説明

防音、防炎、調湿機能を有する木製建具。

【課題】木製建具の意匠性を保ちつつ、防炎、防音、調湿機能と揮発性物質の吸着性能を有し、尚且つその機能を担う鏡板部分の脱着、交換が容易な木製建具を提供することを課題とする。
【解決手段】 木製建具は、縦框2と横桟木3により構成する矩形枠体1にコルクを貼設した表面材4を建具表面の40%〜90%の割合で該木製建具に固定することで、防炎、防音、調湿機能及び揮発性物質の飛散防止効果を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般木造住宅、集合住宅、施設などのドアや収納扉、間仕切り戸などの木製
建具の構造に関するものである。さらに具体的には、 防音、防炎、調湿性能、揮発性物
質の吸着性能を有することを特徴とする木製建具の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から室内用木製建具の表面材として多用されている物に塩ビシート合板、プリント合板、ポリ合板等がある。これらの表面材を集成材や木材等で矩形状に枠組みしたものに、接着剤を用いて貼り合わせるといった構造のフラッシュドアと呼ばれるものがあるが、近年このフラッシュドアが室内建具の多くの割合を占めている。また、家具製品にもこの構造で生産されるものが多い。その理由として、軽量で、かつ生産コストを低く抑えることができるという利点があるためである。このフラッシュドアに防音効果をもたらす為に表面材と桟材の間に遮音シートを介挿させ(特許文献4参照)、内部中空部に防音材を充填させるなどの方法がある(特許文献1参照)。また、防火性能を持たせる為に、建具の表裏両面に耐火シートを接合した鉱物質繊維ボードを芯材とする方法(特許文献3参照)、そして難燃処理を施した合板を表面材として使用するといった方法がある(特許文献2参照)。揮発性物質の飛散防止策として内部中空部に吸着シートを充填したものがある(特許文献6参照)。また、建具自体に調湿機能を持たせたものは、い草を建具に組み込んだもの(特許文献5参照)以外には皆無に等しい。また、収納棚のスライド扉の表面のみコルクを貼設したものはあるが(特許文献7参照)その構造上ドアや間仕切り扉には不向きで、ポストカード等を画鋲等で固定することを目的としているものである。フラッシュ式建具ではなく、建具の全体を無垢の木材で製造すれば、後述の問題点は大きく軽減されるが、多くの製造コストがかかるのも実状である。
【特許文献1】特開平9−235960号
【特許文献2】特開平9−268847号
【特許文献3】特開平10−37617号
【特許文献4】特開2000−199383号
【特許文献5】特開2003−138858号
【特許文献6】特開2003−1608号
【特許文献7】特開2002−180762号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フラッシュドアの製造時に使用される表面材や接着剤に含まれる揮発性物質のホルムアルデヒド、トルエン、キシレン及びパラジクロロベンゼンなどの有機化合物は室内に放出され、これらを吸引することによりアレルギー反応を引き起こすシックハウス症候群と呼ばれる症状が近年問題となっている。
【0004】
また、上述の合板類は非常に燃えやすく、火災の際には塩素ガス等の有毒ガスを発生し、このことは、火災時の死亡原因にもつながっている。
【0005】
フラッシュドアの場合、3mm程度の合板を使用し、内部が空洞のため生活音に対して共
振、共鳴を起こしやすく、特開平9−235960号記載のように防音材を内部に充填し
ているもの以外の通常のフラッシュドアは 防音性、遮音性が低い。しかし上記防音材を充
填させることにより、別途コストがかかるというデメリットも発生する。
【0006】
また、表面材が塩ビシート合板やポリ合板などでは当然、室内の湿気を吸放出することは、ほとんど不可能であり結露防止という点でも役割を果たすことはできない。
【0007】
防音、防炎、調湿性と揮発性物質の飛散防止性能を有する木製建具は比較的に意匠性、装飾性に乏しいものが多い。
【0008】
そこで本発明は、上記の実状に鑑み、木質感を充分に保ちつつ、防音、防炎、調湿性と揮
発性物質の吸着性能を有することを特徴とする木製建具を安価で提供することを課題とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明の請求項1及び請求項2の木製建具においてはコルク4aに、板状体4bを貼設した表面材4を当該木製建具の少なくとも1面の40パーセント〜90パーセントに配設したことを特徴とする。
【0010】
上記木製建具の両端に縦框を配した理由について説明する。コルクを建具表面の全てに貼設した場合、調湿性は向上すると考えられるが、建具がその機能を果たすための蝶番やドアノブといった付属品を強く固定する必要があるのに対し弾性があるコルクはこの点に対し条件を満たさない。次に、建具のコーナー部(角部分)や引き戸の戸首部分(鴨居の中を滑る箇所)にコルクを貼設した場合強度的な不安がある。そして建具表面全てがコルクの場合デザイン性が極度に単調となり意匠生が乏しくなる。上記の理由から当該木製建具の両端に縦框を配した。この縦框の巾寸法は、開き戸の場合ドアノブを取付けるため最低100mmが必要であり、また、引き戸の場合はデザイン性を考慮すると70mm〜80mmが最適と考えられる。一般に建具の巾寸法は、クロゼットなど特に巾の狭いものを除くと600mm〜1000mm位が主であり、上記縦框と建具の巾寸法の兼ね合いからコルクの貼設面積を建具表面の60パーセント〜90パーセントとし、加えて最もコルクの貼設面積が狭い例として、建具巾600mm、縦框100mm×2、明かり取り120mm程度を想定するとコルクの貼設面積は40パーセント前後となり、結果的にコルクの貼設面積は建具表面の40パーセント〜90パーセントとするものである。
