鍛造による素形材の製造方法
【課題】アルミニウム合金などの各種金属素材を用いて鍛造により成形して素形材を得る鍛造による素形材の製造方法を提案する。
【解決手段】素材70に固体潤滑処理を施す工程と、素材70を加熱する工程と、鍛造成形工程と、鍛造成形後の熱処理工程と、を含み、鍛造成形工程が上金型30、下金型40を有して連続運転している鍛造機に素材70を投入し、上金型30への潤滑剤51塗布を上金型30が上死点と下死点の間を移動中に実施し、成形性を低下することなく筒状の形状を後方押出しにより成形するとともに、鍛造成形工程における熱管理と、素材70を加熱する工程及び鍛造成形後熱処理工程におけるプレスタクトに合わせた連続熱処理とにより鍛造機を停止させることなく連続運転し、鍛造により有底の筒状の形状を有する素形材を成形して製造する。
【解決手段】素材70に固体潤滑処理を施す工程と、素材70を加熱する工程と、鍛造成形工程と、鍛造成形後の熱処理工程と、を含み、鍛造成形工程が上金型30、下金型40を有して連続運転している鍛造機に素材70を投入し、上金型30への潤滑剤51塗布を上金型30が上死点と下死点の間を移動中に実施し、成形性を低下することなく筒状の形状を後方押出しにより成形するとともに、鍛造成形工程における熱管理と、素材70を加熱する工程及び鍛造成形後熱処理工程におけるプレスタクトに合わせた連続熱処理とにより鍛造機を停止させることなく連続運転し、鍛造により有底の筒状の形状を有する素形材を成形して製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金などの各種金属素材を用いて鍛造加工により成形して素形材を得る製造方法に関するもので、例えば自動車、二輪車、鉄道車両などの各種車両、或いは船外機や発電機、草刈り機などの動力装置に用いられる内燃機関用ピストンの鍛造に適用される鍛造による素形材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関用ピストンは、図6に示したように、その形状が円筒形ではない4サイクルエンジン用ピストンであり、ピンボス方向の断面においてランド部を有する形状であるため、上金型と下金型を嵌合させて温間鍛造にて成形する際には、鍛造機の下金型に複雑形状であるピンボス部やスカート部を配置して、上金型にて比較的簡単な形状であるヘッド面を成形する方法が一般的で実施されていた。そして、下金型側に複雑形状部分であるピンボス部やスカート部を配置することで、成形された素形材が下金型に安定して残るため、金型からの取出しが安定することや、上金型への付着防止機構を設ける必要がないという利点があって実施されてきた。
【0003】
しかし、この従来の温間鍛造方法では、以下のような問題を生ずるものであった。
内燃機関用ピストンのように形状が複雑である場合、金型への潤滑剤塗布が少ないと焼き付きが発生して、欠肉などの不良を発生させる。前述のように、ピンボス部やスカート部の複雑形状部分を下金型に配置した場合には、下金型が凹部となるため、この下金型への潤滑剤塗布を下金型の上部より行うことが必須であり、実際のところ回転スプレー装置などにより、下金型の凹部上より潤滑剤を塗布していた。このため、鍛造機の上金型のプレス稼働を、潤滑剤を塗布する間、上死点にて停止させていた。そして、この場合、上死点での停止時間は、スプレーノズルの挿入時間、スプレー塗布時間、スプレーノズルの退避時間などの合計となっていた。その結果、鍛造機の運転が断続的となり、一般的に生産性が1/3以下へ低下するものであった。
【0004】
この鍛造時に、スプレーノズルを用いて潤滑剤を金型に塗布する方法としては、例えば本願出願人が提案した特許文献1に提案されており、アルミニウム合金の鍛造において、良好な噴霧状態で潤滑剤を塗布し、潤滑不具合(例えば未乾燥部、皮膜未形成部、潤滑剤たまりなどの発生)を防止することを目的として、噴霧用圧縮空気用吐出口と潤滑剤用吐出口が同心的に配置された潤滑剤塗布用ノズル、または噴霧用圧縮空気用吐出口を潤滑剤用吐出口の外側に配置することを特徴とする潤滑剤塗布用ノズル、該ノズルを有する潤滑剤塗布装置、鍛造装置及び該装置を用いる潤滑剤塗布方法、鍛造方法が開示されている。
【0005】
ところで、冷間鍛造では、温間鍛造とは異なり、鍛造機を停止させることなく、プレス回転中に素材の投入及び排出を実施するプレス連続運転が実施されており、高い生産性を誇っている。冷間鍛造では、製品形状がシンプルであることから、ボンデ処理と呼ばれる潤滑皮膜処理のみで鍛造が可能であり、金型への潤滑剤塗布を実施していないため、容易に連続運転が可能となっている。
また、従来からの鋳造によるピストンの製造は生産性が低い。従来技術として、金型重力鋳造による製造方法があるが、「離型剤塗布→金型閉→注湯→凝固→金型開→製品取り出し→押し湯切断」の合計6つのプロセスが1サイクルとして必要であって、製造に長い時間がかかり、生産性が低いものであった。例えば1サイクル2分程度であって、4個取りとすると30秒/個程度となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−321033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、従来は、内燃機関用ピストンを温間鍛造で成形する方法において、金型に潤滑剤塗布処理を実施する間、上死点で鍛造機の上金型を停止させるため、その停止時間があることにより、鍛造機の生産能力が低下していた。
例えば数量を多く生産する内燃機関用ピストンの製造においては、上述の生産性の低さにより、多数の鍛造設備が必要となり、その結果、設備償却費が高くなっていた。また、生産性が低いために、労務費などもコストを押し上げられ、コスト高により、複雑形状の製品の採用が見送られる傾向にあった。
【0008】
そこで、本発明は、鍛造機の連続運転が可能で、高い生産性を有する連続製造(温間鍛造成形)方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、以下のような発明である。
素材を加熱した後、上金型、下金型を有して連続運転している鍛造機に投入し、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点と下死点の間を移動中に実施し、前記潤滑剤塗布による金型温度の低下と、前記素材からの抜熱による前記金型温度の上昇をバランスさせた熱管理を行うことにより、成形性を低下することなく筒状の形状を成形する鍛造成形工程とともに、前記鍛造機のプレスタクトに合わせたピッチ送りで搬送しつつ前記素材を加熱する工程と、前記プレスタクトに同期運転させて実施する鍛造成形後の熱処理工程と、を含み、前記鍛造成形工程における前記熱管理と、前記素材を加熱する工程及び前記鍛造成形後の熱処理工程における前記プレスタクトに合わせた連続熱処理とにより、前記鍛造機を停止させることなく連続して、有底の筒状の形状を有する素形材を鍛造により成形して製造することを特徴とする鍛造による素形材の製造方法。
この鍛造による素形材の製造方法において、切断により素材とする前工程と、前記素材に固体潤滑処理を施す工程と、余肉加工又は仕上げ加工を行う後工程とから選ばれる1又は2以上の工程を、前記プレスタクトに同期させたことを特徴とする鍛造による素形材の製造方法。
また、前記上金型への潤滑剤塗布は、その塗布時間をプレス動作に連動する前記上金型の位置情報に基づいて決定することを特徴とする鍛造による素形材の製造方法。
【0010】
<作用>
以下に、従来技術では鍛造機の連続運転ができなかった理由と、本発明の作用を説明する。
前述のように上金型と下金型を嵌合させて、内燃機関用ピストンを鍛造にて成形する場合、下金型に複雑形状であるピンボス部及びスカート部を配置し、上金型に比較的簡単な形状であるヘッド面を成形する方法が採られていた。この方法では、下金型の凹部に潤滑剤を塗布するために、上金型と下金型の中間付近にスプレー装置を挿入して、スプレーにて下金型凹部に十分な塗布を行っていた。このため、上金型のプレス稼働は上死点にて停止し、その間に潤滑剤塗布装置のスプレーノズルを上金型と下金型の間の空間に挿入し、1秒から3秒程度スプレーを塗布し、塗布完了後に、素材を下金型に投入して、鍛造機を再起動させて成形していた。そのため、この従来の方法によると、プレス停止後、スプレーノズルを挿入する時間、スプレーを塗布する時間、スプレーノズルを退避させる時間などの合計時間以上の間、上死点で停止していなければならず、生産性を大幅に低下させていた。
