説明

長尺光学部品の接着構造

【課題】長尺光学部品(長尺光学部材)を機枠に接着固定しても、温度変化に起因する該長尺光学部品の内部応力の有害な増加や剥離が生じない接着構造を得る。
【解決手段】機枠側に、長尺光学部品の長さ方向に分散させて、該長尺光学部品を接着固定するための少なくとも3本の接着脚部を形成し、この接着脚部の長さを長尺光学部品の中央部に位置する中央接着脚部よりも縁部側に位置する縁部接着脚部を長くした長尺光学部品の接着構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、走査光学装置の合成樹脂製fθレンズのような長尺光学部品(長尺光学部材)を、該fθレンズとは線膨張係数が異なる機枠(ハウジング)に接着固定するための接着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザプリンタ、デジタルコピー機、レーザファックス、レーザプロッタ等の電子写真方式を用いた各種機器には、回転駆動されるポリゴンミラーにレーザビームを入射させ、該ポリゴンミラーからの反射光をfθレンズを介して被走査媒体に入射させて走査する走査光学装置が搭載されている。
【0003】
fθレンズは、位置調整の後、(または、無調整で)機枠に固定される。この固定のために従来、金属製の固定部材(ねじ、押え板等)が用いられてきた。しかし、汎用の走査光学装置は、極限迄の部品点数の削減、コストダウンを求められており、より安価な接着による固定が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-70681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、fθレンズの接着固定には次の問題がある。fθレンズは一般的にPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)の成形品から構成されるのに対し、機枠は一般的にポリカーボネート樹脂の成形品から構成されている。PMMAはポリカーボネートに比べ線膨張係数が大きいため、接着時の温度との温度変化が一定値を超えるとfθレンズが機枠との接着点を変化させることなく変形して内部応力が高まり所期の光学性能が発揮されない。さらに極端な例では、機枠からfθレンズが剥離してしまう。樹脂材料の組み合わせは区々でありうるが、透明光学樹脂材料と、機枠に用いる樹脂材料との線膨張係数が異なることによる内部応力の増加あるいは剥離の問題は、一般的な問題である。fθレンズに限らず、ミラー、カバーガラス等の長尺光学部品についても同様の問題がある。
【0006】
本発明は、以上の問題意識に基づき、長尺光学部品を機枠に接着固定しても、温度変化に起因する該長尺光学部品の内部応力の有害な増加や剥離が生じない接着構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、長尺光学部品を機枠に接着固定する接着固定構造において、長尺光学部品の温度変化による変形に機枠側の接着点が追従するようにすれば、長尺光学部品の変形に伴う内部応力の増加、さらには剥離は防止できるとの着眼に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明は、合成樹脂製長尺光学部品を、該長尺光学部品の樹脂材料とは線膨張係数が異なる樹脂材料からなる機枠に接着固定する接着固定構造において、機枠側に、長尺光学部品の長さ方向に分散させて、該長尺光学部品を接着固定するための少なくとも3本の片持ち梁状の接着脚部を形成し、この接着脚部の長さを長尺光学部品の中央部に位置する中央接着脚部よりも縁部側に位置する縁部接着脚部を長くしたこと、に特徴を有する。
【0009】
本発明の長尺光学部品の接着構造において、上記中央接着脚部と機枠は、該機枠と長尺光学部品の長さ方向の相対移動を許容しない凹凸関係で嵌合している。
【0010】
本発明の一態様では、上記接着脚部を、1本の中央接着脚部と該1本の中央接着脚部の左右に各1本位置する合計2本の縁部接着脚部から構成する。
【0011】
本発明の別の態様における上記接着脚部は、1本の中央接着脚部と該1本の中央接着脚部の左右に各2本位置する合計4本の縁部接着脚部からなっていて、4本の縁部接着脚部は、長尺光学部品の中心から最も離れた2本の最縁部接着脚部と、該2本の最縁部接着脚部と中央接着脚部の間に位置する2本の中間脚部とからなり、最縁部接着脚部は中間脚部より長いことが好ましい。
【0012】
