以下に短くすることにより極端な変形の四角形、変形の五角形、変形の六角形、変形の八角形に形成する場合に、屈曲性能の低下を促し、特定の周波数での共振を高揚したり、いわゆる縄跳び現象の抑制機能が低下され、振動板に錦糸線Kが衝突したり、ビリ音や異常音が発生するのを効率良く防止するためである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は錦糸線に関し、給電導線としての強度が高く、断線が少なくなり、振動が多い環境において動作抵抗が少なく、屈曲性能が向上し、軽量化が達成されることにより、製品としての性能と信頼性とを向上し、また、製品の薄型設計が可能になり、設計の自由度が増大するという用途・機能に適する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は本発明の錦糸線の実施形態1を示す拡大断面図である。
【図2】図2は同じく錦糸線を構成する素線を示す斜視図である。
【図3】図3は同じく本実施形態1の錦糸線の変形例を示す拡大断面図である。
【図4】図4は同じく錦糸線の強度を測定する屈曲試験機を示す正面図である。
【図5】図5は比較例としての錦糸線の拡大断面図である。
【図6】図6は上記比較例の錦糸線を構成する素線を示す斜視図である。
【図7】図7は断面形状が四角形をした本発明の錦糸線の実施形態2を示す拡大断面図である。
【図8】図8は断面形状が五角形をした本発明の錦糸線の実施形態3を示す拡大断面図である。
【図9】図9は断面形状が五角形をした本発明の錦糸線の実施形態4を示す拡大断面図である。
【図10】図10は断面形状が六角形をした本発明の錦糸線の実施形態5を示す拡大断面図である。
【図11】図11は断面形状が六角形をした本発明の錦糸線の実施形態6を示す拡大断面図である。
【図12】図12は断面形状が八角形をした本発明の錦糸線の実施形態7を示す拡大断面図である。
【図13】図13は断面形状が八角形をした本発明の錦糸線の実施形態8を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 芯糸
2 金属箔
3 素線
4 集合線
30 電気絶縁被覆部
K 錦糸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸、および該芯糸の外周に金箔、または銀箔、銅箔、そのほか、金属メッキを施した金属箔の何れかを巻き付けることにより素線が形成され、所望本数の該素線を撚るか、または、束ねるか、編組した集合線を有する錦糸線において、
前記錦糸線の断面形状が、四角形、五角形、六角形、八角形の何れかの多角形に形成された
ことを特徴とする錦糸線。
【請求項2】
前記四角形が、正方形、矩形、菱形の何れかに形成されることを特徴とする請求項1に記載の錦糸線。
【請求項3】
断面形状が前記四角形の前記錦糸線が、内側部分に配列される大径の複数本の素線と上下左右の外側部分に配列される小径の複数本の素線とが集合されて成ることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の錦糸線。
【請求項4】
断面が前記多角形に形成された前記錦糸線が、断面の一辺の長さに対して少なくとも断面の他辺の長さが70%以上に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の錦糸線。
【請求項5】
前記錦糸線は、断面形状が、四角形、五角形、六角形、八角形の何れかの多角形に形成される電気絶縁被覆部にて被覆されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに1項に記載の錦糸線。
【請求項6】
前記電気絶縁被覆部が、合成樹脂、或いはゴムにより被覆されるか、もしくは前記合成樹脂、或いは前記ゴムの何れかを浸漬した繊維の何れかにより被覆されていることを特徴とする請求項5に記載の錦糸線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−272282(P2009−272282A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197755(P2008−197755)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(598146850)後藤電子 株式会社 (24)
【Fターム(参考)】