説明

錯体化合物、光学補償シート、液晶表示装置、および光学補償シートの製造方法。

【課題】 光学異方性層への添加剤として、1,3,5−トリアジンと芳香族スルホン酸/カルボン酸との錯体化合物及び本化合物を用いた光学異方性層の提供。
【解決手段】下記一般式(I)で表される錯体化合物。一般式(I)


(一般式(I)中、Zはp価の連結基を表す。pは2以上の整数を表す。XはNRa(Raは水素原子、アルキル基等を表す)、O、Sのいずれかを表し、複数のXは同じでも異なっても良い。R,R’はアルキル基等を表し、複数のR,R’は同じでも異なっていてもよい。Arは芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環を表す。Yは単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基を表し、Rfはフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、Wはスルホ基またはカルボキシル基を表し、nは1〜4の整数を表す。複数のRf,Yは同じでも異なっていてもよい。qは1〜2pの整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3,5−トリアジン化合物と芳香族スルホン酸またはカルボン酸との錯体化合物に関する。さらに、このような錯体化合物を用いた、新規な光学補償シート、液晶表示装置、および光学補償シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学補償シートは画像着色解消や視野角拡大のために、様々な液晶表示装置で用いられている。従来から光学補償シートとしては延伸複屈折フィルムが使用されていたが、近年、延伸複屈折フィルムに代えて、支持体上にディスコティック液晶性化合物からなる光学異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。この光学異方性層は、通常、ディスコティック液晶性化合物を含む組成物を配向膜上に塗布し、配向温度よりも高い温度に加熱してディスコティック液晶性化合物を配向させ、その配向状態を固定することにより形成される。
一般に、ディスコティック液晶性化合物は、大きな複屈折率を有するとともに、多様な配向形態がある。ディスコティック液晶性化合物を用いることで、従来の延伸複屈折フィルムでは得ることができない光学的性質を実現することが可能になった。
【0003】
一方で、ディスコティック液晶性化合物では多様な配向形態が存在するため、所望の光学特性の発現には光学異方性層におけるディスコティック液晶性化合物の配向を制御する必要がある。特に光学補償性能の発現には、ディスコティック液晶性化合物のチルト角を支持体面からの距離に伴って変化するように配向させる、いわゆる「ハイブリッド配向」の状態を実現することが重要であり、光学補償シートの性能、すなわち、視野角拡大、視角変化によるコントラスト低下、階調反転、黒白反転、および色相変化等を決める最も重要な因子となる。このハイブリッド配向は、ディスコティック液晶性化合物の配向の方位角を規制する目的で支持体上に設けられる配向膜表面のチルト角と光学補償シートの最外面である空気側界面のチルト角との差を利用して実現されている。ディスコティック液晶性化合物を用いて光学補償シートを塗設、乾燥した後、ディスコティック液晶性化合物は、空気界面と配向膜界面の両方でそれぞれ安定なチルト角でモノドメイン配向する。その結果、膜の厚み方向に連続的にチルト角が変化した配向状態が形成される。ディスコティック液晶性化合物は、空気界面では50°以上の高いチルト角を持つ性質がある。そのため、ハイブリッド配向を実現するには、配向膜界面のチルト角は、空気界面のチルト角より大幅に小さくしなくてはならない。ポリビニルアルコールを用いた配向膜は、そのチルト角が0°に近いために目的のハイブリッド配向の実現に好適に用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方で所望の光学補償機能を得るためには、空気界面側のチルト角を精密に制御する必要がある。通常の空気界面で得られるチルト角である50°を凌ぐ角度を得る方法としてセルロース部分エステル化物を添加する方法(例えば、特許文献2参照)またはフッ素置換アルキル基と親水基(スルホ基が連結基を介してベンゼン環に結合した)を有する化合物を添加する方法(例えば、特許文献3(第7−10頁)参照)が提案されている。しかし、本発明者がこれらの光学補償シートを実際に使用してみたところ、偏光板の斜め方向からの光漏れが認められ、視野角が充分に(理論的に期待できる程度まで)拡大しないものもあることが判明した。光学補償機能が不充分になる理由の一つとして、ディスコティック液晶性化合物のチルト角が充分に制御できていないことがある。
チルト角を制御する方法としては、ベンゼン環にスルホ基とフッ素置換アルキル基を有する化合物を2種以上併用する方法(特許文献4参照)が提案されているが、本発明者がこれらの光学補償シートを実際に作製・使用したところ、フッ素置換アルキル鎖が長い場合には、微小な光学的な欠陥が観察され、配向が均一に制御されていないことが判明した。
【0005】
また、これらの方法では、空気界面でディスコティック液晶性化合物を方位角方向で規制することができないため、方位角方向の異なる領域が生じ、その結果配向欠陥(シュリーレン欠陥)が生じ易い状態を形成する。光学異方性層にシュリーレン欠陥が生じると光散乱が起こり、光学特性を損なうという問題がある。シュリーレン欠陥は、温度コントロールにより液晶状態を保持して充分な配向熟成時間を与えれば、ディスコティック液晶性化合物が欠陥を打ち消し合う様に配向の方位角方向を変動させて、時間と共に消失し、最終的にはモノドメイン化して無欠陥のハイブリッド配向が達成される。そのため、製造の効率化のために熟成時間を短縮すると、シュリーレン欠陥の発生が顕著になり易いという問題があり、モノドメイン化時間の短縮を実現させる技術の開発が必要であった。特に所望の光学性能を得るために、前記の化合物を添加して空気界面側のチルト角を大きくした場合、欠陥消失速度が著しく遅延化して製造の極端な非効率化を招いてしまう。そのため、液晶性化合物のハイブリッド配向を効率的に促進すると共に、空気界面のチルト角を精密に制御しうる技術の開発が強く望まれていた。
【0006】
また、液晶性化合物の配向状態を固定化する際、温度変化により配向状態が大きく変化してしまうと光学性能を精密に制御することが困難になる。そのため、固定化する温度付近においては、温度によらず配向状態を安定に維持することが求められていた。
【0007】
さらに、従来の技術では、主に、15インチ以下の小型あるいは中型の液晶表示装置を想定して、光学補償シートが開発されていた。しかし、最近では、17インチ以上の大型、かつ輝度の高い液晶表示装置も想定する必要がある。大型の液晶表示装置の偏光板に、従来技術の光学補償シートを保護フィルムとして装着したところ、パネル上にムラが発生していることが判明した。この欠陥は、小型あるいは中型の液晶表示装置では、あまり目立っていなかったが、大型化、高輝度化に対応して、光漏れムラに対処した光学フィルムをさらに開発する必要が生じている。ムラの改良を行う技術として、重合性液晶にレベリング剤を含有させる方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この方法は重合性液晶がホモジニアス配向の場合にのみ有効であり、本発明のようにハイブリット配向をはじめとした複雑な配向には、適用できないことが判った。
【0008】
【特許文献1】特開平8−50206号公報
【特許文献2】特開平8−95030号公報
【特許文献3】特開2001−330725号公報
【特許文献4】特願2003−427298号公報
【特許文献5】特開平11−148080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、シュリーレン欠陥などの欠陥が少なく、かつ、ハイブリッド配向する液晶性化合物のチルト角が制御された光学異方性層を迅速に提供することを課題とする。
加えて、本発明は、光学補償機能に優れ、かつ、画像表示装置に適用した場合に、広い視野角拡大性能を有する新規な光学補償シートおよびその製造方法を提供することを課題とする。
さらに、大型の液晶表示装置に適用した場合でも、ムラを生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題のもと、本発明者が鋭意検討した結果、光学異方性層への添加剤として有用な、1,3,5−トリアジンと芳香族スルホン酸/カルボン酸との錯体化合物により上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により達成された。
【0011】
(1)下記一般式(I)で表される錯体化合物。
一般式(I)
【化1】


(一般式(I)中、Zはp価の連結基を表す。pは2以上の整数を表す。XはNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、複数のXはそれぞれ同じでも異なっても良い。RおよびR’はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、複数のRおよびR’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Arは芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環を表す。Yは単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基を表し、Rfはフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、Wはスルホ基またはカルボキシル基を表し、nは1〜4の整数を表す。複数のRfおよびYはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。qは1〜2pの整数を表す。)
(2)支持体上に光学異方性層を有し、該光学異方性層が液晶性化合物および下記一般式(I)で表される錯体化合物を含有する光学補償シート。
一般式(I)
【化2】


(一般式(I)中、Zはp価の連結基を表す。pは2以上の整数を表す。XはNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、複数のXはそれぞれ同じでも異なっても良い。RおよびR’はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、複数のRおよびR’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Arは芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環を表す。Yは単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基を表し、Rfはフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、Wはスルホ基またはカルボキシル基を表し、nは1〜4の整数を表す。複数のRfおよびYはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。qは1〜2pの整数を表す。)
(3)前記光学異方性層がさらにフルオロ脂肪族基含有ポリマーを含有する、(2)に記載の光学補償シート。
(3−1)前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーが下記一般式(II)で表されるモノマーから導かれる繰り返し単位を含む重合体である(3)に記載の光学補償シート。
【化3】

(一般式(II)中、R10は水素原子またはメチル基を表し、X10は酸素原子、イオウ原子または−N(R11)−を表し、R11は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Hfは水素原子またはフッ素原子を表し、rは1〜6の整数、sは2〜4の整数を表す。)
(3−2)前記フルオロ脂肪族基含有ポリマーが、さらに、下記一般式(III)で表されるモノマーから導かれる繰り返し単位を含む重合体である(3)または(3−1)に記載の光学補償シート。
【化4】

