説明

長尺処理物の放電処理装置

【課題】静電ピニング装置とした場合に特許文献2に記載のものと同様の効果があるばかりでなく、テープ状とした放電電極の幅方向の傾きを簡単に調整できることにより、静電ピニング装置とした場合には成形されるシートの厚みを微妙に調整できる、長尺処理物の放電処理装置を提供する。
【解決手段】放電電極1をテープ状としてこれを繰り出す繰出ユニット2と巻き取る巻取ユニット3との間に張架し、これら繰出ユニット2及び巻取ユニット3を繰出側及び巻取側のそれぞれの傾斜ステージ13上に設置し、この傾斜ステージ13にて繰出ユニット2及び巻取ユニット3を傾動させることにより、テープ状の放電電極1の幅方向の傾きを調整できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直線に沿って延びる放電電極とこれと平行な対向電極との間で放電させ、これらの間にフィルム等の長尺処理物を通過させて、長尺処理物を対向電極に接触させて冷却するために帯電させたり又は表面を改質したり除電するための、長尺処理物の放電処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、溶融押出成形された樹脂シートを冷却するため、放電電極からの放電により樹脂シートを帯電させて対向電極となる冷却体に接触させる静電ピニング装置として、特許文献1(特開平11−188777号公報)に開示されたものを提案している。
【0003】
この静電ピニング装置は、放電電極がタングステン等の金属ワイヤである帯電ワイヤで、この帯電ワイヤを、繰出ユニットと巻取ユニットとの間に張架して繰出ユニットで繰り出しながら巻取ユニットで巻き取るようにし、また、繰出ユニット側と巻取ユニット側のそれぞれに帯電ワイヤを貫通案内する保護管を配置し、これら保護管を帯電ワイヤの軸線方向に位置調整可能にそれぞれの保護管ホルダに装着することにより、帯電ワイヤの振動を保護管で抑制しながら、帯電ワイヤの新しい部分を常時連続的に又はある時間間隔で間欠的に繰り出すことができるとともに、保護管を位置調整することにより、シート幅の変更に容易に対応できるようになっている。
【0004】
しかし、この静電ピニング装置では、樹脂シートを帯電させる放電電極がタングステン等の金属ワイヤ(帯電ワイヤ)であるため、その放電電流を高くすると帯電ワイヤの振動が大きくなるため、放電電流を大きくすることができず、また、ワイヤであることから帯電面積を確保できず、このようなことから、ピニング効果が低かった。
【0005】
一方、特許文献2(特開2005−186616号公報)には、放電電極を複数の突起を設けたテープ状電極とし、このテープ状電極を繰出ローラと巻取ローラとの間に張架し、テープ状電極の中央部を中央部支持部材により溶融シート状体の幅方向に沿って直線状に伸ばした状態で支持するとともに、溶融シート状体の両側辺部側に位置するテープ状電極の耳部を耳部支持部材により電極中央部よりも溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させた状態で支持し、また、シート搬送方向の下流側への電極耳部の変位量を一対の変位量調節機構で調節し、繰出ローラから繰り出されたテープ状電極を、反対側の巻取ローラで巻き取ることにより、溶融シート状体の幅方向に沿ってテープ状電極を走行させるようにした機構が開示されている。
【0006】
この特許文献2に記載のものは、テープ状電極とすることにより、ワイヤとした場合における上記のような問題を解消でき、また、テープ状電極の耳部を溶融シート状体の搬送方向の下流側に変位させた状態で、溶融シート状体の幅方向に沿ってテープ状電極を走行させることにより、溶融シート状体にテープ状電極が接触するという事態の発生を防止しつつ、常に新たなテープ状電極を溶融シート状体の幅方向に沿って位置させることにより、昇華物等の不純物が電極に付着すること等に起因した密着不良の発生を防止できるという効果はあるが、テープ状電極の幅方向の傾きを調整するようにはなっていない。
【0007】
テープ状電極の幅方向の傾きにより溶融シート状体との対向面積が変わり、それに伴いピニング効果が変化し、これが成形されるシートの厚みに影響するので、特許文献2に記載のものでは、成形されるシートの厚みを微妙に調整することができない。
【特許文献1】特開平11−188777号公報
