説明

防曇性組成物、防曇性樹脂シート及び容器

【課題】透明性が高く、ベタツキ感が少なく、高温及び低温の環境下でも防曇持続性を発揮し、しかも、裏面側の離型剤に転写し難い新たな防曇性組成物を提案する。
【解決手段】(A)界面活性剤、(B)親水性高分子、及び(C)シェラックの各成分を含有する防曇性組成物であって、(A)成分として、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し、かつ、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計含有量100質量部に対して、(A)成分の含有量が50〜99質量部であり、(B)成分と(C)成分の合計含有量が50〜1質量部であり、かつ、(B)成分と(C)成分の合計量100質量部に対して(B)成分の含有量が1〜99質量部であり、(C)成分の含有量が99〜1質量部であることを特徴とする防曇性組成物を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂シートなどの樹脂シートに防曇性を付与するのに適した防曇性組成物、これを用いて形成した防曇性樹脂シート、及びこれを用いて形成した容器に関する。
【背景技術】
【0002】
弁当容器などの食品包装用容器は、水分を含む内容物を包装したり、冷蔵保存或いは電子レンジ加熱したりするため、水蒸気が蓋材表面に微小な水滴として付着し、透明な蓋材が曇ってしまうことがある。特にスチレン系樹脂シートなどの場合は、シート表面が疎水性のため、シート表面に付着した水分が水滴を形成しやすく、それによって光が拡散・屈折・反射することによって曇りを生じることになる。
しかし、蓋材が曇ってしまったのでは、内容物が美味しそうに見えなくなり、弁当等の売上低下につながりかねない。そのため、この種の容器において蓋材を曇らなくすることは重要な課題であった。
【0003】
防曇性を付与する技術としては、古くは、界面活性剤の働きによって水滴を濡れ広がらせて透明性を確保することが行われていた。しかし、界面活性剤は、水に溶けやすいため、水とともに界面活性剤が失われて防曇性が低下するという問題があった。
そこで、ポリエーテルポリオールなどの親水性高分子に界面活性剤などを加えた防曇剤が用いられるようになった。親水性高分子を配合することによって形成される被膜が硬く強くなるばかりか、親水性になった膜は、水分を吸収することによって防曇性を発揮し、吸湿飽和点に達した場合でも、界面活性剤の働きによって水滴が濡れて広がることにより透明性が確保されることになる。しかし、親水性高分子も水に溶出しやすいため、長時間水蒸気などに晒されていると、防曇効果が低下してしまうという課題を抱えていた。
【0004】
ここで、従来提案されている防曇性組成物を紹介する。
特許文献1には、(1)樹脂の水溶液又はエマルション、(2)ワックスエマルション、及び(3)防曇剤との混合物を主成分とし、(1)の固形分と(2)の固形分との質量比が98:2〜50:50であり、(1)の固形分と(2)の固形分との合計質量と(3)との質量比が98:2〜50:50であることを特徴とする表面被覆用組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤が開示されており、特許文献3は、多価アルコール型非イオン性界面活性剤とポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤との混合物によりなる防曇性組成物が開示されている。
【0006】
さらに特許文献4は、(A)非イオン性界面活性剤(ショ糖脂肪酸エステルなど)と、(B)水溶性高分子(ビニルピロリドン系重合体など)と、(C)アニオン性界面活性剤(スルホン酸塩など)とで構成される防曇性表面処理剤が記載されている。
【0007】
ところで、樹脂シートの一方の面に防曇性組成物を塗布し、乾燥してロール状に巻き取った後、ロールから樹脂シートを繰り出して熱成形により容器を成形する場合、樹脂シートの巻き取りに伴って、防曇性組成物が樹脂シートの非防曇処理面と接触して転移したり、或いは、容器成形過程において、熱板などの加熱体との接触により防曇剤が転移したり、或いは、型にくっ付いて型離れが悪くなるなどの問題があった。そこで、防曇性シートの離型性を高めるため、防曇層の反対側面に離型層を形成することが行われている。
【0008】
例えば特許文献5には、一方の表面にショ糖脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選択された少なくとも一種の防曇剤を塗布し、他方の面にエーテル系多量体類(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体)などで構成された離型剤を塗布したポリスチレン系シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−69688号公報
【特許文献2】特許第3241797号公報
【特許文献3】特開2003−201355号公報
【特許文献4】特開2010−37387号公報
