説明

限外濾過膜を用いた生体成分の分離方法およびモジュール、装置

【課題】分子量が10〜1000kDaであり、その分子量比が1.5〜2である標的生体成分と不純物生体成分を、限界濾過膜用いて、一方の生体成分を80%以上の透過率で透過させ、かつ、一方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率と他方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率の比が0.20以下にできる分離方法を提供すること。
【解決手段】分子量が10〜1000kDaであり、その分子量比が1.5〜2である標的生体成分と不純物生体成分を含む混合溶液を、標的生体成分の分子量と不純物生体成分の分子量の平均値の0.5〜2倍の分画分子量を有する限外濾過膜を用いてクロスフロー濾過することにより標的生体成分と不純物生体成分を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量が10〜1000kDaであり、その分子量比が1.5〜2である標的生体成分と不純物生体成分を、標的生体成分の分子量と不純物生体成分の分子量の平均値の0.5〜2倍の分画分子量を有する限外濾過膜を用いたクロスフロー濾過によって、一方の生体成分を80%以上の透過率で透過させ、かつ、一方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率と他方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率の比を0.20以下にできる分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中には10万種以上のタンパク質が存在していると推定されている。例えば、インターフェロン(分子量20〜30kDa)、インターロイキン(分子量20〜30kDa)アルブミン(分子量66kDa)、免疫グロブリン(150〜1000kDa)、ミオシン(430kDa)、フェリチン(440kDa)、サイログロブリン(660kDa)などが挙げられる。
これらが混合する溶液から標的生体成分を分離するために数種類の精製方法が報告されている。例えば、アフィニティクロマトグラフィー法やイオン交換クロマトグラフィー法、ゲルクロマトグラフィー法、化学法などが挙げられる。
【0003】
アフィニティクロマトグラフィーは、標的生体成分が特異的に結合するリガンドをゲル支持体に固定したゲルを用いて標的生体成分を分離する方法である。例えば、抗体精製に利用されるプロテインAによる精製は抗体に対して特異的であるため、純粋な生成物が得られるが、抗体2量体の形成やリガンドであるプロテインAの脱離、高コストなどの問題があった。
また、ゲルクロマトグラフィー法でも非常に純粋な生成物が得られるが、大量の蛋白を処理することはできず、作業に要する時間も長大になり、高コストとなる。
一方、最近、核酸、糖、タンパク質、ワクチン、血液分画製剤などのバイオ医薬を膜濾過によって分離・精製する方法が報告されている。膜濾過法は、溶解・懸濁した溶質の大きさに基づいて分離するものである。この方法の最も簡単な形態においては、溶液を加圧下に所定の大きさの孔を有する濾過膜を通過させる。濾過膜の孔の大きさより大きい溶質は保持され、小さい溶質は、溶媒と共に膜を通過する。一般に膜の孔径によって、逆浸透、限外濾過、および精密濾過の範疇に分類される。通常、限外濾過では分子量が約1〜1000kDaの溶質やコロイド、微生物を分離する場合に、逆浸透では塩および他の低分子量溶質を分離する場合に使用される。
【0004】
限外濾過膜を使用した分離技術として、分子量比が2倍以上である標的生体成分と不純生体成分を高い分離性能と回収率でサイズ分離する方法が報告されている。しかしながら、分子量比が1.5〜2倍である標的生体成分と不純生体成分を高い分離性能と回収率でサイズ分離する方法は報告されておらず、製造レベルに達した方法はない。
例えば、ジェネンテックは高速接線流濾過(HPTFF)を行えば分子量の相違が10倍未満の生体成分分離が出来ることを開示している(特許文献1)。しかしながら、実施例のチトクロムC(約12.5kDa)、rh−GH(22kDa)、rt−PA(約65kDa)の分離効率は十分とは言えない。その上、高い分離性能で生体成分を分離するには、トランスメンブレン圧(TMP)を転移点のトランスメンブレン圧(TMP)以下で行う必要があり、そのため、濾過速度が減少し、十分な処理量がではなかった。また、TMPを一定に制御する必要があるために背圧を付加するための装置が必要となり、複雑な装置になるなどの問題があった。
【0005】
ミリポアは、上記HPTFFを用いてCyt CとVitamin B12、Cyt C/BSA、IgG/Ovaalbumin、β−Lact−Cyt C、IgG−BSA、Cyt C/Protamine、BSA Monomer/dimer、IgG/Transferrin、BSA−Hemoglobinの分離性能を開示している(非特許文献1)。しかしながら、等電点の差を有さず、分子量比が2倍以下生体成分を、限外濾過膜でサイズ分離する場合、その精製純度が不十分であり、収率も80%未満と低くなる問題があった。
【0006】
東レは、クロスフロー濾過によりアルブミン(約66kDa)、β2−ミクログロブリン(約11kDa)の精製を開示している(特許文献2)。しかしながら、クロスフロー濾過で処理された標的生体成分であるβ2−ミクログロブリンの濃度は0.05mg/Lであり不純物生体成分であるアルブミン濃度0.62mg/Lに対し極めて少ない濃度のものしか得られていない。さらに、分子量1.5万未満のタンパク質と分子量6万以上のタンパク質の分離についての記述であって、それ以外の分子量を有するタンパク質の分離、タンパク質以外の生体成分の分離については何ら記述されていない。
【特許文献1】特表平6−500730号公報
【特許文献2】特開2005−156249号公報
【非特許文献1】BioProcess Technical Sheet TFF1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、分子量が10〜1000kDaであり、その分子量比が1.5〜2である標的生体成分と不純物生体成分を、限界濾過膜用いて、一方の生体成分を80%以上の透過率で透過させ、かつ、一方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率と他方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率の比が0.20以下にできる分離方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分子量が10〜1000kDaであり、その分子量比が1.5〜2である標的生体成分と不純物生体成分を含む混合溶液を、標的生体成分の分子量と不純物生体成分の分子量の平均値の0.5〜2倍の分画分子量を有する限外濾過膜を用いてクロスフロー濾過することにより、一方の生体成分を80%以上の透過率で透過させ、かつ、一方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率と他方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率の比が0.20以下にできる分離方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
[1]分子量が10〜1000kDaの生体成分を含む混合溶液であって、分子量比が1.5〜2である標的生体成分と不純物生体成分を、標的生体成分の分子量と不純物生体成分の分子量の平均値の0.5〜2倍の分画分子量を有する限外濾過膜を用いてクロスフロー濾過することにより標的生体成分と不純物生体成分を分離する方法。
[2]生体成分が、ポリペプチド、RNAおよびDNAであることを特徴とする[1]に記載の分離方法。
[3]ポリペプチドが、アルブミン、抗体、血液凝固因子、インターロイキン、インターフェロン、細胞吸着因子、細胞成長因子、酵素、リボ蛋白であることを特徴とする[2]に記載の分離方法。
[4]抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする[3]に記載の分離方法。
[5]限外濾過膜が、親水性スルホン系高分子膜、親水性芳香族エーテル系高分子膜、親水性フッ素系高分子膜、親水性オレフィン系高分子膜、セルロース系膜、(メタ)アクリル系高分子膜、(メタ)アクリロニトリル系高分子膜、ビニルアルコール系高分子膜であることを特徴とする[1]〜[4]の何れかに記載の分離方法
【0010】
[6]生体成分の濃度が1〜100g/Lであることを特徴とする[1]〜[5]の何れかに記載の分離方法
[7] 濾過前の生体成分の濃度を100としたとき、クロスフロー濾過中の生体成分の濃度変化を50〜200に維持しながらクロスフロー濾過を行うことを特徴とする[1]〜[6]の何れかに記載の分離方法。
[8]濾過の流速を転移点での流速を越えるレベルに維持し、さらに、濾過のトランスメンブレン圧を流速の転移点でのトランスメンブレン圧を越えるレベルに維持することを特徴とする[1]〜[7]の何れかに記載の分離方法。
[9]2つ以上の不純物生体成分を含む混合溶液を精製する方法であって、[1]の方法を1回以上行うことによって標的生体成分と不純物生体成分を分離する方法。
【0011】
[10]下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置を用いて行う[1]〜[9]の何れかに記載の分離方法。
(イ)濾過元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)濾過元液の濃度を調整できる手段
(ハ)濾過元液の線速をコントロールする手段
(ニ)濾過圧力をコントロールする手段
[11][1]〜[9]のいずれかに記載の除去方法に使用するモジュールおよび下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置。
(イ)濾過元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)濾過元液の濃度を調整できる手段
(ハ)濾過元液の線速をコントロールする手段
(ニ)濾過圧力をコントロールする手段
【発明の効果】
【0012】
本発明の分離方法を実施することにより、分子量が10〜1000kDaであり、その分子量比が1.5〜2である標的生体成分と不純物生体成分を、限界濾過膜用いて、一方の生体成分を80%以上の透過率で透過させ、かつ、一方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率と他方の生体成分が限界濾過膜を透過する透過率の比が0.20以下にできる。
本発明は、限外濾過膜でクロスフロー濾過するだけであるので、クロマトグラフィーのような方法に比べてきわめて簡易な作業であり、大量の免疫グロブリンできる。また、化学的処理方法とは異なり、標的生体成分の失活や変性を起こす事もない。さらに、公知の膜とは異なり、標的生体成分を高回収率、高純度で分離できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係わる限外濾過膜を用いた蛋白分離方法および装置について具体的に説明する。
本発明に係わる生体成分とは、ポリペプチド、糖鎖、RNAおよびDNAなどが挙げられる。