【0011】
ここでコルクの性能、形態について詳しく説明する。コルクは、燃えはじめると炭化膨張して空気を遮断し延焼を効果的に防ぐという防炎性能に加え、防音性能、調湿性能が高く(木炭同等以上)揮発性物質を吸着するという特徴も有する。また、コルク栓や船舶の救命浮き輪として使用されているように、独立した気泡の集合体であるコルクは、水をはじめ酸やアルカリなどの耐薬品性能も高い。日本国内で市販されているコルクは、1mm〜10mmのものが主であり、厚みがあるものほど各々の性能は向上するが、建具の見込み寸法(戸厚)によってコルクの厚さを選定しなければならない。また、形状についてはシート状若しくは、矩形状に加工されたものがあるが、これもデザイン性を考慮した上選定すべきである。コルク表面の加工についてはセラミック仕上げ、強化ウレタン仕上げ、天然ワックス仕上げなど種々のものがあるが本発明においては、その目的に鑑みて無塗装品が最も効果的であると考えられる。
【0012】
また、請求項3の木製建具は、嵌め込み溝5に沿って上下のスライド式又は、止め具により表面材4を固定しているため、表面材4の脱着、交換が容易に可能であり、表面材4の破損、老朽化の際、枠体1を現状のまま使用でき、表面材4の交換費用のみで済むというコスト面での利点がある。
【0013】
また、当該防音、防炎、調湿性能を有する木製建具は、その性能を維持しつつも、鏡板部
分(表面材4)が平面以外のデザインに対応できる構造であることも特徴ある。鏡板部分
に明かり取りやその他のデザイン(額落し等)を設けるため表面材4に閉塞される桟木3
を予め任意の形状、寸法に加工し表面材をその形状、寸法で刳り抜くことで開口部を得ら
れ、硝子などを用いた明かり取りやその他のデザインを製作可能とする構造である。
【0014】
これに加え請求項1及び請求項4にかかる木製建具は、コルクという多岐に渡り非常に優
れた天然素材を建具の表面に貼設することにより独特の暖かい風合いのある意匠性を与え
ることが出来る。
【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明の請求項1及び請求項4記載の木製建具によれば次のような効果を発揮する。
(1)遮音性が高い。建具の表面に遮音性に長けた1mm〜10mmのコルクを貼設させたことにより従来のフラッシュドアと比較して遮音性に優れている。よって、住空間において他の不快な生活音を大きく軽減できる。
(2)防炎性が高い。防炎性に優れたコルクは火災時に問題となっている合板などの新建材から出る有毒ガスの発生を遅らせ、死亡率減少につながる。
(3)揮発性物質飛散防止効果。シックハウス症候群の原因なる、ベニヤ板やMDF等の新建材に含まれる有害物質を吸着し、健康的な居住区間を提供できる。
(4)調湿性能がある。押入れの建具に応用した場合、コルクの持つ調湿性能が押入れ内部湿気を吸収し、結露やカビの発生防止に大きく役割を果たす。
(5)安価で提供できる。縦框には無垢材を使用するが、製造工程が比較的単純であるから、大量生産せずとも人件費を抑えられる為、木製建具を安価で提供できる。
【0016】
また、本発明の請求項3の記載の木製建具によれば、表面材4の着脱が自在であるため、表面材4の破損、老朽化にともなう建具自体の取替えを必要とせず、表面材4の交換のみでよい為、その費用は大幅に軽減される。
【0017】
本発明の請求項4によれば、表面材4の横方向寸法が300mm程度のものであればスライド式固定方法と併用することで、固定用止め金具やビス等を使用することなく矩形枠体1に固定が可能であるから製造コスト面においても利点となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1乃至図5を参照して、本発明の実施形態に係る木製建具について説明する。図1は第1実施形態の構成を示す分解斜視図であり(スライド式固定方法)、図2は第1実施形態の構成を示す断面図である。図3は、第2実施形態示す断面図であり、図4、図5は、第3実施形態の分解斜視図と断面図である。
【0019】
本発明の第1実施形態に係る木製建具Aは、外部から見ることが出来る縦框2と、板状体4により閉塞された外部から見えない中桟材3により枠体が構成されている。該枠体は、中桟材3の両端をホゾ加工し、縦框2に施したホゾ穴にホゾを差し込むことにより結合されている。
【0020】
そして1mm〜10mmのコルク4aをベニヤ板や中比重繊維板(MDF)などの板状体4bに接着剤を用いて貼設した表面材4を縦框2の表裏両側に施した、はめ込み溝5に沿って上方向から下方向へスライドさせて装着させる構造である。そして、建具として必要な蝶番、錠、ドアノブ、戸車及びその他の付属金物を取り付けてその機能をなすものである。
【0021】
本発明の木製建具は、縦框2と、中桟材3及び表面材4から形成される中空部6に炭化コルクを充填させることにより防音性能、断熱性能を一層向上させることが出来る。炭化コルク以外にも、従来から使用されているグラスウールやウレタン化合物などの防音断熱材が使用可能である。
