説明

間隔保持体として形状記憶合金から成る中空ころを持つラジアルころ軸受特に円筒ころ軸受又は針状ころ軸受

本発明は、ラジアルころ軸受(1)特に円筒ころ軸受又は針状ころ軸受が、実質的に外レース(2)、内レース(3)、及び両方のレース(2,3)の間に設けられる複数のころ転動体(4)から成り、これらの転動体(4)が、外レース(2)及び内レース(3)のそれぞれ2つの連続する縁(5,6及び7,8)により側方を区画される転動路(9,10)上で転がり、保持器により互いに等間隔に案内されるものに関する。本発明によれば、保持器が、それぞれ2つのころ転動体(4)の間に設けられかつ形状記憶合金から成る中空ころ(11)により形成され、ラジアルころ(1)の組立ての際中空ころ(11)が、外レース(2)の縁(6)と内レース(3)の縁(8)との間の間隙(12)の寸法に断面を変形され、レース(2,3)のこれらの縁(6,8)の間の間隙(12)を通してラジアルころ軸受(1)へ差込み可能であり、ラジアルころ軸受(1)への差込み後所定の温度に達する際、自動的にその原形をとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアルころ軸受特に円筒ころ軸受又は針状ころ軸受が、実質的に外レース、内レース、及び両方のレースの間に設けられる複数のころ転動体から成り、これらの転動体が、外レース及び内レースのそれぞれ2つの連続する縁により側方を区画される転動路上で転がり、保持器により互いに等間隔に案内されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
このようなラジアルころ軸受は、例えばドイツ連邦共和国特許第452475号明細書から公知である。外レース及び内レースに縁による転動路の側方区画を持つこのようなラジアルころ軸受は、高い荷重負担能力の点ですぐれ、大きい半径方向力のほかに両方向における大きい軸線方向力も受け止めることができる。しかしこれらの縁は、レースと一体に結合されて環状に連続する縁として構成されているので、構造により制約されて、ラジアルころ軸受を間隙なしに適当な円筒ころで完全に充填することは不可能である。従ってこの円筒ころ軸受への転がり軸受鋼から成る円筒ころの充填は、両方のレースをまず互いに偏心して配置し、レースの間に生じる三日月状自由空間を続いて円筒ころで満たすように行わねばならない。それから内レースが、最初の円筒ころと最後の円筒ころとの間で、両方のレースの弾性を利用して、外レースに対して同心的な位置へもたらされ、円筒ころがその転動路の周囲に均一に分布される。円筒ころが荷重を受けても常に均一な相互間隔を持つようにするため、最後に、それぞれ片側に円筒ころの形状に一致する半ポケットを加工されている2つの部分環が、ラジアルころ軸受の両側から、外レースの縁と内レースの縁との間の間隙を通ってラジアルころ軸受へ差込まれ、鋲止めにより保持器となるように互いに結合される。
【0003】
しかしこのようなラジアルころ軸受の欠点は、その保持器が比較的高い製造費及び組立て費を必要とし、従って軸受の価格を高くすることである。転動路上を転がる円筒ころが、その保持器ポケット内で円筒ころに対して固定的に設けられる保持器へ向かって衝突し、それにより円筒ころ及び保持器に高い摩擦摩耗を生じ、その結果円筒ころがその目標位置からの望ましくない先行又は遅れを生じ、ラジアルころ軸受が動かなくなることも、同様に欠点であることがわかった。更にこのようなラジアルころ軸受は、半径方向に大きく負荷され、従って軸受の荷重区域外に比較的大きい半径方向遊隙を持っているので、この半径方向遊隙と関連して大きいポケット遊隙により、円筒ころがそのつど衝撃的に軸受の荷重区域へ引込まれ、保持器を介してこの衝撃を軸受の他方のころ列へ伝達する。それによりラジアルころ軸受の丸くない回転が起こり、それによりころ列及び保持器の摩耗が更に強められ、結局ラジアルころ軸受の寿命が著しく低下される。
【0004】
