説明

間欠塗工方法及び装置

【課題】基材に形成される塗工域の始端縁の塗工膜厚みを中間域の塗工膜厚みに近似させると共に塗工域の始端縁の塗工膜厚みを幅方向に沿って均一する。
【解決手段】 基材Wを塗工切替用ロール3の進退で後退位置Bと塗工位置Aとの間で移動させて、走行中の基材Wに塗工域Kと非塗工域Jとを交互に繰返すリバースロール方式の間欠塗工方法において、塗工操作は、前進で塗工位置Aへ至った基材Wの走行を停止させ又は停止に近い状態まで減速させることで、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液Qからなる連続した初期メニスカスQaを形成し、その後に基材Wを走行させること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール外周面上の凹部に塗工液を担持させた塗工ロールの回転方向と長尺シート状の基材の非塗工面側を案内する案内ロールの回転方向とが同一方向となる状態で基材Wを走行させつつ、塗工ロールの外周面に基材の塗工面側を接触若しくは接近させ又は離反させることで、基材の塗工面側に塗工域と非塗工域とを交互に形成するリバースロール方式の間欠塗工方法及び間欠塗工装置に関するものである。塗工ロールは、ロール外周面上に多数の点状又は螺旋状の凹部を刻設したグラビアロール、又は芯金にワイヤーを巻回することで密着隣接するワイヤーの間にワイヤー巻回方向に沿って形成した螺旋状の凹部をロール外周面上に設けたワイヤー巻回ロールが採用されている。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載のリバースロール方式の間欠塗工装置は、基材走行路の非塗工面側を形成するように走行方向へ向かって順番に設けられた定位置の上流側の基準ロール、進退自在な塗工切替用ロール(文献中に「作動ローラ」と記載)、進退自在な張力調整用ロール(文献中に「テンションローラ」と記載)及び定位置の下流側のガイドロールからなる案内ロールと、基準ロールと塗工切替用ロールとの間であって基材走行路の塗工面側の定位置に設けられ、案内ロールの回転方向と同一方向へ回転する塗工ロール(文献中に「塗布ローラ」と記載)と、塗工切替用ロールを基材走行路の非塗工面側から塗工面側へ向かう方向に沿って進退させるサーボモータと、張力調整用ロールを基材走行路の非塗工面側から塗工面側へ向かって押圧するエアーシリンダとを備え、塗工切替用ロールをサーボモータの回転力で進退させると共に張力調整用ロールにエアーシリンダの押圧力をかけるようにしてある。この間欠塗工装置は、基準ロールと塗工切替用ロールに掛け渡した基材の部分を塗工ロールに接触させるリバースキス方式となる。
【0003】
上記リバースロール方式の間欠塗工装置による間欠塗工方法は、回転する塗工ロールの外周面上の凹部に塗工剤を入れ込むように塗工剤付着装置で付着させた後に余分な塗工液をドクターブレードで掻取って外周面上の凹部内に塗工液を担持させ、回転する塗工ロールの外周面上に走行中の基材を接触又は接近させて基材の表面に塗工液を転写して塗工域を形成し、次に、塗工切替用ロールを所定のタイミングで基材の表面(塗工面)から裏面(非塗工面)へ向かう方向へ後退させて基材を塗工ロールから離反させ、これに追従して張力調整用ロールを基材の裏面から表面へ向かう方向へ前進させて基材に張力を付与して非塗工域を形成し、続けて、塗工切替用ロールを所定のタイミングで基材の裏面から表面へ向かう方向へ前進させて基材を塗工ロールの外周面上に接触又は接近させ、これに追従して張力調整用ロールを基材の表面から裏面へ向かう方向へ後退させることを順次繰り返すことで、基材の表面に塗工域と非塗工域を交互に形成すると共に、基材に負荷される張力が常に一定となるように、塗工切替用ロールの前進・後退に連動して張力調整用ロールを後退・前進させるように制御している。
【0004】
張力調整用ロールに押圧力をかけるエアーシリンダの制御は、塗工切替用ロール用サーボモータを回転制御するタイミングでシリンダ作動部を介してエアーシリンダを作動させて、張力調整用ロールを基材の表面から裏面へ向かう後退方向又は基材の裏面から表面へ向かう前進方向へ移動ないし変位させる制御を開始すると共に、基材に負荷されている張力による反力に対応したエアーシリンダのエアー圧力を検出する圧力検出部の検出値が常に一定値になるようにシリンダ作動部を介しエアーシリンダをフィードバック制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−117973
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のリバースロール方式の間欠塗工装置による塗工方法では、基材の塗工面側に形成される塗工域の塗工始端縁の塗工膜厚みが、塗工始端縁と塗工終端縁の中間の塗工膜厚(以下、「中間塗工膜厚み」と言う。)より薄く且つ基材幅方向(塗工ローラの回転中心線に沿う方向)に沿って不均一となる問題がある。また、従来の塗工方法では、幅寸法の大きな基材において、塗工域の塗工始端縁及び塗工終端縁が基材幅方向に沿って直線状にならずに大きく湾曲する問題がある。これらの問題は、後行程等で不都合を招くことがあるため、解決させたい要請がある。
【0007】
そこで、発明者は、問題解決のために幾多の試験を繰り返して問題の原因を究明し、本発明の創作に至った。前者の問題の原因は、塗工剤付着装置で塗工ロールの外周面上に付着させた余分な塗工液をドクターブレードで掻取った塗工ロールの外周面上に、塗工液が担持されている部分(塗工ロールの外周面上の凹部)と担持されていない部分(塗工ロールの外周面上の凹部でない部分)とが交互に基材幅方向に沿って形成されていること、及び、所定の中間塗工膜厚み寸法の塗工膜を形成するように、基材の走行速度と塗工ロールの回転速度が決定されていることによるものである。すなわち、塗工ロールの外周面と基材の塗工面の間の間隙のうち塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間について、塗工開始直後のときには、所定塗工厚みに対処できる十分な量の塗工液からなる液体架橋(メニスカス)が幅方向全域にわたって均一な分布で形成されていないのに対して、中間塗工膜厚みを形成しているときには、十分な量の塗工液からなる液体架橋(メニスカス)が幅方向全域にわたって均一に分布する連続状に形成されているためである。
【0008】
また、後者の問題の原因は、水平成分を含む進行方向へ走行する基材が、走行方向に沿う長手方向及び長手方向に直交する幅方向について、走行方向の張力の大きさに応じた撓み変形が生じているためである。幅方向の撓み変形については、基材の両耳端側から中央部へ向かって行く程に基材自重による撓み量が次第に大きくなると共に、低張力状態における中央部の撓み量が高張力状態に比べて大きくなり、走行中の基材について、幅方向の中央部が撓んだ状態で塗工ロールの外周面上の塗工液に対する接近を進行させると、塗工液への接触が幅方向の撓み量の大きな中央部から始まって両端側へ移行するのに伴い、図9(A)に示す如く、塗工域の始端縁が走行方向へ突出する湾曲状態となり、逆に、走行中の基材について、塗工ロールの外周面上の塗工液からの離反を進行させると、塗工液からの離反が撓み量の小さな両側から始まって中央部へ移行することになり、塗工域の終端縁が走行方向と逆方向へ突出する湾曲状態となるためである。
【0009】
基材は、塗工中のおける走行方向の張力について、基材表面(塗工面)に塗工ロールの外周面による擦り傷を生じさせることなく、且つ塗工ロールの外周面と基材の間で最適な液体架橋(メニスカス)を形成させつつ最適塗工状態の維持を図るためには、高い値に設定することができない。従来の間欠塗工装置による間欠塗工方法は、張力調整用ロールの制御により基材に負荷される走行方向の張力を常に一定に保持させるようにしているため、高い値に設定することなく最適塗工状態の維持のための低い値に設定しなければならないので、塗工域の始端縁及び終端縁を大きく湾曲させることになる。
【0010】
本発明は、上記要請に応えるために、基材の塗工面側に形成される塗工域の始端縁の塗工膜厚みを塗工域の中間塗工膜厚みに近似させると共に始端縁の塗工膜厚みを幅方向に沿って均一するリバースロール方式の間欠塗工方法及び間欠塗工装置の提供、並びに、リバースキス方式において塗工域の始端縁及び終端縁について大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができるリバースロール方式の間欠塗工方法及び間欠塗工装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
基材に形成される塗工域の始端縁の塗工膜厚みを中間域の塗工膜厚みに近似させると共に塗工域の始端縁の塗工膜厚みを幅方向に沿って均一するために請求項1記載の本発明が採用した手段は、図1乃至図12に示す如く、ロール外周面6a上の凹部6b(図7又は図12参照)に塗工液Qを担持させて塗工ロール6を回転させつつ、基材Wの非塗工面Wb側を案内する進退自在な塗工切替用ロール(図1〜9に示す符号3又は図10〜12に示す符号63)に案内させて塗工切替用ロール3又は63の回転方向(図6又は図11に示す矢符H方向)が塗工ロール6の回転方向(矢符U方向)と同一方向となるように基材Wを走行させ、塗工切替用ロール3又は63の移動で基材Wを塗工ロール6に向かって後退位置B(図3又は図10参照)から塗工位置A(図5又は図11参照)まで前進させて、走行中の基材Wの塗工面Wa側に塗工ロール6上の塗工液Qを転写塗工して塗工域K(図9(B)参照)を形成する塗工操作と、塗工切替用ロール3又は63の移動で基材Wを塗工位置A(図5又は図11参照)から後退位置B(図3又は図10参照)まで後退させて、走行中の基材Wの塗工面Wa側に非塗工域J(図9(B)参照)を形成する非塗工操作とを交互に繰返すリバースロール方式の間欠塗工方法において、前記塗工操作は、前進で塗工位置Aへ至った基材Wの走行を停止させ又は停止に近い状態まで減速させることで(図7(A)及び図8(E)参照)、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液Qからなる連続した筋状の初期メニスカスQa(図7(A)及び図12(A)参照)を形成し、その後に基材Wを走行させる(図7(B)及び図12(B)参照)ことを特徴とするリバースロール方式の間欠塗工方法である。
【0012】
塗工操作時に塗工ロールの外周面に基材を掛け渡すように巻回させるリバースキス方式とするために請求項2記載の本発明が採用した手段は、図1乃至図9に示す如く、基材Wの非塗工面Wb側を案内する案内ロール群20として、基材走行方向Sへ向かって順番に設けた定位置の上流側基準ロール2、進退自在な前記塗工切替用ロール3及び定位置の下流側基準ロール5を用い、前記塗工ロール6を上流側基準ロール2と塗工切替用ロール3の間に配置し、前記塗工操作では、塗工切替用ロール3を基材Wの非塗工面Wb側から塗工面Wa側へ向かって非塗工操作位置D(図4(A)参照)から塗工操作位置Eまで前進させ、前記非塗工操作では、塗工切替用ロール3を基材Wの塗工面Wa側から非塗工面Wb側へ向かって塗工操作位置Eから非塗工操作位置Dまで後退させる請求項1記載のリバースロール方式の間欠塗工方法である。