【特許文献5】特開2002−46232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来提案されている防曇性組成物は、防曇層形成時の透明性が十分でなかったり、ベタツキ感があったり、例えば高温で多量の水蒸気に晒され続けた場合などにおいて防曇持続性を十分に発揮できなかったり、或いは、裏面側の離型剤に転写し易かったりするなどの課題を抱えていた。
【0011】
そこで本発明は、防曇層形成時の透明性が十分であり、指で押さえて引き離した時のベタツキ感が少なく、高温で多量の水蒸気に晒され続けても、逆に、低温環境下に晒され続けても曇りを発生せず、液膜や水滴を付着させない防曇持続性を備えており、しかも、裏面側の離型剤に転写し難いと言った特徴を備えた新たな防曇性組成物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を達成するために、本発明は、(A)界面活性剤、(B)親水性高分子、及び(C)シェラックの各成分を含有する防曇性組成物であって、(A)成分として、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し、かつ、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計含有量100質量部に対して、(A)成分の含有量が50〜99質量部であり、(B)成分と(C)成分の合計含有量が50〜1質量部であり、かつ、(B)成分と(C)成分の合計量100質量部に対して(B)成分の含有量が1〜99質量部であり、(C)成分の含有量が99〜1質量部であることを特徴とする防曇性組成物を提案するものである。
【0013】
(A)界面活性剤及び(B)親水性高分子に(C)シェラックを配合して防曇性被膜を形成することにより、指で押さえて引き離した時のベタツキ感を抑えることができる。さらに、疎水性のシェラックを配合して被膜を形成することで、被膜全体の疎水性を高めることができるから、界面活性剤及び親水性高分子が水に溶出するのを防ぐことができ、例えば高温で多量の水蒸気に晒され続けても、逆に、低温環境下に晒され続けても、曇りを発生せず、液膜や水滴を付着させない持続性のある防曇層を形成することができる。
また、シェラックによる被膜形成による効果で、熱板成形を実施する際に、熱板表面への汚れの蓄積を抑制できるなど、ロール状での保管時に防曇剤と離型剤との混合や転写を効果的に抑えることができる。そして、このような転写を抑制できるため、透明性や防曇性の性能が低下し難くなる。
また、(A)界面活性剤及び(B)親水性高分子に(C)シェラックからなる配合組成において、各成分の含有量を特定の範囲とし、かつ、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用することにより、防曇層の外観を良好に維持しつつ優れた界面活性防曇性を発揮することができる。
さらにまた、(B)親水性高分子の含有割合を(C)シェラックの含有割合よりも多くすることにより、優れた防曇性を発揮し、多量の水蒸気に晒され続けても優れた防曇持続性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明するが、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<本防曇性組成物>
本発明の実施形態の一例に係る防曇性組成物(「本防曇性組成物」と称する)は、(A)界面活性剤、(B)親水性高分子、及び(C)シェラックを含有する防曇性組成物である。
【0016】
(A)界面活性剤
本防曇性組成物に用いる界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を併用することが重要である。
アニオン系界面活性剤だけを用いると、界面活性が強過ぎて塗布ムラを生じるなど外観が低下する一方、ノニオン系界面活性剤だけを用いると、逆に界面活性が弱くて水分を表面に馴染ませる効果に劣るようになる。これに対し、両者を併用することにより、防曇層の外観を良好に維持しつつ優れた界面活性を発揮することができ、またその持続性(防曇持続性)の点でも優れたものとすることができる。
【0017】
ノニオン系界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等を挙げることができ、これらのうちの一種又は二種以上を用いることができる。
【0018】
中でも、良好な防曇性を発現する点から、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体が特に好ましい。
ここで、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルとは、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステルであり、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数6〜22の脂肪酸のエステルが好ましく、炭素数8〜18の脂肪酸のエステルがより好ましく、炭素数10〜16の脂肪酸のエステルが特に好ましく、炭素数12のラウリン酸エステルがさらに好ましい。グリセリンの結合数は2〜20が好ましく、2〜6がより好ましく、中でもグリセリンの結合数が2、すなわちジグリセリンがさらに好ましい。これらの中で最も好ましくはジグリセリンラウリン酸エステルである。
前記ショ糖脂肪酸エステルとは、ショ糖と脂肪酸とのエステルであり、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては炭素数6〜22の脂肪酸のエステルが好ましく、炭素数8〜18の脂肪酸のエステルがより好ましく、炭素数10〜16の脂肪酸のエステルが特に好ましく、炭素数12のラウリン酸エステルがさらに好ましい。また、HLBが12〜17のショ糖ラウリン酸エステルが最も好ましい。
前記ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体としては、エチレンオキサイド鎖の含有率は10〜90%がさらに好ましく、特にエチレンオキサイド鎖の含有率は10〜50%が好ましい。
【0019】
他方、アニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩やポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩やポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキルスルホコハク酸塩等のスルホン酸塩、アルキル燐酸エステル塩やポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩等の燐酸エステル塩等を挙げることができ、これらのうちの一種又は二種以上を用いることができる。
【0020】
中でも、良好な防曇性を発現する点から、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、及び脂肪酸塩よりなる群から選択された1種又は2種類以上であるのが特に好ましい。ここで、前記アルキル硫酸エステル塩としては、炭素数8〜18のアルキル硫酸エステル塩がさらに好ましく、特にナトリウム塩又はカリウム塩からなる炭素数8〜18のアルキル硫酸エステル塩が好ましい。
前記アルキルスルホコハク酸塩としては、炭素数8〜18のアルキルスルホコハク酸塩がさらに好ましく、特にナトリウム塩又はカリウム塩からなる炭素数8〜18のアルキルスルホコハク酸塩が好ましい。
前記脂肪酸塩としては、炭素数8〜18の脂肪酸塩がさらに好ましく、特にナトリウム塩又はカリウム塩からなる炭素数8〜18の脂肪酸塩が好ましい。
【0021】
本防曇性組成物では、界面活性剤の主成分としてノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含んでいれば、他の界面活性剤を含有してもよい。例えばアルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等のカチオン性界面活性剤や、アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルスルホベタイン等の両性界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0022】
(B)親水性高分子
本防曇性組成物に用いる親水性高分子としては、例えば親水性アクリル系共重合体、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルのケン化物)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、セルロース類、多糖類などを挙げることができる。これらのうちの一種を使用することも、また、これらのうちから2種類以上を選択して併用することもできる。
【0023】
これらの中で、良好な防曇層の転写抑制や被膜硬度を向上させる点から、親水性アクリル系共重合体、又は、ポリエチレンオキサイド、中でもこれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0024】
親水性アクリル系共重合体としては、親水性基を有するアクリル系単量体に由来する構成繰返し単位を含むものであればよく、該構成繰返し単位と親水性基を有さないアクリル系単量体に由来する構成繰返し単位とからなる共重合体であるのが好ましい。
【0025】
上記の「親水基を有するアクリル系単量体」としては、水と相互作用が強い極性の原子団である親水性基、即ち、水中で陽イオンとして解離するカチオン性基、陰イオンとして解離するアニオン性基、或いは解離しない非イオン性基を有する公知のアクリル系単量体を挙げることができる。
また、そのカチオン性基を有するアクリル系単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びその塩、(メタ)アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が、又、そのアニオン性基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸−2−スルホエチル及びその塩、ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート及びその塩等が、又、非イオン性基を有するアクリル系単量体としては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