外レース及び内レースに縁による転動路の側方区画を持つラジアルころ軸受の円筒ころを保持器により案内する別の可能性は、米国特許第837830号明細書によっても公知である。このラジアルころ軸受では、円筒ころ用保持器が、断面を三角形にかつ中空に形成される若干の中間片により形成され、これらの中間片の長さ及び幅が円筒ころの長さ及び直径に一致し、その脚辺の1つの縦軸線方向に分離された構造により、これらの中間片がその幅を弾性変形可能である。これらの中間片は、軸受に円筒ころを充填し、外レースの縁と内レースの縁との間の間隙を通って圧縮された形でころを均一に整列した後、それぞれ2つの円筒ころの間をラジアルころ軸受へ差込まれ、それから軸受内で弾性応力除去により再びその最初の三角形状をとり、この三角形状で中間片の分離された脚辺が、内レースの転動路上に載り、その閉じた脚辺がラジアルころ軸受のそれぞれ2つの円筒ころを互いに支える。
【0005】
しかしこのように構成されるラジアルころ軸受は、円筒ころの間に設けられる三角形状中間片が、その分離して構成される脚辺及びその三角形により、大きい周方向負荷に耐えるのに適しておらず、このような負荷の場合弾性変形によりその組立て形状に圧縮されて傾倒する傾向がある。それによりこの軸受でも、円筒ころが好ましくないように滑るか、円筒ころがその目標位置から先行するか又は遅れ、それにより円筒ころ軸受が動かなくなるか又は故障するまでになる。更にこのラジアルころ軸受でも、その転動路上を転がる円筒ころが、円筒ころに対して固定して設けられる中間片へ向かって動き、それにより円筒ころ及び中間片に大きい摩擦摩耗が生じることも、不利であることがわかった。中間片が円筒ころにより内レースの転動路を介して永続的に一緒に磨かれることによって、中間片の摩耗が更に高められるので、このラジアルころ軸受も僅かな寿命しか持っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って従来技術の解決策の上述した欠点から出発して、本発明の基礎になっている課題は、ラジアルころ軸受特に外レース及び内レースに連続する転動路を形成される円筒ころ軸受又は針状ころ軸受を構想し、このころ軸受をころ転動体用の簡単に組立て可能な保持器により構成し、この保持器が大きい周方向負荷に耐え、かつころ転動体と保持器との間の摩擦摩耗を最小に減少し、ころ転動体の確実な案内を常に保証し、ころ転動体が荷重区域へ入る際同時に衝撃減衰効果を持つようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によればこの課題は、請求項1の上位概念に記載のラジアルころ軸受において、保持器がそれぞれ2つのころ転動体の間に設けられかつ形状記憶合金から成る中空ころにより形成され、ラジアルころの組立ての際中空ころが、外レースの縁と内レースの縁との間の間隙の寸法に断面を変形され、レースのこれらの縁の間の間隙を通してラジアルころ軸受へ差込み可能であり、ラジアルころ軸受への差込み後所定の温度に達する際、自動的にその原形をとることによって、解決される。
【0008】
いわゆる形状記憶合金は、以前から応用に向けられた材料研究の対象であり、適当な処理後オーステナイトからマルテンサイトへの変態のため温度又は応力に応じてその形状を変化することを特徴としている。その低温形状において、このような合金から成る工作物は、永久に即ち見かけ上塑性変形し、変態温度以上に加熱の際その最初の形状を再びとる。これらの工作物を再び冷却すると、再び塑性変形するが、適当に加熱される限り、そのミクロ組織をオーステナイトに戻しながら再びそのマクロな最初の高温形状をとる。形状記憶特性において、原理的に一方向効果と両方向効果とを区別することができる。一方向効果では、低い温度で変形した材料は、高い温度に加熱されると、再び最初の形状をとる。材料は、加熱の際その最初の形状をある程度記憶し、続く冷却の際にもこの形状を保つ。これに反し双方向効果と称する現象では、温度上昇の際及び冷却の際その仕込まれた形状を記憶し、即ち高い温度では1つの形状を記憶し、低い温度では別の形状を記憶する。
【0009】
これから出発して本発明により構成されるラジアルころ軸受の好ましい展開では、ころ転動体用保持器として構成されかつ形状記憶合金から成る中空ころが、その原形において、ラジアルころ軸受のころ転動体と同じ外径及び同じ長さを持ち、断面をなるべく薄壁の材料厚さで構成されている。このように構成されてころ転動体の間に設けられる中空ころの利点は、これらの中空ころがころ転動体と同様に内レース及び外レースの転動路上を転がり、その際ころ転動体のようにこれらの転動路の縁により案内されることである。それによりかつころ転動体の間に中空ころが間隔を満たすように精確にはまることにより、ころ転動体が中空ころの精確な向きで駆動されるので、ころ転動体が中空ころを傾けたり倒したりすることがない。形状記憶合金はその高温形状又はその硬い相において極めて安定なので、中空ころの薄壁構成にもかかわらず、中空ころが高い周方向負荷にも耐え、また必要な弾性を持ち、ころ転動体が軸受の荷重区域へ入る際現れる衝撃もころ転動体のその他の振動も減衰する。
