説明

集合体粒子の製造方法

【課題】金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される、マイクロメートルオーダーの平均粒子径を有し、粒度分布が狭い(粒子径が揃った)集合体粒子を、高速で、かつ環境への影響を少なくして製造する方法を提供する。
【解決手段】高密度二酸化炭素と、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子の水分散液とを混合して混合体を形成するステップと、ノズルから当該混合体を噴射させて氷滴粒子を得るステップと、当該氷滴粒子から乾燥により水分を除去するステップとを含む、ナノ粒子が集合して形成される平均粒子径が0.1〜5μmの集合体粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される、マイクロメートルオーダーの平均粒子径を有し、粒度分布が狭い集合体粒子を製造する方法に関する。より詳しくは、セラミック原料や顔料、触媒担体や吸着剤、光触媒、エネルギデバイス電極材等に用いることのできる金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される、マイクロメートルオーダーの平均粒子径を有し、粒度分布が狭い集合体粒子を、高速で、しかも環境への影響を小さくして製造することができる集合体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される集合体粒子を製造する方法としては、スプレードライ法、超音波噴霧乾燥法等が用いられている。
スプレードライ法は、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のスラリー等を高温気流中にスプレー噴霧して乾燥し、得られる集合体粒子をサイクロンやフィルターによって回収する方法である。また、超音波噴霧乾燥法は、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のスラリー等を超音波照射によって霧化(エアロゾル)させた後、これを高温気流中に導入して乾燥し、得られる球状の集合体粒子をサイクロンやフィルターにより回収する方法である。このような集合体粒子の製造方法は、簡便で高い生産性があり、環境への影響も小さいことから、一般的な工業生産技術として用いられている。
【0003】
一方、粒度分布が狭い集合体粒子を製造する方法としては、インクジェットノズルにより液滴を生成させた後、この液滴を乾燥させる方法が知られている(特許文献1、2参照)。この方法では、インクジェットノズルから吐出される液滴の粒度分布は狭く均一性が高いので、この液滴をノズルに近接した水の接触角の大きい基板上に付着させ、乾燥・回収することで粒度分布の狭い集合体粒子が得られるというものである。
しかしながら、このような方法では、生産性が極めて悪いばかりでなく、インクジェットノズルと基板との距離やノズル近辺の気流の状態によっては、液滴同士が接触して、液滴粒子の接触成長が生じることがあり、粒度分布を制御することが困難であるという問題がある。
【0004】
さらに、集合体粒子を製造する方法として、金属アルコキシドをカチオン系あるいはノニオン系界面活性剤と共に水及びアルコールからなる溶媒に溶解し、水―アルコール等のエマルション中で、酸等を加えて金属アルコキシドを加水分解し、溶媒を揮散させた後、焼成して有機物を除去してナノポーラスな多孔質集合体粒子を製造する方法がある(特許文献3、4参照)。このような方法によれば粒度分布の狭い多孔質集合体粒子を得ることが可能であるが、界面活性剤を焼成等により除去する必要が有り、環境に悪影響を及ぼすという問題がある。
そこで、金属アルコキシドと有機溶媒の混合液を水により加水分解させ、反応生成物を亜臨界や超臨界二酸化炭素で反応生成物中のアルコール等の有機成分を抽出処理して多孔質集合体粒子を製造する方法が提案されている(特許文献5参照)。この方法では、界面活性剤を燃焼除去させる必要はないが、金属アルコキシド由来のアルコール等の有機成分あるいは金属アルコキシドとの混合溶剤を燃焼して除去するか、あるいは回収して廃液処理する必要があり、環境に悪影響を及ぼすという問題は未だ残っている状態であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−213626号公報
【特許文献2】特開2008−15346号公報
【特許文献3】特開2003−335515号公報
【特許文献4】特開2003−335506号公報
【特許文献5】特開2006−290680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、上記の課題に鑑みて、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される、粒度分布が狭く、生産性に優れ、環境への影響が小さい集合体粒子の新規な製造方法について鋭意検討してきた結果、界面活性剤と有機溶媒を用いたエマルションによらず、また金属アルコキシドと有機溶媒も用いることもなく、一般に工業規模で用いられているスプレー噴霧乾燥法と同等程度に簡便で生産性に優れ、粒度分布が狭い集合体粒子を、高速で、かつ環境への影響を少なくして製造することが可能な方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明は、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される、マイクロメートルオーダーの平均粒子径を有し、粒度分布が狭い(粒子径が揃った)集合体粒子を、高速で、かつ環境への影響を少なくして製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 高密度二酸化炭素と、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子の水分散液とを混合して混合体を形成するステップと、ノズルから当該混合体を噴射させて氷滴粒子を得るステップと、当該氷滴粒子から乾燥により水分を除去するステップとを含む、ナノ粒子が集合して形成される平均粒子径が0.1〜5μmの集合体粒子の製造方法、