【0011】
これに対し、本発明では、鍛造機を連続運転(上死点で停止させず、回転(上死点と下死点との往復運動)させ続ける場合)するので、2秒タクト(30spm)以上での生産が可能となる。そのため、上記の従来法で発生していた5秒のロスを抑えることができ、5秒のロスにより発生する生産性の1/3以下への低下を防ぐことができる。
【0012】
より具体的に説明すると、内燃機関用ピストンの鍛造の場合、形状が複雑であるため、金型への潤滑剤塗布が少ないと、焼き付きが発生して、欠肉などの不良を発生させるものであった。そこで、本発明では、(A)素材へ固体潤滑処理を適用することにより金型への必要な潤滑剤塗布量を最小限にとどめること、(B)金型構造を変更して上金型にピンボス部やスカート部を成形する部位を凸形状で配置することにより、金型への潤滑剤の塗布を容易にした。
例えば金型への潤滑剤塗布装置を、上金型と下金型の中間位置であってプレスが下死点状態となっても金型などと緩衝しない位置に配置して、上金型が上昇中や下降中という移動している短時間の塗布を可能とすることにより、温間鍛造により内燃機関用ピストンを成形して製造する場合においても、鍛造機を停止することなく、連続運転にて高い生産性(30spm以上)を可能とした。
【0013】
特に、素材を加熱する工程及び鍛造成形後の熱処理(T6)工程を、鍛造機と同期させる(タクトタイムをあわせる)ことにより、効率のよい連続熱処理を実施することができる。
素材の加熱工程を鍛造機と同期させることにより、鍛造機へ素材を安定して供給することができる。また、熱処理(T6)工程を鍛造機と同期させることにより、熱処理工程へ(成形された)素形材を安定して供給することができる。例えば鍛造機にて成形された素形材の熱管理が不均一であると、成形した素形材が一旦冷却し、再加熱して熱処理したものと、鍛造直後の高温のまま熱処理されるものとは、熱履歴の相違により、変形などの品質差が生じる。
したがって、数量を多く生産する内燃機関用ピストンの製造においては、素材を加熱する工程及び鍛造成形後の熱処理工程を、鍛造機と同期させることが重要である。
【0014】
また、省エネルギーの観点から高温の鍛造品からの熱を利用することにより、金型ヒーターの運転などを低減することができる,という利点もある。すなわち金型の冷却が高温の鍛造品からの熱により防止されるので、鍛造機を連続運転することで金型温度が素材からの抜熱により高温に維持されるため、鍛造開始時を除いて金型温度維持のための金型ヒーターを停止(或いは節約)させることができ、省エネルギーの観点から好ましい状態となる。
ここで、スプレーにより上金型に塗布された潤滑剤は、金型の温度で乾燥する。すなわち潤滑剤の塗布、乾燥により金型温度は低下する。一方、高温の鍛造品からの抜熱により金型の温度は上昇する。丁度この温度がバランスした状態で運転することで、金型温度は一定(例えば200〜280℃。)に保たれることになり、安定した成形状態を得ることができる。
【0015】
さらに、素材を加熱する工程や鍛造成形後の熱処理工程ばかりでなく、前工程の切断や固体潤滑工程も鍛造機と同期していれば、中間仕掛在庫の削減につながるので、より好ましい。また、後工程の余肉加工、仕上げ加工についても同期していれば、中間仕掛在庫の削減につながり、より好ましいが、いずれもバッチ生産をしても、品質や生産性には、影響がほとんどない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば、素材に固体潤滑処理を実施するため、潤滑性能を有した素材となるので、複雑形状の金型に成形する場合でも、少量の潤滑剤塗布処理で鍛造できる。そのため金型移動中の短時間の塗布で充分潤滑効果を得ることができ、素材が金型に焼き付くことを防ぐことができる。また、上金型への潤滑剤塗布を上金型の移動中に短時間で実施できることになるので、従来技術のように鍛造機の上金型を上死点で停止させて潤滑剤塗布を施す必要がなく、鍛造成形を連続的に実施できる。さらに、後方押し出し鍛造であるため、上金型に凸形状で複雑形状であるピンボス部やスカート部を配置でき、短時間の潤滑剤塗布で充分な範囲に塗布が可能となる。
したがって、例えば内燃機関用ピストンのように有底の筒状の形状を有する素形材を、鍛造成形を連続的に実施して、高い生産性で製造することができ、安価な鍛造ピストンが提供できる。
【0017】
また、素材を加熱する工程と熱処理工程が鍛造機と同期している(タクトタイムを合わせている)ので、素材、成形品において中間仕掛在庫の発生がなく、効率的な生産ができる。
そして、連続的に効率よく高い生産性を有する連続鍛造成形を実施して数量の多い円筒状の素形材を製造することができる。
【0018】
また、固体潤滑処理としてボンデ、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜の何れかを施した場合、潤滑性能が高く、高温においても潤滑性を維持するため、内燃機関用ピストンの円筒形状部のような比較的平滑な形状には、金型への潤滑剤塗布なしでも金型への焼きつきは生ずることがなく、その結果、ピンボス部などの複雑形状部分についてのみ極少量の潤滑剤を金型に塗布することで鍛造が可能となるので好ましい。
また、金型温度を150℃〜400℃に加熱制御するので、金型への抜熱が少なく素材温度が下がらないために、成形性の良いまま鍛造が可能となり好ましい。
【0019】
また、アンダーカットとなる溝にメタルが充満したり、ローレット加工部にメタルが食い込んだりするためアンカー効果が期待でき、成形後に上昇する上金型に製品が付着しないで下金型内に製品が留まるため、下金型に配置したノックアウト機構により、安定したタイミングで製品排出が可能となる。その結果、成形品を移動させるために鍛造機に備えられているトランスファーによるチャッキングが安定して実施でき、安定した連続運転が可能となる。
【0020】
また、タクトタイムを合わせるために1個ずつ搬送しての処理であるため、加熱炉を小型とすることができ、連動制御させるのも容易であるので、連続運転へ適用するのに好ましい。
【0021】
また、Siを多量に含むので、低熱膨張かつ耐摩耗性に優れ、こうした特性が要求される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適する。
また、Cu、Cr、Mn、Feを含むので高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適する。
【0022】
なお、Siを多量に含まない場合、鍛造成形性が優れ、鍛造用の用の素形材を連続製造するに適する。
また、Cu、Ni、Mg、Si、Feを含むので、高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストン用の素形材を連続製造するに適する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の内燃機関用ピストン鍛造機を模式的に示す正面図である。
【図2】(a)従来の4サイクル内燃機関用ピストンの斜視図、(b)そのスカート断面図、(c)そのピンボス断面図である。
【図3】本発明における鍛造成形工程に用いる一実施例の鍛造金型の上死点での状態を示す断面図である。
【図4】(a)本発明を適用できる内燃機関用ピストンの斜視図、(b)そのスカート断面図、(c)そのピンボス断面図である。
【図5】図3の鍛造金型の中間点付近でのスプレー中の状態を示す断面図である。
【図6】図3の鍛造金型の下死点での状態を示す断面図である。
【図7】本発明の好適な製造ラインの一例の工程フロー図である。
【図8】本発明における固体潤滑工程の工程フロー図である。
【図9】本発明に適用される加熱炉、鍛造機、連続熱処理炉を模式的に示す斜視図である。
【図10】本発明に用いられる下金型の他の一実施例を示す断面図である。
【図11】本発明に用いられる上金型の他の一実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1には、従来の内燃機関用ピストンの鍛造機10の概略図を示した。
上金型11にヘッド面側を配置しており、下金型12の深い凹部にピンボス部やスカート部を配置している。金型潤滑は、スプレーノズル13を上下金型11,12の間に挿入させて、上死点停止した状態でスプレー実施し、スプレー完了後は、スプレーノズル13が後退した後にプレスが再起動して、成形する。
図中、14は上受圧板、15は下受圧板、16はシャフト、17はスプレー回転装置、18はスプレー前後移動装置である。
