説明

隔膜およびこれを用いた熱交換器

【課題】隔膜の防炎性を一層改善することを目的としている。
【解決手段】多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10と透湿性樹脂層20との複合膜30と、補強材40とを積層した隔膜12であって、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の目付量が0.5g/m以上7g/m以下であり、透湿性樹脂層20は、透湿性樹脂と、該透湿性樹脂100質量部に対して5質量部以上60質量部以下の難燃剤を含有している隔膜12を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱(全熱)交換膜、加湿膜、除湿膜、パーベーパレーション膜(例えば水と他の液体(エタノールなど)を分離するための膜)等として有用な隔膜およびこれを用いた熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の全熱交換膜として、親水性の難燃剤が含浸された紙製の隔膜が用いられている。しかし、紙製の隔膜は、耐水性が低い。例えば、熱交換器の使用状況によっては結露水が隔膜に付着することがある。この結露水が凍結することによって隔膜に破損が生じることがある。また隔膜に含ませた難燃剤が結露水によって溶出し、隔膜の難燃性或いは潜熱交換性能が低下することもある。
【0003】
特許文献1、2には、結露水による隔膜の破れを防止することを目的として、多孔質フッ素樹脂膜の表面に透湿性樹脂の連続層を形成した積層体を使用することが記載されている。この積層体は、通常、不織布などで補強されている。特許文献2には、この積層体の難燃性を高めるため、透湿性樹脂層に難燃剤を含ませることが記載されている。
【0004】
他方、特許文献3には、エレクトレットフィルターと難燃不織布とから構成される除塵フィルターが記載されており、エレクトレットフィルターと難燃不織布とを接着するための接着剤にも難燃剤を配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−133994号公報
【特許文献2】特開2006−150323号公報
【特許文献3】特開2002−292214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、様々な分野において利用されている隔膜は、万一の火災時でもその被害を最小限に留めるため、難燃剤を使用することにより防炎性が向上されている。しかしながら、難燃剤を使用する技術はある程度の成熟域に入っており、防炎性をさらに向上させるためには難燃剤の使用のみではない他の技術的アプローチを採ることも求められる。しかし現在のところ有効な対策は見出されていない。
【0007】
本発明は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜を使用した隔膜に特化して創案されたものであり、より詳しくは、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と透湿性樹脂層との複合膜と、補強材とを積層した隔膜の防炎性を向上したものである。本発明では、透湿性樹脂層に難燃剤を使用しつつも、他の解決手段を併用することにより、隔膜全体での防炎性をこれまで以上に改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し得た本発明の隔膜は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と透湿性樹脂層との複合膜と、補強材とを積層した隔膜であって、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の目付量を0.5g/m以上7g/m以下とし、前記透湿性樹脂層は、透湿性樹脂100質量部に対して5質量部以上60質量部以下の難燃剤を含有させたものである。特に多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の目付量を7g/m以下とすることにより、隔膜の一部に着火しても、消火するまでに隔膜が延焼する距離が短くなる。詳しくは、後述するJIS−Z−2150−A法の試験方法によって検証されるものとする。
【0009】
上記隔膜において、前記複合膜のうち、前記補強材が前記透湿性樹脂層に固着されている態様とすることが好ましい。
【0010】
上記隔膜において、前記透湿性樹脂として親水性ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0011】
上記隔膜において、前記補強材が繊維で構成されている態様とすることが好ましい。
【0012】
上記隔膜において、前記繊維を不織布とすることが好ましい。
