説明

防汚・抗菌剤、防汚・抗菌剤組成物および防汚・抗菌処理方法

【課題】環境に配慮し、優れた防汚・抗菌効果をもたらす新規な防汚・抗菌剤、防汚・抗菌性塗装材および防汚処理方法を提供すること。
【解決手段】下記のA〜Cから選ばれたことを特徴とする防汚・抗菌剤。
(A)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと、酸性基および反応性基を有する水溶性共重合体アニオンとの塩の水不溶性架橋化物、
(B)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと酸性基を有する単量体アニオンとの塩と、反応性単量体との共重合体の水不溶性架橋化物、および
(C)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと酸性基を有する単量体アニオンとの塩と、不飽和二重結合基を2個以上有する単量体との共重合体の水不溶性架橋化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚、抗菌、殺菌、防カビ性(以下「防汚・抗菌性」と総称する。)を有する防汚・抗菌剤、該防汚・抗菌剤を含む組成物(塗装材、樹脂組成物)および基材の防汚・抗菌処理方法に関する。
【0002】
さらに詳しくは、防汚・抗菌性を有するアンモニウムカチオンと酸性基を有する重合体アニオンとの塩が、水中において実質的に水不溶性を示し、直接水と接触することによる、あるいは水中、特に海水中に微量ずつ溶出される性質を利用した防汚・抗菌剤、防汚・抗菌剤組成物および基材の防汚・抗菌処理方法に関する。
【背景技術】
【0003】
海水中にはフジツボ類、コケムシ類、セルブラ類、ほや類など非常に多くの水棲生物植物や海藻類が生息している。これら水棲生物類が船舶の航行中や停泊中、補修中にその船底面や船側面に固着し、水との摩擦抵抗によって船舶の航行速度の低下や燃料の消費も増し、また、補修の頻度も増え、経済的にも多大な損失を被るなどの色々な弊害をもたらしている。また、海洋魚類の養殖場においても隔離網に同様に海洋生物が付着し、網の開口部の減少による新鮮な海水の流入などが妨げられ、養殖魚の生育に弊害となっている。
【0004】
これら水棲生物類の付着を防止するための船底防汚塗料として、錫化合物や銅化合物を含む塗料が使用されてきた。しかしながら、それらの錫化合物や銅化合物は海水中に溶出し、環境の汚染や魚、貝、海藻などへの汚染をもたらし、それらを食料とする人達にも汚染が広がり、健康を阻害するなどの大きな社会問題になってきている。
【0005】
また、日常の社会生活環境においても、病院、公共施設や公衆便所などや居住環境、特に台所、風呂、便所などの建造物や住宅などの水周り個所に発生するカビなどの生物的汚れに対する抗菌性塗布材料として、また、衛生性の維持のための抗菌処理や殺菌処理のために多くの無機系および有機系の抗菌剤が使用されている。
【0006】
しかしながら、従来使用されている金属イオン系の抗菌剤は、少なからず毒性を有し、大量使用による金属の蓄積に起因する生態系などの環境への影響が問題になっている。また、有機系としてカチオン系やノニオン系の界面活性剤、特に第4級アンモニウム塩系のカチオン界面活性剤も用いられているが、これらは水溶性塩であり、消毒液としては使用されるものの、耐水性のある持続型の防汚・抗菌剤としては使用できない。
【0007】
また、酸性基を有する疎水性重合体のアンモニウム塩が提案されているが、この場合は必然的にアンモニウム塩の含有率が低くなる。アンモニウム塩の含有量を高めるためには重合体は酸性基を多く有する必要があるので基本的に水溶性重合体なり、水中、特に防汚剤として海水中で使用する場合などにおいては、アンモニウムカチオンの解離が進むにつれ、重合体の親水性が増し、アンモニウム塩を残存している重合体自体が水中に溶出してしまい、期待した第4級アンモニウムカチオンの防汚・抗菌作用が有効に持続して発揮されないという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、環境への汚染や人の健康を阻害しない難溶性の有機物質を使用し、十分な持続性を有する防汚・抗菌性材料の提供およびそれらの含む防汚・抗菌剤組成物および基材の防汚・抗菌処理方法などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、防汚・抗菌性を有する水溶性第4級アンモニウム塩と、主鎖あるいは側鎖に酸性基を有する反応性重合体との水溶性塩をイオン複分解反応させると、第4級アンモニウムと重合体アニオンとの塩が、水系反応媒体から水に不溶性の固体析出物として得られることを見出した。さらにこの造塩した反応性重合体を網状化させることによって基本的に水溶性である重合体を水不溶性にし、アンモニウムカチオンの微量の溶出を長期間に亘って効果的に継続することができることを見出した。また、防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと網状化した重合体アニオンとの塩を含有する塗膜あるいは成型物から、水中で防汚・抗菌性成分が長期間にわたって徐々に放出され、防汚・抗菌性を長期間にわたって持続する効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のA〜Cから選ばれたことを特徴とする防汚・抗菌剤を提供する。
(A)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと、酸性基および反応性基を有する水溶性共重合体アニオンとの塩の水不溶性架橋化物、
(B)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと酸性基を有する単量体アニオンとの塩と、反応性単量体との共重合体の水不溶性架橋化物、および
(C)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと酸性基を有する単量体アニオンとの塩と、不飽和二重結合基を2個以上有する単量体との共重合体の水不溶性架橋化物。
なお、本発明においては、「防汚・抗菌」または「「防汚性・抗菌性」とは、「防汚性、抗菌性、殺菌性および防カビ性」を意味する。
【0011】
上記本発明においては、前記アンモニウムカチオンが、それ自体で防汚・抗菌性を有するアンモニウムカチオン、あるいは防汚・抗菌性を有する基が、直接あるいは連結基を介してアンモニウム窒素に結合しているアンモニウムカチオンであること;前記防汚・抗菌性を有する基が、脂肪族、脂環族または芳香族のアミノ基、第4級アンモニウム基、ピリジン基、ピリジニウム基、フェノール性水酸基およびポリエチレングリコール基からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明においては、前記酸性基が、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸エステル基およびリン酸エステル基からなる群から選ばれた基であること;前記アンモニウムカチオン(a)と共重合体アニオン(b)との質量比a:bが、5:95〜90:10であること;前記アンモニウムカチオンと重合体アニオンとの塩が、微細粒子の表面あるいは内部に付着あるいは吸着され、架橋または網状化して水不溶化されていることが好ましい。
【0013】