本発明に係わるポリペプチドとは、約10より多くのアミノ酸を有するペプチドおよびタンパク質をいう。好ましくは、このポリペプチドは、哺乳動物タンパク質である。例えば、抗体(免疫グロブリン)、血液凝固因子、インターロイキン、インターフェロン、細胞吸着因子、細胞成長因子、酵素、リボ蛋白、ホルモンなどが挙げられる。さらに具体的には、レニン;成長ホルモン(ヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモンを含む);成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;α−1−抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体化ホルモン;グルカゴン;凝固因子(例えば、第VIIIC因子、第IX因子、組織因子およびフォン・ビルブラント因子);抗凝固因子(例えば、プロテインC);心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性物質;プラスミノーゲン活性化因子(例えば、ウロキナーゼまたはヒト尿または組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA);ボンベシン;トロンビン;造血増殖因子;腫瘍壊死因子−αおよび腫瘍壊死因子−β;エンケファリナーゼ;RANTES(通常発現および分泌されるT細胞の活性化を調節する);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−α);血清アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン);Muellerian阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;微生物タンパク質(例えば、β−ラクタマーゼ);DNase;IgE;細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA)(例えば、CTLA−4);インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);ホルモンまたは増殖因子に対するレセプター;プロテインAまたはプロテインD;リウマチ因子;神経栄養因子(例えば、骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4、ニューロトロフィン−5またはニューロトロフィン−6(NT−3、NT−4、NT−5またはNT−6)、またはNGF−βのような神経成長因子);血小板由来増殖因子(PDGF);線維芽細胞増殖因子(例えば、aFGFおよびbFGF);上皮増殖因子(EGF);トランスホーミング増殖因子(TGF)(例えば、TGF−αおよびTGF−β(TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4またはTGF−β5を含む));インスリン様増殖因子−Iおよびインスリン様増殖因子−II(IGF−IおよびIGF−II);des(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP);CDタンパク質(例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD34およびCD40);エリスロポイエチン;骨誘導因子;免疫毒素;骨形態形成タンパク質(BMP);インターフェロン(例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、およびインターフェロン−γ);コロニー刺激因子(CSF)(例えば、M−CSF、GM−CSFおよびG−CSF);インターロイキン(IL)(例えば、IL−1〜IL−10);スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞レセプター;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;ウイルス抗原(例えば、AIDSエンベロープの一部);輸送タンパク質;ホーミングレセプター;アドレシン(addressin);調節タンパク質:インテグリン(例えば、CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA−4およびVCAM);腫瘍関連抗原(例えば、HER2レセプター、HER3レセプターまたはHER4レセプター);ならびに上記のポリペプチドのいずれかのフラグメントおよび/または改変体などが挙げられる。
【0014】
本発明に係わる抗体とは、最も広範な意味で使用され、具体的にはモノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多特異的抗体( 例えば、二重特異性抗体)かまたは、リガンド特異的な結合領域を含むように改変される限り抗体フラグメントリガンド特異的な結合領域を保持する限りを網羅する。ここでの抗体は、目的の「抗原」に対して方向づけられている。抗原は、好ましくは、生物学的に重要なポリペプチドであり、疾患または傷害に羅患した哺乳動物への抗体の投与が、その哺乳動物において治療的利益をもたらし得る。また、非ポリペプチド抗原(例えば、腫瘍関連の糖脂質抗原; 米国特許第5,091,178号参照)に対する抗体も含まれる。抗原がポリペプチドである場合、抗原は膜貫通分子(例えば、レセプター) または、リガンド(例えば、成長因子)であり得る。
【0015】
本発明に係わる抗体とは、治療的利益をもたらしうる抗体であれば何ら限定しないが、例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、非ヒト抗体、抗体フラグメントが挙げられる。
本発明に係わるヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、ここで、このレシピエントの超可変領域残基は、所望の特異性、親和性および能力を有する非ヒト種(例えば、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類)由来の超可変領域残基(ドナー抗体)で置換される。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体でもドナー抗体でも見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに洗練するように行われ得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、そして代表的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで、超可変ループの全てまたは実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、そしてFR領域の全てまたは実質的に全てが、ヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。ヒト化抗体はまた、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、代表的には、ヒト免疫グロブリンの一部を含む。
【0016】
本発明に係わるキメラ抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部は、特定の種に由来する、もしくは特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体において対応する配列と同一または相同である。一方、鎖の残りの部分は、他の種に由来する、または他の抗体のクラスまたはサブクラスに属する抗体ならびにそのような抗体のフラグメント(所望の生物学的活性を表している限り)において対応する配列と同一または相同である。
本発明に係わる抗体フラグメントとは、全長抗体の1部分(一般的には、それらの抗原結合領域または可変領域)を含む。抗体フラグメントの例えは、Fab,Fab‘,F(ab’),Fvフラグメント;単鎖抗体分子、ダイアボディー(diabody);線状抗体、および抗体フラグメントから形成された多特異的抗体を含む。
【0017】
本発明により含まれる抗体への好ましい分子標的としては、CD ポリペプチド( 例えば、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD34、およびCD40); HERレセプターファミリー(例えば、EGFレセプター、HER2,HE R3またはHER4レセプター);細胞接着分子(例えば、LFA−1,Mac1,p150,95,VLA−4,ICAM−1,VCAM およびaまたはbのサブユニットを含むav/b3インテグリン(例えば、抗−CD11a,抗CD18,または、抗CD11b抗体)のメンバー;成長因子(例えば、VEGF);IgE,血液型抗原;flk2/flt3レセプター;肥満(OB)レセプター;mplレセプター;CTLA−4;ポリペプチドCなどが挙げられる。可溶性抗原またはフラグメントは、必要に応じて他の分子に結合されて、抗体産生のための免疫原として使用され得る。膜貫通分子(例えばレセプター)のために、これらのフラグメント(例えば、レセプターの細胞外領域)は免疫原として使用されえる。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞が免疫原として使用され得る。
【0018】
本発明に係わる抗体の具体例として、抗HER2、抗CD20、抗IL−8、抗VEGF、抗PSCA、抗CD11a、抗IgE、抗Apo−2レセプター、抗TNF−α、抗組織因子(Tissue Factor)(TF)、抗CD3、抗CD25、抗CD34、抗CD40、抗tac、抗CD4、抗CD52、抗Fcレセプター、抗癌胎児性抗原(CEA)抗体、胸部上皮細胞に特異的な抗体、結腸癌種細胞に結合する抗体、抗CD33、抗CD22、抗EpCAM、抗GpIIb/IIIa、抗RSV、抗CMV、抗HIV、抗肝炎、抗αvβ3、抗ヒト腎細胞癌腫、抗ヒト17−1A、抗ヒト結腸直腸腫瘍、抗ヒト黒色腫、抗ヒト扁平上皮癌腫、抗ヒト白血病抗原(HLA)抗体、抗HER2レセプター抗体、抗VEGF抗体、抗IgE抗体、抗CD20抗体、抗CD11a抗体、および抗CD40抗体などが挙げられる。さらに具体的な例としては、Muramomab(製品名:Orthclone(OKT3)、Rituximab(製品名:Ritaxan)、Basiliximab(製品名:Simulect)、Daclizumab(製品名:Zenapax)、Palivizumab(製品名:Synagis)、Infliximab(製品名:Remicade)、Gemtuzumab zogamicn(製品名:Mylotarg)、Alemtuzumab(製品名:Mabcampath)、Adalimumab(製品名:Humira)、Omalizumab(製品名:Xolair)、Vevacizumab(製品名:Avastin)、Cetuximab(製品名:Erbitux)等が挙げられる。
【0019】
本発明に係わる生体成分の分子量は、10〜1000kDaであり。10kDaより小さい生体成分では、標的生体成分と不純生体成分の大きさの差が小さくなるために膜によるサイズ分離が困難となる。一方、1000kDaより大きい生体成分の分離には、限外濾過膜は不適である。
本発明に係わる限外濾過膜としては、所望の分画分子量を有する膜を製造でき、生体成分が吸着しなければ何ら限定しないが、例えば、親水性スルホン系高分子膜、親水性芳香族エーテル系高分子膜、親水性フッ素系高分子膜、親水性オレフィン系高分子膜、セルロース系膜、(メタ)アクリル系高分子膜、(メタ)アクリロニトリル系高分子膜、ビニルアルコール系高分子膜などが挙げられる。好ましくは、親水性スルホン系高分子膜が良い。
【0020】
本発明に係わるスルホン系高分子は特に限定されるものではなく、分子中にスルホン基を有する高分子は全て用いることができる。スルホン系高分子の例としては、例えば下記式(1)で表されるポリスルホン、下記式(2)で表されるポリエーテルスルホン、下記式(3)で表されるポリアリールスルホン等が挙げられる。式中nおよびm、lは繰り返し単位を表す。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。スルホン系高分子は、必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また分離対象物の静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
本発明に係るスルホン系高分子の重量平均分子量は、5000〜100万を用いることができる。好ましくは、1万〜50万であり、さらに好ましくは2〜30万の範囲である。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0025】
本発明に係わるスルホン系高分子に親水性を付与する親水性高分子の種類は特に限定されるものではないが、例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、スルホン系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
本発明で係わるスルホン系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は1,000〜200万を用いることができる。好ましくは5,000〜100万以下であり、さらに好ましくは5,000〜50万の範囲である。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
本願発明においては、K90を単独で用いるのが最も好ましい。
本発明で係わるスルホン系高分子膜の親水性高分子の含量は、免疫グロブリンが膜に吸着しなければ特に限定されるものではないが、例えば0.1〜10重量%含有であり、好ましくは0.3〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%が良い。
本発明に係わる親水性芳香族エーテル系高分子膜は特に限定されるものではなく、親水性芳香族エーテル系高分子膜の例としては、下記式(4)で表されるものが挙げられる。
【0027】
【化4】

【0028】
(R、R、R、R、R、Rは水素、炭素数1以上6以下を含む有機官能基、または、酸素、窒素または珪素を含有する炭素数6以下の非プロトン性有機官能基であり、それぞれ同一であっても、異なっても構わない。構造式中のqは繰り返し単位数である。異なる繰り返し単位を2成分以上含む共重合体でも構わない。)
【0029】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子の末端のフェノール性水酸基は分離対象物が液体中で安定して存在可能であるpHを維持するために、必要に応じてエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また分離対象物の静電気的な特性との相性から、高分子末端にアミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入できる。
【0030】