【0010】
本発明により構成されるラジアルころ軸受の別の構成として形状記憶合金から成る中空ころが、なるべく一方向特性又は両方向特性を持つニッケル−チタン合金から構成され、この合金がマルテンサイト低温相で容易に変形可能であり、オーステナイト高温相へ移行の際その最初の製造形状をとることが、更に提案される。一方向特性を持つニッケル−チタン合金を使用すると、中空ころはそのオーステナイト高温相へ移行後その最初の製造形状をとるので、ラジアルころ軸受はもはや分解不可能である。これに反し二方向特性を持つニッケル−チタン合金を使用すると、この合金が低温相でも高温相でもその形状を記憶するので、ラジアルころ軸受の分解のため形状記憶合金の低温相へラジアルころ軸受を冷却する際、中空ころはその変形した形状を再びとり、それにより軸受から問題なく除去可能である。
【0011】
本発明により構成されるころ軸受の特に有利な実施形態では、中空ころ用形状記憶合金のマルテンサイト低温相及びオーステナイト高温相が、典型的な作動温度外に規定されている。本発明により構成されて例えば工作機械主軸用の固定軸受等として使用される円筒ころ軸受では、形状記憶合金の例えば低温相がほぼ窒素沸騰温度(−77℃)に規定され、高温相がほぼ水の凍結点(0℃)に規定されるので、円筒ころ軸受の作動中に、外部温度の影響及びそれに伴って形状記憶合金のオーステナイト高温相からマルテンサイト低温相へまたはその逆への自動的な移行により、中空ころが望ましくないように変形するのを防止される。しかし形状記憶合金のそれぞれの移行温度は個々に設定可能であり、従ってころ軸受の予想される作動条件に適当に合わせることができる。
【0012】
本発明により構成されて外レース及び内レースに連続する転動路縁を持つラジアルころ軸受は、従って従来技術から公知の同じ種類のラジアルころ軸受に対して、形状記憶合金から成る中空ころからころ転動体用保持器を形成することにより、高い周方向負荷に耐えかつレースの転動路上における中空ころの一緒の回転によりころ転動体と保持器との間の摩擦摩耗を最小に減少しかつ簡単に組立て可能な保持器を持っている、という利点を持っている。同時に中空ころは、軸受におけるころ転動体の確実な案内を常に保証し、衝撃及び揺動を減衰する効果を持ち、この効果により、ころ転動体が軸受の負荷区域へ入る際現れる衝撃またはころ転動体のその他の振動が最小にされる。
【0013】
本発明により構成されるラジアルころ軸受の好ましい実施例が、添付図面を参照して以下に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1及び2から、円筒ころ軸受として構成されるラジアルころ軸受1が明らかにわかり、大体において外レース2、内レース3、及びこれらのレース2,3の間に設けられる複数のころ転動体4から成り、これらのころ転動体4は、側方をそれぞれ2つの連続する縁5,6及び7,8で区画される外レース2及び内レース3の転動路9,10上を転がり、保持器により均一な相互間隔で案内される。
【0015】
同様に図1及び2からわかるように、このラジアルころ軸受1の保持器は、本発明によれば、2つのころ転動体4の間にそれぞれ設けられる形状記憶合金製の個々の中空ころ11により形成され、ラジアルころ軸受1の組立ての際これらの中空ころ11は、図1に示すように断面を外レース2の縁6と内レース3の縁8の間隙12の寸法まで楕円状に変形され、レース2,3のこれらの縁6,8の間の間隙12を通してラジアルころ軸受1へ差込み可能である。図1の切欠かれた部分図は、これらの中空ころ11が、ラジアルころ軸受1への差込み後所定の温度に達すると、自動的にその原形をとり、中空ころ11がころ軸受1のころ転動体4と同じ外径及び同じ長さを持つことを、明らかにしている。中空ころ11は断面において薄壁の材料厚さを持つように構成されているので、中空ころ11は、一方では高い周方向負荷にも耐えることができ、他方ではころ転動体4がラジアルころ軸受1の荷重区域へ入る際に生じる衝撃及びころ転動体4のその他の振動を適当に減衰させるために必要な弾性を持っている。
【0016】
