説明

防炎効果を有する幟旗・垂幕のインクジェット捺染方法

【課題】通常のウレタンエマルジョン樹脂やアクリルエマルジョン樹脂はフィルムを形成して、接炎すると着火して燃える。水溶性高分子に三酸化アンチモン、ポリ臭化ジフェニル、リン系防炎剤を配合した前処理剤では耐水性がなく、簡単に水で脱落し防炎性能が維持されない。水溶性高分子に、アクリルエマルジョン樹脂、ウレタンエマルジョン樹脂などを配合すれば耐水性は向上するが防炎性能が得られない。上記の欠点を改良したポリエステル布帛に防炎性能を付与し、鮮明かつ滲みのないインクジェット捺染方法を提供する。
【解決手段】防炎成分となる三酸化アンチモン、ポリ臭化ジフェニルエーテル及びリン系化合物を2種類以上配合し、リンを導入したポリオールとイソシアネートで重合されたウレタンエマルジョン樹脂をバインダー成分として予め配合した前処理剤をポリエステル布帛に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル布帛の幟旗・垂幕にインクジェットプリンターで画像を出力するにあたり、鮮明な画像が得られると同時に、防炎性能を付与する前処理剤の製法及び、インクジェットプリント捺染用防炎幟旗・垂幕に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリエステル布帛の幟旗・垂幕にインクジェットプリンターを用いて分散染料インクで画像を出力すると、インクが滲み鮮明な画像が得られない。そこで、インクの滲みのない鮮明な画像を得る為に、予め前処理加工を行っている。
【0003】
前処理加工はアルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子を主成分にシリカ、界面活性剤、高沸点溶媒などで構成された前処理剤を用いて、パディング、コーティングなどの方法で処理している。
【0004】
一方、幟旗・垂幕はガソリンスタンドや室内の用途に防炎性能が必要であり、前述の方法で得られるインクジェットプリント画像の幟旗・垂幕は防炎性能がない。したがって、防炎性能を付与する方法として完成した幟旗・垂幕に防炎剤をパディング、コーティングなどの手段を用いて付与する2段階の加工法を用いていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の水溶性高分子を主成分とする前処理剤は可燃物質であり防炎性能にマイナスとなる。単に水溶性高分子に三酸化アンチモン、ポリ臭化ジフェニル、リン系防炎剤を配合した前処理剤では耐水性がなく、簡単に水で脱落し防炎性能が維持されない。水溶性高分子に、アクリルエマルジョン樹脂、ウレタンエマルジョン樹脂などを配合すれば耐水性は向上するが防炎性能が得られない。
【0006】
本発明は、インクジェットプリントにおいて鮮明な画像が得られ、かつ防炎性能を有するポリエステル布帛の幟旗・垂幕を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題に鑑み、鋭意研究した結果、ポリエステル布帛にインクジェット法で捺染する前に防炎性能を有する前処理剤として、鮮明な画像が得られる水溶性高分子と防炎成分に三酸化アンチモン、ポリ臭化ジフェニルエーテル、リン系防炎剤を配合し、これに耐水性を向上させる手段として、リンを導入したポリオールとイソシアネートで重合させたウレタンエマルジョン樹脂を配合する事によって本発明を完成するに至った。
【0008】
通常のウレタンエマルジョン樹脂やアクリルエマルジョン樹脂はフィルムを形成して、接炎すると着火して燃えるが、リンを導入したポリオールとイソシアネートで重合されたウレタンエマルジョン樹脂のフィルムは接炎しても着火しない。
【発明の効果】
【0009】
本発明の前処理剤で処理されたポリエステル布帛はインクジェットにおいて鮮明な画像が得られ、かつ、優れた防炎性能を有する幟旗・垂幕が得られ用途が拡大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ポリエステル布帛にインクジェット捺染で鮮明な画像が出力できかつ、防炎性を付与するため鋭意研究したものである。
【0011】
