説明

階段昇降式移動車

【課題】階段を安定性良く昇降できる階段昇降式移動車を提供する。
【解決手段】リンク駆動手段が、4節リンク機構式の車輪支持体SLにおける4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢のときに4つのリンクL1〜L4のうちの進行方向前方側に位置する2つのリンクの1つを基準とした状態で、そのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクを上方側に回動させたのち前方側に回動させて直線姿勢となるように操作するリンク回動駆動、並びに、4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢のときに4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所を中心とする状態で、進行方向前方側に位置する2つのリンクと進行方向後方側に位置する2つのリンクとを屈伸操作するリンク屈伸駆動を行うように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用車輪を備えて、階段を昇降可能に構成された階段昇降式移動車に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる階段昇降式移動車は、人を乗せるあるいは荷物を載せた状態で、平地を走行し且つ階段を昇降できるように構成されるものである。
ちなみに、人を乗せる場合としては、人が着座する着座用座席を設けて、身体障害者や高齢者等の移動に用いることが多いものである。
【0003】
このような階段昇降式移動車の第1の従来例(以下、第1従来例と呼称)として、車体横幅方向視にて、正三角形に類する形状の回転リンクが、移動車本体に、正三角形の中心に相当する中央部周りで駆動回転自在に設けられ、その回転リンクの3つの角部の夫々に、駆動回転自在な車輪が走行用車輪として設けられ、回転リンクの回転軸心と同じ軸心周りで駆動回転自在な補助リンクが設けられ、その補助リンクの先端部に、補助車輪が設けられたものがある(例えば、特許文献1(第6〜8頁)参照。)。
【0004】
この第1従来例の階段昇降式移動車は、例えば、平地を走行するときには、3つの車輪のうちの1つと、その車輪の後方に位置する補助車輪とを接地させて走行し、そして、階段に相当する段差を上昇するときには、地面に接地する車輪よりも上方でかつ前方側に位置する車輪が段差の上方に位置する状態となるまで前進し、次に、補助リンクを下方側に揺動させることにより接地している車輪を浮上させて、段差の上方に位置する車輪を段差の上面に接地させるようにし、その後、段差の上面に接地している車輪の推進力にて、補助リンクの下方側への揺動により浮上させた車輪や補助車輪を段差の上面に位置する状態に移動させることになる。
【0005】
また、この第1従来例の階段昇降式移動車は、例えば、平地を走行する状態から段差を下降するときには、3つの車輪のうちの2つ接地させた状態で、且つ、補助リンクを前方側に向けた状態で、段差の手前箇所に走行し、次に、補助リンクを下方側に揺動させながら、段差側に走行することにより、補助車輪及び前方側の車輪を段差の上面に接地させるようにし、そして、補助車輪及び前方側の車輪が段差の上面に接地する状態になると、その状態を維持する形態で、段差の上面を走行させることになる。
ちなみに、この第1従来例の階段昇降式移動車では、段差を上昇するときや段差を下降するときには、荷物を載置する本体の重心を前後に移動調整することになる。
【0006】
また、階段昇降式移動車の第2の従来例(以下、第2従来例と呼称)として、移動車本体の前後に、駆動回転自在な車輪が走行用車輪として設けられ、その車輪の回転軸心よりも上方で且つその回転軸心と平行な軸心周りで駆動回転自在でなアームが、各車輪に対応して設けられ、そのアームが、その先端を走行面側に向く姿勢に回動させたときに、その先端が車輪の下端よりも下方に突出する長さに形成されたものがある(例えば、特許文献2(図5、図7)参照。)。
【0007】
この第2従来例の階段昇降式移動車は、例えば、平地を走行するときには、前後の車輪を接地させた状態で走行し、そして、階段を上昇するときには、車輪が次の段の近くに達した時点で、アームを上向き姿勢から進行方向側に向けて回動させて、その先端を次の段の踏み面に接当させるようにし、アームの先端が次の段の踏み面に接当したのちも、アームを引き続き回動させることにより、車輪を次の段の踏み面の上方側箇所に持ち上げながら、その踏み面に接地する状態に移行させることになる。
【0008】
また、この第2従来例の階段昇降式移動車は、例えば、平地を走行する状態から階段を下降するときには、車輪が次の段の近くに達した時点で、アームを上向き姿勢から進行方向側に向けて回動させて、その先端を車輪の接地している面に接当させるようにし、アームの先端が車輪の接地する面に接当したのちも、アームを引き続き回動させることにより、車輪を次の段の踏み面に向けて下降させながら、その踏み面に接地する状態に移行させることになる。
尚、前後の車輪に夫々に対して装備されるアームの回動は、各別に制御されるものであるが、例えば、階段を上昇する際に、前後の車輪が同時に次の段に近づいたときには、前後の車輪の夫々に対して装備されるアームの回動が、同時に行われることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−290557号公報
【特許文献2】特開平9−2347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
第1従来例の階段昇降式移動車においては、車体の姿勢が前方や後方に不測に傾斜して乱れ易いことに起因して、階段を安定性良く昇降できない虞がある。
つまり、例えば、階段(段差)を上昇するときに、上の段の踏み面に接地する1つの車輪によって車体全体を支持する状態が存在し、同様に、階段(段差)を下降するときにも、上の段の踏み面に接地する1つの車輪によって車体全体を支持する状態が存在することになる。
そして、1つの車輪にて車体全体を支持する状態は、車体の姿勢が前方や後方に不測に傾斜して乱れ易いものであり、このように、車体の姿勢が前方や後方に不測に傾斜して乱れ易いことに起因して、階段を安定性良く昇降できない虞がある。
【0011】
第2従来例の階段昇降式移動車においては、階段の昇降中においては、前後の車輪にて車体を支持する、前後のアームにて車体を支持する、あるいは、前後の車輪のうちの1つと前後のアームのうちの1つとで車体を支持することになるから、前後の2点にて車体を支持するものであるため、階段の昇降中においても、車体の姿勢が前方や後方に不測に傾斜して乱れることを抑制できるものとなる。
【0012】
しかしながら、第2従来例の階段昇降式移動車においては、前後の車輪の夫々に対応して装備されているアームが、自ら回動しながら、その先端を階段の踏み面等に接当して、車体を支持するものであるため、アームの先端が階段の踏み面等に対してスリップを起こし易いものであり、そして、アームの先端がスリップを起こして、車体の姿勢が乱れることに起因して、階段を安定性良く昇降できない虞がある。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、階段を安定性良く昇降できる階段昇降式移動車を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の階段昇降式移動車は、走行用の車輪を備えて、階段を昇降可能に構成されたものであって、その第1特徴構成は、
4つのリンクの長さが等しい4節リンク機構式の車輪支持体における4つのリンク連結箇所の夫々に、前記4つのリンクの隣接するもの同士が相対回転する相対回転軸心方向に沿う軸心周りで回転自在に前記車輪が装備され、
前記車輪を推進駆動する車輪駆動手段、及び、前記車輪支持体を姿勢変更駆動するリンク駆動手段が設けられ、
前記リンク駆動手段が、
前記相対回転軸心方向に沿う車体横幅方向視において、前記4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢のときに前記4つのリンクのうちの進行方向前方側に位置する2つのリンクの1つを基準とした状態で、そのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクを上方側に回動させたのち前方側に回動させて前記直線姿勢となるように操作するリンク回動駆動、並びに、
