説明

防火区画貫通部構造

【課題】配管類の周囲に有機保温材が設置されている場合であっても、火災等の熱にさらされた際の熱膨張性耐火シートの膨張残渣による貫通孔の閉塞性および耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供すること。
【解決手段】構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類と、前記配管類の周囲に設置された有機保温材と、前記貫通孔と前記有機保温材との間に設置された熱膨張性耐火シートと、前記貫通孔と前記熱膨張性耐火シートとの間に設置された有機断熱シートと、前記貫通孔と前記断熱シートとの間に設置された無機防火シール材と、を備え、
前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記有機保温材、熱膨張性耐火シート、有機断熱シートおよび無機防火シール材により閉塞されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や船舶構造物等の構造物の仕切り部に設けられた防火区画貫通部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物の仕切り部の一方で火災が発生した場合でも、炎や煙等が他方へ広がることを防ぐために、建築物等の仕切部には通常区画が設けられている。
この建築物内部に配管類を設置する場合には、この区画を貫通する孔を設け、この貫通孔に配管類を挿通する必要がある。
しかしながら単に配管類を前記の孔に挿通させただけでは火災等の発生時に前記貫通孔を伝わって、炎や煙等が区画の一方から他方へ拡散する問題がある。
【0003】
この問題に対応するためにこれまで様々な構造が提案されている。
この様な構造として、前記貫通孔を通して炎や煙等が拡散することを防止するために、区画に設けられた貫通孔を配管類が挿通している構造について、前記配管類に熱膨張性耐火シートが巻き付けられ、前記熱膨張性耐火シートと前記貫通孔との間がモルタル、不燃材料、又はパテにより埋められた構造が提案されている(特許文献1)。
【0004】
図6は従来の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
建築物等の仕切部に設けられた区画100に形成された貫通孔に樹脂製の配管類130が挿通している。前記配管類130に熱膨張性耐火シート110が巻き付けられていて、前記貫通孔と前記熱膨張性耐火シート110との隙間にはモルタル等の不燃固定材120が充填されている。
前記配管類130と前記貫通孔との隙間は熱膨張性耐火シート110および不燃固定材120により閉塞されているため、図10に示された防火区画貫通部構造の近くで火災等が発生した場合でも煙等が区画の一方から他方へ広がることを防止することができる。
また配管類130に熱膨張性耐火シート110が巻き付けられているため、図6に示された防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされて樹脂製の配管類130が焼失した場合でも前記熱膨張性耐火シート110が膨張して前記貫通孔内部を閉塞する。これにより火災等により発生した炎等が区画の一方から貫通孔を通って他方へ広がることも防止することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−167885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら本発明者らが検討したところ、防火区画貫通部構造に使用される配管類の種類によっては火災等の際に区画に設けられた貫通孔が、熱膨張性耐火シートの膨張残渣により十分に閉塞されない場合のあることに気が付いた。
【0007】
図7は、図6に示される従来の防火区画構造に使用される樹脂製の配管類130に代えて、周囲に有機保温材140が設置された金属製の配管類150を使用した場合の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面であり、火災等の熱にさらされる前の状態を示したものである。また図8は図7に示す防火区画貫通部構造が火災などの熱にさらされた後の状態を示したものである。
配管類150の周囲に有機保温材140が設置されている場合、図7に示される防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされると、前記有機保温材140が急速に溶融するか焼失する等によりその体積が急激に減少する。
このため、熱膨張性耐火シート110の膨張が熱による前記有機保温材140の急速な体積減少に追いつかず、熱膨張性耐火シート110の膨張残渣200により区画に設けられた貫通孔が十分に閉塞されない場合がある。
この現象は、特に有機保温材の厚みが大きくなるほど顕著になる。
前記膨張残渣が配管類150の周囲を十分に閉塞せず、前記膨張残渣200と配管類150との間に隙間が生じると火災等が発生した区画の一方から他方へ煙や有毒ガスが拡散したり、延焼が生じたりすることになる。
【0008】
本発明の目的は、配管類の周囲に有機保温材が設置されている場合であっても、火災等の熱にさらされた際の熱膨張性耐火シートの膨張残渣による貫通孔の閉塞性および耐火性に優れる防火区画貫通部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、防火区画貫通部構造の中でも、前記貫通孔と前記配管類との隙間が、有機保温材、熱膨張性耐火シート、断熱シートおよび無機防火シール材により閉塞されている防火区画貫通部構造が本発明の目的に適うことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