【0025】
図2には、従来の鍛造機で鍛造された内燃機関用ピストン20の斜視図、概略断面図を示した。
ピンボス部21横にランド部22がある点が、後述する本発明に適用されるピストン(図4のピストン60)と形状が異なっている。
図中、23はヘッド面、24天井部、25はスカート部、26はリブ部、27はバルブリセスである。
【0026】
このような構成を有する従来の鍛造機10では、前述のように、金型11,12に潤滑剤塗布処理を実施する間、上死点で金型11を停止させるため、その停止時間があることにより、鍛造機10の生産能力が低下するという問題があった。
【0027】
以下に、本発明の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
図3には、本発明における鍛造成形工程に用いる一実施例の金型の上死点での状態を示した。
同図より明らかなように、ピンボス部を含む形状を上金型30で成形するように配置しており、下金型40にて円筒形状部を成形するように成形孔を備えている。なお、上金型ホルダーや下金型ホルダー、ダイセット上下プレートなど金型を鍛造機へ装着するための金型は図示していない。
さらに、上金型30と下金型40に緩衝しない位置に固定されたスプレー50が配置されている。このスプレー50は、上金型30への潤滑剤塗布を実施するものであり、スプレー50の固定金具や潤滑剤の供給機構などは図示していない。
図中、81は受圧板、82はノックピンである。
【0028】
図4には、本発明を適用できる円筒形状のエンジンピストン60の一例を示した。
同図より明らかなように、このピストン60は、4ピストンの形状が円筒状になっており、従来例のピストン20に比較するとランド部22がない点が特徴として挙げられる。
図中、63はヘッド面、64は天井部、65はスカート部、66はリブ部である。
【0029】
図5には、前記図3の金型の中間点付近でのスプレー中の状態を示した。
上金型30が下降中に、固定スプレー50により霧状に噴霧された潤滑剤51がピンボス成形部を中心に塗布されている。固定スプレー50からの噴霧の開始と停止のタイミングは、予め設定したプレスの回転角度から電気的な信号で決めている。
【0030】
図6には、前記図3の金型の成形完了時(下死点)の状態を示した。
上金型30が下金型40に嵌合した閉塞空間に素材70が充満して、金型形状が素材70に転写されて成形されている。成形完了後、上金型30は上昇し、ノックアウトピン82により成形された素形材70は上昇され、トランスファーの爪で捕まれ、排出シュートへ運ばれる。
【0031】
図7には、本発明の一実施例であるアルミニウム合金連続鋳造棒から内燃機関用ピストン完成までの工程フロー図を示した。
ここで最も重要な工程は「鍛造」の内容であるが、図示するように素材を「加熱」する工程及び鍛造成形後熱処理(「T6処理」)工程が鍛造機とタクトタイムを合わせた連続生産ラインとしたので、素材、成形品において中間仕掛在庫の発生がなく、効率的な生産ができる。
【0032】
図8には、三種の固体潤滑工程のフロー図を示した。
同図(a)は、回転ドラム式のボンデ処理ラインを用いて、洗浄工程、脱脂工程、潤滑皮膜処理(化成処理)工程、金属石鹸付着工程を経て、素材にボンデ皮膜が形成される。
同図(b)は、黒鉛・二硫化モリブデンの分散液に、加熱した素材を浸漬し、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜を形成させる。
同図(c)は、黒鉛・二硫化モリブデンの分散液を加熱した素材にスプレーして黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜を形成させる。
【0033】
図9には、本発明の製造方法を実施する製造装置(製造ライン)の一例を模式的に示した。
製造ラインは、素材を加熱する加熱炉91、この加熱炉91から鍛造機93へ素材を供給するシュート92、鍛造機93、この鍛造機93から溶体化炉95へ鍛造品を搬送するコンベア94、溶体化処理炉95、焼き入れ水槽96、水槽から時効炉へ搬送するコンベア97、時効処理炉98から構成されている。
加熱炉91は、丸型炉であって、加熱炉への素材投入用のホッパーなどの供給機は図示していない。鍛造機93は、図示していないが、トランスファー装置が備えてある。溶体化処理炉95及び時効処理炉98は、コンベア式である。
そして、加熱炉91、鍛造機93、熱処理炉95は、鍛造機に同期している。
【0034】
図10には、本発明に用いられる下金型の他の一実施例を概略断面図にて示した。
同図(a)に示す下金型41には、ピストンの円筒状形状を成形する部位にアンダーカット(深さ0.05mmから0.5mm程度、幅2mmから10mm程度のアンダーカット)溝411が設けられ、同図(b)に示す下金型42は、ピストンの円筒状形状を成形する部位に、ローレット加工面421を備えている。
これらの下金型41,42を用いて鍛造成形を行うことにより、円筒外径部に段差や圧痕が生じるが、仕上げ加工時に外径部を切削され、除去されるため製品には影響しない。
【0035】
図11には、本発明に用いられる上金型の他の一実施例を概略断面図にて示した。
この上金型31は、ノックアウト機構を設けた例であり、この上金型31を用いて鍛造成形を行うことにより、素形材が上金型31から離れない場合にノックアウトピン34で押し出す(脱型する)ことができる。
【0036】
本発明に用いられる素材としては、主としてアルミニウム合金であって、特にその組成分率が、Si8〜14質量%、Cu1〜5質量%、Mg0.3〜1.5質量%、Cr0.05〜0.5質量%、Mn0.02〜0.15質量%、Fe0.15〜0.4質量%、及び残部がAlと不可避的不純物である場合、低熱膨張かつ耐摩耗性に優れ、こうした特性が要求される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適している。さらにこの場合、Cu、Cr、Mn、Feを含むので高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適している。
また、特にその組成分率が、Si0.1〜1質量%、Cu1.5〜5質量%、Mg1〜2質量%、Ni0.5〜2.5質量%、Fe0.1〜1.5質量%、及び残部がAlと不可避的不純物である場合、鍛造成形性が優れ、鍛造用の用の素形材を連続製造するに適している。さらに、この場合、Cu、Ni、Mg、Si、Feを含むので、高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストン用の素形材を連続製造するに適している。
なお、アルミニウム合金ばかりでなく、例えば、鉄、マグネシウム、およびこれらを主成分とする合金、真鍮を挙げることができる。
そして、公知の手法に準じて棒状に成形し、それを切断し、固体潤滑処理したものを素材として後述する鍛造成形工程に供する。
上記の素材に予め施す固体潤滑処理は、ボンデ、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜の何れかである。
【0037】
また、本発明に用いられる潤滑剤としては、特にその種類を限定するものではなく、例えば水、灯油、鉱物油等の溶媒(分散媒)に、例えば黒鉛、水ガラス、ステアリン酸亜鉛を溶解又は分散させたものである。その濃度は、1〜20質量%、より好ましくは3〜10質量%とすることが、均一で安定した乾燥状態を得ることができるので好ましい。また、分散の点から添加物を加えるのが好ましい。
潤滑剤の塗布順序の組み合わせは以下のようなものが挙げられる。(1)水性黒鉛、油性黒鉛、(2)油性黒鉛、水性黒鉛、(3)水ガラス系、水性黒鉛、(4)水性黒鉛(黒鉛粒子粗い)、水性黒鉛(黒鉛粒子微細)、(5)油のみ+水性黒鉛、(6)油のみ、水ガラス系、(7)水ガラス系、別の水ガラス系、(8)二硫化モリブデン、油性黒鉛、(9)二硫化モリブデン、水性黒鉛、(10)エマルジョン、油性黒鉛。
【0038】
本発明は、例えば前記図3〜図11の装置を適宜に用いて例えば図7の工程フローのように実施するものである。なお、以下に特記しない工程は、従来と同様に実施することができる。
素材に固体潤滑処理を施す工程については、前記図8に示すとおりであり、ボンデ、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜の何れかを施すことにより、潤滑性能が高く、高温においても潤滑性を維持するため、内燃機関用ピストンの円筒形状部のような比較的平滑な形状には、金型への潤滑剤塗布なしでも金型への焼きつきは生ずることがなく、その結果、ピンボス部などの複雑形状部分についてのみ極少量の潤滑剤を金型に塗布することで鍛造が可能となる。