(一般式(III)中、R20は水素原子またはメチル基を表し、Y20は2価の連結基を表し、R21は置換基を有しても良いポリ(アルキレンオキシ)基または置換基を有しても良い炭素数1〜20の直鎖、分岐または環状のアルキル基を表す。)
【0012】
(4)前記光学異方性層がさらにセルロースエステルを含有する、上記(2)〜(3−2)のいずれかに記載の光学補償シート。
(5)前記液晶性化合物が、ディスコティック液晶性化合物である上記(2)〜(4)のいずれかに記載の光学補償シート。
(6)前記光学異方性層が、ハイブリッド配向した液晶性化合物を含み、かつ、前記ハイブリッド配向が固定された上記(2)〜(5)のいずれかに記載の光学補償シート。
(7)前記支持体上に配向膜を有する(2)〜(6)のいずれかに記載の光学補償シート。
(8)前記光学異方性層が、ハイブリッド配向した液晶性化合物から形成され、該ハイブリッド配向が固定された上記(2)〜(7)のいずれかに記載の光学補償シート。
(9)液晶性化合物を水平配向させる工程と、前記液晶性化合物をハイブリッド配向させる工程と、前記ハイブリッド配向状態にある液晶性化合物を固定する工程とを含む上記(2)〜(8)のいずれかに記載の光学補償シートの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の1,3,5−トリアジン化合物と芳香族スルホン酸/カルボン酸との錯体化合物を光学異方性層に含有した光学補償シートを用いれば、液晶表示装置の視野角を拡大することができ、しかも大型の液晶表示装置においても、ムラを生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。また、本発明の光学異方性層の製造方法によれば、従来の製造方法と比較して配向熟成時間をより短くでき、また温度変化によるレターデーション変化が小さいため、光学補償シートの製造効率を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
ここで、本発明でいう重合には、共重合を含む趣旨である。また、本発明における「ハイブリッド配向」とは、実態でないが、イメージで表すと、液晶性化合物の長軸方向(例えば、ディスコティック液晶性化合物の場合はコアの円盤面)と液晶層の水平面(例えば液晶層が支持体上に形成されている場合は支持体の表面)とのなす角度(以下、「チルト角」という)が、液晶層の厚さ方向に連続的に変化する配向をいう。また、「水平配向」とは、液晶層の水平面(例えば液晶層が支持体上に形成されている場合は支持体の表面)に対して液晶性化合物の長軸方向(例えば、ディスコティック液晶性化合物の場合、コアの円盤面)が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、液晶性化合物の長軸方向と水平面とのなすチルト角が10度未満の配向を意味するものとする。前記の液晶性化合物を水平配向させる工程において、液晶性化合物が水平配向した際のチルト角は5度以下が好ましく、3度以下がより好ましく、2度以下がさらに好ましく、1度以下が最も好ましい。前記チルト角は0度であってもよい。
【0016】
加えて、一般式(I)で表される化合物が、光、熱等で重合した化合物に対しても「前記一般式(I)で表される化合物」という表現に含まれることとする。以下、本明細書において特別な表記がない限りは同様に扱う。
【0017】
一般式(I)で表される化合物を詳細に説明する。
本化合物は1,3,5−トリアジン環を有する化合物とフッ素原子で置換されたアルキル基を有する芳香族スルホン酸またはカルボン酸との錯体化合物である。
一般式(I)
【化5】


(一般式(I)中、Zはp価の連結基を表す。pは2以上の整数を表す。XはNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、複数のXはそれぞれ同じでも異なっても良い。RおよびR’はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、複数のRおよびR’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Arは芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環を表す。Yは単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基を表し、Rfはフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、Wはスルホ基またはカルボキシル基を表し、nは1〜4の整数を表す。複数のRfおよびYはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。qは1〜2pの整数を表す。)
【0018】
まず1,3,5−トリアジン環を有する部分について説明する。
前記一般式(I)において、XはNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、それぞれ同じでも異なっていても良い。好ましくはNH、O、Sであり、より好ましくはNHである。
【0019】
前記一般式(I)において、RおよびR’はアルキル基(直鎖または分岐の置換もしくは無置換のアルキル基で、好ましくは炭素数1〜30のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、ドデシル基、エイコシル基、2−クロロエチル基、2−シアノエチル基、2−エチルヘキシル基、2‐へキシルデシル基、2−オクチルドデシル基、3−(2、4−ジ−tert−アミルフェノキシ)プロピル)基、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピル基、3−(2−ヘキシルデカノオキシ)プロピル基、3−パーフルオロヘキシルプロピル基、3−(3−パーフルオロヘキシルプロピルオキシ)プロピル基、3−(3−(6H−パーフルオロヘキシル)プロピルオキシ)基)またはアリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基で、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基、m−クロロフェニル基、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル基、o−2−(パーフルオロヘキシル)エトキシフェニル基、 o−3−(パーフルオロヘキシル)プロピルオキシフェニル基、 o−2−(6H−ドデカフルオロヘキシル)エトキシフェニル基、 o−(8H−ヘキサデカフルオロオクチル)メトキシフェニル基)を表す。複数のRおよびR’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0020】
R、R’が有していてもよい置換基としては、アルキル基(直鎖または分岐の置換もしくは無置換のアルキル基で、好ましくは炭素数1〜30のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、ドデシル基、エイコシル基、2−クロロエチル基、2−シアノエチル基、2−エチルヘキシル基、2‐へキシルデシル基、2−オクチルドデシル基、3−(2、4−ジ−tert−アミルフェノキシ)プロピル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基が挙げられ、多シクロアルキル基、例えば、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基で、例えば、ビシクロ[1.2.2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン−3−イル基)やトリシクロアルキル基等の多環構造の基が挙げられる。好ましくは単環のシクロアルキル基、ビシクロアルキル基であり、単環のシクロアルキル基が得に好ましい。)、
【0021】
アルケニル基(直鎖または分岐の置換もしくは無置換のアルケニル基で、好ましくは炭素数2〜30のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリル基、プレニル基、ゲラニル基、オレイル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基で、例えば、2−シクロペンテン−1−イル基、2−シクロヘキセン−1−イル基が挙げられ、多シクロアルケニル基、例えば、ビシクロアルケニル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基で、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2.2.2]オクト−2−エン−4−イル基)、やトリシクロアルケニル基、単環のシクロアルケニル基が得に好ましい。)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基、トリメチルシリルエチニル基)、
【0022】
アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基で、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基、m−クロロフェニル基、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル基、o−2−(パーフルオロヘキシル)エトキシフェニル基、 o−3−(パーフルオロヘキシル)プロピルオキシフェニル基、 o−2−(6H−ドデカフルオロヘキシル)エトキシフェニル基、 o−(8H−ヘキサデカフルオロオクチル)メトキシフェニル基) 、ヘテロ環基(好ましくは5〜7員の置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和、芳香族もしくは非芳香族、単環もしくは縮環のヘテロ環基であり、より好ましくは、環構成原子が炭素原子、窒素原子および硫黄原子から選択され、かつ窒素原子、酸素原子および硫黄原子のいずれかのヘテロ原子を少なくとも一個有するヘテロ環基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピリジル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、
【0023】
アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルコキシ基で、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノナノキシ基、2−パーフルオロヘキシルエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基で、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、2,4−ジ−tert−アミルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基、 o−2−(パーフルオロヘキシル)エトキシフェノキシ基、 o−3−(パーフルオロヘキシル)プロピルオキシフェノキシ基、 o−2−(6H−ドデカフルオロヘキシル)エトキシフェノキシ基、 o−(8H−ヘキサデカフルオロオクチル)メトキシフェノキシ基)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基で、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基で、ヘテロ環部は前述のヘテロ環基で説明されたヘテロ環部が好ましく、例えば、1−フェニルテトラゾールー5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、
【0024】
アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基であり、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基で、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基で、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基で、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、
【0025】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールアミノ基、炭素数0〜30のヘテロ環アミノ基であり、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、3−パーフルオロヘキシルプロピルアミノ基、3−(2、4−ジ−tert−アミルフェノキシ)プロピルアミノ基、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミノ基、3−(2−ヘキシルデカノオキシ)プロピルアミノ基、3−ドデシルオキシプロピルアミノ基、3−(3−パーフルオロヘキシルプロピルオキシ)プロピルアミノ基、3−(3−(6H−パーフルオロヘキシル)プロピルオキシ)プロピルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基、2−メチルオキシアニリノ基、2−(3−パーフルオロヘキシルプロピルオキシ)アニリノ基、2−(2−パーフルオロブチルエチルオキシ)アニリノ基、2、4−ジ(2−パーフルオロヘキシルエチルオキシ)アニリノ基、2−(6H−パーフルオロヘキシルメチルオキシ)アニリノ基、3,4−ジ(3−パーフルオロヘキシルプロピルオキシ)アニリノ基、N−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基であり、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基で、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、
【0026】
アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基で、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ基であり、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、
【0027】
アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基で、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールチオ基で、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基で、ヘテロ環部は前述のヘテロ環基で説明されたヘテロ環部が好ましく、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイル基で、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、
【0028】
アルキルスルフィニル基およびアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基であり、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基であり、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基であり、例えば、アセチル基、ピバロイル基、2−クロロアセチル基、ステアロイル基、ベンゾイル基、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル基)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基で、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、
【0029】
アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基で、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、アリールおよびヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基(ヘテロ環部は前述のヘテロ環基で説明されたヘテロ環部が好ましい)、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のイミド基で、例えばN−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニル基で、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、
【0030】
ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基で、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基で、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシリル基で、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)が挙げられる。
【0031】
上記の官能基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられ、具体的には、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0032】
これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。また、置換基が二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0033】
RおよびR'の置換基の例として、下記一般式(IV)で表されるものも含むものとする。つまり、一般式(I)のトリアジン部分には多量体(例えば二量体、三量体等)も含まれる。
【化6】

(一般式(IV)中、 Z1はp価の連結基を表す。(p−1)は2以上の整数を表す。X1はNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、複数のX1はそれぞれ同じでも異なっても良い。R1およびR2はアルキル基またはアリール基を表し、同じでも異なっていても良く、複数のR1およびR2はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
【0034】
一般式(IV)において、R1およびR2で表されるアルキル基、アリール基としては、一般式(I)中のRおよびR'と同様であり、有していてもよい置換基も同様である。
【0035】
トリアジン環を有する部分としてより好ましい構造は下記一般式(V)である。
【0036】
【化7】

【0037】
一般式(V)中、Z31は2価の連結基を表す。X31およびX32はNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、同じでも異なっても良い。R31、R32、R33およびR34はアルキル基またはアリール基を表し、それぞれ同じでも異なっていても良い。
【0038】
一般式(V)中、Z31で表される2価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、2価の芳香族基、2価のヘテロ環残基、−O−、−CO−、−SO−、ーSO2−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる2価の連結基であることが好ましい。
【0039】
一般式(V)中、R31、R32、R33およびR34でそれぞれ表されるアルキル基、アリール基の例としては、一般式(I)中のRおよびR'で挙げた例と同様であり、有していてもよい置換基も同様である。
【0040】
さらにより好ましくは、前記一般式(V)は、下記一般式(VI)である。
【化8】