また、上記本発明においては、前記微細粒子が、体質顔料、樹脂系微粒子、有機顔料および無機顔料からなる群から選ばれること;前記アンモニウムカチオンが、テトラ(C1〜C30)アンモニウムカチオン、トリ(C1〜C30)−フェニルアンモニウムカチオン、トリ(C1〜C30)−ベンジルアンモニウムカチオンおよび(C1〜C30)−ピリジニウムカチオンからなる群から選ばれることが好ましい。
なお、上記において「(C1〜C30)基」は炭素数が1〜30である同一あるいは異なる脂肪族炭化水素基および脂環式炭化水素基を示す。また、フェニル基、ベンジル基、ピリジニウム基は置換基を有する基を含む。以下においても同様である。
【0014】
また、上記本発明においては、前記水溶性重合体アニオンを構成する、酸性基を有する単量体ユニットまたは酸性基を有する単量体が、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、リン酸エステルからなる群から選ばれた酸性基を有するビニル系、(メタ)アクリルエステル系、アクリルアミド系の単量体ユニットあるいは単量体であるであることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記本発明の防汚・抗菌剤に、塗膜形成材料を配合してなることを特徴とする防汚・抗菌性塗装材を提供する。ここで上記塗膜形成材料が、網状構造を形成し得る反応性重合体および/または架橋剤であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記本発明の防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと、酸性基および反応性基を有する水溶性共重合体アニオンとの塩(未架橋物)の溶液単独、または該溶液に非反応性重合体、網状構造を形成し得る反応性重合体および/または架橋剤からなる塗膜形成材料を配合してなることを特徴とする防汚・抗菌性塗装材;前記本発明の防汚・抗菌剤に、樹脂材料を配合してなることを特徴とする防汚・抗菌性樹脂組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記本発明の防汚・抗菌剤、あるいは前記本発明の防汚・抗菌性塗装材を基材に塗布、噴霧または含浸し、必要によりさらに網状化処理する、あるいは前記本発明の防汚・抗菌性樹脂組成物を基材に混練または内添し、成型加工することを特徴とする基材の防汚・抗菌処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
従来、防汚塗料や抗菌、殺菌処理剤などに使用されてきた重金属イオン系の防汚剤や抗菌剤は、少なからず毒性を有して生態系への影響が問題になっている。また、水溶性の第4級アンモニウム塩は耐水性のある持続型の防汚剤や抗菌剤としては使用できない。また、酸性基を有する重合体のアンモニウム塩も水不溶性の持続型の防汚・抗菌剤としては不十分である。
【0019】
それに対して本発明の防汚・抗菌剤は、水中で難溶性な防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウム塩を有する重合体を網状化させることによって、防汚・抗菌性を有する重合体を本質的に水不溶性の防汚・抗菌剤にしたものであり、水中に浸漬されていても第4級アンモニウムカチオンが徐々に放出され、長期間にわたって有効に水棲生物の忌避作用をもたらし、水棲生物の着生を減少させるものと思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明で使用される第4級アンモニウムカチオンとしては、それ自身防汚・抗菌性を有するアンモニウムカチオン、あるいは防汚・抗菌性基を直接あるいは連結基を介してアンモニウム窒素に結合しているアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0021】
アンモニウムカチオンの例としては、テトラ(C1〜C30)−アンモニウムカチオン、例えば、トリ(C1〜C3)モノ(C4〜C30)アンモニウムカチオン、ジ(C1〜C3)ジ(C4〜C30)アンモニウムカチオン、モノ(C1〜C3)トリ(C4〜C30)アンモニウムカチオン、テトラ(C4〜C30)アンモニウムカチオンなど;トリ(C1〜C30)−フェニルアンモニウムカチオン、例えば、ジ(C1〜C3)モノ(C4〜C30)フェニルアンモニウムカチオン、モノ(C1〜C3)ジ(C4〜C30)フェニルアンモニウムカチオン、トリ(C4〜C30)−フェニルアンモニウムカチオンなど;
【0022】
トリ(C1〜C30)−ベンジルアンモニウムカチオン、例えば、ジ(C1〜C3)モノ(C4〜C30)ベンジルアンモニウムカチオン、モノ(C1〜C3)ジ(C4〜C30)ベンジルアンモニウムカチオン、トリ(C4〜C30)ベンジルアンモニウムカチオンなど;ピリジニウムカチオン、例えば、ジ(C1〜C30)ピリジニウムカチオン、モノ(C1〜C30)ベンジルピリジニウムカチオンなどからなる群が挙げられ、上記の群と合わせた群から選ばれる第4級アンモニウムカチオンなどが挙げられる。
【0023】
なお、上記において(C1〜C30)、(C1〜C3)、(C4〜C30)などは、それぞれ炭素数が1〜30、1〜3あるいは4〜30である脂肪族炭化水素基、炭素数4以上の場合はさらに脂環式炭化水素基、炭素数6以上の場合はさらに芳香族炭化水素基を含む。また、「テトラ−、トリ−、ジ−」の炭素数は同一でも、また異なってもよい。フェニル基、ベンジル基およびピリジニウム基は、アルキル基、ハロゲン基、ニトロ基などの誘導基を有してもよい。特に断らない限り、以下においても同様である。上記の中でも、炭化水素基として炭素数が12、14、16のアルキル基を有するアンモニウムカチオンが好ましく、また、それにベンジル基を併せ有するアンモニウムカチオンも好ましい。
【0024】
アンモニウムカチオンのアンモニウム窒素に直接あるいは連結基を介して結合する防汚・抗菌性基としては、上記した第4級アンモニウム塩を含む脂肪族、脂環族または芳香族のアミノ基、第4級アンモニウム基、ピリジン基、ピリジニウム基、フェノール性水酸基およびポリエチレングリコール基などからなる群から選ばれた少なくとも1種の公知の防汚・抗菌性基が挙げられる。
【0025】
具体的には、例えば、アルキル(C10〜C16)アミノ基、N,N−ジメチル−アルキル(C8〜C16)アミノ基などの脂肪族アミノ基、それらのアンモニウム基;シクロヘキシルアミノ基などの脂環族アミノ基、それらのアンモニウム基;アニリン基、アニシジン基などの芳香族アミノ基、それらのアンモニウム基;4−アルキル(C8〜C16)アニリン基などの脂肪族炭化水素基置換芳香族アミノ基、それらのアンモニウム基;ピリジン基、ピリジニウム基、4−アルキル(C10〜C16)ピリジン基などの脂肪族炭化水素基置換ピリジン基、それらのピリジニウム基;フェノール基、クレゾール基、アミノフェノール基などのフェノール性水酸基およびポリエチレングリコール基などである。
【0026】
本発明で用いる水溶性重合体アニオンを構成する、酸性基を有する単量体ユニット(単位)あるいは酸性基を有する単量体としては、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、リン酸エステルからなる群から選ばれた酸性基を有するビニル系、(メタ)アクリルエステル系、アクリルアミド系の単量体ユニットあるいは単量体が挙げられる。
【0027】
