説明

鍵盤楽器および運指データの記録方法

【課題】 演奏者の演奏の円滑性を損なうことなく、精度良く運指データを取得することができる鍵盤楽器を提供する。
【解決手段】 非接触に情報の書き込みおよび読み取りが可能なRFIDタグを、鍵盤楽器の演奏者の各指の爪に固定する。鍵盤楽器は、各鍵の近傍のRFIDタグとの間で非接触通信を行うリーダライタ72を有している。鍵盤楽器におけるCPU1は、初期設定処理において、このリーダライタ72により、所定の鍵を押下している指に固定されたRFIDタグに固有の識別情報を書き込む。そして、演奏者による鍵盤楽器の演奏時、CPU1は、鍵盤楽器において操作されている鍵の近傍のRFIDタグの識別情報をリーダライタ72により読み取り、当該鍵を操作している指を表す運指データをRAM3に書き込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器および運指データの記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍵盤演奏の際に発生する押鍵、離鍵などの操作イベントを検出するとともに、各鍵がどの指で操作されているかを検出し、運指データとして記録する技術が各種提案されている。例えば特許文献1に開示された技術では、演奏者は、指先に指電極の設けられた演奏用手袋を手に装着して、鍵盤電子楽器の演奏を行う。この鍵盤電子楽器の各鍵には鍵電極が設けられている。鍵盤演奏時、ユーザがある指である鍵を押下すると、演奏用手袋における当該指の指電極と押下鍵の鍵電極とが導通し、これにより、どの鍵がどの指により押下されたかが検出される。また、特許文献2に開示された技術では、演奏者の両手指全体および指先をそれぞれ撮像し、これにより得られる運指画像および指先画像にそれぞれ画像認識処理を施す。そして、運指画像から演奏者の両手指を各々識別するとともに、どの鍵が操作されているかを抽出し、指先画像から鍵操作をしている指を抽出する。
【特許文献1】特開平5−11755号公報
【特許文献2】特開2002−215139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した特許文献1に開示の技術は、運指データを得るための鍵盤演奏の際、演奏者は演奏用手袋を両手に装着しなければならず、円滑な鍵盤演奏を行うのが困難であるという問題があった。また、この特許文献1の技術において、鍵盤電子楽器と演奏用手袋との間には、指電極からの電気信号を鍵盤電子楽器内の回路に伝送するための導線が介在しており、この導線が鍵盤演奏の邪魔になるという問題があった。さらに、特許文献1に開示の技術は、鍵盤演奏時、演奏者の指と鍵との間に指電極が挟まり、これも演奏の邪魔になるという問題があった。また、特許文献2に開示の技術は、画像処理により押鍵操作をした指を判断するので、演奏時に演奏者に違和感を与えることはないが、画像処理では指の検出精度を得るのが困難であるという問題がある。
【0004】
この発明は、以上説明した事情に鑑みてなされたものであり、演奏者の演奏の円滑性を損なうことなく、精度良く運指データを取得することができる鍵盤楽器および運指データの記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明では、非接触に情報の書き込みおよび読み取りが可能なタグを、鍵盤楽器の演奏者の各指の先端部分に固定し、各指に固定された各タグに対し、各指に固有の識別情報を書き込む。好ましい態様において、鍵盤楽器は、各鍵の近傍のタグとの間で非接触通信を行う非接触通信手段を有している。鍵盤楽器における制御手段は、初期設定処理において、この非接触通信手段により、所定の鍵を押下している指に固定されたタグに固有の識別情報を書き込む。そして、演奏者による鍵盤楽器の演奏時、鍵盤楽器における制御手段は、鍵盤楽器において操作されている鍵の近傍のタグの識別情報を非接触通信手段により読み取り、当該鍵を操作している指を表す運指データを記憶手段に書き込む。
