説明

階段昇降用無端ベルト装置、および当該装置を備えた手動推進車

【課題】停止&降段時に自然落下しない、且つアシストモーターの駆動速度に拘束されず速さ自在に昇段できる階段昇降装置を、汎用の回転伝達要素だけを連結して構成する。
【解決手段】無端ベルトBt、プーリーPc、一方向クラッチCc、制動クラッチTc、昇段アシストモーターMcが順に連結して当該装置を構成する。階段上で車両の停止時には、Ccが噛み合い連結、停止中のMcの出力軸がロックトルクTlckにより拘束静止、Tcが制動抵抗Ftrnを発動して車両の落下力Fweiを受け止めている。降段推進力Pdwnが加わると、Tcが制動抵抗Ftrnを発動しながら差動回転し降段する。昇段推進力Pupが加わると、モーターMcが起動し、Tcの連結抵抗Ftrnが回転を伝達してベルトBtを昇段駆動する。Pup がFweiより大きくなるとCcが非噛み合い方向へオーバーランして、ベルトBtの回転がMcの駆動速度に拘束されずに自在な速度で昇段できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は階段の昇降を行う補助装置として、無端ベルト装置を備えたハンドカート、旅行鞄等の手動推進車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プーリーに無端ベルトを張架した装置を階段昇降用の補助車輪として設けた手動推進車両は公知であり、階段昇降時には無端ベルト装置を階段のへり間に渡して回動させながら、全荷重を把持部で受けて階段を昇降するようにしている。従って荷物を含めた車両の重量が負荷される無端ベルトは階段を降下する方向に常に回動しようとするため、階段昇降途中でも、昇降動作を中断したときでも、押引する手先に全重量が負荷されることになる。このような負担を軽減するため、降段時にレバーを操作して係止片を作動して無端ベルトの回動を規制する手段(特許文献1)や、階段昇降のための外力を検出し当該外力に見合う駆動力を無端ベルトに作用させる手段(特許文献2)が公報に示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001-315646「荷物運搬 … の階段昇降用無端ベルトの制動装置」 車輪と一対のプーリーを回動自在にしてフレームに軸支し、前記プーリーには階段昇降用の無端ベルトを張架した荷物運搬用手押し二輪車において、周縁に受止歯を列設した規制片を前記プーリーと同軸にしてプーリー支軸に一体的に取付け、該規制片の前記受止歯を係離する係止片を前記主体フレームに設けた操作装置に備え、該操作装置の操作レバーを前記主体フレームの後端部に設けて構成し、当該操作レバーを操作して無端ベルトの制動を行う。
【0004】
【特許文献2】特開平10-35504「階段昇降機」に拠れば、 荷物の搭載部を備えた本体と、階段昇降のために操作者から本体に加えられる外力を検出する外力検出器と、階段昇降用動力を発生する駆動部と、荷物の重量検出器と、外力検出器で検出された力に基づいて上記駆動部を作動させる制御手段とからなる。制御手段は重量検出器で検出される荷物の重量に応じて外力検出器で検出された外力と駆動部への出力との相関であるアシストゲインを変更するものであり、本体に加えた階段昇降のための外力に応じて階段昇降のための駆動がなされる。外力検出手段として歪みゲージやポテンショメータ或いは非接触式変位センサー等の検出器が用いられ、制御回路とモーター駆動用の電流ドライバーとから構成される制御駆動回路は、検出された力の値を入力してアシストゲインを演算し出力する。アシストゲインに応じて駆動源であるモーター出力の電流制御を行い、駆動モーターが作動トルクや作動速度或いは作動加速度等を出力し、また駆動部に粘性抵抗や制動指示を出力するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1における制動規制片や操作レバー、また特許文献2における検出器、演算回路や制御出力等を備える構成に依らず、ごく汎用的な回転伝達要素のみを効果的配置により連結して確実且つ高価でない制御手段を構成し下記の課題を解決する。
(1)車両の自重による落下力に対する所定の制動力が、停止時及び降段時には作用し、且つ昇段時には作用しないこと。
(2)操縦者が車両の把手に昇段推進力を加えると昇段駆動モーターが始動して昇段をアシストし、且つ操縦者の昇段推進力が車両の落下力を超えると無端ベルトの回転が昇段アシストモーターの駆動速度に拘束されずオーバーラン可能であること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