【0041】
一般式(VI)中、X41およびX42はそれぞれNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表す。A41、A42およびA43はそれぞれ2価の連結基を表し、複数のA42は同じでも異なってもよい。tは0以上の整数を表す。R41、R42、R43およびR44はそれぞれアルキル基またはアリール基を表す。
【0042】
一般式(VI)において、R41、R42、R43およびR44で表されるアルキル基、アリール基の例としては、一般式(I)中のRおよびR'で挙げた例と同様であり、有していてもよい置換基も同様である。
【0043】
一般式(VI)において、A41、A42およびA43は、それぞれ、アルキレン基、アルケニレン基、2価の芳香族基、2価のヘテロ環残基、−CO−、−SO−、ーSO2−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる2価の連結基であることが好ましい。より好ましくはアルキレン基(直鎖または分岐の置換もしくは無置換のアルキレン基で、好ましくは炭素数1〜30のアルキレン基であり、例えば−CH2−、−(CH22−、−CH2CH(CH3)−、−CH2C(CH32−、−(CH24−)であり、さらに好ましくは、−(CH22−、−CH2CH(CH3)−、−(CH24−である。
【0044】
前述のアルキレン基、アルケニレン基、2価の芳香族基および2価のヘテロ環残基は、可能であれば置換基を有してもよく、有してもよい置換基としては前記一般式(I)におけるRおよびR'の置換基として挙げた例が挙げられる。
【0045】
前記一般式(I)で表される化合物において、1,3,5−トリアジン環を有する部分として好ましい具体例を以下に示すが、本発明に用いられる化合物はこれらに限定されるものではない。
【0046】
【化9】

【0047】
【化10】


【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

【0051】
次に前記一般式(I)における芳香族スルホン酸/カルボン酸部分について詳述する。
前記一般式(I)において、Arで表される芳香族ヘテロ環は、好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12の芳香族ヘテロ環であり、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環であり、フラン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イソキサゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、1,3,5−トリアジン環、インドール環、インダゾール環、キノリン環、カルバゾール環が好ましい。Arで表される芳香族炭化水素環は、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環であり、ベンゼン環が最も好ましい。Arは芳香族炭化水素環であるのが好ましい。
【0052】
Arで表される芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環は置換基を有していてもよく、置換基としては以下の基を挙げることができる。
アルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアルケニル基であり、例えば、ビニル基、アリール基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8のアルキニル基であり、例えば、プロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12のアリール基であり、例えば、フェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基などが挙げられる)、置換もしくは無置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6のアミノ基であり、例えば、無置換アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アニリノ基などが挙げられる)、
【0053】
アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは2〜10であり、例えば、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10のアシルアミノ基であり、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12のアルコキシカルボニルアミノ基であり、例えば、メトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールオキシカルボニルアミノ基であり、例えば、フェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニルアミノ基であり、例えば、メタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12のスルファモイル基であり、例えば、スルファモイル基、メチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基、フェニルスルファモイル基などが挙げられる)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のカルバモイル基であり、例えば、無置換のカルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基などが挙げられる)、
【0054】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキルチオ基であり、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12のアリールチオ基であり、例えば、フェニルチオ基などが挙げられる)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のスルホニル基であり、例えば、メシル基、トシル基などが挙げられる)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のスルフィニル基であり、例えば、メタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のウレイド基であり、例えば、無置換のウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12のリン酸アミド基であり、例えば、ジエチルリン酸アミド基、フェニルリン酸アミド基などが挙げられる)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12のヘテロ環基であり、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環基であり、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基などが挙げられる)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24のシリル基であり、例えば、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる)が含まれる。
これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。また、置換基が二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0055】
Arで表される芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環の置換基としては、好ましくはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アルキルチオ基であり、特に好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基であり、最も好ましくは無置換の芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環である。
【0056】
Yはフッ素原子を含まない2価の連結基または単結合を表す。フッ素原子を含まない2価の連結基である場合には、アルキレン基、アルケニレン基、2価の芳香族基、2価のヘテロ環残基、−CO−、−NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基または水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、フッ素原子を含まない2価の連結基であることが好ましい。フッ素原子を含まない2価の連結基は、アルキレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−、−SO2−およびそれらの群より選ばれる、フッ素原子を含まない2価の連結基を少なくとも2つ組み合わせた基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。アリーレン基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。アルキレン基、アルケニレン基およびアリーレン基は、可能であれば前述のArの置換基として例示された基(例、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、アシルオキシ基など)によって置換されていてもよい。
Yはフッ素原子を含まない2価の連結基であることが好ましく、なかでもアルキレン基、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる、フッ素原子を含まない2価の連結基であることが特に好ましい。
【0057】
Rfで表されるフッ素原子で置換されたアルキル基は、炭素数1〜4のものが好ましく、また、状構造または分岐構造を有していてもよい。フッ素原子の置換率は、アルキル基に含まれる水素原子の50%以上がフッ素原子で置換されていることが好ましく、60%以上が置換されていることがより好ましい。Rfは、末端がCF3基またはCF2H基であることが好ましく、CF3基であることが特に好ましい。Rfで表されるフッ素原子で置換されたアルキル基は、可能であれば前述のArの置換基として例示された基(例、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基、アシルオキシ基など)によって置換されていてもよい。
以下に、Rfの具体例を示す。
【0058】
【化14】

【0059】
Wはスルホ基であることが好ましく、nは1または2が好ましい。
【0060】
特に好ましくは前記一般式(I)の芳香族スルホン酸/カルボン酸部分は、下記一般式(VII)である。
【0061】
【化15】

【0062】
一般式(VII)中、Y2は単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基を表し、Rf2はフッ素原子で置換されたアルキル基を表す。
【0063】
前記一般式(VII)において、Y2およびRf2は前記一般式(I)におけるYおよびRfと同義であり、好ましい範囲も同一である。
【0064】
前記一般式(I)における芳香族スルホン酸/カルボン酸部分として好ましい具体例を以下に示すが、本発明に用いられる化合物はこれらに限定されるものではない。
【0065】
【化16】

【0066】
【化17】

【0067】
【化18】

【0068】
以下に一般式(I)で表される化合物の具体例を示すが、本発明に用いられる化合物はこれらに限定されるものではない。
【0069】
【表1】

【0070】
次に本発明の光学補償シートについて説明する。
本発明の光学補償シートは、支持体上に、液晶性化合物、および前記一般式(I)で表される化合物が含有された光学異方性層を有する光学補償シートである。
【0071】
1.光学異方性層
まず、支持体上に設けられる光学異方性層について説明する。光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶性化合物を補償するように設計することが好ましい。黒表示における液晶セル中の液晶性化合物の配向状態は、液晶表示装置のモードにより異なる。この液晶セル中の液晶性化合物の配向状態に関しては、’00ディスプレイ国際ワークショップ(IDW ’00)要旨集、FMC7−2、P411〜414に記載されている。
【0072】
本発明の光学補償シートは、前記一般式(I)で表される化合物を配向制御剤として光学異方性層に含有する。前記一般式(I)で表される化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記化合物の添加量としては、液晶性化合物の量に対して0.01〜20質量%が好ましく、0.05〜10質量%が特に好ましく、0.05〜5質量%が最も好ましい。
【0073】
1−1.水平配向促進剤
さらに、本発明の光学異方性層には、水平配向剤促進剤として下記一般式(VIII)で表される化合物で表される化合物を含有してもよい。
【化19】

一般式(VIII)中、Z50はm価の連結基を表す。mは2以上の整数を表す。X50はNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、複数のX50は同じでも異なっても良い。Qはヘテロ環または芳香環を表し、複数のQは同じでも異なっていてもよい。
【0074】
前記一般式(VIII)において、Z50はm価の連結基を表す。好ましくは、Z50は芳香環以外の連結基である。
【0075】
前記一般式(VIII)において、Qはヘテロ環または芳香環を表し、複数のQは同じでも異なっていてもよい。ヘテロ環の例としては、好ましくは、5〜7員の置換もしくは無置換、飽和もしくは不飽和、芳香族もしくは非芳香族、単環もしくは縮環のヘテロ環であり、より好ましくは、環構成原子が炭素原子、窒素原子および硫黄原子から選択され、かつ窒素原子、酸素原子および硫黄原子のいずれかのヘテロ原子を少なくとも一個有するヘテロ環であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環である。芳香環の例としては、6〜30員の置換もしくは無置換の芳香環であり、好ましくは5、6員の置換もしくは無置換の芳香環基であり、さらに好ましくは、ヘテロ環の芳香環である。
【0076】
Qが有してもよい置換基としては、前記一般式(I)でのR、R’が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0077】
また、置換基によって分子が連結し、一般式(VIII)が多量体(例えば二量体、三量体等)であっても良い。多量体の中では、ニ量体、三量体、または四量体が好ましい。
【0078】
前記一般式(VIII)は、より好ましくは前記一般式(V)あるいは前記一般式(VI)で表されるトリアジン化合物である。
【0079】
前記一般式(VIII)で表される化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記化合物の添加量としては、液晶性化合物の量に対して0.01〜20質量%が好ましく、0.05〜10質量%が特に好ましく、0.05〜5質量%が最も好ましい。
【0080】
1−2.チルト角制御剤
さらに、本発明の光学異方性層には、液晶性化合物のチルト角制御剤として下記一般式(IX)で表される化合物を含有してもよい。
(Rf3−Y3−)uAr3(−W3v 一般式(IX)
一般式(IX)中、Ar3は芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環を表し、Y3は単結合または2価の連結基を表し、Rf3はフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、W3はスルホ基またはカルボキシル基を表し、uは1〜4の整数を表し、vは1または2を表す。
【0081】
上記一般式(IX)において、Ar3、Y3およびRf3の好ましい範囲としては、前記一般式(I)におけるAr、YおよびRfとそれぞれ同一である。
【0082】
3はスルホ基であることが好ましく、uは1または2が好ましく、vは1が好ましい。
【0083】
特に好ましくは前記一般式(IX)は、前記一般式(VII)である。
【0084】
前記一般式(IX)で表される化合物の添加量としては、液晶性化合物の量に対して0.01〜20質量%が好ましく、0.05〜10質量%が特に好ましく、0.05〜1質量%が最も好ましい。
【0085】
1−3.フッ素系ポリマー
本発明の光学補償シートは、光学異方性層にフルオロ脂肪族基含有共重合体(「フッ素系ポリマー」と略記することもある)を含有することが好ましい。該フッ素系ポリマーは、光学フィルムのムラ防止剤として機能する。したがって、その光学フィルムを大型の液晶表示装置に適用することにより、ムラを生じることがなく、表示品位の高い画像を表示することが可能となる。
【0086】
以下、本発明に係るフッ素系ポリマーについて詳細に説明する。
本発明で用いるフッ素系ポリマーは下記一般式(II)で表されるモノマーから導かれる繰り返し単位を含むアクリル樹脂、メタアクリル樹脂、あるいは下記一般式(II)で表されるモノマーから導かれる繰り返し単位と下記一般式(III)で表されるモノマーから導かれる繰り返し単位とを含むアクリル樹脂、メタアクリル樹脂が好ましく、さらにはこれらモノマーと共重合可能なビニル系モノマーが共重合体したアクリル樹脂、メタアクリル樹脂も好ましい。
【0087】
【化20】