前記車体横幅方向視において、前記4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢のときに前記4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所を中心とする状態で、進行方向前方側に位置する2つのリンクと進行方向後方側に位置する2つのリンクとを屈伸操作するリンク屈伸駆動を行うように構成されている点を特徴とする。
【0015】
すなわち、平地を走行するときには、4節リンク機構式の車輪支持体における4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢となるようにする、または、4節リンク機構式の車輪支持体における4つのリンクのうちの1つを走行路面側に位置させ、且つ、そのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクを上方側に位置させた姿勢となるようにした状態において、車輪を推進駆動することになる。
【0016】
次に、平地を走行する状態から階段を下降する場合について、図7を参照しながら説明する。尚、図7は、着座用座席としての車椅子を備えた階段昇降式移動車を例示するものであり、以下の説明においては、車椅子の前向きとなる方向が進行方向であるとして、階段を下降させる場合を説明する。
すなわち、平地を走行する状態から階段を下降するときには、階段の手前箇所に停止した状態で、先ず、上記の直線姿勢において、リンク屈伸駆動により、進行方向後方側に位置する2つのリンクに対して、進行方向前方側に位置する2つのリンクを下方側に回動させて、車輪支持体における4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所に装備した車輪、及び、進行方向後方側のリンク連結箇所に装備した車輪が、平地に対応する走行面に接地し、且つ、進行方向前方側のリンク連結箇所に装備した車輪が、階段の一段目の踏み面に接地する状態にする(図7(c)参照)。
【0017】
次に、リンク屈伸駆動により、進行方向前方側に位置する2つのリンクに対して、進行方向後方側に位置する2つのリンクを上方側に回動させて、直線姿勢に戻すようにする(図7(d)参照)。
この状態においては、4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所に装備した車輪、及び、進行方向前方側のリンク連結箇所に装備した車輪が接地する状態となり、進行方向後方側のリンク連結箇所に装備した車輪が、浮上する状態となる。
【0018】
次に、リンク回動駆動により、進行方向前方側に位置する2つのリンクのうちの1つを基準にして、進行方向後方側に位置する2つのリンクのうちの、基準とするリンクに対して平行姿勢を維持するリンクを上方側に回動させたのち前方側に回動させて直線姿勢となるように操作する(図7(e)(f)参照)。
この状態においては、車輪支持体における4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所に装備した車輪、進行方向後方側のリンク連結箇所に装備した車輪、及び、進行方向前方側のリンク連結箇所に装備した車輪が、接地する状態となる。
【0019】
以下、このようなリンク回動駆動を繰り返すことにより、階段を一段ずつ順次下降できることになる。
ちなみに、階段の最後の段から平地に下降するときのリンク回動駆動においては、直線姿勢よりも手前側の状態となるときに、そのリンク回動駆動を停止することになる(図7(l)参照)。
【0020】
次に、平地を走行する状態から階段を上昇する場合について、図7を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、上述した階段を下降する場合とは逆に、車椅子の後向きとなる方向が進行方向であるとして、階段を上昇させる場合を説明する。
すなわち、平地を走行する状態から階段を上昇する際には、先ず、階段を下降する際に、階段の最後の段から平地に下降するときにリンク回動駆動を停止した状態に相当する状態(図7(m)参照)にて、階段に向けて進行して、進行方向前方側のリンク連結箇所に装備した車輪が、階段の最初の段の踏み面の上方に位置する状態で停止し、次に、その車輪を最初の段の踏み面に接地させるようにリンク回動駆動を行う(図7(l)参照)。
【0021】
次に、リンク回動駆動により、進行方向前方側に位置する2つのリンクのうちの1つを基準にして、進行方向後方側に位置する2つのリンクのうちの、基準とするリンクに対して平行姿勢を維持するリンクを上方側に回動させたのち前方側に回動させて直線姿勢となるように操作する(図7(k)(j)参照)。
【0022】
この後は、リンク回動駆動を繰り返し行うことになり、そして、階段の最後の段から平地に移動するときには、階段を下降するときとは逆の手順を行うことになる。
つまり、直線姿勢となる状態(図7(d)参照)において、リンク屈伸駆動により、進行方向後方側に位置する2つのリンクに対して、進行方向前方側に位置する2つのリンクを下方側に回動させ(図7(c)参照)、次に、リンク屈伸駆動により、進行方向前方側に位置する2つのリンクに対して、進行方向後方側に位置する2つのリンクを上方側に回動させて、直線姿勢に戻すようにする(図7(b)参照)。
【0023】
以上の通り、階段を昇降する際には、4つの車輪のうちの2つの車輪が前後に離れた状態で、走行面や階段の踏み面に接地する状態を維持できることになるため、階段を昇降する際にも、車体の姿勢が前方や後方に不測に傾斜して乱れることを抑制できる広い支持多角形を終始維持できるものとなる。
ちなみに、実際に階段を昇降させる際には、走行面や階段の踏み面に接地する状態を維持する2つの車輪に車体の重量が作用するように、車体の重心を前後に調整するための制御を行うことになる。
【0024】
しかも、リンク回動駆動を行うときには、階段の踏み面等に接地している2つの車輪を接地状態に維持させた状態で、他の車輪を上昇させるものであり、接地し続けている車輪は、リンク回動駆動のときには静止状態に維持されるため、リンク回動駆動のときに、接地し続けている車輪がスリップを起こすことを抑制できるため、リンク回動駆動を行うときに、スリップにより車体の姿勢が乱れることを抑制できる。
【0025】
また、リンク屈伸駆動を行うときには、階段の踏み面等に接地している3つの車輪を接地状態に維持させ続けた状態で、他の車輪を昇降させるものであり、接地し続けている車輪が、リンク屈伸駆動のためにスリップを起こすことがないため、リンク屈伸駆動を行うときに、車体の姿勢が乱れることがない。
【0026】
したがって、階段の昇降を行うときに、車体の姿勢が前方や後方に不測に傾斜して乱れることを抑制できる広い支持多角形を終始維持でき、しかも、リンク回動駆動やリンク屈伸駆動を行うときに、スリップにより車体の姿勢が乱れることを抑制できるため、階段を安定性良く昇降させることができるのである。
【0027】
要するに、本発明の第1特徴構成によれば、階段を安定性良く昇降できる階段昇降式移動車を提供できる。
【0028】
本発明の第2特徴構成は、上記した第1特徴構成に加えて、
前記車輪支持体が、左右一対備えられ、
前記車輪駆動手段、及び、前記リンク駆動手段が、左右の前記車輪支持体の夫々に対して各別に備えられている点を特徴とする。
【0029】
すなわち、左右一対の車輪支持体にて車体を支持するようにし、そして、左右の車輪支持体の夫々について、リンク回動駆動及びリンク屈伸駆動を行いながら、階段を昇降させることができる。
【0030】
したがって、左右の車輪支持体にて車体の左右の方向での姿勢を安定性良く支持しながら、左右の車輪支持体夫々のリンク回動駆動及びリンク屈伸駆動により、階段を的確に昇降させることができるものとなる。
【0031】
要するに、本発明の第2特徴構成によれば、上記した第1特徴構成による作用効果に加えて、車体の左右の方向での姿勢を安定性良く支持しやすい広い支持多角形を終始維持しながら、階段を的確に昇降させることができる階段昇降式移動車を提供できる。
【0032】
本発明の第3特徴構成は、上記した第1特徴構成又は第2特徴構成に加えて、
前記車輪支持体における4つのリンクのうちで、前記リンク回動駆動を行うときに基準となるリンク又はそのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクに対して、着座用座席を前後方向での位置及び前後方向での傾きを変更自在に支持する支持手段、及び、その支持手段にて支持された前記着座用座席の前後方向での位置及び前後方向での傾きを調整操作する座席用駆動手段が設けられ、
階段昇降指令が指令されると、前記リンク駆動手段を予め設定したリンク駆動用の設定パターンにて作動させ、且つ、その作動に同調させて、前記座席用駆動手段を座席操作用の設定パターンにて作動させる駆動制御手段が設けられている点を特徴とする。