かかる発明によれば、演奏者の演奏の円滑性を損なうことなく、精度良く運指データを取得し、記憶手段に記録することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、この発明の一実施形態である鍵盤楽器の構成を示すブロック図である。図1において、CPU1は、この鍵盤楽器の各部を制御する装置である。ROM2は、CPU1により実行される各種の制御プログラムや同プログラムの実行時に参照される各種の制御データを記憶した読み出し専用メモリである。RAM3は、CPU1によりワークエリアとして使用される。ユーザインタフェース4は、液晶ディスプレイなどによる表示部と各種の操作スイッチが配備された操作パネルとにより構成されている。CPU1は、このユーザインタフェース4を介して各種の案内情報をユーザに提供するとともに、ユーザから各種のコマンドを受け取る。音源5は、CPU1による制御の下、楽音信号を形成する装置である。この音源5により形成された楽音信号は、サウンドシステム6により楽音として出力される。鍵盤7は、キースイッチ回路71と、リーダライタ72とを有している。
【0007】
図2は、鍵盤7およびこの鍵盤7の操作を行うユーザの手を例示する平面図である。また、図3は図2のI−I’線断面図である。図2に示すように、鍵盤7は、通常の鍵盤楽器と同様、横一列に配列された複数の白鍵73および黒鍵74を有する。図3に示すように、鍵盤7における各鍵の下方には、図1におけるキースイッチ回路71を構成するスイッチ部77が設けられている。好ましい態様において、1個の鍵に対応したスイッチ部77は、鍵の下部に設けられた可動部76が第1および第2の高度位置を通過する各タイミングにおいて第1および第2の検出信号を出力する。CPU1は、このスイッチ部77から出力される第1および第2の検出信号を監視することにより、各鍵のキーオンイベントまたはキーオフイベントの発生を検知するとともに、キーオンの際の押鍵速度を検知する。そして、CPU1は、キーオンイベント、キーオフイベントに応じて、音源5による楽音信号の形成処理を制御する。
【0008】
また、本実施形態に係る鍵盤楽器は、キーオンイベント、キーオフイベントといった情報の他に、押鍵を行った指に関する情報を含む演奏データの記録を行うことができる。以下、この演奏データの記録のために設けられた装置の構成を説明する。まず、本実施形態では、演奏記録を望むユーザは、演奏に先立って、10個のRFIDタグ8を図2に示すように自分の10本の指の爪に接着剤などにより貼り付ける。一方、鍵盤7の各鍵73、74の表面の近傍には、図3に示すようにアンテナ75が埋め込まれている。図1におけるリーダライタ72は、CPU1による制御の下、これらのアンテナ75を介して、ユーザの指の爪に固定されたRFIDタグ8との間で非接触通信を行い、RFIDタグ8に対する情報の書き込み、RFIDタグ8からの情報の読み取りを行う装置である。本実施形態において、1個の鍵に埋め込まれたアンテナ75の通信可能圏は、図4において破線78で例示するように、その鍵の上方にある比較的狭い範囲に限定されている。従って、リーダライタ72がある鍵のアンテナ75を介して非接触通信を行うことが可能なのは、その鍵を操作している指に固定されたRFIDタグ8のみであり、他の鍵を操作している指に固定されたRFIDタグと非接触通信を行うことはない。
【0009】
本実施形態においてCPU1は、演奏記録に先立ち、ユーザインタフェース4を介して与えられるコマンドに従い、初期設定処理を行う。この初期設定処理では、ユーザの10本の指の爪に貼り付けられた10個のRFIDタグ8に対し、各々が固定された指の識別情報である指番号を書き込む。さらに詳述すると、初期設定処理においてユーザは、図2に示すキーコードC4、D4、E4、F4、G4の各鍵を右手の親指、人差し指、中指、薬指、小指により各々押下し、キーコードB3、A3、G3、F3、E3の各鍵を左手の親指、人差し指、中指、薬指、小指により各々押下する。初期設定処理では、この各鍵の押下の際、ある鍵が押下されたときには、その押下された鍵を判定し、その鍵に設けられたアンテナ75によりその鍵を押下している指の爪に固定されたRFIDタグ8にその指を表す指番号を書き込むのである。そして、運指データの記録の際には、CPU1は、キーオンイベントが検知される度に、リーダライタ72により、そのキーオンイベントの発生元である鍵を押下している指に固定されたRFIDタグ8から指番号を読み取り、演奏データの一要素である運指データを生成するのである。