【0088】
一般式(II)中、R10は水素原子またはメチル基を表し、X10は酸素原子、イオウ原子または−N(R11)−を表し、Hfは水素原子またはフッ素原子を表し、rは1〜6の整数を表し、sは2〜4の整数を表し、R11は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。
【0089】
さらに、X10は酸素原子が好ましい。rは1または2が特に好ましい。sは、2または3が好ましく、また、これらの混合物を用いてもよい。R11は、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を表し、好ましくは水素原子またはメチル基が好ましい。
【0090】
一般式(II)で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーのより具体的なモノマーの例を以下にあげるがこの限りではない。
【0091】
【化21】

【0092】
【化22】

【0093】
【化23】

【0094】
【化24】

【0095】
【化25】

【0096】
【化26】

【0097】
【化27】

【0098】
【化28】

【0099】
一般式(III)中、R20は水素原子またはメチル基を表し、Y20は2価の連結基を表し、R21は置換基を有しても良いポリ(アルキレンオキシ)基または置換基を有しても良い炭素数1〜20の直鎖、分岐または環状のアルキル基を表す。
【0100】
さらに、Y20の2価の連結基としては、酸素原子、イオウ原子またはN(R22)−が好ましい。ここでR22は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が好ましい。R22のより好ましい形態は水素原子およびメチル基である。Y20は、酸素原子、−N(H)−およびN(CH3)−がより好ましい。
【0101】
一般式(III)中のポリ(アルキレンオキシ)基は、(R23O)xで表すことができ、R23は2〜4個の炭素原子を有するアルキレン基、例えば−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH(CH3)CH2−、または−CH(CH3)CH(CH3)−であることが好ましい。
前記のポリ(アルキレンオキシ)基中のアルキレンオキシ単位はポリ(プロピレンオキシ)におけるように同一であってもよく、また互いに異なる2種以上のアルキレンオキシが不規則に分布されたものであっても良く、直鎖または分岐状のプロピレンオキシまたはエチレンオキシ単位であったり、または直鎖または分岐状のプロピレンオキシ単位のブロックおよびエチレンオキシ単位のブロックのように存在するものであっても良い。
このポリ(アルキレンオキシ)鎖は、複数のポリ(アルキレンオキシ)単位同士が1つまたはそれ以上の連鎖結合(例えば−CONH−Ph−NHCO−、−S−など、ここでPhはフェニレン基を表す)で連結されたものも含むことができる。連鎖の結合が3つまたはそれ以上の原子価を有する場合には、これは分岐鎖のアルキレンオキシ単位を得るための手段を供する。またこの共重合体を本発明に用いる場合には、ポリ(アルキレンオキシ)基の分子量は250〜3000が適当である。
【0102】
21で表される炭素数1〜20の直鎖、分岐または環状のアルキル基としては、直鎖および分岐してもよいメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、エイコサニル基等、また、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の単環シクロアルキル基およびビシクロヘプチル基、ビシクロデシル基、トリシクロウンデシル基、テトラシクロドデシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、テトラシクロデシル基等の多環シクロアルキル基が好適に用いられる。
【0103】
21で表されるポリ(アルキレンオキシ)基またはアルキル基の置換基としては、水酸基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、カルボキシル基、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基等があげられるがこの限りではない。
【0104】
一般式(III)で表されるモノマーは、アルキル(メタ)アクリレートまたはポリ(アルキレンオキシ)(メタ)アクリレートであることが特に好ましい。
【0105】
一般式(III)で示されるモノマーの具体例を次に示すが、この限りではない。
【0106】
【化29】

【0107】
【化30】

【0108】
【化31】

【0109】
【化32】

【0110】
【化33】

【0111】
【化34】

【0112】
【化35】

【0113】
【化36】

【0114】
【化37】

【0115】
【化38】

【0116】
【化39】

【0117】
【化40】

【0118】
本発明におけるフッ素系ポリマーにおけるフルオロ脂肪族基の一つは、例えば、テロメリゼーション法(テロマー法ともいわれる)またはオリゴメリゼーション法(オリゴマー法ともいわれる)により製造されたフルオロ脂肪族化合物から導かれるものである。これらのフルオロ脂肪族化合物の製造法に関しては、例えば、「フッ素化合物の合成と機能」(監修:石川延男、発行:株式会社シーエムシー、1987)の117〜118ページや、「Chemistry of Organic Fluorine Compounds II」(Monograph 187,Ed by Milos Hudlicky and Attila E.Pavlath,American Chemical Society 1995)の747-752ページに記載されている。テロメリゼーション法とは、ヨウ化物等の連鎖移動常数の大きいアルキルハライドをテローゲンとして、テトラフルオロエチレン等のフッ素含有ビニル化合物のラジカル重合を行い、テロマーを合成する方法である(Scheme-1に例を示した)。
【0119】
【化41】

【0120】
得られた、末端ヨウ素化テロマーは通常、例えば[Scheme2]のごとき適切な末端化学修飾を施され、フルオロ脂肪族化合物へと導かれる。これらの化合物は必要に応じ、さらに所望のモノマー構造へと変換されフルオロ脂肪族基含有ポリマーの製造に使用される。
【0121】
【化42】

【0122】
なお、ポリ(アルキレンオキシ)アクリレートおよびメタクリレートは、市販のヒドロキシポリ(アルキレンオキシ)材料、例えば商品名“プルロニック”[Pluronic(旭電化工業(株)製)、“アデカポリエーテル”(旭電化工業(株)製)“カルボワックス”[Carbowax(グリコ・プロダクス)]、"トリトン"[Toriton(ローム・アンド・ハース(Rohm and Haas製))および"P.E.G"(第一工業製薬(株)製)として販売されているものを公知の方法でアクリル酸、メタクリル酸、アクリルクロリド、メタクリルクロリドまたは無水アクリル酸等と反応させることによって製造できる。
別に、公知の方法で製造したポリ(オキシアルキレン)ジアクリレート等を用いることもできる。
【0123】
本発明のフッ素系ポリマーとしては、一般式(II)で表されるモノマーのホモポリマーまたは一般式(II)で表されるモノマーとポリアルキレンオキシ(メタ)アクリレートとの共重合体が好ましく、ポリエチレンオキシ(メタ)アクリレートまたはポリプロピレンオキシ(メタ)アクリレートを含むことが特に好ましい。
【0124】
本発明に用いる上記一般式(II)で表されるモノマーと上記一般式(III)で表されるモノマーの共重合体は、上記各モノマーの他に、さらにこれらと共重合可能なモノマーを加えて反応させた共重合体であってもよい。この共重合可能なモノマーの好ましい共重合比率としては、全モノマー中の20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。このようなモノマーとしては、PolymerHandbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience(1975)Chapter 2Page 1〜483記載のものを用いることができる。例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等をあげることができる。
【0125】
具体的には、以下のモノマーをあげることができる。
アクリル酸エステル類:
フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートなど、
メタクリル酸エステル類:
フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートなど、
【0126】
アリル化合物:
アリルエステル類(例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリルなど)、アリルオキシエタノールなど
【0127】
ビニルエーテル類:
アルキルビニルエーテル(例えばヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテルなど
【0128】
ビニルエステル類:
ビニルビチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロルアセテート、ビニルジクロルアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β―フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレートなど。
【0129】
イタコン酸ジアルキル類:
イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチルなど。
フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類:
ジブチルフマレートなど
その他、クロトン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイロニトリル、スチレンなど。
【0130】
本発明で用いられるフッ素系ポリマー中の一般式(II)で示されるフルオロ脂肪族基含有モノマーの量は、該ポリマーの構成モノマー総量の好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上である。
本発明のフッ素系ポリマー中の一般式(III)で示されるモノマーの量は、フッ素系ポリマーの構成モノマー総量の好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは5〜70モル%であり、さらに好ましくは5〜60モル%である。
【0131】
本発明で用いられるフッ素系ポリマーの好ましい重量平均分子量は、3000〜100,000が好ましく、6,000〜80,000がより好ましい。
さらに、液晶性化合物を含む液晶性組成物(溶媒を除いた塗布成分)に対する本発明に係るフッ素系ポリマーの好ましい含有量は、0.005〜8質量%の範囲であり、より好ましくは0.01〜1質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲である。フッ素系ポリマーの添加量を上記のような範囲にすることにより、十分な効果が発揮できるとともに、塗膜の乾燥が十分に行われ、光学フィルムとしての性能(例えばレターデーションの均一性等)もより好ましくなる。
【0132】
本発明で用いられるフッ素系ポリマーは公知慣用の方法で製造することができる。例えば先にあげたフルオロ脂肪族基を有する(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシ基を有する(メタ)アクリレート等の単量体を含む有機溶媒中に、汎用のラジカル重合開始剤を添加し、重合させることにより製造できる。また、場合によりその他の付加重合性不飽和化合物を、さらに添加して上記と同じ方法にて製造することができる。各モノマーの重合性に応じ、反応容器にモノマーと開始剤を滴下しながら重合する滴下重合法なども、均一な組成のポリマーを得るために有効である。
【0133】
以下、本発明で用いられるフッ素系ポリマーの具体的な構造の例を示すが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお式中の数字は各モノマー成分のモル比率を示す。Mwは重量平均分子量を表す。
【0134】
【化43】

【0135】
【化44】

【0136】
【化45】

【0137】
【化46】

【0138】
【化47】

【0139】
【化48】

【0140】
【化49】

【0141】
【化50】

【0142】
【化51】

【0143】
1−4.セルロースエステル
本発明の光学補償シートの光学異方性層には、セルロースエステルを含有することが好ましい。セルロースエステルを用いることにより、前記一般式(IX)で示される化合物と同様、液晶性化合物に傾斜角の変化を与えることができる。
【0144】
本発明で用いるセルロースエステルとしては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではないが、セルロースの低級脂肪酸エステルを用いることが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける「低級脂肪酸」とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2〜5であることが好ましく、2〜4であることがさらに好ましい。脂肪酸には置換基(例、ヒドロキシ基)が結合していてもよい。2種類以上の脂肪酸がセルロースとエステルを形成していてもよい。セルロースの低級脂肪酸エステルの例には、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースヒドロキシプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネートおよびセルロースアセテートブチレートが含まれる。セルロースアセテートブチレートが特に好ましい。セルロースアセテートブチレートのブチリル化度は、30%以上であることが好ましく、加えて、80%以下であることがさらに好ましい。セルロースアセテートブチレートのアセチル化度は、30%以下であることが好ましく、加えて、1%以上であることがより好ましい。セルロースエステルの添加量は、液晶性化合物の配向を阻害しないように、液晶性化合物に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0145】
1−5.液晶性化合物
光学異方性層に用いる液晶性化合物には、棒状液晶性化合物もしくはディスコティック液晶性化合物(円盤状液晶性化合物)が含まれる。棒状液晶性化合物もしくはディスコティック液晶性化合物は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。棒状液晶性化合物とディスコティック液晶性化合物を併用しても構わない。ディスコティック液晶性化合物であることがより好ましい。
【0146】
[棒状液晶性化合物]
棒状液晶性化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
なお、棒状液晶性化合物には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性化合物を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性化合物として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性化合物は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
棒状液晶性化合物については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
棒状液晶性化合物の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
棒状液晶性化合物は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基あるいはカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報明細書中の段落番号[0064]〜[0086]記載の重合性基、重合性液晶性化合物が挙げられる。
【0147】
[ディスコティック液晶性化合物]
ディスコティック液晶性化合物には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0148】
ディスコティック液晶性化合物としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。ディスコティック液晶性化合物から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物がディスコティック液晶性化合物である必要はなく、例えば、低分子のディスコティック液晶性化合物が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。ディスコティック液晶性化合物の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、ディスコティック液晶性化合物の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
【0149】
ディスコティック液晶性化合物を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性化合物のディスコティックコアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ディスコティックコアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0151]〜[0168]記載の化合物等が挙げられる。
【0150】
ハイブリッド配向では、ディスコティック液晶性化合物の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0151】
偏光膜側のディスコティック液晶性化合物の長軸の平均方向は、一般にディスコティック液晶性化合物あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法を選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)のディスコティック液晶性化合物の長軸(円盤面)方向は、一般にディスコティック液晶性化合物あるいはディスコティック液晶性化合物と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。ディスコティック液晶性化合物と共に使用する添加剤の例としては、前記一般式(I)で表される化合物のほか、フッ素系ポリマー、トリアジン環基含有化合物、セルロースエステルのほかにも、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびフッ素系ポリマーなどを挙げることができる。長軸の配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性化合物と添加剤との選択により調整できる。
【0152】
ディスコティック液晶性化合物のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0153】
1−6.重合開始剤
本発明において重合開始剤は、配向させた液晶性化合物を、配向状態を維持して固定させるものとして採用することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
液晶性化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2 〜50J/cm2 の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2 の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2 の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0154】
1−7.光学異方性層を構成する液晶性組成物
本発明の光学異方性層を構成する液晶性組成物は、液晶性化合物および一般式(I)で表される化合物を含めば、それ以外の成分については特に定めるものではないが、好ましくは、液晶性化合物、一般式(I)で表される化合物、フッ素系ポリマーおよびセルロースエステルを含む液晶性組成物である。
さらに、本発明の光学異方性層には上記の組成物以外に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用することで、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。これらは液晶性化合物と相溶性を有し、液晶性化合物の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0155】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶性化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、ディスコティック液晶性化合物に対して1〜50質量%の範囲が好ましく、5〜30質量%の範囲がより好ましい。
【0156】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0157】
2.支持体
次に、本発明の光学補償シートに使用される支持体について詳述する。
本発明の光学補償シートに用いられる支持体は、ガラス、もしくは透明なポリマーフィルムである透明支持体が好ましい。
支持体は、光透過率が80%以上であることが好ましい。ポリマーフィルムを構成するポリマーの例には、セルロースエステル(例、セルロースのモノ〜トリアシレート体)、ノルボルネン系ポリマーおよびポリメチルメタクリレートが含まれる。市販のポリマー(ノルボルネン系ポリマーでは、アートンおよびゼオネックスいずれも商品名))を用いてもよい。また、従来知られているポリカーボネートやポリスルホンのような複屈折の発現しやすいポリマーであっても、国際公開WO00/26705号公報に記載のように、分子を修飾することで複屈折の発現性を制御すれば、本発明の光学フィルムに用いることもできる。
【0158】
中でもセルロースエステルが好ましく、セルロースの低級脂肪酸エステルがさらに好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。特に、炭素原子数が2〜4のセルロースアシレートが好ましい。セルロースアセテートが特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
セルロースアセテートの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがより好ましい。また、セルロースアセテートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜1.7であることが好ましく、1.0〜1.65であることがさらに好ましい。
【0159】
ポリマーフィルムとしては、酢化度が55.0〜62.5%であるセルロースアセテートを使用することが好ましい。酢化度は、57.0〜62.0%であることがさらに好ましい。
酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算によって求められる。
【0160】
セルロースアセテートでは、セルロースの2位、3位、6位のヒドロキシルが均等に置換されるのではなく、6位の置換度が小さくなる傾向がある。本発明に用いるポリマーフィルムでは、セルロースの6位置換度が、2位、3位に比べて同程度または多い方が好ましい。
2位、3位、6位の置換度の合計に対する、6位の置換度の割合は、30〜40%であることが好ましく、31〜40%であることがさらに好ましく、32〜40%であることが最も好ましい。6位の置換度は、0.88以上であることが好ましい。
これらの具体的なアシル基、およびセルロースアシレートの合成方法は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行 発明協会)の9ページに詳細に記載されている。
【0161】
ポリマーフィルムを光学補償シートに用いる場合、ポリマーフィルムは、所望のレターデーション値を有することが好ましい。本明細書において、Re、Rthはそれぞれ、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。
ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。
【0162】
本明細書において、「傾斜角」とは、液晶性化合物の分子の長軸方向と界面(配向膜界面あるいは空気界面)との法線がなす角度を指し、本発明では、配向膜側の傾斜角は3°〜30°、空気界面側の傾斜角は40〜80°であるのが好ましい。配向膜側の傾斜角は小さすぎると、液晶性化合物、特にディスコティック液晶性化合物をモノドメイン配向させるのに要する時間が長くなるため大きい方が好ましいが、傾斜角が大きくなりすぎると、光学補償シートとして好ましい光学性能が得られなくなるため逆に好ましくない。したがって、モノドメイン化時間の短縮と光学補償シートとしての好ましい光学性能との両立の観点から、好ましい配向膜側の傾斜角は5°〜50°であり、更に好ましくは10〜50°であり、特に好ましいのは10〜30°である。また、好ましい空気界面側の傾斜角は40〜80°であり、更に好ましくは50〜80°であり、特に好ましいのは50〜70°である。配向膜側の傾斜角は、配向膜の光照射方向を変える方法、あるいは前述の配向膜傾斜角制御剤の添加などにより、数度〜数十度の範囲で制御可能である。なお、上述した様に、光学異方性層が一旦形成された後、転写などにより2つの層間に配置されている場合等は、必ずしも光学異方性層の界面は配向膜界面と空気界面とでなく、かかる態様では、光学異方性層が有する2つの界面のうち一方の界面側および他方の界面側それぞれにおける液晶性化合物の傾斜角が、上記配向膜側傾斜角の範囲および上記空気界面側の傾斜角の範囲であることが好ましい。特に、上記光学異方性層の配向膜界面のディスコティック液晶性化合物の傾斜角θ1は10°≦θ1≦30°を満足することが好ましい。
2つの界面の傾斜角は、光学異方性層の配向膜側の面における傾斜角(ディスコティック液晶性化合物等における物理的な対称軸が光学異方性層の界面となす角度)θ1および空気界面側の面の傾斜角θ2を求めることによって得られる。θ1およびθ2を直接的にかつ正確に測定することは困難であるため、本明細書においては算出を容易にするために下記の2点の仮定に基づいてθ1及びθ2を算出した。本手法は本発明の実際の配向状態を正確に表現していないが、光学フィルムのもつ一部の光学特性の相対関係を表す手段として有効である。
1.光学異方性層はディスコティック液晶性化合物等を含む層で構成された多層体と仮定する。さらに、それを構成する最小単位の層(ディスコティック液晶性化合物の傾斜角は該層内において一様と仮定)は光学的に一軸と仮定する。
2.各層の傾斜角は光学異方性層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化すると仮定する。
具体的な算出法は下記のとおりである。
(1)各層内の傾斜角が光学異方性層の厚み方向に沿って一次関数で単調に変化する面内で、光学異方性層への測定光の入射角を変化させ、3つ以上の測定角でレターデーション値を測定する。測定および計算を簡便にするためには、光学異方性層に対する法線方向を0°とし、−40°、0°、+40°の3つの測定角でレターデーション値を測定することが好ましい。このような測定は、KOBRA-21ADHおよびKOBRA-WR(王子計測器(株)製)、透過型のエリプソメーターAEP-100((株)島津製作所製)、M150およびM520(日本分光(株)製)、ABR10A(ユニオプト(株)製)で行うことができる。
(2)上記のモデルにおいて、各層の常光の屈折率をno、異常光の屈折率をne(neは各々すべての層において同じ値、noも同様とする)、及び多層体全体の厚みをdとする。さらに各層における傾斜方向とその層の一軸の光軸方向とは一致するとの仮定の元に、光学異方性層のレターデーション値の角度依存性の計算が測定値に一致するように、光学異方性層の一方の面における傾斜角θ1および他方の面の傾斜角θ2を変数としてフィッティングを行い、θ1およびθ2を算出する。
ここで、noおよびneは文献値、カタログ値等の既知の値を用いることができる。値が未知の場合はアッベ屈折計を用いて測定することもできる。光学異方性層の厚みは、光学干渉膜厚計、走査型電子顕微鏡の断面写真等により測定数することができる。測定波長は632.8nmである。
【0163】
ポリマーフィルムレターデーション値は光学補償シートが用いられる液晶セルやその使用の方法に応じて異なるが、Reレターデーション値は0〜200nmが好ましく、Rthレターデーション値は70〜400nmが好ましい。
さらに、液晶表示装置に2層の光学的異方性層を使用する場合、ポリマーフィルムのRthレターデーション値は70〜250nmの範囲にあることが好ましい。液晶表示装置に1層の光学的異方性層を使用する場合、基材のRthレターデーション値は150〜400nmの範囲にあることが好ましい。
【0164】
尚、基材フィルムの複屈折率(Δn:nx−ny)は、0.00028〜0.020の範囲にあることが好ましい。また、セルロースアセテートフィルムの厚み方向の複屈折率{(nx+ny)/2−nz}は、0.001〜0.04の範囲にあることが好ましい。
【0165】
ポリマーフィルムのレターデーションを調整するためには延伸のような外力を与える方法が一般的であるが、また、光学異方性を調節するためのレターデーション上昇剤が、場合により添加される。セルロースアシレートフィルムのレターデーションを調整するには、芳香族環を少なくとも2つ有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロースアシレート100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用することが好ましい。また、2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。例えば、欧州特許0911656A2号明細書、特開2000−111914号、同2000−275434号公報等記載の化合物等が挙げられる。
【0166】
さらには、本発明の光学補償シートに用いるセルロースアセテートフィルムの吸湿膨張係数を30×10-5/%RH以下とすることが好ましい。吸湿膨張係数は、15×10-5/%RH以下とすることがより好ましく、10×10-5/%RH以下であることがさらに好ましい。また、吸湿膨張係数は小さい方が好ましい傾向にあるが、1.0×10-5/%RH以上の値であることがより好ましい。
吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量を示す。
この吸湿膨張係数を調節することで、光学補償シートの光学補償機能を維持したまま、額縁状の透過率上昇(歪みによる光漏れ)を防止することができる。
吸湿膨張係数の測定方法について以下に示す。作製したポリマーフィルムから幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、片方の端を固定して25℃、20%RH(R0 )の雰囲気下にぶら下げた。他方の端に0.5gの重りをぶら下げて、10分間放置し長さ(L0)を測定した。次に、温度は25℃のまま、湿度を80%RH(R1 )にして、長さ(L1 )を測定した。吸湿膨張係数は下式により算出した。測定は同一試料につき10サンプル行い、平均値を採用した。
吸湿膨張係数[/%RH]={(L1 −L0 )/L0 }/(R1 −R0 )
【0167】
ポリマーフィルムの吸湿による寸度変化を小さくするには、疎水基を有する化合物または微粒子等を添加することが好ましい。疎水基を有する化合物としては、分子中に脂肪族基や芳香族基のような疎水基を有する可塑剤や劣化防止剤の中で該当する素材が特に好ましく用いられる。これらの化合物の添加量は、調整する溶液(ドープ)に対して0.01〜10質量%の範囲にあることが好ましい。また、ポリマーフィルム中の自由体積を小さくすればよく、具体的には、後述のソルベントキャスト方法による成膜時の残留溶剤量が少ない方が、自由堆積が小さくなり好ましい。セルロースアセテートフィルムに対する残留溶剤量が、0.01〜1.00質量%の範囲となる条件で乾燥することが好ましい。
【0168】
ポリマーフィルムに添加する上記した添加剤および種々の目的に応じて添加できる添加剤(例えば、紫外線防止剤、剥離剤、帯電防止剤、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)、赤外吸収剤等)は、固体でもよく油状物でもよい。また、フィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。これらの詳細は、上記の公技番号 2001−1745号技法の16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。これらの添加剤の使用量は、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されないが、ポリマーフィルム全組成物中、0.001〜25質量%の範囲で適宜用いられることが好ましい
【0169】
[ポリマーフィルムの製造方法]
ポリマーフィルムは、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、ポリマー材料を有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100〜160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0170】