【0013】
なお、請求項2記載のリバースキス方式の間欠塗工方法において、案内ロール群20よりも基材走行方向Sの上流側に、回転駆動される基材送りロール21を配置し、基材送りロール21の回転速度の変更で、基材Wの走行を停止させ又は停止に近い状態まで減速させ、その後に基材Wを走行させることもある。
【0014】
リバースキス方式において塗工域の始端縁及び終端縁について大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができるようにするために請求項3記載の本発明が採用した手段は、図1乃至図9に示す如く、前記塗工切替用ロール3と前記下流側基準ロール5の間に、基材Wの非塗工面Wb側を案内する進退自在な張力調整用ロール4を配置し、前記塗工操作における塗工ロール6上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの接触を始めさせる時イ(図8(C)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T1、及び前記非塗工操作おける塗工ロール6の外周面上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの離反を始めさせる時ロ(図8(C)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T2の各時間内おける基材Wの張力値が、これら設定時間以外における張力値よりも増大するように、塗工切替用ロール3の進退移動に追従して張力調整用ロール4の進退位置を制御する請求項2記載のリバースロール方式の間欠塗工方法である。
【0015】
塗工ロールにグラビアロールを用いると共に塗工切替用ロールに巻回している基材の部分を塗工ロールに接近又は離反させるリバースグラビア方式とするために請求項4記載の本発明が採用した手段は、図10乃至図12に示す如く、前記塗工ロール6は外周面6a上に多数の凹部6bを刻設したグラビアロールを用い、前記塗工切替用ロール63の移動について、前記塗工操作では、塗工切替用ロール63に巻回している基材Wの部分を塗工ロール6から離反させる非塗工操作位置D(図10参照)から該基材Wの部分を塗工ロール6の外周面に転写塗工可能に接近させる塗工操作位置E(図11参照)まで前進させ、前記非塗工操作では、塗工切替用ロール63を塗工操作位置Eから非塗工操作位置Dまで後退させる請求項1記載のリバースロール方式の間欠塗工方法である。
【0016】
なお、請求項4記載のリバースロール方式の間欠塗工方法において、回転駆動される塗工切替用ロール63の回転速度の変更で、基材Wの走行を停止させ又は停止に近い状態まで減速させ、その後に基材Wを走行させることもある。
【0017】
二本のロールに掛け渡した基材を塗工ロールの外周面上に接触させるリバースキス方式において、基材に形成される塗工域の始端縁の塗工膜の膜厚みを塗工域の中間塗工膜厚みに近似させると共に塗工域の始端縁の膜厚みを均一にできるようにするために請求項5記載の本発明が採用した手段は、図1乃至図9に示す如く、基材走行路Rを形成する上流側の基材送りロール21と、基材送りロール21よりも基材走行路Rの下流側の非塗工面Rb側に基材走行方向Sへ向かって順番に設けた定位置の上流側基準ロール2、進退自在な塗工切替用ロール3及び定位置の下流側基準ロール5と、上流側基準ロール2と塗工切替用ロール3の間の基材走行路Rの塗工面Ra側の定位置に塗工切替用ロール3の回転方向H(図6参照)と同一方向へ回転するように配置され、ロール外周面6a上に凹部6b(図7参照)を設けた塗工ロール6と、塗工切替用ロール3を基材走行路Rの非塗工面Rb側から塗工面Ra側へ向かって非塗工操作位置D(図4(A)参照)から塗工操作位置Eまで前進させる塗工操作及びこの間で塗工切替用ロール3を逆方向へ向かって後退させる非塗工操作を交互に繰り返す塗工切替用ロール用操作装置7と、基材送りロール21の回転駆動及び塗工切替用ロール用操作装置7の操作を制御する制御装置9とを備えたリバースロール方式の間欠塗工装置であって、制御装置9は、塗工切替用ロール用操作装置7の塗工操作で、基材走行路Rを走行する基材Wの塗工面Wa側を塗工ロール6の外周面6a上に接触を始めさせるときに、基材送りロール21の基材送り速度を減速させて停止又は停止に近い状態にして、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって連続した筋状の塗工液Qからなる初期メニスカスQa(図7(A)参照)を形成する初期メニスカス形成時間T4(図8(E)参照)を設け、初期メニスカス形成時間T4が経過するときに、基材送りロール21の基材送り速度を増速させて基材Wを走行させる(図7(B)参照)ようにしたことを特徴とするリバースロール方式の間欠塗工装置である。
【0018】
リバースキス方式において塗工域の始端縁及び終端縁について大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができるようにするために請求項6記載の本発明が採用した手段は、図1乃至図9に示す如く、前記塗工切替用ロール3と前記下流側基準ロール5の間に配置して基材走行路Rの非塗工面Rb側を形成する進退自在な張力調整用ロール4と、張力調整用ロール4を基材走行路Rの塗工面Ra側から非塗工面Rb側へ向かって非塗工操作位置Fから塗工操作位置Gまで後退させると共にこの間を逆方向へ向かって前進させる張力調整用ロール用操作装置8とを備え、前記制御装置9は、張力調整用ロール用操作装置8の操作も併せて制御し、上流側基準ロール2から下流側基準ロール4へ至る基材パスラインPLの寸法値について、前記塗工操作において塗工ロール6の外周面6a上に基材Wの塗工面Wa側を接触を始めさせる時イ(図8(B)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T1、及び前記非塗工操作おける塗工ロール6の外周面6aから基材Wの塗工面Wa側の離反を始めさせる時ロ(図8(B)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T2の各時間内におけ寸法値が、これら設定時間以外における寸法値よりも増大するように、塗工切替用ロール3の進退移動に追従して張力調整用ロール4の進退位置の制御を行なう請求項6記載のリバースロール方式の間欠塗工装置である。
【0019】
塗工ロールにグラビアロールを用いると共に塗工切替用ロールに巻回している基材の部分を塗工ロールに接近又は離反させるリバースグラビア方式において、基材に形成される塗工域の始端縁の塗工膜の膜厚みを塗工域の中間塗工膜厚みに近似させると共に塗工域の始端縁の膜厚みを均一にできるようにするために請求項7記載の本発明が採用した手段は、図10乃至図12に示す如く、基材走行路Rの非塗工面Rb側を形成する進退自在な塗工切替用ロール63と、基材走行路Rの塗工面Ra側の定位置に塗工切替用ロール63の回転方向と同一方向へ回転するように配置され、ロール外周面6a上に凹部6b(図7参照)を刻設したグラビアロールからなる塗工ロール6と、塗工切替用ロール63を基材走行路Rの非塗工面Rb側から塗工面Ra側へ向かって、塗工切替用ロール63の外周面上に形成される基材走行路Rの部分を塗工ロール6から離反させる非塗工操作位置D(図10参照)から該基材走行路Rの部分を塗工ロール6の外周面に転写塗工可能に接近を始めさせる塗工操作位置E(図11参照)まで前進させる塗工操作及びこの間で塗工切替用ロール63を逆方向へ向かって後退させる非塗工操作を交互に繰り返す塗工切替用ロール用操作装置67と、塗工切替用ロール63の回転駆動及び塗工切替用ロール用操作装置67の操作を制御する制御装置9とを備えたリバースロール方式の間欠塗工装置であって、前記制御装置9は、塗工切替用ロール用操作装置67の塗工操作で、前記基材走行路Rの部分を塗工ロール6の外周面6aに転写塗工可能に接近させるときに、塗工切替用ロール63の基材送り速度を減速させて停止又は停止に近い状態にして、塗工切替用ロール63に巻回されている基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって連続した筋状の塗工液Qからなる初期メニスカスQa(図12(A)参照)を形成する初期メニスカス形成時間T4(図8(E)参照)を設け、初期メニスカス形成時間T4が経過するときに、塗工切替用ロール63の基材送り速度を増速させて基材Wを走行させる(図12(B)参照)ようにしたことを特徴とするリバースロール方式の間欠塗工装置である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工方法は、塗工操作における塗工開始のときに、基材の走行速度を停止又は停止に近い状態まで減速させることで、基材の塗工面と塗工ロールの外周面との間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液からなる連続した筋状の初期メニスカスを形成し、その後に基材を増速させて走行させると、基材に形成される塗工域の始端縁が、初期メニスカスに基づいて塗工域の中間域の塗工状態と同様な状態で塗工を開始させることになり、塗工域の始端縁の塗工膜厚みを中間域の塗工膜厚みに近似させることができると共に塗工域の始端縁の塗工幅方向に沿って塗工膜厚みを均一にできる。
【0021】
請求項2記載の本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工方法は、基材走行中に、塗工切替用ロールの前進による塗工操作と、塗工切替用ロールの後退による非塗工操作とを交互に行うことで、上流側基準ロールと塗工切替用ロールの間に塗工ロールを配置したリバースキス方式で間欠塗工させることができる。
【0022】
請求項3記載の本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工方法は、塗工ロールの外周面上の塗工液に対する基材の塗工面の接触を始めさせる時の前後の設定時間及び塗工ロールの外周面上から基材の塗工面を離反させ始める時の前後の設定時間の各時間内において、基材の張力についてこれら設定時間以外における張力値よりも増大させて、基材幅方向の撓み量を小さくすることで、塗工ロール上の塗工液に対する基材幅方向の両端側と中央部との接触を始める時間差又は離反を始める時間差の各々を小さくして、従来の基材に負荷される張力が常時一定となる場合に比べて、塗工域の始端縁及び終端縁について大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができる。
【0023】
請求項4記載の本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工方法は、塗工切替ロールを前進させる塗工操作と、塗工切替ロールを後退させる非塗工操作とを交互に行うことで、塗工ロールにグラビアロールを用いると共に、塗工ロールに接近又は離反する塗工切替ロールに基材を巻回させて案内させたリバースグラビア方式で間欠塗工させることができる。
【0024】