【0010】
次に本実施形態の動作について説明する。ユーザインタフェース4を介して初期設定処理を指示するコマンドが入力されると、CPU1は、図5に示すルーチンを実行する。まず、CPU1は、10本の指に対応した初期設定フラグFLG(k)(k=1〜10)の内容を全て“0”に設定する(ステップS101)。各初期設定フラグFLG(k)は、指番号がkである指の爪に固定されたRFIDタグ8に対して指番号kの書き込みを行ったか否かを示すフラグであり、この段階では、書き込み未了であることを示す“0”が初期設定フラグFLG(k)(k=1〜10)に書き込まれる。次にCPU1は、キースイッチ回路71の各スイッチ部77を走査し、キーオンイベントが発生したか否かを判断する(ステップS102)。この判断結果が「NO」である場合、CPU1は、ステップS102の判断を繰り返す。そして、キースイッチ回路71を介してキーオンイベントが検出され、ステップS102の判断結果が「YES」になると、CPU1は、キーオンイベントの発生した鍵のキーコードをレジスタKCDに格納する(ステップS103)。
【0011】
次にCPU1は、予め記憶したキーコード配列IKCD(k)(k=1〜10)とレジスタKCDの内容とを比較して、ステップS104の判断を行う。さらに詳述すると、本実施形態では、ユーザの右手の親指から小指までの各指に指番号k=1〜5が各々割り当てられ、左手の親指から小指までの各指に指番号k=6〜10が割り当てられている。そして、キーコード配列IKCD(k)(k=1〜10)には、以下列挙するように、図2におけるC4からG4までの各キーコードおよびB3からE3までの各キーコード、すなわち、初期設定処理の際にユーザが10本の各指で押下すべき各鍵のキーコードが予め格納されている。
IKCD(1)=C4 IKCD(6)=B3
IKCD(2)=D4 IKCD(7)=A3
IKCD(3)=E4 IKCD(8)=G3
IKCD(4)=F4 IKCD(9)=F3
IKCD(5)=G4 IKCD(10)=E3
【0012】
ステップS104では、このキーコード配列IKCD(k)(k=1〜10)の中にレジスタKCDの内容と一致するものがあるか否かが判断されるのである。そして、ステップS104の判断結果が「NO」である場合、CPU1は、ステップS102に戻り、次のキーオンイベントの発生まで待機する。ユーザによって押下された鍵が初期設定において押下すべき鍵ではなかったからである。
【0013】
一方、キーコード配列IKCD(k)(k=1〜10)の中のある要素IKCD(k)がレジスタKCDの内容と一致しており、ステップS104の判断結果が「YES」となった場合、CPU1は、その配列要素IKCD(k)と、書き込み指令をリーダライタ72に与える。これによりリーダライタ72は、配列要素IKCD(k)が示すキーコードに対応した鍵に埋め込まれたアンテナ75を選択し、そのアンテナ75から書き込み指令および指番号kが重畳された無線信号を出力する。この結果、そのアンテナ75が埋め込まれている鍵を押下している指のRFIDタグ8に指番号kが書き込まれる。そして、CPU1は、指番号kに対応した初期設定フラグFLG(k)に対し、“1”を設定する(以上、ステップS105)。
【0014】
ステップS105が終了すると、CPU1は、初期設定フラグFLG(k)(k=1〜10)が全て“1”になったか否かを判断する(ステップS106)。この判断結果が「NO」である場合、CPU1は、ステップS102に戻り、次のキーオンイベントの発生まで待機する。一方、ステップS106の判断結果が「YES」である場合、CPU1は、初期設定処理を終了する。
【0015】
以上の処理により、図2におけるキーコードC4からG4までの各鍵を押下した各指の各RFIDタグ8に指番号k=1〜5が各々書き込まれ、キーコードB3からE3までの各鍵を押下した各指の各RFIDタグ8に指番号k=6〜10が各々書き込まれることとなる。