【0022】
また、コルクシートを配した表面材4は、上下のスライドにより脱着が自在であるから、その内部にある炭化コルクや他種の防音断熱材も容易に脱着が可能であるという特徴がある。この特徴は炭化コルクや他種の防音断熱材を内部に充填せず、建具の取付け施工が完了した後、建具が取り付けられた部屋の使用目的の変化などから、一層の防音、断熱性が求められた場合に建具の作り替えを必要とせず、防音断熱材の充填のみの簡単な工事で問題を解決できるという利点がある。
【0023】
また、表面材4と防音断熱材は脱着が自在であるため容易に取り外し再利用が簡単である。
【0024】
次に第2実施形態の木製建具Bについて図3に基づき説明する。尚、本発明の第2実施形態の木製建具Bにおいて、第1実施形態の木製建具Aと同一の構成を示すものは、同一の番号を付し詳細な説明を省略する。
【0025】
本発明の第2実施形態は、クロゼットや押入れの扉のように表面のみに板状体4を配したもので、裏面には直径3mm〜5mmの穴が無数にあいた有孔ベニヤ7を縦框2と桟材3に固定している。この場合、表面剤4には通気効率を考え4bの代わりに有孔ベニヤ7を使用する。
【0026】
次に第3実施形態の木製建具Cについて図4に基づいて説明する。尚、本発明の第3実施形態の木製建具Cにおいて、第1実施形態の木製建具Aと同一の構成を示すものは、同一の番号を付し詳細な説明を省略する。
【0027】
第3実施形態の木製建具について木製建具Cは、第1実施形態の木製建具Aに硝子などを用いた明かり取りを設けたものである。任意の形状、寸法で明かり取りを設けるため、予め桟材3をその形状、寸法に加工しておく。その後、表面材4を桟材3の形どおりに切り抜き、硝子9を両面からの硝子押さえ8で挟み固定する。
【0028】
次に、実施例を具体的に説明する。第1実施形態の木製建具Aに従い、子供室入口のドアとして、扉厚33mm、高さ1820mm、巾730mmの防音、防炎、調湿機能を有する木製建具を試作したところ(巾105mmの杉材の縦框を両端に配し、厚さ2mmのコルクを建具表面の71パーセントに貼設した。)防音性能を持たない通常のフラッシュドアに比べ、外部の音が大きく遮断された。また、バーナーを用いて当該木製建具とフラッシュドアを同時に熱し始めたところ、黒く炭化しつつも、その内側にあるベニヤ板を保護し着火、延焼の次期を共に大きく遅らせ防炎機能を有することを確実に実証した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態の木製建具の構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態の木製建具の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態の木製建具の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態の木製建具の構成を示す分解斜視図である。
【図5】本発明の第3実施形態の木製建具の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1枠体
2縦框
3桟材
4表面材
4aコルクシート
4bベニヤまたはMDFなどの板状体
5嵌め込み用溝
6中空部
7有孔ベニヤ
8硝子押さえ
9硝子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
框と内部桟材により構成される木製建具において、前記木製建具の少なくとも1面の40パーセント〜90パーセントにコルクを貼設した防音、防炎、調湿機能を有することを特徴とする木製建具。
【請求項2】
上記防音、防炎、調湿機能を有する木製建具の表面材は、コルクと板状部材から成り、1mm〜10mmのシート状若しくは板状コルクを2mm〜50mmの板状部材に貼設し、上記コルクと上記板状部材を組み合わせた表面材の厚みを3mm〜60mmとする請求項1記載の防音、防炎、調湿機能を有することを特徴とする木製建具。
【請求項3】
防音、防炎、調湿機能を有する木製建具の構成をなす矩形状枠体は、上框と下框を有さず、縦框と表面材に閉塞される桟木により形成される構造であって、前記表面材又は、他種表面材への脱着、交換を容易に可能にする為、嵌め込み溝に沿っての上下のスライド式、若しくは固定用止め具やビス締めにより前記表面材を上記矩形状枠体に固定する請求項1記載の防音、防炎、調湿機能を有することを特徴とする木製建具。
【請求項4】
左右縦框内側の側面に施した嵌め込み溝の深さを下部から10mm〜300mmのところで3〜6mm浅くし、また板状体の両端下部10mm〜300mmを幅3〜6mm切断することで相互が凸凹状となり表面材の下方へのズレ防止機能を果たす構造を特徴とする請求項1記載の防音、防炎、調湿機能を有することを特徴とする木製建具。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−283279(P2006−283279A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100688(P2005−100688)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(304051779)
【Fターム(参考)】