【0033】
すなわち、車輪支持体における4つのリンクのうちで、リンク回動駆動を行うときに基準となるリンク又はそのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクは、リンク回動駆動を行うとき、及び、リンク屈伸駆動を行うときにおいて、その長手方向を車体前後方向に向けた状態に維持されるものである。そして、そのようなリンクに対して、着座用座席を前後方向での位置及び前後方向での傾きを変更自在に支持するものであるから、リンク回動駆動を行うときに、着座用座席の重量を含む車体全体の重量を、直線姿勢の4つのリンクのうちの進行方向前方側の2つのリンクのうちの基準となるリンクの前後に位置して接地状態となる車輪にて支持すべく、着座用座席の前後方向での位置を調整することや、リンク屈伸駆動を行うときに、着座用座席の重量を接地状態となる車輪にて支持すべく、着座用座席の前後方向での位置を調整することができる。
また、着座用座席の前後方向での傾き調節により、着座用座席を水平姿勢に維持することができる。
【0034】
つまり、身体障害者や高齢者等が乗ることができるように着座用座席を備えさせるにあたり、リンク回動駆動及びリンク屈伸駆動によっても、長手方向を車体前後方向に向けた状態に維持されるリンクに対して、着座用座席を前後方向での位置及び前後方向での傾きを変更自在に支持しておき、リンク回動駆動やリンク屈伸駆動を行うときに、着座用座席の前後方向で位置や、着座用座席の前後方向での傾きを調整することにより、着座用座席の重量を含む車体全体の重量を接地状態の車輪にて的確に支持しながら、階段を的確に昇降させることができ、かつ、着座用座席を水平姿勢に維持できるものとなる。
【0035】
そして、階段昇降指令が指令されると、駆動制御手段が、リンク駆動手段を予め設定したリンク駆動用の設定パターンにて作動させ、且つ、その作動に同調させて、座席用駆動手段を座席操作用の設定パターンにて作動させるものであるから、リンク駆動用の設定パターンとして、階段を昇降させるためにリンク回動駆動やリンク屈伸駆動を順次行うパターンを設定しておき、そして、座席操作用の設定パターンとして、リンク回動駆動やリンク屈伸駆動を行うときに、着座用座席の重量を接地状態となる車輪にて支持させ、かつ、着座用座席を水平姿勢に維持させるパターンを設定しておくことにより、階段昇降指令を指令することにより、自動的に階段を昇降させることができる。
【0036】
要するに、本発明の第3特徴構成によれば、上記した第1又は第2特徴構成による作用効果に加えて、着座用座席の重量を含む車体全体の重量を接地状態の車輪にて的確に支持しながら、階段を的確に昇降させることができ,かつ,階段昇降指令を指令するという簡単な操作を行うことにより、身体障害者や高齢者等を着座用座席に乗せた状態で、階段の昇降を自動的に行うことができる階段昇降式移動車を提供できる。
【0037】
本発明の第4特徴構成は、上記した第3特徴構成に加えて、
前記車輪支持体における4つのリンクのうちで、前記リンク回動駆動を行うときに基準となるリンク又はそのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクに、前後に揺動自在に下端部が枢支される脚が、前記支持手段として設けられて、その脚の上端部に、前記着座用座席が前後の傾きを変更自在に枢支されている点を特徴とする。
【0038】
すなわち、車輪支持体における4つのリンクのうちで、リンク回動駆動を行うときに基準となるリンク又はそのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクに対して、脚を前後に揺動させることによって、着座用座席の前後方向での位置を調整することができ、また、脚に対して、着座用座席を揺動させることによって、着座用座席の前後の傾きを調整することができる。
【0039】
つまり、脚を用いた簡素な構成にて、着座用座席の前後方向での位置を変更し、且つ、着座用座席の前後の傾きを変更することができるようにして、着座用座席を支持する支持手段の簡素化を図ることができる。
【0040】
要するに、本発明の第4特徴構成によれば、上記した第3特徴構成の作用効果に加えて、着座用座席を支持する支持手段の簡素化を図ることができる階段昇降式移動車を提供できる。
【0041】
本発明の第5特徴構成は、上記した第1~第4特徴構成のいずれかに加えて、
前記4つのリンク連結箇所の夫々に装備される4つの前記車輪を一体回転するように連動連結する車輪連動連結機構が設けられ、
電動モータにて駆動回転されるリングギヤを一体回転状態で装備した差動用枠体に、その差動用枠体の回転軸心周りで回転自在な左右一対の出力ギヤを装備し、かつ、それら左右一対の出力ギヤに咬合するピニオンを前記差動用枠体に回転自在に支持する状態に構成された一対の差動機構が設けられ、
これら一対の差動機構のうちの一方が、前記左右一対の出力ギヤの一方を前記4つの車輪のうちの1つに連動連結させ、かつ、他方の出力ギヤを前記4つのリンクのうちの1つに対してそれを揺動操作するように連動連結させる状態で、前記4つのリンクの1つに配設され、かつ、
他方の差動機構が、前記左右一対の出力ギヤの一方を前記4つの車輪のうちの前記一方の差動機構に連結される車輪とは異なる1つの車輪に連動連結させ、かつ、他方の出力ギヤを前記4つのリンクのうちの前記一方の差動機構にて揺動されるリンクとは異なる1つに対してそれを揺動させるように連動連結させた状態で、前記4つのリンクの1つに配設されて、
前記一対の電動モータを同じ方向に回転させる同方向回転状態と逆方向に回転させる逆方向回転状態とのうちの一方において、前記4つの車輪を推進駆動し、かつ、前記同方向回転状態と前記逆方向回転状態とのうちの他方において、前記リンク回動駆動を行うように構成され、
前記4つの車輪の回転を阻止する制動手段が設けられ、
前記一対の差動機構のうちのいずれかが、前記リンク屈伸駆動を行うためにリンクを揺動操作するように装備され、
前記制動手段を制動状態にした状態で、前記一対の差動機構のうちの前記リンク屈伸駆動を行う作動機構を駆動する前記電動モータを作動させかつ他方の差動機構に対する前記電動モータを自由状態にすることにより、前記リンク屈伸駆動を行うように構成され、
前記車輪連動連結機構、前記一対の差動機構、前記一対の電動モータ、及び、前記制動手段により、前記車輪駆動手段及び前記リンク駆動手段が構成されている点を特徴とする。
【0042】
すなわち、一対の電動モータを同じ方向に回転させる同方向回転状態と逆方向に回転させる逆方向回転状態とのうちの一方において、一対の差動機構が、車輪連動連結機構にて連動連結されている4つの車輪を逆方向に回転する出力を出力する状態になり、且つ、4節リンク機構のリンクを4節リンク機構の姿勢変形が可能となる方向に向けて操作する状態になると、リンク回動駆動を行うことができる。
また、一対の電動モータを同じ方向に回転させる同方向回転状態と逆方向に回転させる逆方向回転状態とのうちの他方において、一対の差動機構が、車輪連動連結機構にて連動連結されている4つの車輪を同じ方向に回転する出力を出力する状態になり、且つ、4節リンク機構のリンクを4節リンク機構の姿勢変形が不能となる方向に向けて操作する状態になると、4つの車輪の推進駆動を行うことができる。
【0043】
つまり、一対の電動モータを同じ方向に回転させる同方向回転状態と逆方向に回転させる逆方向回転状態とのうちの一方において、4つの車輪を推進駆動し、かつ、前記同方向回転状態と前記逆方向回転状態とのうちの他方において、リンク回動駆動を行うことができるものとなる。
【0044】
また、車輪回転保持ブレーキを制動状態にした状態で、一対の差動機構の一方差動機構を操作する電動モータを作動させかつ他方の差動機構に対する電動モータを自由状態にすることにより、リンク回動駆動、及び、4つの車輪の推進駆動を行うための電動モータを利用して、リンク屈伸駆動を行なえる。
【0045】
したがって、リンク回動駆動、リンク屈伸駆動、及び、車輪の推進駆動を、2つの電動モータを装備して行うことができるため、駆動構成の簡素化、低コスト化及びメンテナンスの容易化を図ることができる。
すなわち、リンク回動駆動、リンク屈伸駆動、及び、車輪の推進駆動の夫々を行わせるにあたり、夫々を行う電動モータを各別に備えさせることが考えられるが、この場合、3つの電動モータを装備するため、駆動構成が複雑になりコストもかかるものである。
また、リンク回動駆動や車輪の推進駆動の両方において,二つのモータの出力を合計して用いることができるため,一つ一つのモータは低容量のものでも大きな出力をもってリンク回動駆動や車輪の推進駆動を行うことができる.すなわち使用するモータが小型のもので済み、更なる低コスト化を図ることができる.