【0016】
その後、ユーザインタフェース4を介して演奏の記録を指示するコマンドが入力されると、CPU1は、図6に示す記録処理のルーチンを実行する。まず、CPU1は、キースイッチ回路71等の状態を走査し、何らかのイベントが発生したか否かを判断する(ステップS201)。そして、CPU1は、何らかのイベントが検知されるまで、このステップS201の判断を繰り返す。
【0017】
何らかのイベントがステップS201において検知されると、CPU1は、ステップS202においてイベントの種別を判断する。検知されたイベントがキーオンイベントである場合、CPU1は、そのキーオンイベントの発生元である鍵のキーコードをレジスタKCDに格納するとともに、キースイッチ回路71により取得した押鍵速度をレジスタVELに格納する(ステップS203)。次にCPU1は、発音処理を実行する(ステップS204)。この発音処理においてCPU1は、レジスタKCDおよびVELの内容を発音指示とともに音源5に送る。これにより、レジスタKCDにより示される音高を有し、かつ、レジスタVELにより示されるアタック強度を持った楽音信号が音源5により出力される。
【0018】
次にCPU1は、レジスタKCD内のキーコードと指番号の読み取り指令をリーダライタ72に送る(ステップS205)。これによりリーダライタ72は、CPU1から受け取ったキーコードに対応した鍵に埋め込まれたアンテナ75により、その鍵を押下している指のRFIDタグ8から指番号を読み取り、読み取った指番号をCPU1に送る。次にCPU1は、キーオンイベントの発生タイミングを示すタイミングデータと、演奏イベントの内容を示す情報、すなわち、ステップS203において取得したキーコードおよび押鍵速度と、ステップS205において取得した指番号とを含む演奏データを作成し、これをRAM3に書き込む(ステップS206)。そして、ステップS201に戻り、新たなイベントが発生するまで待機する。なお、タイミングデータの表現形式として、先行する他の演奏イベントから当該演奏イベントの発生時刻までの経過時間を示すデュレーションデータと、演奏開始からの当該演奏イベントまでの経過時間を示す絶対時間データとがあるが、いずれの形式のタイミングデータを用いてもよい。この種のタイミングデータの発生方法は、一般的な演奏記録機能を有する楽器において採用されているものと変わるところがないので説明を省略する。
【0019】
キーオフイベントが検知された場合、CPU1の処理はステップS201およびS202を介してステップS207に進む。このステップS207においてCPU1は、キーオフイベントの発生元である鍵のキーコードをレジスタKCDに格納する。次にCPU1は、消音処理を実行し、レジスタKCD内のキーコードと消音指示を音源5に送る(ステップS208)。これにより、音源5では、CPU1から指示されたキーコードに該当する楽音信号を停止させる。次にCPU1は、キーオフイベントの発生タイミングを示すタイミングデータと、ステップS208において取得したキーコードとを含む演奏データ(ノートオフイベントデータ)を作成し、このデータをRAM3に書き込む(ステップS209)。そして、ステップS201に戻り、新たなイベントが発生するまで待機する。
【0020】
図示しない音色指定スイッチの操作などの他のイベントが検知された場合には、CPU1の処理は、ステップS201およびS202を介して、ステップS210に進み、そのイベントに対応した処理が実行され、再びステップS201に戻る。
【0021】
以上のようにして、何らかのイベントが検知される都度、ステップS202以降の処理が実行され、指番号を含む演奏データの記録が行われる。そして、例えばユーザインタフェース4に対する所定の操作など、演奏終了を示すイベントが検知されることにより、図6に示す記録処理が終了する。
【0022】