【特許文献2】特開2005−186616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、静電ピニング装置とした場合に特許文献2に記載のものと同様の効果があるばかりでなく、テープ状とした放電電極の幅方向の傾きを簡単に調整できることにより、静電ピニング装置とした場合には成形されるシートの厚みを微妙に調整でき、表面改質装置とした場合には表面改質を微妙に調整でき、除電装置とした場合には除電効果を微妙に調整することができる、長尺処理物の放電処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、直線に沿って延びる放電電極とこれと平行な対向電極との間で放電させ、これらの間にフィルム等の長尺処理物を通過させて帯電又は改質或いは除電する長尺処理物の放電処理装置において、放電電極をテープ状としてこれを繰り出す繰出ユニットと巻き取る巻取ユニットとの間に張架し、これら繰出ユニット及び巻取ユニットを繰出側及び巻取側のそれぞれの傾斜ステージ上に設置し、この傾斜ステージにて繰出ユニット及び巻取ユニットを傾動させることにより、テープ状の放電電極の幅方向の傾きを調整できるようにしたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、傾斜ステージを、微動ねじを回すことにより傾動テーブルの円弧状凸面がステージ本体の円弧状凹面に沿って摺動回転する構造としたものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、放電電極の長さ方向をX方向、これと直交し長尺処理物が移動する方向をY方向、これと直交し放電電極と対向電極とが向き合う方向をZ方向としたとき、繰出側及び巻取側の傾斜ステージを繰出側及び巻取側のそれぞれのX軸ステージ上に設置し、このX軸ステージにより繰出ユニット及び巻取ユニットとの間の間隔を調整できるようにしたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、繰出側及び巻取側のX軸ステージを繰出側及び巻取側のそれぞれのY軸ステージ上に設置し、このY軸ステージにより放電電極の位置を長尺処理物の移動方向に調整できるようにしたものである。
【0013】
請求項5に係る発明は、繰出側及び巻取側のY軸ステージを繰出側及び巻取側のそれぞれのZ軸ステージ上に設置し、このZ軸ステージにより放電電極と対向電極との間の間隔を調整できるようにしたものである。
【0014】
請求項6に係る発明は、繰出側及び巻取側のZ軸ステージを繰出側及び巻取側のそれぞれのY軸レールに摺動可能に搭載し、繰出ユニット及び巻取ユニットを、繰出側及び巻取側のそれぞれの傾斜ステージ、X軸ステージ、Y軸ステージ、Z軸ステージと共にY軸レールに沿って移動できるようにしたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放電電極をテープ状としたので、放電電流を大きくできるとともに、繰出ユニットから繰り出し、巻取ユニットで巻き取りことにより、劣化や汚れのない新しい部分で放電させることができるので、ピニング効果を高めることができ、それに加えて、繰出ユニット及び巻取ユニットを傾斜ステージで傾動させることにより、テープ状とした放電電極の幅方向の傾きを調整できるので、静電ピニング装置とした場合には成形されるシートの厚みを微妙に調整できる。また、表面改質装置とした場合には表面改質を微妙に調整でき、除電装置とした場合には除電効果を微妙に調整することができる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、傾斜ステージが、微動ねじを回すことにより傾動テーブルの円弧状凸面がステージ本体の円弧状凹面に沿って摺動回転する構造であるので、テープ状とした放電電極の幅方向の傾きを微動ねじで微妙にかつ簡単に調整することができる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、繰出ユニット及び巻取ユニットとの間の間隔をX軸ステージにより調整でき、請求項4に係る発明によれば、放電電極の位置をY軸ステージにより長尺処理物の移動方向に調整でき、請求項5に係る発明によれば、放電電極と対向電極との間の間隔をZ軸ステージにより調整できる。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、本装置の全体をY軸レールに沿って移動できるので、異常時に緊急に退避させてトラブルを最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
本実施例の放電処理装置は、放電電極として、例えば幅4mm、厚さ40μmの金属テープ(以下、「テープ電極」と言う)を用い、このテープ電極1を図1に示すように繰出ユニット2と巻取ユニット3との間に水平に張架し、繰出ユニット2の繰出リール2aから繰り出しながら巻取ユニット3の巻取リール3aで巻き取るようになっている。