【0013】
上記隔膜において、前記補強材にも難燃剤を添加することがより好ましい。
【0014】
上記隔膜において、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の平均細孔径を0.07〜10μmとすることが好ましい。
【0015】
上記隔膜において、前記難燃剤に無機系化合物が含まれている態様とすることが好ましい。
【0016】
上記隔膜において、前記無機系化合物としてアンチモン化合物または金属水酸化物が含まれている態様とすることが好ましい。
【0017】
上記隔膜において、前記難燃剤にリン系難燃剤が含まれている態様とすることが好ましい。
【0018】
上記隔膜において、前記補強材が熱溶融性樹脂繊維を含む態様とすることが好ましい。
【0019】
上記隔膜において、前記熱溶融性樹脂繊維としてポリエステル系繊維を使用することが好ましい。
【0020】
上記隔膜において、前記補強材が非熱溶融性繊維を含む態様とすることが好ましい。
【0021】
上記隔膜において、前記非熱溶融性繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。
【0022】
上記隔膜において、前記非熱溶融性繊維として熱硬化性樹脂繊維を用いることが好ましい。
【0023】
上記隔膜において、前記熱硬化性樹脂繊維をポリイミド繊維で構成することが好ましい。
【0024】
上記隔膜を熱交換器に用いることにより、防炎性が向上した熱交換器を提供することが可能となる。
【0025】
なお、本明細書でいう「層」および「膜」は、いずれも、それらの厚みを区別するものではない。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と透湿性樹脂層と積層した隔膜を構成し、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の目付量を0.5g/m以上7g/m以下とし、透湿性樹脂層に、透湿性樹脂100質量部に対して5質量部以上60質量部以下の難燃剤を含有させ、補強材とを積層することにより、隔膜全体での防炎性をこれまで以上に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態における隔膜の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における他の隔膜の断面図である。
【図3】隔膜を用いた熱交換器の一例を示すものである。
【図4】実施例1における多孔質PTFE膜の目付量と防炎性との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2における多孔質PTFE膜の目付量と防炎性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態にかかる隔膜について説明する。図1は、本発明の実施の形態における隔膜の断面図である。図1に示すように、本発明の実施の形態における隔膜12は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10と透湿性樹脂層20との複合膜30と、補強材40とを積層したものである。本発明の他の実施の形態として、図2に示すように、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10と透湿性樹脂層20との積層順を、図1の例とは逆とした複合膜30と、補強材40とを積層したものも同様に実施可能である。
【0029】
隔膜12が一定の防炎性能を満たすために、透湿性樹脂層20は透湿性樹脂の他に難燃剤を含有している。詳細は後述するが、難燃剤の含有割合は透湿性樹脂100質量部に対して5質量部以上60質量部以下である。
【0030】
本発明者らは、隔膜12の構成要素(膜10)として多孔質ポリテトラフルオロエチレンという特定の材料を用いることを前提として隔膜12の防炎性を高めるための研究を進めてきた。その結果、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の目付量が7g/m以下である場合に、隔膜12の防炎性が非常に高まることを発見した。これまでは防炎性の向上については専ら難燃剤の配合に依存してきたが、本発明では、透湿性樹脂層に難燃剤を使用しつつも多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の目付量を特定の範囲とすることにより、隔膜全体での防炎性をこれまで以上に改善することができるものである。防炎性は、JIS−Z−2150−A法(薄い材料の防炎試験方法(45°メッケルバーナ法))に基づく指標であり、被試験材料(本発明では隔膜12)を炎に近づけたときの炭化長、残炎、残じんから決定される。試験結果は、防炎1級、防炎2級、防炎3級に分類され、防炎1級が最も防炎性の高いものである。