本発明に係わる親水性芳香族エーテル系高分子膜は、主とし芳香族エーテル系高分子からなるものであるが、芳香族エーテル系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。例えば、ポリスチレンやその誘導体を含有しても良い。
本発明に係わる親水性芳香族エーテル系高分子の重量平均分子量は、5000〜100万を用いることができる。好ましくは、1万〜50万であり、さらに好ましくは2万〜30万の範囲である。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明に係わるフッ素系高分子膜は、主としてフッ素系高分子からなるものであるが、フッ素系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
【0031】
本発明においては、親水性芳香族エーテル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水化によって分離処理に供される液体混合物と本発明の芳香族エーテル系高分子からなる限外濾過膜との接触を良好にするものである。
本発明に係わる親水化剤としては、親水性を付与できるものであれば何ら限定しないが。対象物との電気的な相互作用を低減させるために、荷電構造を含まないノニオン性であることが望ましい。
本発明に係わる親水化剤は、低分子化合物であっても高分子化合物であっても構わない。
親水化剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの親水性化合物が例示される。また、これらの物質を親水性セグメントと疎水性セグメント含有する界面活性剤やブロック共重合体およびグラフト共重合体も親水化剤として十分活用できる。例えば、ポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体などが好ましい。
【0032】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体は、高い親水性を有するポリエチレングリコールを親水性セグメントに有するため、親水化剤として有効に活用できる。また、これらは二種以上を組み合わせて使用することもできる。この中でも好適に利用できるのは、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールを親水性セグメントとして含有するブロック共重合体およびグラフト共重合体であり、その中も特にポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体が芳香族エーテル系高分子膜の親水性を向上させる親水化剤として好適に利用できる。
【0033】
本発明に係わる親水化剤の分子量は、製造方法およびその条件によって適宜選ばれる。例えば、成膜方法が湿式成膜法で溶媒として非ハロゲン系水溶性有機溶媒を用いる場合、耐溶剤性の高い芳香族エーテル系高分子の溶解性は極めて低い。そのため、親水化剤を膜原液にブレンドする場合、均一に溶解した膜原液を得るためには親水化剤の分子量および添加量を適切に選択する必要がある。十分な添加量の親水化剤を用いるためには、親水化剤の分子量は、例えば、数平均分子量は、300以上、100,000以下であることが好ましい。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能である。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
【0034】
本発明に係わる親水化剤が疎水性セグメントと親水性セグメントからなる化合物の場合、その親水化剤の親水性セグメントの数平均分子量は、300以上、100,000以下であることが好ましい。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能である。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体は、ポリスチレン系高分子由来のセグメントとポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントから成るブロック共重合体である。
【0035】
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントを形成するポリスチレン系高分子としては、下記式(5)に示す繰り返し単位からなるポリスチレン系高分子が好ましい。
【0036】
【化5】

【0037】
(R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14は水素、フッ素を除くハロゲン原子、炭素数1以上6以下を含む有機官能基、または、酸素、窒素または珪素を含有する炭素数6以下の官能基であり、それぞれ同一であっても、異なっても構わない。構造式中のsは繰り返し単位数である。構造範囲内で異なる繰り返し単位を2成分以上含む共重合体でも構わない。)
【0038】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントの数平均分子量は、300以上、1,000,000以下であることが必要である。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能であると同時に、水溶液または水溶性有機溶媒に対して、溶出性が低減できる。より好ましい下限は、500以上、特に好ましい下限は、700以上であり、上限としてより好ましくは500,000以下、特に好ましい上限は、300,000以下である。
【0039】
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントを形成するポリエチレングリコール系高分子とは、下記式(6)および/または(7)に示す繰り返し単位からなるポリエチレングリコール系高分子が好ましい。
【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
(R15は、炭素数3以上、30未満の有機官能基である。特に親水性が大きく低下させることがなければ、R16にエーテル基、エステル基、水酸基、ケトン基、カルボン酸基を含有しても構わない。tは繰り返し単位数である。)
【0043】
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの数平均分子量は、例えば300以上、100,000以下であることが必要である。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能であると当時に、十分な親水性が得られる。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
【0044】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの組成比としては、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントが全ポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の10重量%以上、99重量%以下であることが必要である。この組成比においては、十分な親水性を発現でき、かつ、溶出性が抑えられる。より好ましい下限値は、20重量%以上、特に好ましい下限値は、30重量%以上であり、より好ましい上限値は98重量%以下、特に好ましい上限値は、97重量%以下である。
【0045】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体のブロック構造は、2つの該セグメントから構成されるジブロック共重合体、3つの該セグメントから構成されるトリブロック共重合体、4つ以上の該セグメントから構成されるマルチブロック共重合体であっても構わない。また、これら2種以上のブロック共重合体の混合物であっても構わない。構成される各該セグメントの数平均分子量は同一であっても異なっても構わない。
【0046】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメント間は、高分子末端部分で直接化学的に結合される必要がある。製造するために、必要であれば、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントを接続するためのスペーサーとして低分子化合物および/または有機官能基を利用してもよい。低分子化合物および/または有機官能基の数平均分子量が500以下の場合、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの効果を低下させること無く発現できる。具体的には、反応性官能基を有するラジカル重合開始剤を用いてスチレンを重合した後にポリエチレングリコールを縮合した際に形成されるポリスチレン−ポリエチレングリコール間の低分子化合物などが挙げられる。
【0047】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を製造する方法の一例としては、反応性官能基を有するラジカル重合開始剤を用いる方法がある。具体的には、カルボン酸基を有するアゾ系ラジカル重合開始剤を用い、カルボン酸基を酸塩化物基に化学的に変換した後、スチレンをラジカル重合することで末端に酸塩化物基を有するポリスチレンが得られる。次いで、ポリエチレングリコールと縮合することによってポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる(高分子論文集、1976年、第33巻、P131)。ポリエチレングリコールユニット含有高分子アゾ重合開始剤を用いて、スチレンをラジカル重合することによってもポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる。また、別の合成方法例として、リビング重合を利用する方法が挙げられる。具体的には、ニトロキシド系化合物によるリビングラジカル重合を用いてスチレンの重合を行い、高分子末端にニトロキシド化合物が結合した高分子を得られる。加水分解により高分子末端をヒドロキシル基に変換し、ポリエチレングリコールとのカップリング反応によりポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる(Polymer、1998年、第39巻、第4号、P911)。
【0048】
本発明における親水化剤を用いて芳香族エーテル系高分子からなる限外濾過膜を親水化する方法は、例えば、成膜時に親水化剤をあらかじめ混合するブレンド法、親水化剤を含む溶液に膜を浸漬した後、乾燥させて親水化剤を残留させる塗布法、膜表面に親水性のアクリル系モノマー、メタクリル系モノマー、アクリルアミド系モノマー等をグラフト重合する方法などが挙げられる。これらの方法を2つ以上組み合わせて行うことも可能である。芳香族エーテル系高分子に化学的変性を加えないブレンド法または塗布法が好ましく、製造面においては一段階の工程で親水化処理を行うことができるブレンド法が特に好ましい。
【0049】
本発明に係わるフッ素系高分子は、フッ化ビニリデンのホモ重合体や、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、およびパーフルオロメチルビニルエーテルのモノマー群から選んだ1種又は2種のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体のことである。また、上記ホモ重合体および上記共重合体を混合して使用することもできる。その中でも、フッ化ビニリデンが好ましい。
本発明に係わるフッ素系高分子の重量平均分子量は、5万〜500万であることが好ましく、より好ましくは10万〜200万、更に好ましくは15万〜100万である。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。平均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0050】
免疫グロブリンの吸着による閉塞を防ぐために、膜に親水性を付与することが必要となる。親水化処理の方法としては、例えば、界面活性剤を含む溶液にフッ素系高分子膜を浸漬した後、乾燥してフッ素系高分子膜中に界面活性剤を残留させる方法、電子線やガンマ線等の放射線を照射する、あるいは過酸化物を用いることによって、フッ素系高分子膜の細孔表面に親水性のアクリル系モノマーやメタクリル系モノマー等をグラフトする方法、成膜時に親水性高分子を予め混合する方法、親水性高分子を含む溶液にフッ素系高分子膜を浸漬した後、乾燥してフッ素系高分子膜の細孔表面に親水性高分子の被膜を作る方法等が挙げられるが、親水化の永続性や親水性添加物の漏洩の可能性を考慮するとグラフト重合が最も好ましい。特に、特開昭62−179540号公報、特開昭62−258711号公報、および米国特許第4,885,086号明細書に開示された放射線グラフト重合法による親水化処理は、膜内全領域の細孔内表面に均一な親水化層を形成し得る点で好ましい。
【0051】