【0021】
繰出ユニット2と巻取ユニット3とは、テープ電極1を案内する機構が若干異なるものの、ほぼ同じ構造で、互いに逆向きに対向させてあるとともに、繰出側及び巻取側とも同じ構造の複合ステージユニット5上に搭載されているので、図2〜図4も参照して巻取側の構造についてのみ詳述する。
【0022】
巻取ユニット3は、取付台6の正面に軸受けされた巻取リール3aを、取付台6の裏面に取り付けられたステッピングモータ7にて回転させてテープ電極1を自動的に巻き取るもので、その際、取付台6の側面に取り付けられた放電幅調整ユニット8中を貫通させ、さらに、取付台6の正面に軸支された複数の案内ローラ9で案内するようになっている。
【0023】
放電幅調整ユニット8は、テープ電極1を案内する案内溝10a及びラック10bを有する調整スライダ10を、カバー11から一部が突出するようにこれに摺動自在に装着するとともに、そのラック10aにカバー11内においてピニオン(図示せず)を噛み合わせ、このピニオンを摘み12で回すことにより、調整スライダ10を摺動させてこれで覆われるテープ電極1の長さを調整できるようにしたものである。テープ電極1はアースされた対向電極(図示せず)と対向してこれに向かって放電することになるが、調整スライダ10で覆われる長さ部分では放電しないことになるので、テープ電極1の有効放電長を、フィルム等の長尺処理物の幅に応じて対向電極の両端部で調整できることになる。
【0024】
複合ステージユニット5は、4種類のステージを積み重ねたもので、テープ電極1の長さ方向をX方向、これと直交し長尺処理物が移動する方向をY方向、これと直交しテープ電極1と対向電極とが向き合う方向をZ方向とすると、最上段のステージがY−Z座標面で傾動する傾斜ステージ13、これを搭載したその一つ下段のステージがX方向へスライドするX軸ステージ14、これを搭載したその一つ下段のステージがY方向へスライドするY軸ステージ15、これを搭載した最下段のステージがZ方向へ昇降するZ軸ステージ16となっており、巻取ユニット3は、傾斜ステージ13上に搭載されている。さらに、Z軸ステージ16は、Y軸レール17に沿ってY方向に摺動するY軸スライダ18上に搭載されており、巻取ユニット3は、複合ステージユニット5と共にY軸レール17に沿って前後に移動可能となっている。
【0025】
傾斜ステージ13は、ステージ本体13Aのアリ溝13aに傾動テーブル13Bのアリほぞ13bを摺動自在に嵌合させて、ウォームギアとウォームとを内部で噛み合せるとともに、傾動テーブル13Bの円弧状凸面となっている下面をステージ本体13Aの円弧状凹面となっている上面に摺動自在に合わせ、ステージ本体13Aに設けられた微動ねじ13cを回すことにより、傾動テーブル13Bがステージ本体13Aの円弧状凹面に沿って微傾動するようにしたもので、その角度を目盛で読み取れるようになっている。巻取ユニット3は、この傾斜ステージ13の傾動テーブル13Bの平らな上面上にブラケット19にて固定されている。
【0026】
X軸ステージ14とY軸ステージ15とは、一部を共通化した構造、すなわち、X軸微動ねじ20を回すことによりX軸スライドテーブル21がY軸スライドテーブル22上をX方向に摺動し、また、Y軸微動ねじ23を回すことによりY軸スライドテーブル22がベース24上をY方向に摺動するようになっている。傾斜ステージ13のステージ本体13Aは、X軸スライドテーブル21上に直接固定されている。
【0027】
Z軸ステージ16は、ベース25上に2組のレージトング機構26を介して昇降テーブル27を装着したもので、微動ねじ28を回してレージトング機構26を伸縮させることにより、昇降テーブル27の高さを微調整できるようにしたものである。Y軸ステージ15のベース24は昇降テーブル27上に直接固定されている。
【0028】
Z軸ステージ16のベース25は、Y軸レール17に沿って摺動するY軸スライダ18上に直接固定されている。Y軸レール17は、上レール部17aと一対の下レール部17bとに分割されている。Y軸スライダ18は、上レール部17aを貫通させる断面口形で、上レール部17aばかりでなく下レール部17bの上面に対しても摺動するようになっている。
【0029】
繰出ユニット2側も巻取ユニット3側と同様の構造になっており、上記のような調整を繰出ユニット2側と巻取ユニット3側のそれぞれで行える。
【0030】
従って、傾斜ステージ13の微動ねじ13cを回して傾動テーブル13Bの角度を微調整することにより、テープ電極1の幅方向の傾きを微調整でき、X軸微動ねじ20を回してX軸スライドテーブル21の位置をX方向に微調整することにより、繰出ユニット2と巻取ユニット3との間隔を微調整でき、Y軸微動ねじ23を回してY軸スライドテーブル22の位置をY方向に微調整することにより、繰出ユニット2と巻取ユニット3のY方向の位置を微調整でき、微動ねじ28を回して昇降テーブル27の高さを微調整することにより、繰出ユニット2及び巻取ユニット3のそれぞれの高さを微調整できる。
