説明

集合住宅用インターホンシステム

【課題】複数の住戸機間における一斉放送の音量のばらつきを抑える。
【解決手段】一斉放送の音量が所定範囲の値となるように補正する音量補正部30を各住戸機2が備えているため、複数の住戸機2間における一斉放送の音量のばらつきを抑えることができる。しかも、音量補正部30においては増幅器39で増幅する前の一斉放送用音声信号をバンドパスフィルタ42に通すことにより、音声の周波数帯域成分以外のノイズ成分が除去されるので、音声の周波数帯域以外のノイズ成分が増幅器39で増幅されるのを防いでスピーカ22から送出されるノイズの影響を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅の共用玄関に設置された共用部装置と各住戸にそれぞれ設置される住戸機の何れか1台との間で択一的に通信路を確立して通話可能とする集合住宅用インターホンシステムに関し、特に共用部装置と1台の住戸機とが一対一で通話する個別通話の他に、集合住宅の共用部や管理人室などに設置された一斉放送装置により複数の住戸機へ音声を一斉に放送することができる集合住宅用インターホンシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、集合住宅の共用玄関に設置され音声の入出力が可能な共用部装置(ロビーインターホン)と、集合住宅の各住戸にそれぞれ設置され共用部装置とは伝送線路を介して接続されるとともに共用部装置が有する選択手段(テンキーなど)を来訪者が操作することにより選択されると共用部装置との間で通信路を確立する複数台の住戸機(インターホン親機や住宅情報盤など)と、集合住宅の各住戸にそれぞれ設置され住戸機とは通話用の子器接続線を介して接続されるドアホン子器と、集合住宅の共用部若しくは管理人室に設置され各住戸機とは伝送線路を介して接続されるとともに一部又は全部の住戸機に対して一斉に音声を放送する一斉放送装置とを備えた集合住宅用インターホンシステムが提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−14125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、集合住宅の規模によっては一斉放送装置から各住戸機までの伝送線路の配線長が数百メートルから数キロメートルにも及ぶ場合があり、また住戸機の接続台数及び、幹線機器(共用部装置や一斉放送装置)の台数も集合住宅の規模によって異なるため、配線、住戸機、幹線機器のインピーダンスに起因した伝送線路の伝送ロスも悪化して住戸機における一斉放送の音量が低下してしまい、住戸機間に音量のばらつきが生じるという問題があった。尚、音量の低下に対しては一斉放送用音声信号を増幅することで対処可能であるが、個々の住戸機間における音量のばらつきを抑えることはできない。ここで、「伝送ロス」とは、伝送系の2地点間(上述の例では一斉放送装置と各住戸機の間)において、送信信号に対する受信信号の振幅や位相の変化及びその変化量と定義される。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、複数の住戸機間における一斉放送の音量のばらつきを抑えることができる集合住宅用インターホンシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、集合住宅の共用玄関に設置され音声の入出力が可能な共用部装置と、集合住宅の各住戸にそれぞれ設置され共用部装置とは伝送線路を介して接続されるとともに共用部装置が有する選択手段を来訪者が操作することにより選択されると共用部装置との間で通信路を確立する複数台の住戸機と、集合住宅の各住戸にそれぞれ設置され住戸機とは通話用の子器接続線を介して接続されるドアホン子器と、集合住宅の共用部若しくは管理人室に設置され各住戸機とは伝送線路を介して接続されるとともに一部又は全部の住戸機に対して一斉に音声を放送する一斉放送装置とを備え、伝送線路は、少なくとも選択手段の操作に伴って発生し個別通話の開始を指示する制御信号を伝送する制御線と、音声信号を伝送する信号線とからなり、住戸機は、共用部装置並びにドアホン子器との間で各々信号線及び子器接続線を介した通話を行う通話手段と、少なくとも一斉放送の音声を鳴動するスピーカと、信号線を通話手段に接続する状態とスピーカに接続する状態とを択一的に切り換える個別通話/一斉放送切換手段と、個別通話/一斉放送切換手段とスピーカの間に設けられ一斉放送の音量が所定範囲の値となるように補正する音量補正手段と、制御線を介して伝送される制御信号に基づいて個別通話/一斉放送切換手段を制御する制御手段とを備え、各住戸機では、制御線を介して一斉放送開始を指示する制御信号が伝送され、当該制御信号を受信したときに制御手段が個別通話/一斉放送切換手段を制御して信号線をスピーカに接続する状態に切り換えさせる集合住宅用インターホンシステムであって、一斉放送装置は、一斉放送用音声信号を出力する前に信号線を介して各住戸機へトレーニング信号を送信するトレーニング信号送信手段を有し、トレーニング信号の送信後に一斉放送用音声信号を送信してなり、音量補正手段は、信号線を介して受信したトレーニング信号に基づいて信号線経路の伝送ロスを推定する伝送ロス推定手段と、一斉放送用音声信号に対して伝送ロス推定手段で推定した伝送ロスを補償する伝送ロス補償手段と、一斉放送用音声信号から音声の周波数帯域成分のみを通過させるバンドパスフィルタと、トレーニング信号をバンドパスフィルタを通さずに伝送ロス推定手段に入力する手段とからなることを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、バンドパスフィルタは、伝送ロス推定手段で推定される伝送ロスの値に応じて、停止して音声周波数帯域成分を通過させるか、あるいは通過帯域を変更することを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、住戸機は、音量補正手段で補正される前の一斉放送用音声信号を増幅する増幅手段と、伝送ロス推定手段で推定される伝送ロスの値に応じて増幅手段の増幅度を調整する調整手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、音量補正手段がトレーニング信号を検出するトレーニング信号検出手段を有し、トレーニング信号検出手段がトレーニング信号を検出した後に伝送ロス推定手段が伝送ロスの推定を開始することを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、トレーニング信号検出手段は、入力信号の信号パワーを推定する第1の信号パワー推定部と、入力信号からトレーニング信号の周波数帯域成分のみを通過させる帯域通過フィルタと、帯域通過フィルタを通過した入力信号の信号パワーを推定する第2の信号パワー推定部と、第1の信号パワー推定部で推定した信号パワーと第2の信号パワー推定部で推定した信号パワーとに基づいて入力信号がトレーニング信号か否かを判定する判定部とを具備することを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は、請求項4の発明において、トレーニング信号送信手段は、トレーニング信号として互いに周波数が異なる複数のトーン信号を順次送信し、トレーニング信号検出手段は、入力信号からトレーニング信号の個々の周波数帯域成分のみを通過させる複数の帯域通過フィルタと、各帯域通過フィルタを通過した入力信号の信号パワーを推定する複数の信号パワー推定部と、推定した信号パワーが所定のしきい値を超える信号パワー推定部の比率に基づいて入力信号がトレーニング信号か否かを判定する判定部とを具備することを特徴とする。
【0011】
請求項7の発明は、請求項4の発明において、トレーニング信号送信手段は、トレーニング信号として互いに周波数が異なる複数のトーン信号を順次送信し、トレーニング信号検出手段は、入力信号からトレーニング信号の周波数帯域成分のみを通過させる帯域通過フィルタと、帯域通過フィルタを通過した入力信号の信号パワーを推定する信号パワー推定部と、帯域通過フィルタを通過した入力信号が単一のトーン信号か否かを検出するシングルトーン検出部と、信号パワー推定部で推定した信号パワーとシングルトーン検出部の検出結果とに基づいて入力信号がトレーニング信号か否かを判定する判定部とを具備することを特徴とする。
【0012】
請求項8の発明は、請求項4〜6の何れかの発明において、判定部は、入力信号がトレーニング信号であると判定する条件が所定時間以上継続して満たされたときに入力信号をトレーニング信号と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、一斉放送の音量が所定範囲の値となるように補正する音量補正手段を各住戸機が備えているため、一斉放送の対象となる住戸機の台数や各住戸機までの配線長に応じて一斉放送装置で一斉放送用音声信号の増幅度を調整することなく、複数の住戸機間における一斉放送の音量のばらつきを抑えることができ、しかも、音量補正手段が一斉放送用音声信号から音声の周波数帯域成分のみを通過させるバンドパスフィルタを有しているので、音声の周波数帯域以外のノイズ成分が増幅されるのを防いでスピーカから送出されるノイズの影響を低減することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、伝送ロス推定手段で推定される伝送ロスの値に応じてバンドパスフィルタを停止又はその通過帯域を変更するので、バンドパスフィルタによる一斉放送の音質劣化を低減することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、音量補正手段で補正される前の一斉放送用音声信号を増幅する増幅手段の増幅度を、伝送ロス推定手段で推定される伝送ロスの値に応じて調整手段が調整するので、音量補正手段における補正量を減少させてノイズ成分の影響を低減することができる。
【0016】
請求項4の発明によれば、伝送ロス推定手段が誤ってトレーニング信号以外の入力信号から伝送ロスを推定することを防いで適切な音量補正を行うことができる。
【0017】
請求項5の発明によれば、入力信号に含まれるノイズ成分をトレーニング信号と誤判定することを防止できる。
【0018】
請求項6の発明によれば、トレーニング信号が互いに周波数が異なる複数のトーン信号からなる場合であっても、入力信号に含まれるノイズ成分をトレーニング信号と誤判定することを防止できる。
【0019】
請求項7の発明によれば、入力信号に狭帯域のノイズ成分が含まれている場合においても、かかるノイズ成分をトレーニング信号と誤判定することを防止できる。
【0020】
請求項8の発明によれば、入力信号にインパルス性のノイズ成分やバーストノイズなどが含まれている場合においても、かかるノイズ成分をトレーニング信号と誤判定することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
(実施形態1)
本発明の実施形態1の集合住宅用インターホンシステムの構成例を図1に示す。本実施形態では、集合住宅の共用玄関に設置される共用部装置(ロビーインターホン)1と、各住戸にそれぞれ設置される複数台の住戸機2とを備え、ロビーインターホン1と住戸機2とが伝送線路を介して接続されている。伝送線路は、ロビーインターホン1に接続される幹線L1と、各住戸機2にそれぞれ接続される分岐線L2とを含み、さらに幹線L1を複数系統(図示せず)に分配するための幹線制御装置3が設けられている。この伝送線路としては、3対以上のペア線をシース内に備える多対ツイストペアケーブルを用いており、図示例ではロビーインターホン1と住戸機2との間で音声信号を伝送する通話線Laと、ロビーインターホン1が具備するカメラ(図示せず)で撮像された映像信号を伝送する映像線Lbと、ロビーインターホン1が有する選択手段(後述する)により選択された住戸機2を指定する制御信号を伝送する制御線Lcとにそれぞれペア線を用いている。つまり、図示例の伝送線路では3対のペア線を用いている。ここで、映像線Lbを介して伝送される映像信号はロビーインターホン1において周波数変調され、後述するように各住戸機2に設けた映像処理部12で周波数復調されてモニタ部13に表示される。
【0023】
図示は省略するが、ロビーインターホン1は音声を入出力するマイクロホン及びスピーカと、来訪者を撮像するカメラと、住戸番号を指定するための番号キーと呼出釦を有する選択手段とを備え、来訪者が番号キーを操作して訪問先の住戸番号を選択した後に呼出釦を操作すると住戸番号に対応する住戸機2を選択したことになる。ここで、ロビーインターホン1には通話線La及び制御線Lcを介して一斉放送装置(警報監視盤)5が接続されており、ロビーインターホン1で選択された住戸番号が制御線Lcを介して警報監視盤5に伝送されると、警報監視盤5が当該住戸番号に対応する住戸機2に対して制御線Lcを介して制御信号(呼出コマンド)を送出する。
【0024】