また、電動モータは、機械構造に較べて耐久性が低いために、使用に伴って交換する等のメンテナンスを要するものとなるため、電動モータの数が多いほど、メンテナンス作業が煩雑となる。
【0046】
要するに、本発明の第5特徴構成によれば、上記した第1〜第4特徴構成のいずれかによる作用効果に加えて、リンク回動駆動、リンク屈伸駆動、及び、車輪の推進駆動のための駆動構成の簡素化、低コスト化及びメンテナンスの容易化を図ることができる階段昇降式移動車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】階段昇降式移動車の斜視図
【図2】左側の車輪支持体の姿勢変更状態を示す斜視図
【図3】左側の車輪支持体の構成を示す概略図
【図4】制御構成を示すブロック図
【図5】制御パターンを示す表
【図6】制御パターンを示す表
【図7】階段昇降状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0048】
〔実施形態〕
以下、図面に基づいて、本発明の階段昇降式移動車の実施形態を説明する。
図1に示すように、人体が着座状態で搭乗する着座用座席としての車椅子1が、左右の車輪支持体SL、SRにて支持されて、階段昇降式移動車が構成されている。
ちなみに、本実施形態においては、着座用座席を構成する車椅子1として、市販のものを用いる場合を例示しているが、市販の車椅子1が備える構成のうちの不要な部分を省略した専用の着座用座席を用いる形態で実施してもよい。
【0049】
以下、各部の構成について説明するが、以下の説明においては、車椅子1が前向きとなる方向を、車体の前方向であるとして説明する。
また、左右の車輪支持体SL、SRは、左右対称ではあるものの、同様に構成されるため、それらを構成する部材については、同じ符号を付して説明する。
【0050】
図1及び図2に示すように、左右の車輪支持体SL、SRは、4つのリンクL1〜L4の長さが等しい4節リンク機構式に構成されるものであって、4つのリンク連結箇所の夫々に、4つのリンクL1〜L4の隣接するもの同士が相対回転する相対回転軸心方向に沿う軸心周りで回転自在に第1車輪〜第4車輪W1〜W4が装備されている。
ちなみに、4つのリンクL1〜L4は、その長手方向を車体前後方向に向けるものであるから、4つのリンクL1〜L4の隣接するもの同士が相対回転する相対回転軸心は、車体横幅方向に沿う方向であり、以下の説明においては、必要に応じて、相対回転軸心方向を、車体横幅方向と記載する。
【0051】
4つのリンクL1〜L4のうちの、第1リンクL1には、車椅子1を支持するための枠体2が取り付けられている。つまり、左右の車輪支持体SL、SRの夫々における第1リンクL1同士が、枠体2にて連結されている。
そして、この第1リンクL1に対して平行姿勢を維持する第3リンクL3が、第1リンクL1よりも外方側に配置され、第1リンクL1の前端部と第3リンクL3の前端部とが、第2リンクL2にて接続され、かつ、第1リンクL1の後端部と第3リンクL3の後端部とが、第4リンクL4にて接続されている。
【0052】
第1車輪〜第4車輪W1〜W4のうちの、第1リンクL1と第4リンクL4とのリンク連結箇所に装備される第1車輪W1及び第2リンクL2と第3リンクL3とのリンク連結箇所に装備される第3車輪W3が、全方向車輪として構成されている。
尚、全方向車輪とは、車輪における接地用の外周部が、周方向に沿って並ぶ複数の接地体にて構成され、そして、その接地体が、車輪外周の接線方向に相当する軸心周りで回転可能に車輪本体に支持されるものである。
したがって、第1車輪W1及び第3車輪W3は、その回転軸心方向に移動するときに、その接地箇所に位置する接地体が車輪外周の接線方向に相当する軸心周りで回転することになるため、回転軸心方向への移動を円滑に行えることになる。
【0053】
また、第1車輪〜第4車輪W1〜W4のうちの、第1リンクL1と第2リンクL2とのリンク連結箇所に装備される第2車輪W2及び第3リンクL3と第4リンクL4とのリンク連結箇所に装備される第4車輪W4が、ゴムタイヤ式の車輪として構成されている。
したがって、第2車輪W2又は第4車輪W4が走行面に接地することにより、推進力を的確に得ることができ、しかも、第1車輪W1及び第3車輪W3が全方向車輪であるため、旋回を良好に行えるようになっている。
【0054】
すなわち、4つのリンクL1〜L4のうち左右の車輪支持体SL、SRのそれぞれにおいて同じ名称のリンクの両端の車輪が接地している場合には,必ず全方向車輪2つとゴムタイヤ式車輪2つが接地していることになる。また、後述のように左右の車輪支持体SL、SRのそれぞれにおいて全方向車輪とゴムタイヤ式車輪は連動して回転することになる。従って、左右の車輪の回転速度に差があった場合には,全方向車輪は回転軸心方向(側方)への移動が円滑に行われるため,2つのゴムタイヤ式車輪の接地点を結ぶ直線上の点を中心に旋回動作を円滑に行うことができる。
この旋回動作は全方向車輪2つとゴムタイヤ式車輪2つが接地していれば円滑に行うことができるため、これらを4節リンクの向かい合う頂点に配置することにより、階段昇降中でも4輪が接地している瞬間であれば旋回が可能である。すなわち、昇降中の方向転換が可能である。このため螺旋階段等まがっている階段でも運用が可能となる。
【0055】
図3に示すように、第1車輪〜第4車輪W1〜W4を推進駆動する車輪駆動手段G、及び、車輪支持体SLを姿勢変更駆動するリンク駆動手段Kが設けられている。
尚、図3は、左側の車輪支持体SLを例示し、その左側の車輪支持体SLにおける車輪駆動手段G及びリンク駆動手段Kを例示するものであるが、右側の車輪支持体SRについても、左側の車輪支持体SLに対して装備する車輪駆動手段G及びリンク駆動手段Kが装備されることになる。
【0056】
リンク駆動手段Kは、リンク回動駆動及びリンク屈伸駆動を行うように構成されている。
リンク駆動手段Kによるリンク回動駆動は、図2(a)(b)に示すように、4つのリンクL1〜L4の隣接するもの同士が相対回転する相対回転軸心方向に沿う車体横幅方向視において、4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢のときに4つのリンクL1〜L4のうちの進行方向前方側に位置する2つのリンクの1つを基準とした状態で、そのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクを上方側に回動させたのち前方側に回動させて直線姿勢となるように操作するものである。
【0057】
すなわち、図2は、左側の車輪支持体SLを例示するものであり、車体の前方向に進行する、つまり、前進すると仮定したときには、図2(b)においては、4つのリンクL1〜L4のうちの進行方向前方側に位置する2つのリンクが、第1リンクL1と第2リンクL2であり、第1リンクL1を基準とした状態で、図2(a)に示すように、そのリンクL1に対して平行姿勢を維持する第3リンクL3を上方側に回動させる形態で、リンク回動駆動が行われることになる。
そして、第1リンクL1を基準とした状態で、第3リンクL3を上方側に回動させたのち前方側に回動させた直線姿勢にしたときには、図7(h)に示すように、4つのリンクL1〜L4のうちの進行方向前方側に位置する2つのリンクが、第2リンクL2と第3リンクL3であり、第3リンクL3を基準とした状態で、図7(i)に示すように、そのリンクL3に対して平行姿勢を維持する第1リンクL1を上方側に回動させる形態で、リンク回動駆動が行われることになる。
【0058】
ちなみに、本実施形態においては、車体の後方向に進行する、つまり、後進することができるものであり、後進すると仮定したときには、図2(b)においては、4つのリンクL1〜L4のうちの進行方向前方側に位置する2つのリンクが、第3リンクL3と第4リンクL4であり、第3リンクL3を基準とした状態で、図7(e)に示すように、そのリンクL3に対して平行姿勢を維持する第1リンクL1を上方側に回動させる形態で、リンク回動駆動が行われることになる。
そして、第3リンクL3を基準とした状態で、第1リンクL1を上方側に回動させたのち前方側に回動させた直線姿勢にしたときには、図7(h)に示すように、4つのリンクL1〜L4のうちの進行方向前方側に位置する2つのリンクが、第1リンクL1と第4リンクL4であり、第1リンクL1を基準とした状態で、図7(g)に示すように、そのリンクL1に対して平行姿勢を維持する第3リンクL3を上方側に回動させる形態で、リンク回動駆動が行われることになる。