2個以上のプーリーによって軌道を構成された無端ベルトユニットを階段昇降時の補助車輪として備えたハンドカート、旅行鞄等の手動推進車において、
連結プーリーPa、一方向クラッチCa、及び制動器Taが相互に連結して備わり、前記一方向クラッチCaは、無端ベルトが階段を降りる方向の回転(以後降段回転と記す)においては前記連結プーリーPa側から前記制動器Ta側の方向へトルク連結して回転を伝え、無端ベルトが階段を昇る方向の回転(以後昇段回転と記す)においては、前記側の方向へはトルク非連結となって回転を遮断するよう配置され、前記制動器Taが所定の制動抵抗力Fbrkを発動して前記降段回転を制動するよう配置構成された降段制動手段と、
連結プーリーPb、一方向クラッチCb、開閉クラッチTb、及び昇段アシストモーターMbが相互に連結して備わり、昇段回転において前記一方向クラッチCbが、前記開閉クラッチTb側から前記連結プーリーPb側の方向へトルク連結して前記昇段アシストモーターMbの回転を伝え、逆側の方向へはトルク非連結となって回転を遮断するよう配置され、前記開閉クラッチTbの作用は、「トルク連結/非連結」の動作が前記昇段アシストモーターMbの「昇段駆動回転/停止」の動作と連動して切り替わるものであり、降段回転においては前記昇段アシストモーターMbが停止、前記開閉クラッチTbがトルク非連結となって無端ベルト側の回転動作から遮断されるよう構成された昇段アシスト手段との、いずれか一方の手段又は両手段を備える無端ベルト装置である。また、
【0007】
連結プーリーPc、一方向クラッチCc、制動クラッチTc及び昇段アシストモーターMcが相互に連結して備わり、前記一方向クラッチCcは、降段回転において前記連結プーリーPc側から前記制動クラッチTc側の方向へトルク連結して回転を伝え、昇段回転においては前記側の方向へトルク非連結となって回転を遮断するよう配置されており、前記制動クラッチTcはその両側から作用する力の差が所定の閾値内であればトルク連結して回転を伝え、前記閾値を超えるとその両側間に相対回転を許容し且つ所定の制動抵抗力Ftrnを発動して作用させるものであり、停止時において前記昇段アシストモーターMcの出力軸がロックトルクTlckによって拘束ロックされ静止するよう構成された昇降段制御手段を備える無端ベルト装置である。
【0008】
また、前記の無端ベルト装置を階段昇降可能な位置に取り付け、又は階段昇降可能な位置及び収納位置に変更可能に取り付けた手動推進車である。
【発明の効果】
【0009】
特許文献1や文献2に示されたラチェット(制動規制片)や操作レバーのような特殊な機械要素や、検出器、演算回路や制御出力器等の制御要素を用いることなく、一方向クラッチ、制動器Ta、開閉クラッチTb、制動クラッチTc等のごく汎用的な回転伝達要素のみを効果的配置により連結して信頼性の高い且つ高価でない制御手段を構成し、階段昇降が容易な無端ベルト装置を生み出せることが本発明の効果である。
【0010】
本発明の無端ベルト装置を備えた手動推進車によれば、階段上において停止時及び降段時にはブレーキの入り切りのような操作をすることを要せず、常に制動器Ta又は制動クラッチTcの摩擦制動力が作用しており、平坦地で走行させる感覚で停止させたり階段を降下させることができ、且つこの摩擦制動力は昇段時には作用しないので、操縦者やアシストモーターMb、Mcに余計な力の負担を強いることがない。
また昇段時には、操縦者が車両の把手に昇段方向へ推進力を加えると、昇段アシストモーターが始動して昇段をアシストし、操縦者の昇段推進力が車両の落下力を超えると無端ベルトの回転が昇段アシストモーターの駆動速度を超えてオーバーラン可能である。車両の昇段速度に拘束されて階段を昇るのではなく、より速く昇ろうとして操縦者が強く把手を引けば、無端ベルトの回転がアシストモーターMb、Mcの駆動回転をオーバーラン回転して自在速度で昇段させることができる。この時一方向クラッチCa、Cb、Ccは非結合(回転フリー)であって制動器Ta、Tcの制動力からは解放されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の階段昇降用無端ベルト装置および当該装置を備えた手動推進車に係わる6種類の実施例について、その形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は実施例1の無端ベルト装置10の斜視図。図2は同装置の三面図である。