一方、住戸機2は、音声を入出力するマイクロホン21及びスピーカ22を備え、マイクロホン21とスピーカ22とはそれぞれ増幅器23a,23bを介して通話処理部24に接続されている。また、通話処理部24には受話側並びに送話側の各伝送経路と2線の通話線Laとを2線4線変換する2線4線変換部25が増幅器26a,26bを介して接続されている。通話処理部24は、通話線Laを介して伝送されてくる音声信号(受話信号)とマイクロホン21から出力される音声信号(送話信号)のレベルを比較することで通話状態(受話状態又は送話状態)を推定し、受話状態と推定したときには送話信号の伝送経路に損失を挿入し、送話状態と推定したときには受話信号の伝送経路に損失を挿入することで受話モードと送話モードを切り換える音声スイッチや、マイクロホン21とスピーカ22の音響結合によって生じる音響エコーを消去するためのエコーキャンセラなどを具備する。但し、このような音声スイッチやエコーキャンセラは従来周知であるから詳細な構成及び動作の図示並びに説明は省略する。したがって、ロビーインターホン1と住戸機2との間で通話線Laを通して音声信号を授受することができ、来訪者がロビーインターホン1を用いるとともに居住者が住戸機2を用いることによって、来訪者と居住者との間で音声通話が可能となる。
【0025】
また住戸機2には、分岐線L2の通話線Laと映像線Lbをそれぞれ通話信号(受話信号及び送話信号)の伝送経路(以下、「通話路」と呼ぶ。)と映像信号の伝送経路に分離する幹線インタフェース部14が設けられている。映像信号の伝送経路は映像処理部12に接続され、通話路は通話/一斉放送切換部15に接続されている。通話/一斉放送切換部15は、幹線インタフェース部14に接続された通話路を、通話路切換部16に接続する状態と、後述する音量補正部30に接続する状態とを択一的に切り換えるものである。また通話路切換部16は、2線4線変換部25に接続された通話路を、通話/一斉放送切換部15に接続する状態と、後述する子器インタフェース部18に接続する状態と、同一住戸内に設置された別の住戸機(図示せず)に接続する状態とを択一的に切り換えるものである。
【0026】
通話路切換部16に接続された子器インタフェース部18には子器接続線L3を介してドアホン子器6が接続される。ドアホン子器6は集合住宅の各住戸の玄関先に配置されるものであってマイクロホン及びスピーカを備える。したがって、通話路切換部16が2線4線変換部25に接続された通話路を子器インタフェース部18に接続する状態に切り換えられているときにドアホン子器6と住戸機2との間での通話が可能になっている。また、ドアホン子器6にはテレビカメラが設けられ、子器インタフェース部18では子器接続線L3を介して伝送される音声信号と映像信号を分離し、分離した映像信号を伝送線路を介して映像処理部12に出力してモニタ部13に表示することができるようになっている。さらにドアホン子器6には呼出釦が設けられ、呼出釦が操作されたときに子器接続線L3に呼出信号を送出する機能を有し、住戸機2では呼出信号を検出したときに報知音生成部27で生成された呼出音がスピーカ22から送出されるようになっている。
【0027】
住戸機2において、モニタ部13には液晶表示器あるいはCRTが用いられる。映像線Lbを通して住戸機2に入力される映像信号は、幹線インタフェース部14で平衡−不平衡変換され、さらに増幅器で増幅された後に映像処理部12において周波数復調される。また、子器接続線L3を通して住戸機2に入力される映像信号も、子器インタフェース部18で平衡−不平衡変換され、さらに増幅器で増幅された後に映像処理部12において周波数復調される。そして、映像処理部12から出力された映像信号は、モニタ部13に入力されることによってモニタ部13の画面に映像を表示する。つまり、ロビーインターホン1やドアホン子器6のカメラにおいて撮像された来訪者の映像が住戸機2のモニタ部13に表示されるから、住戸内の居住者が来訪者を確認することができるのである。
【0028】
また報知音生成部27は、ロビーインターホン1やドアホン子器6からの呼出等を報知するための報知音を生成し、生成した報知音を増幅器28aを介してスピーカ22に出力するとともに当該報知音をバックトーンとして分岐線L2又は子器接続線L3にも出力する。すなわち、報知音生成部27には増幅器28bを介してバックトーン送出路切換部17が接続されており、このバックトーン送出路切換部17がバックトーンの送出先を分岐線L2と子器接続線L3とに択一的に切り換えるようになっている。
【0029】
住戸機2には、CPUを主構成要素とし内部回路を制御する主制御部10が設けられ、主制御部10には制御線Lcとのインタフェースとなる制御信号送受信部11が接続される。制御信号送受信部11は、主制御部10から出力された制御信号を制御線Lcに送出し、制御線Lcから受信した制御信号を主制御部10に引き渡す機能を有する。
【0030】
ところで、分岐線L2は分岐器7を介して幹線L1から分岐され、幹線制御装置3においては各系統の幹線L1を直結している。したがって、ロビーインターホン1から送出された制御信号は制御線Lcに接続されるすべての住戸機2に伝送される。ここに、住戸機2の主制御部10には個別にアドレス(たとえば、住戸番号)が設定されており、ロビーインターホン1においてアドレスを選択することによって、アドレスを指定する制御信号(呼出コマンド)が警報監視盤5から制御線Lcを介して全ての住戸機2に伝送することが可能になっている。住戸機2の主制御部10は、制御信号に含まれるアドレスが自己のアドレスであれば映像処理部12やモニタ部13を起動してロビーインターホン1のカメラにおいて撮像された来訪者の映像を住戸機2のモニタ部13に表示させるとともに、報知音生成部27に生成させた報知音(呼出音)をスピーカ22から送出させる。そして、呼出音に応じて居住者が住戸機2の応答釦(図示せず)を押操作すれば、主制御部10が通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を通話路切換部16に接続する状態に切り換えさせるとともに通話路切換部16を制御して2線4線変換部25に接続された通話路を通話/一斉放送切換部15に接続する状態に切り換えさせてロビーインターホン1との間に通信路を確立することにより、ロビーインターホン1と選択された住戸機2との間でのみ通話可能にすることができるとともに、選択された住戸機2でのみカメラで撮像された来訪者をモニタ部13に表示することが可能になる。尚、ロビーインターホン1において選択された住戸機2がロビーインターホン1との間で通信路を確立している状態は、ロビーインターホン1または住戸機2において適宜の操作釦を用いた通話終了が検出されると終了する。
【0031】