請求項5及び請求項7記載の本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工装置は、制御装置の制御により、塗工操作における塗工開始のときに、基材の走行速度を停止又は停止に近い状態まで減速させることで、基材の塗工面と塗工ロールの外周面との間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって連続した筋状の塗工液からなる初期メニスカスを形成し、その後に基材を増速させて走行させると、基材に形成される塗工域の始端縁が、連続した筋状の塗工液からなる初期メニスカスに基づいて塗工域の中間域の塗工状態と同様な状態で塗工を開始させることになり、塗工域の始端縁の塗工膜厚みを中間域の塗工膜厚みに近似させることができると共に塗工域の始端縁の塗工幅方向に沿って塗工膜厚みを均一にできる。
【0025】
請求項5記載の本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工装置は、上流側基準ロールと塗工切替用ロールとの間に掛け渡した基材の塗工面側を塗工ロールの外周面上に接触させリバースキス方式の塗工装置とすることができる。
【0026】
請求項6記載の本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工装置は、塗工ロールの外周面に塗工液を担持させて基材走行路を走行する基材に間欠塗工を行なうときに、塗工ロールの外周面上の塗工液に対する基材の塗工面の接触を始めさせる時の前後の設定時間及び塗工ロールの外周面上の塗工液から基材の塗工面を離反させ始める時の前後の設定時間の各時間内において、基材パスラインの寸法についてこれら設定時間以外における寸法値よりも増大させるのに伴い、基材の張力をこれら設定時間以外における張力値よりも増大させて、基材幅方向の撓み量を小さくすることで、塗工ロール上の塗工液に対する基材幅方向の両耳端側と中央部との接触を始める時間差又は離反を始める時間差の各々を小さくして、従来の基材に負荷される張力が常に一定となる場合に比べて、塗工域の始端及び終端について大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができる。
【0027】
請求項7記載の本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工装置は、制御装置で塗工切替用ロールを前進させる塗工操作と、塗工切替用ロールを後退させる非塗工操作とを交互に行うことで、塗工ロールにグラビアロールを用いると共に、塗工ロールに接近又は離反する塗工切替用ロールに基材を巻回させて案内させたリバースグラビア方式の塗工装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るリバースロール方式の間欠塗工方法及びリバースロール方式の間欠塗工装置(以下、「本発明塗工方法」及び「本発明塗工装置」と言う。)の第1の実施の形態を示すものであって、本発明塗工装置1の待機状態を示す正面図である。
【図2】図1のC2−C2線における右側断面図であって、昇降フレーム13が待機位置Mに位置している状態を示している。
【図3】同実施の形態における本発明塗工装置1の非塗工操作の状態(基材Wが塗工ロール6の外周面6a上の塗工液(図示略)から離反している状態)を示す右側断面図である。
【図4】同実施の形態における本発明塗工装置1の要部を拡大したものであって、図(A)は非塗工操作の状態を実線で示すと共に塗工操作の状態(基材Wが塗工ロール6の外周面6a上の塗工液(図示略)に接触している状態)を破線で示す右側断面図、図(B)及び図(C)はロール用操作装置7(8)を概略的に示す側面図である。
【図5】同実施の形態における本発明塗工装置1の右側断面図であって、塗工ロール6に対して塗工可能な状態に接近した基材Wの走行を停止又は停止に近い状態にした状況を示すものである。
【図6】同実施の形態における本発明塗工装置1の要部を拡大した右側断面図であって、塗工中の状態を示すものである。
【図7】同実施の形態における本発明塗工装置1の要部を更に拡大した右側断面図であり、図(A)は塗工ロール6に対して塗工可能な状態に接近した基材Wの走行を停止又は停止に近い状態で、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、幅方向全域にわたって連続した筋状の塗工液Qからなる初期メニスカスQaを形成している状態を示し、図(B)は基材Wを所定走行速度Vsで走行せて塗工している途中の状態を示すものである。
【図8】図(A)は塗工切替用ロール3及び張力調整用ロール4の進退方向の位置(縦軸)と操作の経過時間(横軸)との関係を示すグラフ、図(B)は基材パスラインPLの寸法(縦軸)と操作の経過時間(横軸)との関係を示すグラフ、図(C)は基材Wの張力(縦軸)と操作の経過時間(横軸)との関係を示すグラフ、図(D)は塗工ロール6の外周面6aの周速度(縦軸)と操作の経過時間(横軸)との関係を示すグラフ、図(E)は基材Wの塗工ロール6に対面する箇所の走行速度(縦軸)と操作の経過時間(横軸)との関係を示すグラフ、図(F)は塗工ロール6の外周面6aに対する基材Wの状態と操作の経過時間(横軸)との関係を示すもの、図(G)は各時間帯と操作の経過時間(横軸)との関係を示すものである。
【図9】図(A)は従来の塗工状態を示す平面図、図(B)は本発明塗工方法及び本発明塗工装置による塗工状態を示す平面図である。
【図10】本発明塗工方法及び本発明塗工装置の第2の実施の形態を示すものであって、非塗工操作の状態(基材Wが塗工ロール6の外周面6a上の塗工液(図示略)から離反している状態)を示す右側断面図である。
【図11】第2の実施の形態における本発明塗工装置61の塗工している途中の状態を示す右側断面図である。
【図12】同実施の形態における本発明塗工装置61の要部を更に拡大した右側断面図であり、図(A)は塗工ロール6に対して塗工可能な状態に接近した基材Wの走行を停止又は停止に近い状態にして、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって連続した筋状の塗工液Qからなる初期メニスカスQaを形成している状態を示し、図(B)は基材Wを所定走行速度Vsで走行せて塗工している途中の状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1の実施の形態)
本実施の形態に係る本発明塗工装置1は、図6に示す如く、上流側基準ロール2と塗工切替用ロール3に掛け渡すように基材Wの非塗工面Wbを案内させつつ、両ロール2,3の間の下方に配置して両ロール2,3の回転方向と同一方向に回転する塗工ロール6で基材Wの塗工面Waに塗工するリバースキス方式であって、図4(A)の破線で示す如く塗工切替用ロール3を前進させて塗工操作位置Eにすると共に張力調整用ロール4 を後退させて塗工操作位置Gにして基材Wに塗工域K(図9(B)参照)を形成する塗工操作と、図4(A)の実線で示す如く塗工切替用ロール3を後退させて非塗工操作位置Dにすると共に張力調整用ロール4 を前進させて非塗工操作位置Fにして基材Wに非塗工域J(図9(B)参照)を形成する非塗工操作とを交互に繰り返して間欠塗工するものである。
【0030】
本例の本発明塗工装置1の第1の改良は、前記塗工操作のときに、前進で塗工位置Aへ至った基材Wの走行速度を、基材送りロール21の基材送り速度の変更で停止させ又は停止に近い状態まで減速させることで(図7(A)及び図8(E)参照)、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液Qからなる連続した筋状の初期メニスカスQaを形成し、その後に基材Wを所定走行速度Vsで塗工位置Aを通過するように走行させる(図7(B)及び図8(E)参照)ことで、基材Wに形成される塗工域Kの始端縁Ka(図9(B)参照)が、初期メニスカスQaに基づいて中間Kcの塗工状態と同様な状態で塗工を開始させ、塗工域Kの始端縁Kaの塗工膜厚みを中間域Kcの塗工膜厚みに近似させることができるようにしたことである。
【0031】
本例の本発明塗工装置1の第2の改良は、前記塗工操作のときに、塗工ロール6上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの接触を始めさせる時イ(図8(C)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T1、及び前記非塗工操作おける塗工ロール6の外周面上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの離反を始めさせる時ロ(図8(C)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T2の各時間内おける基材Wの張力値が、これら設定時間以外における張力値よりも増大するように、塗工切替用ロール3の進退移動に追従して張力調整用ロール4の進退位置を制御することで、塗工域Kの始端縁Ka(図9(B)参照)及び終端縁Kbについて大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができるようにしたことである。なお、基材Wの幅寸法が短くいために、塗工域Kの始端縁Ka及び終端縁Kbにおける直線状を確保できるときには、第2の改良を省略することも可能である。
【0032】
(フレーム構造について)
本例の本発明塗工装置1は、図1乃至図3に示す如く、フレーム構造として、左右の固定フレーム11,11と、左右方向(各ローラの長手方向に沿う方向)へ延びて左右の固定フレーム11,11を連結する連結フレーム10,10…と、左右の固定フレーム11,11の各々に昇降案内装置12を介して昇降自在に設けた左右の昇降フレーム13,13とで構成してある。各昇降案内装置12は、固定フレーム11に取付けた案内レール17と、昇降フレーム13に取付けて案内レール17に案内させたスライダー18と、昇降フレーム13を上方の待機位置M(図2参照)と下方の塗工操作位置N(図3参照)の間で移動させるエアーシリンダー又は電動サーボモータ等からなる移動操作具19を備えている。
【0033】
前記左右の固定フレーム11,11は、図1乃至図3に示す如く、後述する基材走行路Rの上流側のガイドロール41及び基材送りロール21、並びに基材走行路Rの下流側のガイドロール42及び基材送りロール43を所定の定位置に架設してある。また、前記左右の昇降フレーム13,13は、上流側基準ロール2及び下流側基準ロール5を架設し、下方の塗工操作位置Nに停止させることで、上流側基準ロール2及び下流側基準ロール5を所定の定位置に停止させ、また、上方の待機位置M(図2参照)に停止させることで、上流側基準ロール2及び下流側基準ロール5を待機位置に停止させるようにしてある。更に、左右の昇降フレーム13,13は、左右の塗工切替用ロール用操作装置7,7及び左右の張力調整用ロール用操作装置8,8が取付けられ、左右の塗工切替用ロール用操作装置7,7を介して塗工切替用ロール3を進退自在に設けると共に、左右の張力調整用ロール用操作装置8,8を介して張力調整用ロール4を進退自在に設けてある。
【0034】
(ロール群について)