鍛造成形工程については、金型ヒーターなどを用いてにて金型を150〜400℃に制御することが望ましく、150℃以下であると、金型への抜熱により素材温度が低下して成形性が低下するおそれがある。また、300〜400℃でも、油性であれば塗布可能であり、400℃以上であると金型へ潤滑剤を塗布したときに、はじかれてしまうおそれがあるため、400℃以下が好ましい。そして、このように金型を加熱制御することにより、金型への抜熱が少なく素材温度が下がらないために、成形性の良いまま鍛造が可能となる。
また、鍛造成形工程では、前記図10に示すように、アンダーカット溝411やローレット加工面421を設けることにより、アンカー効果が期待でき、さらに前記図11に示すように、ノックアウト機構(ノックアウトピン34)を設けることにより、より安定したパンチ付着防止が果たされる。
鍛造成形後の熱処理工程は、前記図9に示すように溶体化処理(溶体化炉95)、焼入れ(焼き入れ水槽96)、時効処理(時効処理炉98)を連続して実施するT6処理であり、タクトタイムを合わせるために鍛造品を1個ずつ搬送して処理するものであり、容易に連動制御でき、連続運転への適用に好適である。
【実施例】
【0039】
図7の工程フロー図に示した工程設備を準備して、図3〜図11の装置を適宜に用いて内燃機関用ピストンを素形材とする生産を実施した。
素材として、2種類のアルミニウム合金連続鋳造棒(表1に成分組成を示す合金(1)、表2に成分組成を示す合金(2))Φ35mmを用い、丸鋸切断機にて15.0mm厚さに切断して、鍛造用素材とした。次に、鍛造用素材を回転ドラム式のボンデラインにて固体潤滑皮膜処理を実施した。これらの工程はバッチ式の処理装置によって実施した。
【表1】
【表2】
この素材を加熱するための加熱炉は、ガス燃焼式の大気雰囲気炉を用い、鍛造機のプレスタクトである30個/分に合わせたピッチ送りとして素材を搬送し、その時の炉内雰囲気は440℃に設定した。素材温度を420℃±20℃で鍛造を実施した。
加熱炉と鍛造機の間はシュート及びコンベアによって鍛造機内に設けられたトランスファーのつかみ位置まで搬送した。
加熱された素材を、初期金型温度を250℃に予加熱した図3に示した金型の成形孔に以下のように連続的に投入した。鍛造機のプレスタクトを30回/分に設定して、トランスファー式の連続投入/排出装置を用いて投入して鍛造成形した。
上金型への潤滑処理は、黒鉛系の水系潤滑剤に油性のエマルジョン潤滑剤を配合した処理液を、固定スプレーにより、上金型の下降中に実施した。スプレー装置は、プレス装置の上金型位置の情報(カム角度など)により、塗布時間をプレス動作に連動させて実施した。今回はカム角度10°〜150°までのタイミングでスプレー噴霧を実施した。
鍛造機の製品排出コンベアは、T6処理の溶体化処理炉入り口に接続されている。T6処理は、コンベア式の加熱炉を30個/分(今回の加熱炉は15個並べの並列処理で30秒のピッチ送り)で同期運転させて実施した。
鍛造機を停止することなく、2種の合金とも30spmのタクトタイムの連続運転で素形材の製造ができた。
(1)の合金を素材とした場合には、低熱膨張かつ耐摩耗性に優れ、こうした特性が要求される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適し、Cu、Cr、Mn、Feを含むので高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適していた。
(2)の合金を素材とした場合には、鍛造成形性が優れ、鍛造用の用の素形材を連続製造するに適し、Cu、Ni、Mg、Si、Feを含むので、高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストン用の素形材を連続製造するに適していた。
【0040】
なお、本発明は、鍛造により有底の筒状の形状を有する素形材を成形する製造方法において、固体潤滑処理を施した素材を加熱した後、上金型、下金型を有して連続運転している鍛造機に素材を投入し、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点と下死点の間を移動中に実施し、筒状の形状を後方押出しにより成形する鍛造成形工程を含むことを特徴とする鍛造による素形材の製造方法をはじめ、素材に固体潤滑処理を施す工程と、素材を加熱する工程と、鍛造成形工程と、鍛造成形後の熱処理工程と、を含み、前記鍛造成形工程が上金型、下金型を有して連続運転している鍛造機に素材を投入し、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点と下死点の間を移動中に実施し、筒状の形状を後方押出しにより成形するものであり、素材を加熱する工程及び鍛造成形後熱処理工程が鍛造機とタクトタイムを合わせた連続熱処理であることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、素形材が内燃機関用ピストンであり、固体潤滑処理がボンデ、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜の何れかであり、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点から下金型と嵌合するまでの下降中に、固定されたスプレー装置から噴霧させるものであり、金型温度を150℃〜400℃に加熱温度制御していることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、素形材の複雑な形状を上金型にて成形し、下金型の内壁面にアンダーカットとなる溝やローレット加工が施されていることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、鍛造成形後の熱処理工程が溶体化処理、焼入れ、時効処理を連続して実施するT6処理であり、鍛造品を1個ずつ搬送して処理する工程であることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、素材がアルミニウム合金であって、このアルミニウム合金の組成分率が、Si8〜14質量%、Cu1〜5質量%、Mg0.3〜1.5質量%、Cr0.05〜0.5質量%、Mn0.02〜0.15質量%、Fe0.15〜0.4質量%、及び残部がAlと不可避的不純物であることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、素材がアルミニウム合金であって、このアルミニウム合金の組成分率が、Si0.1〜1質量%、Cu1.5〜5質量%、Mg1〜2質量%、Ni0.5〜2.5質量%、Fe0.1〜1.5質量%、及び残部がAlと不可避的不純物であることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法等を、その範囲として含むものである。
【符号の説明】
【0041】
30 上金型
40 下金型
50 (潤滑剤塗布用)スプレー
60 ピストン
70 素材
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金などの各種金属素材を用いて鍛造加工により成形して素形材を得る製造方法に関するもので、例えば自動車、二輪車、鉄道車両などの各種車両、或いは船外機や発電機、草刈り機などの動力装置に用いられる内燃機関用ピストンの鍛造に適用される鍛造による素形材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関用ピストンは、図6に示したように、その形状が円筒形ではない4サイクルエンジン用ピストンであり、ピンボス方向の断面においてランド部を有する形状であるため、上金型と下金型を嵌合させて温間鍛造にて成形する際には、鍛造機の下金型に複雑形状であるピンボス部やスカート部を配置して、上金型にて比較的簡単な形状であるヘッド面を成形する方法が一般的で実施されていた。そして、下金型側に複雑形状部分であるピンボス部やスカート部を配置することで、成形された素形材が下金型に安定して残るため、金型からの取出しが安定することや、上金型への付着防止機構を設ける必要がないという利点があって実施されてきた。
【0003】