本発明の長尺光学部品の接着構造において、上記長尺光学部品は、光学部品として用いる部分の縦横比が1:5以上のfθレンズ、ミラー、カバーガラスのいずれかに適用することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、長尺光学部品を接着する機枠側に、長尺光学部品の長さ方向に分散させて、少なくとも3つの接着脚部を形成し、この接着脚部の長さを長尺光学部品の中央部に位置する中央接着脚部を短く、縁部側に位置する縁部接着脚部を長くしたので、長尺光学部品が熱によって変形する(長さを変える)とき、長さの長い片持ち状の縁部接着脚部がより多く弾性変形する(つまり、機枠側の接着点が追従する)ので、長尺光学部品の内部応力の有害な増加や剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を走査光学装置のfθレンズに適用した実施形態を示す、走査光学ユニットの平面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図1のIII-III線に沿う断面図である。
【図4】図1のIV-IV線に沿う断面図である。
【図5】図1のV-V線に沿う断面図である。
【図6】図1のVI-VI線に沿う断面図である。
【図7】図1の走査光学ユニットの斜視図である。
【図8】本発明を走査光学装置のfθレンズに適用した実施形態であって、(A)はfθレンズと接着構造の寸法比を示す正面図、(B)はfθレンズを固定する縁部接着脚部の平面図である。
【図9】本発明による長尺光学部品の接着構造の別の実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1、図7は、本発明を適用した走査光学系ユニット10から上カバーを取り除いた状態を示している。この走査光学系ユニット10は、ポリカーボネート樹脂の成形品からなるハウジング(機枠)11内に、レーザビームの光路順に、レーザビームを射出するレーザダイオード(LD)を備えたレーザユニット12、コリメータレンズ13、シリンダーレンズ14、ポリゴンミラー(回転多面鏡)15、第1fθレンズ(長尺光学部品)16、第2fθレンズ(長尺光学部品)17、及び長尺ミラー18が固定されている。レーザユニット12から射出されたレーザビームは、コリメータレンズ13によって平行光束とされ、シリンダーレンズ14によって断面形状が成形され、ポリゴンミラー15によって主走査方向に偏向されて第1fθレンズ16と第2fθレンズ17に入射し、長尺ミラー18で反射して、感光ドラムなどの走査対象面上において等速走査される。長尺ミラー18によるレーザビームの反射方向は、図1、図7の紙面に垂直な下方である。ハウジング11内には、レーザビームが走査対象面を走査する走査光路外であって、走査対象面の走査開始位置より前位相となる位置に、走査開始タイミングを検知するためのタイミング検知ミラー19が配置されている。タイミング検知ミラー19で反射したレーザビームは、ハウジング11内に設けられた受光素子20に入射する。
【0016】
以上の周知の走査光学系ユニット10において、第1fθレンズ16と第2fθレンズ17は、主走査方向の長さが、主走査方向に直交する副走査方向の長さに比して長い(例えば5倍以上)長尺光学部品であり、光学樹脂材料、例えばPMMAの成形品からなっている。PMMAの線膨張係数は、ハウジング11の材料であるポリカーボネート樹脂の線膨張係数に比して大きい。この第1fθレンズ16と第2fθレンズ17は、ハウジング11へ次のように接着されている。
【0017】
第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の長さ方向(左右方向)の中央部下面には、図3ないし図6に示すように、中央突起16a(17a)が突出形成されており、ハウジング11には、この中央突起16a(17a)の左右に位置させて、該中央突起16a(17a)を嵌合させる凹部(中央接着脚部)11a1(11a2)が形成されている。第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)は、この嵌合関係により、その左右方向の中央における移動は生じない。
【0018】
一方、ハウジング11には、第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の中央突起16a(17a)からの等距離位置に、一対の接着脚部11b1(11b2)が突出形成されている。この縁部接着脚部11b1(11b2)は、ハウジング11の底面から、第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の長さ方向に直交する方向に向いている。この一対の縁部接着脚部11b1(11b2)は、片持ち梁であり、その自由端部は、その先端部に長さ方向と直交する方向の力が加わると変形可能である。その変形可能量/力は、長さ、材質及び断面形状によって設定することができる。
