説明

鏡枠用樹脂構造体

【課題】真円性及び機械的強度に優れ、且つ、環境負荷の低い鏡枠用樹脂構造体を提供する。
【解決手段】本発明の鏡枠用樹脂構造体は、アスペクト比が10〜1000000であり、平均直径が1〜800nmであるセルロースナノファイバーを樹脂中に含有してなる複合樹脂組成物を、成形してなることを特徴とする。前記鏡枠用樹脂構造体は、カメラ用であることが好ましい。また、前記鏡枠用樹脂構造体は、縦方向と横方向とのモールド収縮率の差が0.5%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡枠用樹脂構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鏡枠用樹脂構造体においては、機械的強度を保持するためにガラスファイバーや炭素ファイバーを含有する樹脂が用いられている。
【0003】
しかし、デジタルカメラ用鏡枠、液晶プロジェクター用鏡枠、プロジェクションTV用鏡枠、望遠鏡用鏡枠、ビデオカメラ用鏡枠といった樹脂構造体においては、機械的強度だけでなく真円性に優れていることが要求されている。これらの製品は薄型化しているため、従来の樹脂を用いては前記要求を満たすことができなかった。
【0004】
このような問題点を解決するものとして、(A)熱可塑性樹脂50〜90質量%、(B)一定長さの丸型ガラス繊維(繊維B)5〜40質量%、及び(C)一定長さの扁平ガラス繊維(繊維C)5〜40質量%、を溶融混練することにより、得られるペレット中の繊維Bの平均繊維長を0.16〜0.40mmに、且つ繊維Cの平均繊維長を0.20〜0.45mmに制御した熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−275172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の熱可塑性樹脂組成物から得られる鏡筒用射出成形体は成形性、弾性率及び機械的強度のバランスに優れた、ガラスファイバーによって強化された熱可塑性樹脂組成物からなり、真円性、外観、機械的強度に優れている。
しかし、ガラスファイバーを含有する樹脂からなる成形体は、リサイクル性が悪い上、廃棄焼却時に残渣があり、環境負荷が高い点で難がある。
【0007】
一方、従来のセルロースファイバーを含有する樹脂からなる成形体は、セルロースファイバーが持続可能な原料を用いている他、リサイクル性も良く、焼却時に残渣も少ない点で良好である。しかし強度自体が低く、鏡枠用樹脂構造体には用いることが出来なかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、真円性及び機械的強度に優れ、且つ、環境負荷の低い鏡枠用樹脂構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、アスペクト比が10〜1000000であり、平均直径が1〜800nmであるセルロースナノファイバーを樹脂中に含有してなる複合樹脂組成物を、成形してなることを特徴とする。
(2)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、カメラ用であることが好ましい。
(3)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、縦方向と横方向とのモールド収縮率の差が0.5%以下であることが好ましい。
(4)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、前記セルロースナノファイバーが、水酸基が修飾基により化学修飾され、X線回折パターンにおいて、Iβ型の結晶ピークを有することが好ましい。
(5)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、前記セルロースナノファイバーが、θの範囲を0〜30とするX線回折パターンが、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さないことが好ましい。
(6)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、前記セルロースナノファイバーのSP値8〜13の有機溶媒における飽和吸収率が300〜5000質量%であることが好ましい。
(7)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、前記有機溶媒が、非水溶性溶媒であることが好ましい。
(8)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、前記セルロースナノファイバーの全体の水酸基のうち、0.01%〜50%が化学修飾されていることが好ましい。
(9)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、前記樹脂がポリカーボネートであることが好ましい。