[1]構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類と、
前記配管類の周囲に設置された有機保温材と、
前記貫通孔と前記有機保温材との間に設置された熱膨張性耐火シートと、
前記貫通孔と前記熱膨張性耐火シートとの間に設置された有機断熱シートと、
前記貫通孔と前記断熱シートとの間に設置された無機防火シール材と、を備え、
前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記有機保温材、熱膨張性耐火シート、有機断熱シートおよび無機防火シール材により閉塞されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0011】
また本発明は、
[2]前記有機保温材および前記有機断熱シートが、80℃〜500℃の温度範囲で、軟化、溶融、分解および焼失の少なくとも一つの性質をそれぞれ示すものであり、
前記有機保温材の厚みが、20mm〜500mmの範囲である、上記[1]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0012】
また本発明は、
[3]前記無機防火シール材が、吸熱無機物を含む、上記[1]または[2]に記載の防火区画貫通部構造を提供するものである。
【0013】
また本発明は、
[4]周囲に有機保温材が設置された配管類を、構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通する工程と、
前記配管類に、熱膨張性耐火シートを巻き付ける工程と、
前記熱膨張性耐火シートに重ねて有機断熱シートを巻き付ける工程と、
前記貫通孔と前記有機断熱シートとの隙間に無機防火シール材を充填する工程と、
を少なくとも有する、
前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記有機保温材、熱膨張性耐火シート、断熱シートおよび無機防火シール材により閉塞されている防火区画貫通部構造の施工方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防火区画貫通部構造は前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記有機保温材、熱膨張性耐火シート、有機断熱シートおよび無機防火シール材により閉塞されている。このため本発明の防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされた場合には前記有機保温材、熱膨張性耐火シートおよび有機断熱シートのうち、前記有機保温材が溶融や焼失等により体積減少を起こす。この結果、前記配管類と前記熱膨張性耐火シートとの間に隙間が生じ始める。
しかしその一方で本発明の防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされて前記有機保温材が溶融や焼失等により体積減少を起こす際には、有機断熱シートもまた溶融や焼失等により体積減少を起こす。この結果、前記熱膨張性耐火シートは溶融状態になり流動化等した有機断熱シートから効率よく熱を受け取ることができるため速やかに膨張する。また有機断熱シートが焼失等することにより前記無機防火シール材と熱膨張性耐火シートとの間に生じた隙間に火災等による炎が侵入する際に受ける熱によっても熱膨張性耐火シートは速やかに膨張する。
このため、本発明の防火区画貫通部構造においては火災等の熱にさらされた場合に速やかに熱膨張性耐火シートが膨張するため、膨張性耐火シートの膨張残渣により貫通孔を閉塞することができる。
特に本発明の防火区画貫通部構造は、前記配管類の周囲に設置された有機保温材の厚みが20mm以上であっても火災等の熱にさらされた場合には熱膨張性耐火シートの膨張残渣により貫通孔を閉塞することができる。
【0015】
また本発明の防火区画貫通部構造は前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記有機保温材、熱膨張性耐火シート、有機断熱シートおよび無機防火シール材により閉塞されている。このため火災等の際に直接火災等の熱にさらされない場合にも煙や有毒ガスが火災等の発生した一方の区画から他方の区画へと拡散することを防ぐことも可能である。
【0016】
また本発明の防火区画貫通部構造は、火災等の熱により80℃以上の温度で前記有機保温材が軟化、溶融、分解および焼失の少なくとも一つの性質を示して体積減少を起こすため、前記熱膨張性耐火シートに対する貫通孔内面側からの加熱を促進する。このため前記熱膨張性耐火シートが速やかに膨張するため貫通孔を閉塞することができる。
【0017】
また本発明の防火区画貫通部構造は、無機防火シール材に吸熱無機物が含まれる場合であっても有機断熱シートが存在するため前記吸熱無機物の吸熱作用により前記熱膨張性耐火シートの膨張が妨げられることを防ぐことができる。
【0018】
さらに有機断熱シートが火災等の熱により体積減少を起こした場合であっても吸熱無機物を含む無機防火シール材と熱膨張性耐火シートとの間に隙間が生じることから、吸熱無機物を含む無機防火シール材の吸熱作用が熱膨張性耐火シートに及ぶことを防止することができる。これにより前記熱膨張性耐火シートの膨張が妨げられることを防ぐことができる。このため耐火性に優れる。