具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸など、およびそれらの酸無水物からなる不飽和カルボン酸類;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(C2〜C6)(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などからなる不飽和スルホン酸類;ヒドロキシアルキル(C2〜C6)(メタ)アクリレートの硫酸エステルなどからなる不飽和硫酸エステル類;ヒドロキシアルキル(C2〜C6)(メタ)アクリレートなどのリン酸エステルからなる不飽和リン酸エステルなどのアニオン性基を有する単量体ユニットあるいは単量体が挙げられる。
【0028】
本発明の防汚・抗菌剤を構成する、アンモニウムカチオンと上記重合体アニオンとの塩において、アンモニウムカチオン(a)と重合体アニオン(b)との質量比a:bは、重合体アニオンとアンモニウムカチオンとのグラム当量により決まるが、凡そa:bが5:95〜90:10であることが好ましい。アンモニウムカチオンの含有量は目的に合わせて設計すべきであり、必要以上に上げる必要はないが、防汚・抗菌効果の持続性の観点からは、アンモニウムカチオンの含有量は高い方が望ましい。また、コーティング剤などの組成物中の含有量は、皮膜形成材料との対比、塗膜厚などによってもコントロールできるので、防汚・抗菌剤中のアンモニウムカチオンの含有量は高い方が望ましい。
【0029】
アンモニウムカチオンと、酸性基を有する反応性重合体(重合体アニオン)との塩の形成方法としては以下の方法が挙げられる。
【0030】
(1)水、水−親水性有機溶媒の混合溶媒あるいは有機溶媒中で、第4級アンモニウムの塩酸塩や酢酸塩などの水溶性塩溶液と、重合体アニオンのナトリウム塩やアンモニウム塩などの水溶性塩溶液を混合し、イオン複分解させ、第4級アンモニウムカチオンと重合体アニオンとの塩を形成させ、沈殿あるいは分離させる方法。
【0031】
(2)可溶性媒体中で第4級アンモニウム塩基(ベース)と遊離の酸性基を有する重合体アニオンとを混合し、次いで溶媒を溜去するか、水中に注入して第4級アンモニウムカチオン・重合体アニオンの塩を沈殿あるいは分離させる方法。
【0032】
(3)酸性基を有する単量体(単量体アニオン)と第4級アンモニウムカチオンとを、上記(1)または(2)の方法に準じて第4級アンモニウムカチオン・単量体アニオン塩を調製し、反応性単量体あるいは不飽和二重結合基を2個以上有する単量体(以下、多官能性単量体と称する。)と、さらには他の共単量体と共重合させる方法。
【0033】
上記(1)または(2)の方法において、好ましい親水性溶剤としては、例えば、(C1〜C4)アルコール類やアルキレン(C2〜C6)グリコールモノアルキル(C1〜C4)エーテル、アルキレン(C2〜C6)グリコールモノアルキル(C1〜C4)エーテルアセテートなどのグリコールエーテル類などである。
【0034】
また、上記した(3)の方法において、第4級アンモニウムカチオン・単量体アニオン塩の重合方法としては、公知の重合方法、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、ソープフリー重合がすべて使用できる。重合媒体も有機溶剤、水−有機溶剤混合溶媒または水が選ばれる。
【0035】
上記(1)〜(3)で生成された第4級アンモニウムカチオン・重合体アニオン塩は、単独であるいは架橋剤により網状化させて水不溶性にする。それらの方法としては、アンモニウムカチオン・重合体アニオン塩を網状化して水不溶性の防汚・抗菌剤として使用する方法、あるいは未網状化のアンモニウムカチオン・重合体アニオン塩を基材に塗布などの加工をしてから網状化する方法などが挙げられる。
【0036】
単独で、あるいは架橋剤により網状化をもたらす反応性単量体として、メチロール(メタ)アクリルアミド、アルコキシ(C1〜C4)メチル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、マレイン酸無水物など;架橋剤により網状化をもたらす反応性単量体として、ヒドロキシアルキル(C2〜C6)(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、マレイン酸など公知の反応性単量体が挙げられる。
【0037】
架橋剤としては、従来公知の架橋剤、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのアミノ樹脂初期縮合物、トリメチロールプロパン−トリ(トリレンジイソシアネート)アダクト、トリメチロールプロパン−トリ(イソホロンジイソシアネート)アダクトなどのポリイソシアネート化合物、モノ〜ポリアルキレン(C2〜C6)グリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、それらのオリゴマーなどのポリエポキシ化合物などが使用される。
【0038】
また、上記(3)の方法においては、アンモニウムイオン・単量体アニオン塩と多官能性単量体とを共重合させて架橋させ、水不溶性の重合体とすることができる。また、エネルギー線硬化性コーティング剤として基材に塗布などの処理をした後、紫外線あるいは電子線などの照射により重合網状化することもできる。使用される多官能性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、アルキレン(C2〜C6)グリコールジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレン(C2〜C6)グリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリト−ルテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミドなどの多官能性モノマー;アクリルポリマーポリアクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、エポキシ樹脂ポリアクリレートなどの公知の多官能性オリゴマーなどが挙げられる。
【0039】
さらにアンモニウムイオン・重合体アニオン塩を、水中に浮遊させて防汚性を効果的にするために、アンモニウムイオン・重合体アニオン塩中に重合体主鎖あるいはグラフトポリマー鎖に親水基を多数導入することも好ましい。例えば、アンモニウムイオン・重合体アニオン塩において、該塩の形成を部分的に止めて、アンモニウムイオン・重合体アニオン塩中に酸性基を残存させる方法、ノニオン性単量体、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸類のエチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコールなどの多価アルコールやその誘導体のエステルなどを共重合する方法などが効果的である。また、単量体の共重合性や重合体の強度などの物性や溶解性などの改良のために疎水性単量体、例えば、スチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、(メタ)アクリル酸の脂肪族(C1〜C30)、芳香族(C6〜C15)、脂環式(C6〜C15)炭化水素エステルなどを共重合することもできる。
【0040】