また、ドアホン子器6の呼出釦が押操作されて子器接続線L3に呼出信号が送出されると、呼出信号を検出した住戸機2の主制御部10が映像処理部12やモニタ部13を起動してドアホン子器6のカメラにおいて撮像された来訪者の映像を住戸機2のモニタ部13に表示させるとともに、報知音生成部27に生成させた報知音(呼出音)をスピーカ22から送出させる。そして、呼出音に応じて居住者が住戸機2の応答釦(図示せず)を押操作すれば、主制御部10が通話路切換部16を制御して2線4線変換部25に接続された通話路を子器インタフェース部18に接続する状態に切り換えさせてドアホン子器6との間に通信路を確立することにより、ドアホン子器6と住戸機2との間で通話可能にすることができるとともカメラで撮像された来訪者をモニタ部13に表示することが可能になる。
【0032】
一方、警報監視盤5は集合住宅の管理人室などに設置され、通話線Laを介して各住戸機2との間で通話並びに一斉放送を行う機能や、制御線Lcを介して各住戸機2に一斉放送の開始及び終了を指示する機能などを有している。例えば、警報監視盤5から全ての住戸機2に対して一斉放送を行う場合、警報監視盤5から一斉放送の開始を指示する制御信号(一斉放送開始コマンド)が制御線Lcを介して各住戸機2に送信され、この制御信号を受信した各住戸機2では、一斉放送開始コマンドに応じて主制御部10が通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を音量補正部30に接続する状態に切り換えさせて警報監視盤5との間に通信路が確立され、警報監視盤5から送出される一斉放送の音声信号(以下、「一斉放送用音声信号」と呼ぶ。)が通話線Laを介して各住戸機2に伝送される。そして、各住戸機2においては音量補正部30で一斉放送用音声信号の音量が自動的に補正され、音量補正された一斉放送用音声信号がスピーカ22から送出される。
【0033】
警報監視盤5は、図1に示すようにCPUを主構成要素とする制御部50と、制御部50と制御線Lcとのインタフェースとなる制御信号送受信部51と、通話用のハンドセット(送受話器)52と、送話信号及び受話信号を増幅する増幅器53a,53bと、受話側並びに送話側の各伝送経路と2線の通話線Laとを2線4線変換する2線4線変換部54と、制御部50からの指示に応じて後述するトレーニング信号を送信するトレーニング信号送信部55と、2線4線変換部54の送話側の伝送線路をハンドセット52に接続する状態とトレーニング信号送信部55に接続する状態とに択一的に切り換える音声/トレーニング信号切換部56と、音声/トレーニング信号切換部56を2線4線変換部54を介して通話線Laに接続する状態と2線4線変換部54を介さずに増幅器58を介して通話線Laに接続する状態とに択一的に切り換える通話/一斉放送切換部57と、ロビーインターホン1に接続された通話線Laと幹線制御装置3に接続された通話線Laとの間に挿入された開閉スイッチ部59とを備えている。尚、図示は省略するが、警報監視盤5には住戸番号を指定するための番号キーと呼出釦を有する選択手段とが設けられ、管理人が番号キーを操作して何れかの住戸番号を選択した後に呼出釦を操作することで住戸番号に対応する住戸機2を選択すれば、選択した住戸機2との間に通信路が形成されてハンドセット52により当該住戸機2との間でのみ通話を行うことができる。また、かかる通話時には、制御部50によって音声/トレーニング信号切換部56が2線4線変換部54の送話側の伝送線路をハンドセット52に接続する状態に切り換えられるとともに通話/一斉放送切換部57が音声/トレーニング信号切換部56を2線4線変換部54を介して通話線Laに接続する状態に切り換えられ、且つ開閉スイッチ部59が開成されてロビーインターホン1が幹線L1から切り離される。
【0034】
トレーニング信号送信部55は、単一周波数のトーン信号からなるトレーニング信号を生成して出力するものであって、トレーニング信号は音声/トレーニング信号切換部56から通話/一斉放送切換部57を経て増幅器58で増幅された後に通話線Laを介して各住戸機2に伝送される。
【0035】
音量補正部30は、図2(a)に示すように通話線Laを介して受信したトレーニング信号に基づいて警報監視盤5から住戸機2に至るまでの通話線Laの伝送ロスを推定する伝送ロス推定手段と、一斉放送用音声信号に対して伝送ロス推定手段で推定した伝送ロスによる損失を補償する伝送ロス補償手段と、一斉放送用音声信号から音声の周波数帯域成分のみを通過させるバンドパスフィルタ42と、トレーニング信号をバンドパスフィルタ42を通さずに伝送ロス推定手段に入力する手段(切換スイッチ43)とを備える。伝送ロス補償手段は一斉放送用音声信号を増幅する増幅器39からなり、伝送ロス推定手段は、入力信号(トレーニング信号)X(n)の信号パワー(瞬時パワー)を推定するパワー推定部40と、パワー推定部40で推定されたトレーニング信号の信号パワーPsに基づいて増幅器39の増幅度Gを算出する増幅度算出部41とからなる。パワー推定部40は、図2(b)に示すように入力信号X(n)の絶対値の時間平均値(絶対平均値)PX(n)を求める絶対平均値算出部401と、絶対平均値算出部401で算出される時系列の絶対平均値PX(n)を平滑化する絶対平均値平滑部402とで構成される。尚、本実施形態における音量補正部30は、通話処理部24並びに報知音生成部27とともにDSP(ディジタル・シグナル・プロセッサ)のハードウェアをソフトウェアで制御することによって実現されているが、これに限定されるものではなく、DSPの代わりにCPUを用いたり、あるいはアナログ回路やディジタル回路で構成することも可能である。
【0036】
絶対平均値算出部401は、所定のサンプリング時間でサンプリングされた入力信号X(n)を周波数弁別するバンドパスフィルタ401aと、周波数弁別後の入力信号X(n)の絶対値を求める絶対値算出部401bと、入力信号X(n)の絶対値を所定の時間フレーム(サンプリング数M)で除する除算部401cと、サンプリング数Mで除算された入力信号X(n)の絶対値の総和を求める総和算出部401dとからなり、結局のところ、絶対平均値算出部401では下記の式(1)の演算を行っている。
【0037】
【数1】

【0038】
また絶対平均値平滑部402は、正の定数α(<1)を絶対平均値Px(n)に乗算する乗算器402aと、遅延シフトレジスタ402bと、遅延シフトレジスタ402bで遅延させた瞬時パワー推定値Ps(n-1)に正の定数(1−α)を乗算する乗算器402cと、2つの乗算器402a,402cの出力を加算する加算器402dとからなり、結局のところ、絶対平均値平滑部402では下記の式(2)の演算を行っている。
【0039】
【数2】

【0040】
また、増幅度算出部41では、予め設定した信号パワーの基準値Prをパワー推定部40で推定された信号パワーの推定値Ps(n)で除算することによって増幅度G(=Pr/Ps)を算出し、算出した増幅度Gを増幅器39に設定する。
