説明

長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属およびその製造方法

【課題】長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属およびその製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質金属の骨格表面がC:2.5〜15質量%を含有し、残部がシリカからなる成分組成を有するシリカコーティング層により被覆されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属およびその製造方法に関するものであり、このシリカコーティング多孔質金属は燃料電池のガス拡散層などに適用することができる。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のガス拡散層には多孔質金属の骨格表面にシリカをコーティングした親水性に優れたシリカコーティング多孔質金属が使用されている。この親水性に優れたシリカコーティング多孔質金属は、多孔質金属の骨格表面に適宜の方法でシリカをコーティングしたものであり、特にシラン、ジシラン、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、メチルトリメトキシシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、テトラメトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラエトキシシラン等のSi系化合物を原料とし、プラズマCVD法によってコーティングすることが好ましいとされている(特許文献1参照)。
【0003】
前記表面に開口し内部の空孔に連続している連続空孔を有する多孔質金属は、発泡金属が一層好ましく、この発泡金属は、原料粉末、水溶性樹脂結合剤、可塑剤、気泡剤および水を配合し混練して発泡スラリーを作製し、この発泡スラリーをキャリヤーシート上にドクターブレードなどにより薄板状に成形し、恒温・恒湿度槽において前記発泡スラリーに含まれる揮発性有機溶剤の蒸気圧および界面活性剤の起泡性を利用して発泡させ、さらに乾燥槽において乾燥させて発泡グリーン板を製造し、この発泡グリーン板を脱脂装置および焼成炉を通すことにより脱脂、焼成することにより製造されることも知られている。(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−100155号公報
【特許文献2】特開2004−43976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の多孔質金属の骨格表面にシリカをコーティングしたシリカコーティング多孔質金属は、長期間経過すると親水性が徐々に失われていく。特に、従来のシリカコーティング多孔質金属は燃料電池環境下におかれると親水性が短期間に失われるために、従来のシリカコーティング多孔質金属をガス拡散層として使用した燃料電池は、その特性が短期間で低下することは避けられなかった。したがって、長期間経過してもまた長期間燃料電池環境下に置かれても親水性が失われることの少ないシリカコーティング多孔質金属が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、一層長期間親水性が維持できるシリカコーティング多孔質金属を得るべく研究を行なった結果、
(イ)多孔質金属の骨格表面にシランカップリング剤を塗布したのち、このシランカップリング剤塗布層を280〜500℃で焼成すると、多孔質金属の骨格表面にC:2.5〜15質量%を含有し、残部がシリカからなる成分組成を有するシリカコーティング層が被覆されている多孔質金属が得られ、このCを含有したシリカコーティング層が骨格表面に形成されたシリカコーティング多孔質金属は、従来の骨格表面にシリカ層が形成されたシリカコーティング多孔質金属に比べて、親水性を一層長期間維持することができる、
(ロ)前記多孔質金属は、ステンレス鋼、ニッケル基合金、Cu、Ni、Ti、Agの内のいずれかであることが好ましい、
(ハ)前記(イ)または(ロ)記載のシリカコーティング多孔質金属は親水性を一層長期間維持できることから、これを燃料電池のガス拡散層として使用すると、燃料電池の高性能を一層長期間維持することができる、などの研究結果が得られたのである。
【0006】
この発明は、かかる研究結果に基づいてなされたものであって、
(1)多孔質金属の骨格表面がC:2.5〜15質量%を含有し、残部がシリカからなる成分組成を有するシリカコーティング層により被覆されている長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属、
(2)前記多孔質金属は、ステンレス鋼、ニッケル基合金、Cu、Ni、Ti、Agの内のいずれかからなる発泡金属である前記(1)記載の長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属、
(3)前記(1)または(2)記載の長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属からなる燃料電池のガス拡散層、に特徴を有するものである。
(4)多孔質金属の骨格表面にシランカップリング剤を塗布したのち、酸化性雰囲気中、温度:280〜500℃で焼成する長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属の製造方法、
(5)前記多孔質金属は、ステンレス鋼、ニッケル基合金、Cu、Ni、Ti、Agの内のいずれかからなる発泡金属である前記(4)記載の長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属の製造方法、に特徴を有するものである。
【0007】
この発明の長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属におけるシリカコーティング層は、C含有量が2.5質量%未満では、長期間親水性を維持することができないので好ましくなく、一方、C含有量が15質量%を越えると、コーティング層の親水性が得られなくなるので好ましくない。したがって、この発明のシリカコーティング多孔質金属におけるシリカコーティング層に含まれるC含有量を2.5〜15質量%に定めた。
また、この発明の長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属におけるシリカコーティング層は、Cを含むシランカップリング剤を酸化性雰囲気中(例えば、大気中)、温度:280〜500℃で焼成することにより作製することができる。前記焼成温度を前述のごとく限定した理由は、シランカップリング剤の焼成温度が280℃未満ではシランカップリング剤の分解が十分でないために、十分な親水性が得られないので好ましくなく、一方、500℃を越えるとコーティング層に含まれるC量が低くなるので長期間親水性を維持することができなくなるので好ましくないからである。
【0008】
この発明の長期間親水性が維持される多孔質金属を製造する際に使用するシランカップリング剤とは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のCを含有するSi系化合物である。
【発明の効果】
【0009】
この発明のシリカコーティング多孔質金属は、従来の親水性に優れたシリカコーティング多孔質金属と比べて長期間親水性が維持されるので、親水性に優れた多孔質金属を使用する各種産業、例えば、燃料電池産業などの発展に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施例1
原料粉末として平均粒径:10μmのチタン粉末、水溶性樹脂結合剤としてメチルセルロース:10%を含む水溶液、可塑剤としてエチレングリコール、気泡剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、発泡剤としてネオペンタンを用意し、これらを原料粉末:20質量%、水溶性樹脂結合剤:10質量%、可塑剤:1質量%、気泡剤:0.6質量%、残部:水となるように配合し、15分間混練し、発泡スラリーを作製した。得られた発泡スラリーをブレードギャップ:0.5mmでドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布し、恒温高湿度槽に供給し、そこで温度:35℃、湿度:90%、25分間保持することにより発泡させ、引き続いて温度:80℃、20分間保持の条件で温風乾燥を行い、スポンジ状グリーン成形体を作製した。この成形体をPETフィルムから剥し、アルミナ板上に載せ、Ar雰囲気中、温度:550℃、180分間保持の条件で脱脂し、引き続いて真空焼結炉で、雰囲気:5×10−3Pa、温度:1200℃、1時間保持の条件で焼結することにより気孔率:90%を有し、厚さ:1.0mmを有し表面に開口し内部の空孔に連続している連続空孔を有する多孔質発泡チタン板を作製した。得られた多孔質発泡チタン板を縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡チタン試験片を作製し、この試験片をシランカップリング剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を表1に示される倍率のエタノールで希釈した溶液に浸漬し、大気乾燥機にて50℃、10分間保持の条件で乾燥した。その後、これを大気中、温度:350℃、10分間保持の焼成を行い、骨格表面に厚さ:50nmを有するシリカコーティング層を形成した本発明シリカコーティング多孔質チタン1〜6および比較シリカコーティング多孔質チタン1〜4を作製した。この本発明シリカコーティング多孔質チタン1〜6および比較シリカコーティング多孔質チタン1〜4の骨格表面に形成されたシリカコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表1に示した。
【0011】
従来例1
実施例1で作製した多孔質発泡チタン試験片の骨格表面にプラズマCVDにより厚さ:50nmを有するシリカコーティング層を形成した従来シリカコーティング多孔質チタンを作製し、この従来シリカコーティング多孔質チタンの骨格表面に形成されたシリカコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表1に示した。
【0012】
このようにして作製した本発明シリカコーティング多孔質チタン1〜6、比較シリカコーティング多孔質チタン1〜4および従来シリカコーティング多孔質チタンを一日中大気中に放置したのち、これら多孔質チタンの上にスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表1に示した。
また、燃料電池環境通電後の親水性確認試験として、前記本発明シリカコーティング多孔質チタン1〜6、比較シリカコーティング多孔質チタン1〜4および従来シリカコーティング多孔質チタンを温度:50℃、pH=2に保持された硫酸溶液中に浸漬し、電位:800mV(対水素基準)を印加しながら24時間保持した後に試料を取り出し、蒸留水で十分に洗浄して大気中で乾燥し、この試料を用い、スポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表1に示した。
【0013】
【表1】