【0019】
また本発明の防火区画貫通部構造の施工方法は複雑な工程を必要としないことから短時間で効率よく施工することができるため、単位時間当たりの防火区画貫通部構造の生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図2】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図3】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造に対して行った耐火試験を説明するための模式断面図である。
【図4】本発明の実施例1の防火区画貫通部構造に対して行った耐火試験を説明するための模式断面図である。
【図5】比較例1の耐火試験において、壁の非加熱側から膨張残渣を観察した状態を示す模式断面図である。
【図6】従来の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図7】従来の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
【図8】実施例1の防火区画貫通部構造が火災などの熱にさらされた後の状態を示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は防火区画貫通部構造に関するものであるが、最初に本発明に使用する配管類について説明する。
前記配管類は、建築物、船舶構造物等の構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔を挿通するものである。
【0022】
前記配管類としては、例えば、冷媒管、給湯管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類、ガス管、暖冷房用媒体移送管、通気管等の気体移送用管類、電線ケーブル、光ファイバーケーブル、船舶用ケーブル等のケーブル類等が挙げられる。
これらの中でも施工性の観点から冷媒管、給湯管、水道管、下水管、注排水管、燃料移送管、油圧配管等の液体移送用管類が好ましく、冷媒管、給湯管であればさらに好ましい。
【0023】
前記配管類は、液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類等の一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0024】
前記配管類の形状については特に限定はないが、例えば、前記配管類の長軸方向に対し垂直方向の断面形状が三角形、四角形等の多角形、長方形等の互いの辺の長さが異なる形状、平行四辺形等の互いの内角が異なる形状、楕円形、円形等の形状が挙げられる。これらの中でも、断面形状が円形、四角形等であるものが施工性に優れることから好ましい。
【0025】
前記配管類の断面形状の大きさは、この断面形状の重心からこの断面形状の外郭線までの距離が最も大きい辺の長さを基準として、通常、1〜1000mmの範囲であり、好ましくは5〜750mmの範囲である。
前記配管類が液体移送用管類、気体移送用管類、ケーブル類等の場合には、通常0.5mm〜20cmの範囲であり、好ましくは1mm〜10cmの範囲である。
【0026】
前記配管類の素材については特に限定はないが、例えば、金属材料、無機材料、有機材料等の一種もしくは二種以上からなるものを挙げることができる。
前記金属材料としては、例えば、鉄、鋼、ステンレス、銅、二以上の金属を含む合金等を挙げることができる。
また無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等を挙げることができる。
また有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂等を挙げることができる。
前記素材は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0027】
本発明に使用する配管類は、前記金属材料管、無機材料管および有機材料管等の一種以上であるが、前記金属材料管、無機材料管および有機材料管等の二種以上を内筒や外筒に使用した積層管として使用することもできる。
前記配管類は金属材料管、有機材料管等が取扱い性の面から好ましく、鋼管、銅管等の金属材料管であればさらに好ましい。
【0028】
本発明に使用する配管類は、構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔を挿通するものであるが、前記区画としては、建築物の壁、間仕切り壁、床、天井等、船舶の防水区画や船室に設けられた鋼板等が挙げられる。
これらの区画に貫通孔を設けることにより、前記貫通孔に前記配管類を挿通させることが可能である。
【0029】
次に本発明に使用する熱膨張性耐火シートについて説明する。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、エポキシ樹脂やゴム等の樹脂成分、リン化合物、中和された熱膨張性黒鉛、無機充填材等を含有する熱膨張性樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。
本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、ガラスクロス等の無機繊維シート、アルミニウム箔、銅箔等の金属箔等の一種もしくは二種以上を積層したものを使用することができる。