ここで、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は/及び「メタクリル」を意味するものとする。
また、「塩」としては、アルカリ金属、アルカリ土金属、及びアルミニウム族等の金属、好ましくはLi、Na、K、Mg、Ca、及びAlの塩、並びに、アンモニウム塩等を挙げることができる。
これら親水性アクリル系共重合体としては、防曇層の転写抑制の点から、アニオン性基を有するアクリル系単量体、及び非イオン性基を有するアクリル系単量体が好ましく、アニオン性基を有するアクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸及びその塩が、非イオン性基を有するアクリル系単量体としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが、さらに好ましい。
【0026】
他方、上記の「親水基を有さないアクリル系単量体」としては、例えば(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜8の直鎖状及び分岐状)エステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられ、これらの親水基を有さないアクリル系単量体の中で、本発明においては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(メタ)アクリロニトリルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルがさらに好ましい。
【0027】
以上の親水性アクリル系共重合体の中で、本防曇性組成物においては、(メタ)アクリル酸の金属塩に由来する構成繰返し単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成繰返し単位とを含む共重合体が特に好ましい。
【0028】
親水性高分子として用いる親水性アクリル系共重合体としては、さらに、架橋性アクリル系単量体に由来する構成繰返し単位を、共重合体がゲル化しない範囲で含んでいてもよく、これにより防曇層の耐水性や硬度を向上させることができる。
その架橋性アクリル系単量体としては、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0029】
他方、ポリエチレンオキサイドとしては、以下に示す方法で測定した粘度平均分子量Mvが5万〜800万であるのが好ましく、7万〜600万であるのがさらに好ましく、9万〜400万であるのが特に好ましい。
ポリエチレンオキサイドの粘度平均分子量が前記範囲未満では、防曇層と樹脂シートとの密着性に起因すると考えられる防曇持続性が低下する傾向があり、他方、前記範囲を超え過ぎると、防曇層としての透明性が低下する傾向が見られるようになる。
【0030】
ここでいう「粘度平均分子量Mv」は、F.E.Bailey Jr.etal.,J.Polym.Sci.,32,517(1958)に記載される次式を用いて、ポリエチレンオキサイド水溶液について、温度30℃で測定した固有粘度[η]から算出したものである。
[η]=1.25×10-4×Mv0.78
【0031】
(C)シェラック
本防曇性組成物に用いるシェラック(セラツク)は、ラックカイガラ虫が分泌する樹脂状物質を精製したものであり、漂白処理された白色シェラックなどが市販されている。
具体的には、天然由来の樹脂状物質より得られる精製シェラック、脱色シェラック、白色シェラックを挙げることができる。
これらの中で、良好な防曇持続性と防曇層の透明性を発現する点から、脱色シェラック又は白色シェラックが好ましい。
また、シェラックの化学構造は完全に解明されているわけではないが、少なくともアレウリチン酸(aleuriticacid)とシェロール酸(shellolicacid)およびその誘導体を構成成分とするポリエステルが主成分であり、これらが、本発明において好ましい特性を発揮する理由であると推定される。その他、ブトール酸やパルミチン酸、ミリスチン酸などの存在が確認されている。従って、本発明の「シェラック」には、天然由来のシェラックのみならず、上記推定構造を基に合成された化学合成樹脂であって、上記と同様の作用効果を示すものも含まれる。
【0032】
(配合)
本防曇性組成物の配合組成に関しては、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の含有量が、前記3成分の合計量100質量部に対して、(A)成分の含有量は50〜99質量部であるのが好ましく、中でも55〜95質量部、その中でも55〜90質量部であるのがさらに好ましい。
(B)成分と(C)成分の合計含有量は、50〜1質量部であるのが好ましく、45〜5質量部であるのがさらに好ましく、その中でも45〜10質量部であるのが特に好ましい。
(A)成分が上記範囲未満で、(B)成分と(C)成分との合計量が上記範囲超過では、防曇性自体が不十分となる傾向があり、一方、(A)成分が上記範囲超過で、(B)成分と(C)成分との合計量が上記範囲未満では、防曇層と離型層間の混じり合いや転写を十分に抑制することができなくなる傾向がある。
【0033】