流延工程では1種類のセルロースアシレート溶液を単層流延してもよいし、2種類以上のセルロースアシレート溶液を同時およびまたは逐次共流延してもよい。
上記のような2層以上の複数のセルロースアシレート溶液を共流延する方法としては、例えば、支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアシレートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させる方法(例えば、特開平11−198285号公報記載の方法)、2つの流延口からセルロースアシレート溶液を流延する方法(特開平6−134933号公報記載の方法)、高粘度セルロースアシレート溶液の流れを低粘度のセルロースアシレート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアシレート溶液を同時に押出す方法(特開昭56−162617号公報記載の方法)等が挙げられる。本発明ではこれらに限定されるものではない。
これらのソルベントキャスト方法の製造工程については、前記の公技番号 2001−1745の22頁〜30頁に詳細に記載され、溶解、流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離、延伸などに分類される。
【0171】
本発明のフィルムの厚さは、15〜120μmであることが好ましく、さらには30〜80μmが好ましい。
【0172】
3.ポリマーフィルムの表面処理
ポリマーフィルムは、表面処理を施すことが好ましい。表面処理には、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理および紫外線照射処理が含まれる。これらについては、詳細が前記の公技番号2001−1745の30頁〜32頁に詳細に記載されている。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
アルカリ鹸化処理は、鹸化液中に浸漬、鹸化液を塗布する等何れでもよいが、塗布方法が好ましい。塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を挙げることができる。アルカリ鹸化処理液は、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの規定濃度は、0.1〜3.0Nの範囲にあることが好ましい。さらに、アルカリ処理液として、フィルムに対する濡れ性が良好な溶媒(例、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、メタノール、エタノール等)、界面活性剤、湿潤剤(例えば、ジオール類、グリセリン等)を含有することで、鹸化液の支持体に対する濡れ性、鹸化液の経時安定性等が良好となる。具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開WO02/46809号公報に内容の記載が挙げられる。
【0173】
上述の表面処理方法に加えて行う手段、または、代わりに行う手段として、下塗り層(特開平7−333433号公報記載)または疎水性基と親水性基との両方を含有するゼラチン等の樹脂層を一層のみ塗布する単層法、第1層として高分子フィルムによく密着する層(以下、下塗第1層と略す)を設け、その上に第2層として配向膜とよく密着するゼラチン等の親水性の樹脂層(以下、下塗第2層と略す)を塗布する所謂重層法(例えば、特開平11−248940号公報記載)の内容が挙げられる。
【0174】
4.配向膜
本発明の光学補償シートは、上記のように表面処理したポリマー基材と、その上に設ける光学異方性層との間に、配向膜を設けることが好ましい。
配向膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。従って、配向膜は本発明の好ましい態様を実現する上では必須である。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。
【0175】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0176】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。
【0177】
ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。
【0178】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0179】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。
例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ基、ジアルコキシ基、モノアルコキシ基)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0180】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報明細書中段落番号[0080]〜[0100]記載のもの等が挙げられる。
【0181】
配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報明細書中の段落番号[0023]〜[0024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0182】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0183】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、支持体上に塗布した後、任意の時期に行なって良い。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0184】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20℃〜110℃で好ましく行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃がより好ましく、特に80℃〜100℃がより好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で好ましく行なうことができるが、より好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5が好ましく、特に5が好ましい。
【0185】
配向膜は、支持体上または上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
【0186】
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0187】
次に、配向膜を機能させて、配向膜の上に設けられる光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0188】
5−1.光学異方性層の支持体上への塗設
光学異方性層は、液晶性分子および前記一般式(I)で表される化合物およびその他任意の成分を含む塗布液を、支持体上に塗布することで形成できる。
【0189】
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
塗布液の塗布は、公知の方法(例、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0190】
5−2.光学異方性層の製造方法
本発明の光学異方性層の製造方法は、液晶性化合物をハイブリッド配向状態に固定してなる光学異方性層の製造方法であって、液晶性化合物を水平配向させる第一の配向工程と、水平配向した液晶性化合物をハイブリッド配向させる第二の配向工程と、ハイブリッド配向した液晶性化合物をその配向状態に固定する固定化工程とを含む。本発明の製造方法では、液晶性化合物を一旦水平配向させた後、ハイブリッド配向に転移させることにより、シュリーレン欠陥などの欠陥の少ないハイブリッド配向の光学異方性層を迅速に製造している。
【0191】
前記第一および/または第二の配向工程において、液晶性化合物に電場、磁場、放射線および熱のいずれか少なくとも一種を供与することによって、液晶性化合物を水平配向および/またはハイブリッド配向させることができる。例えば、第一と第二の配向工程において、外部から供与するエネルギーの大きさを変化させる(例えば、加熱により配向させる場合は、加熱温度を変化させる)ことによって、または供与するエネルギーの種類を替えることによって、液晶性化合物の配向状態を調整することができる。製造適性の観点から、前記第一および第二の配向工程において、液晶性化合物の加熱温度を変化させることによって、水平配向からハイブリッド配向に転移させるのが好ましい。
【0192】
本発明では、前述した様に、外部からのエネルギーの供与によって、液晶性化合物を所望の配向状態に配向させることができるが、光学異方性層を配向膜上に形成することによって、または液晶性化合物の配向状態を制御し得る化合物(前記一般式(I)で表される化合物等)を光学異方性層に添加することによっても、所望の配向状態を達成することができる。
【0193】
本発明の光学異方性層の製造方法の好ましい態様としては、以下の方法を挙げることができる。
【0194】
前記一般式(I)で表される化合物の存在下で、液晶性化合物を温度T1℃で水平配向させる第一の配向工程と、前記第一の配向工程の後、液晶性化合物を温度T2℃(但し、T1<T2)でハイブリッド配向させる第二の配向工程と、ハイブリッド配向した液晶性化合物をその配向状態に固定する固定化工程を含む光学異方性層の製造方法である。
【0195】
前記第一の配向工程では、例えば、ディスコティック液晶、前記一般式(I)で表される化合物および適宜光学異方性層の形成に必要な化合物を溶剤に溶解した溶液を配向膜上に塗布したのち乾燥する。次いで、ディスコティックネマチック相形成温度まで加熱し、さらに液晶相状態において水平配向状態をとる温度(T1℃)まで昇温する(第一の配向工程)。温度T1℃において、前記ディスコティック液晶は水平配向状態になる。その後、該液晶相状態を呈する温度範囲の高温度領域(T2℃)までさらに昇温して、ハイブリッド配向状態に転移させる(第二の配向工程)。最後に、UV光の照射等により重合し配向状態を固定化する(固定化工程)。この製造方法によれば、ディスコティック液晶がハイブリッド配向してなる光学異方性層をシュリーレン欠陥の発生を抑制しつつ、迅速に製造できる。
【0196】
前記製造方法では、液晶性化合物の配向過程における温度制御が重要である。水平配向状態を呈する温度(T1℃)としては、50〜200℃が好ましく、70〜200℃がより好ましく、70〜120℃が特に好ましい。
【0197】
水平配向状態を呈する温度(T1℃)は、ハイブリッド配向状態を呈する温度(T2℃)よりも低温である。その温度差(T2−T1)は10℃以上であるのが好ましく、20℃以上であるのがより好ましい。
なお、T1およびT2℃は、光学異方性層の膜面温度として測定される温度である。
【0198】
液晶性化合物が水平配向状態を呈する温度は、液晶性化合物、前記一般式(I)で表される化合物およびその他任意で加える添加剤の種類や添加量によって任意に制御することができ、それに応じて、T1℃およびT2℃を設定することができる。また、T1℃およびT2℃の各温度に維持する時間、ならびにT1℃からT2℃に変化させる時間については、液晶性化合物の種類等に応じて、適宜設定することができる。
【0199】
6.偏光膜
本発明の光学補償シートは、偏光膜と貼り合せるか、偏光膜の保護フィルムとして使用することで、その機能を著しく発揮する。
【0200】
光学異方性層(複数の光学異方性層を設ける場合、最も偏光膜側の第1光学異方性層)は、偏光膜上に直接液晶性分子から形成するか、もしくは配向膜を介して液晶性分子から形成することが好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作成される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示する。
【0201】
偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜、もしくはバインダーと、ヨウ素または二色性色素からなる偏光膜が好ましい。
偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏向性能を発現する。ヨウ素および二色性色素は、バインダー分子に沿って配向するか、もしくは二色性色素が液晶のような自己組織化により一方向に配向することが好ましい。
現在、市販の偏光子は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素をバインダー中に浸透させることで作製されるのが一般的である。
市販の偏光膜は、ポリマー表面から4μm程度(両側合わせて8μm程度)にヨウ素もしくは二色性色素が分布しており、十分な偏光性能を得るためには、少なくとも10μmの厚みが必要である。浸透度は、ヨウ素もしくは二色性色素の溶液濃度、同浴槽の温度、同浸漬時間により制御することができる。
上記のように、バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。20μm以下であると、光漏れ現象は、17インチの液晶表示装置で観察されなくなる。
【0202】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。
架橋しているバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーを用いることができる。官能基を有するポリマーあるいはポリマーに官能基を導入して得られるバインダーを、光、熱あるいはpH変化により、バインダー間で反応させて偏光膜を形成することができる。
また、架橋剤によりポリマーに架橋構造を導入してもよい。
架橋は一般に、ポリマーまたはポリマーと架橋剤の混合物を含む塗布液を、支持体上に塗布したのち、加熱を行なうことにより実施される。最終商品の段階で耐久性が確保できれば良いため、架橋させる処理は、最終の偏光板を得るまでのいずれの段階で行なっても良い。
【0203】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができる。ポリマーの例としては、前記の配向膜で記載のポリマーと同様のものが挙げられる。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。
ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、2種以上を併用してもよい。
【0204】
バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。配向膜は、架橋反応が終了した後でも、反応しなかった架橋剤をある程度含んでいる。但し、残存する架橋剤の量は、配向膜中に1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、偏光膜を液晶表示装置に組み込み、長期使用、または高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、偏光度の低下を生じない。
架橋剤については、米国再発行特許23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。
【0205】
二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例、スルホ基、アミノ基、ヒドロキシル基)を有することが好ましい。
二色性色素の例としては、例えば、発明協会公開技法、公技番号2001−1745号、58頁(発行日2001年3月15日)に記載の化合物が挙げられる。
【0206】
液晶表示装置のコントラスト比を高めるためには、偏光板の透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0207】
偏光膜と光学異方性層、あるいは、偏光膜と配向膜を、接着剤を介して配置することも可能である。接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基による変性ポリビニルアルコールを含む)やホウ素化合物水溶液を用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。接着剤層の厚みは、乾燥後に0.01〜10μmの範囲にあることが好ましく、0.05〜5μmの範囲にあることが特に好ましい。
【0208】
6−2.偏光膜の製造
偏光膜は、歩留まりの観点から、バインダーを偏光膜の長手方向(MD方向)に対して、10〜80度傾斜して延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。
通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0209】
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸工程は、斜め延伸を含め数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。斜め延伸前に、横あるいは縦に若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度)を行ってもよい。
延伸は、二軸延伸におけるテンター延伸を左右異なる工程で行うことによって実施できる。上記二軸延伸は、通常のフィルム製膜において行われている延伸方法と同様である。二軸延伸では、左右異なる速度によって延伸されるため、延伸前のバインダーフィルムの厚みが左右で異なるようにする必要がある。流延製膜では、ダイにテーパーを付けることにより、バインダー溶液の流量に左右の差をつけることができる。
以上のように、偏光膜のMD方向に対して10〜80度斜め延伸されたバインダーフィルムが製造される。
【0210】
ラビング法では、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されているラビング処理方法を応用することができる。すなわち、膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維を用いて一定方向に擦ることにより配向を得る。一般には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布を用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
ロール自身の真円度、円筒度、振れ(偏芯)がいずれも30μm以下であるラビングロールを用いて実施することが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90°が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。
長尺フィルムをラビング処理する場合は、フィルムを搬送装置により一定張力の状態で1〜100m/minの速度で搬送することが好ましい。ラビングロールは、任意のラビング角度設定のためフィルム進行方向に対し水平方向に回転自在とされることが好ましい。0〜60°の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50°が好ましく、45°が特に好ましい。
【0211】
偏光膜の光学異方性層とは反対側の表面には、ポリマーフィルムを配置する(光学異方性層/偏光膜/ポリマーフィルムの配置とする)ことが好ましい。
ポリマーフィルムは、その最表面が防汚性および耐擦傷性を有する反射防止膜を設けてなることも好ましい。反射防止膜は、従来公知のいずれのものも用いることができる。
【0212】
7.液晶表示装置
以下に、本発明の光学補償シートを利用した液晶表示装置について説明する。
本発明の光学補償シートを使用することにより、視野角が拡大された液晶表示装置を提供することができる。TNモードの液晶セル用光学補償シートは、特開平6−214116号公報、米国特許5583679号、米国特許5646703号各明細書、ドイツ特許公報3911620A1号に記載がある。また、IPSモードまたはFLCモードの液晶セル用光学補償シートは、特開平10−54982号公報に記載がある。さらに、OCBモードまたはHANモードの液晶セル用光学補償シートは、米国特許5805253号明細書および国際公開WO96/37804号公報に記載がある。さらにまた、STNモードの液晶セル用光学補償シートは、特開平9−26572号公報に記載がある。そして、VAモードの液晶セル用光学補償シートは、特許番号第2866372号公報に記載がある。
【0213】
本発明において、前記記載の公報を参考にして各種のモードの液晶セル用光学補償シートを作製することができる。本発明の光学補償シートは、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)モードなど、種々のモードで駆動される液晶セルと組合わせて液晶表示装置に適用できる。本発明の光学補償シートは、TN(Twisted Nematic)モードの液晶表示装置において特に効果がある。
【実施例】
【0214】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0215】
[合成例1] 例示化合物(I―1)の合成
(トリアジン部分(T−1)の合成)
(T−1)は、下記に示すルートにより合成できる。
【0216】
【化52】