【0019】
第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)をハウジング11に固定する際には、凹部11a1(11a2)の間と縁部接着脚部11b1(11b2)の先端部に、UV樹脂を塗布し、凹部11a1(11a2)に中央突起16a(17a)を嵌め、第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)下面を縁部接着脚部11b1(11b2)に当接させる。この状態で、第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の位置を正しく定めた後、紫外線を当てて硬化させる。以上で第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)のハウジング11上への固定作業は終了する。
【0020】
この固定状態で、固定時の温度との温度差が生じると、第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の左右方向の中心部は、中央突起16a(17a)と凹部11a1(11a2)との嵌合関係で移動できないのに対し、第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の左右は、片持ち梁である縁部接着脚部11b1(11b2)の自由端部に接着されているため、縁部接着脚部11b1(11b2)に生じうる撓みの範囲で、移動できる。つまり、温度変化に伴う第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の長さ方向の伸縮は、縁部接着脚部11b1(11b2)の撓みによって吸収されるため、内部応力の増加を抑制することができる。また、第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)に長さ方向の伸縮が生じても、その中央部の中央突起16a(17a)がハウジング11の凹部11a1(11a2)に固定されていて移動しないため、第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の光学性能の変化は最小限で済む。別言すると、縁部接着脚部11b1(11b2)の自由端部の変形可能量は、その長さ、材質及び断面形状等によって設定することができるから、温度変化に起因する第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の長さ方向の伸縮量に応じて、縁部接着脚部11b1(11b2)の自由端部が変形するように、これら要素を定める。
【0021】
縁部接着脚部11b1(11b2)の長さ、材質及び断面形状等の要素を定めるための条件について、図8を参照して説明する。
環境変化時の縁部接着脚部11b1(11b2)の変位をD1とおくと、変位D1は下記式によって求めることができる。
D1=(S1 - S0)×T1×L1
ただし、
S0:ハウジング11の線膨張率、
S1:第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の線膨張率、
T1:環境温度差、
L1:第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の中心と縁部接着脚部11b1(11b2)の距離、
である。
縁部接着脚部11b1(11b2)の変形時に働く力をW1とすると、この変形力W1は、下記式によって求めることができる。
W1=P×(a×b3/12)/L23×D1
ただし、
L2:縁部接着脚部11b1(11b2)の長さ、
b:縁部接着脚部11b1(11b2)の厚み、
a:縁部接着脚部11b1(11b2)の幅、
P:縁部接着脚部11b1(11b2)の弾性率、
である。
【0022】
以上より、接着面のせん断剥離強度、あるいは内部応力を増加させない力をW2とすると、W2>W1 を満足するように、縁部接着脚部11b1(11b2)の自由端部の長さ(長さL2)、断面形状(厚みb、幅a)、材質(弾性率P)及び、間隔(距離L1)等の要素を定めることで、温度変化に伴う第1fθレンズ16(第2fθレンズ17)の長さ方向の伸縮を、縁部接着脚部11b1(11b2)の撓みによって効果的に吸収し、内部応力の増加を抑制することができる。
【0023】