【0041】
バンドパスフィルタ42は音声の周波数帯域(一般に数十Hzから数kHzの範囲)を通過帯域とし、増幅器39の入力側に設けられる。そして、入力信号X(n)をパワー推定部40に入力する状態とバンドパスフィルタ42に入力する状態とを択一的に切り換える切換スイッチ43がバンドパスフィルタ42及びパワー推定部40の入力側に設けられる。
【0042】
次に、本実施形態において警報監視盤5より複数台の住戸機2に対して一斉放送を行う際の警報監視盤5並びに各住戸機2の動作を図3のフローチャートを参照しながら説明する。まず、一斉放送の開始に当たって管理人が警報監視盤5に設けられた一斉放送開始釦(図示せず)を押操作すると(ステップS11)、警報監視盤5では、制御部50が一斉放送の開始を指示する制御信号(一斉放送開始コマンド)を制御信号送受信部51から制御線Lcを介して各住戸機2に対して伝送し、さらに、制御信号の送信完了から第1の所定時間が経過したら、音声/トレーニング信号切換部56を制御してトレーニング信号送信部55を通話/一斉放送切換部57に接続する状態に切り換えるとともに通話/一斉放送切換部57を2線4線変換部54を介さずに通話線Laに接続する状態に切り換えた後、トレーニング信号送信部55からトレーニング信号を送信させる(ステップS12)。
【0043】
警報監視盤5から送信された制御信号は、一斉放送の対象である全ての住戸機2で受信される。制御信号を受信した住戸機2では、主制御部10が一斉放送開始コマンドに応じて一斉放送開始のための準備を行う。すなわち、主制御部10は、通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を音量補正部30に接続する状態に切り換えさせてトレーニング信号の受信可能状態とするとともに音量補正部30を動作させ(ステップS21)、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送されるトレーニング信号を受信すれば伝送ロスの推定処理を開始する。音量補正部30では、主制御部10から動作開始の指示を受けると切換スイッチ43がバンドパスフィルタ42からパワー推定部40に切り換わる。そして、パワー推定部40が入力信号X(n)の信号パワーの推定を行い、推定値Ps(n)が所定の閾値を超えたときにトレーニング信号を受信したと判断し(ステップS22)、トレーニング信号の受信時点から第2の所定時間経過後の推定値Ps(n)をトレーニング信号の信号パワーPsとし(ステップS23,S24)、増幅度算出部41が基準値Prを信号パワーPsで除算して求めた増幅度Gを増幅器39に設定する(ステップS25)。なお、増幅器39に増幅度Gが設定された後、切換スイッチ43がパワー推定部40からバンドパスフィルタ42に切り換わる。
【0044】
警報監視盤5では、送信開始から第3の所定時間経過後に制御部50がトレーニング信号送信部55によるトレーニング信号の送信を停止させ(ステップS13)、さらに、音声/トレーニング信号切換部56を制御してハンドセット52を通話/一斉放送切換部57に接続する状態に切り換える。そして、管理人がハンドセット52を使って一斉放送を行えば(ステップS14)、ハンドセット52から出力される一斉放送用音声信号が音声/トレーニング信号切換部56から通話/一斉放送切換部57及び増幅器58を経て通話線Laに送出される。そして、警報監視盤5から通話線Laを介して伝送される一斉放送用音声信号は、幹線インタフェース部14から通話/一斉放送切換部15を介して音量補正部30に入力され、増幅器39で増幅することによって音量が補正されるため、スピーカ22からは適切な音量で一斉放送の音声が出力される(ステップS26)。
【0045】
そして、一斉放送を終了するためにハンドセット52がオンフックされると(ステップS15)、警報監視盤5の制御部50は、一斉放送の終了を指示する制御信号(一斉放送終了コマンド)を制御信号送受信部51から制御線Lcを介して各住戸機2に対して伝送した後、開閉スイッチ部59を閉成して待機状態に戻る。また、制御信号を受信した住戸機2では、主制御部10が音量補正部30の動作を停止させるとともに、通話/一斉放送切換部15を制御して幹線インタフェース部14に接続された通話路を通話路切換手段16に接続する状態に切り換えさせて待機状態に戻る。
【0046】
上述のように本実施形態によれば、一斉放送の音量を増幅度算出部41によって基準値Prに略等しくなるように補正する音量補正部30を各住戸機2が備えているため、一斉放送の対象となる住戸機2の台数や各住戸機2までの配線長に応じて一斉放送装置(警報監視盤5)で一斉放送用音声信号の増幅度を調整したり、あるいは施工時に配線長に応じて各住戸機2毎に伝送線路のインピーダンスを調整するといった手間をかけることなく、複数の住戸機2間における一斉放送の音量のばらつきを抑えることができる。しかも、音量補正部30においては増幅器39で増幅する前の一斉放送用音声信号をバンドパスフィルタ42に通すことにより、音声の周波数帯域成分以外のノイズ成分が除去されるので、音声の周波数帯域以外のノイズ成分が増幅器39で増幅されるのを防いでスピーカ22から送出されるノイズの影響を低減することができる。
【0047】
ところで、増幅度算出部41での演算の結果、図4(b)に示すように伝送ロスが相対的に小さい場合は補正量(増幅度G)も小さくなるから音声の周波数帯域fa〜fb(破線ニ参照)を全て含むような周波数特性(図4(b)の実線イ参照)を有するバンドパスフィルタ42を用いてノイズ成分を除去することができるが、図4(c)に示すように伝送ロスが相対的に大きい場合は補正量(増幅度G)も大きくなるから、本来取得したい帯域成分である音声帯域成分の近傍の周波数帯域に存在するノイズ成分をも、そのような大きな補正量(増幅度G)で増幅してしまうことになるので、図4(b)の実線イで示したバンドパスフィルタ特性よりもさらに厳しくノイズ除去を行う必要があり、音声の周波数帯域fa〜fbよりも狭い周波数特性(図4(c)の実線イ参照)を有するバンドパスフィルタ42を用いないとノイズ成分を的確に除去することができない。一方、伝送ロスが相対的に小さい場合、バンドパスフィルタ42の周波数特性を図4(a)の実線ロで示すように通過帯域の狭い周波数特性に設定していると一斉放送の音質が劣化してしまうことになる。
【0048】