【0059】
つまり、本実施形態においては、第1リンクL1及び第3リンクL3が、リンク回動駆動を行うときに、基準状態になるリンク及びそのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクに相当することになり、そして、本実施形態においては、このような第1リンクL1及び第3リンクL3のうちの第1リンクL1に対して、上述の如く、車椅子1を支持するための枠体2が取り付けられた場合を例示するものである。
【0060】
また、リンク駆動手段Kによるリンク屈伸駆動は、図2(b)(c)に示すように、車体横幅方向視において、4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢のときに4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所を中心とする状態で、進行方向前方側に位置する2つのリンクと進行方向後方側に位置する2つのリンクとを屈伸操作するものである。
【0061】
すなわち、隣接して並ぶ第1リンクL1及び第4リンクL4の組と、隣接して並ぶ第3リンクL2及び第3リンクL3の組とを屈伸操作することや、隣接して並ぶ第1リンクL1及び第2リンクL2の組と、隣接して並ぶ第3リンクL3及び第4リンクL4の組とを屈伸操作することが行われることになる。
【0062】
そして、本実施形態においては、図3に示すように、車輪駆動手段G、及び、駆動手段Kが、後述の如く、4つの車輪W1〜W4を一体回転するように連動連結する車輪連動連結機構R、一対の差動機構D1、D2、一対の電動モータM1、M2、及び、4つの車輪W1〜W4の回転を阻止する制動手段としての車輪回転保持ブレーキBにて構成されている。
ちなみに、図3においては、一対の電動モータM1、M2が、車輪駆動手段G及び駆動手段Kを代表するものであるとして、その電動モータM1、M2に対応して、車輪駆動手段G及び駆動手段Kの符号を記載してある。
【0063】
車輪連動連結機構Rは、第1リンクL1に沿って配設されて、第1車輪W1の車軸j1と第2車輪W2の車軸j2とを連動連結する第1チェーン式連動機構r1、第2リンクL2に沿って配設されて、第2車輪W2の車軸j2と第3車輪W3の車軸j3とを連動連結する第2チェーン式連動機構r2、及び、第3リンクL3に沿って配設されて、第3車輪W3の車軸j3と第4車輪W4の車軸j4とを連動連結する第3チェーン式連動機構r3を備えて、これら第1〜第3のチェーン式連動機構r1〜r3によって、4つの車輪W1〜W4を一体回転するように連動連結するように構成されている。
【0064】
一対の差動機構D1、D2は、上述した一対の電動モータM1、M2のいずれかにて駆動回転されるリングギヤ3を一体回転状態で装備した差動用枠体4に、その差動用枠体4の回転軸心周りで回転自在な左右一対の出力ギヤ5、6を装備し、かつ、それら左右一対の出力ギヤ5、6に咬合するピニオン7を差動用枠体4に回転自在に支持する状態に構成されている。
【0065】
これら一対の差動機構D1、D2は、一方が第1リンクL1に配設され、他方が第3リンクL3に配設されている。
そして、第1リンクL1に配設される差動機構D1(以下、第1差動機構と呼称)における左右一対の出力ギヤ5、6の一方が、第1車輪W1に連動連結され、かつ、他方の出力ギヤが、第4リンクL4に対してそれを揺動操作するように連動連結されている。
また、第3リンクL3に配設される差動機構D2(以下、第2差動機構と呼称)における左右一対の出力ギヤ5、6の一方が、第4車輪W4に連動連結され、かつ、他方の出力ギヤが、第4リンクL4に対してそれを揺動操作するように連動連結されている。
【0066】
また、一対の電動モータM1、M2のうちの一方のモータM1(以下、内側モータと呼称)が、第1差動機構D1の前方側に位置する状態で、第1リンクL1に装備され、他方のモータM2(以下、外側モータと呼称)が、第2差動機構D2の前方側に位置する状態で、第3リンクL3に装備されている。
そして、内外のモータM1、M2を同じ方向に回転させる同方向回転状態と逆方向に回転させる逆方向回転状態とのうちの一方において、4つの車輪W1〜W4を推進駆動し、かつ、同方向回転状態と逆方向回転状態とのうちの他方において、リンク回動駆動を行うように構成されている。
【0067】
つまり、第1差動機構D1と第2差動機構D2とが、車輪連動連結機構Rにて連動連結されている4つの車輪W1〜W4を逆方向に回転する出力を出力する状態になると、第1差動機構D1と第2差動機構D2とが、第4リンクL4を4節リンク機構の姿勢変形が可能となる方向に向けて操作する状態になって、リンク回動駆動が行われ、また、第1差動機構D1と第2差動機構D2とが、車輪連動連結機構Rにて連動連結されている4つの車輪W1〜W4を同じ方向に回転する出力を出力する状態になると、第1差動機構D1と第2差動機構D2とが、第4リンクL4を4節リンク機構の姿勢変形が不能となる方向に向けて第4リンクL4を操作する状態になって、4つの車輪W1〜W4の推進駆動が行われるように構成されている。
【0068】
ところで、本実施形態においては、第1差動機構D1が、内側モータM1の内側にリングギヤ3を装備する形態であるのに対して、第2差動機構D2が、外側モータM2の外側にリングギヤ3を装備する形態であり、内側モータM1と外側モータM2とを、同じ方向に回転させた場合には、第1差動機構D1の差動用枠4と第2差動機構D2の差動用枠4とが逆方向に回転するようになっている。
【0069】
また、第1差動機構D1の左右の出力ギヤ5、6のうちの、車体横幅方向内方側の出力ギヤ5が、減速機8を介して、第1車輪W1の車軸j1に連結され、出力ギヤ5、6のうちの、車体横幅方向外方側のギヤ6が、減速機9を介して、第4リンクL4の一端部に連結されている。
【0070】
さらに、第2差動機構D2の左右の出力ギヤ5、6のうちの、車体横幅方向外方側の出力ギヤ5が、ベルト伝動機構10及び減速機11を介して、第4車輪W4の車軸j4に連結され、出力ギヤ5、6のうちの、車体横幅方向内方側のギヤ6が、逆転連動用の平歯車伝動機構12及び減速機13を介して、第4リンクL4の一端部に連結されている。
【0071】
したがって、本実施形態の場合には、階段昇降式移動車の正面視において、内外のモータM1、M2を左回転させるときを、内外のモータM1、M2の正回転であるとした場合において、図5の表に示すように、内外のモータM1、M2の回転方向を制御することにより、前進、後進、その場右旋回、その場左旋回を行うことができ、また、リンク回動駆動を行えるように構成されている。
つまり、内外のモータM1、M2を逆方向に回転させる逆方向回転状態において、4つの車輪W1〜W4を推進駆動し、内外のモータM1、M2を同じ方向に回転させる同方向回転状態において、リンク回動駆動を行うように構成されている。
【0072】
さらに、逆方向回転状態において、内外のモータM1、M2の回転方向を正逆に切り換えることにより、前進と後進を選択でき、また、同方向回転状態において、内外のモータM1、M2の回転方向を正逆に切り換えることにより、車体後方側のリンクを車体前方側に移動させる形態のリンク回動駆動と、車体前方側のリンクを車体後方側に移動させる形態のリンク回動駆動とを選択できるように構成されている。
【0073】
4つの車輪W1〜W4の回転を阻止する車輪回転保持ブレーキBは、本実施形態においては、第2差動機構D2の出力ギヤ5にて駆動されるベルト伝動機構10の入力軸10Aに対して制動作用する状態で、第3リンクL3に配備されている。
そして、車輪回転保持ブレーキBは、制動解除側に復帰付勢されて、通電により制動状態となる電磁ブレーキを用いて構成されている。
【0074】
そして、本実施形態においては、一対の差動機構D1、D2のうちの第1差動機構D1が、リンク屈伸駆動を行うために第4リンクL4を揺動操作するように構成されている。
つまり、車輪回転保持ブレーキBを制動状態にした状態で、第1差動機構D1を操作する内側モータM1を作動させかつ第2差動機構D2に対する外側モータM2を自由状態にすることにより、リンク屈伸駆動を行うように構成されている。