【0031】
本発明において隔膜12の防炎性を一層確実に高めるためには、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の目付量を好ましくは6g/m以下、より好ましくは5g/m以下、さらに好ましくは4g/m以下にすることが望ましい。一方、防炎性の面からは目付量の下限は特に制限されるものではないが、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の破れを防止するために0.5g/m以上にする。目付量は、好ましくは0.7g/m以上、より好ましくは1.0g/m以上、さらに好ましくは1.5g/m以上とすることが望ましい。
【0032】
以下、隔膜12の基本的構成要素となる多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10、透湿性樹脂層20、補強材40について更に詳しく説明する。
【0033】
[多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10]
多孔質ポリテトラフルオロエチレンは、延伸により多孔質化したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)材料である。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10は、空孔率を高くすることが可能である。また極めて微細な孔を形成できる。
【0034】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10は、PTFEのファインパウダーを成形助剤と混合して得られるペーストを成形し、該成形体から成形助剤を除去した後、高温高速度で延伸し、さらに必要に応じて焼成することにより得られる。その詳細は、例えば特公昭51−18991号公報に記載されている。なお、延伸は、1軸延伸であってもよいし、2軸延伸であってもよい。1軸延伸の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10は、ミクロ的には延伸方向と略直交する細い島状のノード(折り畳み結晶)が存在し、このノード間を繋ぐようなすだれ状のフィブリル(前記折り畳み結晶が延伸により溶けて引き出された直鎖状の分子束)が延伸方向に配向している点に特徴がある。一方、2軸延伸の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10は、フィブリルが放射状に拡がり、フィブリルを繋ぐノードが島状に点在してフィブリルとノードとで分画された空間が多数存在するクモの巣状の繊維質構造となっている点にミクロ的な特徴がある。2軸延伸の多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10は、1軸延伸のものよりも広幅化が容易であり、縦方向・横方向の物性バランスに優れ、単位面積あたりの生産コストが安くなるため、特に好適に用いられる。
【0035】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の平均細孔径は、例えば、0.07〜10μm程度である。平均細孔径が小さすぎると多孔質膜10の透湿性が低下するため、隔膜12の透湿能力が低下、隔膜12を熱交換膜として使用したときの熱交換能力が低下する。より好ましい平均細孔径は0.09μm以上である。逆に平均細孔径が大きすぎると、透湿性樹脂層20が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の細孔内に入り込み易くなる。この結果、透湿性樹脂の実質的な厚さ(透湿樹脂部の厚さ+多孔質膜内の透湿樹脂部の厚さ)が厚くなり、水分の移動時間が長くなって透湿性が低下する。より好ましくは5μm以下である。
【0036】
なお、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の平均細孔径は、コールターエレクトロニクス社のコールターポロメーターを用いて測定した孔径の平均値を意味する。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の平均細孔径は延伸倍率等によって適宜制御できる。
【0037】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の空孔率は前記平均細孔径に応じて適宜設定できるが、例えば、50%以上(好ましくは60%以上)、98%以下(好ましくは90%以下)であることが推奨される。