チャンネル状に形成されたフレーム11内に複数個のプーリーP及び連結プーリーPaが並行に架設されており、無端ベルトBtがこれらのプーリーに巻き掛けられて無端ベルトユニット12が構成される。無端ベルトBtの内面とプーリーP及び連結プーリーPaの外面は、歯型が形成されて噛み合っており、確実に回転を伝達できる。
【0013】
図3は降段制動手段を構成する部分の(図2内のA−A断面を示す)断面図である。
本実施例の降段制動手段20は、一方向クラッチCaを内包した連結プーリーPa 及び制動器Taが直列に連結されて、フレームに対して回転自在に架設された連結軸45に支承されて構成される。一方向クラッチCaの作用は、{連結プーリーPa ⇒ 連結軸45}方向へは、無端ベルトBtが昇段する方向の回転Rupでは連結軸45に対し非連結となって空転し、降段する方向の回転Rdwnでは連結軸45と噛み合って連結回転するよう配置されている。軸受け専業メーカーのくさびころ式の一方向クラッチCaを用いているが、他の形式のもの例えばコイルスプリングの捲き内径収縮式のもの等であっても良い。
本実施例の制動器Taは張力一定の帯ブレーキであって、連結キー25によって連結軸45へ軸止されたブレーキドラム22に、引っ張りバネ24の張力を付与されたブレーキ帯23が巻き掛けられて構成される。他の形式のブレーキ例えばディスク式、ドラム内拡式、電磁式のものを用いることも可能であって、作用トルクが所定の閾値内であればトルク連結して相対回転を制動し、閾値を超えると相対回転を許容し且つ所定の制動抵抗力FbrkあるいはFtrnを発動して作用させるものであれば良い。上記の如く一方向クラッチCaも制動器Taも標準的に普及している回転伝達要素を用いることができ信頼性の高い且つ高価でない手段を構成可能である。以降の実施例における一方向クラッチCb、Cc、及び開閉クラッチTb、制動クラッチTcにおいても同等な標準伝達要素を用いている。
【0014】
図4は本装置を底面に備えた旅行鞄が階段を昇降する状態の側面図上で、作用する力とその方向を示した。図5は降段制動手段20を構成する要素間の力の伝達および動作を示すダイヤグラムであり、図中で使用する記号を定義して併記している。
【0015】
<A>“Fwei=Fbrk”の条件において階段上で停止している状態
自然落下力Fweiの作用により無端ベルトBtをDweiの方向へ降段回転Rdwnさせる力が発生する。この回転Rdwnにおいては、{CaL ⇒ CaR}間は噛合い連結となって、回転(Rdwn)力は、順次{連結プーリーPa ⇒ CaL ⇒ CaR(連結軸45)⇒ TaL(ブレーキドラム22)}へと伝達して行き、{TaL ⇔ TaR(ブレーキ帯23)}間では摩擦制動力Fbrkが作用して両者連結状態であって停止している。即ち旅行鞄は自然落下力Fweiと摩擦制動力Fbrkがバランスして静止している。
なお、“Fwei>Fbrk”の場合は鞄が自然落下することになるが、操縦者が昇段方向へ所要の力Pupを加えることによって、“Fwei=Fbrk+Pup”とバランスして静止する。
【0016】
<B>“Fwei<Pup”の条件において昇段中の状態
操縦者が昇段方向へ推進力Pupを加えると、力の差“Pup−Fwei”の作用により無端ベルトBtはDweiの逆方向へ昇段回転Rupする。この回転RupにおいてCaは非連結であって、摩擦制動力Fbrkによって静止している要素群{CaR(連結軸45)⇔TaL ⇔TaR(ブレーキ帯23)⇔ フレームFrm}に対して、要素群{Bt ⇔ Pa ⇔CaL}は空転しており、旅行鞄は摩擦制動力Fbrkから解放されて昇段している。
【0017】
<D>“Fbrk<Fwei+Pdwn”の条件において降段中の状態
操縦者が降段方向へ推進力Pdwnを加えると、力の差“Fwei+Pdwn−Fbrk” の作用により無端ベルトBtはDwei方向へ降段回転Rdwnする。この回転RdwnにおいてCaは噛合い連結となり、降段回転Rdwnは要素群{Bt ⇔ Pa ⇔ CaL ⇔CaR(連結軸45)⇔TaL(ブレーキドラム22)}を駆動しており、{TaL ⇔ TaR(ブレーキ帯23)}間では摩擦制動力Fbrkを発生させながら両者スリップ状態にある。即ち操縦者は、制動力Fbrkに抗しながら鞄を降段方向への推進力Pdwnを加えることによって階段を降下して行くことができる。なお前記 <A> 項の状態で作用する摩擦制動力Fbrkは静止摩擦係数に起因するものであり、本 <D> 項の状態で作用するFbrkは動摩擦係数に起因するものでその値を異にするものであるが、近似的な値として以後同じ記号で表すことにする。
【0018】