本発明のグラフト重合に使用する親水性モノマーとしては、ビニル基を有する親水性モノマーであれば特に限定されるものではない。好ましくは、1個のビニル基を有するモノマーが良い。さらに、スルホン基、カルボキシル基、アミド基、中性水酸基、スルフォニル基、スルフォニル基、スルホン酸基等を含む(メタ)アクリル系モノマーが好適に使用できるが、免疫グロブリンを含む溶液を濾過する場合には中性水酸基を含むモノマーが特に好ましい。本発明に係わる親水性モノマーとは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解するモノマーである。例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシル基を有する、もしくはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有するビニルモノマー、ビニルピロリドン等のアミド結合を有するビニルモノマー等が挙げられる。中でも、1個以上のヒドロキシル基、あるいはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーが、免疫グロブリン溶液の透過性が最も高いため好ましい。具体的には、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等が挙げられる。さらに、1個のビニル基を有する親水性モノマーとともに、2個以上のビニル基を有する架橋剤を、上記親水性モノマーに対して、20mol%以上、1000mol%以下の割合で用いて、グラフト重合法によって共重合させることにより、充分に親水化が達成されたものである。
【0052】
本発明に係わる使用する架橋剤は、上記親水性モノマーと共重合しうる2個以上のビニル基を有する架橋剤であり、親水性モノマーと同時に膜に接触させることにより導入する。架橋剤は、数平均分子量200以上、2000以下であることが好ましく、より好ましくは数平均分子量250以上、1000以下、最も好ましくは数平均分子量300以上、600以下である。架橋剤の数平均分子量が200以上、2000以下であると、免疫グロブリン溶液の高い濾過速度が得られ好ましい。本発明においては、2個以上のビニル基を有する架橋剤であれば、いかなる架橋剤も使用できるが、親水性の架橋剤が好ましい。ここで親水性の架橋剤とは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解する架橋剤である。本発明で用いられる架橋剤の具体例としては、芳香族系ではジビニルベンゼン誘導体、脂肪族系ではエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等のようなメタクリル酸系の架橋剤、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等のような(メタ)アクリル酸系の架橋剤等が挙げられる。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートのような3個の反応性基を有する架橋剤も用いることが出来る。また、架橋剤は2種類以上の混合物も用いることが出来る。本発明において、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはそれらの混合物を用いることが、免疫グロブリン1量体透過性と免疫グロブリン2量体除去性能の観点から最も好ましい。
【0053】
本発明に係わるグラフト重合法とは、ラジカルが発生させる方法であれば何ら限定しないが、例えば、放射線開始剤の添加や電離性放射線や化学反応等の手段によってフッ素系高分子膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。本発明において、フッ素系高分子膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線またはγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、およびセシウム137などの放射性同位体から、またはX線撮影装置、電子線加速器および紫外線照射装置等により得られる。
【0054】
本発明に係わる電離性放射線の照射線量は、1kGyから1000kGyまでが好ましい。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1000kGyを越えると膜強度の低下を引き起こすことがある。グラフト重合法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。本発明においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が最も好ましい。
【0055】
本発明では、ラジカルを生成したフッ素系高分子膜と、親水性モノマーおよび架橋剤との接触は、気相でも液相で達成されるが、本発明においては、グラフト反応が均一にすすむ液相で接触させる方法が好ましい方法である。グラフト反応をさらに均一に進めるために、親水性モノマーおよび架橋剤はあらかじめ溶媒中に溶解させてから、フッ素系高分子膜と接触させることが望ましい。親水性モノマーおよび架橋剤を溶解する溶媒としては、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0056】
本発明に係わるグラフト重合は、親水性モノマーと架橋剤を合わせた濃度で0.3容量%〜30容量%の反応液を用い、フッ素系高分子膜1gに対して10×10−5〜100×10-53の割合で反応を行うことが望ましい。該範囲内でグラフト重合を行えば、親水化層によって孔が埋まることもなく、均一性に優れた膜が得られる。
本発明に係わるグラフト重合時の反応温度は、重合反応が起これば特に限定されるものではないが、一般的に20℃から80℃までで行われる。
本発明に係わるグラフト重合は、フッ素系高分子膜と親水性のモノマーを接触させる際に、親水性のモノマーは気体、液体又は溶液のいずれの状態でもよいが、均一な親水化層を形成させるためには、液体又は溶液であることが好ましく、溶液であることが特に好ましい。
【0057】
本発明に係わる親水性フッ素系高分子膜は、疎水性のフッ素系高分子膜に強固な架橋構造を有する親水化層を導入することで、免疫グロブリン1量体透過性と免疫グロブリン2量体阻止性を高いレベルで実現することができる。そのために、親水性モノマーに対して架橋剤を20mol%以上、1000mol%以下の割合で用いて共重合させることが良く、好ましくは、親水性モノマーに対して架橋剤を20mol%以上、500mol%以下の割合で、さらに好ましくは親水性モノマーに対して架橋剤を30mol%以上、200mol%以下の割合で用いることが良い。
【0058】
本発明は、疎水性フッ素系高分子膜に親水化層を導入し、高い免疫グロブリン1量体透過性を実現する。そのために、疎水性フッ素系高分子膜にグラフトされるグラフト率は、好ましくは3%以上、50%以下、さらに好ましくは4%以上、30%以下、最も好ましくは5%以上、20%以下である。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、タンパク質の吸着にともなう濾過速度の急激な低下を引き起こす。50%を越えると、比較的小さな孔が親水化層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは下記式(1)で定義される値である。
グラフト率(%)=
(グラフト後の膜重量−グラフト前の膜重量)/グラフト前の膜重量×100 (1)
本発明に係わるフッ素系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、フッ素系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
【0059】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜は、主としてオレフィン系高分子からなるものであるが、オレフィン系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるオレフィン系高分子は、オレフィン類やアルケンをモノマーとして合成される高分子であり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリ4−メチル1−ペンテンなどが挙げられる。さらに、上記ホモ重合体および上記共重合体を混合して使用することもできる。その中でも、ポリエチレンが好ましい。
【0060】
本発明に係わるオレフィン系高分子の重量平均分子量は、5万〜500万であることが好ましく、より好ましくは10万〜200万、更に好ましくは15万〜100万である。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。平均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0061】
免疫グロブリンの吸着による閉塞を防ぐために、膜に親水性を付与することが必要となる。親水化処理の方法としては、例えば、界面活性剤を含む溶液にオレフィン系高分子膜を浸漬した後、乾燥してオレフィン系高分子膜中に界面活性剤を残留させる方法、電子線やガンマ線等の放射線を照射する、あるいは過酸化物を用いることによって、オレフィン系高分子膜の細孔表面に親水性の(メタ)アクリル系モノマー等をグラフトする方法、成膜時に親水性高分子を予め混合する方法、親水性高分子を含む溶液にオレフィン系高分子膜を浸漬した後、乾燥してオレフィン系高分子膜の細孔表面に親水性高分子の被膜を作る方法等が挙げられるが、親水化の永続性や親水性添加物の漏洩の可能性を考慮するとグラフト重合が最も好ましい。特に、特開昭62−179540号公報、特開昭62−258711号公報、および米国特許第4,885,086号明細書に開示された放射線グラフト重合法による親水化処理は、膜内全領域の細孔内表面に均一な親水化層を形成し得る点で好ましい。
【0062】
本発明のグラフト重合に使用する親水性モノマーとしては、ビニル基を有する親水性モノマーであれば特に限定されるものではない。好ましくは、1個のビニル基を有するモノマーが良い。さらに、スルホン基、カルボキシル基、アミド基、中性水酸基、スルフォニル基、スルホン酸基等を含む(メタ)アクリル系モノマーが好適に使用できるが、免疫グロブリンを含む溶液を濾過する場合には中性水酸基を含むモノマーが特に好ましい。本発明に係わる親水性モノマーとは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解するモノマーである。例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシル基を有する、もしくはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有するビニルモノマー、ビニルピロリドン等のアミド結合を有するビニルモノマー等が挙げられる。中でも、1個以上のヒドロキシル基、あるいはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーが、免疫グロブリン溶液の透過性が最も高いため好ましい。
【0063】
具体的には、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等が挙げられる。さらに、1個のビニル基を有する親水性モノマーとともに、2個以上のビニル基を有する架橋剤を、上記親水性モノマーに対して、20mol%以上、1000mol%以下の割合で用いて、グラフト重合法によって共重合させることにより、充分に親水化が達成されたものである。
【0064】
本発明に係わる使用する架橋剤は、上記親水性モノマーと共重合しうる2個以上のビニル基を有する架橋剤であり、親水性モノマーと同時に膜に接触させることにより導入する。架橋剤は、数平均分子量200以上、2000以下であることが好ましく、より好ましくは数平均分子量250以上、1000以下、最も好ましくは数平均分子量300以上、600以下である。架橋剤の数平均分子量が200以上、2000以下であると、免疫グロブリン溶液の高い濾過速度が得られ好ましい。本発明においては、2個以上のビニル基を有する架橋剤であれば、いかなる架橋剤も使用できるが、親水性の架橋剤が好ましい。ここで親水性の架橋剤とは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解する架橋剤である。
【0065】
本発明で用いられる架橋剤の具体例としては、芳香族系ではジビニルベンゼン誘導体、脂肪族系ではエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等のようなメタクリル酸系の架橋剤、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等のような(メタ)アクリル酸系の架橋剤等が挙げられる。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートのような3個の反応性基を有する架橋剤も用いることが出来る。また、架橋剤は2種類以上の混合物も用いることが出来る。本発明において、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはそれらの混合物を用いることが、免疫グロブリン1量体透過性と免疫グロブリン2量体除去性能の観点から最も好ましい。
【0066】