(10)本発明の鏡枠用樹脂構造体は、前記セルロースナノファイバーの質量含有率が10質量%〜90質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鏡枠用樹脂構造体によれば、真円性及び機械的強度に優れているため、特にカメラ用鏡枠に最適に用いられ、且つ、油化やリペレットが容易であるためリサイクル性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】セルロースナノファイバーのX線回折分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の鏡枠用樹脂構造体は、アスペクト比が10〜1000000であり、平均直径が1〜800nmであるセルロースナノファイバーを樹脂中に含有してなる複合樹脂組成物を、成形してなる。
【0013】
本発明の鏡枠用樹脂構造体において、複合樹脂組成物が含有するセルロースナノファイバーとしては、上記構成を有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。
前記セルロースナノファイバーは、植物を原料とするため、射出成形時に無駄になった樹脂を油化、リペレット化して再利用することができる。一方、ガラスファイバーや炭素ファイバーを含有する樹脂においては、性能劣化してしまうため再利用することが困難であり、油化時に残渣として残り処理が問題となっていた。
このように、前記セルロースファイバーを含有する樹脂からなる本発明の鏡枠用樹脂構造体を用いることは、二酸化炭素排出量の削減にもつながり、環境に優しい。
【0014】
本発明の鏡枠用樹脂構造体を構成する樹脂に含まれるセルロースナノファーバーのアスペクト比は、補強効果の観点から10〜1000000である。さらに好ましくは、50〜2000である。本明細書および特許請求の範囲において、「アスペクト比」とは、セルロースナノファイバーにおける平均繊維長と平均直径の比(平均繊維長/平均直径)を意味する。
アスペクト比が上記範囲内であるため、前記セルロースナノファイバーは、分子同士の絡まりや網目構造が強固となり、鏡枠用樹脂構造体に機械的強度を付与する。
【0015】
前記セルロースナノファイバーの平均直径は、1〜800nmである。前記平均直径は1〜300nmであることがより好ましく、50〜200nmであることがさらに好ましい。平均直径が1nm以上の場合、製造コストがかからず、平均直径が800nm以下の場合、前記アスペクト比が低下せず、十分な補強効果が得られる。
【0016】
本発明の鏡枠用樹脂構造体は、縦方向と横方向とのモールド収縮率の差は0.5%以下であることが好ましい。前記収縮率の差が小さいほど鏡枠用樹脂構造体は、真円性に優れる傾向にある。
【0017】
本発明の鏡枠用樹脂構造体は、用いられるセルロースナノファイバーが樹脂中にナノレベルで一様に分散されているため異方性が少なく、真円性に優れている。且つ、機械的物性の異方性が少ない。そのため、本発明の鏡枠用樹脂構造体は、カメラ用鏡枠に好適に用いられる。
【0018】
セルロースI型はIα型結晶とIβ型結晶の複合結晶であり、木綿などの高等植物由来セルロースはIβ成分が多いが、バクテリアセルロースの場合はIα成分が多い。本発明に用いられるセルロースファイバーはどちらを用いても良いが、Iβ型を主成分とした方が、樹脂に対する補強効果が高い点から好ましい。このため、Iα型が確認されない図1に示されるようなθの範囲を0〜30とするX線回折パターンが、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さないものが特に良い。
【0019】
本発明の鏡枠用樹脂構造体に用いられるセルロースナノファイバーは、機能性を高めるため化学修飾されてもよい。セルロースナノファイバーを複合材料に使用するためには、前記セルロースナノファイバー表面の水酸基を修飾基により化学修飾し、前記水酸基を減じることが好ましい。セルロースナノファイバー間の水素結合による強い密着を防ぐことで高分子材料に容易に分散し、良好な界面結合を形成させることができる。
前記セルロースナノファイバー中の全体の水酸基のうち、修飾基により化学修飾される割合は、0.01%から50%であることが好ましく、0.1%〜20%であることがより好ましく、10%〜20%であることがさらに好ましい。修飾率が高すぎるとセルロースナノファイバー間の水素結合が無くなり、樹脂への補強効果が低下する。一方、修飾率が低すぎるとセルロースナノファイバーの樹脂への分散性が低くなり補強効果が低下する。
【0020】
前記化学修飾は水酸基と反応するものであれば良いが、化学修飾によりエーテル化、エステル化したセルロースナノファイバーが、簡便に効率よく修飾できるので好ましい。
エーテル化剤としては、メチルクロライド、エチルクロライド等のハロゲン化アルキル;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸ジアルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等の硫酸ジアルキル;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド等も好ましい。また、アルキルエーテル化に限定されるものではなく、ベンジルブロマイド等によるエーテル化やシリルエーテル化等も好ましい。例えばシリルエーテル化としては、アルコキシシランが挙げられ、より具体的にはn−ブトキシトリメチルシラン、tert−ブトキシトリメチルシラン、sec−ブトキシトリメチルシラン、イソブトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、オクチルジメチルエトキシシラン又はシクロヘキシルオキシトリメチルシランのようなアルコキシシラン、ブトキシポリジメチルシロキサンのようなアルコキシシロキサン、ヘキサメチルジシラザンやテトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザンのようなシラザンが挙げられる。また、トリメチルシリルクロライドや、ジフェニルブチルクロライド等のシリルハライドや、t−ブチルジメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート等のシリルトリフルオロメタンスルホネートも使用できる。