【0014】
表1に示される結果から、本発明シリカコーティング多孔質チタン1〜6は従来シリカコーティング多孔質チタンに比べて長期間親水性を維持できることが分かる。しかし、この発明の条件から外れた比較シリカコーティング多孔質チタン1〜4は親水性持続日数が減少することが分かる。
【0015】
実施例2
原料粉末として平均粒径:10μmのSUS316ステンレス鋼粉末を用いる以外は実施例1と同様にして気孔率:90%を有し、厚さ:1.0mmを有し表面に開口し内部の空孔に連続している連続空孔を有する多孔質発泡SUS316ステンレス鋼板を作製した。得られた多孔質発泡SUS316ステンレス鋼板を縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡SUS316ステンレス鋼試験片を作製し、この試験片をシランカップリング剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を表2に示される倍率のエタノールで希釈した溶液に浸漬し、大気乾燥機にて50℃、10分間保持の条件で乾燥した。その後、これを大気中、温度:350℃、10分間保持の焼成を行い、骨格表面に厚さ:50nmを有するシリカコーティング層を形成した本発明シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜6および比較シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜4を作製した。この本発明シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜6および比較シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜4の骨格表面に形成されたシリカコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表2に示した。
【0016】
従来例2
実施例2で作製した多孔質発泡SUS316ステンレス鋼試験片の骨格表面にプラズマCVDにより厚さ:50nmを有するシリカからなるコーティング層を形成した従来シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼を作製し、この従来シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼の骨格表面に形成されたコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表2に示した。
【0017】
このようにして作製した本発明シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜6、比較シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜4および従来シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼を一日中大気中に放置したのち、これら多孔質SUS316ステンレス鋼の上にスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表2に示した。
また、燃料電池環境通電後の親水性確認試験として、前記本発明シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜6、比較シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜4および従来シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼を温度:50℃、pH=2に保持された硫酸溶液中に浸漬し、電位:800mV(対水素基準)を引火しながら24時間保持した後に試料を取り出し、蒸留水で十分に洗浄して大気中で乾燥し、この試料を用い、スポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表2に示した。
【0018】
【表2】