上記の製造方法において、水溶性アンモニウム塩と水溶性重合体アニオン塩との複分解生成塩は、多くの場合結晶化を伴わない塊状固体で生成するので、例えば、塗装材などの調製に際して微細分散が困難な場合があったり、樹脂中に均一に混合して使用する際などでも混練分散させるに不都合の場合がある。そのため、好ましい方法として次のような方法が挙げられる。
【0041】
(1)防汚・抗菌剤を分散液として使用する場合には、吸油量の高い微細粒子を担体として使用し、アンモニウムイオン・重合体アニオン塩を、上記微細粒子の吸油量の範囲内でその表面あるいは内部に付着あるいは吸着させて微粒子状の防汚・抗菌剤にすることが好ましい。担体となる微細粒子としては、体質顔料、樹脂系微粒子、有機顔料および無機顔料などからなる群から選ばれた微細粒子が好ましい。
【0042】
体質顔料としては、例えば、ケイ酸アルミニウム、珪藻土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、ゼオライト、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リトポン、アルミナなど;無機顔料としては通常の顔料の他、微粒子の二酸化チタン、酸化鉄、水酸化鉄など;活性炭などが挙げられる。また、アンモニウムイオン・重合体アニオン塩の網状化については、アンモニウムイオン・重合体アニオン塩を微細粒子の表面あるいは内部に付着あるいは吸着させた後、アンモニウムイオン・重合体アニオン塩を網状化して水不溶化することで、アンモニウムイオン・重合体アニオン塩の溶出がなく、さらに効果の長期持続性のある防汚・抗菌剤とすることができる。
【0043】
(2)生成したアンモニウムイオン・重合体アニオン塩を溶解する溶剤に溶解させて使用する。水不溶性のアンモニウムイオン・重合体アニオン塩は溶剤溶液あるいは溶剤−水混合溶媒溶液、特にアルコール系溶媒、水−アルコール系の混合溶剤に溶解することから、塗装材の溶剤あるいは混合溶剤として使用し、単独にか、必要に応じて非反応性重合体、網状構造を形成し得る反応性重合体および/または架橋剤からなる塗膜形成材料を配合して塗装材とし、基材に塗布して後、網状化させることが好ましい。
【0044】
本発明において、前記アンモニウムイオン・重合体アニオン塩よりなる防汚・抗菌剤に、さらにアンモニウムカチオン・低分子有機酸塩を添加し、効果を向上させることも好ましい方法である。使用される低分子有機酸としては、例えば、脂肪族(C3〜C30)カルボン酸、脂環式あるいはアルキル脂環式(C4〜C30)カルボン酸、芳香族あるいはアルキル芳香族(C6〜C30)カルボン酸、脂肪族(C3〜C30)スルホン酸、芳香族あるいはアルキル芳香族(C6〜C30)スルホン酸、脂肪族(C3〜C30)モノサルフエート、脂肪族(C3〜C30)フォスフエートなどが挙げられ、アンモニウム塩は重合体の塩の生成法と同様に、水溶性塩のイオン複分解やフリーベースと酸の塩形成反応で形成される。
【0045】
本発明の防汚・抗菌性塗装材は、防汚・抗菌剤が塗膜表面に露出する状態を形成する塗料として使用することが好ましい。例えば、防汚・抗菌剤を塗膜形成材料中に高濃度に添加することで、防汚・抗菌剤が相溶しないようにして塗膜中で相分離させて高濃度の膜部分をつくること、防汚・抗菌剤が微粒子の場合は粒径を比較的大きくすることなどが挙げられる。船底防汚塗料などでは塗膜形成材料として徐々に表面から溶解していく自己研磨(セルフ・ポリシング)型の樹脂系を使用すると、塗膜中の防汚・抗菌剤を順次表面に露出させることができるので好ましい。
【0046】
本発明の防汚・抗菌性塗装材を構成する塗膜形成材料としては、公知の樹脂材料が使用できる。樹脂の分類からは、例えば、合成ゴム樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ゴム樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などの塗膜形成材料および紫外線硬化性樹脂系、電子線硬化性樹脂系などのエネルギー線硬化性塗膜形成材料などが挙げられる。上記した防汚・抗菌性塗装材において、防汚・抗菌剤(A)のみの使用を含め、防汚・抗菌剤(A)と塗膜形成材料(B)との配合質量比は、A:B=100:0〜5:95であり、防汚・抗菌剤が塗膜表面に高密度に露出させることが好ましい。
【0047】
本発明の防汚・抗菌剤を基材に塗布、噴霧または含浸し、あるいは基材に混練または内添することにより基材を防汚・抗菌処理し、防汚・抗菌処理基材が得られる。本発明の防汚・抗菌剤は従来の防汚塗料と同様の用途、例えば、海洋航行船舶の海水中に没する船底面や船側面の塗装に、また、海洋魚類の養殖場においても隔離網などの広範な用途で使用できる。さらに、病院、公共施設や公衆便所など、居住環境、特に台所、風呂、便所などの建造物や住宅などの水周り個所の防汚・抗菌性塗布材料として、エアコンディショナー、空気浄化装置などの電気機器や台所用品などの日常生活の衛生性維持のための防汚・抗菌処理や殺菌などの広範な用途で使用できる。
【0048】
また、日常生活で、不特定多数の人の触れるいろいろな物品、例えば、書籍、雑誌類、ノート、パンフレット、記録用紙、印刷や加工される前の紙類の防汚・抗菌処理、表紙への密着カバーフィルムや被覆カバー類など、また、食材や食品などの細菌類の汚染が懸念される食料品などの包装材や、ラップ類などの保存用被覆材などに対する防汚・抗菌処理用や殺菌処理用としても使用できる。
【0049】
さらに、別の実施の態様として、海中に浸漬する建造物や部材などの合成樹脂成型物や、魚網や隔離用網などに合成繊維が使用されているが、それらの場合には上記したような基材の表面を本発明の防汚・抗菌剤で塗装、噴霧または含浸する方法のみでなく、それらの合成樹脂成型製品や合成繊維製品中に本発明の防汚・抗菌剤を従来公知の押出し成型機、射出成型機、インフレーション成型機、溶融紡糸機などの混練成型加工機で内添する方法も優れた方法である。それらの基材樹脂に適合する防汚・抗菌剤をマスターバッチ化したり、紡糸液に適合する防汚・抗菌剤の分散液として使用することも好ましい。
【0050】
防汚・抗菌処理をする素材、物品は特に限定されるものではなく、例えば、合成樹脂成型品、金属製品、木材製品、スレートボード、繊維、不織布紙などが挙げられる。合成樹脂素材としてはポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、合成ゴム、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの公知の樹脂が挙げられる。合成繊維素材としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などの公知の繊維が挙げられる。
【実施例】
【0051】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中、「部」または「%」とあるのは質量基準である。
【0052】
[合成例1]
加熱装置としてのウオーターバス、撹拌機、液滴下装置および逆流冷却器を備えた反応装置を準備し、反応容器にスチレンスルホン酸ナトリウム−(N−メトキシメチル)アクリルアミド共重合体(モル比;80:20)(以下「酸性重合体−1」と称する。)20%水溶液94.0gを仕込み、イオン交換水を加えて500gとした。撹拌しつつ、合成非晶質シリカの微粉(吸油量:250ml/g)34.2gを添加し、均一に分散した。別にモノ(テトラデシル)ジメチルベンジルアンモニウムクロライド(以下「アンモニウム塩酸塩−1」と称する。)の10%水溶液294gをほぼ30分間かけて滴下した。