【0030】
本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートは市販品を使用することができ、例えば積水化学工業社製フィブロック(商品名。エポキシ樹脂やゴムを樹脂成分とし、リン化合物、熱膨張性黒鉛および無機充填材等を含む熱膨張性樹脂組成物のシート状成形物)等を入手して使用することが可能である。
【0031】
本発明に使用する前記熱膨張性耐火シートのうち、熱膨張性樹脂組成物層の厚みは0.5mm〜20mmの範囲が好ましく、0.5mm〜10mmの範囲であればより好ましく、1mm〜5mmの範囲であればさらに好ましい。熱膨張性樹脂組成物層の厚みが0.5mm〜20mmの範囲であれば施工性に優れる他、本発明の防火区画貫通部構造が火災等の熱にさらされた場合に速やかに区画の無機防火シール材と配管類との隙間を閉塞することができる。
【0032】
また本発明に使用する熱膨張性耐火シートは、貼着面に粘着剤を塗布したもの、前記熱膨張性耐火シートを構成する熱膨張性樹脂組成物に粘着成分を添加することにより、前記熱膨張性耐火シート自体に粘着性を持たせたもの等を使用することができる。
【0033】
次に本発明に使用する有機保温材について説明する。
本発明に使用する有機保温材は前記配管類の周囲に設置されるものであるが、この様な有機保温材としては、例えば、ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、塩化ビニルフォーム、ポリスチレンフォーム、EPDMフォーム、NBRフォーム等の内部に気泡を含む合成樹脂等が使用される。
【0034】
また内部に気泡を含む合成樹脂は合成樹脂発泡体と言われるものであるが、本発明に使用する合成樹脂発泡体等は、80℃〜500℃の温度範囲で、軟化、溶融、分解および焼失のうち少なくとも一つの性質を示すものが、熱膨張性耐火シートの膨張を妨げないことから好ましい。
【0035】
また前記配管類の周囲に設置された有機保温材の厚みは、断熱や保温等の観点から20mm〜500mmの範囲であることが好ましく、25mm〜300mmの範囲であればより好ましく、30mm〜100mmの範囲であればさらに好ましい。
本発明の防火区画貫通部構造は、使用する有機保温材の厚みが20mm〜500mmの範囲の場合でも貫通孔を閉塞させることができる。
【0036】
次に本発明に使用する有機断熱シートについて説明する。
本発明に使用する前記有機断熱シートは前記熱膨張性耐火シートと無機防火シール材との間に設置されるものであるが、先に説明した有機保温材と同様のものを使用することができる。本発明に使用する有機断熱シートは、前記有機保温材と同じ素材の合成樹脂発泡体等を使用してもよいし、異なる素材の合成樹脂発泡体等を使用してもよい。
本発明に使用する合成樹脂発泡体等は前記有機保温材の場合と同様、80℃〜500℃の温度範囲で、軟化、溶融、分解および焼失の少なくとも一つの性質を示すものが、火災等の熱により流動化して熱膨張性耐火シートに対して効率よく熱を伝えたり、火災等の熱により焼失することにより、無機防火シール材と熱膨張性耐火シートとの間に火災等の炎が侵入したりすることから熱膨張性耐火シートが効率よく膨張し好ましい。
【0037】
本発明に使用する有機断熱シートは、前記有機断熱シート自体に粘着性を付与したり、接着層を設けたりすることができる。
【0038】
次に本発明に使用する無機防火シール材について説明する。
本発明に使用するシール材としては、例えば、JIS A5758により規定されている建築用シーリング材、JIS A6914により規定されている石膏ボード用目地処理材、モルタル、パテ、コーキング等を挙げることができる。
【0039】
また前記無機防火シール材は吸熱無機物を含むことが好ましい。
前記吸熱無機物としては、加熱により水分子を放出するものであれば特に限定はないが、例えば、水酸化カルシウム、水酸化アルミウム等の金属水酸化物、水ガラス、シリカゲル、ゼオライト、石膏等の結晶水含有化合物等が挙げられる。
【0040】
次に本発明について図面に基づき実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
図1は本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
実施例1では構造物の仕切り部に設けられた区画として、RC構造(鉄筋コンクリート構造)からなる建築物の壁1が使用されている。
前記壁1には円形の貫通孔2が形成されていて、この貫通孔2を銅管である配管類3が挿通している。
本実施例に使用した前記配管類3の外径は54mmであった。
また前記配管類3の周囲には隙間無くウレタンフォームが有機保温材4として設置されている。前記有機保温材4の厚みは50mmであった。
【0042】
前記有機保温材4の周囲に熱膨張性耐火シート5を巻き付けることにより前記有機保温材4と貫通孔との隙間に熱膨張性耐火シート5を設置した。
前記熱膨張性耐火シート5は、エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物(商品名フィブロックとして積水化学工業社から入手可能)、およびアルミニウム箔ラミネートガラスクロスが積層されてなるものであり、外側、すなわち貫通孔側にアルミニウム箔ラミネートガラスクロスを配置した。