【0038】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の空孔率は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の質量Wと、空孔部を含む見かけの体積Vとを測定することによって求まる嵩密度D(D=W/V:単位はg/cm)と、全く空孔が形成されていないときの密度Dstandard(PTFE樹脂の場合は2.2g/cm)を用い、下記式に基づいて算出できる。なお、体積Vを算出する際の厚みは、ダイヤルシックネスゲージで測定した(テクロック社製「SM−1201」を用い、本体バネ荷重以外の荷重をかけない状態で測定した)ときの平均厚みによる。
空孔率(%)=[1−(D/Dstandard)]×100
【0039】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の通気度は、例えば、500秒以下、好ましくは10秒以下である。通気度の値が大きすぎると、膜の透湿性が低くなり、得られる隔膜12の透湿性が不充分となる。また隔膜12を熱交換膜やパーベーパレーション膜として使用したときに、熱交換能力の低下や分離効率の低下が生じる。通気度の測定法については後述する。
【0040】
[透湿性樹脂層20]
透湿性樹脂層20は、透湿性樹脂よりなる無孔質の膜状の層であり、熱および湿気(水蒸気)は通過させるが空気は通さず、隔膜としての機能を発揮する部分である。透湿性樹脂としては非水溶性のものを使用してもよいが、本発明の隔膜12は耐結露性が高められているため、水溶性のものであっても難水溶化することで使用できる。難水溶化の方法としては、例えば、熱処理と架橋剤の添加を併用する方法がある。
【0041】
透湿性樹脂としては、親水性ポリウレタンが挙げられる。そのほか、ポリビニルアルコールやポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸を使用することができる。
【0042】
上記機能を発揮できる限り透湿性樹脂層20の厚みは特に限定されないが、例えば、0.01μm〜100μm程度、好ましくは0.1〜50μm程度、さらに好ましくは0.1〜10μm程度である。薄すぎるとコーティングのむらやピンホールが発生する可能性がある。一方、厚すぎると、透湿性樹脂層20の透湿性が低下してしまう。
【0043】
上記透湿性樹脂層20は難燃剤を含有している。難燃剤を含むことにより透湿性樹脂層20の難燃性(防炎性)を高めることができ、その結果、隔膜12全体の難燃性を一定以上に確保することができる。難燃剤の含有量は、透湿性樹脂100質量部に対して5質量部以上60質量部以下である。難燃剤の下限値を5質量部としたのは、難燃性の実効性を担保する観点からであり、より好ましくは8質量部、さらに好ましくは10質量部とする。一方、難燃剤が60質量部を超えて含まれると透湿性樹脂の含有量が相対的に少なくなってしまうため、透湿性樹脂層20としての機能が発揮されなくなる。そのため難燃剤の含有量の上限値を60質量部とした。より好ましくは50質量部、さらに好ましくは40質量部とする。透湿性樹脂層20への添加方法は、透湿性樹脂の原材料に難燃剤を添加し、合成樹脂混合機等でこれらを混合すればよい。
【0044】
難燃剤の種類は特に限定されず、必要とされる難燃性のグレードに応じて適宜決定できる。環境への影響を考慮すると、非ハロゲン系の難燃剤を用いることが望ましい。より具体的には、芳香族リン酸エステル系の難燃剤、リン酸グアニジン系の難燃剤、脂環式リン酸エステル系の難燃剤などを使用できる。芳香族リン酸エステル系の難燃剤は非水溶性であり、補強材40を構成する繊維状樹脂のガラス転移温度以上に加熱されると繊維に吸収されるため、結露水などと接触しても溶出せず、安定した難燃効果が期待できる。リン酸グアニジン系の難燃剤や脂環式リン酸エステル系の難燃剤は、吸水性があるため、吸湿剤としての効果も期待できる。他方、難燃剤として無機系化合物を使用することも可能である。無機系化合物としては、アンチモン化合物または金属水酸化物を使用ことができる。
【0045】
隔膜12全体としては、JIS−Z−2150−A法に規定される防炎3級程度やUL94に規定されるVTM−2程度の難燃性を満たすことが望ましい。
【0046】
透湿性樹脂層20は、さらに吸湿剤を含んでいてもよい。吸湿剤を含むと透湿性樹脂層20の保水量を多くすることができ、透湿性を更に高めることができる。吸湿剤としては、水溶性の塩を使用できる。具体的には、リチウム塩やリン酸塩などを用いることができる。
【0047】
本発明の隔膜12の通気度は、例えば、3000秒以上である。通気度が小さすぎると、隔膜で隔てられている流体が混合する虞がある。なお、通気度の上限は特に限定されず、全く通気しなくてもよい。なお、通気度はガーレー数を意味する。ガーレー数とは、100cmの空気が1平方インチ(6.45cm)当たりの面積を1.23kPaの圧力で流れるのに要する時間(秒)である(JIS−P−8117)。