また、(B)成分と(C)成分の合計量100質量部に対して(B)成分の含有量は1〜99質量部であるのが好ましく、中でも15〜90質量部、その中でも25〜85質量部であるのがさらに好ましい。
他方、(C)成分の含有量は、99〜1質量部であるのが好ましく、中でも85〜10質量部、その中でも75〜15質量部であるのがさらに好ましい。
(B)成分が前記範囲未満で、(C)成分が上記範囲超過では、低温環境下での防曇性自体が不十分となる傾向があり、(B)成分が上記範囲超過で、(C)成分が上記範囲未満では、高温で多量の水蒸気に晒され続けたときに防曇性自体が不十分となる傾向がある。
防曇剤組成物中(溶媒を含まない)の(A)成分、(B)成分及び(D)成分を合わせた含有量は50〜100質量%であるのが好ましい。
【0034】
<本防曇性樹脂シート>
本発明の実施形態の一例に係る防曇性樹脂シート(「本防曇性樹脂シート」と称する)は、基材シートの少なくとも一側に、上記本防曇性組成物から形成された防曇層を備えたシートであって、必要に応じて、防曇層とは反対側に離型層を形成してもよい。
【0035】
(基材シート)
基材シートとしては、透明な樹脂シートであれば適宜用いることができる。例えばポリスチレン系樹脂、アモルファスポリエチレンテレフタレート(以下、「A−PET」と略記する場合がある)等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、等の熱可塑性樹脂の、未延伸シート、一軸若しくは二軸延伸シート等が挙げられる。これらの中で、二軸延伸ポリスチレンシート、未延伸A−PETシート等が好ましい。
基材シートの厚みは特に限定はないが、0.1mm〜0.7mmであるのが好ましい。
【0036】
基材シートは、通常、必要により前記樹脂シート表面を公知の表面処理方法を用いて、例えばコロナ放電処理により、表面張力を好ましくは50〜60mN/mの範囲に調整し、又は、高周波処理等の処理を施されたものが好ましい。
【0037】
(防曇層)
防曇層の膜厚は、特に限定するものではないが、5nm〜1000nmであるのが好ましく、中でも10nm以上或いは500nm以下であるのがさらに好ましく、特に20nm以上或いは200nm以下であるのが特に好ましい。
また、前記防曇層の防曇剤被覆量は、特に限定するものではないが、5〜1000mg/mであるのが好ましく、中でも10mg/m以上或いは500mg/m以下であるのがさらに好ましく、特に20mg/m以上或いは200mg/m以下であるのが特に好ましい。防曇層の防曇剤被覆量が前記範囲未満では防曇性自体が不十分となる場合があり、一方、前記範囲超過では、シートが白化し外観が悪くなる場合がある。
【0038】
(離型層)
本防曇性樹脂シートは、基材シートの両側に防曇層を備えていてもよいが、他方の面には、成形時の金型からの離型性や成形体同士の剥離性等の賦与のために、離型層を形成することができる。
【0039】
離型層は、例えばシリコーンオイル等から形成することができる。
ここで、シリコーンオイルとしては、例えばメチル水素ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ポリオキシアルキレン(炭素数2〜4)変性ジメチルポリシロキサン等を挙げることができる。
これらの中で、離型性及び安全衛生性等の点から、ジメチルポリシロキサン、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性ジメチルポリシロキサンがさらに好ましく、特にジメチルポリシロキサンが好ましい。
【0040】
シリコーンオイルは、25℃での粘度が、10〜100,000mm2/sであるのが好ましく、50〜50,000mm2/sであるのがさらに好ましく、100〜30,000mm2/sであるのが特に好ましい。又、シリコーンオイルは、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0041】
離型層には、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の界面活性剤や、或いは必要に応じて、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、粘度調整剤、消泡剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、抗菌剤、又は、顔料、染料等の着色剤等が添加されていてもよい。
【0042】
離型層の膜厚は、特に限定するものではないが、1〜100nmであるのが好ましく、中でも3nm以上或いは70nm以下であるのが好ましく、特に5nm以上或いは50nm以下であるのがさらに好ましい。
また、前記離型層の離型剤被覆量は、特に限定するものではないが、1〜100mg/m2であるのが好ましく、中でも3mg/m2以上或いは70mg/m2以下であるのが好ましく、特に5mg/m2以上或いは50mg/m2以下であるのがさらに好ましい。離型層の離型剤被覆量が前記範囲未満では、離型性自体が不十分となる場合があり、一方、前記範囲超過では更なる離型性の向上が認められない場合がある。
【0043】
なお、本発明において、前記防曇層及び離型層の各被覆量の測定は、面積の分かった防曇性樹脂シート上の防曇剤、及び離型剤を洗浄して洗液を集め、質量法、ガスクロマトグラフィー法、高速クロマトグラフィー法等ですることができるが、被覆量既知のシートを標準サンプルとしてFT−IR(ATR法)により検量線を作成し、被覆量未知の測定値と比較する方法が簡便であるので、それを用いることもできる。