図6は、本装置を底面に2基並べて設置した旅行鞄の斜視図。図7、8では鞄を開いた状態を示している。本実施例の無端ベルト装置はコンパクトに形成できるので鞄の開閉に支障なく旅行鞄を構成できることを示した。3基の蝶番05を備えている。
【実施例2】
【0019】
図9は、実施例2の無端ベルト装置10aを側面に備えたカートの斜視図である。本無端ベルト装置10aは、2基の無端ベルトユニット12を連結する1本の連結軸45aを備えた1基の降段制動手段20によって構成される。2基の無端ベルトユニット12はそれぞれチャンネル状に形成されたフレーム11内に複数個のプーリーP及び連結プーリーPaが並行に架設されており、無端ベルトBtがこれらのプーリーに巻き掛けられて構成され、実施例1と同等である。
実施例1の降段制動手段と同等に構成された1基の降段制動手段20は、連結軸45aの両端が2基の並列する無端ベルトユニット12内まで伸張して形成され、両ユニットの連結プーリーPaに内包されたクラッチCaに連結される。構成要素間の力の伝達および動作を示すダイヤグラムは、図5 <A> <B> <D> における前実施例と同一である。
【実施例3】
【0020】
図10は、実施例3の無端ベルト装置10bの斜視図である。2基の無端ベルトユニット12を連結する1本の連結軸45bを備えた1基の昇段アシスト手段30によって構成される。無端ベルトユニット12及び連結軸45bは実施例2と同等である。両ユニット12に備わる一方向クラッチCbを内包した連結プーリーPb双方は、連結軸45bの両端部に支承されており、且つ開閉クラッチTb及び昇段アシストモーターMbが連結して昇段アシスト手段30を構成する。
一方向クラッチCbの作用によって、連結プーリーPb は、無端ベルトBtが昇段する方向への回転Rupでは連結軸45bに対して非連結となって空転し、降段する方向の回転Rdwnでは連結軸45bと噛み合って連結回転する(前実施例と同じ)。
開閉クラッチTb及び昇段アシストモーターMbは、連動する操作スイッチSwbの“入⇔切”によって動作する噛合いクラッチ及びギヤードモーターであって、本実施例の操作スイッチSwbは操縦者が操作して“入⇔切”を切り替えるものである。操作スイッチSwbは、常時は“切”状態であって、操縦者が操作することによって “入”状態に切り替わるべく構成(図示せず)されており、開閉クラッチTbは、Swb“入”では噛合い連結となり、Swb“切”では非噛合いとなって空転する。昇段アシストモーターMbは、Swb“入”では無端ベルトBtが昇段する方向へ回転し、Swb“切”では停止する。
連結軸45b、開閉クラッチTb及び昇段アシストモーターMb間は、タイミングプーリーとタイミングベルトによるベルト伝動によって連結されており、開閉クラッチTb及び昇段アシストモーターMbはフレーム31へ並列して取り付け固定されている。
【0021】
図11は実施例3の装置10bに備わる昇段アシスト手段30内の構成要素間の力の伝達および動作を示すダイヤグラムであり、図中で使用する記号を定義して併記している。
<A>“Fwei=Pup”の条件において階段上で停止している状態
自然落下力Fweiが操縦者の昇段推進力Pupと釣り合っており、無端ベルトBtを回転させる力は発生しない。Swbはオフ、モーターMbは停止、クラッチTbは非連結である。
【0022】
<B> “Fwei<Fass”の条件において昇段中の状態
操作スイッチSwbはオン、モーターMbは推進力Fassを発動して回転、クラッチTbは噛合い、連結軸45b(一方向クラッチCbのCbR側)へ昇段方向の回転Rupが伝達される。一方車両の自然落下力Fweiは無端ベルトBtの降段方向への回転(Rdwn)力となり、順次{連結プーリーPb ⇒ CbL ⇒ CbR(連結軸45b)}へと伝達され、前記の推進力Fassによる昇段方向の回転(Rup)力の一部によって相殺される。力の差“Fass−Fwei”の作用により無端ベルトBtがDweiの逆方向へ回転し車両が昇段する。
<B> の2“Fwei<Fass+Pup”且つ“Pup <Fwei”の条件において昇段中の状態
“Fwei>Fass”の条件下においても、操縦者が昇段方向へ推進力Pupを加えることによって前項 <B> の1と同状態となり車両が昇段する。
力の差“Fwei−Pup”は無端ベルトBtの降段方向への回転(Rdwn)力となって、順次{連結プーリーPb ⇒ CbL ⇒ CbR(連結軸45b)}へと伝達され、モーターMbの推進力Fassによる昇段方向の回転(Rup)力の一部によって相殺される。力の差“Fass+Pup−Fwei” の作用により 無端ベルトBtがDweiの逆方向へ回転し車両が昇段する。
【0023】
<C>“Fwei<Pup ”の条件においてオーバーラン昇段中の状態