【0075】
尚、第1〜第4リンクL1〜L4の姿勢変形作動を阻止するように制動する関節回転保持ブレーキE(図4参照)が設けられて、平地での前進、後進、その場右旋回、その場左旋回を行うなど関節の動作が不要なときに、関節回転保持ブレーキEを作動させることにより、内外のモータM1、M2の出力トルクを低減できるように構成されている。
ちなみに、この関節回転保持ブレーキEは、制動作用状態側に復帰付勢された電磁ブレーキを用いて構成され、リンク回動駆動及びリンク屈伸駆動を行うときには、制動解除状態に切り換えるために通電されることになる。
【0076】
車椅子1は、第1リンクL1に連結された枠体2に対して、棒状の脚14を用いて支持されている。
すなわち、脚14の下端部が枠体2に対して前後に揺動自在に枢支され、脚14の上端部に、車椅子1が、前後の傾きを変更自在に枢支されている。
ちなみに、本実施形態においては、脚14の下端部の枠体2に対する枢支部を、足関節と呼称し、そして、脚14の上部に対する車椅子1の枢支部を、股関節と呼称する。
そして、図3に示すように、枠体2に対して脚14を前後に揺動させる電動式の足関節モータMA、及び、脚14に対して車椅子1を前後に傾斜させる電動式の股関節モータMKが装備されて、車椅子1の前後方向での位置および前後の傾きを調節できるように構成されている。
【0077】
つまり、階段を昇降させる際において、車椅子1の重心を車体前後方向の適切な位置に位置させ、且つ、車椅子1を水平な姿勢に維持すべく、車椅子1の前後方向での位置および前後の傾きを調節できるように構成されている。
ちなみに、本実施形態においては、左右の車輪支持体SL、SRにおける4つのリンクL1〜L4のうちで、リンク回動駆動を行うときに基準となるリンク又はそのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクとして機能する第1リンクL1に対して、車椅子1を前後方向での位置、及び、前後方向での傾きを変更自在に支持する支持手段が、脚14にて構成され、そして、その脚14に支持された車椅子1の前後方向での位置及び前後方向での傾きを調整操作する座席用駆動手段が、足関節モータMA、及び、股関節モータMKにて構成されることになる。
【0078】
尚、図4に示すように、股関節を保持する股関節保持ブレーキFK、及び、足関節を保持する足関節保持ブレーキFAが設けられて、股関節や足関節を作動させないときには、これらブレーキFK、FAを作動させることによって、車椅子1を的確に保持できるように構成されている。
ちなみに、股関節保持ブレーキFK及び足関節保持ブレーキFAは、制動作用状態側に復帰付勢された電磁ブレーキを用いて構成され、股関節及び足関節を作動させるときには、制動解除状態に切り換えるために通電されることになる。
【0079】
図4に示すように、駆動制御手段として、コンピュータを主要部として備える制御部Hが設けられ、この制御部Hが、左右の車輪支持体SL、SRにおける内側モータM1、外側モータM2、車輪回転保持ブレーキB、及び、関節回転保持ブレーキE、並びに、足関節モータMA、股関節モータMK、股関節保持ブレーキFK、及び、足関節保持ブレーキFAからなるアクチュエータ類の作動を制御するように構成されている。
【0080】
すなわち、制御部Hに対して指令する手動操作式の指令操作部Qが設けられている。
この指令操作部Qは、前進指令、後進指令、その場右旋回指令、及び、その場左旋回指令、並びに、階段下降指令、及び、階段上昇指令等を指令するように構成されている。
そして、制御部Hが、指令操作部Qにて、前進指令、後進指令、その場右旋回指令、及び、その場左旋回指令が指令されると、それらの指令に基づいて、図5及び図6に示すように、アクチュエータ類を作動させることによって、前進、後進、その場右旋回、及び、その場左旋回を行うように構成されている。
【0081】
また、制御部Hは、階段昇降指令が指令されると、つまり、指令操作部Qにて、階段下降指令、及び、階段上昇指令が指令されると、図5及び図6に示すように、リンク駆動手段としての、左右の車輪支持体SL、SRにおける内側モータM1、外側モータM2、車輪回転保持ブレーキB、及び、関節回転保持ブレーキEを、予め設定したリンク駆動用の設定パターンにて作動させ、且つ、その作動に同調させて、座席用駆動手段としての、足関節用の電動式のモータMA、及び、股関節用の電動式のモータMKを座席操作用の設定パターンにて作動させるように構成されている。
尚、足関節用の電動式のモータMA、及び、股関節用の電動式のモータMKを座席操作用の設定パターンにて作動させるときには、股関節保持ブレーキFK、及び、足関節保持ブレーキFAが、制動解除状態に作動されることになる。
【0082】
本実施形態においては、階段の下降及び上昇は、傾きや段数等の仕様が既知の階段を下降及び上昇させるために、リンク駆動用の設定パターン及び座席操作用の設定パターンが設定されるように構成されている。
具体的には、階段下降指令が指令されたのちや、階段上昇指令が指令されたのちにおける、内側モータM1及び外側モータM2の時間経過に伴う目標回転量(回転角度)や、車輪回転保持ブレーキB及び関節回転保持ブレーキEの時間経過に伴う制御タイミングが、リンク駆動用の設定パターンとして設定され、同様に、階段下降指令を指令されたのちや、階段上昇指令が指令されたのちにおける、足関節モータMA及び股関節モータMKの時間経過に伴う目標回転量(回転角度)や、股関節保持ブレーキFK及び足関節保持ブレーキFAの時間経過に伴う制御タイミングが、座席操作用の設定パターンとして設定されている。
【0083】
ちなみに、図4には例示しないが、内側モータM1及び外側モータM2の回転量(回転角度)を検出する回転角センサや、足関節モータMA及び股関節モータMKの回転量(回転角度)を検出する回転角センサが設けられて、制御部Hは、時間経過に伴って目標回転量(回転角度)になるように、回転角センサの検出情報をフィードバック情報として利用しながら、内側モータM1及び外側モータM2、並びに、足関節モータMA及び股関節モータMKを作動させることになる。
【0084】
また、指令操作部Qは、上述の各種の指令に加えて、階段下降指令を指令する際の準備段階として、左右の車輪支持体SL、SRを直線姿勢にしかつ車椅子1の位置及び傾きを下降準備形態にするための下降準備指令や、階段上昇指令を指令する際の準備段階として、左右の車輪支持体SL、SRを階段上昇開始姿勢にしかつ車椅子1の位置及び傾きを上昇準備形態にするための上昇準備指令を指令できるように構成され、さらには、指令操作部Qは、左右の車輪支持体SL、SRを平地面走行の基準姿勢にしかつ車椅子1の位置及び傾きを平地面走行形態にするための走行用指令を指令できるように構成されている。
そして、制御手段Hは、それらの指令に基づいて、アクチュエータ類を作動させることによって、階段下降の準備、階段上昇の準備、及び、平地走行の準備を行うように構成されている。
尚、車椅子1の傾きの調整とは、車椅子1を水平姿勢にするための調整である。
【0085】
次に、平地を走行する状態から階段を下降する場合について、図7を参照しながら説明する。尚、図7は、車椅子1が前向きとなる前進状態で、階段を下降させる場合を例示するものであり、以下の説明では、前進方向を進行方向とする。
すなわち、平地を走行する状態から階段を下降するときには、指令操作部Qにて下降準備指令を指令して、図7(b)に示すように、左右の車輪支持体SL、SRを直線姿勢にしかつ車椅子1の位置及び傾きを下降準備形態にする。また、指令操作部Qを操作して、階段の手前箇所に停止した状態にする。
尚、この状態においては、車椅子1の重量が、車輪支持体SL、SRにおける4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所に装備した車輪W2、W4、及び、進行方向後方側のリンク連結箇所に装備した車輪W1に作用するように、車椅子1の前後位置が調整される。
【0086】
このように、階段の手前箇所に停止した状態において、指令操作部Qにて、階段下降指令を指令すると、リンク駆動用の設定パターン及び座席操作用の設定パターンにて、アクチュエータ類が作動されて、階段昇降式移動車が階段を下降することになる。
【0087】