【0019】
表2に示される結果から、本発明従来シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜6は従来シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼に比べて長期間親水性を維持できることが分かる。しかし、この発明の条件から外れた比較シリカコーティング多孔質SUS316ステンレス鋼1〜4は親水性持続日数が減少することが分かる。
【0020】
実施例3
原料粉末として平均粒径:10μmのニッケル粉末を用いる以外は実施例1と同様にして気孔率:90%を有し、厚さ:1.0mmを有し表面に開口し内部の空孔に連続している連続空孔を有する多孔質発泡ニッケル板を作製した。得られた多孔質発泡ニッケル板を縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡ニッケル試験片を作製し、この試験片をシランカップリング剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を表3に示される倍率のエタノールで希釈した溶液に浸漬し、大気乾燥機にて80℃、20分間保持の条件で乾燥した。その後、これを大気中、温度:350℃、10分間保持の焼成を行い、骨格表面に厚さ:50nmを有するコーティング層を形成した本発明シリカコーティング多孔質ニッケル1〜6および比較シリカコーティング多孔質ニッケル1〜4を作製した。この本発明シリカコーティング多孔質ニッケル1〜6および比較シリカコーティング多孔質ニッケル1〜4の骨格表面に形成されたコーティング層に成分組成を測定し、その結果を表3に示した。
【0021】
従来例3
実施例2で作製した多孔質発泡ニッケル試験片の骨格表面にプラズマCVDにより厚さ:50nmを有するシリカからなるコーティング層を形成した従来シリカコーティング多孔質ニッケルを作製し、この従来シリカコーティング多孔質ニッケルの骨格表面に形成されたコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表3に示した。
【0022】
このようにして作製した本発明シリカコーティング多孔質ニッケル1〜6、比較シリカコーティング多孔質ニッケル1〜4および従来シリカコーティング多孔質ニッケルを一日中大気中に放置したのち、これら多孔質ニッケルの上にスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表3に示した。
また、燃料電池環境通電後の親水性確認試験として、前記本発明シリカコーティング多孔質ニッケル1〜6、比較シリカコーティング多孔質ニッケル1〜4および従来シリカコーティング多孔質ニッケルを温度:50℃、pH=2に保持された硫酸溶液中に浸漬し、電位:800mV(対水素基準)を引火しながら24時間保持した後に試料を取り出し、蒸留水で十分に洗浄して大気中で乾燥し、この試料を用い、スポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表3に示した。
【0023】
【表3】