アシストモーターMbの推進力Fassのアシストを要せず、力の差“Pup−Fwei”は、無端ベルトBtの昇段方向への回転(Rup)力となり、要素群{Bt ⇔ … ⇔ CbL}が連結して昇段回転をすることになる。これに対してSwbはオン、Mbは昇段回転、クラッチTbは連結しており、連結軸45b(CbR)がRup方向へ駆動されているが、一方向クラッチCbの作用は{CbL ⇒ CbR}方向へ非連結となっているため、前記の無端ベルトBtの昇段回転Rupは連結軸45b(CbR)の回転に対してオーバーラン(空転)状態である。
【0024】
<D>“Pup <Fwei”の条件において降段中の状態
力の差“Fwei−Pup”は無端ベルトBtの降段方向への回転(Rdwn)力となり、順次{連結プーリーPb ⇒ CbL ⇒ CbR(連結軸45b)}へと伝達され、降段回転(Rdwn)となる。Swbはオフ、Mbは停止、クラッチTbは非連結である。操縦者は昇段推進力を調節して車両の落下力を支えながら降下して行く。
【実施例4】
【0025】
図12は実施例4の無端ベルト装置10abの斜視図である。2基の無端ベルトユニット12(実施例2または3と同等)を連結する1本の連結軸45aを備えた1基の降段制動手段20(実施例2と同等)、及びもう1本の連結軸45bを備えた1基の昇段アシスト手段30(実施例3と同等)とによって構成される。本実施例での操作スイッチSwbは、操縦者が直接操作するものではなく、操縦者が車両の把手に昇段方向へ推進力を加えることにより間接的に、“切⇔入”が切り替わるものであり、常時“切”から昇段推進力を把手に加える時“入”状態に切り替わるべく構成されているが図示しない。その他の構成説明は実施例1、3での説明と重複するので省略する。
【0026】
図13は実施例4の無端ベルト装置10abに備わる降段制動手段20及び昇段アシスト手段30内での構成要素間の力の伝達および動作を示すダイヤグラムである。
<A>“Fwei=Fbrk”の条件において階段上で停止している状態
降段制動手段20の作用は、Caが噛み合い連結しており、{TaL ⇔ TaR(ブレーキ帯23)}間で摩擦制動力Fbrkが作用して両者連結状態であって、自然落下力Fweiと摩擦制動力Fbrkがバランスして静止している(実施例1の図5 <A> に同じ)。
昇段アシスト手段30は、Swbがオフ、Mbが停止、クラッチTbが非連結であって、無端ベルトBtの動作から遮断されている。
【0027】
<B>“Fwei<Fass”の条件、又は“Fwei<Fass+Pup”且つ“Pup <Fwei”の条件において昇段中の状態
操縦者が把手に昇段方向へ推進力Pupを加えて操作スイッチSwbがオンとなり、モーターMbの昇段推進力Fassが発動、クラッチTbが連結し、力の差“Fass−Fwei”あるいは“Fass+Pup−Fwei”の作用によって、無端ベルトBt がDweiの逆方向へ昇段回転Rupする。昇段アシスト手段30の作用は、実施例3の図11の <B> と同じである。
降段制動手段20の作用は、昇段回転RupにおいてCaが非連結であって、無端ベルトBtの動作は摩擦制動力Fbrkから解放されている(実施例1の図5 <B> に同じ)。
【0028】
<C>“Fwei<Pup ”の条件においてオーバーラン昇段中の状態
アシストモーターMbのアシスト推進力Fassを要せずに、力の差“Pup−Fwei”の作用により無端ベルトBtは昇段回転Rupしている。昇段アシスト手段30の作用は、Swbがオン、Mbが昇段回転して昇段推進力Fassを発動し、クラッチTbが連結して連結軸45b(CbR)をRup方向へ駆動している一方、一方向クラッチCbの作用が非連結であって力の差“Pup−Fwei”の作用による無端ベルトBtの昇段回転Rupは連結軸45b(CbR)の回転に対してオーバーラン(空転)状態である。(実施例3の図11 <C> に同じ)。
降段制動手段20の作用は、昇段回転RupにおいてCaが非連結であって、無端ベルトBtの動作は摩擦制動力Fbrkから解放されている(実施例1の図5 <B> に同じ)。
【0029】
<D>“Fbrk<Fwei+Pdwn”の条件において降段中の状態
降段制動手段20の作用は実施例1の図5 <D> に同じである。操縦者が把手に降段方向へ推進力Pdwnを加えて、力の差“Fwei+Pdwn−Fbrk”により無端ベルトBtをDweiの方向へ降段回転Rdwnしており、{TaL ⇔ TaR(ブレーキ帯23)}間では摩擦制動力Fbrkを発生させながら両者スリップ状態にある。