インクジェット捺染で滲みのない鮮明な画像を得る方法としては水溶性高分子としてはアルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、デンプン、グアガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダなどがあり、その使用量は1〜5%の範囲が適用される。
【0012】
防炎性能を出すために使用する防炎剤としては、三酸化アンチモン、ポリ臭化ジフェニルエーテル、及びリン系防炎剤を適用する。リン系防炎剤としては、トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリスシクロロプロピルホスフェートなどがある。なかでも三酸化アンチモンとデカブロモジフェニルエーテルの組み合わせが防炎効果が大きく、最適使用量は固形分換算で三酸化アンチモン5〜20%、デカブロモジフェニルエーテル5〜20%の範囲で配合する。
【0013】
次に、上記防炎剤をポリエステル布帛に接着させるバインダー成分として従来はアクリルエマルジョン樹脂又はウレタンエマルジョン樹脂が使われていたが、防炎性能に悪影響を与えていた。
【0014】
そこで、本発明者はリンを導入したポリオールとイソシアネートで重合されたウレタンエマルジョン樹脂をバインダー成分にしたところ、防炎性能になんら影響を与えることなく、ポリエステル布帛に防炎剤を接着できる事を見いだした。使用量は固形分換算で1〜10%の範囲である。実施例に具体的な防炎性能を有する前処理剤の処方及び加工工程を述べる。以下、本発明の実施例について説明する。尚、本発明は実施例に限定されるものはない。
【実施例1】
【0015】
アルギン酸ソーダ(5%水溶液)30部、三酸化アンチモン(固形分50%の水分散体)20部、デカブロムジフェニルエーテル(固形分50%の水分散体)30部、リンを導入したポリオールとイソホロンジイソシアネートで共付加反応させたウレタンエマルジョン樹脂(固形分:40%)20部で構成した前処理剤を作成した。この前処理剤をポリエステルポンジにパッド処理(絞り率70%)し、120℃×2分で乾燥させた。乾燥後のポリエステルポンジへの前処理剤の付着量は固形分換算で18g/cmだった。次に前処理したポリエステルポンジにインクジェットプリンターを用いて分散染料の昇華インクで花柄を出力した。花柄を出力したポリエステルポンジを180℃×30秒の熱処理で発色させたところ鮮明な画像が得られた。この花柄画像のポリエステルポンジの防炎性能を繊維試験の燃焼性試験法であるJISL−1091のA−1及びD法で測定した。
結果は、炭化面積13.6cm,残炎時間1.2秒、残じん時間は1.6秒、接炎回数3回以上であった。
【0016】
この結果はガソリンスタンドや室内の用途で要求されている幟旗・垂幕の防炎性能を満足している。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の前処理剤で処理されたポリエステル布帛はインクジェットにおいて鮮明な画像が得られ、かつ、優れた防炎性能を有する幟旗・垂幕が得られ用途が拡大する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル布帛にインクジェット法で捺染する前に、予め防炎成分とバインダーを調整した前処理剤を付着させ、乾燥処理を行うことを特徴とするインクジェット捺染方法。
【請求項2】
請求項1の前処理剤の防炎成分に三酸化アンチモン、ポリ臭化ジフェニルエーテル及びリン系化合物を2種類以上配合する。
【請求項3】
請求項2の防炎成分は請求項1の前処理剤の10〜30重量%含有する。
【請求項4】
請求項1の前処理剤に防炎剤成分のバインダーとして防炎性能があるリンを導入したポリオールとイソシアネートで重合されたウレタンエマルジョン樹脂を使用する。
【請求項5】
請求項4のウレタンエマルジョン樹脂は請求項1の前処理剤の1〜10重量%含有する。
【請求項6】
前処理剤で処理され、その前処理剤の請求項2と4の防炎成分が乾燥状態で10〜60g/m2付着したポリエステル布帛。

【公開番号】特開2010−189799(P2010−189799A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35083(P2009−35083)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(592226866)株式会社大力 (6)
【Fターム(参考)】