本例の本発明塗工装置1は、上記フレーム構造に配設したロール群で、基材Wを走行させるための基材走行路Rを形成するようにしてある。ロール群は、図2及び図3に示す如く、基材走行路Rの上流側から下流側へ向かって順番に設けた定位置のガイドロール41と、進退自在な滞留用ロール45と、定位置の基材送りロール21と、案内ロール群20と、定位置のガイドロール42と、進退自在な滞留用ロール48及び定位置の基材送りロール43とを備えると共に、上流側基準ロール2と塗工切替用ロール3の間の下方に位置する定位置の塗工ロール6を備えている。案内ロール群20は、基材走行路Rの上流側から下流側へ向かって順番に設けた定位置となる上流側基準ロール2、進退自在な塗工切替用ロール3、進退自在な張力調整用ロール4及び塗工時に定位置となる下流側基準ロール5とからなる。基材走行路Rの非塗工面Rb側は、ガイドロール41、案内ロール群20、ガイドロール42、滞留用ロール48及び基材送りロール43で形成され、基材走行路Rの塗工面Ra側は、滞留用ロール45、基材送りロール21及び塗工ロール6で形成されている。
【0035】
前記上流側のガイドロール41、滞留用ロール45、上流側基準ロール2、塗工切替用ロール3、張力調整用ロール4、下流側基準ロール5、下流側のガイドロール42及び滞留用ロール48は、図3に示す如く、基材走行路Rを走行する基材Wの非塗工面Wbを案内するものであって、回転自在なフリーロールとしてある。上流側のガイドロール41及び基材送りロール21並びに下流側の基準ロール5、ガイドロール42及び基材送りロール43は、ロール外周面の直径が100〜150mmの範囲内であるものを用いる。また、上流側基準ロール2、塗工切替用ロール3及び張力調整用ロール4は、間欠的に進退するものであって、ロール外周面の直径が40〜80mm(好ましくは、45〜60mm)の範囲内であるものを用いる。更に、滞留用ロール45,48は、ロール外周面の直径が80〜120mmの範囲内であるものを用いる。
【0036】
前記上流側の基材送りロール21は、可変速式の電動モータからなる駆動装置(図示略)で強制駆動され、図8(E)に示す如く、塗工休止時間帯と塗工時間帯に跨がる初期メニスカス形成時間T4の間に塗工位置Aの基材Wを停止させ又は停止に近い超低速度で走行させる停止状態と、塗工時間帯中に塗工位置Aの基材Wを所定走行速度Vsで基材走行方向Sへ走行させる走行状態と、塗工休止時間帯中に後退位置Bの基材Wを所定走行速度Vsで基材走行方向Sへ走行させる走行状態及び早送り時間T5の間に後退位置Bの基材Wを所定走行速度Vsより速い走行速度で基材走行方向Sへ走行させる早送り状態とを繰り返すようにしてある。なお、基材送りロール21は、後述の如く、早送り時間T5における基材Wの早送りする状態を省略することもある。
【0037】
前記基材送りロール21は、図2及び3に示す如く、ロール外周面21aに向かって進退自在に配置した回転自在なニップロール22と組み合わせられ、ニップロール22の押圧力で基材Wをロール外周面21aに圧着させることで、ロール外周面21aと基材Wの間でのスリップを無くして基材Wを確実に走行又は停止させるようにしてある。ニップロール22は、ロール外周面21aの直径が100〜150mmの範囲内であるものを用い、心材に巻付けたゴム層の表面でロール外周面を形成して、エアーシリンダー等からなる進退装置で基材送りロール21に向かって押圧させるようにしてある。基材送りロール21及びニップロール22は、回転について短時間に加減速させるため、ジュラルミン,チタン合金又は炭素繊維強化樹脂等の強靱且つ軽量な素材から筒部を成形して慣性モーメント(GD2 )を小さくして駆動装置の負荷の低減を図ってある。基材送りロール21は、ニップロール22を省略するために、ロール外周面21aをゴム層の表面で形成するか、又はロール外周面に吸引口を開設した吸引式とすることで、基材Wの間でのスリップを無くして、基材Wを確実に走行又は停止させるように構成することもある。
【0038】
前記下流側の基材送りロール43は、基材送りロール21の駆動装置とは別の可変速式の電動モータからなる駆動装置(図示略)で強制駆動され、基材Wを所定走行速度Vsで送り出すようにしてある。なお、下流側の基材送りロール43は、ロール外周面と巻掛け角度の小さな基材Wとの間の滑りを排除して基材Wを設定速度で確実に駆動させるために、ロール外周面に吸引口を開設した吸引式とすることもある。
【0039】
前記上流側の基材送りロール21及び下流側の基材送りロール43は、別個の駆動装置で強制駆動されるものであり、各ロールより上流側の基材張力と下流側の基材張力とが影響し合わないようにするテンションカット機能を有するため、上流側基準ロール2から下流側基準ロール5へ至る間の基材Wの走行方向の張力を、後述するように一時的に高めるようにすることができる。
【0040】
(塗工手段39について)
前記塗工ロール6を有する塗工手段39は、図6、図2及び図3に示す如く、外周面6aに多数個の凹部6b(図7参照)を分散させて設けたグラビア形式の塗工ロール6の他に、塗工ロール6の各凹部6bに塗工液Qを付着させる塗工液付着槽35と、塗工ロール6の外周面6aに付着した余分な塗工液Qを掻取って各凹部6b内にのみ塗工液Qを担持させるドクター37と、塗工液付着装置35を塗工液付着させない待機位置(図2に示す位置)から塗工液付着させる付着位置(図3に示す位置)まで昇降せさる槽昇降装置36と、ドクター37を待機位置(図2に示す位置)から掻取位置(図3に示す位置)まで進退させるドクター移動装置38とを備えている。槽昇降装置36及びドクター移動装置38は、左右の固定フレーム11,11に取付けてある。なお、塗工ロール6は、グラビア形式以外に、円柱芯材にワイヤーを巻回することで密着隣接するワイヤーの間にワイヤー巻回方向に沿って形成した螺旋状の凹部をロール外周面上に設けたワイヤー巻回形式を選択することも可能である。
【0041】
前記塗工ロール6は、ロール外周面6aの直径が40〜80mm(好ましくは、45〜55mm)の範囲内であるものを用い、駆動装置34(図1参照)で強制駆動して所定周速度Va(図8(D)参照)で回転させることで、各凹部6bに担持させてある塗工液Q(図7(B)参照)を、基材走行路Rを走行する基材Wの塗工面Waに転写して塗布するようにしてある。また、塗工ロール6は、可変速できるように駆動され、ロール外周面6aから基材Wが離反を始める瞬間ロ(図8(D)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T3の間だけ減速させ、ロール外周面6aから塗工液Qの飛び跳ねを抑制しつつ基材Wを円滑に離反させるようにしてある。なお、塗工液Qの飛び跳ね抑制を考慮する必要がないときには、設定時間T3の減速は省略される。
【0042】
(塗工切替用ロール用操作装置7,7について)
前記左右の塗工切替用ロール用操作装置7,7の各々は、図4に示す如く、昇降フレーム13(図1〜図3参照)に取付けられた案内レール24と、案内レール24に進退自在に案内させたスライダー25と、スライダー25に塗工切替用ロール3を回転自在に支持26aさせたロール支持部26と、昇降フレーム13に取付けられた電動サーボモータからなる位置決め制御及び速度制御が可能な駆動源27と、ロール支持部26と駆動源27の間に設けられ、電動サーボモータの回転出力をロール支持部26に伝達して塗工切替用ロール3を進退移動させる動力伝達機構28とを備えている。駆動源27は、プログラムテーブルを採用して、このテーブルに塗工切替用ロール3の停止位置及び通過位置、並びに、塗工切替用ロール3の進退移動時の速度及び加減時間等を設定するたけで、塗工切替用ロール3の後述する位置決めを簡単に実現できるようにしてある。動力伝達機構28は、駆動源27の出力軸27aに取着したクランク31と、クランク31及びロール支持部26に両端側を回り対偶(軸及び軸受けの組合せ)で連結した連結棒32とを備え、案内レール24、スライダー25及びクランク31との組合せでガタ付きの少なく応答性の良い四節連鎖からなるスライダークランク機構を構成している。左右の塗工切替用ロール用操作装置7,7は、左右の駆動源27,27を同期状態で運転することで、塗工切替用ロール3を基材走行路Rの非塗工面Rb側から塗工面Ra側へ向かって非塗工操作位置Dから塗工操作位置Eまでの間を他のロールとの平行状態を維持しつつ円滑且つ迅速に進退するようになっている。
【0043】
(張力調整用ロール用操作装置8,8について)
前記左右の張力調整用ロール用操作装置8,8の各々は、図4に示す如く、前記記塗工切替用ロール用操作装置7と同様に構成され、昇降フレーム13(図1〜図3参照)に取付けられた案内レール24と、案内レール24に進退自在に案内させたスライダー25と、スライダー25に張力調整用ロール4を回転自在に支持させたロール支持部26と、昇降フレーム13に取付けられた電動サーボモータからなる位置決め制御及び速度制御が可能な駆動源27と、ロール支持部26と駆動源27の間に設けられ、電動サーボモータの回転出力をロール支持部26に伝達して張力調整用ロール4を進退移動させる動力伝達機構28とを備えている。駆動源27は、プログラムテーブルを採用して、このテーブルに張力調整用ロール用ロール4の停止位置及び通過位置、並びに、張力調整用ロール4の進退移動時の速度及び加減時間等を設定するたけで、張力調整用ロール4の後述する位置決めを簡単に実現できるようにしてある。動力伝達機構28は、駆動源27の出力軸27aに取着したクランク31と、クランク31及びロール支持部26に両端側を回り対偶(軸及び軸受けの組合せ)で連結した連結棒32とを備え、案内レール24、スライダー25及びクランク31との組合せでガタ付きの少なく応答性の良い四節連鎖からなるスライダークランク機構を構成している。左右の張力調整用ロール用操作装置8,8は、左右の駆動源27,27を同期状態で運転させることで、張力調整用ロール用ロール4を基材走行路Rの塗工面Ra側から非塗工面Rb側へ向かって非塗工操作位置Fから塗工操作位置Gまでの間を他のロールとの平行状態を維持しつつ円滑且つ迅速に進退するようになっている。
【0044】
(基材滞留装置44,47について)
本発明塗工装置1は、図2及び図3に示す如く、上流側のガイドロール41と基材送りロール21の間に上流側の基材滞留装置44を備えて、基材走行路Rの基材送りロール21から基材送りロール21へ至る基材走行路Rの基材パスラインの寸法値を拡大(図2に破線で示す状態)又は縮小(同図に実線で示す状態)できるようにすると共に、下流側のガイドロール42と基材送りロール43の間に下流側の基材滞留装置47を備えて、基材走行路Rのガイドロール42から基材送りロール43へ至る基材パスラインの寸法値を拡大(同図に実線で示す状態)又は縮小(同図に破線で示す状態)できるようにしてある。基材滞留装置44及び47は、当該基材パスラインの縮小状態から拡大状態へ至るときのパスライン寸法値の変動に対応して、当該基材パスラインにおける基材Wの滞留寸法値を変動させることができる。
【0045】