【0217】
塩化シアヌル18.4g、アセトン120ml、水360mlの混合溶液(スラリー)に5℃以下にて、2−(2−アミノエトキシ)エチルアミン5.17gのアセトン50ml溶液と、水酸化ナトリウム4.38gの水溶液50mlを2時間かけて同時に滴下した。滴下後、5℃以下に温度を保ちながらさらに2時間撹拌し、ろ過を行った。水、冷エタノール、ヘキサンをかけ、洗いを行い乾燥させて、13.9gの(B−1)を得た。
【0218】
化合物(B−1)1.20g、アニリン1.40gのキシレン溶液40mlを加熱還流下、5時間撹拌した。溶媒を減圧留去し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒を溶離液として用いて精製し、1.6gの(T―1)を得た。
【0219】
(芳香族スルホン酸部分A−1の合成)
(A−1)は下記に示すルートで合成できる。
【0220】
【化53】

【0221】
1,2−ジブロモエタン75.2g、2−(パーフルオロブチル)エタノール96.1g、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド5.90g、へキサン360mlの混合溶液に50%水酸化ナトリウム水溶液240mlを加え、70℃にて6時間攪拌した。反応溶液に濃塩酸280mlを氷冷下加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムにより乾燥後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒を溶離液として用いて精製し、82.0gの(C−1)を得た。
【0222】
(C−1)53.9g、カテコール6.66g、炭酸カリウム33.45g、ジメチルアセトアミド120mlの混合溶液を窒素気流下、100℃にて6時間攪拌した。反応溶液を飽和食塩水200mlに加え、酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒を溶離液として用いて精製し、34.7gの(C−2)を得た。
【0223】
(C−2)31.0g、塩化メチレン190mlの混合溶液に氷冷下、クロロスルホン酸3.5mlを滴下し、室温にて30分間攪拌した。反応溶液を2−ブタノン700mlに加え、水で3回洗浄した。溶媒を減圧留去し、残渣に2−ブタノンを100ml加え、その溶液をトルエン700ml中に滴下した。沈殿をろ別し、へキサンでかけ洗いし、乾燥させ、31.5gの(A−1)を得た。
【0224】
((I−1)の合成)
(T−1)1.5g、(A−1)7.74g、アセトニトリル10mlの混合液(スラリー)を加熱還流させ、均一溶液とした後、氷冷した。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、アセトニトリル8mlを加え、加熱還流させた後氷冷し、デカンテーションにより上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返した後、へキサンを加え、再結晶し、8.2gの(I−1)を得た。
【0225】
[合成例2]例示化合物(I―2)の合成
(トリアジン部分(T−5)の合成)
(T−5)は、下記に示すルートにより合成した。
【0226】
【化54】

【0227】
塩化シアヌル14.8g、アセトン100ml、水300mlの混合溶液(スラリー)に5℃以下にて、1,2−ジ(2−アミノエトキシ)エタン5.92gのアセトン40ml溶液と、水酸化ナトリウム3.52gの水溶液40mlを2時間かけて同時に滴下した。滴下後、5℃以下に温度を保ちながらさらに2時間撹拌し、ろ過を行った。水、冷エタノール、ヘキサンをかけ、洗いを行い乾燥させて12.0gの(B−2)を得た。
【0228】
2−パーフルオロヘキシルエタノール36.4gのTHF溶液300mlに、氷冷下水素化ナトリウム(60%)4.8gを分割投入し、30分撹拌した。2−フルオロ二トロベンゼン14.1gのTHF溶液100mlを滴下し、室温に戻して2時間撹拌した。酢酸エチル、水を加えて分液し、有機層を希塩酸水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し化合物(B−3)の粗製物を得た。
【0229】
還元鉄55.9g、塩化アンモニウム5.4gをイソプロパノール300ml、水60mlに分散し、1時間加熱還流した。これに化合物(B−3)の粗製物を少量ずつ撹拌しながら添加した。さらに1時間加熱還流した後、セライトを通して吸引ろ過した。濾液に酢酸エチル、水を加えて分液し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒から晶析して36.8gの化合物(B−4)を得た。
【0230】
化合物(B−2)1.78g、化合物(B−4)9.12gのキシレン溶液120mlを加熱還流下、2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒を溶離液として用いて精製し、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒から晶析して7.2gの(T−5)を得た。
【0231】
(芳香族スルホン酸部分A−3の合成)
(A−3)は下記に示すルートで合成できる。
【0232】
【化55】