【0044】
(製法)
次に、本防曇性樹脂シートの製造方法の一例について説明するが、これに限定されるものではない。
【0045】
本防曇性組成物を、溶媒若しくは分散媒を用いて例えば0.1〜5質量%の濃度に調整し、基材シートの少なくとも一方の表面に、例えばスプレーコーター、エアーナイフコーター、スクィーズロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター等の公知の塗布方法で、乾燥後の被覆量が前記被覆量となる量で塗布し、熱風乾燥機等により乾燥させて防曇層を形成させることが好ましい。
【0046】
本防曇性組成物の被覆量は、5〜1,000mg/m2 であるのが好ましく、中でも10mg/m2以上或いは500mg/m2以下であるのが好ましく、特に20mg/m2以上或いは200mg/m2以下であるのがさらに好ましい。防曇層を形成する防曇剤の被覆量が前記範囲未満では、防曇性自体が不十分となる傾向となり、一方、前記範囲超過では、シートが白化して外観が悪化する傾向となる。
【0047】
次いで、他方の面に離型層を形成する場合には、他方の面に、0.1〜5質量%程度の濃度に調整した離型剤液を同様の方法で、乾燥後の被覆量が前記被覆量となる量で塗布し、熱風乾燥機等により乾燥させて離型層を形成させることができる。尚、防曇層と離型層の形成順序は任意である。
製造された防曇性樹脂シートは、通常、防曇層を外側とし離型層を内側として両層が重合するように、ロール状に捲き取られて捲回物とすればよい。
【0048】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<原料>
以下の実施例、比較例で用いた防曇層形成用成分としての(A)界面活性剤、(B)親水性高分子、(C)シェラック、(D)その他成分、及び離型層形成用成分としての(E)シリコーンオイルを以下に示す。
【0051】
(A)界面活性剤
A−1;ショ糖ラウリン酸エステル(HLB:15)
A−2;ポリグリセリンラウリン酸エステル(HLB:9)
A−3;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体(EO親水基比率10%)
A−4;アルキル(C8)硫酸ナトリウム塩
A−5;ジアルキル(C8)スルホコハク酸ナトリウム塩
【0052】
(B)親水性高分子
B−1;親水性アクリル系共重合体(メタクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル・アクリル酸共重合物及びその軽金属塩(Li,Na,K,Ca,Ng,Al)、軟化点45℃、ろ過粒子径5μm)
B−2;ポリエチレンオキサイド(粘度平均分子量10万〜17万)
【0053】
(C)シェラック
C−1;脱色シェラックのエタノール溶液(脱色シェラック濃度5質量%)
【0054】
(D)その他成分
D−1;ポリエチレンのワックスエマルジョン(ポリエチレン濃度30質量%)
【0055】
(E)シリコーンオイル
E−1;ジメチルポリシロキサン(25℃での粘度10,000mm2/s)のエマルジョン(ジメチルポリシロキサン濃度30質量%)
【0056】
<実施例1〜7、比較例1〜6>
二軸延伸ポリスチレンシート(厚み0.3mm)の一方の面にコロナ処理を施した後、コロナ処理した面に、防曇層を形成する(A)〜(D)各成分の組成が表1に示す組成となるように、防曇性組成物の水溶液を上記A−1〜D−1を用いて作成した後、スプレーコーターで塗布し、他方の面に、E−1の離型剤エマルジョンをスプレーコーターで塗布し、スムージングロールにより塗工面を均一化し、乾燥させた。その後、防曇層を外側とし離型層を内側としてロール状に捲き取って捲回物とし、巻き取った直後の捲回物を捲き戻して、樹脂シート(サンプル)を得た。
なお、表1に示す(C)、(D)及び(E)の含有量は、シェラック、ポリエチレンワックス、シリコーンのそれぞれの固形分量としての値である(以下の実施例・比較例についても同様)。
【0057】
得られた樹脂シート(サンプル)をサンプリングし、防曇層の防曇剤被覆量、及び離型層の離型剤被覆量をFT−IR(ATR法)により測定し、結果を表1に示した。
なお、被覆量の測定は、防曇層については1730cm-1付近の、離型層については1260cm-1付近の各特性吸収と、ポリスチレンの1940cm-1付近の特性吸収との比を、防曇剤組成又は離型剤組成、及び各被覆量が既知のシートから作成した検量線と比較することで定量した。
一方、巻き取った捲回物を、室温で約3ヶ月間保管した後、捲き戻したシートのベタツキ、透明性、及び熱成形した蓋体の防曇性を、次の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0058】
<実施例8〜9、比較例7>
未延伸A−PETシート(厚み0.3mm)の一方の面に、防曇層を形成する(A)〜(D)各成分の組成が表1に示す組成となるように防曇性組成物の水溶液を上記A−1〜D−1を用いて作成した後、スプレーコーターで塗布し、他方の面に、E−1の離型剤エマルジョンをスプレーコーターで塗布し、スムージングロールにより塗工面を均一化し、乾燥させた。その後、防曇層を外側とし離型層を内側としてロール状に捲き取って捲回物とし、巻き取った直後の捲回物を捲き戻して、樹脂シート(サンプル)を得た。