【0031】
また、両側のY軸スライダ18をY軸レール17に沿って同時に摺動させることにより、繰出ユニット2及び巻取ユニット3をそれぞれの複合ステージユニット5及びY軸スライダ18と共に大きく前後移動させることができる。その移動をモータ等を用いて自動的に行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例の放電処理装置の正面図である。
【図2】その巻取側の斜視図である。
【図3】同じく側面図である。
【図4】同じく平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 テープ電極(放電電極)
2 繰出ユニット
2a 繰出リール
3 巻取ユニット
3a 巻取リール
5 複合ステージユニット
6 取付台
7 ステッピングモータ
8 放電幅調整ユニット
9 案内ローラ
10 調整スライダ
10a 案内溝
10b ラック
11 カバー
12 摘み
13 傾斜ステージ
13A ステージ本体
13B 傾動テーブル
13a アリ溝
13b アリほぞ
13c 微動ねじ
14 X軸ステージ
15 Y軸ステージ
16 Z軸ステージ
17 Y軸レール
18 Y軸スライダ
19 ブラケット
20 X軸微動ねじ
21 X軸スライドテーブル
22 Y軸スライドテーブル
23 Y軸微動ねじ
24 ベース
25 ベース
26 レージトング機構
27 昇降テーブル
28 微動ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線に沿って延びる放電電極とこれと平行な対向電極との間で放電させ、これらの間にフィルム等の長尺処理物を通過させて帯電又は改質或いは除電する長尺処理物の放電処理装置において、前記放電電極をテープ状としてこれを繰り出す繰出ユニットと巻き取る巻取ユニットとの間に張架し、これら繰出ユニット及び巻取ユニットを繰出側及び巻取側のそれぞれの傾斜ステージ上に設置し、この傾斜ステージにて繰出ユニット及び巻取ユニットを傾動させることにより、前記テープ状の放電電極の幅方向の傾きを調整できるようにしたことを特徴とする長尺処理物の放電処理装置。
【請求項2】
傾斜ステージは、微動ねじを回すことにより傾動テーブルの円弧状凸面がステージ本体の円弧状凹面に沿って摺動回転するものであることを特徴とする請求項1に記載の長尺処理物の放電処理装置。
【請求項3】
放電電極の長さ方向をX方向、これと直交し長尺処理物が移動する方向をY方向、これと直交し放電電極と対向電極とが向き合う方向をZ方向としたとき、繰出側及び巻取側の傾斜ステージを繰出側及び巻取側のそれぞれのX軸ステージ上に設置し、このX軸ステージにより繰出ユニット及び巻取ユニットとの間の間隔を調整できるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の放電処理装置。
【請求項4】
繰出側及び巻取側のX軸ステージを繰出側及び巻取側のそれぞれのY軸ステージ上に設置し、このY軸ステージにより放電電極の位置を長尺処理物の移動方向に調整できるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の放電処理装置。
【請求項5】
繰出側及び巻取側のY軸ステージを繰出側及び巻取側のそれぞれのZ軸ステージ上に設置し、このZ軸ステージにより放電電極と対向電極との間の間隔を調整できるようにしたことを特徴とする請求項4に記載の放電処理装置。
【請求項6】
繰出側及び巻取側のZ軸ステージを繰出側及び巻取側のそれぞれのY軸レールに摺動可能に搭載し、繰出ユニット及び巻取ユニットを、繰出側及び巻取側のそれぞれの傾斜ステージ、X軸ステージ、Y軸ステージ、Z軸ステージと共にY軸レールに沿って移動できるようにしたことを特徴とする請求項5に記載の放電処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−296464(P2008−296464A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145336(P2007−145336)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000183738)春日電機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】