【0233】
1,5−ジブロモペンタン92.0g、2−(パーフルオロブチル)エタノール96.1g、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド5.90g、へキサン360mlの混合溶液に50%水酸化ナトリウム水溶液240mlを加え、70℃にて6時間攪拌した。反応溶液に濃塩酸280mlを氷冷下加え、酢酸エチルで抽出後、飽和食塩水で洗い、硫酸マグネシウムにより乾燥後、溶媒を減圧留去した。残渣を減圧蒸留し(本留:3mmHg、85℃)、90.2gの(C−3)を得た。
【0234】
(C−3)60.0g、カテコール6.66g、炭酸カリウム33.45g、ジメチルアセトアミド120mlの混合溶液を窒素気流下、100℃にて6時間攪拌した。反応溶液を飽和食塩水200mlに加え、酢酸エチルで抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒を溶離液として用いて精製し、38.4gの(C−4)を得た。
【0235】
(C−4)34.79g、塩化メチレン190mlの混合溶液に氷冷下、クロロスルホン酸3.5mlを滴下し、室温にて30分間攪拌した。反応溶液を2−ブタノン700mlに加え、水で3回洗浄した。溶媒を減圧留去し、残渣に2−ブタノンを100ml加え、その溶液をトルエン700ml中に滴下した。沈殿をろ別し、へキサンでかけ洗いし、乾燥させ、36.4gの(A−3)を得た。
【0236】
((I−2)の合成)
(T−5)3.0g、(A−3)1.33g、アセトニトリル15mlの混合液(スラリー)を加熱還流させ、均一溶液とした後、氷冷した。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、アセトニトリル10mlを加え、加熱還流させた後氷冷し、デカンテーションにより上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返した後、へキサンを加え、再結晶し、3.8gの(I−1)を得た。
【0237】
[合成例3]例示化合物(I―5)の合成
(トリアジン部分(T−18)の合成)
(T−18)は、下記に示すルートにより合成できる。
【0238】
【化56】

【0239】
上記合成例2と同様にして、12.0gの(B−2)を得た。
【0240】
化合物(B−2)0.88g、3−(ドデシルオキシ)プロピルアミン2.41gのキシレン溶液30mlを加熱還流下、5時間撹拌した。溶媒を減圧留去し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、酢酸エチル、ヘキサン混合溶媒を溶離液として用いて精製し、2.1gの(T―18)を得た。
【0241】
((I−5)の合成)
(T−18)3.0g、(A−3)8.47g、アセトニトリル20mlの混合液(スラリー)を加熱還流させ、均一溶液とした後、氷冷した。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、アセトニトリル15mlを加え、加熱還流させた後氷冷し、デカンテーションにより上澄み液を除去した。この操作を2回繰り返した後、へキサンを加え、再結晶し、10.5gの(I−5)を得た。
【0242】
[実施例1]
(ポリマー基材の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0243】
セルロースアセテート溶液組成:
酢化度60.9%のセルロースアセテート(リンター) 80質量部
酢化度60.8%のセルロースアセテート(リンター) 20質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 300質量部
メタノール(第2溶媒) 54質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 11質量部
【0244】
ミキシングタンクに、下記のレターデーション上昇剤16質量部、メチレンクロライド80質量部およびメタノール20質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
セルロースアセテート溶液474質量部にレターデーション上昇剤溶液25質量部を混合し、充分に攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、3.5質量部であった。
【0245】
【化57】

【0246】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。バンド上での膜面温度が40℃となってから、1分乾燥し、剥ぎ取った後、140℃の乾燥風で、残留溶剤量が0.3質量%のポリマー基材(PK−1)を製造した。
得られたポリマー基材(PK−1)の幅は1500mmであり、厚さは65μmであった。波長590nmにおけるレターデーション値(Re)をKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、測定したところ、4nmであった。また、波長590nmにおけるレターデーション値(Rth)を測定したところ、78nmであった。
【0247】
(ポリマー基材の表面処理と配向膜の形成)
ポリマー基材(PK−1)を、2.0Nの水酸化カリウム溶液(25℃)に2分間浸漬した後、硫酸で中和し、純水で水洗、乾燥した。表面エネルギーを接触角法により求めたところ、63mN/mであった。
【0248】
作製したPK−1上に、下記の組成の配向膜塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28ml/m2の塗布量で塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。
【0249】
配向膜塗布液組成:
下記の変性ポリビニルアルコール 10質量部
水 371質量部
メタノール 119質量部
グルタルアルデヒド(架橋剤) 0.5質量部
【0250】
【化58】

【0251】
次に、ポリマー基材(PK−1)の遅相軸(波長632.8nmで測定)と平行方向に配向膜にラビング処理を実施した。
【0252】
(光学異方性層の形成)
配向膜上に、
下記のディスコティック液晶性化合物 41.01kg
エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート
(V#360、大阪有機化学(株)製) 4.06kg
一般式(I)の例示化合物: I−1 0.16kg
フッ素系ポリマー(例示化合物: P−67) 0.16kg
セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)
0.08kg
光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製) 1.35kg
増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製) 0.45kg
を、102kgのメチルエチルケトンに溶解して塗布液とし、これを、#3.4のワイヤーバーで塗布した。これを120℃の恒温ゾーンで1分間加熱熟成し、ディスコティック液晶性化合物を配向させた。次に、80℃の雰囲気下で120W/cmの高圧水銀灯を用いて、1分間UV照射し、ディスコティック液晶性化合物を重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学異方性層を形成し、光学補償シート(KH−1)を作製した。
偏光板をクロスニコル配置とし、得られた光学補償シートのムラを観察したところ、正面、および法線から60°まで傾けた方向から見ても、ムラは検出できなかった。
【0253】
【化59】

【0254】
(偏光板の作製)
ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、KH−1(光学補償シート)を偏光子(HF−1)の片側に貼り付けた。また、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(TD−80U:富士写真フィルム(株)製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付けた。
偏光子の透過軸とPK−1の遅相軸とは平行になるように配置した。偏光子の透過軸と上記トリアセチルセルロースフィルムの遅相軸とは、直交するように配置した。このようにして偏光板(HB−1)を作製した。
【0255】
[実施例2〜6]
実施例1で用いた例示化合物の添加を表1の如く変更した以外は、実施例1と同様にして光学補償シートおよび偏光板を作製した。
[比較例1〜4]
実施例1で用いた例示化合物の添加を表1の如く変更した以外は、実施例1と同様にして光学補償シートおよび偏光板を作製した。比較例2〜4で使用した化合物を以下に示す。ここで、I−R−3は本願一般式(I)で表される錯体化合物の芳香族スルホン酸部分(A−1)に相当し、II−R−3は本願一般式(I)で表される錯体化合物のトリアジン部分(T−18)に相当する。
【0256】
【化60】

【0257】
【表2】

【0258】
(TN液晶セルでの評価)
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(AQUOS LC20C1S、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに実施例1で作製した偏光板(HB−1)を、光学補償シート(KH−1)が液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の偏光板の透過軸とは、Oモードとなるように配置した。
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。測定結果を表2に示す。
【0259】
(液晶表示装置パネル上でのムラ評価)
実施例1〜6および比較例1〜4の液晶表示装置の表示パネルを全面中間調に調整し、ムラを評価した。結果を表2に示す。
【0260】
(液晶表示装置パネル上での光学的微細欠陥の評価)
実施例1〜6および比較例1〜4の液晶表示装置の表示パネルを全面中間調に調整し、光学的な微細欠陥を評価した。結果を表2に示す。
【0261】
(液晶性化合部のチルト角評価)
光学補償シートの光学異方性層における液晶性化合物の配向膜近傍のチルト角および空気界面近傍のチルト角は、エリプソメーター(APE−100、島津製作所(株)製)を用いて観察角度を変えてレターデーションを測定し、屈折率楕円体モデルと仮想し、Designing Concepts of the Discotic Negative Birefringence Compensation Films,SID98 DIGEST に記載されている手法で算出した。測定波長は632.8nmであり、結果を表2に示す。
【0262】
(光学補償シートのレターデーション評価)
光学補償シート(KH−1)に対して、KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、観察角度を変えてそれぞれレターデーションを測定した。測定波長は632.8nmであり、結果を表2に示す。
【0263】
【表3】

【0264】
上記表2に示した比較例1の結果からわかるように、配向制御剤を含有していない光学異方性層を有する光学補償シートでは、実施例における加熱熟成(120℃、1分間)では多数のシュリーレン欠陥が消失せず、液晶表示装置として満足な性能が得られない。また、本発明の一般式(I)に当たらない配向制御剤を用いた場合(比較例2〜4)には、加熱熟成において多数のシュリーレン欠陥が消失しない(比較例2)、あるいは、十分なレターデーション値が得られない(比較例3)、或いは、配向速度およびチルト角では問題ないが、微細な光学的欠陥が見られ(比較例4)、いずれも好ましくない。
本発明の例示化合物を光学異方性層に含有する光学補償シートでは、配向速度が速く、液晶性化合物の空気界面におけるチルト角が最適値に制御されているため視野角の拡大に大きく寄与している。特に、セルロースエステルを含有する場合には、空気界面におけるチルト角をより高めることができ、液晶表示装置の視野角拡大がより優れていた。また、フッ素系ポリマーを含有した場合には上視野45°以上で格子状にムラが見られず大型の液晶表示装置に適用する上でより優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される錯体化合物。
一般式(I)
【化1】

(一般式(I)中、Zはp価の連結基を表す。pは2以上の整数を表す。XはNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、複数のXはそれぞれ同じでも異なっても良い。RおよびR’はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、複数のRおよびR’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Arは芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環を表す。Yは単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基を表し、Rfはフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、Wはスルホ基またはカルボキシル基を表し、nは1〜4の整数を表す。複数のRfおよびYはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。qは1〜2pの整数を表す。)
【請求項2】
支持体上に光学異方性層を有し、該光学異方性層が液晶性化合物および下記一般式(I)で表される錯体化合物を含有する光学補償シート。
一般式(I)
【化2】

(一般式(I)中、Zはp価の連結基を表す。pは2以上の整数を表す。XはNRa(Raは水素原子、アルキル基またはアリール基を表す)、O、Sのいずれかを表し、複数のXはそれぞれ同じでも異なっても良い。RおよびR’はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、複数のRおよびR’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Arは芳香族ヘテロ環または芳香族炭化水素環を表す。Yは単結合またはフッ素原子を含まない2価の連結基を表し、Rfはフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、Wはスルホ基またはカルボキシル基を表し、nは1〜4の整数を表す。複数のRfおよびYはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。qは1〜2pの整数を表す。)
【請求項3】
前記光学異方性層がさらにフルオロ脂肪族基含有ポリマーを含有する、請求項2に記載の光学補償シート。
【請求項4】
前記光学異方性層がさらにセルロースエステルを含有する、請求項2または3に記載の光学補償シート。
【請求項5】
前記液晶性化合物が、ディスコティック液晶性化合物である請求項2〜4のいずれかに記載の光学補償シート。
【請求項6】
前記光学異方性層が、ハイブリッド配向した液晶性化合物を含み、かつ、前記ハイブリッド配向が固定された請求項2〜5のいずれかに記載の光学補償シート。
【請求項7】
前記支持体上に配向膜を有する請求項2〜6のいずれかに記載の光学補償シート。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかに記載の光学補償シートを有する液晶表示装置。
【請求項9】
液晶性化合物を水平配向させる工程と、前記液晶性化合物をハイブリッド配向させる工程と、前記ハイブリッド配向状態にある液晶性化合物を固定する工程とを含む請求項2〜8のいずれかに記載の光学補償シートの製造方法。

【公開番号】特開2006−104072(P2006−104072A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289016(P2004−289016)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】