【0059】
得られた樹脂シート(サンプル)をサンプリングし、防曇層の防曇剤被覆量、及び離型層の離型剤被覆量をFT−IR(ATR法)により測定し、結果を表1に示した。
なお、被覆量の測定は、防曇層については1730cm-1付近の、離型層については1260cm-1付近の各特性吸収と、A−PETの特性吸収との比を、防曇剤組成又は離型剤組成、及び各被覆量が既知のシートから作成した検量線と比較することで定量した。
一方、巻き取った捲回物を、室温で約3ヶ月間保管した後、捲き戻したシートのベタツキ、透明性、及び熱成形した蓋体の防曇性を、次の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0060】
<評価方法>
以下の実施例、比較例における防曇性樹脂シートの性能評価は、以下の方法及び基準に従って行った。特に断りがない限り、「○」及び「◎」が本発明の対象レベルである。
【0061】
(シートのベタツキ)
実施例及び比較例で得られた樹脂シート(サンプル)の防曇層面を指で押さえ、引き離した時のベタツキ感を以下の基準で評価した。
【0062】
◎:殆どベタツキを感じない。
○:ベタツキを感じるが、実用上許容できるレベルにある。
△:ベタツキがやや強く、指紋の跡がはっきり残る。
×:ベタツキが激しく、ヌルヌルしている。
【0063】
(シートの透明性)
実施例及び比較例で得られた樹脂シート(サンプル)の曇価(ヘーズ)を、JIS
K7105に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業社製「NDH−300A」を用いて測定(n=5の平均値)し、そのヘーズ値と、肉眼により観察したシート外観の両方を、以下の基準で評価した。
【0064】
◎:ヘーズ1.5未満、又は白いムラ(転写模様)が全く見られない。
○:ヘーズ1.5〜2未満、又はうっすらとした白いムラ(転写模様)が見られる。
△:ヘーズ2〜3未満、又は白いムラ(転写模様)が目立つ。
×:ヘーズ3以上、又はくっきりとした白いムラ(転写模様)が見られる。
【0065】
(蓋体としての低温防曇性)
厚さ0.3mmのポリスチレンシートを用いて、開口部180mm×120mm、深さ20mmからなる容器本体(嵌合タイプ)を熱成形し、この容器本体内に、23℃の水150ccを入れた。次に、実施例及び比較例で得られた樹脂シート(サンプル)を、防曇層が内面となるように、前記容器本体の開口部に嵌合させて蓋をして、5℃のショーケース内に静置し、1時間後における蓋体内面の曇りの発生状況、液膜・水滴の付着状況を目視観察し、以下の基準で評価した。
【0066】
◎:蓋体に曇りがなく、液膜が均一であり、内容物の視認性が良好なレベル。
○:蓋体に曇りはなく、液膜が不均一でやや水滴の付着が見られるが、内容物の視認性は問題ないレベル。
△:蓋体に曇りはないが、液膜が不均一でかなりの水滴付着が見られ、内容物の視認性に問題があるレベル。
×:蓋体の一部に曇りが見られるか、蓋体のほぼ全面で水滴付着が激しく内容物の視認が困難なレベル。
【0067】
また、上記評価を生産直後に評価したものを「低温防曇性・初期」とし、巻き取った捲回物を室温で約3ヶ月間保管した後、捲き戻したシートに対して上記と同様に評価したものを「低温防曇性・3ヶ月後」の評価とした。
【0068】
(蓋体としての高温防曇性)
厚さ0.3mmのポリスチレンシートを用いて、開口部180mm×120mm、深さ20mmからなる容器本体(嵌合タイプ)を熱成形し、この容器本体内に、80℃のお湯150ccを入れた。次に、実施例及び比較例で得られた樹脂シート(サンプル)を、防曇層が内面となるように、前記容器本体の開口部に嵌合させて蓋をして、23℃雰囲気に静置し、1間後における蓋体内面の曇りの発生状況、液膜・水滴の付着状況を目視観察し、以下の基準で評価した。
【0069】
◎:蓋体に曇りがなく、液膜が均一であり、内容物の視認性が良好なレベル。
○:蓋体に曇りはなく、液膜が不均一でやや水滴の付着が見られるが、内容物の視認性は問題ないレベル。
△:蓋体に曇りはないが、液膜が不均一でかなりの水滴付着が見られ、内容物の視認性に問題があるレベル。
×:蓋体の一部に曇りが見られるか、蓋体のほぼ全面で水滴付着が激しく内容物の視認が困難なレベル。
【0070】
また、上記評価を生産直後に評価したものを「高温防曇性・初期」とし、巻き取った捲回物を室温で約3ヶ月間保管した後、捲き戻したシートに対して上記と同様に評価したものを「高温防曇性・3ヶ月後」の評価とした。
【0071】
(熱板表面の汚れ)
実施例及び比較例で得られた樹脂シート(サンプル)を、関西自動成形機社製の熱板成形機CK−1200を用いて容器本体(嵌合タイプ)に連続成形した。成形条件としては、成形温度135℃で成形サイクル10秒とした。成形開始前に、水を染み込ませたウエスで熱板表面を清掃し、2000ショットの連続成形を実施した後に、再度水を染み込ませたウエスで熱板表面の拭き取り清掃をした。その際のウエスの汚れの程度を以下の基準で評価した。
【0072】
◎:拭き取ったウエスの面がほとんど汚れていない。