しかし、この従来の温間鍛造方法では、以下のような問題を生ずるものであった。
内燃機関用ピストンのように形状が複雑である場合、金型への潤滑剤塗布が少ないと焼き付きが発生して、欠肉などの不良を発生させる。前述のように、ピンボス部やスカート部の複雑形状部分を下金型に配置した場合には、下金型が凹部となるため、この下金型への潤滑剤塗布を下金型の上部より行うことが必須であり、実際のところ回転スプレー装置などにより、下金型の凹部上より潤滑剤を塗布していた。このため、鍛造機の上金型のプレス稼働を、潤滑剤を塗布する間、上死点にて停止させていた。そして、この場合、上死点での停止時間は、スプレーノズルの挿入時間、スプレー塗布時間、スプレーノズルの退避時間などの合計となっていた。その結果、鍛造機の運転が断続的となり、一般的に生産性が1/3以下へ低下するものであった。
【0004】
この鍛造時に、スプレーノズルを用いて潤滑剤を金型に塗布する方法としては、例えば本願出願人が提案した特許文献1に提案されており、アルミニウム合金の鍛造において、良好な噴霧状態で潤滑剤を塗布し、潤滑不具合(例えば未乾燥部、皮膜未形成部、潤滑剤たまりなどの発生)を防止することを目的として、噴霧用圧縮空気用吐出口と潤滑剤用吐出口が同心的に配置された潤滑剤塗布用ノズル、または噴霧用圧縮空気用吐出口を潤滑剤用吐出口の外側に配置することを特徴とする潤滑剤塗布用ノズル、該ノズルを有する潤滑剤塗布装置、鍛造装置及び該装置を用いる潤滑剤塗布方法、鍛造方法が開示されている。
【0005】
ところで、冷間鍛造では、温間鍛造とは異なり、鍛造機を停止させることなく、プレス回転中に素材の投入及び排出を実施するプレス連続運転が実施されており、高い生産性を誇っている。冷間鍛造では、製品形状がシンプルであることから、ボンデ処理と呼ばれる潤滑皮膜処理のみで鍛造が可能であり、金型への潤滑剤塗布を実施していないため、容易に連続運転が可能となっている。
また、従来からの鋳造によるピストンの製造は生産性が低い。従来技術として、金型重力鋳造による製造方法があるが、「離型剤塗布→金型閉→注湯→凝固→金型開→製品取り出し→押し湯切断」の合計6つのプロセスが1サイクルとして必要であって、製造に長い時間がかかり、生産性が低いものであった。例えば1サイクル2分程度であって、4個取りとすると30秒/個程度となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−321033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、従来は、内燃機関用ピストンを温間鍛造で成形する方法において、金型に潤滑剤塗布処理を実施する間、上死点で鍛造機の上金型を停止させるため、その停止時間があることにより、鍛造機の生産能力が低下していた。
例えば数量を多く生産する内燃機関用ピストンの製造においては、上述の生産性の低さにより、多数の鍛造設備が必要となり、その結果、設備償却費が高くなっていた。また、生産性が低いために、労務費などもコストを押し上げられ、コスト高により、複雑形状の製品の採用が見送られる傾向にあった。
【0008】
そこで、本発明は、鍛造機の連続運転が可能で、高い生産性を有する連続製造(温間鍛造成形)方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、以下のような発明である。
素材を加熱した後、上金型、下金型を有して連続運転している鍛造機に投入し、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点と下死点の間を移動中に実施し、前記潤滑剤塗布による金型温度の低下と、前記素材からの抜熱による前記金型温度の上昇をバランスさせた熱管理を行うことにより、成形性を低下することなく筒状の形状を成形する鍛造成形工程とともに、前記鍛造機のプレスタクトに合わせたピッチ送りで搬送しつつ前記素材を加熱する工程と、前記プレスタクトに同期運転させて実施する鍛造成形後の熱処理工程と、を含み、前記鍛造成形工程における前記熱管理と、前記素材を加熱する工程及び前記鍛造成形後の熱処理工程における前記プレスタクトに合わせた連続熱処理とにより、前記鍛造機を停止させることなく連続して、有底の筒状の形状を有する素形材を鍛造により成形して製造することを特徴とする鍛造による素形材の製造方法。
この鍛造による素形材の製造方法において、切断により素材とする前工程と、前記素材に固体潤滑処理を施す工程と、余肉加工又は仕上げ加工を行う後工程とから選ばれる1又は2以上の工程を、前記プレスタクトに同期させたことを特徴とする鍛造による素形材の製造方法。
また、前記上金型への潤滑剤塗布は、その塗布時間をプレス動作に連動する前記上金型の位置情報に基づいて決定することを特徴とする鍛造による素形材の製造方法。
【0010】
<作用>
以下に、従来技術では鍛造機の連続運転ができなかった理由と、本発明の作用を説明する。
前述のように上金型と下金型を嵌合させて、内燃機関用ピストンを鍛造にて成形する場合、下金型に複雑形状であるピンボス部及びスカート部を配置し、上金型に比較的簡単な形状であるヘッド面を成形する方法が採られていた。この方法では、下金型の凹部に潤滑剤を塗布するために、上金型と下金型の中間付近にスプレー装置を挿入して、スプレーにて下金型凹部に十分な塗布を行っていた。このため、上金型のプレス稼働は上死点にて停止し、その間に潤滑剤塗布装置のスプレーノズルを上金型と下金型の間の空間に挿入し、1秒から3秒程度スプレーを塗布し、塗布完了後に、素材を下金型に投入して、鍛造機を再起動させて成形していた。そのため、この従来の方法によると、プレス停止後、スプレーノズルを挿入する時間、スプレーを塗布する時間、スプレーノズルを退避させる時間などの合計時間以上の間、上死点で停止していなければならず、生産性を大幅に低下させていた。
【0011】
これに対し、本発明では、鍛造機を連続運転(上死点で停止させず、回転(上死点と下死点との往復運動)させ続ける場合)するので、2秒タクト(30spm)以上での生産が可能となる。そのため、上記の従来法で発生していた5秒のロスを抑えることができ、5秒のロスにより発生する生産性の1/3以下への低下を防ぐことができる。
【0012】
より具体的に説明すると、内燃機関用ピストンの鍛造の場合、形状が複雑であるため、金型への潤滑剤塗布が少ないと、焼き付きが発生して、欠肉などの不良を発生させるものであった。そこで、本発明では、(A)素材へ固体潤滑処理を適用することにより金型への必要な潤滑剤塗布量を最小限にとどめること、(B)金型構造を変更して上金型にピンボス部やスカート部を成形する部位を凸形状で配置することにより、金型への潤滑剤の塗布を容易にした。
例えば金型への潤滑剤塗布装置を、上金型と下金型の中間位置であってプレスが下死点状態となっても金型などと緩衝しない位置に配置して、上金型が上昇中や下降中という移動している短時間の塗布を可能とすることにより、温間鍛造により内燃機関用ピストンを成形して製造する場合においても、鍛造機を停止することなく、連続運転にて高い生産性(30spm以上)を可能とした。
【0013】
特に、素材を加熱する工程及び鍛造成形後の熱処理(T6)工程を、鍛造機と同期させる(タクトタイムをあわせる)ことにより、効率のよい連続熱処理を実施することができる。
素材の加熱工程を鍛造機と同期させることにより、鍛造機へ素材を安定して供給することができる。また、熱処理(T6)工程を鍛造機と同期させることにより、熱処理工程へ(成形された)素形材を安定して供給することができる。例えば鍛造機にて成形された素形材の熱管理が不均一であると、成形した素形材が一旦冷却し、再加熱して熱処理したものと、鍛造直後の高温のまま熱処理されるものとは、熱履歴の相違により、変形などの品質差が生じる。
したがって、数量を多く生産する内燃機関用ピストンの製造においては、素材を加熱する工程及び鍛造成形後の熱処理工程を、鍛造機と同期させることが重要である。
【0014】
また、省エネルギーの観点から高温の鍛造品からの熱を利用することにより、金型ヒーターの運転などを低減することができる,という利点もある。すなわち金型の冷却が高温の鍛造品からの熱により防止されるので、鍛造機を連続運転することで金型温度が素材からの抜熱により高温に維持されるため、鍛造開始時を除いて金型温度維持のための金型ヒーターを停止(或いは節約)させることができ、省エネルギーの観点から好ましい状態となる。