図9は、本発明による長尺光学部品の接着構造の別の実施形態を示している。この実施形態では、fθレンズ67の縁部接着脚部を5本とし、fθレンズ67の長手方向の縁部の接着脚部ほど長尺(長手方向の中心部に近い接着脚部ほど短尺)に構成している。具体的には、fθレンズ67は、fθレンズ16、17と同様に、その長手方向の中央部に中央突起67aを有しており、ハウジング11には、この中央突起67aを嵌める凹部(中心接着脚)11aが形成されている。ハウジング11には、また、中央突起67aの左右に、各2本ずつ中間接着脚部(縁部接着脚部)11bと、最縁部接着脚部(縁部接着脚部)11cが形成されており、これら4本の中間接着脚部11bと最縁部接着脚部11cがfθレンズ67の下面に当接する。最縁部接着脚部11cは、中間接着脚部11bより長い。
【0024】
このfθレンズ67とハウジング11の凹部(中央接着脚部)11a、接着脚部11b、11cとの接着固定は、fθレンズ16、17の接着固定と同様に、凹部11aの間と、接着脚部11b、11cの先端部にそれぞれUV樹脂を塗布し、fθレンズ67の位置を正確に定めた後、紫外線を照射する。
【0025】
この固定状態で、固定時の温度との温度差が生じると、fθレンズ67の左右方向の中心部は、中央突起67aと凹部11aとの嵌合関係で移動できないのに対し、fθレンズ67の左右は、片持ち梁である縁部接着脚部11b、11cの自由端部に接着されているため、縁部接着脚部11b、11cに生じうる撓みの範囲で、移動できる。そして、この実施形態では、fθレンズ67は、温度変化により周辺部ほど移動量が大きくなるのに対し、最も外側の最縁部接着脚部11cは、中間接着脚部11bより長く変形が容易であるため、温度変化に伴うfθレンズ67の長さ方向の伸縮は、縁部接着脚部11b、11cの撓みによって吸収され、光学性能に影響を与える有害な内部応力の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0026】
10 走査光学系ユニット
11 ハウジング(機枠)
11a1 11a2 67a 凹部(中央接着脚部)
11b1 11b2 11b 11c 縁部接着脚部
12 レーザユニット
13 コリメータレンズ
14 シリンダーレンズ
15 ポリゴンミラー(回転多面鏡)
16 第1fθレンズ(長尺光学部品)
17 第2fθレンズ(長尺光学部品)
67 fθレンズ
16a 17a 67a 中央突起
18 長尺ミラー
19 タイミング検知ミラー
20 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製長尺光学部品を、該長尺光学部品の樹脂材料とは線膨張係数が異なる樹脂材料からなる機枠に接着固定する接着固定構造において、
機枠側に、長尺光学部品の長さ方向に分散させて、該長尺光学部品を接着固定するための少なくとも3本の片持ち梁状の接着脚部を形成し、
この接着脚部の長さを長尺光学部品の中央部に位置する中央接着脚部よりも縁部側に位置する縁部接着脚部を長くしたことを特徴とする長尺光学部品の接着構造。
【請求項2】
請求項1記載の長尺光学部品の接着構造において、上記中央接着脚部と機枠は、該機枠と長尺光学部品の長さ方向の相対移動を許容しない凹凸関係で嵌合している長尺光学部品の接着構造。
【請求項3】
請求項1または2記載の長尺光学部品の接着構造において、上記接着脚部は、1本の中央接着脚部と該1本の中央接着脚部の左右に各1本位置する合計2本の縁部接着脚部からなっている長尺光学部品の接着構造。
【請求項4】
請求項1または2記載の長尺光学部品の接着構造において、上記接着脚部は、1本の中央接着脚部と該1本の中央接着脚部の左右に各2本位置する合計4本の縁部接着脚部からなっていて、4本の縁部接着脚部は、長尺光学部品の中心から最も離れた2本の最縁部接着脚部と、該2本の最縁部接着脚部と中央接着脚部の間に位置する2本の中間脚部とからなり、最縁部接着脚部は中間脚部より長い長尺光学部品の接着構造。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の長尺光学部品の接着構造において、上記長尺光学部品は、光学部品として用いる部分の縦横比が1:5以上のfθレンズ、ミラー、カバーガラスのいずれかである長尺光学部品の接着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−7768(P2013−7768A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138380(P2011−138380)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】