○:拭き取ったウエスの面がわずかに汚れている。(目視でウエスの変色がかろうじてわかる)
△:拭き取ったウエスの面が汚れている。(目視でウエスの変色がわかる)
×:拭き取ったウエスの面が顕著に汚れている。(目視でウエスの変色が容易に分かる)
【0073】
【表1】

【0074】
(考察)
実施例1〜9のように、(A)界面活性剤及び(B)親水性高分子に(C)シェラックを配合して防曇性被膜を形成することにより、極めて透明性の高い防曇層を形成できるばかりか、指で押さえて引き離した時のベタツキ感を抑えた防曇層とすることができることが分かった。
また、実施例1〜9のように、(A)界面活性剤及び(B)親水性高分子に(C)シェラックを配合して防曇性被膜を形成することにより、高温で多量の水蒸気に晒され続けても、逆に、低温環境下に晒され続けても、曇りを発生せず、持続性のある防曇層を形成できることも分かった。これは、疎水性のシェラックを配合して被膜を形成することで、被膜全体の疎水性を高めることができるから、界面活性剤及び親水性高分子が水に溶出するのを防ぐことができるからであると考えられる。
【0075】
また、実施例1〜9のように、(A)界面活性剤及び(B)親水性高分子に(C)シェラックを配合して防曇性被膜を形成することにより、熱板成形を実施する際に、熱板表面への汚れの蓄積を抑制できることも分かった。同様に、ロール状での保管時に防曇剤と離型剤との混合や転写を効果的に抑えることができることも確認している。
【0076】
さらにまた、(A)界面活性剤及び(B)親水性高分子に(C)シェラックからなる配合組成において、前記三成分の合計量100質量部に対して、(A)成分50〜99質量部、(B)成分と(C)成分の合計量50〜1質量部であり、かつ、(B)成分と(C)成分の合計量100質量部に対して(B)成分1〜99質量部、(C)成分99〜1質量部とし、かつ、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を併用することにより、防曇層の外観を良好に維持しつつ優れた界面活性を発揮できることも分かった。
これに対し、(A)成分の含有量が50質量部未満である比較例4は、長期保管後の低温及び高温防曇性がともに悪かった。また、(A)成分として、ノニオン系界面活性剤のみを使用した比較例5及び7は、長期保管後の低温及び高温防曇性が悪く、アニオン系界面活性剤のみを使用した比較例6は、長期保管後の高温防曇性が悪かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)界面活性剤、(B)親水性高分子、及び(C)シェラックの各成分を含有する防曇性組成物であって、
(A)成分として、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤を含有し、かつ、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計含有量100質量部に対して、(A)成分の含有量が50〜99質量部であり、(B)成分と(C)成分の合計含有量が50〜1質量部であり、かつ、(B)成分と(C)成分の合計量100質量部に対して(B)成分の含有量が1〜99質量部であり、(C)成分の含有量が99〜1質量部であることを特徴とする防曇性組成物。
【請求項2】
(B)成分が、親水性アクリル系共重合体又はポリエチレンオキサイド又はこれらの混合物である請求項1に記載の防曇性組成物。
【請求項3】
ノニオン系界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体、よりなる群から選択された1種又は2種類以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防曇性組成物。
【請求項4】
アニオン系界面活性剤が、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、及び脂肪酸塩よりなる群から選択された1種又は2種類以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の防曇性組成物。
【請求項5】
(B)成分の含有量が、(C)成分の含有量よりも多いことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の防曇性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の防曇性組成物から形成された防曇層を、透明樹脂シートの少なくとも一方の面に備えた防曇性樹脂シート。
【請求項7】
透明樹脂シートの少なくとも一方の面であって、防曇層とは反対側の面に離型層を備えた請求項6に記載の防曇性樹脂シート。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の防曇性樹脂シートから形成されてなる容器。

【公開番号】特開2012−77262(P2012−77262A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226413(P2010−226413)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】