【0048】
また本発明の隔膜12の透湿度は、例えば、3000g/m/24時間以上である。透湿度が低すぎると水蒸気の透過が不充分となり、隔膜12表面で水分が凝集して結露が発生し、膜劣化の原因となる。好ましくは6000g/m/24時間以上、より好ましくは10000g/m/24時間以上である。透湿度は高いほどよく、上限は限定されない。なお、透湿度はJIS−L−1099(B−1法)に準拠して測定した値である。
【0049】
[補強材40]
上記補強材40は、上記複合膜30を補強でき、かつ被処理流体(例えば熱交換および湿度交換すべき外気など)と複合膜30とを遮断しない程度の空隙(通気性)を有するものである。上記補強材40の空孔率は、例えば、30〜95%程度である。
【0050】
補強材40は、通常、繊維状の樹脂で形成されている。繊維状の樹脂を使用することによって、所定の空孔率を有する補強材40を簡便に製造できる。繊維状樹脂によって形成される補強材40は、織布、編布、不織布、ネットのいずれであってもよい。特に好ましい繊維状補強材40は、不織布である。不織布は、多数の繊維からなる微細な空隙部分(繊維間の隙間)を有しているため、透湿性を発揮できる。
【0051】
不織布としては目付の小さい不織布を用いることが好ましく、難燃剤を含まないスパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、湿式不織布、或いは、ニードルパンチ製法・スパンレース・メルトブロー等その他製法で作られた不織布を用いることもできる。不織布の材料にはポリエステル系・オレフィン系・スチレン系・アラミド系、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の溶融樹脂を用いたものでもよい。
【0052】
また、隔膜12の難燃性を一層向上させるために、補強材40の材料として、繊維に難燃剤を練り込んだ難燃不織布を用いることもできる。例えば、東洋紡績株式会社製のハイム(登録商標)、旭化成株式会社製のエルタスFR(登録商標)がある。またそれらに使用されている原綿を使った難燃不織布も同様に使用することができる。また溶融しないナイロン、アクリル、炭素等の繊維を使った不織布を用いることも可能である。
【0053】
複合膜30と補強材40の接合には、例えば、接着剤を使用する方法を用いることができる。接着剤としては汎用の接着剤を用いることもできるが、透湿性樹脂を用いることが好ましい。隔膜12全体の透湿度を保つためである。透湿性樹脂材料としては、上記のように親水性ポリウレタンが挙げられるほか、ポリビニルアルコールやポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸を使用することができる。このような接着剤の塗布方法としては、例えば、透湿性樹脂を複合膜30に塗った直後に硬化前に補強材40を貼り合わせることも考えられる。
【0054】
補強材40の繊維材料として熱溶融性樹脂を使用すれば、複合膜30との接合には熱融着による方法を採用することもできる。この場合は、接着剤を塗布する場合に比べて、隔膜12の製造工程を簡略化することができる。
【0055】
例えば、上記した図2に示すように、補強材(樹脂)40と多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10とを接合する場合は、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10と補強材40の固着性を著しく高めることができる。補強材40の一部が多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜10の細孔へと浸入するためである。
【0056】
補強材40を形成する繊維は、熱溶融性樹脂と非熱溶融性樹脂とを組み合わせて使用することもできる。熱溶融性樹脂を単独で使用すると、樹脂が溶融し過ぎて緻密な膜を形成してしまう結果、透湿性が低下したり、シワが発生したりすることがある。非熱溶融性樹脂と組み合わせることにより緻密な膜の形成を防止できる。更に隔膜12の表面積を大きくするためにコルゲート加工などの変形加工を施す場合、熱溶融性樹脂と非熱溶融性樹脂とで補強材40を形成すれば、熱溶融性樹脂の作用により変形加工時に型が付き易くなり、非熱溶融性樹脂の作用によりその形態を維持しやすくなる。
【0057】
熱溶融性樹脂と非熱溶融性樹脂とを組み合わせて用いる場合、熱溶融性樹脂と非熱溶融性樹脂とを混合した混合繊維を使用してもよく、例えば、熱溶融性樹脂が非熱溶融性樹脂の周りを覆っている割繊可能な構造の混合繊維を使用してもよいし、熱溶融性樹脂と非熱溶融性樹脂の両方で一体成形された繊維を使用してもよい。このような一体型の繊維としては、例えば、非熱溶融性樹脂の周りを熱溶融性樹脂で覆った芯鞘構造の繊維が挙げられる。