【0053】
反応液は滴下が進むにつれて白濁分散液に、さらに微粒子分散液となった。そのまま30分間撹拌を続けた。次いで白色の分散液を加熱して70℃に昇温し、30分間撹拌を続けた。反応液を常温に冷却し、ろ過、水洗した。ろ過ケーキを80℃にて一晩乾燥した。さらに130℃にて30分間加熱して、重合体のメトキシメチル基を架橋させた。モノ(テトラデシル)ジメチルベンジルアンモニウム・アクリル酸共重合体塩の架橋物をシリカ表面に固着させた防汚・抗菌剤を74.0g得た。以下「防汚・抗菌性アンモニウム塩−1」と称する。
【0054】

【0055】
[参考合成例1]
表1のアンモニウム塩酸塩−4は下記の方法で合成した。
ジ(N−ヒドロキシエチル)ココアルキルメチルアンモニウム塩酸塩の水酸基に2倍モルのイソホロンジイソシアネートを反応させ、第4級アンモニウム塩を有するイソシアネート誘導体を得た。別に、3−エチルアミノ−4−メチルフェノールにラウリルオキシポリ(15)オキシエチレングリシジルエーテルを反応させて水酸基を有する誘導体とした。次いで上記のイソシアネート誘導体と反応させ、クレゾール基とラウリルオキシポリオキシエチレン基をウレタン鎖で結合した「第4級アンモニウム塩酸塩−4」を得た。
【0056】
同様にして、上記のイソシアネート誘導体に水酸基、アミノ基、カルボキシル基などの反応性基を有する他の長鎖アルキルフェノール類、長鎖アルキルアニリン類、ポリオキシエチレン誘導体、フォスファチジルコリンなどの防汚・抗菌性化合物を反応させることによって本発明に使用することができるそれぞれの防汚・抗菌性基を有する第4級アンモニウム塩酸塩を得た。
【0057】

【0058】
[合成例2〜6]
合成例1と同様にして、表3に示す仕込み量に従い、反応容器にそれぞれの酸性重合体を仕込み、合成非晶質シリカを均一に分散させて後、それぞれのアンモニウム塩酸塩の水溶液を滴下し、反応させた。反応後、常温に冷却し、10%酢酸水溶液にpHを5にし、ろ過、水洗した。ろ過ケーキを80℃にて一晩乾燥し、さらに150℃にて30分間加熱して、重合体のメトキシメチル基を架橋させた。第4級アンモニウムカチオン・酸性共重合体塩の架橋物をシリカ表面に固着させた防汚・抗菌剤を得た。表3の第11欄に生成物の収量を、また第12欄に「防汚・抗菌性アンモニウム塩」の呼称を示した。以下、同様である。
【0059】

【0060】
[合成例7]
表5に示す仕込み量に従い、予め合成非晶質シリカに表4に記載の網状化剤のアルコール溶液を均一に吸着させ、アルコールを乾燥させて、網状化剤で処理をした非晶質シリカを準備した。
【0061】
次いで合成例1と同様にして、表5に示す仕込み量に従い、反応容器にそれぞれの酸性重合体を仕込み、上記で得た網状化剤で処理をしたシリカを均一に分散させた後、それぞれのアンモニウム塩酸塩の水溶液を滴下し、反応させた。反応後、常温に冷し、酢酸水溶液を添加してpHを5にして未反応のナトリウム塩をカルボン酸基にした。ろ過、水洗した後、ろ過ケーキを80℃にて一晩乾燥し、さらに150℃にて30分間加熱して、重合体のカルボン酸基を網状化剤のグリシジル基あるいはブトキシメチル基と反応させ、重合体を網状化させた。第4級アンモニウムカチオン・酸性共重合体塩の架橋物をシリカ表面に固着させた防汚・抗菌剤を得た。
【0062】

【0063】

【0064】
[合成例9]
合成例1と同様にして、反応容器にドデシル硫酸エステルナトリウム(以下「酸性化合物−1」と称する。)の10%水溶液115.4g(0.04モル)および酸性重合体−3の10%水溶液62.6g(カルボン酸0.03g当量)を仕込み、イオン交換水822gを加えて1,000gとした。次いで撹拌しつつ、合成非晶質シリカの微粉31.8gを均一に分散した。別にアンモニウム塩酸塩−2の20%水溶液133g(0.07モル)を滴下し、反応させた。反応後、常温に冷し、酢酸水溶液でpHを5にして、ろ過、水洗した後、ろ過ケーキを80℃にて一晩乾燥した。さらに150℃にて30分間加熱して、重合体のメトキシメチル基を架橋させた。第4級アンモニウムカチオン・酸性共重合体塩の架橋物をシリカ表面に固着させた防汚・抗菌剤を得た。以下、「防汚・抗菌性アンモニウム塩−9」と称する。
【0065】
[合成例10、11]
合成例9と同様にして、表8に示す仕込み量に従い、反応容器にそれぞれの酸性重合体および酸性化合物の水溶液を仕込み、合成非晶質シリカを均一に分散させて後、それぞれのアンモニウム塩酸塩の水溶液を滴下し、反応させた。反応後、常温に冷却し、ろ過、水洗した。ろ過ケーキを乾燥した後、150℃にて30分間加熱して、重合体のメトキシメチル基を架橋させた。第4級アンモニウムカチオン・酸性化合物塩架橋物をシリカ表面に固着させた防汚・抗菌剤を得た。
【0066】

【0067】

【0068】
[合成例12]
(1)防汚・抗菌性アンモニウム単量体−1の合成
合成例1と同様な反応装置にスチレンスルホン酸ナトリウム10%水溶液330gにハイドロキノンを500ppmを仕込んだ。合成例1と同様に操作して、アンモニウム塩酸塩−3の20%水溶液290gを滴下し、反応させた。反応後、沈殿をろ過、水洗し、濾過ケーキを低温乾燥した。反応生成物として第4級アンモニウムカチオン・スチレンスルホン酸塩79.9gを得た。以下、「防汚・抗菌性アンモニウム単量体−1」と称する。
【0069】
(2)(防汚・抗菌性アンモニウム塩重合体の合成)
ウオーターバス、撹拌機、モノマー滴下装置、試薬投入口、逆流冷却器および窒素ガス吹込み口を備えた重合反応装置を準備し、重合容器に水433g、および分散安定剤としてポリビニルアルコール23gを仕込み、溶解させた。次いでモノマーとしてスチレン62.5g、上記(1)で得られた防汚・抗菌性アンモニウム塩単量体−1を76.5g、ジビニルベンゼン13.0gおよびアゾビスイソブチロニトリル4.56gを混合して、添加し、窒素ガス気流下、70〜80℃で7時間懸濁重合を行った。重合体粒子をろ過、水洗、乾燥して「防汚・抗菌性アンモニウム塩−12」を149g得た。
【0070】
[合成例13](防汚・抗菌性アンモニウム塩単量体−2の合成)
合成例1と同様な反応装置にアクリル酸ナトリウム10%水溶液94.1gとハイドロキノンを100ppmを仕込んだ。合成例1と同様に操作して、アンモニウム塩酸塩−3の20%水溶液181gを滴下し、反応させた。そのまま30分間撹拌を続けた後、反応液を常温に冷却し、油状生成物を分液した。水を加え、振とうして水洗をした。反応生成物として第4級アンモニウムカチオン・アクリル酸塩40.3gを得た。以下、「防汚・抗菌性アンモニウム単量体−2」と称する。
【0071】
[合成例14]
合成例1と同様にして、反応容器にスチレン−マレイン酸モノプロピルエステル・モノナトリウム塩共重合体(モル比;50:50、「酸性重合体−7」と称する。)の10%水溶液453g(カルボン酸のグラム当量;0.15グラム当量)を仕込んだ。合成非晶質シリカ35.7gを均一に分散させて後、アンモニウム塩酸塩−3の20%水溶液163g(0.09モル)の水溶液を滴下し、反応させ、共重合体のカルボン酸の約60%をアンモニウム塩とした。反応後、10%酢酸水溶液36gを添加してpHを5にし、ろ過、水洗した。ろ過ケーキを乾燥し、カルボン酸基が残存するスチレン−マレイン酸モノプロピルエステル共重合体の部分アンモニウム塩105gを得た。以下「防汚・抗菌性アンモニウム塩−13」と称する。
【0072】
[実施例1](防汚性塗装板の調製)