エステル化剤としては、ヘテロ原子を含んでも良いカルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物が挙げられ、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体が好ましく、酢酸、無水酢酸、無水酪酸がより好ましい。
エーテル化、エステル化の中でも、アルキルエーテル化、アルキルシリル化、アルキルエステル化が、樹脂への分散性を向上させるために好ましい。
【0021】
上記の様に化学修飾されたセルロースナノファイバーは、溶解性パラメータ(以下、SP値)8〜13の有機溶媒における飽和吸収率が300〜5000質量%であることが好ましい。前記SP値の有機溶媒に分散させたセルロースナノファイバーは、樹脂との親和性が高く、補強効果が高い。
SP値が8〜13の有機溶媒としては、酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、キシレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、ジブチルフタレート、アセトン、イソプロパノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、エタノール、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、二硫化炭素、ピリジン、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−ブタノール、ニトロメタン等が挙げられる。
【0022】
前記有機溶媒としては、非水溶性溶媒(25℃の水と任意の割合で混合しない溶媒)であるものが好ましく、キシレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、塩化メチレン、シクロヘキサン、塩化メチレン、酢酸エチル、四塩化炭素、二硫化炭素、シクロヘキサノール、ニトロメタン等が挙げられる。この中でもポリカーボネートが溶解する塩化メチレンが特に良い。
【0023】
本発明の鏡枠用樹脂構造体に用いられる複合樹脂組成物は、前記セルロースナノファイバーを樹脂中に含有する。よって、本発明の鏡枠用樹脂構造体は前記セルロースナノファイバーの優れた補強効果により、強度や耐熱性に優れている。
【0024】
複合樹脂組成物中の樹脂の種類としては、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であっても良い。植物性由来樹脂、二酸化炭素を原料とした樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のアルキレン樹脂、スチレン樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、アセタール樹脂、カーボネート樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、イミド樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エステル樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、フッ素樹脂、スチロール樹脂、エンジニアリングプラスチックなどを例示できる。また、エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリアリルエーテルニトリルなどが好適に用いられる。また、これらの樹脂を2種類以上混合しても良い。これらの中でもポリカーボネートは衝撃強度が強いため、特に良く、前記セルロースナノファイバーを含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を用いることにより機械的強度に優れた鏡枠用樹脂構造体を得ることができる。
【0025】
前記ポリカーボネートとしては、通常用いられるものを使用できる。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネートを好ましく用いることができる。
【0026】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンが挙げられる。
【0027】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カルボニルエステル、ハロホルメートが挙げられる。具体的には、ホスゲン、2価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。