すなわち、先ず、上記の直線姿勢において、屈伸駆動により、進行方向後方側に位置する2つのリンクL1、L4に対して、進行方向前方側に位置する2つのリンクL2、L3を下方側に回動させて、車輪支持体SL、SRにおける4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所に装備した車輪W2、W4、及び、進行方向後方側のリンク連結箇所に装備した車輪W1が、平地に対応する走行面に接地し、且つ、進行方向前方側のリンク連結箇所に装備した車輪W3が、階段における一段目の踏み面に接地する状態とする(図7(c)参照)。
【0088】
次に、全体の重量が、車輪支持体SL、SRにおける4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所に装備した車輪W2、W4、及び、進行方向前方側のリンク連結箇所に装備した車輪W3に作用するように、車椅子1の前後位置が調整され、また、車椅子1が水平姿勢を維持するように、車椅子1の前後方向での傾きが調整される。
そして、屈伸駆動により、進行方向前方側に位置する2つのリンクL2、L3に対して、進行方向後方側に位置する2つのリンクL1、L4を上方側に回動させて、直線姿勢に戻すようにする(図7(d)参照)。
この状態においては、4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所に装備した車輪W2、W4、及び、進行方向前方側のリンク連結箇所に装備した車輪W3が接地する状態となり、進行方向後方側のリンク連結箇所に装備した車輪W1が、浮上する状態となる。
【0089】
次に、リンク回動駆動により、進行方向前方側に位置する2つのリンクL2、L3のうちの1つのリンクである第3リンクL3を基準にして、進行方向後方側に位置する2つのリンクL1、L4のうちの、基準とするリンクL3に対して平行姿勢を維持する第1リンクL1を上方側に回動させたのち前方側に回動させて直線姿勢となるように操作する(図7(e)(f)参照)。
この状態においては、車輪支持体SL、SRにおける4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所に装備した車輪W1、W3、進行方向後方側のリンク連結箇所に装備した車輪W4、及び、進行方向前方側のリンク連結箇所に装備した車輪W2が、接地する状態となる。
【0090】
また、上述した、図7(d)〜(f)のリンク回動駆動を行うときには、全体の重量が、接地状態を続ける車輪W3、W4に作用するように、車椅子1の前後位置が調整され、かつ、車椅子1が水平姿勢を維持するように、車椅子1の前後方向での傾きが調整される。
【0091】
そして、このようなリンク回動駆動を繰り返すことにより、図7(g)〜(l)に示すように、階段の下降が行われることになる。
ちなみに、階段の最後の段から平地に下降するときのリンク回動駆動においては、直線姿勢よりも手前側の状態となるときに、そのリンク回動駆動を停止することになる(図7(l)参照)。
【0092】
次に、平地を走行する状態から階段を上昇する場合について、図7を参照しながら説明する。尚、図7は、車椅子1が後向きで、階段を上昇する場合を例示するものであり、以下の説明では、後進方向を進行方向とする。
【0093】
平地を走行する状態から階段を上昇するときには、指令操作部Qにて上昇準備指令を指令して、図7(m)に示すように、左右の車輪支持体SL、SRを階段上昇開始姿勢にしかつ車椅子1の位置及び傾きを上昇準備形態にする。
車輪支持体SL、SRの階段上昇開始姿勢とは、階段を下降する際に、階段の最後の段から平地に下降するときにリンク回動駆動を停止した状態に対応する姿勢であり、具体的には、階段を下降する際に、階段の最後の段から平地に下降するときにリンク回動駆動を停止した状態から、後方側の車輪W1を少し上昇させた姿勢である。
【0094】
ちなみに、この階段上昇開始姿勢への操作についての一例を説明すると、平地において、先ず、図7(b)の姿勢にし、次に、車体全体の重心の前後方向の位置が車輪W2、W4と車輪W3との間に位置するように、車椅子1を前後方向に移動させて、図7(d)や図7(h)の姿勢にする。その後、車体全体の重心の前後方向での位置を動かさないように車椅子1の前後方向の位置を制御しながら、リンクL4を平行移動させて、図7(l)の姿勢にする。引き続き、車体全体の重心の前後方向での位置が、車輪W2と車輪W3との間から出ない範囲で車椅子1と下方に平行移動させて、図7(m)の姿勢にする。
【0095】
上述の如く、階段上昇開始姿勢で且つ上昇準備形態にしたのちは、後進して、進行前方のリンク連結箇所に装備した車輪W1が、階段の最初の段の踏み面の上方に位置する状態にし、その後、その車輪W1を階段の最初の段の踏み面に接地させるようにリンク回動駆動を行う(図7(l)参照)。
【0096】
次に、リンク回動駆動により、進行方向前方側に位置する2つのリンクL1、L4のうちの1つである第1リンクL1を基準にして、進行方向後方側に位置する2つのリンクL2、L3のうちの、第リンクL1に対して平行姿勢を維持する第3リンクL3を上方側に回動させたのち前方側に回動させて直線姿勢となるように操作する(図7(k)(j)参照)。
そして、このように、図7(l)〜(j)のリンク回動駆動を行うときには、車椅子1の重量が、接地状態を続ける車輪W1、W2に作用するように、車椅子1の前後位置が調整され、かつ、車椅子1が水平姿勢を維持するように、車椅子1の前後方向での傾きが調整される。
【0097】
この後は、図7(i)〜(d)に示すように、リンク回動駆動を繰り返し行うことになり、そして、階段の最後の段から走行面に移動するときには、階段を下降するときとは逆の手順の操作を行うことになる。
つまり、直線姿勢となる状態(図7(d)参照)において、屈伸駆動により、進行方向後方側に位置する2つのリンクL2、L3に対して、進行方向前方側に位置する2つのリンクL1、L4を下方側に回動させ、その後、車輪W2、W3に作用していた車体全体の重量がW1、W2に作用するよう車椅子1の前後位置を調整し、かつ、車椅子1が水平姿勢を維持するように、車椅子1の前後方向での傾きを調整する(図7(c)参照)。次に、屈伸駆動により、進行方向前方側に位置する2つのリンクL1、L4に対して、進行方向後方側に位置する2つのリンクL2、L3を上方側に回動させて、直線姿勢に戻す(図7(b)参照)。
【0098】
以上の通り、階段を昇降する際には、4つの車輪W1〜W4のうちの2つの車輪が前後に離れた状態で、走行面や階段の踏み面に接地する状態を維持し、そして、接地状態を維持する2つの車輪にて車体を支持しながら、残りの2つの車輪を接地している車輪の進行方向前方側に移動させるものであるから、階段を昇降する際にも、車体の姿勢の安定化を図ることができるものとなる。
【0099】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
【0100】
(1)上記実施形態では、傾斜や段数等の仕様が既知である1つの階段を昇降させる場合を例示したが、傾斜や段数等の仕様が既知である複数の階段の夫々に対応させて、リンク駆動用の設定パターン、及び、座席操作用の設定パターンを記憶させておき、昇降する階段に合わせて、記憶した設定パターンを選択するようにして、複数の階段に対して移動車の昇降を行わせる形態で実施することができる。
【0101】
(2)上記実施形態では、車輪支持体における4つのリンクの長さが一定である場合を例示したが、階段の踏み面の前後方向の長さに応じて、リンクの長さを変更調整できるように構成しておけば、踏み面の前後方向の長さの異なる階段をも昇降させることができるものとなる。
ちなみに、上記実施形態では、1回のリンク回動駆動によって、階段を一段分昇降させる場合を例示したが、1回のリンク回動駆動によって、階段を複数段分昇降させるように、リンクの長さを定めてもよい。
【0102】
(3)上記実施形態では、着座用座席としての車椅子を支持する脚を、一定長さに構成する場合を例示したが、脚の長さを変更調整する駆動手段を備えさせて、着座用座席の前後方向の位置および傾きを調整する際に、着座用座席の高さの変化が少なくなるように、脚の長さを変更調整するように構成してもよい。
【0103】