昇段アシスト手段30の作用は、Swbがオフ、Mbが停止、クラッチTbが非連結であって、無端ベルトBtの動作から遮断されている。
【実施例5】
【0030】
図14は、実施例5の無端ベルト装置10cを側面に備えたカートの斜視図である。
該装置10cは、2基の無端ベルトユニット12(実施例2〜4と同等)を連結する1本の連結軸45cを備えた1基の昇降段制御手段50によって構成される。
両ユニット12に備わる一方向クラッチCcを内包した連結プーリーPc双方は連結軸45c の両端部に支承されており、制動クラッチTc及び昇段アシストモーターMcが連結して昇降段制御手段50を構成している。連結軸45c、制動クラッチTc及び昇段アシストモーターMc間はタイミングプーリーとタイミングベルトによるベルト伝動によって連結されており、制動クラッチTc及び昇段アシストモーターMcはフレーム51L、R及び51Mへ並列して固定されている。
一方向クラッチCcの作用により連結プーリーPcが、無端ベルトBtが昇段する方向への回転Rupでは連結軸45cに対して非連結となって空転し、降段する方向への回転Rdwnでは連結軸45cと噛み合って連結回転する(前実施例に同じ)。
昇段アシストモーターMcは操作スイッチSwcがオフの停止時には、ギヤードヘッド出力軸がロックトルクTlckによって拘束ロックされ静止しており、Swcオンの回転時には推進力Fassを発動して制動クラッチTcを昇段方向へ回転駆動するよう構成される。なお本実施例での操作スイッチSwcは、操縦者が直接操作するものではなく、常時“切”状態から、操縦者が車両の把手に昇段方向へ推進力を加えることにより間接的に “入”状態に切り替わるべく構成されるものであるが図示しない(実施例4に同じ)。
【0031】
図15、16は本例の装置10cに備わる昇降段制御手段50の制動クラッチTcの斜視図及び一部を断面で示した3面図である。
フレーム51L、Rに架設固定された支承軸52へ支承された2個のローターTcL(連結軸45c側の要素)、及びTcR(アシストモーターMc側の要素)が、外周にタイミングプーリー46を備えて各々が回転自在であって、タイミングベルト(図示省略)による回転伝達が可能である。両ローターTcL、TcRの互いに対向する端面各々には摩擦円盤が設けられて接触しており、一方の摩擦円盤54LはローターTcLに取付け固定されている。他方の摩擦円盤54RはローターTcRへスラスト方向へのみ可動に取り付けられ、スプリング55によって摩擦円盤54Lを押圧する方向へ付勢されている。
制動クラッチTcが伝達できる最大の力はこの両摩擦円盤間に発生する摩擦力Ftrnであって、両ローター{TcL ⇔ TcR}間に摩擦力Ftrnを超える力が作用すると、動摩擦抵抗力F’に抗しながら両者間がスリップして差動回転することになる。F’は静止摩擦に起因する力Ftrnとその値を異にするものであるが、近似的な値として以降は同じ記号Ftrnで表す。
【0032】
図17は本例の装置10cに備わる昇降段制御手段50を構成する要素間の力の伝達および動作を示すダイヤグラムである。
<A>“Fwei=Ftrn”の条件において階段上で停止している状態
操作スイッチSwcはオフ、昇段アシストモーターMcは停止しており、ギヤードモーターに備わるロックトルクTlckによってMcの出力軸は拘束ロックされ不動に静止している。自然落下力Fweiの作用による無端ベルトBtを降段回転させる力が発生し、順次{連結プーリーPc ⇒ CcL⇒<噛合い連結>⇒CcR(連結軸45)⇒ 制動クラッチTc}へと伝達して行く。{TcR ⇔ Mc}間はロックトルクTlckによって拘束ロックされ、制動クラッチTcは{TcL ⇔ TcR}間で摩擦制動(連結抵抗)力Ftrnを発動して連結状態である。即ち自然落下力Fweiと摩擦制動力Ftrnがバランスしてカートは停止している。
なお、“Fwei>Ftrn”の場合はカートが自然落下することになるが、操縦者が昇段方向へ所要の力Pupを加えることによって、“Fwei=Ftrn+Pup”とバランスして静止する。この場合の所要の力Pupは、操作スイッチSwcを“入”状態に切り替えるに足りる推進力に満たない大きさであるためモーターMcは停止している。
【0033】
<B>“Fwei<Fass”の条件、又は“Fwei<Fass+Pup”且つ“Pup <Fwei”の条件において昇段中の状態