【0058】
また、上記に限らず、融点及び材質が異なる樹脂で形成された芯鞘構造の繊維を使用することもできる。また、補強材40として、熱溶融樹脂をバインダーとして用いて非熱溶融樹脂からなる繊維群を一体化した不織布を用いることも可能である。
【0059】
補強材40を形成する繊維に用いる樹脂としては吸湿性の低い樹脂が推奨される。吸湿性が高い程、結露した際に強度が低下し、隔膜12が変形したり破損したりしやすくなってしまう。吸湿性の低い樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂やナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。吸放湿性が高い補強材もまた、透湿性能が上がるので推奨される。吸湿性の高い樹脂としてはビニロン、ウレタン等が挙げられる。なお、難燃剤を使用する場合、ポリオレフィン系樹脂の表面エネルギーは高いため、難燃剤の固定が困難となる。従って難燃剤を使用する場合には、ポリオレフィン系以外の樹脂(例えば、アクリル系樹脂やナイロン系樹脂、ビニロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂など)が好適に使用できる。
【0060】
補強材40の目付量としては2〜100g/m、好ましくは3〜50g/m、さらに好ましくは5〜40g/mとすることが望ましい。目付量が小さすぎると補強の実効を果たせず、他方、目付量が大きすぎると全熱交換効率が低下してしまうからである。補強材40の目付が大きくなりすぎると隔膜12の透湿能力が低下し、さらにはこの隔膜12を使用する装置(熱交換器、加湿器、除湿器など)が大型化する。また隔膜12を熱交換膜として使用したときには、熱交換能力が低下する。一方、補強材40の目付が小さすぎると隔膜12の加工性を損なう。
【0061】
補強材40の厚みは特に限定されないが、例えば、5μm以上(好ましくは10μm以上)、1000μm以下(好ましくは500μm以下)程度である。
【0062】
[熱交換器]
上記隔膜12の用途の一例として、隔膜12を用いた熱交換器について説明する。図3は、隔膜12を用いた熱交換器の一例を示すものである。
【0063】
図3中、1はセパレータ、12は熱交換膜として使用される隔膜、3は排出空気の流れ、4は吸入空気の流れを夫々示している。セパレータ1は波状を呈しており、隔膜12と交互に積層されている。このとき、セパレータ1の波形方向は、隣り合う他のセパレータ1の波形方向と互いに直交するように配置して排出空気と吸入空気の流路を形成している。
【0064】
例えば、排出空気3が暖房室内の暖かく加湿された空気であり、吸入空気4が戸外の冷たい乾燥した空気の場合、両者がセパレータ1と隔膜12で形成される各流路を通過する際に、隔膜12を介して熱と湿気の交換が行なわれる。その結果、吸入空気4は暖められると共に、加湿された状態で暖房室内へ吸入される。従って、暖房室内の暖房効率が上昇すると共に室内の空気の調湿も可能となる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0066】
(実施例1)
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(多孔質PTFE膜)の目付量が異なる5種類の隔膜試料(試料番号1A〜5A)を準備して各試料の防炎性等を確認する試験を行った。多孔質PTFE膜の目付量はそれぞれ、3g/m,6g/m,9g/m,12g/m,20g/mである。
【0067】
透湿性樹脂材料として親水性ポリウレタン樹脂(ダウケミカル社製「ハイポール2000」)を用い、親水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して日華化学(株)製リン系難燃剤(商品名「ニッカファイノン」)を40質量部混合したものを多孔質PTFE膜に約10g/mの割合でコーティングすることにより多孔質PTFE膜と透湿性樹脂層との複合膜を得た。
【0068】
補強材として、リン系難燃剤を共重合したポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布(東洋紡績株式会社製のハイム(登録商標)H3201(目付量20g/m、厚さ0.15mm))を用いた。上記親水性ポリウレタン樹脂が硬化する前に補強材と複合膜と貼り合わせて隔膜とした。
【0069】
表1は、各試料の仕様と試験結果を示すものである。図4は、表1の中でも多孔質PTFE膜の目付量と防炎性との関係をグラフにしたものである。
【0070】
【表1】

【0071】