本発明に係わるグラフト重合法とは、ラジカルが発生させる方法であれば何ら限定しないが、例えば、放射線開始剤の添加や電離性放射線や化学反応等の手段によってオレフィン系高分子膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。本発明において、オレフィン系高分子膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線またはγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、およびセシウム137などの放射性同位体から、またはX線撮影装置、電子線加速器および紫外線照射装置等により得られる。
【0067】
本発明に係わる電離性放射線の照射線量は、1kGyから1000kGyまでが好ましい。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1000kGyを越えると膜強度の低下を引き起こすことがある。グラフト重合法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。本発明においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が最も好ましい。
【0068】
本発明では、ラジカルを生成したオレフィン系高分子膜と、親水性モノマーおよび架橋剤との接触は、気相でも液相で達成されるが、本発明においては、グラフト反応が均一にすすむ液相で接触させる方法が好ましい方法である。グラフト反応をさらに均一に進めるために、親水性モノマーおよび架橋剤はあらかじめ溶媒中に溶解させてから、高分子オレフィン系高分子膜と接触させることが望ましい。親水性モノマーおよび架橋剤を溶解する溶媒としては、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0069】
本発明に係わるグラフト重合は、親水性モノマーと架橋剤を合わせた濃度で0.3容量%〜30容量%の反応液を用い、オレフィン系高分子膜1gに対して10×10−5〜100×10-53の割合で反応を行うことが望ましい。該範囲内でグラフト重合を行えば、親水化層によって孔が埋まることもなく、均一性に優れた膜が得られる。
本発明に係わるグラフト重合時の反応温度は、重合反応が起これば特に限定されるものではないが、一般的に20℃から80℃までで行われる。
本発明に係わるグラフト重合は、オレフィン系高分子膜と親水性のモノマーを接触させる際に、親水性のモノマーは気体、液体又は溶液のいずれの状態でもよいが、均一な親水化層を形成させるためには、液体又は溶液であることが好ましく、溶液であることが特に好ましい。
【0070】
本発明に係わる親水性オレフィン系高分子膜は、疎水性のオレフィン系高分子膜に強固な架橋構造を有する親水化層を導入することで、免疫グロブリン1量体透過性と免疫グロブリン2量体阻止性を高いレベルで実現することができる。そのために、親水性モノマーに対して架橋剤を20mol%以上、1000mol%以下の割合で用いて共重合させることが良く、好ましくは、親水性モノマーに対して架橋剤を20mol%以上、500mol%以下の割合で、さらに好ましくは親水性モノマーに対して架橋剤を30mol%以上、200mol%以下の割合で用いることが良い。
【0071】
本発明は、疎水性オレフィン系高分子膜に親水化層を導入し、高い免疫グロブリン1量体透過率を実現する。そのために、疎水性オレフィン系高分子膜にグラフトされるグラフト率は、好ましくは3%以上、50%以下、さらに好ましくは4%以上、30%以下、最も好ましくは5%以上、20%以下である。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、タンパク質の吸着にともなう濾過速度の急激な低下を引き起こす。50%を越えると、比較的小さな孔が親水化層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは、下記式(2)で定義される値である。
グラフト率(%)=
(グラフト後の膜重量−グラフト前の膜重量)/グラフト前の膜重量×100 (2)
本発明に係わるオレフィン系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、オレフィン系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
【0072】
本発明に係わるセルロース系高分子膜は、主としてセルロース系高分子からなるものであるが、セルロース系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるセルロース系高分子は、銅アンモニア再生セルロースやセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースフェニルカルバニレートなどのセルロースエステル化合物、メチルセルロース、エチルセルロースなどのセルロースエーテルなど、およびこれらを組み合わせたブレンド化合物が挙げられる。その中でも、銅アンモニア再生セルロースが良い。
【0073】
本発明に係わるセルロース系高分子の重量平均分子量は、5000〜100万であり、好ましくは1万〜90万、より好ましくは5万〜80万が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜は特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル系高分子の例としては、下記式(8)で表されるものが挙げられる。
【0074】
【化8】

【0075】
(式中、R17およびR18は炭素数1〜14のアルキル基またはアラルキル基を表す。アルキル基の水素原子またはアラルキル基の水素原子は炭素数1〜10のアルコキシ基によって置換されていてもよい。式中uおよびvは繰り返し単位を表す。)
【0076】
その中でも、ポリ(メタ)アクリル酸やポリ(メタ)アクリル酸エステルなど用いることができる。好ましくはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルおよびこれら2つ以上組み合わせた共重合体が良い。必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また分離対象物の静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
【0077】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜は、主としてポリ(メタ)アクリル酸エステルからなるものであるが、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係る(メタ)アクリル系高分子の重量平均分子量は、5000〜100万を用いることができる。好ましくは、1万〜50万であり、さらに好ましくは2万〜30万の範囲である。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明においては、(メタ)アクリル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、(メタ)アクリル系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
【0078】
本発明で係わる(メタ)アクリル系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は1,000〜200万を用いることができる。好ましくは5,000〜100万以下であり、さらに好ましくは5,000〜50万の範囲である。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0079】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系膜は特に限定されるものではなく、(メタ)アクリロニトリル系高分子の例としては、下記式(9)で表されるものが挙げられる。
【0080】
【化9】

【0081】
(式中、R19およびR20、R21は、水素またはメチル基を表す。Rは炭素数1〜14のアルキル基またはアラルキル基を表す。アルキル基の水素原子またはアラルキル基の水素原子は、炭素数1〜10のアルコキシ基によって置換されていてもよい。式中wおよびx
は繰り返し単位を表す。)
【0082】
その中でも、ポリ(メタ)アクリロニトリルやポリ(メタ)アクリロニトリル酸エステルなど用いることができる。好ましくはポリアクリロニトリル、ポリメタアクリロニトリルが良い。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子を構成するモノマー組成は、(メタ)アクリロニトリル含量が少なくとも50重量%、好ましくは60重量%〜100重量%であり、(メタ)アクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル化合物の一種又は二種以上の含量が50重量%以下、好ましくは0重量%〜40重量%以下である。上記ビニル化合物としては、(メタ)アクリロニトリルに対して共重合性を有する公知の化合物であれば良く、特に限定されないが、好ましい共重合成分としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、イタコン酸、酢酸ビニル、(メタ)アクリルスルホン酸ソーダ、p(パラ)−スチレンスルホン酸ソーダ、ヒドロキシエチルメタクリレート、メタアクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロライド、メタアクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニルピロリドン等を例示することができる。例えば、アクリロニトリル−アクリル酸メチル−PVP共重合体などが挙げられる。
【0083】
必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また分離対象物の静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜は、主として(メタ)アクリロニトリル系高分子からなるものであるが、(メタ)アクリロニトリル系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
【0084】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子の重量平均分子量は、5000〜100万を用いることができる。好ましくは、1万〜50万であり、さらに好ましくは2万〜30万の範囲である。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
本発明においては、(メタ)アクリロニトリル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、(メタ)アクリロニトリル系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
【0085】
本発明で係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は1,000〜200万を用いることができる。好ましくは5,000〜100万以下であり、さらに好ましくは5,000〜50万の範囲である。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。本発明の限外濾過膜の膜厚は、好ましくは15〜2000μm、更に好ましくは15〜1000μm、最も好ましくは20〜500μmである。膜厚が15μm未満であるとフッ素系高分子膜の強度が不充分になる傾向があり好ましくない。また、2000μmを超えると免疫グロブリン1量体の透過性能が不充分となる傾向があり好ましくない。
【0086】
本発明に係わる限外濾過膜の分画分子量は、標的生体成分の分子量と不純物生体成分の分子量の平均値の0.5〜2倍であり、好ましくは0.6〜1.8倍以下が良い。0.5倍未満であると透過量が低下する問題があり、また、2倍を超えると標的生体成分と不純物生体成分の分離性能が低下する問題がある。分画分子量は、アルブミン(66000)、γ−グロブリン(160000)、カタラーゼ(232000)、フェリチン(440000)、サイログロブリン(669000)などを用いて、デッドエンド濾過を行い、分子量と阻止率の関係から阻止率が90%となる分子量として算出される。
本発明に係わる限外濾過膜の中空糸の内表面、あるいは、平膜の片面に緻密な層を有している場合、その緻密層の厚みは、免疫グロブリン溶液の透過を向上させるために通常100μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.1μm以下が良い。
【0087】
本発明に係わる限外濾過膜の空孔率は、30〜95%であることが好ましく、更に好ましくは40〜90%、最も好ましくは50〜85%である。空孔率が30%未満であると濾過速度が不充分となり、95%を超えるとフッ素系高分子膜の強度が不充分となることから好ましくない。空孔率は、膜の断面積および長さから求めた見かけ体積と該膜の重量および膜素材の真密度から求めた数値である。
本発明に係わる限外濾過膜の形状は、分画性能を発現できれば特に限定されるものではないが、例えば、中空糸状、平膜状、チューブ状等、種々の形状を用いることができるが、体積に比して濾過有効膜面積の大きい中空糸状が有効である。