以上のように本実施形態によれば、演奏時に鍵を押下している指のRFIDタグ8からその指の指番号を読み取られ、指番号を含む演奏データ、すなわち、運指データの内在した演奏データの記録が行われる。従って、画像認識などに比べて、高い精度で運指操作を検知し、運指データの記録を行うことができる。しかも、この運指データの記録の際、RFIDタグ8は、ユーザの指の爪に貼り付けられているので、ユーザの鍵盤演奏の邪魔にならない。また、本実施形態によれば、ユーザは、RFIDタグ8を各指の爪に貼り付けた後、所定の押鍵操作をすることにより、各指の指番号をRFIDタグ8に書き込むことができる。従って、ユーザは、各指に固定するRFIDタグ8を選択する必要がなく、任意のRFIDタグ8を任意の指に固定すればよい。
【0023】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明にはこれら以外にも各種の実施形態が考えられる。例えば次の通りである。
(1)上記実施形態では、RFIDタグ8と非接触通信を行うためのアンテナ75を鍵の表面近くに埋め込んだが、鍵の動きを妨げないように、鍵の周囲をアンテナ75により囲ってもよい。
【0024】
(2)押下された鍵に設けられたアンテナ75により複数のRFIDタグ8からの無線信号が受信される場合もあり得る。その際には、指番号の決定方法として次のものが考えられる。第1の方法では、押下鍵のアンテナ75により受信された複数のRFIDタグ8からの無線信号のうち最も受信電界強度の高いものを選択し、その無線信号に重畳された指番号を検出する。第2の方法では、それまでに得られた運指データを参照し、押下された鍵の左右の鍵がどの指により押下されたかを求め、複数のRFIDタグ8から読み取った指番号のうちそれらの指と重複しないものの指番号を選択する。
【0025】
第3の方法では、1つの鍵に設けられたアンテナ75により複数のRFIDタグ8からの無線信号が受信されたときに、その左右の鍵のアンテナ75により受信動作を行わせ、3個の鍵の各アンテナにおける各無線信号の受信電界強度の分布に基づき、真ん中の鍵を押下している指の指番号を求める。
【0026】
図7はその具体的動作例を示すものである。この例では、キーコードD4の鍵のキーオンイベントが検出されたため、その鍵のアンテナ75を動作させたところ、3種類の指番号「2」、「3」、「4」が受信された。そこで、CPU1は、例えばキーコードD4の鍵の左右両側のキーコードC4およびE4の各鍵のアンテナ75を動作させ、両アンテナにより近傍のRFIDタグ8の指番号を読み取らせた。この結果、図7に示すような各指番号の受信電界強度が得られた。
【0027】
この例において、指番号「2」の無線信号は、キーコードC4の鍵の近傍での受信電界強度が最も高く、キーコードD4の鍵の近傍での受信電界強度はそれより低く、キーコードE4の鍵の近傍では受信されていない。従って、指番号「2」の発信源であるRFIDタグ8は、キーコードD4の鍵よりは、むしろキーコードC4の鍵の近くにあると考えられる。また、指番号「4」の無線信号は、キーコードE4の鍵の近傍での受信電界強度が最も高く、キーコードD4の鍵の近傍での受信電界強度はそれより低く、キーコードC4の鍵の近傍では受信されていない。従って、指番号「4」の発信源であるRFIDタグ8は、キーコードD4の鍵よりは、むしろキーコードE4の鍵の近くにあると考えられる。
【0028】
これに対し、指番号「3」の無線信号は、キーコードD4の鍵の近傍において受信電界強度がピークとなっている。従って、指番号「3」の発信源であるRFIDタグ8は、左右方向に並んだ3個の鍵の中では真ん中の押下鍵(キーコードD4)に最も近い位置にあると考えられる。そこで、この例では、押下鍵の位置において受信電界強度がピークとなっている指番号「3」がその鍵を押下している指であると判定するのである。
【0029】
(3)上記実施形態では、RFIDタグ8を指の爪に固定したが、RFIDタグ8の固定箇所は指の先端部分であればよく、例えば指の腹付近でもよい。
【0030】