表1及び図4より、多孔質PTFE膜の目付量が20g/mの試料5Aは、隔膜の炭化長が17cmであり防炎性は不合格であった。これに対して、多孔質PTFE膜の目付量が9g/m,12g/mの試料3A,4Aでは、隔膜の炭化長が14〜15cmであり防炎3級に合格していた。そして多孔質PTFE膜の目付量が3g/m,6g/mの試料は、驚くべきことに隔膜の炭化長が4cmと格段に減少しており、防炎性が1級に合格する程であった。また難燃耐久性(温水浸責後の防炎性である。詳しくは後述する)も低下しなかった。これらの結果から多孔質PTFE膜の目付量が7g/m以下(好ましくは6g/m以下)である場合には防炎性が格段に優れるといえる。
【0072】
(実施例2)
多孔質PTFE膜の目付量又は補強材の種類が異なる6種類の隔膜試料(試料番号1B〜6B)を準備して各試料の防炎性等を確認する試験を行った。多孔質PTFE膜の目付量はそれぞれ、3g/m,3g/m,6g/m,9g/m,12g/m,12g/mである。
【0073】
透湿性樹脂材料として親水性ポリウレタン樹脂(ダウケミカル社製「ハイポール2000」)を用い、親水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して日華化学(株)製リン系難燃剤(商品名「ニッカファイノン」)を40質量部混合したものを多孔質PTFE膜に約10g/mの割合でコーティングすることにより多孔質PTFE膜と透湿性樹脂層との複合膜を得た。
【0074】
補強材として、難燃剤を含まないポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布(東洋紡績(株)製のエクーレ(登録商標):品番3151A(目付量15g/m、厚さ0.12mm)又は、品番3201A(目付量20g/m、厚さ0.15mm))を用いた。上記親水性ポリウレタン樹脂が硬化する前に補強材と複合膜と貼り合わせて隔膜とした。
【0075】
表2は、各試料の仕様と試験結果を示すものである。図5は、表2の中でも品番3151A(目付量15g/m)を用いた試料(1B,3B,4B,5B)の多孔質PTFE膜の目付量と防炎性との関係をグラフにしたものである。
【0076】
【表2】

【0077】
表2より、多孔質PTFE膜の目付量が9〜12g/mの試料4B〜6Bでは、隔膜の炭化長が16〜18cmであり防炎性が不合格であった。これに対して、多孔質PTFE膜の目付量が3〜6g/mの試料1B〜3Bでは、実施例1と同様に隔膜の炭化長が4〜5cmと格段に減少しており、防炎性が1級に合格するものであった。また難燃耐久性も低下しなかった。
【0078】
補強材として難燃剤を含まない繊維を用いているにもかかわらず、実施例2では、表2および図5から分かるように、実施例1と同様に多孔質PTFE膜の目付量が7g/m以下(好ましくは6g/m以下)である場合には防炎性が格段に優れている。
【0079】
(実施例3)
多孔質PTFE膜の目付量が異なる5種類の隔膜試料(試料番号1C〜5C)を準備して各試料の防炎性等を確認する試験を行った。多孔質PTFE膜の目付量はそれぞれ、3g/m,6g/m,9g/m,12g/m,20g/mである。
【0080】
透湿性樹脂材料として親水性ポリウレタン樹脂(ダウケミカル社製「ハイポール2000」)を用い、親水性ポリウレタン樹脂を多孔質PTFE膜に約10g/mの割合でコーティングすることにより多孔質PTFE膜と透湿性樹脂層との複合膜を得た。実施例3では、透湿性樹脂膜に難燃剤を混合していない。
【0081】
補強材として、リン系難燃剤を共重合したポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布(東洋紡績株式会社製のハイム(登録商標)H3201(目付量20g/m、厚さ0.18mm))を用いた。上記親水性ポリウレタン樹脂が硬化する前に補強材と複合膜と貼り合わせて隔膜とした。表3は、各試料の仕様と試験結果を示すものである。
【0082】
【表3】

【0083】
表3より、多孔質延伸PTFEの目付量の大小にかかわらず、全ての試料において防炎性が不合格であった。このことから、隔膜の一部を構成する透湿性樹脂層には難燃剤を含有させる必要があることが確認される。
【0084】
(実施例4)
透湿性樹脂膜に混合する難燃剤の配合比率が異なる3種類の隔膜試料(試料番号1D〜3D)を準備して各試料の防炎性等を確認する試験を行った。多孔質PTFE膜の目付量は、3g/mである。
【0085】
透湿性樹脂材料として親水性ポリウレタン樹脂(ダウケミカル社製「ハイポール2000」)を用い、親水性ポリウレタン樹脂100質量部に対して日華化学(株)製リン系難燃剤(商品名「ニッカファイノン」)を20質量部混合したもの(試料2D)、40質量部混合したもの(試料3D)、全く混合しないもの(試料1D)の3種類を、それぞれ多孔質PTFE膜に約10g/mの割合でコーティングすることにより、多孔質PTFE膜と透湿性樹脂層との複合膜を得た。
【0086】