【0024】
表3に示される結果から、本発明従来シリカコーティング多孔質ニッケル1〜6は従来シリカコーティング多孔質ニッケルに比べて長期間親水性を維持できることが分かる。しかし、この発明の条件から外れた比較シリカコーティング多孔質ニッケル1〜4は親水性持続日数が減少することが分かる。
【0025】
実施例4
原料粉末として平均粒径:10μmの銅粉末、水溶性樹脂結合剤としてメチルセルロース:10%を含む水溶液、可塑剤としてエチレングリコール、気泡剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、発泡剤としてネオペンタンを用意し、これらを原料粉末:20質量%、水溶性樹脂結合剤:10質量%、可塑剤:1質量%、気泡剤:0.6質量%、残部:水となるように配合し、15分間混練し、発泡スラリーを作製した。得られた発泡スラリーをブレードギャップ:0.5mmでドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布し、恒温高湿度槽に供給し、そこで温度:35℃、湿度:90%、25分間保持することにより発泡させ、引き続いて温度:80℃、20分間保持の条件で温風乾燥を行い、スポンジ状グリーン成形体を作製した。この成形体をPETフィルムから剥し、アルミナ板上に載せ、Ar雰囲気中、温度:550℃、180分間保持の条件で脱脂し、引き続いて真空焼結炉で、雰囲気:5×10−3Pa、温度:850℃、1時間保持の条件で焼結することにより気孔率:90%を有し、厚さ:1.0mmを有し表面に開口し内部の空孔に連続している連続空孔を有する多孔質発泡銅板を作製した。得られた多孔質発泡銅板を縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡銅試験片を作製し、この試験片をシランカップリング剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を表4に示される倍率のエタノールで希釈した溶液に浸漬し、大気乾燥機にて80℃、10分間保持の条件で乾燥した。その後、これを大気中、温度:350℃、10分間保持の焼成を行い、骨格表面に厚さ:50nmを有するコーティング層を形成した本発明シリカコーティング多孔質銅1〜6および比較シリカコーティング多孔質銅1〜4を作製した。この本発明シリカコーティング多孔質銅1〜6および比較シリカコーティング多孔質銅1〜4の骨格表面に形成されたコーティング層に成分組成を測定し、その結果を表4に示した。
【0026】
従来例4
実施例4で作製した多孔質発泡銅試験片の骨格表面にプラズマCVDにより厚さ:50nmを有するシリカからなるコーティング層を形成した従来シリカコーティング多孔質銅を作製し、この従来シリカコーティング多孔質銅の骨格表面に形成されたコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表4に示した。
【0027】
このようにして作製した本発明シリカコーティング多孔質銅1〜6、比較シリカコーティング多孔質銅1〜4および従来シリカコーティング多孔質銅を一日中大気中に放置したのち、これら多孔質銅の上にスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表4に示した。
また、燃料電池環境通電後の親水性確認試験として、前記本発明シリカコーティング多孔質銅1〜6、比較シリカコーティング多孔質銅1〜4および従来シリカコーティング多孔質銅を温度:50℃、pH=2に保持された硫酸溶液中に浸漬し、電位:800mV(対水素基準)を引火しながら100時間保持した後に試料を取り出し、蒸留水で十分に洗浄して大気中で乾燥し、この試料を用い、スポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表4に示した。
【0028】
【表4】

【0029】
表4に示される結果から、本発明従来シリカコーティング多孔質銅1〜6は従来シリカコーティング多孔質銅に比べて長期間親水性を維持できることが分かる。しかし、この発明の条件から外れた比較シリカコーティング多孔質銅1〜4は親水性持続日数が減少することが分かる。
【0030】
実施例5
原料粉末として平均粒径:10μmの銀粉末を用い、焼結温度を850℃とする以外は実施例4と同様にして気孔率:90%を有し、厚さ:1.0mmを有し表面に開口し内部の空孔に連続している連続空孔を有する多孔質発泡銀板を作製した。得られた多孔質発泡銀板を縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡銀試験片を作製し、この試験片をシランカップリング剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を表5に示される倍率のエタノールで希釈した溶液に浸漬し、大気乾燥機にて50℃、10分間保持の条件で乾燥した。その後、これを大気中、温度:350℃、10分間保持の焼成を行い、骨格表面に厚さ:50nmを有するコーティング層を形成した本発明シリカコーティング多孔質銀1〜6および比較シリカコーティング多孔質銀1〜4を作製した。この本発明シリカコーティング多孔質銀1〜6および比較シリカコーティング多孔質銀1〜4の骨格表面に形成されたコーティング層に成分組成を測定し、その結果を表4に示した。
【0031】
従来例5
実施例5で作製した多孔質発泡銀試験片の骨格表面にプラズマCVDにより厚さ:50nmを有するシリカからなるコーティング層を形成した従来シリカコーティング多孔質銀を作製し、この従来シリカコーティング多孔質銀の骨格表面に形成されたコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表5に示した。
【0032】
このようにして作製した本発明シリカコーティング多孔質銀1〜6、比較シリカコーティング多孔質銀1〜4および従来シリカコーティング多孔質銀を一日中大気中に放置したのち、これら多孔質銀の上にスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表5に示した。
また、燃料電池環境通電後の親水性確認試験として、前記本発明シリカコーティング多孔質銀1〜6、比較シリカコーティング多孔質銀1〜4および従来シリカコーティング多孔質銀を温度:50℃、pH=2に保持された硫酸溶液中に浸漬し、電位:800mV(対水素基準)を引火しながら100時間保持した後に試料を取り出し、蒸留水で十分に洗浄して大気中で乾燥し、この試料を用い、スポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表5に示した。
【0033】
【表5】