(4)上記実施形態では、鍵盤に設けられたスイッチ部77により押鍵速度を検知した。しかし、このスイッチ部77は、単にキーオンイベント、キーオフイベントの検出のみに用い、押鍵速度は他の手段により求めるようにしてもよい。この場合の押鍵速度の検出手段として、RFIDタグ8を利用したものが考えられる。すなわち、CPU1は、リーダライタ72によりRFIDタグ8からの受信電界強度を常時監視し、キーオンイベントがあった場合には、そのキーオンイベントの発生箇所である鍵の近傍におけるRFIDタグ8からの受信電界強度の時間勾配を演算し、この受信電界強度の時間勾配から押鍵速度を算出し、RAM3に記録するのである。この態様によれば、鍵盤が押鍵速度を算出する機構を有していない場合においても、押鍵速度を求め、演奏データとして記録することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施形態である鍵盤楽器の構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態における鍵盤とこの鍵盤を操作しているユーザの手を示す平面図である。
【図3】同実施形態における鍵盤の構成を示す断面図である。
【図4】同実施形態におけるアンテナの通信可能圏を例示する図である。
【図5】同実施形態における初期設定処理の内容を示すフローチャートである。
【図6】同実施形態における記録処理の内容を示すフローチャートである。
【図7】この発明の他の実施形態における鍵を押下している指の判定方法を例示する図である。
【符号の説明】
【0032】
1…CPU、2…ROM、3…RAM、4…ユーザインタフェース、5…音源、6…サウンドシステム、7…鍵盤、71…キースイッチ回路、72…リーダライタ、8…RFIDタグ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤と、
記憶手段と、
前記鍵盤の各鍵の近傍のタグとの間で情報の授受を行う非接触通信手段と、
前記非接触通信手段により前記鍵盤の特定の鍵の近傍にあるタグに特定の指に対応した識別情報を書き込む初期設定処理を行うとともに、前記非接触通信手段により前記鍵盤の任意の鍵の近傍のタグから識別情報を読み取って当該鍵を操作している指を表す運指データを前記記憶手段に書き込む記録処理を行う制御手段と
を具備することを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
前記制御手段は、前記記録処理において鍵の操作を示すイベントデータを前記鍵盤から取得して前記記憶手段に書き込むものであり、前記イベントデータとしてキーオンイベントが取得された場合に、前記非接触通信手段により当該キーオンイベントに対応した鍵の近傍のタグから識別情報を読み取って前記運指データを前記記憶手段に書き込むことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記非接触通信手段は、前記鍵盤の各鍵の内部または周囲に設けられたアンテナを有し、これらのアンテナを介して前記タグと情報の授受を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の鍵盤楽器。
【請求項4】
前記制御手段は、前記非接触通信手段により前記タグからの受信電界強度を監視し、キーオンイベントが取得された場合には、当該キーオンイベントの発生箇所である鍵の近傍における受信電界強度の時間勾配に基づき、当該鍵の押鍵速度を算出して前記記憶手段に書き込むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の鍵盤楽器。
【請求項5】
非接触に情報の書き込みおよび読み取りが可能なタグを演奏者の各指の先端部分に固定する過程と、
各指に固定された各タグに対し、各指に固有の識別情報を書き込む過程と、
演奏者による鍵盤楽器の演奏時、前記鍵盤楽器において操作されている鍵の近傍のタグの識別情報を読み取り、当該鍵を操作している指を表す運指データを記憶手段に書き込む過程と
を具備することを特徴とする運指データの記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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