補強材として、リン系難燃剤を共重合したポリエステル繊維からなるスパンボンド不織布(東洋紡績株式会社製のハイム(登録商標)H3201(目付量20g/m、厚さ0.15mm))を用いた。上記親水性ポリウレタン樹脂が硬化する前に補強材と複合膜と貼り合わせて隔膜とした。表4は、各試料の仕様と試験結果を示すものである。
【0087】
【表4】

【0088】
表4より、透湿性樹脂膜に難燃剤を含有させた試料2Dと試料3Dでは、防炎1級が得られており、透湿性樹脂層には難燃剤を含有させる必要があることが実施例3と同様に確認された。
【0089】
上記各実験例で得られた隔膜の通気度はいずれも10000秒以上であった。また隔膜の他の物性を以下のようにして評価した。
【0090】
(1)防炎性
JIS−Z−2150−A法に準拠(加熱時間10秒)して隔膜の防炎性を調べた。試験後の透湿性隔膜材料の炭化長を調べ、以下の基準で評価した。
合格(防炎1級):炭化長が50mm以下
合格(防炎2級):炭化長が50mm超、100mm以下
合格(防炎3級):炭化長が100mm超、150mm以下
不合格 :炭化長が150mm超
【0091】
(2)難燃耐久性
隔膜を50℃の温水に5時間浸漬し乾燥した後に、上記JIS−Z−2150−A法に従って試験をした場合の防炎性である。温水の浸漬後に再度防炎性を試験したのは、結露等を想定して、難燃剤流出による性能劣化の有無を調べるためである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の隔膜は、熱交換器、加湿器、除湿器、パーベーパレーション膜を用いた分離装置など、防炎性を要求される用途全般に利用することが可能である。そのほか、建材用途、車両用の資材、消防服・戦闘服等の防火服用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
10 多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜
20 透湿性樹脂層
30 複合膜
40 補強材
12 隔膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜と透湿性樹脂層との複合膜と、補強材とを積層した隔膜であって、前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の目付量が0.5g/m以上7g/m以下であり、前記透湿性樹脂層は、透湿性樹脂と、該透湿性樹脂100質量部に対して5質量部以上60質量部以下の難燃剤を含有している隔膜。
【請求項2】
前記補強材が前記透湿性樹脂層に固着されている請求項1に記載の隔膜。
【請求項3】
前記透湿性樹脂が親水性ポリウレタン樹脂である請求項1または2に記載の隔膜。
【請求項4】
前記補強材が繊維で構成されている請求項1〜3のいずれかに記載の隔膜。
【請求項5】
前記繊維が不織布である請求項4に記載の隔膜。
【請求項6】
前記補強材に難燃剤が添加されている請求項1〜5のいずれかに記載の隔膜。
【請求項7】
前記多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜の平均細孔径が0.07〜10μmである請求項1〜6のいずれかに記載の隔膜。
【請求項8】
前記難燃剤に無機系化合物が含まれている請求項1〜7のいずれかに記載の隔膜。
【請求項9】
前記無機系化合物としてアンチモン化合物または金属水酸化物が含まれている請求項8に記載の隔膜。
【請求項10】
前記難燃剤にリン系難燃剤が含まれている請求項1〜9のいずれかに記載の隔膜。
【請求項11】
前記補強材が熱溶融性樹脂繊維を含む請求項1〜10のいずれかに記載の隔膜。
【請求項12】
前記熱溶融性樹脂繊維がポリエステル系繊維である請求項11に記載の隔膜。
【請求項13】
前記補強材が非熱溶融性繊維を含む請求項1〜10のいずれかに記載の隔膜。
【請求項14】
前記非熱溶融性繊維が炭素繊維である請求項13に記載の隔膜。
【請求項15】
前記非熱溶融性繊維が熱硬化性樹脂繊維である請求項13に記載の隔膜。
【請求項16】
前記熱硬化性樹脂繊維がポリイミド繊維である請求項15に記載の隔膜。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の隔膜を用いた熱交換器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−37120(P2012−37120A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176535(P2010−176535)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000107387)日本ゴア株式会社 (121)
【Fターム(参考)】