合成例で得られた防汚・抗菌性アンモニウム塩の海洋水棲生物防汚剤としての性能を評価するために防汚性塗装板を調製する。合成例1で得られた防汚・抗菌性アンモニウム塩−1を50gと下記の固着用塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体(BASF社製、商品名ラロフレックスMP35)25g/ロジン25g(荒川化学工業社製、商品名ロジンWW)混合樹脂の酢酸ブチル溶液100g(固形分50%)と混合(固形分質量比;1:1)した。
【0073】
そこへ酢酸ブチル183gを加え、固形分30%に調整した後、防汚・抗菌性アンモニウム塩−1を分散させ、防汚塗料を調製した。防錆処理を施した試験用鋼板の周囲の上下左右および中央に境界を作り、それぞれ約1cmの幅でエポキシ系下塗り塗料を塗布し、保護面との境界を作った。その下半分に上記の防汚塗料を厚く塗布して常温下で10日間乾燥した。塗膜の厚みはほぼ110〜130μmであった。上半分は下記比較例1で示すように比較用の塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体/ロジン樹脂を塗布した。得られた塗板は、以下防汚性塗装板−1と称する。
【0074】
また、上記の試験用鋼板はテストパネル社製の中目両面サンドプラスト鋼板(幅×長さ×厚さ:70×150×1mm)に、タールエポキシ系の下塗り塗料を乾燥後で約150μmで塗布し、風乾して準備した。
【0075】
[比較例1]
実施例1で調製した各塗板上の区分した上半分に、防汚性能の比較のために実施例1に記載の塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体/ロジン樹脂塗料を塗布し、常温下で10日間乾燥した。塗膜の厚みはほぼ110〜130μmであった。実施例2においても同様に上下に分けて塗布し、比較した。
【0076】
[実施例2](防汚性塗装板の調製)
実施例1で述べた塗料の調製方法および塗装方法に従い、合成例2から12で得られた防汚・抗菌性アンモニウム塩−2〜防汚・抗菌性アンモニウム塩−12を使用し、防汚・抗菌性アンモニウム塩と固着用塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体/ロジン樹脂(固形分質量比;1:1)とを組み合わせた塗料を作成して下半分に塗装し、上半分には比較例1の塗料を塗布して、防汚性塗装板−2〜防汚性塗装板−12を調製した。膜厚はほぼ110〜130μmであった。
【0077】
[試験方法および塗装鋼板浸漬試験結果]
(1)試験方法
試験用塗装鋼板の海水浸漬試験は内湾の比較的海水流の少ない、幼魚の成育場に隣接する場所で、魚の餌が投与されることから栄養分の多い環境である。水温は凡そ25〜28℃、COD濃度は4〜10mg/Lを示した。COD濃度については瀬戸内海の比較的海水の奇麗なところで、1〜2mg/L、港の中など水の色が緑から黄色に見えるところでは3〜5mg/Lと言われている。実施例1および2、および比較例1で調製した塗装した試験用鋼板をポリ塩化ビニル製の枠に上下固定して吊るした。ポリ塩化ビニル製製枠を海面より1〜2mの深さに浸漬した。6週間にわたって1週間ごとに試験用鋼板を上げて試験用鋼板の上半分、下半分のフジツボの付着状態を観察し、状態の変化を評価した。
【0078】
(2)状態観察の結果および評価
防汚・抗菌性アンモニウム塩を使用していない塗板がフジツボの付着は時間と共に進み塗板に強固に付着して脱落しなかったのに対し、防汚性塗装板−1〜防汚性塗装板−12のいずれもフジツボの付着が著しく遅くなることが認められ、本発明の塗装材が、徐放性防汚塗料としての機能を有していると判断された。
【0079】
[実施例3](抗菌性試験)
防汚・抗菌性アンモニウム塩−1〜防汚・抗菌性アンモニウム塩−12の抗菌性を以下に示すシェーク法(抗菌製品技術協議会試験法1999年度版)に準じて試験を実施し、抗菌性を確認した。ニュートリエントブロス液体培地で37℃、16時間前培養した菌液を1000倍希釈して試験菌液とし、これを滅菌コップに10mlと各試料(10ppm)入れ、37℃、24時間振とう培養(振幅30mm、150rpm)した培養液について混釈平板法により生菌数を測定した。
【0080】
比較例として試験菌液のみの培養も行った。大腸菌(Escherichia coli)の試験菌液中の生菌数が1.1×107個/mlおよび黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の試験菌液中の生菌数が5.2×106個/mlを使用した抗菌試験の結果は、比較例ではそれぞれ生菌数2.4×109個/ml、1.3×109個/ml、各試料では生菌数が103個/ml以下となり、抑制率はそれぞれ99.9999%を示した。
【0081】
[実施例4](抗菌性試験)
防汚・抗菌性アンモニウム塩の抗菌剤としての性能を評価するために抗菌性コーティング剤を調製した。防汚・抗菌性アンモニウム塩−1〜−12をそれぞれ30gと下記の合成参考例2で得られた固着用アクリル共重合体溶液−1の150g(固形分40%)と混合した。酢酸ブチル45gを加え、防汚・抗菌性アンモニウム塩を分散させた。次いで酢酸ブチル75gを添加し、十分に分散し、固形分30%の抗菌性コーティング剤を調製した。ポリエチレンフィルムに上記の抗菌性コーティング剤を塗布して常温で乾燥後、70℃にて十分乾燥した。塗膜の厚みはほぼ50〜70μmであった。このフィルムの抗菌性を「JIS Z 2801」フィルム密着法により確認した。
【0082】
(供試菌株)
・グラム陰性菌:大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)
・グラム陽性菌:黄色ブドウ球菌(staphylococcus aureus NBRC 12732)
(試験方法)JIS Z 2801に準じた。
防汚・抗菌性アンモニウム塩−1を塗布した抗菌性フィルムの試験片(50×50mm)を滅菌シャーレ中に置き、試料面上に生菌数を調整した前培養液を0.2ml接種し、ポリエチレンフィルム(40×40mm)で被覆して、35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した後、SCDLP培地で菌を洗い出し、生菌数を混釈平板法で測定した。接種菌液の栄養分には1/500(大腸菌)および1/20(黄色ブドウ球菌)希釈のニュートリエントプロス液体培地を使用し、無添加ポリエチレンフィルムと比較して、JIS指定の計算式で抗菌活性値が2.0以上の試料を抗菌性があると判定した。抗菌性(試験結果)試験結果を表9、10に示す。全てのサンプルにおいて、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対する抑制率は99.9999%、抗菌活性値が2.0以上になり、良好な抗菌性が確認された。
【0083】

防汚・抗菌性アンモニウム塩−2〜−12のフィルムも同様に生菌数は103(個/ml)以下を示し、抗菌活性値は6.4以上を示した。
【0084】

防汚・抗菌性アンモニウム塩−2〜−12のフィルムも同様に生菌数は103(個/ml)以下を示し、抗菌活性値は6.1以上を示した。
【0085】
[合成参考例2](固着用アクリル共重合体の重合)