【0034】
表5に示される結果から、本発明従来シリカコーティング多孔質銀1〜6は従来シリカコーティング多孔質銀に比べて長期間親水性を維持できることが分かる。しかし、この発明の条件から外れた比較シリカコーティング多孔質銀1〜4は親水性持続日数が減少することが分かる。
【0035】
実施例6
原料粉末として平均粒径:10μmのNW6022ニッケル基合金粉末を用いる以外は実施例1と同様にして気孔率:90%を有し、厚さ:1.0mmを有し表面に開口し内部の空孔に連続している連続空孔を有する多孔質発泡SUS316ステンレス鋼板を作製した。得られた多孔質発泡NW6022ニッケル基合金板を縦:30mm、横:30mmの寸法になるように切断して多孔質発泡NW6022ニッケル基合金試験片を作製し、この試験片をシランカップリング剤(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を表2に示される倍率のエタノールで希釈した溶液に浸漬し、大気乾燥機にて50℃、10分間保持の条件で乾燥した。その後、これを大気中、温度:350℃、10分間保持の焼成を行い、骨格表面に厚さ:50nmを有するシリカコーティング層を形成した本発明シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜6および比較シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜4を作製した。この本発明シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜6および比較シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜4の骨格表面に形成されたシリカコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表6に示した。
【0036】
従来例6
実施例6で作製した多孔質発泡NW6022ニッケル基合金試験片の骨格表面にプラズマCVDにより厚さ:50nmを有するシリカからなるコーティング層を形成した従来シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金を作製し、この従来シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金の骨格表面に形成されたコーティング層の成分組成を測定し、その結果を表6に示した。
【0037】
このようにして作製した本発明シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜6、比較シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜4および従来シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金を一日中大気中に放置したのち、これら多孔質NW6022ニッケル基合金の上にスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表6に示した。
また、燃料電池環境通電後の親水性確認試験として、前記本発明シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜6、比較シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜4および従来シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金を温度:50℃、pH=2に保持された硫酸溶液中に浸漬し、電位:800mV(対水素基準)を引火しながら24時間保持した後に試料を取り出し、蒸留水で十分に洗浄して大気中で乾燥し、この試料を用い、スポイトにて蒸留水0.005mlを滴下し、蒸留水が吸い込まれるか液滴のまま残るかによって親水性があるかないかを判断し、このスポイトにて蒸留水0.005mlを滴下する操作を毎日繰り返し行ない、親水性がなくなるまで続け、親水性が保持される日数を表6に示した。
【0038】
【表6】

【0039】
表6に示される結果から、本発明従来シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜6は従来シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金に比べて長期間親水性を維持できることが分かる。しかし、この発明の条件から外れた比較シリカコーティング多孔質NW6022ニッケル基合金1〜4は親水性持続日数が減少することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質金属の骨格表面がC:2.5〜15質量%を含有し、残部がシリカからなる成分組成を有するシリカコーティング層により被覆されていることを特徴とする長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属。
【請求項2】
前記多孔質金属は、ステンレス鋼、ニッケル基合金、Cu、Ni、Ti、Agの内のいずれかからなる発泡金属であることを特徴とする請求項1記載の長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属。
【請求項3】
請求項1または2記載の長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属からなる燃料電池のガス拡散層。
【請求項4】
多孔質金属の骨格表面にシランカップリング剤を塗布したのち、酸化性雰囲気中、温度:280〜500℃で焼成することを特徴とする長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質金属は、ステンレス鋼、ニッケル基合金、Cu、Ni、Ti、Agの内のいずれかからなる発泡金属であることを特徴とする請求項4記載の長期間親水性が維持されるシリカコーティング多孔質金属の製造方法。

【公開番号】特開2008−195016(P2008−195016A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34902(P2007−34902)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】