【0088】
本発明に係わる限外濾過膜の膜表面構造についてはとくに制限はなく、円形、楕円形等の単独孔や連続的に繋がった連続孔、網状微細孔、スリット状微細孔等が挙げられる。
本発明における限外濾過膜とは、分離対象物が接触する膜表面上質が限外濾過膜であれば良く、構造を保持するためには、如何なる材質から成る基材(支持体)を用いてもよい。例えば、物理的強度を高めるために他の基材(支持体)として織布又は不織布の支持体や多孔性無機体など用い、これらの基材の上に限外濾過膜を成型した膜などが挙げられる。
一般に、濾過方法としてクロスフロー濾過とデッドエンド濾過が汎用濾過法として実施されている。クロスフロー濾過とは、微細粒子等が含まれる被処理液を膜に供給しつつ濾過して、異径の微粒子を分離するものである。膜面に堆積する微粒子(ゲル層)を微粒子溶液の平行流による剪断力にて掻き取りながら、安定したゲル層の状態を長期にわたって維持することで、分離性能を維持しようとするものである。一方、デッドエンド濾過は、膜面に対して垂直に蛋白溶液を流すため、膜表面に堆積物が蓄積し、濾過時間と共に透過抵抗が次第に増加し、透過蛋白濃度が変化してしまう。垂直濾過やノーマル濾過とも呼称される。
【0089】
本発明に係わるクロスフロー濾過とは、膜面に対して平行に蛋白溶液を流し、せん断力により膜表面に堆積する物を押し流すことで、動的平衡が成立し一定の蛋白濃度を形成し連続運転を可能にする濾過方式である。十字流濾過、平行濾過やタンジェンシャルフロー濾過とも呼称される。
本発明に係わる生体成分の濃度は、分画性能を発現させることができれば特に限定されるものではないが、例えば、1〜100g/Lが良く、好ましくは5〜50g/Lが良い。
本発明に係わる濾過線速とは、膜面に対して平行流れる溶液の速度である。濾過線速は、分画性能を発現させることができれば特に限定されるものではないが、例えば、1〜200cm/秒が挙げられ、好ましくは10〜100cm/秒が良い。
【0090】
本発明に係わる濾過圧力は、分画性能を発現させることができれば特に限定されるものではないが、高い処理量を達成するためには転移点の圧力(TPM:トランスメンブレン圧)を越える圧力で実施することが好ましい。
転移点とは、以下のように求められる流動率対TMP曲線の所定の点を意味する。流動率(Jf)対TMPの実験値を、入口および出口TMPが互いの±10%である短路長モジュールかまたは再循環濾液を用いて同じ条件が得られる完全長モジュールにおいて集める。その実験値を下記式(3)により得られる曲線にあてはめる。
Jf=Jmax×TMP/(k+TMP) (3)
(式中、Jmax(漸近値)およびkは1/Jf対1/TMPの直線回帰により決定し、
これによりk/Jmaxの勾配と1/Jmaxの切片が得られる)
【0091】
次に、転移点は以下の基準によりグラフから求められる。Jf=Jmaxと式1により得られる曲線に対する原点を通る接線(接線はJf=Jmax×TMP/k)のインターセプトを求める。次に、インターセプトを通っておよび上記曲線上の接線に垂直に直線を引く。この後者の直線および曲線の交点により、転移点流動率が定義される。
数学的には、この転移点(Jf)は下記式(4)となる。
(Jmax−Jf=−Jmax×k(Jmax−2Jf) (4)
【0092】
特許文献1においては、分子量比が10倍以上の標的生体成分と不純生体成分を分離するため、TMP以下の圧力で濾過することが必須であると記載されているが、TMP以下では、濾過速度、すなわち処理量が小さくなる問題がある。
しかしながら、本発明の分離方法では、分子量比が1.5〜2倍の標的生体成分と不純生体成分をTMPより高い圧力で濾過を行っても分離性能が維持することができ、さらに、濾過速度、すなわち処理量も大きいものである。
【0093】
本発明に記載のクロスフロー濾過中の生体成分の濃度変化は、膜閉塞や分画性能の低下などが起こらなければ何ら限定はしないが、濾過前の生体成分の濃度を100とした時、50〜200であることが好ましく、より好ましくは70〜150、さらに好ましくは80〜120である。
本発明に係わるクロスフロー濾過を行うための装置は、免疫グロブリン濃度や線速、圧力などをコントロールできる装置であれば何ら限定しないが、例えば、濾過元液の濃度を吸光度計でモニタリングし、濾過元液の濃度を一定にするために希釈液を供給する装置と限外濾過膜に対して接線方向の線速と限外濾過膜を横切る圧力をコントロールする装置が一体となったクロスフロー濾過装置が挙げられる。
【0094】
具体的には、図1のようなクロスフロー濾過装置が挙げられる。免疫グロブリン溶液用タンク(4)内の免疫グロブリン溶液の濃度を吸光度計が組み込まれた濃度コントローラー(11)でモニタリングし、その信号をポンプ1(2)に信号を送って回転をコントロールし、希釈液(1)を添加しながら免疫グロブリン溶液用タンク(4)中の免疫グロブリン濃度をコントロールする。さらに、圧力計1(5)および圧力計2(6)、流量計(10)で圧力と流量を圧力・流量コントローラー(12)でモニタリングし、親水性ポリオレフィン系高分子膜(8)に対して接線方向の線速と親水性ポリオレフィン系高分子膜を横切る圧力が設定値になるようにポンプ2(3)および調整バルブ(7)に信号を送ってコントロールする。得られた透過液(9)の濃度および免疫グロブリン1量体、2量体の割合を測定できる装置、例えば、吸光度計やGPCが本クロスフロー濾過装置に連結していても良い。
【0095】
また、図2のようなクロスフロー濾過装置でも良い。免疫グロブリン溶液用タンク(4)と親水性ポリオレフィン系高分子膜(8)との間に濃度をモニタリングできる装置、例えば、UVフローセル(13)などを設け、免疫グロブリン溶液用タンク(4)中の免疫グロブリン濃度を濃度コントローラ(11)でモニタリングし、その信号をポンプ1(2)に信号を送って回転をコントロールし、希釈液(1)を添加しながら免疫グロブリン溶液用タンク(4)中の免疫グロブリン濃度をコントロールする。さらに、圧力計1(5)および圧力計2(6)、流量計(10)で圧力と流量を圧力・流量コントローラー(12)でモニタリングし、親水性ポリオレフィン系高分子膜(8)に対して接線方向の線速と親水性ポリオレフィン系高分子膜を横切る圧力が設定値になるように調整バルブ(7)に信号を送ってコントロールする。得られた透過液(9)の濃度および免疫グロブリン1量体、2量体の割合を測定できる装置、例えば、吸光度計やGPCが本クロスフロー濾過装置に連結していても良い。
【0096】
本発明に関わる免疫グロブリン溶液の調製に使用する溶媒や希釈液としては、免疫グロブリンの変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、PBSや生理食塩水、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、3−[(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸](AMPSO)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)等のグッド緩衝剤、酢酸塩、グリシン、クエン酸塩、リン酸塩、ベロナール、ホウ酸塩、コハク酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、イミダゾール等の緩衝液等が挙げられる。
【0097】
本発明に係わる緩衝剤の濃度は、免疫グロブリンの変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、1mM〜1M、好ましくは、10mM〜500mM、より好ましくは、50mM〜200mMが良い。
本発明に係わる緩衝剤のpHは、免疫グロブリンの変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、pH3〜pH10、好ましくは、pH4〜pH9、より好ましくは、pH5〜pH8が良い。
本発明に関わる免疫グロブリン溶液の調製に使用する溶媒や希釈液に添加する添加剤としては、免疫グロブリンの変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、無機塩や界面活性剤、アミノ酸、安定剤、防腐剤などが挙げられる。
本発明に係わる無機塩としては、塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。その濃度としては、例えば、1mM〜1M、好ましくは、10mM〜500mM、より好ましくは、50mM〜200mMが良い。
【0098】
本発明に係わる界面活性剤としては、分画性能に影響を与えなければ何ら限定はしないが、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル〔例えば、エマルゲン120:花王(株)製〕、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル〔例えばポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(例えば、トリトンX−100:ローム・アンド・ハース社製)、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等〕、ポリエチレングリコールモノラウレート等のノニオン型界面活性剤、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、アルキルベンジルジメチル等のカチオン型界面活性剤、コール酸、デオキシコール酸、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等のアニオン型界面活性剤、ステアリルベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン型界面活性剤等が挙げられる。その濃度としては、界面活性剤の種類に依存されるが、0.001重量%〜1重量%が良い。
【0099】
本発明に係わるアミノ酸としては、分画性能に影響を与えなければ何ら限定はしないが、例えば、リシン、アルギニン、システイン、アラニン、グリシン、セリン、プロリン等が挙げられる。その濃度としては、アミノ酸の種類に依存されるが、0.01重量%〜20重量%が良い。
本発明に係わる安定剤としては、グルコース、ソルビトール、ショ糖、グリセロール、ポリエチレングリコール、アルギニンなどのアミノ酸等が挙げられる。その濃度としては、1重量%〜50重量%が良い。
本発明に係わる防腐剤としては、分画性能に影響を与えなければ何ら限定はしないが、例えば、アジ化ナトリウム等が挙げられる。その濃度としては、0.001重量%〜1重量%が良い。
本発明に係わる分離方法は、サイズ分画によって分離する方法であるため、合成医薬品の精製や清酒、ビール、ワイン、発泡酒、お茶、ウーロン茶、野菜ジュース、果物ジュースなど各種飲料の精製、薬液や処理水等から微粒子分離、油水分離や液ガス分離用の分離上下水の浄化を目的とする分離などの用途にも利用できる。
【0100】
本発明における分離膜モジュールとは、例えばケーシング内に平膜もしくは中空糸膜を収容したものであり、少なくとも分離対象物を含む液体をケーシング内に注ぎ込む液体流入口を一つ以上、分離された液体を導出するための液体流出口を一つ以上供えたものをいう。モジュールに使用するケーシングは一つ以上のケーシング部品から組み立てられる。ケーシング部品の材料は金属、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など、必要に応じて選択できる。好適な材料は、内部の様子が観察可能な透明性を有する熱可塑性樹脂材料であり、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、硬質塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレンブタジエン共重合体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。特に好適なものは透明性を有する非晶性樹脂であり、ポリスチレンブタジエン共重合体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。
【0101】
本発明に係わるモジュールに使用するケーシングを組み立てる際に使用されるケーシング部品の製造方法は、成型加工が可能であれば何ら限定しないが、例えば、溶接、プレス成型、射出成型、反応射出成型、超音波圧着、プラズマ融着、接着剤による接着などである。これらは単独でも2つ以上組み合わせても良い。特に好適なケーシング部品の製造方法としては材料に透明性を有する熱可塑性樹脂を用いた射出成型品と適切な接着剤で封止する方法である。
【0102】
本発明に係わるモジュールに使用するケーシングおよび/またはケーシング部品には成型中、および/または成型後、および/または組み立て中、および/または組み立て後に、分離処理される液体と接触および/または接触しない表面に表面加工が実施できる。表面加工には種々の方法があるが、例えば親水化をする場合は親水性高分子の塗布や空気中でのプラズマ処理による表面酸化などが、疎水化する場合は撥水剤および/または離型剤の塗布が、また酸素透過を減少させる場合には蒸着法などにより酸化ケイ素膜をはじめとする各種無機コートを実施することができる。ケーシングおよび/またはケーシング材料への親水化加工を行うことでモジュール組み立て時に同種および/または異種材料界面の接着性制御が容易になり、疎水化加工を行うことで組み立て時に一時的に使用される各種保護フィルムなどとの剥離性を向上させることができる。