そこで、バンドパスフィルタ42の周波数特性を図4(a)の実線ロで示すように通過帯域幅の狭い周波数特性に設定して伝送ロスが相対的に大きい場合のノイス成分を的確に除去するとともに、伝送ロスの推定値Ps(n)が所定のしきい値以下であれば、バンドパスフィルタ42を停止(スルー)したり、あるいは、図4(a)の実線ハ、ロで示すように伝送ロスの推定値が大きくなるにつれてバンドパスフィルタ42の通過帯域幅を狭くして音質の劣化を防ぐことが望ましい。なお、バンドパスフィルタ42もDSPのハードウェアをソフトウェアで制御することで実現されるものであるから、上述のように停止(スルー)させたり、通過帯域幅を変更することはパラメータ等の変更によって容易に実現できる。
【0049】
また、音量補正部30では一斉放送用音声信号(入力信号X(n))に含まれるノイズ成分も増幅器39で増幅されてしまうためにスピーカ22から一斉放送用音声に混ざってノイズが聞こえてしまう虞がある。
【0050】
そこで、パワー推定部40による伝送ロスの推定値Ps(n)に応じて主制御部10が音量補正部30前段に設けられたアンプ29bのゲインを調整することにより、例えば、伝送ロスの推定値Ps(n)が大きくなるほどアンプ29bのゲイン(正負両方の値を含む)を小さくして入力信号X(n)の信号パワーを低下させれば、音量補正部30における補正量(増幅器39の増幅度G)を減少させて上述のようなノイズ成分の影響を低減することができる。
【0051】
(実施形態2)
図5は実施形態2における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成、並びに音量補正部30の基本構成は実施形態1と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
【0052】
実施形態1における音量補正部30では、パワー推定部40が入力信号X(n)の信号パワーの推定を行い、推定値Ps(n)が所定の閾値を超えたときにトレーニング信号を受信したと判断しているが、かかる閾値を超える広帯域のノイズ成分が入力信号X(n)に含まれていた場合に当該ノイズ成分をトレーニング信号と誤判定してしまう虞がある。
【0053】
そこで本実施形態では、入力信号X(n)の信号パワーを推定する第1の信号パワー推定部44と、入力信号X(n)からトレーニング信号の周波数帯域成分のみを通過させる帯域通過フィルタ45と、帯域通過フィルタ45を通過した入力信号X(n)の信号パワーを推定する第2の信号パワー推定部46と、第1の信号パワー推定部44で推定した信号パワー推定値PSと第2の信号パワー推定部46で推定した信号パワー推定値PSFとに基づいて入力信号X(n)がトレーニング信号か否かを判定する判定部47とからなるトレーニング信号検出手段を音量補正部30に設けている。また、入力信号X(n)をパワー推定部40に入力する状態とトレーニング信号検出手段に入力する状態とを択一的に切り換える切換スイッチ48がトレーニング信号検出手段及びパワー推定部40の入力側に設けられている。但し、第1及び第2の信号パワー推定部44,46はパワー推定部40と共通の構成を有しているので、詳細な構成の図示並びに説明は省略する。
【0054】
トレーニング信号検出手段は、主制御部10が一斉放送開始コマンドを受け取ったときに動作し、主制御部10によって切り換えられた切換スイッチ43,48を介して入力信号X(n)が入力される。そして判定部47では、第2の信号パワー推定部46の信号パワー推定値PSFを所定の閾値と比較するとともに、第1のパワー推定部44の出力である信号パワー推定値PSが閾値を超えた場合に第1の信号パワー推定部44の信号パワー推定値PSと第2の信号パワー推定部46の信号パワー推定値PSFとが、b<PSF/PS<a(但し、0<b<a≦1)の関係を満たすか否かを調べ、この関係を満たすときに入力信号X(n)がトレーニング信号である、すなわち、トレーニング信号を受信したと判定する。判定部47がトレーニング信号を受信したと判定すれば、判定部47によって切換スイッチ48がパワー推定部40に切り換えられて伝送ロスの推定処理が開始され、以降、実施形態1と同様にして増幅器39の増幅度Gが設定されて一斉放送用音声の音量が補正される。
【0055】
而して本実施形態によれば、入力信号X(n)のうちで帯域通過フィルタ45を通過する周波数成分(トレーニング信号の周波数成分)の信号パワー推定値PSFと、帯域通過フィルタ45を通す前の入力信号X(n)の信号パワー推定値PSとを比較することにより、入力信号X(n)がトレーニング信号であるのか、広帯域のノイズ成分であるのかを判別することが可能となって、入力信号X(n)に含まれる広帯域のノイズ成分をトレーニング信号と誤判定することを防止できる。
【0056】
ところで、入力信号X(n)に狭帯域のノイズ成分が含まれていた場合には第2の信号パワー推定部46の推定値PSFが閾値を超えてしまう可能性がある。そこで、警報監視盤5からある程度の時間だけトレーニング信号を連続して送信し、判定部47においては、第1の信号パワー推定部44の信号パワー推定値PSとしきい値を超えた第2の信号パワー推定部46の信号パワー推定値PSFとが、b<PSF/PS<aの関係を満たす状況が所定時間以上継続した場合にトレーニング信号を受信したと判定すれば、入力信号X(n)にインパルス性のノイズ成分やバーストノイズなどが含まれている場合においても、かかるノイズ成分をトレーニング信号と誤判定することを防止できる。
【0057】
(実施形態3)
図6は実施形態3における音量補正部30を示すブロック図である。但し、音量補正部30を除く住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態1と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
【0058】
警報監視盤5においては、一斉放送開始コマンドの送信後に互いに周波数が異なるトーン信号からなる複数のトレーニング信号をトレーニング信号送信部55から順次送信させる。例えば、図7(a)に示すように周波数f1,f2,…,fnのトレーニング信号をトレーニング信号送信部55から順次送信する。
【0059】
音量補正部30は、n個のトレーニング信号を周波数弁別するためのバンドパスフィルタ501,502,…,50nと、各トレーニング信号の信号パワーを推定するパワー推定部40と、トレーニング信号の周波数とパワー推定部40の信号パワー推定値Psの各組の間にある周波数に対する信号パワーを推定するパワー補間部51と、各周波数帯毎の伝送ロス(信号パワーの周波数特性)と重み係数からラウドネス(音の大きさ)を求めるとともに当該ラウドネスと基準となるラウドネスの差分に応じて補正値を算出する補正利得算出部52と、補正利得算出部52で算出された補正値(増幅度)で一斉放送用音声信号を増幅する増幅部53とを備えている。パワー推定部40は、各周波数f1,f2,…,fnのトレーニング信号に対し各々信号パワー推定値Psf1,Psf2,…,Psfnを求める。パワー補間部51は、周知の補間法(例えば、ラグランジュ補間法)を用いてn個の信号パワー推定値Psf1,Psf2,…,Psfnから伝送ロス(信号パワーの周波数特性)を(n−1)次曲線で近似する処理を行う。具体的には、下記の式(3)でトレーニング信号の周波数f1,f2,…,fn以外の周波数f(1/3オクターブ)の信号パワーPfを求める。