上記で使用した固着用アクリル共重合体溶液−1は以下のようにして合成した。実施例12(2)で使用したと同様な重合装置を準備し、重合容器にキシレン−n−ブタノール混合溶媒(75:25)150部を仕込んだ。別にメタクリル酸メチル(MMA)35部、メタクリル酸ブチル(BMA)45部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)15部およびアクリル酸(AAc)5部の混合液の1/3量およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1.5部を仕込んだ。重合容器を窒素ガス気流下で90℃に加熱し、2時間重合反応させ、さらに残余のモノマーの混合液を2時間にわたって滴下し、6時間反応して得た(固形分:40%)。
【0086】
[実施例5](抗菌性試験)
防汚・抗菌性アンモニウム塩の抗菌剤としての性能を評価するために抗菌性コーティング剤を調製した。防汚・抗菌性アンモニウム塩−13(カルボキシル基を有するスチレン−マレイン酸モノプロピルエステル共重合体の部分アンモニウム塩のシリカ吸着粉末)40部、下記の合成参考例3で得られた固着用アクリル共重合体溶液−2(固形分40%)160g、ヘキサ(メトキシメチル)メラミンのメタノール溶液(固形分50%)32g、エチルセロソルブ−エタノール混合溶剤(50:50)168gを配合し、十分に混合し、同時に防汚・抗菌性アンモニウム塩はシリカ表面から溶液中に溶出させ、固形分30%の抗菌性コーティング剤を調製した。
【0087】
ABS樹脂製の成型板に上記の抗菌性コーティング剤をスプレー塗装して常温で乾燥後、120℃にて加熱し、抗菌性重合体を含む塗膜を硬化させた。塗膜の厚みはほぼ50μmであった。このコーティングされた成型板の抗菌性を実施例4と同様に「JIS Z 2801」フィルム密着法により確認した。大腸菌および黄色ブドウ球菌の抗菌試験の結果は、いずれも抗菌活性値が2.0以上になり、防汚・抗菌性アンモニウム塩−13を塗布したABS樹脂製の成型板の抗菌性が確認された。
【0088】
[合成参考例3](固着用アクリル共重合体の重合)
上記で使用した固着用アクリル共重合体溶液−2は合成参考例2のアクリル共重合体の重合反応と同様にして合成した。エチルセロソルブ−エタノール混合溶媒(50:50)150部、MMA30部、BMA30部、HEMA15部、N−(メトキシメチル)アクリルアミド10部およびAAc15部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1.5部を添加し、重合反応し、固着用アクリル共重合体溶液−2(固形分:40%)を得た。
【0089】
[実施例6](紫外線硬化性抗菌性コーティング剤)
紫外線硬化性抗菌性コーティング剤を調製した。無黄変ウレタントリアクリレート(平均分子量2500)40g、トリメチロールプロパントリアクリレート10g、トリプロピレンジアクリレート20gおよび2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン4gを配合した。そこへ合成例13で得られた防汚・抗菌性アンモニウム単量体−2を30g添加して、十分混合して調製した。上記の紫外線硬化性抗菌性コーティング剤を塩化ビニル樹脂シートにリバースロールコーターで30μmの膜厚で塗布後、2灯の80w/cmの高圧水銀灯下150mm下をコンベア速度10m/minで照射硬化させた。
【0090】
この塩化ビニル樹脂シートの抗菌性を実施例4と同様に「JIS Z 2801」フィルム密着法により確認した。大腸菌および黄色ブドウ球菌の抗菌試験の結果は、いずれも抗菌活性値が2.0以上になり、紫外線硬化性抗菌性コーティング剤をコーティングした塩化ビニル樹脂シートの抗菌性が確認された。
【0091】
[実施例7](抗菌性試験)
ポリプロピレン樹脂粉末100部に対し、防汚・抗菌性アンモニウム塩−1〜−12をそれぞれ5部添加し、射出成型機で常法に従って抗菌性樹脂プレートを作製した。このポリプロピレンプレートの抗菌性を実施例4と同様に「JIS Z 2801」フィルム密着法により確認した。比較例として無添加のポリプロピレンプレートの試験も行った。大腸菌(Escherichia coli)の試験菌液中の生菌数が2.1×105個/mlおよび黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の試験菌液中の生菌数が2.9×105個/mlを使用した抗菌試験の結果は、比較例ではそれぞれ生菌数1.2×106個/ml、1.6×105個/mlであり、各試料では生菌数が10個/ml以下であった。抑制率はそれぞれ99.9999%、抗菌活性値が2.0以上になり、防汚・抗菌性アンモニウム塩添加ポリプロピレンプレートの抗菌性が確認された。
【0092】
[実施例8](防カビ性試験)
防汚・抗菌性アンモニウム塩−1〜−12の防カビ性を以下に示すコロニー生育度の差により確認した。比較例として、これらの無添加の培地でも試験を行った。試験方法は下記の通りである。カビ増殖培地ポテトデキストロース寒天(PDA)培地に上記の物質を0.1%添加、分散し、直径9cmの滅菌シャーレに分注し、以下に示す5種類のカビ(JIS Z 2911「カビ抵抗性験」指定菌株)を中心部に接種して、25℃で2週間培養した後、コロニー直径を防カビ・抗菌剤の無添加を比較して生育抑制効果を観察した。カビとしては、アスペルギルス・ニゲル(S−1、一般名クロカビ)、ペニシリウス・シトリナム(S−5、一般名アオカビ)、リゾープス・オリゼ(S−1、一般名ケカビ)、グラドスポリウム グラドスポリオイデス(S−8、一般名クロカワカビ)およびケトミウス・グラボスム(S−11)を使用した。防カビ性の評価結果は、コロニーの直径は比較例がほぼ9cmに対して各防汚・抗菌性アンモニウム塩が0cmであり、防カビ効果が認められた。
【0093】
[実施例9](防カビ性試験)
防汚・抗菌性アンモニウム塩の防カビ剤としての性能を評価するために塗布板を調製する。防汚・抗菌性アンモニウム塩−1〜−12をそれぞれ30gと合成参考例4で得られた固着用アクリル共重合体溶液−3を150g(固形分40%)と混合した。酢酸ブチル139gを加え、防汚・抗菌性アンモニウム塩を分散させた。そこへヘキサ(メトキシメチル)メラミン溶液(50%)20gおよび酢酸ブチル66.7gを添加し、十分分散し、固形分30%のそれぞれの抗菌性コーティング剤を調製した。ポリスチレン樹脂板に上記の抗菌性コーティング剤を塗布して常温で乾燥後、120℃にて5分間加熱硬化した。塗膜の厚みはほぼ50〜70μmであった。1cm四方に切断した。
【0094】
これらをそれぞれ別々の1/4希釈PDA培地の中心に置き、前記の5種類のカビのそれぞれの懸濁液の周辺に0.1ml接種する。25℃で2週間培養後、試料周辺の培地に未繁殖のクリア部分(ハローゾーン)がある試料を防カビ効果のあるものとして確認した。また、比較例として無添加の試料でも試験した。比較例にはハローゾーンがないのに対し、抗菌性コーティング剤を塗布したプレートはハローゾーンを有した。
【0095】
[合成参考例4](固着用アクリル共重合体の重合)
上記で使用した固着用アクリル共重合体溶液−3は、合成参考例2のアクリル共重合体の重合反応と同様にして合成した。重合容器にキシレン−n−ブタノール混合溶媒(75:25)150部、MMA35部、BMA35部、HEMA15部、N−(メトキシメチル)アクリルアミド10部、AAc5部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1.5部を添加し、重合反応し、固着用アクリル共重合体溶液−3(固形分:40%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0096】