図1及び2は、形状記憶合金から成る中空ころ11が、両方向特性を持つニッケル−チタン合金から構成され、この合金がマルテンサイトの低温相で容易に変形可能であり、オーステナイトの高温相へ移行すると最初の製造形状をとることを、暗示的にのみ示している。この形状記憶合金のマルテンサイト低温相及びオーステナイト高温相は、ラジアルころ軸受1の典型的な作動温度外では、形状記憶合金の低温相がほぼ窒素沸騰温度に相当する−77℃の温度にあり、形状記憶合金の高温相が水のほぼ凍結点に相当する0℃の温度に設けられているように、規定されている。従ってこのように構成される円筒ころ軸受を工作機械の駆動装置に使用すると、外部の温度の影響及びそれに伴って形状記憶合金のオーステナイト高温相からそのマルテンサイト低温相へ又はその逆への自動的な移行によって、中空ころ11が望ましくないように変形するのを防止される。同時にこのような円筒ころ軸受は、窒素沸騰温度への冷却とそれに伴う中空ころ11の楕円状の戻り変形により、再び分解可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】 本発明により構成されるラジアルころ軸受の一部を切欠いた側面図を示す。
【図2】 本発明により構成されるラジアルころ軸受の部分断面の拡大図を示す。
【符号の説明】
【0018】
1 ラジアルころ軸受
2 外レース
3 内レース
4 ころ転動体
5 9の縁
6 9の縁
7 10の縁
8 10の縁
9 2の転動路
10 3の転動路
11 中空ころ
12 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアルころ軸受特に円筒ころ軸受又は針状ころ軸受が、実質的に外レース(2)、内レース(3)、及び両方のレース(2,3)の間に設けられる複数のころ転動体(4)から成り、これらの転動体(4)が、外レース(2)及び内レース(3)のそれぞれ2つの連続する縁(5,6及び7,8)により側方を区画される転動路(9,10)上で転がり、保持器により互いに等間隔に案内されるものにおいて、保持器が、それぞれ2つのころ転動体(4)の間に設けられかつ形状記憶合金から成る中空ころ(11)により形成され、ラジアルころ(1)の組立ての際中空ころ(11)が、外レース(2)の縁(6)と内レース(3)の縁(8)との間の間隙(12)の寸法に断面を変形され、レース(2,3)のこれらの縁(6,8)の間の間隙(12)を通してラジアルころ軸受(1)へ差込み可能であり、ラジアルころ軸受(1)への差込み後所定の温度に達する際、自動的にその原形をとることを特徴とする、ラジアルころ軸受。
【請求項2】
ころ転動体用保持器として構成されかつ形状記憶合金から成る中空ころ(11)が、その原形において、ラジアルころ軸受(1)のころ転動体(4)と同じ外径及び同じ長さを持ち、断面をなるべく薄壁の材料厚さで構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のラジアルころ軸受。
【請求項3】
形状記憶合金から成る中空ころ(11)が、なるべく一方向特性又は両方向特性を持つニッケル−チタン合金から構成され、この合金がマルテンサイト低温相で容易に変形可能であり、オーステナイト高温相へ移行の際その最初の製造形状をとることを特徴とする、請求項2に記載のラジアルころ軸受。
【請求項4】
形状記憶合金のマルテンサイト低温相及びオーステナイト高温相が、典型的な作動温度外に規定され、例えば低温相がほぼ窒素沸騰温度(−77℃)に規定され、高温相がほぼ水の凍結点(0℃)に規定されていることを特徴とする、請求項3に記載のラジアルころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−519228(P2008−519228A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543687(P2007−543687)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/DE2005/001976
【国際公開番号】WO2006/050697
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(506420843)シエフレル・コマンデイトゲゼルシヤフト (80)
【Fターム(参考)】