次に前記熱膨張性耐火シート5に重ねて有機断熱シート6を巻いて固定した。実施例1に使用した有機断熱シート6は3mm厚のポリエチレン発泡体シート(商品名ソフトロンテープ、積水化学工業社製)であり、内側に粘着層が設けられているものである。
【0043】
図2は本発明の実施例1の防火区画貫通部構造を説明するための模式断面図である。
仕切り部に設けられた区画の貫通孔2内部(図1参照)、すなわち、前記有機断熱シート4と前記貫通孔2との隙間に水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の吸熱無機物を含むモルタルを無機防火シール材7として注入して固定した。これにより実施例1の防火区画貫通部構造を得た。
【0044】
実施例1の防火区画貫通部構造は、前記貫通孔2と前記配管類3との隙間が、前記有機保温材4、熱膨張性耐火シート5、有機断熱シート6および無機防火シール材7により閉塞されている。
前記貫通孔2内部において、熱膨張性耐火シート5は前記有機断熱シート4の全面を覆ってもよいし、その一部を覆ってもよい。図2に示される様に、前記熱膨張性耐火シートは前記貫通孔2内部の両端に設置することが好ましい。
【0045】
図2に示される防火区画貫通部構造は前記貫通孔2と前記配管類3との間が閉塞されているため、火災等により区画の一方で煙や有毒ガスが発生した場合でも、前記貫通孔を通じて区画の他方へ煙や有毒ガスが拡散することを防止することができる。
【0046】
図3〜4は本発明の実施例1の防火区画貫通部構造に対して行った耐火試験を説明するための模式断面図である。
図3〜4のA側(図3の左側)からISO834に準拠した耐火試験を実施した。
耐火試験を開始すると、図3に例示される様に実施例1の防火区画貫通部構造に含まれる有機保温材4および有機断熱材シート6が溶融して失われると共に、熱膨張性耐火シート5の膨張残渣10が膨張を開始した。
有機断熱材シート4が溶融して失われた隙間に熱風が侵入するため、熱膨張性耐火シート5の膨張が促進されていることが観察された。
耐火試験の結果、前記貫通孔中の有機保温材は焼失したが、前記配管類3と前記無機防火シール材7との隙間は、前記熱膨張性耐火シート5の膨張残渣10により閉塞されているため、図3および図4のB側(図3および図4の右側)に炎や煙の漏出は観察されなかった。
【0047】
[比較例1]
実施例1の場合において前記有機断熱シート6の設置を省略した他は実施例1の場合と全く同様の防火区画貫通部構造に対してISO834に準拠した耐火試験を実施した。
図5は比較例1の耐火試験において、壁1の非加熱側から膨張残渣を観察した状態を示す模式断面図である。
【0048】
耐火試験の結果、壁1の非加熱側に炎と煙の漏出が観察された。
耐火試験終了後、壁1の非加熱側から観察したところ、配管類3の周囲には貫通孔2が閉塞されずに残り、膨張残渣10が配管類3に到達していない状態が観察された。
【符号の説明】
【0049】
1 中空壁
2 貫通孔
3 配管類
4、140 有機保温材
5、110 熱膨張性耐火シート
6 有機断熱シート
7 無機防火シール材
10、200 膨張残渣
11 エポキシ樹脂含有熱膨張性樹脂組成物
12 アルミニウム箔ラミネートガラスクロス
20 膨張残渣
100 区画
110 スリーブ
120 不燃固定材
130、150 配管類
A 耐火試験の加熱側
B 耐火試験の非加熱側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通された配管類と、
前記配管類の周囲に設置された有機保温材と、
前記貫通孔と前記有機保温材との間に設置された熱膨張性耐火シートと、
前記貫通孔と前記熱膨張性耐火シートとの間に設置された有機断熱シートと、
前記貫通孔と前記断熱シートとの間に設置された無機防火シール材と、を備え、
前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記有機保温材、熱膨張性耐火シート、有機断熱シートおよび無機防火シール材により閉塞されていることを特徴とする、防火区画貫通部構造。
【請求項2】
前記有機保温材および前記有機断熱シートが、80℃〜500℃の温度範囲で、軟化、溶融、分解および焼失の少なくとも一つの性質をそれぞれ示すものであり、
前記有機保温材の厚みが、20mm〜500mmの範囲である、請求項1に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項3】
前記無機防火シール材が、吸熱無機物を含む、請求項1または2に記載の防火区画貫通部構造。
【請求項4】
周囲に有機保温材が設置された配管類を、構造物の仕切り部に設けられた区画の貫通孔に挿通する工程と、
前記配管類に、熱膨張性耐火シートを巻き付ける工程と、
前記熱膨張性耐火シートに重ねて有機断熱シートを巻き付ける工程と、
前記貫通孔と前記有機断熱シートとの隙間に無機防火シール材を充填する工程と、
を少なくとも有する、
前記貫通孔と前記配管類との隙間が、前記有機保温材、熱膨張性耐火シート、断熱シートおよび無機防火シール材により閉塞されている、防火区画貫通部構造の施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−122414(P2011−122414A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283499(P2009−283499)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】