前記上流側の基材滞留装置44は、図2及び図3に示す如く、基材走行路Rを形成する回転自在な滞留用ロール45と、滞留用ロール45を進退させる滞留用ロール用操作装置46とを備え、滞留用ロール45を基材走行路Raに向かう方向へ前進させると基材パスラインの寸法値を拡大させ、逆に滞留用ロール45を基材走行路Raから離れる方向へ後退させると基材パスラインの寸法値を縮小させるようにしてある。下流側の基材滞留装置47は、基材走行路Rを形成する回転自在な滞留用ロール48と、滞留用ロール48を進退させる滞留用ロール用操作装置49とを備え、滞留用ロール48を基材走行路Raへ向かって前進させると基材パスラインの寸法値を拡大させ、逆に滞留用ロール48を基材走行路Raから離れる方向へ後退させると基材パスラインの寸法値を縮小させるようにしてある。滞留用ロール用操作装置46及び49の各々は、前記記塗工切替用ロール用操作装置7と同様に構成され、固定フレーム11に取付けられた案内レール24(図4(B)(C)参照)と、案内レール24に進退自在に案内させたスライダー25と、スライダー25に滞留用ロール45(48)を回転自在に支持させたロール支持部26と、固定フレーム11に取付けた電動サーボモータからなる位置決め制御及び速度制御が可能な駆動源27と、ロール支持部26と駆動源27の間に設けられ、電動サーボモータの回転出力をロール支持部26に伝達して滞留用ロール45(48)を進退移動させる動力伝達機構28とを備えている。滞留用ロール用操作装置46及び49に備えられた各駆動源27は、プログラムテーブルを採用して、電動サーボモータの回転角度を設定するたけで、基材Wの前記滞留寸法について所望値を得ることができるようにしてある。
【0046】
(制御装置9の概要について)
本発明塗工装置1に備えた制御装置9(図1参照)は、図8(A)〜(G)の各グラフの横軸である基準の時間軸に沿って、基材Wに塗工域K(図9(B)参照)を形成させるための塗工時間帯(図8(G)参照)及び基材Wに非塗工域(図9(B)参照)を形成させるための非塗工時間帯(図8(G)参照)を、基材Wの前記所定走行速度Vs並びに塗工域K及び非塗工域Jの基材走行方向Sに沿う寸法の各設定値に応じて、交互に繰り返すようにしてある。制御装置9は、塗工切替用ロール3及び張力調整用ロール4の位置を制御することで、図9(B)に示す如く、基材Wに塗工域Kと非塗工域Jを交互に形成させる間欠塗工を施すと共に塗工域Kの終端縁Ka及び終端縁Kbを直線状に近づけさせるようにしてある。また、制御装置9は、基材送りロール21の停止・起動の時刻及び加減速の速度を制御して、図8(E)に示す如く、基材Wの塗工ロール6に対面する箇所の走行速度を制御して、基材Wと塗工ロール6の間に初期メニスカスQa(図7(A)参照)を形成させることで、塗工域Kの始端縁Kaの塗工膜厚みを中間域Kcの塗工膜厚みに近似させるようにしてある。更に、制御装置9は、図8(D)に示す如く、塗工ロール6の速度を制御することで、ロール外周面6aからの塗工液Qの飛び跳ねを抑制させるようにしてある。更にまた、制御装置9は、後述の如く、滞留用ロール45,49の位置を制御することで、基材送りロール21の速度制御に応じて基材Wの前記滞留寸法を調整するようにしてある。
【0047】
(塗工切替用ロール3及び張力調整用ロール4の制御について)
前記制御装置9は、塗工切替用ロール用操作装置7,7及び張力調整用ロール用操作装置8,8に対する制御について、図4(A)に示す如く、塗工ロール6の外周面6aに基材走行路Rの塗工面Ra側を接触又は塗工接近(外周面6aに接触はさせないが塗工する状態まで接近)せさる塗工操作(図中に破線で示す状態)と塗工ロール6の外周面6aから基材走行路Rの塗工面Ra側を離反させる非塗工操作(図中に実線で示す状態)とを交互に繰り返すように、塗工切替用ロール用操作装置7,7及び張力調整用ロール用操作装置8,8の各駆動源27へ起動・停止の指令信号を発信するものである。制御部9は、例えば図8に示す如く、移動する塗工切替用ロール3及び張力調整用ロール4の進退方向に沿った各位置(同図(A)参照)、基材走行路Rの上流側基準ロール2から下流側基準ロール5へ至る基材パスラインPLの寸法値(同図(B)参照)及び塗工ロール6の外周面6aに対する基材Wの状態(同図(F)参照)の関係のデータを記憶する記憶部と、塗工切替用ロール3の移動の経過に伴って予め設定した基材パスラインPLの変化する寸法値を得るための張力調整用ロール4の移動させるべき位置を求める演算部、演算部の結果に基づいて塗工切替用ロール用操作装置7,7及び張力調整用ロール用操作装置8,8の各駆動源27のドライバー部に起動停止の指令信号を発信する指令部とを備えている。
【0048】
前記制御装置9の指令を受けた塗工切替用ロール用操作装置7,7及び張力調整用ロール用操作装置8,8は、例えば図8に示す如く、塗布切替用ロール3を非塗工操作位置Dから塗工操作位置Eへ向かって等速度(同図(A)参照)で移動させるときに、張力調整用ロール4を非塗工操作位置Fから塗工操作位置Gへ向かって可変速度で移動(同図(A)参照)させることで、塗工ロール6の外周面6aに対する基材Wの状態の変化(同図(F)参照)に応じた基材パスラインPLの変化する寸法値(同図(B)参照)に設定することができると共に、塗布切替用ロール3を塗工操作位置Eから非塗工操作位置Dへ向かって等速度(同図(A)参照)で移動させるときに、張力調整用ロール4を塗工操作位置Gから非塗工操作位置Fへ向かって可変速度で移動(同図(A)参照)させることで、塗工ロール6の外周面6aに対する基材Wの状態の変化(同図(F)参照)に応じた基材パスラインPLの変化する寸法値(同図(B)参照)に設定することができる。また、ロール用操作装置7,7及び8,8は、塗布切替用ロール3を塗工操作位置Eに停止させると共に張力調整用ロール4を塗工操作位置Gに停止させることで、基材パスラインPLの寸法を基準寸法に維持させ、更に、塗布切替用ロール3を非塗工操作位置Dにさせると共に張力調整用ロール4を非塗工操作位置Fに停止させることで、基材パスラインPLの寸法を基準寸法に維持させるようにしてある。
【0049】
塗工のために基材走行路Rを走行する基材Wは、上流側の基材送りロール21及び下流側の基材送りロール43の外周面上を滑らないように案内されることで、走行方向の張力について、上流側基準ロール2から下流側基準ロール5へ至る間の部分と、上流側の基材送りロール21より更に上流側部分及び下流側の基材送りロール43より更に下流側部分との間でテンションカットされることになる。そのため、基材Wは、上流側の基材送りロール21から下流側の基材送りロール43へ至る基材パスラインPLの寸法値の変化に応じて、基材パスラインPLの部分で弾性変形が生じて張力も変化することになる(図8(B)(C)参照)。
【0050】
本出願の発明者は、図9(B)に示すように塗工域Kの始端縁Ka及び終端縁Kbについて大きく湾曲させることなく直線状に近づけるために多くの実験を繰り返し、塗工ロール6に対する基材Wの接触を始める瞬間の前後、並びに、塗工ロール6に対する基材Wの離反を始める瞬間の前後の各々について、基材Wの走行方向の張力を一時的に高めて基材Wの幅方向(走行方向と直交す方向)の撓み量を小さくすることで達成できることを見出し、本発明に至った。本発明塗工装置1は、前記制御装置9から前記ロール用操作装置7,7及び8,8の各駆動源27に起動停止の指令を行い、基材走行路Rの上流側基準ロール2から下流側基準ロール5へ至る基材パスラインPLの寸法値について、塗工操作における塗工ロール6の外周面6aに対する基材走行路Rの塗工面Ra側(すなわち、基材Wの塗工面Wa側)の接触又は塗工接近を始めさせる時イ(図8(B)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T1及び非塗工操作おける塗工ロール6の外周面6aから基材走行路Rの塗工面Ra側(すなわち、基材Wの塗工面Wa側)の離反を始めさせる時ロ(図8(B)参照)の前後を跨ぐように設定した設定時間T2の各時間内におけ寸法値が、これら設定時間T1,T2以外における寸法値(基準寸法値)よりも増大するように、塗工切替用ロール3の進退移動に追従して張力調整用ロール4の進退位置の制御を行なうようにしてある。これら設定時間T1,T2は、この設定時間T1,T2内の基材Wの走行方向の移動寸法が5〜50mmの範囲内で設定できるように、基材Wの走行速度(所定走行速度Vs)が5〜15m/mimのとき、2/100秒〜20/100秒の範囲内で選択される。基材パスラインPLの設定時間T1,T2以外における寸法値(基準寸法値)は、基材パスラインPLに位置する基材Wに対する塗工ロール6による塗工又は非塗工状態の基材Wの走行が円滑にできる基材Wの基準張力状態が得られる値に設定される。また、基材パスラインPLの設定時間T1,T2おける寸法値(基準寸法値)は、基材パスラインPLに位置する基材Wの塗工面Waが塗工ロール6の外周面6aに対して接触又は塗工接近(接触はさせないが塗工する状態まで接近)を始めるとき又は離反を始めるときに、基材Wの基材幅方向の撓み量を一時的に小さくして塗工域Kの始端縁Ka及び終端縁Kbを直線状に近づける(図7(B)参照)ことができる基材Wの高張力状態が得られる値に設定される。
【0051】
(基材送りロール21及びニップロール22の制御について)
前記制御装置9のニップロール22の進退装置に対する制御は、前記塗工時間帯と非塗工時間帯とを繰り返して間欠塗工操作を行っている最中に、ニップロール22を基材送りロール21に押し付けて基材Wを基材送りロール21の外周面に圧着させる。また、制御装置9は、塗工操作前の基材Wを本発明塗工装置1へ通すときに、ニップロール22を後退させて基材送りロール21から離すようにする。
【0052】
前記制御装置9の基材送りロール21に対する制御は、図7(A)に示す如く、塗工切替用ロール3及び張力調整用ロール4を制御して塗工ロール6の外周面6a上に基材Wの塗工面Wa側を接触又は塗工可能状態に接近を始めさせる瞬間(図8(F)に示す塗工時間帯の開始点)の前後を跨ぐ短い初期メニスカス形成時間T4(図8(E)参照)(例えば、所定走行速度Vaが5〜15m/mimのときにT4=0.05〜0.3秒の間に、基材送りロール21を駆動する電動モータの制御器に対して、減速・停止維持・起動の指令信号を順次発信して、基材送りロール21の減速・停止維持により基材Wの塗工ロール6の外周面6aに対面する箇所の走行を停止させ又は停止に近い状態(実質的に停止状態とみなせる状態)まで減速して非常に短い時間だけ停止維持することで、図7(B)に示す如く、所定周速度Vaで回転する塗工ロール6の外周面6a(例えば、基材Wの所定走行速度Vsが5〜15m/mimのときに外周面6aの所定周速度Vaを6.5〜22.5m/min(一般的にVaは、Vsの1.3乃至1.5倍程度)で設定)と基材の塗工面Waの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって連続した筋状の塗工液Qからなる初期メニスカスQaを形成させ、その後に基材送りロール21が起動して時間T4を経過した直後の基材Wの走行を所定走行速度Vsとすることで、図7(B)に示す如く、基材Wに塗工膜Cを形成するようにしてある。初期メニスカス形成時間T4は、基材Wに形成される塗工域Kの始端縁Kaから中間域Kcへ塗工が移行するときに、始端縁Kaの塗工状態を中間域Kcの塗工状態と同様の状態にする初期メニスカスQa(図7(A)参照)を形成するように設定される。初期メニスカス形成時間T4に形成された初期メニスカスQaは、塗工域Kの始端縁Kaの塗工膜厚みを中間域Kcの塗工膜厚みに近似させることができると共に塗工域Kの始端縁Kaの塗工幅方向に沿って塗工膜厚みを均一にすることができるようになる。なお、基材Wは、基材送りロール21の減速・停止維持で走行が停止に近い状態で微動するときの微動の方向として、基材走行方向Sと同一方向の場合と、逆方向の場合とがある。