【0103】
本発明に係わるモジュールの構造は使用する膜の形状や液体中の分離対象物で異なるが、例えば平膜であり、分離対象物がサイズ分離可能な物質であれば、モジュールの構造は、分離処理される液体が一枚もしくは複数の平膜を通してのみ流通するようにケーシング内に適切に収容され、液体の流路の上流に液体流入口を、下流に液体流出口を有する構造となる。また金属メッシュ、不織布など平膜を保持する目的の保持材と平膜を組み合わせてケーシングに収容し、モジュール化することもできる。更には、膜面積を広く収容するために平膜をプリーツ状に折りたたみ収容することもできる。
【0104】
本発明に係わる限外濾過膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば溶融成膜法や湿式成膜法が挙げられる。溶融成膜法とは、膜材料と可塑剤を加熱することで均一混合させた後、冷却することにより相分離を発生させ、得られた膜フィルムから可塑剤を抽出することで膜を得る方法である。また、湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0105】
本発明に係わる限外濾過膜の製造する方法については、目的の分画性能を有する限外濾過膜を製造することができれば何ら限定しない。一例として、親水性スルホン系高分子膜の湿式成膜法について説明する。
スルホン系高分子膜を製造する方法として、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0106】
本発明に係わる体処理分離膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは20℃の100g純水に10g以上溶解可能であり、かつ膜材料のスルホン系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましく、更に好ましくは水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは2種以上組み合わせて使用できる。
【0107】
本発明に係わる高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するスルホン系高分子を製造できれば何ら限定はしないが、例えば、膜原液全体を100重量%とした場合、スルホン系高分子の濃度範囲としては下限として1重量%以上、好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上である。また上限としては45重量%以下、好ましくは35重量%以下、特に好ましくは25重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。親水性高分子は、下限として0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、上限として20重量%以下、好ましくは10重量%以下で、均一に溶解した溶液が好適に使用される。また、膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
【0108】
本発明に係わるスルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルホン酸、ポリ−p−スチレンスルホン酸ソーダ、N,N−ジメチルアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。
【0109】
また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ―ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として下90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
本発明に係わる湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
【0110】
本発明に係わるスルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することできる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
【0111】
本発明の湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡糸口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m、好ましくは0.005m、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m、好ましくは1.5m、特に好ましくは1.2m以下である。また紡糸口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%、好ましくは10%、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
【0112】
本発明本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9000m/時間の速度が選択される。
本発明に係わる湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
【0113】
湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明の限外濾過膜は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上からスルホン系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度としては30℃以上、150℃以下、更に好ましくは50℃以上、140℃以下、である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
本発明に係わる透過率は、濾過前の標的生体成分と不純生体成分混合溶液に含まれる標的生体成分量または不純生体成分量と、限外濾過膜を透過して濾液に出てきた標的生体成分量、または、不純生体成分量から算出する。
【0114】
生体成分を医薬品や健康食品、化粧品として使用する場合、副作用などの問題から、不純生体成分をできるだけ除去した方が良い。従って、本発明に係わる透過率は80%以上が良く、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上が良い。また、標的生体成分の透過率と不純生体成分の透過率比は0.20%以上が良く、好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.1%以上が良い。透過率比が低い程、一方の生体成分の透過率が低く、他方の透過率が高いことを示し、分画性能が高いことを示している。
本発明に係わる透過率を測定する方法としては、高速液体クロマトグラフフィー法、核磁気共鳴法、質量分析法、赤外分光法などの結果より算出する方法が挙げられるが、算出することができれば、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0115】
本発明を次に実施例および比較例によって説明するが、これらに限定されるものではない。
[製造例]
<中空糸膜(PSf−1)の製造方法>
1650gのN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製、以下、DMAcと略す)に280gのポリスルホン(P1700、UCC社製、以下PSfと略す)および110gのポリビニルピロリドン(K−90、BASF社製、以下PVPと略す)を加え、膜原液用の5000×10−6反応器に注ぎ込んだ。反応器の攪拌をしながら減圧と窒素置換を5回繰り返した。その後、60℃に反応器内液温度をあげ、均一なPSfのDMAc溶液を得た。均一に溶解したことを確認し、この段階で攪拌を停止し、減圧にして脱泡を行った。その後、大気圧と同じ圧力に戻し、60℃に保持された紡糸用の膜原液を得た。
【0116】
純水480gにDMAc520gを混合し、内部凝固液用の3000×10−6反応器に加えた。減圧と窒素置換を5回繰り返し、内部凝固液を得た。
60℃に保持された2重紡口(内直径100μm、スリットの幅50μm、外直径300μm)に内部凝固液をおよび膜原液を通液させた。それぞれの流速は紡糸時の巻取り速度に応じて適宜調整した。
得られた中空糸膜は空走距離0.6mで、60℃に保持された凝固槽中の外部凝固液(純水)中に導かれ、凝固を完了させたあと、巻取り装置で巻き取った。巻取り速度としては2400m/時間から4800m/時間で巻き取ることができた。
その後、得られた中空糸膜は60℃の純水を用いて浸漬・洗浄を繰り返し、その後70℃の熱風乾燥機で6時間乾燥した。この製造方法により、分画分子量360kDa、内径179μm、膜厚39μmのスルホン系高分子膜を製造することができた。
【0117】
<中空糸膜(PSf−2〜PSf−5)の製造方法>
内部凝固液の組成(純水/DMAc)および膜原液中のポリスルホン濃度を変化させる以外、PSf−1の製造方法と同等の条件で各中空糸膜(PSf−2〜PSf−5)を作製した。その結果、表1に示す。
【0118】
<処理量、透過量、透過率および透過率比の計算方法>
処理量、透過量、透過率および透過率比は、濾過前後の免疫グロブリンの容量および濃度を用いて算出した。標的生体成分および不純生体成分の濃度測定には、高速液体クロマトグラフフィー測定(東ソー株式会社製のカラムG3000SWXLを2本、東ソー株式会社製のSC8020システム、東ソー株式会社製のUV8020検出器)を行い、280nm波長における吸収ピーク面積比から求めた。
まず、膜に透過させた免疫グロブリンの処理量を下記式(5)〜(7)で計算した。
生体成分の処理量(g)
=標的生体成分の処理量(W1)+不純生体成分の処理量(W2) (5)
W1(g)=Va×A1a/A1s×Ka−Vb×A1b/A1s×Kb (6)
W2(g)=Va×A2a/A2s×Ka−Vb×A2b/A2s×Kb (7)
Va:濾過前の生体成分溶液の容量(L)
Vb:濾過後の生体成分溶液の容量(L)
A1s:1g/Lの標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2s:1g/Lの不純生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A1a:濾過前の標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A1b:濾過後の標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2a:濾過前の不純生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2b:濾過後の不純生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
Ka:濾過前の生体成分溶液の希釈倍数
Kb:濾過後の生体成分溶液の希釈倍数
【0119】
次に、標的生体成分の透過量(P1)と不純生体成分の透過量(P2)を下記式(8)および(9)で計算した。
P1(g)=Vf×A1f/A1s×Kf (8)
P1(g)=Vf×A2f/A2s×Kf (9)
Vf:透過液の容量(L)
A1s:1g/Lの標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2s:1g/Lの不純生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A1f:透過液中の標的生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
A2f:透過液中の不純生体成分のHPLCピーク面積(mV・秒)
Kf:透過液の希釈倍数
【0120】
さらに、標的生体成分の透過率および不純生体成分の透過率を下記式(10)および(11)で計算した。
標的生体成分の透過率(%)=P1/W1×100 (10)
不純生体成分の透過率(%)=P2/W2×100 (11)
その結果、透過率比(分画性能)を下記式(12)または(13)で計算した。
透過率比=不純生体成分の透過率/標的生体成分の透過率 (12)
透過率比=標的生体成分の透過率/不純生体成分の透過率 (13)
(12)式は、標的生体成分の分子量(粒径)が小さい場合に使用し、一方、(13)式は、標的生体成分の分子量(粒径)が大きい場合に使用する。
透過率比が低い程、一方の生体成分の透過率が低く、他方の生体成分の透過率が高いことを示し、両生体成分の分画性能が高いことを示している。
【0121】
[実施例1]
中空糸膜(PSf−1)の中空部分の断面積合計が0.01mとなるように本数を取り出し、糸束を作製した。
生体成分混合溶液として、10g/Lの献血グロベニン-I-ニチヤク(日本製薬製)を500mL使用した。生体成分混合溶液中の免疫グロブリン1量体(分子量:150kDa)と2量体(分子量:300kDa)、多量体の濃度をGPCで測定したところ、それぞれ9.1g/Lと0.8g/L、0.1g/Lが含有していた。