ここで、スプレーにより上金型に塗布された潤滑剤は、金型の温度で乾燥する。すなわち潤滑剤の塗布、乾燥により金型温度は低下する。一方、高温の鍛造品からの抜熱により金型の温度は上昇する。丁度この温度がバランスした状態で運転することで、金型温度は一定(例えば200〜280℃。)に保たれることになり、安定した成形状態を得ることができる。
【0015】
さらに、素材を加熱する工程や鍛造成形後の熱処理工程ばかりでなく、前工程の切断や固体潤滑工程も鍛造機と同期していれば、中間仕掛在庫の削減につながるので、より好ましい。また、後工程の余肉加工、仕上げ加工についても同期していれば、中間仕掛在庫の削減につながり、より好ましいが、いずれもバッチ生産をしても、品質や生産性には、影響がほとんどない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば、素材に固体潤滑処理を実施するため、潤滑性能を有した素材となるので、複雑形状の金型に成形する場合でも、少量の潤滑剤塗布処理で鍛造できる。そのため金型移動中の短時間の塗布で充分潤滑効果を得ることができ、素材が金型に焼き付くことを防ぐことができる。また、上金型への潤滑剤塗布を上金型の移動中に短時間で実施できることになるので、従来技術のように鍛造機の上金型を上死点で停止させて潤滑剤塗布を施す必要がなく、鍛造成形を連続的に実施できる。さらに、後方押し出し鍛造であるため、上金型に凸形状で複雑形状であるピンボス部やスカート部を配置でき、短時間の潤滑剤塗布で充分な範囲に塗布が可能となる。
したがって、例えば内燃機関用ピストンのように有底の筒状の形状を有する素形材を、鍛造成形を連続的に実施して、高い生産性で製造することができ、安価な鍛造ピストンが提供できる。
【0017】
また、素材を加熱する工程と熱処理工程が鍛造機と同期している(タクトタイムを合わせている)ので、素材、成形品において中間仕掛在庫の発生がなく、効率的な生産ができる。
そして、連続的に効率よく高い生産性を有する連続鍛造成形を実施して数量の多い円筒状の素形材を製造することができる。
【0018】
また、固体潤滑処理としてボンデ、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜の何れかを施した場合、潤滑性能が高く、高温においても潤滑性を維持するため、内燃機関用ピストンの円筒形状部のような比較的平滑な形状には、金型への潤滑剤塗布なしでも金型への焼きつきは生ずることがなく、その結果、ピンボス部などの複雑形状部分についてのみ極少量の潤滑剤を金型に塗布することで鍛造が可能となるので好ましい。
また、金型温度を150℃〜400℃に加熱制御するので、金型への抜熱が少なく素材温度が下がらないために、成形性の良いまま鍛造が可能となり好ましい。
【0019】
また、アンダーカットとなる溝にメタルが充満したり、ローレット加工部にメタルが食い込んだりするためアンカー効果が期待でき、成形後に上昇する上金型に製品が付着しないで下金型内に製品が留まるため、下金型に配置したノックアウト機構により、安定したタイミングで製品排出が可能となる。その結果、成形品を移動させるために鍛造機に備えられているトランスファーによるチャッキングが安定して実施でき、安定した連続運転が可能となる。
【0020】
また、タクトタイムを合わせるために1個ずつ搬送しての処理であるため、加熱炉を小型とすることができ、連動制御させるのも容易であるので、連続運転へ適用するのに好ましい。
【0021】
また、Siを多量に含むので、低熱膨張かつ耐摩耗性に優れ、こうした特性が要求される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適する。
また、Cu、Cr、Mn、Feを含むので高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適する。
【0022】
なお、Siを多量に含まない場合、鍛造成形性が優れ、鍛造用の用の素形材を連続製造するに適する。
また、Cu、Ni、Mg、Si、Feを含むので、高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストン用の素形材を連続製造するに適する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来の内燃機関用ピストン鍛造機を模式的に示す正面図である。
【図2】(a)従来の4サイクル内燃機関用ピストンの斜視図、(b)そのスカート断面図、(c)そのピンボス断面図である。
【図3】本発明における鍛造成形工程に用いる一実施例の鍛造金型の上死点での状態を示す断面図である。
【図4】(a)本発明を適用できる内燃機関用ピストンの斜視図、(b)そのスカート断面図、(c)そのピンボス断面図である。
【図5】図3の鍛造金型の中間点付近でのスプレー中の状態を示す断面図である。
【図6】図3の鍛造金型の下死点での状態を示す断面図である。
【図7】本発明の好適な製造ラインの一例の工程フロー図である。
【図8】本発明における固体潤滑工程の工程フロー図である。
【図9】本発明に適用される加熱炉、鍛造機、連続熱処理炉を模式的に示す斜視図である。
【図10】本発明に用いられる下金型の他の一実施例を示す断面図である。
【図11】本発明に用いられる上金型の他の一実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1には、従来の内燃機関用ピストンの鍛造機10の概略図を示した。
上金型11にヘッド面側を配置しており、下金型12の深い凹部にピンボス部やスカート部を配置している。金型潤滑は、スプレーノズル13を上下金型11,12の間に挿入させて、上死点停止した状態でスプレー実施し、スプレー完了後は、スプレーノズル13が後退した後にプレスが再起動して、成形する。
図中、14は上受圧板、15は下受圧板、16はシャフト、17はスプレー回転装置、18はスプレー前後移動装置である。
【0025】
図2には、従来の鍛造機で鍛造された内燃機関用ピストン20の斜視図、概略断面図を示した。
ピンボス部21横にランド部22がある点が、後述する本発明に適用されるピストン(図4のピストン60)と形状が異なっている。
図中、23はヘッド面、24天井部、25はスカート部、26はリブ部、27はバルブリセスである。
【0026】
このような構成を有する従来の鍛造機10では、前述のように、金型11,12に潤滑剤塗布処理を実施する間、上死点で金型11を停止させるため、その停止時間があることにより、鍛造機10の生産能力が低下するという問題があった。
【0027】
以下に、本発明の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
図3には、本発明における鍛造成形工程に用いる一実施例の金型の上死点での状態を示した。
同図より明らかなように、ピンボス部を含む形状を上金型30で成形するように配置しており、下金型40にて円筒形状部を成形するように成形孔を備えている。なお、上金型ホルダーや下金型ホルダー、ダイセット上下プレートなど金型を鍛造機へ装着するための金型は図示していない。
さらに、上金型30と下金型40に緩衝しない位置に固定されたスプレー50が配置されている。このスプレー50は、上金型30への潤滑剤塗布を実施するものであり、スプレー50の固定金具や潤滑剤の供給機構などは図示していない。
図中、81は受圧板、82はノックピンである。
【0028】
図4には、本発明を適用できる円筒形状のエンジンピストン60の一例を示した。
同図より明らかなように、このピストン60は、4ピストンの形状が円筒状になっており、従来例のピストン20に比較するとランド部22がない点が特徴として挙げられる。
図中、63はヘッド面、64は天井部、65はスカート部、66はリブ部である。
【0029】
図5には、前記図3の金型の中間点付近でのスプレー中の状態を示した。
上金型30が下降中に、固定スプレー50により霧状に噴霧された潤滑剤51がピンボス成形部を中心に塗布されている。固定スプレー50からの噴霧の開始と停止のタイミングは、予め設定したプレスの回転角度から電気的な信号で決めている。
【0030】
図6には、前記図3の金型の成形完了時(下死点)の状態を示した。
上金型30が下金型40に嵌合した閉塞空間に素材70が充満して、金型形状が素材70に転写されて成形されている。成形完了後、上金型30は上昇し、ノックアウトピン82により成形された素形材70は上昇され、トランスファーの爪で捕まれ、排出シュートへ運ばれる。
【0031】
図7には、本発明の一実施例であるアルミニウム合金連続鋳造棒から内燃機関用ピストン完成までの工程フロー図を示した。