操縦者が把手に昇段方向へ推進力Pupを加えて操作スイッチSwcはオン、モーターMcは推進力Fassを発動して昇段回転Rupしており、そのアシスト回転力は{制動クラッチTcのローターTcR ⇒ ローターTcL ⇒ CcR(連結軸45c)}へ伝達される。一方、自然落下力Fweiは無端ベルトBtの降段方向への回転(Rdwn)力となり、一方向クラッチCcは{CcL ⇒ CcR}方向へトルク連結して連結軸45cへ伝達され、前記したアシスト推進力Fassが駆動する昇段方向の回転(Rup)力の一部によって相殺される。力の差“Fass−Fwei”の作用により無端ベルトBtがDweiの逆方向へ昇段回転Rupする。
【0034】
<C>“Fwei<Pup”の条件においてオーバーラン昇段中の状態
アシストモーターMbのアシスト推進力Fassを要せずに、力の差“Pup−Fwei”の作用により無端ベルトBtが昇段方向へ回転(Rup)している。
昇降段制御手段50の作用は前項 <B> と同様に、アシスト推進力Fassによって連結軸45cが昇段回転Rupしている。一方では、操縦者の昇段推進力Pupが自然落下力Fweiを超えると力の差“Pup−Fwei”の作用により無端ベルトBtが昇段回転Rupするが、一方向クラッチCcは{CcL ⇒ CcR}方向へトルク非連結であって、前記したアシスト推進力Fassによる連結軸45cの昇段回転Rupに対してオーバーラン(差動回転)状態となる(実施例3の図13 <C> に同じ)。
【0035】
<D>“Ftrn<Fwei+Pdwn” の条件において降段中の状態
操縦者が把手に降段方向へ推進力Pdwnを加えて、力の差“Fwei+Pdwn−Ftrn” の作用により無端ベルトBtがDweiの方向へ降段回転Rdwnしており、対向する2個のローター{TaL ⇒ TaR}間では摩擦制動力Ftrnを発生させながら両者スリップ状態にある。操作スイッチSwcオフで停止しているギヤードモーターに備わるロックトルクTlckによって、モーターMcの出力軸は拘束ロックされ静止している。
【実施例6】
【0036】
図18は、実施例6の位置変更可能な無端ベルト装置の収納時側面図である、図19は、同装置の階段昇降時用に開脚した状態の側面図である。
無端ベルトユニット12と、2個のリンク棒リンクA06及びリンクB07と、旅行鞄とによって4つ棒リンクが構成されており、閉脚収納状態(図18)及び階段昇降用の開脚状態(図19)に変更可能な無端ベルト装置である。“閉脚⇔開脚”の変更は手動で容易に操作でき、ストッパー08及び引きばね09によって図示した両状態の位置でロックされる。無端ベルトユニット12は実施例1のものと同等である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
自走車両においても通常運行の駆動力を取り込むことによって、本階段昇降装置は自走車両にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1の無端ベルト装置10の斜視図
【図2】同装置の三面図
【図3】同装置の降段制動手段を構成する部分の断面図
【図4】同装置を底面に備えた旅行鞄が階段を昇降する状態の側面図
【図5】降段制動手段を構成する要素間の力の伝達および動作を示すダイヤグラム
【図6】同装置を底面に2基並べて設置した旅行鞄の斜視図
【図7】旅行鞄を開きはじめた状態の斜視図
【図8】旅行鞄を開いた状態の側面図
【図9】実施例2の無端ベルト装置10aを側面に備えたカートの斜視図
【図10】実施例3の無端ベルト装置10bの斜視図
【図11】昇段アシスト手段内の要素間の力の伝達および動作を示すダイヤグラム
【図12】実施例4の無端ベルト装置10abの斜視図
【図13】降段制動手段、昇段アシスト手段内の力の伝達、動作を示すダイヤグラム
【図14】実施例5の無端ベルト装置10cを側面に備えたカートの斜視図
【図15】昇降段制御手段の制動クラッチTcの斜視図
【図16】昇降段制御手段の制動クラッチTcの一部を断面で示した3面図
【図17】昇降段制御手段内の力の伝達および動作を示すダイヤグラム
【図18】実施例6の位置変更可能な無端ベルト装置の収納時側面図
【図19】同装置の階段昇降時用に開脚した状態の側面図
【符号の説明】
【0039】
Fwei 手動推進車の重量により発生する降段方向への落下力
Fbrk 制動器の入出両要素間に発生する降段方向への制動力
Ftrn 制動クラッチTcの入出両要素間において回転を伝達する摩擦制動力
Pup 操縦者が車両を押す又は引っ張ることによる昇段方向への推進力
Pdwn 操縦者が車両を押す又は引っ張ることによる降段方向への推進力
Ca、b、c 一方向クラッチ
CaL、bL、cL 一方向クラッチCa、b、cの無端ベルト側要素
CaR、bR、cR 一方向クラッチCa、b、cの上記と反対側要素
Ta、b、c 制動器、開閉クラッチ、制動クラッチ