【0122】
上記で作製したモジュールと生体成分混合溶液を図2に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。中空糸膜中での線束が10cm/秒、中空糸膜入り側圧力と出側圧力の平均が0.027MPa(転移点の圧力は0.005MPa)となるようチューブポンプを回転させ、ニードルバルブで調整した。クロスフロー濾過が進むと生体成分混合溶液の濃度が高くなるので、濾過中の吸光度が、濾過前の生体成分混合溶液の吸光度になるようにPBS水溶液を添加してコントロールする。25℃で5時間、クロスフロー濾過を行った後、生体成分混合溶液および透過液中の免疫グロブリン1量体と2量体の濃度をGPCで測定した。その結果(表1)、免疫グロブリン1量体(蛋白A)の透過量が167g/m2、免疫グロブリン2量体(蛋白B)透過量が2.0g/m2であった。さらに、免疫グロブリン1量体と2量体の透過率と透過率比(分画性能)を算出した結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、90.2%および12.3%であり、透過率比は0.14であった。
【0123】
[実施例2]
中空糸膜(PSf−2)の中空部分の断面積合計が0.01mとなるように本数を取り出し、糸束を作製した。
生体成分混合溶液として、5g/Lのトランスフェリン(SIGMA製、分子量:80kDa)と5g/Lの献血グロベニン-I-ニチヤク(1量体:4.5g/L、2量体:0.5g/L、)からなる溶液を500mL使用した。
上記で作製したモジュールと生体成分混合溶液を図2に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。クロスフロー濾過が進むと生体成分混合溶液の濃度が高くなるので、濾過中の吸光度が、濾過前の生体成分混合溶液の吸光度になるようにPBS水溶液を添加してコントロールする。25℃で5時間、クロスフロー濾過を行った後、生体成分混合溶液および透過液中のトランスフェリンと免疫グロブリン1量体の濃度をGPCで測定した。その結果(表1)、トランスフェリン(蛋白A)の透過量が50g/m2、免疫グロブリン1量体(蛋白B)透過量が5.5g/m2であった。さらに、免疫グロブリン1量体と2量体の透過率と透過率比(分画性能)を算出した結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、87.3%および10.6%であり、透過率比は0.12であった。
【0124】
[実施例3]
中空糸膜(PSf−3)の中空部分の断面積合計が0.01mとなるように本数を取り出し、糸束を作製した。
生体成分混合溶液として、5g/Lのオボアルブミン(SIGMA製、分子量:45kDa)と5g/Lのトランスフェリンからなる溶液を500mL使用した。
上記で作製したモジュールと生体成分混合溶液を図2に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。クロスフロー濾過が進むと生体成分混合溶液の濃度が高くなるので、濾過中の吸光度が、濾過前の生体成分混合溶液の吸光度になるようにPBS水溶液を添加してコントロールする。25℃で5時間、クロスフロー濾過を行った後、生体成分混合溶液および透過液中のオボアルブミンとトランスフェリンの濃度をGPCで測定した。その結果(表1)、オボアルブミン(蛋白A)の透過量が33g/m2、免疫グロブリン1量体(蛋白B)透過量が4.4g/m2であった。さらに、免疫グロブリン1量体と2量体の透過率と透過率比(分画性能)を算出した結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、82.3%および11.2%であり、透過率比は0.14であった。
【0125】
[実施例4]
中空糸膜(PSf−4)の中空部分の断面積合計が0.01mとなるように本数を取り出し、糸束を作製した。
生体成分混合溶液として、10g/Lのウシアルブミン(SIGMA製)を500mL使用した。生体成分混合溶液中のウシアルブミン1量体(分子量:69kDa)と2量体(分子量:128kDa)をGPCで測定したところ、それぞれ9.5g/Lと0.4g/L、0.1g/Lが含有していた。
上記で作製したモジュールと生体成分混合溶液を図2に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。クロスフロー濾過が進むと生体成分混合溶液の濃度が高くなるので、濾過中の吸光度が、濾過前の生体成分混合溶液の吸光度になるようにPBS水溶液を添加してコントロールする。25℃で5時間、クロスフロー濾過を行った後、生体成分混合溶液および透過液中のウシアルブミン1量体と2量体の濃度をGPCで測定した。その結果(表1)、ウシアルブミン1量体(蛋白A)の透過量が79g/m2、ウシアルブミン2量体(蛋白B)透過量が0.5g/m2であった。さらに、ウシアルブミン1量体と2量体の透過率と透過率比(分画性能)を算出した結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、83.9%および13.6%であり、透過率比は0.16であった。
【0126】
[比較例1]
PSf−1をPSf−5に変更した以外、実施例1と同様の方法で生体成分混合溶液を分離した。その結果(表1)、免疫グロブリン1量体(蛋白A)の透過量が335g/m2、免疫グロブリン2量体(蛋白B)透過量が28.6g/m2であった。さらに、免疫グロブリン1量体と2量体の透過率と透過率比(分画性能)を算出した結果、1量体透過率および2量体透過率が、それぞれ、96.5%および93.8%であり、透過率比は0.97であった。
【0127】
[実施例5]多段濾過
中空糸膜(PSf−2およびPSf−3)の中空部分の断面積合計が0.01mとなるように本数を取り出し、糸束を作製した。
生体成分混合溶液として、2.5g/Lのオボアルブミンおよび5.0g/Lのトランスフェリン、2.5g/Lの献血グロベニン-I-ニチヤク(免疫グロブリン1量体:2.3g/L、免疫グロブリン1量体:0.2g/L、)を500mL使用した。
【0128】
上記で作製したPSf−2モジュールと生体成分混合溶液を図2に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。クロスフロー濾過が進むと生体成分混合溶液の濃度が高くなるので、濾過中の吸光度が、濾過前の生体成分混合溶液の吸光度になるようにPBS水溶液を添加してコントロールする。25℃で5時間、クロスフロー濾過を行った後、オボアルブミンおよびトランスフェリン、免疫グロブリンの1量体の透過量を測定した。その結果(表2)、オボアルブミン(蛋白A)の透過量が61g/m2、トランスフェリン(蛋白B)の透過量が56g/m2、免疫グロブリン1量体(蛋白C)透過量が4g/m2であった。さらに、オボアルブミンおよびトランスフェリン、免疫グロブリン1量体の透過率と透過率比(分画性能)を算出した結果、オボアルブミンおよびトランスフェリン、免疫グロブリン1量体の透過率が、それぞれ、95.3%および86.9%、12.3%であり、免疫グロブリン1量体(蛋白C)/オボアルブミン(蛋白A)および免疫グロブリン1量体(蛋白C)/トランスフェリン(蛋白B)の透過率比は、それぞれ、0.13および0.14であった。
【0129】
次に、濾液をUFによって初期吸光度になるまで濃縮し、その生体成分混合溶液と上記で作製したPSf−3モジュールを図2に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。クロスフロー濾過が進むと生体成分混合溶液の濃度が高くなるので、濾過中の吸光度が、濾過前の生体成分混合溶液の吸光度になるようにPBS水溶液を添加してコントロールする。25℃で5時間、クロスフロー濾過を行った後、オボアルブミンおよびトランスフェリン、免疫グロブリンの1量体の透過量を測定した。その結果(表2)、オボアルブミン(蛋白A)の透過量が47g/m2、トランスフェリン(蛋白B)の透過量が6g/m2、免疫グロブリン1量体(蛋白C)透過量が0.1g/m2であった。さらに、オボアルブミンおよびトランスフェリン、免疫グロブリン1量体の透過率と透過率比(分画性能)を算出した結果、オボアルブミンおよびトランスフェリン、免疫グロブリン1量体の透過率が、それぞれ、88.3%および13.2%、3.1%であり、トランスフェリン(蛋白B)/オボアルブミン(蛋白A)の透過率比は、0.15であった。
以上の結果より、2段階濾過を行うことによって、分子量の異なる3つの蛋白を分離できることが分かった。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明に係る分離方法は、核酸、糖、タンパク質、ワクチン、血液分画製剤などのバイオ医薬の分離・精製分野で好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明のクロスフロー濾過装置を例示する図である。
【図2】本発明のクロスフロー濾過装置を例示する図である。
【図3】本発明のクロスフロー濾過方法を例示する図である。
【符号の説明】
【0134】
1 希釈溶液用タンク
2 ポンプ1
3 ポンプ2
4 生体成分溶液用タンク
5 圧力計1
6 圧力計2
7 調整バルブ
8 限外濾過膜モジュール
9 透過液用タンク
10 流量計
11 濃度コントローラー
12 流量、圧力コントローラー
13 UVフローセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が10〜1000kDaの生体成分を含む混合溶液であって、分子量比が1.5〜2である標的生体成分と不純物生体成分を、標的生体成分の分子量と不純物生体成分の分子量の平均値の0.5〜2倍の分画分子量を有する限外濾過膜を用いてクロスフロー濾過することにより標的生体成分と不純物生体成分を分離する方法。
【請求項2】
生体成分が、ポリペプチド、RNAおよびDNAであることを特徴とする請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
ポリペプチドが、アルブミン、抗体、血液凝固因子、インターロイキン、インターフェロン、細胞吸着因子、細胞成長因子、酵素、リボ蛋白であることを特徴とする請求項2に記載の分離方法。
【請求項4】
抗体が、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項3に記載の分離方法。
【請求項5】
限外濾過膜が、親水性スルホン系高分子膜、親水性芳香族エーテル系高分子膜、親水性フッ素系高分子膜、親水性オレフィン系高分子膜、セルロース系膜、(メタ)アクリル系高分子膜、(メタ)アクリロニトリル系高分子膜、ビニルアルコール系高分子膜であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の分離方法
【請求項6】
生体成分の濃度が1〜100g/Lであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の分離方法
【請求項7】
濾過前の生体成分の濃度を100としたとき、クロスフロー濾過中の生体成分の濃度変化を50〜200に維持しながらクロスフロー濾過を行うことを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の分離方法。
【請求項8】
濾過の流速を転移点での流速を越えるレベルに維持し、さらに、濾過のトランスメンブレン圧を流速の転移点でのトランスメンブレン圧を越えるレベルに維持することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の分離方法。
【請求項9】
2つ以上の不純物生体成分を含む混合溶液を精製する方法であって、請求項1の方法を1回以上行うことによって標的生体成分と不純物生体成分を分離する方法。
【請求項10】
下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置を用いて行う請求項1〜9の何れかに記載の分離方法。
(イ)濾過元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)濾過元液の濃度を調整できる手段
(ハ)濾過元液の線速をコントロールする手段
(ニ)濾過圧力をコントロールする手段
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の除去方法に使用するモジュールおよび下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置。
(イ)濾過元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)濾過元液の濃度を調整できる手段
(ハ)濾過元液の線速をコントロールする手段
(ニ)濾過圧力をコントロールする手段

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−221137(P2009−221137A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66706(P2008−66706)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】