【0060】
【数3】

【0061】
ここで、上式(3)の右辺各項の係数a0,a1,…,an-1は、下記の行列式より求められる。
【0062】
【数4】

【0063】
尚、図7(b)に実線で示す曲線イが式(3)で近似された伝送ロスを表している。
【0064】
一方、補正利得算出部52では、ITU−T(国際電気通信連合−電気通信標準化部門)で規格化されている下記式よりラウドネス(音の大きさ)LRを求め、さらに、基準となるラウドネスLRrとの差を求めて増幅部53の増幅度G(=LR−LRr)とする。但し、下式のWrはラウドネスの重み付け(定数)を表す。
【0065】
【数5】

【0066】
而して、増幅部53において増幅度Gで増幅することにより一斉放送用音声信号の音量が補正されてスピーカ22から送出されることになる。
【0067】
本実施形態によれば、ラウドネスによって一斉放送用音声信号の音量を補正するので、人の耳で実際に聞く音量を適切に補正することができる。
【0068】
ところで、本実施形態の音量補正部30においても、パワー推定部40が入力信号X(n)の信号パワーの推定を行い、推定値Ps(n)が所定の閾値を超えたときにトレーニング信号を受信したと判断した場合、かかる閾値を超える広帯域のノイズ成分が入力信号X(n)に含まれていたときに当該ノイズ成分をトレーニング信号と誤判定してしまう虞がある。
【0069】
そこで、実施形態2と同様に、図8に示すように入力信号X(n)からトレーニング信号の周波数f1,f2,…,fnを中心とした狭帯域の周波数成分のみを通過させる複数の帯域通過フィルタ451,452,…,45nと、帯域通過フィルタ45i(i=1,2,…,n)を通過した入力信号X(n)の信号パワーを推定する信号パワー推定部461,462,…,46nと、信号パワー推定部46iで推定した信号パワー推定値PSFiに基づいて入力信号X(n)がトレーニング信号か否かを判定する判定部47とからなるトレーニング信号検出手段を音量補正部30に設けることが望ましい。なお、図示は省略するが、入力信号X(n)をパワー推定部40に入力する状態とトレーニング信号検出手段に入力する状態とを択一的に切り換える切換スイッチ48がトレーニング信号検出手段及びパワー推定部40の入力側に設けられている。また、信号パワー推定部46iはパワー推定部40と共通の構成を有しているので、詳細な構成の図示並びに説明は省略する。
【0070】
トレーニング信号検出手段は、主制御部10が一斉放送開始コマンドを受け取ったときに動作し、主制御部10によって切り換えられた切換スイッチ43,48を介して入力信号X(n)が入力される。そして判定部47では、各信号パワー推定部46iの信号パワー推定値PSFiを所定の閾値と比較し、閾値を超える信号パワー推定値PSFiの比率が一定値(例えば、90%)以上であれば、トレーニング信号を受信したと判定する。判定部47がトレーニング信号を受信したと判定すれば、切換スイッチ48がパワー推定部40に切り換えられて伝送ロスの推定処理が開始され、以降、実施形態1と同様にして増幅器39の増幅度Gが設定されて一斉放送用音声の音量が補正される。
【0071】
而して、入力信号X(n)に広帯域のノイズ成分が含まれていたとしても、複数の帯域通過フィルタ45iを通過する周波数成分(トレーニング信号の周波数成分)の信号パワー推定値PSFiの比率が一定値を超える場合はトレーニング信号を受信したと判定することができるから、入力信号X(n)に含まれる広帯域のノイズ成分をトレーニング信号と誤判定することを防止できる。
【0072】
(実施形態4)
図9は実施形態4における音量補正部30のトレーニング信号検出手段を示すブロック図である。但し、トレーニング信号検出手段を除く音量補正部30や住戸機2の構成並びに警報監視盤5を含む集合住宅用インターホンシステム全体の基本構成は実施形態1と共通であるから、共通の構成要素には同一の符号を付して図示並びに説明を省略する。
【0073】
本実施形態におけるトレーニング信号検出手段は、入力信号X(n)からトレーニング信号の周波数帯域成分のみを通過させる帯域通過フィルタ45と、帯域通過フィルタ45を通過した入力信号X(n)の信号パワーを推定する信号パワー推定部46と、帯域通過フィルタ45を通過した入力信号X(n)が単一周波数のトーン信号か否かを検出するシングルトーン検出器49と、信号パワー推定部46で推定した信号パワー推定値PSFとシングルトーン検出器49の検出結果とに基づいて入力信号X(n)がトレーニング信号か否かを判定する判定部47とで構成される。シングルトーン検出器49は、例えば入力信号X(n)の高速フーリエ変換を利用したり、複数の帯域分割フィルタを用いて入力信号X(n)のパワーを比較することでトーン信号か否かを検出するものであるが、何れの検出方式についても従来周知の技術を用いて実現可能であるから詳しい説明は省略する。
【0074】
判定部47では、信号パワー推定部46の信号パワー推定値PSFが所定の閾値を超え、且つシングルトーン検出器49で単一周波数のトーン信号が検出されれば、警報監視盤5(トレーニング信号送信部55)から送信されたトレーニング信号を受信したと判定する。判定部47がトレーニング信号を受信したと判定すれば、図示しない切換スイッチ48がパワー推定部40に切り換えられて伝送ロスの推定処理が開始され、以降、実施形態1と同様にして増幅器39の増幅度Gが設定されて一斉放送用音声の音量が補正される。
【0075】
而して、トレーニング信号(トーン信号)の周波数帯域とノイズ成分の周波数帯域とが重なっている場合、帯域通過フィルタ45を通過した入力信号X(n)にもノイズ成分が含まれてしまうために誤判定が生じる虞があるが、上述のように帯域通過フィルタ45を通過した入力信号X(n)が単一周波数のトーン信号か否かをシングルトーン検出器49で検出しているので、狭帯域のノイズ成分をトレーニング信号と誤判定することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施形態1を示すシステム構成図である。
【図2】(a)は同上における音量補正部のブロック図、(b)はパワー推定部のブロック図である。
【図3】同上の一斉放送時の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】同上における音量補正部の動作説明図である。