(4)上記実施形態では、車輪支持体に対して前後に揺動する脚を支持手段として用いて、着座用座席としての車椅子の前後方向での位置、及び、前後方向での傾きを調整操作する場合を例示したが、支持手段として、着座用座席を前後方向にスライド自在に支持するスライダ支持手段と、そのスライダ支持手段に対して着座用座席の前後の傾きを変更する傾き変更手段とを備えさせる形態で、車椅子の前後方向での位置、及び、前後方向での傾きを調整する形態で実施してもよい。
【0104】
(5)上記実施形態では、左右一対の車輪支持体を備えさせる場合を例示したが、必ずしも、左右の車輪支持体を備えさせる必要はない。
例えば、1つの車輪支持体における4つのリンク連結箇所の夫々に、車体横幅方向に沿って複数の車輪を並べる状態で備えさせることにより、1つの車輪支持体を備えさせる形態で実施できる。
【0105】
(6)上記実施形態では、着座用座席としての車椅子を車輪支持体にて支持する階段昇降式移動車を例示したが、荷物を載置する荷台を車輪支持体にて支持する運搬用の階段昇降式移動車を構成してもよい。
この場合、車輪支持体を車体の前後に備えさせて、前後の車輪支持体にて荷台を支持するようにすることができる。
【0106】
(7)上記実施形態においては、直線状の階段を昇降させる場合を例示したが、階段の途中に踊り場がある形態の階段の場合には、踊り場よりも下方側の階段部分と、踊り場よりも上方側の階段部分とを、上記実施形態における階段と考えることにより、上記実施形態と同様に昇降させることができる。
この場合、踊り場部分を、手動操作にて進行させることができるが、これに代えて、進行距離を検出するセンサや車体の平面視での傾きを検出するジャイロ等のセンサを備えさせて、踊り場部分を自動走行させる形態で進行させてもよい。
尚、踊り場部分が屈曲する経路となる曲がり階段においても、自動走行をさせる形態を適用できるものである。
【0107】
(8)上記実施形態では、車輪駆動手段及びリンク駆動手段が、車輪連動連結機構、一対の差動機構、一対の電動モータ、及び、制動手段により構成される場合を例示したが、車輪駆動手段としての電動モータを備えさせ、そして、リンク駆動手段として、リンク回動駆動を行う電動モータと、リンク屈伸駆動を行う電動モータとを各別に備える形態で実施してもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 着座用座席
3 リングギヤ
4 差動用枠体
5、6 出力ギヤ
7 ピニオン
14 脚
B 制動手段
D1、D2 差動機構
G 車輪駆動手段
K リンク駆動手段
L1 リンク
L2 リンク
L3 リンク
L4 リンク
MA、MK 座席用駆動手段
R 車輪連動連結機構
SL、SR 車輪支持体
W1 車輪
W2 車輪
W3 車輪
W4 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の車輪を備えて、階段を昇降可能に構成された階段昇降式移動車であって、
4つのリンクの長さが等しい4節リンク機構式の車輪支持体における4つのリンク連結箇所の夫々に、前記4つのリンクの隣接するもの同士が相対回転する相対回転軸心方向に沿う軸心周りで回転自在に前記車輪が装備され、
前記車輪を推進駆動する車輪駆動手段、及び、前記車輪支持体を姿勢変更駆動するリンク駆動手段が設けられ、
前記リンク駆動手段が、
前記相対回転軸心方向に沿う車体横幅方向視において、前記4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢のときに前記4つのリンクのうちの進行方向前方側に位置する2つのリンクの1つを基準とした状態で、そのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクを上方側に回動させたのち前方側に回動させて前記直線姿勢となるように操作するリンク回動駆動、並びに、
前記車体横幅方向視において、前記4つのリンク連結箇所が直線状に並ぶ直線姿勢のときに前記4つのリンク連結箇所のうちの前後方向の中間に重複して位置する2つのリンク連結箇所を中心とする状態で、進行方向前方側に位置する2つのリンクと進行方向後方側に位置する2つのリンクとを屈伸操作するリンク屈伸駆動を行うように構成されている階段昇降式移動車。
【請求項2】
前記車輪支持体が、左右一対備えられ、
前記車輪駆動手段、及び、前記リンク駆動手段が、左右の前記車輪支持体の夫々に対して各別に備えられている請求項1記載の階段昇降式移動車。
【請求項3】
前記車輪支持体における4つのリンクのうちで、前記リンク回動駆動を行うときに基準となるリンク又はそのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクに対して、着座用座席を前後方向での位置及び前後方向での傾きを変更自在に支持する支持手段、及び、その支持手段にて支持された前記着座用座席の前後方向での位置及び前後方向での傾きを調整操作する座席用駆動手段が設けられ、
階段昇降指令が指令されると、前記リンク駆動手段を予め設定したリンク駆動用の設定パターンにて作動させ、且つ、その作動に同調させて、前記座席用駆動手段を座席操作用の設定パターンにて作動させる駆動制御手段が設けられている請求項1又は2に記載の階段昇降式移動車。
【請求項4】
前記車輪支持体における4つのリンクのうちで、前記リンク回動駆動を行うときに基準となるリンク又はそのリンクに対して平行姿勢を維持するリンクに、前後に揺動自在に下端部が枢支される脚が、前記支持手段として設けられて、その脚の上端部に、前記着座用座席が前後の傾きを変更自在に枢支されている請求項3に記載の階段昇降式移動車。
【請求項5】
前記4つのリンク連結箇所の夫々に装備される4つの前記車輪を一体回転するように連動連結する車輪連動連結機構が設けられ、
電動モータにて駆動回転されるリングギヤを一体回転状態で装備した差動用枠体に、その差動用枠体の回転軸心周りで回転自在な左右一対の出力ギヤを装備し、かつ、それら左右一対の出力ギヤに咬合するピニオンを前記差動用枠体に回転自在に支持する状態に構成された一対の差動機構が設けられ、
これら一対の差動機構のうちの一方が、前記左右一対の出力ギヤの一方を前記4つの車輪のうちの1つに連動連結させ、かつ、他方の出力ギヤを前記4つのリンクのうちの1つに対してそれを揺動操作するように連動連結させる状態で、前記4つのリンクの1つに配設され、かつ、
他方の差動機構が、前記左右一対の出力ギヤの一方を前記4つの車輪のうちの前記一方の差動機構に連結される車輪とは異なる1つの車輪に連動連結させ、かつ、他方の出力ギヤを前記4つのリンクのうちの前記一方の差動機構にて揺動されるリンクとは異なる1つに対してそれを揺動させるように連動連結させた状態で、前記4つのリンクの1つに配設されて、
前記一対の電動モータを同じ方向に回転させる同方向回転状態と逆方向に回転させる逆方向回転状態とのうちの一方において、前記4つの車輪を推進駆動し、かつ、前記同方向回転状態と前記逆方向回転状態とのうちの他方において、前記リンク回動駆動を行うように構成され、
前記4つの車輪の回転を阻止する制動手段が設けられ、
前記一対の差動機構のうちのいずれかが、前記リンク屈伸駆動を行うためにリンクを揺動操作するように装備され、
前記制動手段を制動状態にした状態で、前記一対の差動機構のうちの前記リンク屈伸駆動を行う差動機構を駆動する前記電動モータを作動させかつ他方の差動機構に対する前記電動モータを自由状態にすることにより、前記リンク屈伸駆動を行うように構成され、
前記車輪連動連結機構、前記一対の差動機構、前記一対の電動モータ、及び、前記制動手段により、前記車輪駆動手段及び前記リンク駆動手段が構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の階段昇降式移動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−5762(P2012−5762A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146497(P2010−146497)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000129460)株式会社クマリフト技術研究所 (40)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】