【0028】
また、本発明に用いられるポリカーボネートとしては、芳香族を含まないポリカーボネートであってもよい。芳香族を含まないポリカーボネートとしては、脂環式ポリカーボネートや脂肪族ポリカーボネートなどが例示できる。ポリカーボネート樹脂は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。また、前記芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体を重合して得られる重合体と他の重合体との共重合体であってもよい。
前記ポリカーボネート樹脂は、従来公知の方法で製造できる。例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法などの種々の方法が挙げられる。
【0029】
本発明の鏡枠用樹脂構造体に用いられる複合樹脂組成物は、その他、フィラー、難燃助剤、難燃剤、酸化防止剤、離形剤、着色剤、分散剤等の添加剤を加えても良い。
フィラーとしては、例えばカーボン繊維、ガラスファイバー、セルロース繊維、クレー、酸化チタン、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、マイカ、モンモリロナイト、硫酸バリウム、バルーンフィラー、ビーズフィラー、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属水酸化物、リン系難燃剤、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、シリコーン系難燃剤、膨張性黒鉛などを使用できる。
難燃助剤としては、ポリフルオロオレフィン、酸化アンチモン等などを使用できる。
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤などを使用できる。
離型剤としては、高級アルコール、カルボン酸エステル、ポリオレフィンワックス及びポリアルキレングリコールが挙げられる。
着色剤としては、カーボンブラックやフタロシアニンブルーなど、任意の着色剤を使用できる。
分散剤としては、セルロースナノファイバーが樹脂に分散できるものであればよく、アニオン性、カチオン性、ノニオン性および両性の界面活性剤、高分子型分散剤、およびこれらの併用が挙げられる。
【0030】
本発明の鏡枠用樹脂構造体は、前記樹脂における前記セルロースナノファイバーの質量含有率が10質量%〜90質量%であることが好ましく、10質量%〜60質量%であることがより好ましい。
10質量%未満の場合、樹脂に機械的強度が低下し、90質量%よりも多い場合、流動性が低下することが多い。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
ろ紙をハサミで3mm角に切断したもの2gを200mlのフラスコビーカーに入れ、さらにN,N−ジメチルアセトアミド50mlとイオン液体塩化1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム60gを加え、攪拌した。次にこれをろ過し、セルロースナノファイバーを得、さらに無水酢酸でアセチル化した。このとき得られたアセチル化セルロースナノファイバーの修飾率は10%であった。次に、予め塩化メチレンに溶解させたポリカーボネートと、このアセチル化セルロースナノファイバーとをジクロロメタン中で混合し、乾燥させ、セルロースナノファイバーを均一に分散含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を得た。
【0033】
(実施例2)
無水酢酸を実施例1の2倍量とした以外は、実施例2と同様の手順で、セルロースナノファイバーを均一に分散含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を得た。このとき得られたセルロースナノファイバーの修飾率は18%であった。
【0034】
(実施例3)
無水酢酸の代わりに、シリル化剤としてヘキサメチルジシラザンを加えた以外は、実施例2と同様の手順で、セルロースナノファイバーを均一に分散含有するポリカーボネート複合樹脂組成物を得た。このとき得られたセルロースナノファイバーの修飾率は15%であった。
【0035】
(比較例1)
ポリカーボネート複合樹脂組成物として、帝人社製パンライトG−3120PH(ガラスファイバー含有率20質量%)を用いた。
【0036】
(比較例2)
ポリカーボネート複合樹脂組成物として、帝人社製パンライトEN−8515N(炭素繊維含有率15質量%)を用いた。
【0037】
各実施例及び各比較例の成形体を、以下の試験方法で測定し、結果を表1に示した。
(1) アスペクト比、平均直径
実施例1〜3の数平均繊維径と数平均長さについてSEM解析により評価した。
詳細には、各種ファイバー分散液をウェーハ上にキャストしてSEM観察し、得られた1枚の画像当たり20本以上の繊維について繊維径と長さの値を読み取り、これを少なくとも3枚の重複しない領域の画像について行い、最低30本の繊維径と長さの情報を得た。
以上により得られた繊維径と長さのデータから、数平均繊維径と長さを算出することができ、平均繊維長さと繊維径との比からアスペクト比を算出した。
【0038】