従来から防汚塗料に使用されてきた錫化合物や銅化合物の忌避作用は、それらのイオンが徐々に溶出して水棲生物に作用し、忌避あるいは死滅させる作用である。本発明の防汚・抗菌剤は、防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと重合体アニオンとの水難溶性塩あるいはさらに低分子有機酸の水不溶性塩が水中、特に塩水中においても実質的に難溶性であることを利用している。架橋された重合体アニオンの防汚・抗菌性を有するアンモニウム難溶性塩を含有する塗膜は、水中において防汚・抗菌剤を徐々に溶出することで、長期に持続する防汚・抗菌効果をもたらす新規な防汚・抗菌剤である。
【0097】
本発明の防汚・抗菌剤は、従来の防汚塗料と同様の用途、例えば、海洋航行船舶の海水中に没する船底面や船側面の塗装や海洋魚類の養殖場においても隔離網などの防汚塗料の用途に使用できる。海中に浸漬する建造物や部材などの合成樹脂成型物や、魚網や隔離用網などの合成繊維に対して本発明の防汚・抗菌剤を適用する場合は、基材樹脂に適合するマスターバッチの形態で、また、紡糸液に適合する防汚・抗菌剤の分散液として使用して、合成樹脂製品や合成繊維製品中に本発明の防汚・抗菌剤を内添することもできる。
【0098】
また、本発明の防汚・抗菌剤は、病院、公共施設や公衆便所など多くに人が利用する社会生活上の衛生環境の管理、維持のため、また、建造物や住宅などで洗濯場、洗い場、流し、洗面所、風呂場などの水周り個所などの居住環境におけるカビなどの生物的汚れに適用される。また、日常生活で、不特定多数の人の触れるいろいろな物品の衛生処理として、例えば、書籍、ノート、パンフレット、記録用紙などに直接抗菌処理、それに加工される前の紙類の抗菌処理、表紙への密着カバーフィルムや被覆カバー類など、また、食材や食品などの細菌類の汚染が懸念される食料品などの包装材やラップ類などの保存用被覆材などに対する抗菌処理用や殺菌処理用としても使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA〜Cから選ばれたことを特徴とする防汚・抗菌剤。
(A)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと、酸性基および反応性基を有する水溶性共重合体アニオンとの塩の水不溶性架橋化物、
(B)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと酸性基を有する単量体アニオンとの塩と、反応性単量体との共重合体の水不溶性架橋化物、および
(C)防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと酸性基を有する単量体アニオンとの塩と、不飽和二重結合基を2個以上有する単量体との共重合体の水不溶性架橋化物。
【請求項2】
前記アンモニウムカチオンが、それ自体で防汚・抗菌性を有するアンモニウムカチオン、あるいは防汚・抗菌性を有する基が、直接あるいは連結基を介してアンモニウム窒素に結合しているアンモニウムカチオンである請求項1に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項3】
前記防汚・抗菌性を有する基が、脂肪族、脂環族または芳香族のアミノ基、第4級アンモニウム基、ピリジン基、ピリジニウム基、フェノール性水酸基およびポリエチレングリコール基からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項2に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項4】
前記酸性基が、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸エステル基およびリン酸エステル基からなる群から選ばれた基である請求項3に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項5】
前記アンモニウムカチオン(a)と共重合体アニオン(b)との質量比a:bが、5:95〜90:10である請求項4に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項6】
前記アンモニウムカチオンと重合体アニオンとの塩が、微細粒子の表面あるいは内部に付着あるいは吸着され、架橋または網状化して水不溶化されている請求項5に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項7】
前記微細粒子が、体質顔料、樹脂系微粒子、有機顔料および無機顔料からなる群から選ばれる請求項6に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項8】
前記アンモニウムカチオンが、テトラ(C1〜C30)アンモニウムカチオン、トリ(C1〜C30)−フェニルアンモニウムカチオン、トリ(C1〜C30)−ベンジルアンモニウムカチオンおよび(C1〜C30)−ピリジニウムカチオンからなる群から選ばれる請求項7に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項9】
前記水溶性重合体アニオンを構成する、酸性基を有する単量体ユニットまたは酸性基を有する単量体が、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、リン酸エステルからなる群から選ばれた酸性基を有するビニル系、(メタ)アクリルエステル系、アクリルアミド系の単量体ユニットあるいは単量体である請求項8に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚・抗菌剤に、塗膜形成材料を配合してなることを特徴とする防汚・抗菌性塗装材。
【請求項11】
塗膜形成材料が、網状構造を形成し得る反応性重合体および/または架橋剤である請求項10に記載の防汚・抗菌性塗装材。
【請求項12】
防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウムカチオンと、酸性基および反応性基を有する水溶性共重合体アニオンとの塩(未架橋物)の溶液単独、または該溶液に非反応性重合体、網状構造を形成し得る反応性重合体および/または架橋剤からなる塗膜形成材料を配合してなることを特徴とする防汚・抗菌性塗装材。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚・抗菌剤に、樹脂材料を配合してなることを特徴とする防汚・抗菌性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚・抗菌剤、あるいは請求項10〜12のいずれか1項に記載の防汚・抗菌性塗装材を基材に塗布、噴霧または含浸し、必要によりさらに網状化処理する、あるいは請求項13に記載の防汚・抗菌性樹脂組成物を基材に混練または内添し、成型加工することを特徴とする基材の防汚・抗菌処理方法。

【公開番号】特開2009−102314(P2009−102314A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259830(P2008−259830)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】