ここで最も重要な工程は「鍛造」の内容であるが、図示するように素材を「加熱」する工程及び鍛造成形後熱処理(「T6処理」)工程が鍛造機とタクトタイムを合わせた連続生産ラインとしたので、素材、成形品において中間仕掛在庫の発生がなく、効率的な生産ができる。
【0032】
図8には、三種の固体潤滑工程のフロー図を示した。
同図(a)は、回転ドラム式のボンデ処理ラインを用いて、洗浄工程、脱脂工程、潤滑皮膜処理(化成処理)工程、金属石鹸付着工程を経て、素材にボンデ皮膜が形成される。
同図(b)は、黒鉛・二硫化モリブデンの分散液に、加熱した素材を浸漬し、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜を形成させる。
同図(c)は、黒鉛・二硫化モリブデンの分散液を加熱した素材にスプレーして黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜を形成させる。
【0033】
図9には、本発明の製造方法を実施する製造装置(製造ライン)の一例を模式的に示した。
製造ラインは、素材を加熱する加熱炉91、この加熱炉91から鍛造機93へ素材を供給するシュート92、鍛造機93、この鍛造機93から溶体化炉95へ鍛造品を搬送するコンベア94、溶体化処理炉95、焼き入れ水槽96、水槽から時効炉へ搬送するコンベア97、時効処理炉98から構成されている。
加熱炉91は、丸型炉であって、加熱炉への素材投入用のホッパーなどの供給機は図示していない。鍛造機93は、図示していないが、トランスファー装置が備えてある。溶体化処理炉95及び時効処理炉98は、コンベア式である。
そして、加熱炉91、鍛造機93、熱処理炉95は、鍛造機に同期している。
【0034】
図10には、本発明に用いられる下金型の他の一実施例を概略断面図にて示した。
同図(a)に示す下金型41には、ピストンの円筒状形状を成形する部位にアンダーカット(深さ0.05mmから0.5mm程度、幅2mmから10mm程度のアンダーカット)溝411が設けられ、同図(b)に示す下金型42は、ピストンの円筒状形状を成形する部位に、ローレット加工面421を備えている。
これらの下金型41,42を用いて鍛造成形を行うことにより、円筒外径部に段差や圧痕が生じるが、仕上げ加工時に外径部を切削され、除去されるため製品には影響しない。
【0035】
図11には、本発明に用いられる上金型の他の一実施例を概略断面図にて示した。
この上金型31は、ノックアウト機構を設けた例であり、この上金型31を用いて鍛造成形を行うことにより、素形材が上金型31から離れない場合にノックアウトピン34で押し出す(脱型する)ことができる。
【0036】
本発明に用いられる素材としては、主としてアルミニウム合金であって、特にその組成分率が、Si8〜14質量%、Cu1〜5質量%、Mg0.3〜1.5質量%、Cr0.05〜0.5質量%、Mn0.02〜0.15質量%、Fe0.15〜0.4質量%、及び残部がAlと不可避的不純物である場合、低熱膨張かつ耐摩耗性に優れ、こうした特性が要求される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適している。さらにこの場合、Cu、Cr、Mn、Feを含むので高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適している。
また、特にその組成分率が、Si0.1〜1質量%、Cu1.5〜5質量%、Mg1〜2質量%、Ni0.5〜2.5質量%、Fe0.1〜1.5質量%、及び残部がAlと不可避的不純物である場合、鍛造成形性が優れ、鍛造用の用の素形材を連続製造するに適している。さらに、この場合、Cu、Ni、Mg、Si、Feを含むので、高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストン用の素形材を連続製造するに適している。
なお、アルミニウム合金ばかりでなく、例えば、鉄、マグネシウム、およびこれらを主成分とする合金、真鍮を挙げることができる。
そして、公知の手法に準じて棒状に成形し、それを切断し、固体潤滑処理したものを素材として後述する鍛造成形工程に供する。
上記の素材に予め施す固体潤滑処理は、ボンデ、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜の何れかである。
【0037】
また、本発明に用いられる潤滑剤としては、特にその種類を限定するものではなく、例えば水、灯油、鉱物油等の溶媒(分散媒)に、例えば黒鉛、水ガラス、ステアリン酸亜鉛を溶解又は分散させたものである。その濃度は、1〜20質量%、より好ましくは3〜10質量%とすることが、均一で安定した乾燥状態を得ることができるので好ましい。また、分散の点から添加物を加えるのが好ましい。
潤滑剤の塗布順序の組み合わせは以下のようなものが挙げられる。(1)水性黒鉛、油性黒鉛、(2)油性黒鉛、水性黒鉛、(3)水ガラス系、水性黒鉛、(4)水性黒鉛(黒鉛粒子粗い)、水性黒鉛(黒鉛粒子微細)、(5)油のみ+水性黒鉛、(6)油のみ、水ガラス系、(7)水ガラス系、別の水ガラス系、(8)二硫化モリブデン、油性黒鉛、(9)二硫化モリブデン、水性黒鉛、(10)エマルジョン、油性黒鉛。
【0038】
本発明は、例えば前記図3〜図11の装置を適宜に用いて例えば図7の工程フローのように実施するものである。なお、以下に特記しない工程は、従来と同様に実施することができる。
素材に固体潤滑処理を施す工程については、前記図8に示すとおりであり、ボンデ、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜の何れかを施すことにより、潤滑性能が高く、高温においても潤滑性を維持するため、内燃機関用ピストンの円筒形状部のような比較的平滑な形状には、金型への潤滑剤塗布なしでも金型への焼きつきは生ずることがなく、その結果、ピンボス部などの複雑形状部分についてのみ極少量の潤滑剤を金型に塗布することで鍛造が可能となる。
鍛造成形工程については、金型ヒーターなどを用いてにて金型を150〜400℃に制御することが望ましく、150℃以下であると、金型への抜熱により素材温度が低下して成形性が低下するおそれがある。また、300〜400℃でも、油性であれば塗布可能であり、400℃以上であると金型へ潤滑剤を塗布したときに、はじかれてしまうおそれがあるため、400℃以下が好ましい。そして、このように金型を加熱制御することにより、金型への抜熱が少なく素材温度が下がらないために、成形性の良いまま鍛造が可能となる。
また、鍛造成形工程では、前記図10に示すように、アンダーカット溝411やローレット加工面421を設けることにより、アンカー効果が期待でき、さらに前記図11に示すように、ノックアウト機構(ノックアウトピン34)を設けることにより、より安定したパンチ付着防止が果たされる。
鍛造成形後の熱処理工程は、前記図9に示すように溶体化処理(溶体化炉95)、焼入れ(焼き入れ水槽96)、時効処理(時効処理炉98)を連続して実施するT6処理であり、タクトタイムを合わせるために鍛造品を1個ずつ搬送して処理するものであり、容易に連動制御でき、連続運転への適用に好適である。
【実施例】
【0039】
図7の工程フロー図に示した工程設備を準備して、図3〜図11の装置を適宜に用いて内燃機関用ピストンを素形材とする生産を実施した。
素材として、2種類のアルミニウム合金連続鋳造棒(表1に成分組成を示す合金(1)、表2に成分組成を示す合金(2))Φ35mmを用い、丸鋸切断機にて15.0mm厚さに切断して、鍛造用素材とした。次に、鍛造用素材を回転ドラム式のボンデラインにて固体潤滑皮膜処理を実施した。これらの工程はバッチ式の処理装置によって実施した。
【表1】
【表2】
この素材を加熱するための加熱炉は、ガス燃焼式の大気雰囲気炉を用い、鍛造機のプレスタクトである30個/分に合わせたピッチ送りとして素材を搬送し、その時の炉内雰囲気は440℃に設定した。素材温度を420℃±20℃で鍛造を実施した。
加熱炉と鍛造機の間はシュート及びコンベアによって鍛造機内に設けられたトランスファーのつかみ位置まで搬送した。
加熱された素材を、初期金型温度を250℃に予加熱した図3に示した金型の成形孔に以下のように連続的に投入した。鍛造機のプレスタクトを30回/分に設定して、トランスファー式の連続投入/排出装置を用いて投入して鍛造成形した。