(2) 結晶構造解析(XRD)
実施例1〜3の結晶構造を粉末X線回折装置Rigaku Ultima IVを用いて分析した。X線回折パターンが、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さない場合には○、そうでない場合には△と判定した。
【0039】
(3) 水酸基の修飾率A1の評価法
水酸基の修飾率は元素分析により得られた炭素、水素、酸素の元素割合から、修飾率を算出した。
【0040】
(4) 飽和吸収率Rの評価
重さ(W1)のセルロースナノファイバーをジクロロメタン(SP値9.7)に分散させ、2wt%の分散液を調製し、遠心分離瓶に入れてから4500Gで30分処理した後、上部透明な溶剤層を除いてから下部ゲル層の重さ(W2)を量り、飽和吸収率を下記式により算出した。
R=W2/W1×100%
実施例2については、酢酸エチル(SP値9.1)、ジクロロメタン(SP値9.7)の2つの溶媒で評価を行った。このとき、酢酸エチルは1200質量%、ジクロロメタンは1500質量%であった。
飽和吸収率が300以上5000質量%以下の場合には○、そうでない場合には△と判定した。
【0041】
(5) 質量含有率
各実施例のセルロースナノファイバーの質量含有率を示した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すとおり、実施例は、アスペクト比が10以上1000000以下であり、平均直径が1〜300nmであり、Iβ型の結晶型のX線回折パターンを示し、化学修飾率が10%〜20%であった。
【0044】
各実施例及び各比較例の成形体を、以下の試験方法で測定し、結果を表2に示した。
(1) 曲げ強さ
実施例1〜3の成形体を3点曲げ試験機にて、曲げ強さを計測した。比較例1、2についてはカタログ値を用いた。
【0045】
(2) 収縮率の差
JISK7152−4に従い樹脂を成形し、流動方向に平行な収縮率と、直角な収縮率を計測し、その差を計算した。その差が0.5%以下の場合には○、そうでない場合には×と判定した。
【0046】
(3) 真円性
MITSUTOYO社製CNC3次元測定器LEGEXにて、円筒形状の成形体の内接面を計測プログラムに従い、真円性を計測した。300μm以下を○とし、それ以上を×と判定した。
【0047】
(4) 環境適合性
各実施例及び各比較例において、持続可能な原料を用いている場合には○、そうでない場合には×と判定した。
【表2】

【0048】
表2に示すとおり、実施例で得られた成形体は、収縮率の差や真円性が良い。また、曲げ強さにも優れている上、機械的物性の異方性が少ない。さらに、比較例1、比較例2と比較し、実施例1〜3は木という持続可能な原料を用いており、環境適合性に優れていた。これらの結果から、ガラス繊維や炭素繊維を用いた構造体よりも、本発明の樹脂構造体は、鏡枠に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が10〜1000000であり、平均直径が1〜800nmであるセルロースナノファイバーを樹脂中に含有してなる複合樹脂組成物を、成形してなることを特徴とする鏡枠用樹脂構造体。
【請求項2】
カメラ用である請求項1に記載の鏡枠用樹脂構造体。
【請求項3】
縦方向と横方向とのモールド収縮率の差が0.5%以下である請求項1又は2に記載の鏡枠用樹脂構造体。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーは、水酸基が修飾基により化学修飾され、X線回折パターンにおいて、Iβ型の結晶ピークを有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の鏡枠用樹脂構造体。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーは、θの範囲を0〜30とするX線回折パターンが、14≦θ≦18に1つ又は2つのピークと、21≦θ≦24に1つのピークとを有し、他にはピークを有さない請求項4に記載の鏡枠用樹脂構造体。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーは、SP値8〜13の有機溶媒における飽和吸収率が300〜5000質量%である請求項4又は5に記載の鏡枠用樹脂構造体。
【請求項7】
前記有機溶媒は、非水溶性溶媒である請求項6に記載の鏡枠用樹脂構造体。
【請求項8】
前記セルロースナノファイバーの全体の水酸基のうち、0.01%〜50%が化学修飾されている請求項4〜7のいずれか一項に記載の鏡枠用樹脂構造体
【請求項9】
前記樹脂はポリカーボネートである請求項1〜8のいずれか一項に記載の鏡枠用樹脂構造体。
【請求項10】
前記樹脂における前記セルロースナノファイバーの質量含有率が10質量%〜90質量%である請求項1〜9のいずれか一項に記載の鏡枠用樹脂構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−182875(P2011−182875A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49566(P2010−49566)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】