【0053】
上述の如く基材送りロール21は、前記初期メニスカス形成時間T4だけ基材送り速度を停止させ又は停止に近い状態とするため、下流側の基材送りロール43へ向かって送り出す基材Wの寸法を、基材送り速度を常に所定走行速度Vsとした場合に比べて短くすることになる。そこで、前記制御装置9は、図8(E)に示す如く、基材送りロール21が基材送りロール43へ向かって基材Wを送り出す寸法が短くなった分を補充するために、塗工休止時間帯の途中で、基材送りロール21の基材送り速度を所定走行速度Vsより増速させる早送り時間T5(例えば、所定走行速度Vaが5〜15m/mimのときにT5=0.1〜0.3秒)を設けてある。制御装置9は、基材送りロール21の初期メニスカス形成時間T4における基材送り寸法と、早送り時間T5とから演算して、早送り時間T5において所定走行速度Vaより増速させる基材送り速度を求めるようにしてある。
【0054】
前記制御装置9は、図8(E)に示す如く、基材Wの塗工ロール6に対面する箇所の走行速度が初期メニスカス形成時間T4及び早送り時間T5により変化することを加味して、基材Wに塗工域K(図9(B)参照)を形成させるための塗工時間帯(図8(G)参照)及び基材Wに非塗工域(図9(B)参照)を形成させるための非塗工時間帯(図8(G)参照)の時間長さを決定するようにしてある。
【0055】
(基材滞留装置44、47の制御について)
前記制御装置9は、上流側の基材滞留装置44に対する制御について、基材滞留装置44の駆動源となる電動サーボモータの制御器に回転角度を変更させる指令信号を発信して滞留用ロール45の位置を制御することで、基材送りロール21の速度制御に応じて、基材滞留装置44による基材Wの滞留寸法を調整するようにしてある。すなわち基材滞留装置44に対する制御装置9に制御は、初期メニスカス形成時間T4(図8(E)参照)の間に基材送りロール21の送り出す基材Wの寸法が所定走行速度Vsで送り出す場合に比べて短くなった寸法に相当する寸法分だけ、ガイドロール41と基材送りロール21の間の基材走行路Raの基材パスラインの寸法値を滞留用ロール45の移動で増大させつつ、本発明塗工装置1よりも上流側に配置してある上流側装置(図示略)から所定走行速度Vsで送られてくる基材Wを滞留させると共に、基材送りロール21の基材送り速度を所定走行速度Vsより増速させる早送り時間T5(図8(E)参照)の間に、滞留用ロール45を移動させて該基材パスラインの寸法値を減少させつつ該滞留を無くすことで、上流側装置から上流側のガイドロール41へ所定走行速度Vsで基材Wを送り続けることができるようにしてある。滞留用ロール45の移動による基材Wの滞留寸法の変化量につていは、基材送りロール21の速度制御による基材Wの送り寸法の変化量と同一となるようして、両方の変化量の生じる時刻を同期させてある。このように基材滞留装置44に対する制御は、ガイドロール41よりも上流側における基材Wの張力について、基材送りロール21の速度制御に起因して変動を生じさせないようにすることができる。
【0056】
また、前記制御装置9は、下流側の基材滞留装置47に対する制御について、基材滞留装置47の駆動源となる電動サーボモータの制御器に回転角度を変更させる指令信号を発信して滞留用ロール48の位置を制御することで、基材送りロール21の速度制御に応じて、基材滞留装置47による基材Wの滞留寸法を調整するようにしてある。すなわち基材滞留装置47に対する制御装置9に制御は、初期メニスカス形成時間T4(図8(E)参照)の間に基材送りロール21の送り出す基材Wの寸法が所定走行速度Vsで送り出す場合に比べて短くなった寸法に相当する寸法分だけ、下流側のガイドロール42と基材送りロール43の間の基材走行路Raの基材パスラインの寸法値を滞留用ロール48の移動で減少させつつ、常に所定走行速度Vsで送り出す基材送りロール43よりも下流側に配置してある下流側装置(図示略)へ基材Wを送り出し維持できるようにすると共に、基材送りロール21の基材送り速度を所定走行速度Vsより増速させる早送り時間T5(図8(E)参照)の間に、滞留用ロール48を移動させて該基材パスラインの寸法値を増大させつつ該滞留を無くすことで、基材送りロール43から下流側装置(図示略)上へ所定走行速度Vsで基材Wを送り続けることができるようにしてある。滞留用ロール48の移動による基材Wの滞留寸法の変化量につていは、前記滞留用ロール48の場合と同様に、基材送りロール21の速度制御による基材Wの送り速度の変化量と同一となるようして、両方の変化量の生じる時刻を同期させてある。このように基材滞留装置47に対する制御は、基材送りロール21から基材送りロール43へ至る間の基材Wの張力について、基材送りロール21の速度制御に起因して変動を生じさせないようにしてある。
【0057】
なお、上流側装置から上流側のガイドロール41へ基材Wを送り続ける走行速度及び基材送りロール43が下流側装置へ基材Wを送り続ける走行速度の両走行速度を所定走行速度Vsより若干遅くした修正速度にした場合には、基材送りロール21で早送り時間T5の間に基材Wを早送りする状態を省略することが可能となる。すなわち、該修正速度は、図9(B)に示す一つの塗工域K及び一つの非塗工域Jの基材走行方向Sに沿った長手寸法値の合計寸法値を、図8(G)に示す塗工時間帯の所要時間値及び早送り時間T5の無い塗工休止時間帯の所要時間値の合計値で除した値とするとよい。
【0058】
(塗工ロール6の制御について)
前記制御装置9の塗工ロール6に対する制御は、電動モータからなる駆動装置(図示略)の制御器に対して指令を発して塗工ロール6の速度を制御するようにしてある。制御装置9の指令を受けた塗工ロール6は、ロール外周面6aから基材Wが離反を始める瞬間の前後を跨ぐように設定した設定時間T3(図8(D)参照)だけ減速させ、ロール外周面6aから塗工液Qの飛び跳ねを抑制しつつ基材Wを円滑に離反させるようにすると共に、設定時間T3を除く時間帯では設定した所定周速度Vaで回転を維持する。
【0059】
(基材Wの通し作業のための構造について)
本発明塗工装置1は、図1乃至図3に示す如く、昇降フレーム13を待機位置M(図2参照)まで昇降案内装置12で上昇させることで、最初に基材Wを基材走行路Rへ通す作業をし易くしてあるが、これに限定するものではなく図示は省略したが、昇降フレーム13に取付ける上流側基準ロール2、左右の塗工切替用ロール用操作装置7,7、左右の張力調整用ロール用操作装置8,8及び下流側基準ロール5を固定フレーム11,11に取付けると共に、塗工ロール6を有する塗工手段39を昇降フレームに取付け、最初に基材Wを基材走行路Rへ通すときに、塗工手段39を降下させて待機させるように構成することもある。
【0060】
(本例の本発明塗工方法について)
本例の本発明塗工装置1の基材走行路Rに基材W(例えば、厚みが10〜30μmの合成樹脂フィルム等)を走行させて間欠塗工を行なう本発明塗工方法は、図3に示す定位置の上流側基準ロール2、進退自在な塗工切替用ロール3、進退自在な張力調整用ロール4及び定位置の下流側基準ロール5で基材Wの非塗工面Wbを支持案内しつつ設定した張力を負荷させた基準張力状態で基材Wを走行させ、基材走行中に、図4(A)に示す塗工切替用ロール用操作装置7で塗工切替用ロール3を基材Wの非塗工面Wb側から塗工面Wa側へ向かって非塗工操作位置Dから塗工操作位置Eまで前進させると共に張力調整用ロール用操作装置8で張力調整用ロール4を基材Wの塗工面Wa側から非塗工面Wb側へ向かって非塗工操作位置Fから塗工操作位置Gまで後退させて、上流側基準ロール2と塗工切替用ロール3との間であって基材Wの塗工面Wa側の定位置に設けられた回転する塗工ロール6の外周面6a上の塗工液Qに基材Wの塗工面Waを接触させて塗工域K(図7(B)参照)を形成する塗工操作を行なう塗工時間帯(図8参照)と、基材走行中に、図4(A)に示す塗工切替用ロール3を塗工操作位置Eから非塗工操作位置Dまで後退させると共に張力調整用ロール4を塗工操作位置Gから非塗工操作位置Fまで前進させて、塗工ロール6の外周面上の塗工液Qから基材Wの塗工面Waを離反させて非塗工域J(図7(B)参照)を形成する非塗工操作を行なう非塗工時間帯(図8参照)とを交互に繰返すことで、基材Wの塗工面Waに図7(B)に示す塗工域Kと非塗工域Jを交互に形成する。
【0061】
本発明塗工方法は、基材送りロール21に対する制御装置9の前述した特有の制御により、図4に示す如く、塗工ロール6の外周面6a上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの接触を始めさせる時の前後の設定時間T4(図8(E)参照)において、前進で塗工位置Aへ至ったときの基材Wの走行速度を、基材送りロール21の基材送り速度の変更で、所定走行速度Vsから減速させて停止又は停止に近い状態にすることで、図7(A)に示す如く、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液Qからなる連続した筋状の初期メニスカスQaを形成し、その後に基材Wを所定走行速度Vsで走行させる(図8(E)参照)ことで、図7(B)に示す如く、基材Wに形成される塗工域Kの始端縁Kaが、初期メニスカスQaに基づいて塗工域Kの中間域Kcの塗工状態と同様な状態で塗工を開始させることになり、塗工域の始端縁の塗工膜厚みを中間域Kcの塗工膜厚みに近似させる共に、塗工域Kの始端縁Kaの塗工幅方向に沿って塗工膜厚みを均一にして塗工操作を行なう。
【0062】
本発明塗工方法は、塗工切替用ロール用操作装置7,7及び張力調整用ロール用操作装置8,8に対する制御装置9の前述した特有の制御により、図8に示す如く、塗工ロール6の外周面6a上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの接触を始めさせる時の前後の設定時間T1及び塗工ロール6の外周面6a上の塗工液Qから基材Wの塗工面Waを離反させ始める時の前後の設定時間T2の各時間内において、基材Wの張力についてこれら設定時間T1,T2以外における基準張力値よりも増大させて、基材Wの幅方向(走行方向と直交す方向)の撓み量を小さくすることで、塗工ロール6上の塗工液Qに対する基材Wの幅方向の両耳端側と中央部との接触を始める時間差又は離反を始める時間差の各々を小さくして、塗工域Kの始端縁Ka及び終端縁Kbについて大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができる。本発明塗工方法は、塗工時間帯における設定時間T1,T2を除く時間帯では基材Wの張力を基準張力値にした状態で塗工ロール6の外周面6a上の塗工液Qに基材Wの塗工面Waの左右幅全域を接触させて、基材Wの幅方向(走行方向と直交す方向)の撓み量をゼロにして塗工操作を行なう。
【0063】
(本例の本発明塗工装置1及び本発明塗工方法の特徴について)