上金型への潤滑処理は、黒鉛系の水系潤滑剤に油性のエマルジョン潤滑剤を配合した処理液を、固定スプレーにより、上金型の下降中に実施した。スプレー装置は、プレス装置の上金型位置の情報(カム角度など)により、塗布時間をプレス動作に連動させて実施した。今回はカム角度10°〜150°までのタイミングでスプレー噴霧を実施した。
鍛造機の製品排出コンベアは、T6処理の溶体化処理炉入り口に接続されている。T6処理は、コンベア式の加熱炉を30個/分(今回の加熱炉は15個並べの並列処理で30秒のピッチ送り)で同期運転させて実施した。
鍛造機を停止することなく、2種の合金とも30spmのタクトタイムの連続運転で素形材の製造ができた。
(1)の合金を素材とした場合には、低熱膨張かつ耐摩耗性に優れ、こうした特性が要求される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適し、Cu、Cr、Mn、Feを含むので高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストンとして用いられる素形材を連続製造するに適していた。
(2)の合金を素材とした場合には、鍛造成形性が優れ、鍛造用の用の素形材を連続製造するに適し、Cu、Ni、Mg、Si、Feを含むので、高温強度が優れ、高温で使用される内燃機関用ピストン用の素形材を連続製造するに適していた。
【0040】
なお、本発明は、鍛造により有底の筒状の形状を有する素形材を成形する製造方法において、固体潤滑処理を施した素材を加熱した後、上金型、下金型を有して連続運転している鍛造機に素材を投入し、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点と下死点の間を移動中に実施し、筒状の形状を後方押出しにより成形する鍛造成形工程を含むことを特徴とする鍛造による素形材の製造方法をはじめ、素材に固体潤滑処理を施す工程と、素材を加熱する工程と、鍛造成形工程と、鍛造成形後の熱処理工程と、を含み、前記鍛造成形工程が上金型、下金型を有して連続運転している鍛造機に素材を投入し、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点と下死点の間を移動中に実施し、筒状の形状を後方押出しにより成形するものであり、素材を加熱する工程及び鍛造成形後熱処理工程が鍛造機とタクトタイムを合わせた連続熱処理であることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、素形材が内燃機関用ピストンであり、固体潤滑処理がボンデ、黒鉛皮膜、二硫化モリブデン皮膜の何れかであり、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点から下金型と嵌合するまでの下降中に、固定されたスプレー装置から噴霧させるものであり、金型温度を150℃〜400℃に加熱温度制御していることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、素形材の複雑な形状を上金型にて成形し、下金型の内壁面にアンダーカットとなる溝やローレット加工が施されていることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、鍛造成形後の熱処理工程が溶体化処理、焼入れ、時効処理を連続して実施するT6処理であり、鍛造品を1個ずつ搬送して処理する工程であることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、素材がアルミニウム合金であって、このアルミニウム合金の組成分率が、Si8〜14質量%、Cu1〜5質量%、Mg0.3〜1.5質量%、Cr0.05〜0.5質量%、Mn0.02〜0.15質量%、Fe0.15〜0.4質量%、及び残部がAlと不可避的不純物であることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法、素材がアルミニウム合金であって、このアルミニウム合金の組成分率が、Si0.1〜1質量%、Cu1.5〜5質量%、Mg1〜2質量%、Ni0.5〜2.5質量%、Fe0.1〜1.5質量%、及び残部がAlと不可避的不純物であることを特徴とする鍛造による素形材の製造方法等を、その範囲として含むものである。
【符号の説明】
【0041】
30 上金型
40 下金型
50 (潤滑剤塗布用)スプレー
60 ピストン
70 素材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材を加熱した後、上金型、下金型を有して連続運転している鍛造機に投入し、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点と下死点の間を移動中に実施し、前記潤滑剤塗布による金型温度の低下と、前記素材からの抜熱による前記金型温度の上昇をバランスさせた熱管理を行うことにより、成形性を低下することなく筒状の形状を成形する鍛造成形工程とともに、
前記鍛造機のプレスタクトに合わせたピッチ送りで搬送しつつ前記素材を加熱する工程と、
前記プレスタクトに同期運転させて実施する鍛造成形後の熱処理工程と、を含み、
前記鍛造成形工程における前記熱管理と、前記素材を加熱する工程及び前記鍛造成形後の熱処理工程における前記プレスタクトに合わせた連続熱処理とにより、前記鍛造機を停止させることなく連続して、有底の筒状の形状を有する素形材を鍛造により成形して製造する、
ことを特徴とする鍛造による素形材の製造方法。
【請求項2】
切断により素材とする前工程と、前記素材に固体潤滑処理を施す工程と、余肉加工又は仕上げ加工を行う後工程とから選ばれる1又は2以上の工程を、前記プレスタクトに同期させた、
ことを特徴とする請求項1に記載の鍛造による素形材の製造方法。
【請求項3】
前記上金型への潤滑剤塗布は、その塗布時間をプレス動作に連動する前記上金型の位置情報に基づいて決定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鍛造による素形材の製造方法。
【請求項1】
素材を加熱した後、上金型、下金型を有して連続運転している鍛造機に投入し、上金型への潤滑剤塗布を上金型が上死点と下死点の間を移動中に実施し、前記潤滑剤塗布による金型温度の低下と、前記素材からの抜熱による前記金型温度の上昇をバランスさせた熱管理を行うことにより、成形性を低下することなく筒状の形状を成形する鍛造成形工程とともに、
前記鍛造機のプレスタクトに合わせたピッチ送りで搬送しつつ前記素材を加熱する工程と、
前記プレスタクトに同期運転させて実施する鍛造成形後の熱処理工程と、を含み、
前記鍛造成形工程における前記熱管理と、前記素材を加熱する工程及び前記鍛造成形後の熱処理工程における前記プレスタクトに合わせた連続熱処理とにより、前記鍛造機を停止させることなく連続して、有底の筒状の形状を有する素形材を鍛造により成形して製造する、
ことを特徴とする鍛造による素形材の製造方法。
【請求項2】
切断により素材とする前工程と、前記素材に固体潤滑処理を施す工程と、余肉加工又は仕上げ加工を行う後工程とから選ばれる1又は2以上の工程を、前記プレスタクトに同期させた、
ことを特徴とする請求項1に記載の鍛造による素形材の製造方法。
【請求項3】
前記上金型への潤滑剤塗布は、その塗布時間をプレス動作に連動する前記上金型の位置情報に基づいて決定する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鍛造による素形材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−35327(P2012−35327A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257212(P2011−257212)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【分割の表示】特願2005−348808(P2005−348808)の分割
【原出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【分割の表示】特願2005−348808(P2005−348808)の分割
【原出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】
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