【図5】本発明の実施形態2における音量補正部のブロック図である。
【図6】本発明の実施形態3における音量補正部のブロック図である。
【図7】(a)(b)は同上における音量補正部の動作説明図である。
【図8】同上におけるトレーニング信号検出手段の他の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施形態4における音量補正部のトレーニング信号検出手段のブロック図である。
【符号の説明】
【0077】
1 ロビーインターホン
2 住戸機
5 警報監視盤
21 マイクロホン
22 スピーカ
30 音量補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集合住宅の共用玄関に設置され音声の入出力が可能な共用部装置と、集合住宅の各住戸にそれぞれ設置され共用部装置とは伝送線路を介して接続されるとともに共用部装置が有する選択手段を来訪者が操作することにより選択されると共用部装置との間で通信路を確立する複数台の住戸機と、集合住宅の各住戸にそれぞれ設置され住戸機とは通話用の子器接続線を介して接続されるドアホン子器と、集合住宅の共用部若しくは管理人室に設置され各住戸機とは伝送線路を介して接続されるとともに一部又は全部の住戸機に対して一斉に音声を放送する一斉放送装置とを備え、
伝送線路は、少なくとも選択手段の操作に伴って発生し個別通話の開始を指示する制御信号を伝送する制御線と、音声信号を伝送する信号線とからなり、
住戸機は、共用部装置並びにドアホン子器との間で各々信号線及び子器接続線を介した通話を行う通話手段と、少なくとも一斉放送の音声を鳴動するスピーカと、信号線を通話手段に接続する状態とスピーカに接続する状態とを択一的に切り換える個別通話/一斉放送切換手段と、個別通話/一斉放送切換手段とスピーカの間に設けられ一斉放送の音量が所定範囲の値となるように補正する音量補正手段と、制御線を介して伝送される制御信号に基づいて個別通話/一斉放送切換手段を制御する制御手段とを備え、
各住戸機では、制御線を介して一斉放送開始を指示する制御信号が伝送され、当該制御信号を受信したときに制御手段が個別通話/一斉放送切換手段を制御して信号線をスピーカに接続する状態に切り換えさせる集合住宅用インターホンシステムであって、
一斉放送装置は、一斉放送用音声信号を出力する前に信号線を介して各住戸機へトレーニング信号を送信するトレーニング信号送信手段を有し、トレーニング信号の送信後に一斉放送用音声信号を送信してなり、
音量補正手段は、信号線を介して受信したトレーニング信号に基づいて信号線経路の伝送ロスを推定する伝送ロス推定手段と、一斉放送用音声信号に対して伝送ロス推定手段で推定した伝送ロスを補償する伝送ロス補償手段と、一斉放送用音声信号から音声の周波数帯域成分のみを通過させるバンドパスフィルタと、トレーニング信号をバンドパスフィルタを通さずに伝送ロス推定手段に入力する手段とからなることを特徴とする集合住宅用インターホンシステム。
【請求項2】
バンドパスフィルタは、伝送ロス推定手段で推定される伝送ロスの値に応じて、停止して音声周波数帯域成分を通過させるか、あるいは通過帯域を変更することを特徴とする請求項1記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項3】
住戸機は、音量補正手段で補正される前の一斉放送用音声信号を増幅する増幅手段と、伝送ロス推定手段で推定される伝送ロスの値に応じて増幅手段の増幅度を調整する調整手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項4】
音量補正手段がトレーニング信号を検出するトレーニング信号検出手段を有し、トレーニング信号検出手段がトレーニング信号を検出した後に伝送ロス推定手段が伝送ロスの推定を開始することを特徴とする請求項1記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項5】
トレーニング信号検出手段は、入力信号の信号パワーを推定する第1の信号パワー推定部と、入力信号からトレーニング信号の周波数帯域成分のみを通過させる帯域通過フィルタと、帯域通過フィルタを通過した入力信号の信号パワーを推定する第2の信号パワー推定部と、第1の信号パワー推定部で推定した信号パワーと第2の信号パワー推定部で推定した信号パワーとに基づいて入力信号がトレーニング信号か否かを判定する判定部とを具備することを特徴とする請求項4記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項6】
トレーニング信号送信手段は、トレーニング信号として互いに周波数が異なる複数のトーン信号を順次送信し、
トレーニング信号検出手段は、入力信号からトレーニング信号の個々の周波数帯域成分のみを通過させる複数の帯域通過フィルタと、各帯域通過フィルタを通過した入力信号の信号パワーを推定する複数の信号パワー推定部と、推定した信号パワーが所定のしきい値を超える信号パワー推定部の比率に基づいて入力信号がトレーニング信号か否かを判定する判定部とを具備することを特徴とする請求項4記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項7】
トレーニング信号送信手段は、トレーニング信号として互いに周波数が異なる複数のトーン信号を順次送信し、
トレーニング信号検出手段は、入力信号からトレーニング信号の周波数帯域成分のみを通過させる帯域通過フィルタと、帯域通過フィルタを通過した入力信号の信号パワーを推定する信号パワー推定部と、帯域通過フィルタを通過した入力信号が単一のトーン信号か否かを検出するシングルトーン検出部と、信号パワー推定部で推定した信号パワーとシングルトーン検出部の検出結果とに基づいて入力信号がトレーニング信号か否かを判定する判定部とを具備することを特徴とする請求項4記載の集合住宅用インターホンシステム。
【請求項8】
判定部は、入力信号がトレーニング信号であると判定する条件が所定時間以上継続して満たされたときに入力信号をトレーニング信号と判定することを特徴とする請求項4〜6の何れかに記載の集合住宅用インターホンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−6409(P2007−6409A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187234(P2005−187234)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】