本例の本発明塗工装置1及び本発明塗工方法は、図7(A)に示す如く、塗工操作における塗工開始のときに、基材Wの走行速度を所定走行速度Vsより減速させ停止又は停止に近い状態にすることで、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液Qからなる連続した筋状の初期メニスカスQaを形成し、その後に基材を増速させて所定走行速度Vsで走行させると、図7(B)に示す如く、基材Wに形成される塗工域Kの始端縁Kaが、連続した筋状の塗工液Qからなる初期メニスカスQに基づいて塗工域Kの中間域Kcの塗工状態と同様な状態で塗工を開始させることになり、塗工域Kの始端縁Kaの塗工膜厚みを中間域Kcの塗工膜厚みに近似させることができると共に塗工域Kの始端縁Kaの塗工幅方向に沿って塗工膜厚みを均一にできる。
【0064】
また、本例の本発明塗工装置1及び本発明塗工方法は、基材走行中に、制御装置9で塗工切替用ロール用操作装置7及び張力調整用ロール用操作装置8を制御して、塗工切替用ロール3の前進及び張力調整用ロール4の後退による塗工操作と、塗工切替用ロール3の後退及び張力調整用ロール4の前進による非塗工操作とを交互に行うことで、上流側基準ロール2と塗工切替用ロール3の間に塗工ロール6を配置したリバースキス方式で間欠塗工させることができる。
【0065】
更に、本例の本発明塗工装置1及び本発明塗工方法は、塗工操作における塗工ロール6の外周面上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの接触を始めさせる時の前後を跨ぐように設定した設定時間T1(図6参照)及び非塗工操作おける塗工ロール6の外周面上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの離反を始めさせる時の前後を跨ぐように設定した設定時間T2の各時間内おける基材Wの張力値を、これら設定時間以外における張力値よりも増大させることで、従来の基材に負荷される張力が常時一定となる場合に比べて、塗工域Kの始端縁Ka及び終端縁Kbについて大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができる。
【0066】
従来の間欠塗工装置は、塗工切替用ロールの移動制御にエアーシリンダを用いるので、塗工切替用ロールの移動開始時から基材に負荷されていく張力に対応したエアーシリンダのエアー圧力の検出時までに時間を要すると共に、圧縮空気を用いるエアーシリンダの応答速度を速めることに限界がある。そのため、従来の間欠塗工装置は、生産性の向上を目的として基材の走行及び塗工切替用ロールの前進・後退の周期を早めようとしても、エアーシリンダの制御が追従できず、目的を達成できない。これに対して、本例の本発明塗工装置1は、塗工切替用ロール用操作装置7,7及び張力調整用ロール用操作装置8,8に駆動源27として位置決め制御及び速度制御可能な電動サーボモータを用いることで、塗工切替用ロール3及び張力調整用ロール4を可及的に進退させて正確な塗工操作位置に停止させることが可能となり、基材の走行及び塗工切替用ロール3及び張力調整用ロール4の前進・後退の周期を早めて生産性の向上を従来に比べて飛躍的に向上させることができる。
【0067】
更に、本発明塗工装置1及び本発明塗工方法は、基材Wの張力値を高めることで塗工域K(図7(B)参照)の始端縁Ka及び終端縁Kbについて大きく湾曲させることなく直線状に近づけることができるので、幅方向に撓み易い幅寸法の大きな幅寸法が1000mm程度の基材Wに間欠塗工を施すことが可能となり、基材幅寸法を500mm以上とすることができない従来に比べて生産性を飛躍的に向上させることができる。
【0068】
(第2の実施の形態)
図10乃至図12に示す第2の実施の形成に係る本発明塗工装置61は、塗工ロール6として外周面6a上に多数の凹部6bを刻設したグラビアロールを用いると共に、塗工切替用ロール63を塗工ロール6から離反させる非塗工操作位置D(図10参照)から塗工ロール6の外周面6aに転写塗工可能に接近させる塗工操作位置E(図11参照)まで進退させるようにしたリバースグラビア方式とした点が前記第1の実施の形態に係る本発明塗工装置1と大きく異なり、その他の部分については第1の実施の形態と実質的に同一であり、図10乃至図12において図1乃至図9と同一符号は相当部分を示す。
【0069】
前記塗工ロール6及び塗工切替用ロール63は、両者が転写塗工可能に接近したときの外周面6a,63aどうしの平行度を高精度に維持できるように、曲げ剛性の大きい直径が150〜300mmの範囲から選択した大径のものが用いられる。
【0070】
前記塗工切替用ロール63は、筒状の心材に巻付けたゴム層の表面でロール外周面を形成したものが用いられ、左右に配置した塗工切替用ロール用操作装置67で塗工ロール6に向かって進退自在に配置すると共に、可変速式の電動モータからなる駆動装置(図示略)で強制駆動され、初期メニスカス形成時間T4(図8(E)参照)の間に基材Wを停止させ又は停止に近い超低速度で走行させる停止状態と、基材Wを所定走行速度Vsで基材走行方向Sへ走行させる定常走行状態と、早送り時間T5(図8(E)参照)の間に基材Wを所定走行速度Vsより速く基材走行方向Sへ走行させる早送り状態とをこの順番で交互に繰り返すようにしてある。
【0071】
左右の塗工切替用ロール用操作装置67の各々は、第1の実施の形態に係る前記記塗工切替用ロール用操作装置7と同様に構成され、塗工切替用ロール63を基材走行路Rの非塗工面Rb側から塗工面Ra側へ向かって、塗工切替用ロール63の外周面上に形成される基材走行路Rの部分を塗工ロール6から離反させる非塗工操作位置D(図10参照)から該基材走行路Rの部分を塗工ロール6の外周面に転写塗工可能に接近させる塗工操作位置E(図11参照)まで前進させる塗工操作及びこの間で塗工切替用ロール63を逆方向へ向かって後退させる非塗工操作を交互に繰り返すようにしてある。各塗工切替用ロール用操作装置67の構成としては、図4(B)(C)に示す如く、昇降フレーム13に取付けられた案内レール24に進退自在に案内させたスライダー25に塗工切替用ロール63を回転自在に支持26aさせたロール支持部26と、昇降フレーム13に取付けられ位置決め制御及び速度制御が可能な電動サーボモータからなる駆動源27と、ロール支持部26と駆動源27の間に設けられ、電動サーボモータの回転出力をロール支持部26に伝達して塗工切替用ロール63を進退移動させる動力伝達機構28とを備えている。左右の塗工切替用ロール用操作装置67に備えられた各駆動源27は、プログラムテーブルを採用して、このテーブルに塗工切替用ロール63の停止位置及び通過位置を設定するたけで、塗工切替用ロール63の位置決めを簡単に実現できるようにしてある。
【0072】
前記塗工切替用ロール63の回転駆動及び塗工切替用ロール用操作装置67の操作を制御する制御装置9は、塗工切替用ロール用操作装置67の塗工操作で、塗工切替用ロール63の外周面63a上に形成される基材走行路Rの部分を塗工ロール6の外周面に転写塗工可能に接近させるときに、塗工切替用ロール63の基材送り速度を所定走行速度Vsから減速させて停止又は停止に近い状態にして、塗工切替用ロール63に巻回されている基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって連続した筋状の塗工液Qからなる初期メニスカスQa(図12(A)参照)を形成する初期メニスカス形成時間T4(図8(E)参照)を設け、初期メニスカス形成時間T4が経過するときに、塗工切替用ロール63の基材送り速度を増速させて基材Wを所定走行速度Vsで走行させて(図12(B)参照)、基材Wの塗工面Waに塗工膜Cを形成させるようにしてある。また、制御装置9は、塗工切替用ロール63の停止又は停止に近い状態で基材送りロール43へ向かって基材Wを送り出す寸法が短くなった分を補充するために、塗工休止時間帯の途中で、塗工切替用ロール63の基材送り速度を所定走行速度Vsより増速させる早送り時間T5(図8(E)参照)を設けてある。なお、上流側装置から上流側のガイドロール41へ基材Wを送り続ける走行速度及び基材送りロール43が下流側装置へ基材Wを送り続ける走行速度の両走行速度を所定走行速度Vsより若干遅くした前記修正速度にした場合には、基材送りロール21で早送り時間T5の間に基材Wを早送りする状態を省略することが可能となる。
【0073】
本例の本発明塗工装置61は、前記本発明塗工装置1と同様に、上流側の基材滞留装置44と下流側の基材滞留装置47とを備え、塗工切替用ロール63に巻回されている基材Wの走行速度が初期メニスカス形成時間T4及び早送り時間T5の間に変化しても、本発明塗工装置1よりも上流側に配置してある上流側装置(図示略)から所定走行速度Vs又は修正速度で基材Wが送られてくることを維持すると共に、基材送りロール43が所定走行速度Vs又は修正速度で下流側に配置してある下流側装置(図示略)へ基材Wを送り出することを維持できるようにしてある。
【0074】
(基材Wの通し作業のための構造について)
本例の本発明塗工装置61は、前記本発明塗工装置1と同様に、昇降フレーム13を塗工操作位置N(図10参照)から待機位置Mまで昇降案内装置12で上昇させることで、最初に基材Wを基材走行路Rへ通す作業をし易くしてある。
【0075】
(本例の本発明塗工方法について)
本例の本発明塗工装置61の基材走行路Rに基材Wを走行させて間欠塗工を行なう本発明塗工方法は、図10に示す進退自在な塗工切替用ロール63で基材Wの非塗工面Wbを支持案内しつつ基材Wを走行させ、基材走行中に塗工切替用ロール用操作装置67で塗工切替用ロール63を基材Wの非塗工面Wb側から塗工面Wa側へ向かって非塗工操作位置Dから塗工操作位置E(図11参照)まで前進させて、定位置で回転する塗工ロール6の外周面6a上の塗工液Qに基材Wの塗工面Waを接触させて塗工域K(図12(B)、図7(B)参照)を形成する塗工操作を行なう塗工時間帯(図8参照)と、基材走行中に、塗工切替用ロール3を塗工操作位置Eから非塗工操作位置Dまで後退させて、塗工ロール6の外周面上の塗工液Qから基材Wの塗工面Waを離反させて非塗工域J(図12(B)、図7(B))を形成する非塗工操作を行なう非塗工時間帯(図8参照)とを交互に繰返すことで、基材Wの塗工面Waに塗工域Kと非塗工域Jを交互に形成する。
【0076】
本発明塗工方法は、塗工切替用ロール63に対する制御装置9の制御により、塗工ロール6の外周面6a上の塗工液Qに対する基材Wの塗工面Waの接触を始めさせる時の前後の設定時間T4(図8(E)参照)において、塗工切替用ロール63の前進で塗工位置Aへ至ったときの基材Wの走行速度を、塗工切替用ロール63の基材送り速度の変更で、所定走行速度Vsから減速させて停止又は停止に近い状態にすることで、図12(A)に示す如く、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液Qからなる連続した筋状の初期メニスカスQaを形成し、その後に起動する塗工切替用ロール63で基材Wを所定走行速度Vsで走行させることで、図12(B)に示す如く、基材Wに形成される塗工域Kの始端縁Kaが、初期メニスカスQaに基づいて塗工域Kの中間域Kcの塗工状態と同様な状態で塗工を開始させることになり、塗工域の始端縁の塗工膜厚みを中間域Kcの塗工膜厚みに近似させる共に、塗工域Kの始端縁Kaの塗工幅方向に沿って塗工膜厚みを均一にして塗工操作を行なう。