TaL、bL、cL Ta、b、cの無端ベルト側要素
TaR、bR、cR Ta、b、cの上記と反対側要素
Rup 各要素の昇段方向の回転を示す
Rdwn 各要素の降段方向の回転を示す
RBup 無端ベルトの昇段方向の回転を示す
RBdwn 無端ベルトの降段方向の回転を示す
Dwei Fwei の作用によって無端ベルトを回転させようとする方向を示す
Bt 無端ベルト
Pa、b、c 連結プーリー
P プーリー
Mb、c アシストモーター
Swb、c 操作スイッチ
01 旅行鞄
02 カート
03 走行車輪
04 把手
05 蝶番
06 リンクA
07 リンクB
08 ストッパー
09 引きばね
10a、b、ab、c 無端ベルト装置
11 フレーム(無端ベルトユニットの)
12 無端ベルトユニット
20 降段制動手段
21 フレーム(降段制御手段の)
22 ブレーキドラム
23 ブレーキ帯
24 引っ張りバネ
25 キー
30 昇段アシスト手段
31 フレーム(昇段アシスト手段の)
45a、b、c 連結軸
46 タイミングプーリー
47 タイミングベルト
50 昇降段制御手段
51L、R フレーム(制動クラッチTcの)
51M フレーム(昇降段アシストモーターMcの)
52 支承軸
54L、R 摩擦円盤
55 スプリング









【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上のプーリーによって軌道を構成された無端ベルトユニットを階段昇降時の補助車輪として備えたハンドカート、旅行鞄等の手動推進車において、
連結プーリーPa、一方向クラッチCa、及び制動器Taが相互に連結して備わり、前記一方向クラッチCaは、無端ベルトが階段を降りる方向の回転(以後降段回転と記す)においては前記連結プーリーPa側から前記制動器Ta側の方向へトルク連結して回転を伝え、無端ベルトが階段を昇る方向の回転(以後昇段回転と記す)においては、前記側の方向へはトルク非連結となって回転を遮断するよう配置され、前記制動器Taが所定の制動抵抗力Fbrkを発動して前記降段回転を制動するよう配置構成された降段制動手段と、
連結プーリーPb、一方向クラッチCb、開閉クラッチTb、及び昇段アシストモーターMbが相互に連結して備わり、昇段回転において前記一方向クラッチCbが、前記開閉クラッチTb側から前記連結プーリーPb側の方向へトルク連結して前記昇段アシストモーターMbの回転を伝え、逆側の方向へはトルク非連結となって回転を遮断するよう配置され、前記開閉クラッチTbの作用は、「トルク連結/非連結」の動作が前記昇段アシストモーターMbの「昇段駆動回転/停止」の動作と連動して切り替わるものであり、降段回転においては前記昇段アシストモーターMbが停止、前記開閉クラッチTbがトルク非連結となって無端ベルト側の回転動作から遮断されるよう構成された昇段アシスト手段との、いずれか一方の手段又は両手段を備える無端ベルト装置。
【請求項2】
2個以上のプーリーによって軌道を構成された無端ベルトユニットを階段昇降時の補助車輪として備えたハンドカート、旅行鞄等の手動推進車において、
連結プーリーPc、一方向クラッチCc、制動クラッチTc及び昇段アシストモーターMcが相互に連結して備わり、前記一方向クラッチCcは、降段回転において前記連結プーリーPc側から前記制動クラッチTc側の方向へトルク連結して回転を伝え、昇段回転においては前記側の方向へトルク非連結となって回転を遮断するよう配置されており、前記制動クラッチTcはその両側から作用する力の差が所定の閾値内であればトルク連結して回転を伝え、前記閾値を超えるとその両側間に相対回転を許容し且つ所定の制動抵抗力Ftrnを発動して作用させるものであり、停止時において前記昇段アシストモーターMcの出力軸がロックトルクTlckによって拘束ロックされ静止するよう構成された昇降段制御手段を備える無端ベルト装置。
【請求項3】
請求項1、及び2記載の無端ベルト装置を階段昇降可能な位置に取り付け、又は階段昇降可能な位置及び収納位置に変更可能に取り付けたことを特徴とする階段昇降が容易な手動推進車。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−101923(P2009−101923A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276613(P2007−276613)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(305061069)有限会社ハイデン (4)
【Fターム(参考)】