【0077】
(本例の本発明塗工装置61及び本発明塗工方法の特徴について)
本例の本発明塗工装置61及び本発明塗工方法は、図12(A)に示す如く、塗工操作における塗工開始のときに、基材Wの走行速度を所定走行速度Vsより減速させ停止又は停止に近い状態にすることで、基材Wの塗工面Waと塗工ロール6の外周面6aの間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液Qからなる連続した筋状の初期メニスカスQaを形成し、その後に基材を増速させて所定走行速度Vsで走行させると、図12(B)に示す如く、基材Wに形成される塗工域Kの始端縁Kaが、連続した筋状の塗工液Qからなる初期メニスカスQに基づいて塗工域Kの中間域Kcの塗工状態と同様な状態で塗工を開始させることになり、塗工域Kの始端縁Kaの塗工膜厚みを中間域Kcの塗工膜厚みに近似させることができると共に塗工域Kの始端縁Kaの塗工幅方向に沿って塗工膜厚みを均一にできる。
【0078】
また、本例の本発明塗工装置61及び本発明塗工方法は、基材走行中に、制御装置9で塗工切替用ロール用操作装置67を制御して、塗工切替用ロール63を前進させる塗工操作と、塗工切替用ロール63を後退させる非塗工操作とを交互に行うことで、塗工ロール6にグラビアロールを用いると共に、塗工ロール6に接近又は離反するバックアップロールとなる塗工切替用ロール63に基材Wを案内させたリバースグラビア方式で間欠塗工させることができる。
【符号の説明】
【0079】
1(61)…本発明塗工装置、2…上流側基準ロール、3…塗工切替用ロール、4…張力調整用ロール、5…下流側基準ロール、6…塗工ロール、6a…外周面、6b…凹部、7…塗工切替用ロール用操作装置、8…張力調整用ロール用操作装置、9…制御装置、10…連結フレーム、11…固定フレーム、12…昇降案内装置、13…昇降フレーム、17…案内レール、18…スライダー、19…移動操作具、20…案内ロール群、21…基材送りロール、21a…外周面、22…ニップロール、23…案内ロール、25…スライダー、26…ロール支持部、27…駆動源、27a…出力軸、28…動力伝達機構、31…クランク、32…連結棒、34…駆動装置、35…塗工液付着装置、36…昇降装置、37…ドクター、38…ドクター移動装置、39…塗工手段、41…ガイドロール、42…ガイドロール、43…基材送りロール、44…基材滞留装置、45…滞留用ロール、46…滞留用ロール用操作装置、47…基材滞留装置、48…滞留用ロール、49…滞留用ロール用操作装置、63…塗工切替用ロール、67…塗工切替用ロール用操作装置、A…基材Wの塗工位置、B…基材Wの後退位置、C…塗工膜、D…塗工切替用ロール3又は63の非塗工操作位置、E…塗工切替用ロール3又は63の塗工操作位置、F…張力調整ロール4の非塗工操作位置、G…張力調整ロール4の塗工操作位置、H…案内ロールの回転方向、J…非塗工域、K…塗工域、Ka…始端縁、Kb…終端縁、Kc…中間域、M…待機位置、N…塗工操作位置、PL…基材パスライン、Q…塗工液、Qa…メニスカス、R…基材走行路、Ra…塗工面、Rb…非塗工面、S…基材走行方向、T1…塗工面Waの接触を始めさせる時の前後を跨ぐように設定した設定時間、T2…塗工面Waの離反を始めさせる時の前後を跨ぐように設定した設定時間、T3…塗工液の飛び跳ね抑制のため設定した設定時間、T5…早送り時間、T4…初期メニスカス形成時間、U…塗工ロール6の回転方向、Vs…塗工位置Aを通過する基材Wの所定走行速度、Va…塗工ロール6の所定周速度、W…基材、Wa…塗工面、Wb…非塗工面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール外周面上の凹部に塗工液を担持させて塗工ロールを回転させつつ、基材の非塗工面側を案内する進退自在な塗工切替用ロールに案内させて塗工切替用ロールの回転方向が塗工ロールの回転方向と同一方向となるように基材を走行させ、塗工切替用ロールの移動で基材を塗工ロールに向かって後退位置から塗工位置まで前進させて、走行中の基材の塗工面側に塗工ロール上の塗工液を転写塗工して塗工域を形成する塗工操作と、塗工切替用ロールの移動で基材を塗工位置から後退位置まで後退させて、走行中の基材の塗工面側に非塗工域を形成する非塗工操作とを交互に繰返すリバースロール方式の間欠塗工方法において、前記塗工操作は、前進で塗工位置へ至った基材の走行を停止させ又は停止に近い状態まで減速させることで、基材の塗工面と塗工ロールの外周面の間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって塗工液からなる連続した初期メニスカスを形成し、その後に基材を走行させることを特徴とするリバースロール方式の間欠塗工方法。
【請求項2】
基材の非塗工面側を案内する案内ロール群として、基材走行方向へ向かって順番に設けた定位置の上流側基準ロール、進退自在な前記塗工切替用ロール及び定位置の下流側基準ロールを用い、前記塗工ロールを上流側基準ロールと塗工切替用ロールの間に配置し、前記塗工操作では、塗工切替用ロールを基材の非塗工面側から塗工面側へ向かって非塗工操作位置から塗工操作位置まで前進させ、前記非塗工操作では、塗工切替用ロールを基材の塗工面側から非塗工面側へ向かって塗工操作位置から非塗工操作位置まで後退させる請求項1記載のリバースロール方式の間欠塗工方法。
【請求項3】
前記塗工切替用ロールと前記下流側基準ロールの間に、基材の非塗工面側を案内する進退自在な張力調整用ロールを配置し、前記塗工操作における塗工ロール上の塗工液に対する基材の塗工面の接触を始めさせる時の前後を跨ぐように設定した設定時間、及び前記非塗工操作おける塗工ロールの外周面上の塗工液に対する基材の塗工面の離反を始めさせる時の前後を跨ぐように設定した設定時間の各時間内おける基材の張力値が、これら設定時間以外における張力値よりも増大するように、塗工切替用ロールの進退移動に追従して張力調整用ロールの進退位置を制御する請求項2記載のリバースロール方式の間欠塗工方法。
【請求項4】
前記塗工ロールは外周面上に多数の凹部を刻設したグラビアロールを用い、前記塗工切替用ロールの移動について、前記塗工操作では、塗工切替用ロールに巻回している基材の部分を塗工ロールから離反させる非塗工操作位置から該基材の部分を塗工ロールの外周面に転写塗工可能に接近させる塗工操作位置まで前進させ、前記非塗工操作では、塗工切替用ロールを塗工操作位置から非塗工操作位置まで後退させる請求項1記載のリバースロール方式の間欠塗工方法。
【請求項5】
基材走行路を形成する上流側の基材送りロールと、基材送りロールよりも基材走行路の下流側の非塗工面側に基材走行方向へ向かって順番に設けた定位置の上流側基準ロール、進退自在な塗工切替用ロール及び定位置の下流側基準ロールと、上流側基準ロールと塗工切替用ロールの間の基材走行路の塗工面側の定位置に塗工切替用ロールの回転方向と同一方向へ回転するように配置され、ロール外周面上に凹部を設けた塗工ロールと、塗工切替用ロールを基材走行路の非塗工面側から塗工面側へ向かって非塗工操作位置から塗工操作位置まで前進させる塗工操作及びこの間で塗工切替用ロールを逆方向へ向かって後退させる非塗工操作を交互に繰り返す塗工切替用ロール用操作装置と、基材送りロールの回転駆動及び塗工切替用ロール用操作装置の操作を制御する制御装置とを備えたリバースロール方式の間欠塗工装置であって、制御装置は、塗工切替用ロール用操作装置の塗工操作で、基材走行路を走行する基材の塗工面側を塗工ロールの外周面上に接触を始めさせるときに、基材送りロールの基材送り速度を減速させて停止又は停止に近い状態にして、基材の塗工面と塗工ロールの外周面の間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって連続した塗工液からなる初期メニスカスを形成する初期メニスカス形成時間を設け、初期メニスカス形成時間が経過するとき、基材送りロールの基材送り速度を増速させて基材を走行させるようにしたことを特徴とするリバースロール方式の間欠塗工装置。
【請求項6】
前記塗工切替用ロールと前記下流側基準ロールの間に配置して基材走行路の非塗工面側を形成する進退自在な張力調整用ロールと、張力調整用ロールを基材走行路の塗工面側から非塗工面側へ向かって非塗工操作位置から塗工操作位置まで後退させると共にこの間を逆方向へ向かって前進させる張力調整用ロール用操作装置とを備え、前記制御装置は、張力調整用ロール用操作装置の操作も併せて制御し、上流側基準ロールから下流側基準ロールへ至る基材パスラインの寸法値について、前記塗工操作において塗工ロールの外周面上に基材の塗工面側を接触を始めさせる時の前後を跨ぐように設定した設定時間、及び前記非塗工操作おける塗工ロールの外周面から基材の塗工面側の離反を始めさせる時の前後を跨ぐように設定時間の各時間内におけ寸法値が、これら設定時間以外における寸法値よりも増大するように、塗工切替用ロールの進退移動に追従して張力調整用ロールの進退位置の制御を行なう請求項6記載のリバースロール方式の間欠塗工装置。
【請求項7】
基材走行路の非塗工面側を形成する進退自在な塗工切替用ロールと、基材走行路の塗工面側の定位置に塗工切替用ロールの回転方向と同一方向へ回転するように配置され、ロール外周面上に凹部を刻設したグラビアロールからなる塗工ロールと、塗工切替用ロールの外周面上に形成される基材走行路の部分を塗工ロールから離反させる非塗工操作位置から該基材走行路の部分を塗工ロールの外周面に転写塗工可能に接近させる塗工操作位置まで塗工切替用ロールを前進させる塗工操作及びこの間で塗工切替用ロールを逆方向へ向かって塗工切替用ロールを後退させる非塗工操作を交互に繰り返す塗工切替用ロール用操作装置と、塗工切替用ロールの回転駆動及び塗工切替用ロール用操作装置の操作を制御する制御装置とを備えたリバースロール方式の間欠塗工装置であって、前記制御装置は、塗工切替用ロール用操作装置の塗工操作で、前記基材走行路の部分を塗工ロールの外周面に転写塗工可能に接近を始めさせるときに、塗工切替用ロールの基材送り速度を減速させて停止又は停止に近い状態にして、塗工切替用ロールに巻回されている基材の塗工面と塗工ロールの外周面の間の塗工開始側の基材幅方向に形成される楔状の隙間に、塗工幅方向全域にわたって連続した筋状の塗工液からなる初期メニスカスを形成する初期メニスカス形成時間を設け、初期メニスカス形成時間が経過するときに、塗工切替用ロールの基材送り速度を増速させて基材を走行させるようにしたことを特徴とするリバースロール方式の間欠塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−27818(P2013−27818A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165323(P2011−165323)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000119254)株式会社テクノスマート (18)
【復代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
【復代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
【Fターム(参考)】