(2) 前記高密度二酸化炭素と前記水分散液とを混合機に入れ、レイノルズ数が8000以上の高せん断場を形成することによって前記混合体を形成する上記(1)に記載の集合体粒子の製造方法、
(3) 前記混合体が、前記高密度二酸化炭素中に、前記水分散液がエマルション状態で分散している混合体である上記(1)又は(2)に記載の集合体粒子の製造方法、
(4) 前記氷滴粒子を、水の沸点以上の温度に設定した水と相溶しない溶媒液中に回収し、当該氷滴粒子から乾燥により水分を除去する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の集合体粒子の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される、マイクロメートルオーダーの平均粒子径を有し、粒度分布が狭い(粒子径が揃った)集合体粒子を、高速で、かつ環境への影響を少なくして製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の集合体粒子の製造方法を説明するための装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のナノ粒子の集合体粒子の製造方法は、高密度二酸化炭素と、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子(以下、単に「ナノ粒子」ということがある。)の水分散液とを混合して混合体を形成するステップと、ノズルから当該混合体を噴射させて氷滴粒子を得るステップと、当該氷滴粒子から乾燥により水分を除去するステップとを含む、ナノ粒子が集合して形成される平均粒子径が0.1〜5μmの集合体粒子を製造する方法である。
【0012】
以下、適宜、図1を使用して本発明を更に詳細に説明する。
図1は、集合体粒子の製造方法を説明するための装置の概念図である。図1中、1はボンベ中の二酸化炭素である。2は二酸化炭素を加圧するためのガス加圧ポンプである。3は二酸化炭素温度調節器(熱交換器)である。4はナノ粒子の水分散液である。5はナノ粒子の水分散液を加圧するための液加圧ポンプである。6は水分散液温度調節器(熱交換器)である。7は二酸化炭素(高密度二酸化炭素)と水分散液とを混合するミキサーである。8はミキサー7に接続された配管であり、ミキサー7と配管8とにより混合機9が構成されている。10は噴射ノズルであり、ノズル噴射口の反対側に配管8が接続されている。11は噴射ノズル10から噴射された氷滴粒子である。12は氷滴粒子11を回収および乾燥のためのオイルバスである。また、図1の各所に配置されているPIおよびTIは、それぞれ圧力計および温度計である。
【0013】
〔第1ステップ〕
本発明の第1ステップは、高密度二酸化炭素と、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子の水分散液とを混合して混合体を形成するステップである。
本発明に用いられる高密度二酸化炭素とは、超臨界二酸化炭素(31.1℃以上、7.4MPa以上の温度圧力条件を有する二酸化炭素)、および液化二酸化炭素(−56.6℃以上で、その温度での飽和蒸気圧以上の温度圧力条件下において生じる液相)を意味する。
高密度二酸化炭素の密度としては、0.85〜0.98g/cm3が好ましく、装置の耐圧性能や温度調整幅が許す限り高いほうが良い。
本発明に用いられる高密度二酸化炭素を製造する方法は特に限定されず、公知の超臨界二酸化炭素、および液化二酸化炭素を製造する方法を採用することができる。例えば、図1に示すように、ボンベ中の二酸化炭素1をガス加圧ポンプ2を用いて高圧にし、さらに温度調節器(熱交換器(加熱/冷却器))3を用いて目的温度にすることにより、高密度二酸化炭素(液化二酸化炭素)とすることができる。
【0014】
また、本発明に用いられる金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子は、特に限定されるものではなく、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化鉄、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ニッケル等の非晶質あるいは結晶性の金属酸化物のナノ粒子、または含水酸化ケイ素、含水酸化チタン、含水酸化ジルコニウム等の構造水を含有する金属含水酸化物のナノ粒子、または水酸化ジルコニウム、水酸化スズ、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物ナノ粒子を用いることができる。
また、本発明は、マイクロメートルオーダーの平均粒子径の集合体粒を製造することから、上記金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子の平均粒子径は、100nm以下であることが好ましく、1〜50nmがより好ましく、1〜20nmがさらに好ましい。
ナノ粒子の製造方法は、特に限定されず、公知のナノ粒子を製造する方法を採用することができる(例えば、特開2006−16236号公報、特許第4112250号公報参照)。
【0015】
また、ナノ粒子の水分散液を作製する方法は特に限定されず、通常の方法により、ナノ粒子が分散した水分散液を作製することができる。例えば、水にナノ粒子を加え、撹拌して作製することができる。なお、撹拌の際、超音波を用いる等、ナノ粒子を水分散液中に均一に分散させるための公知の方法を採用することが好ましい。
また、ナノ粒子を分散させる水は、ナノ粒子相互の静電反発力によってナノ粒子を水中に分散させた状態を維持できるように、ナノ粒子の等電点よりもpHが±1程度以上離れるようにpHを調整するのが好ましい。pH調整剤としては、通常pH調整に用いられる塩酸、硫酸、硝酸等の酸、アンモニア等を用いることができる。
また、ナノ粒子の凝集が生じないようにするために、水分散液中のナノ粒子の比率(固形分比率)は、1〜20質量%程度にしておくのが好ましい。この範囲のナノ粒子の比率(固形分比率)および水のpHの調整により、ナノ粒子の凝集による沈降が生じにくく、ナノ粒子が水分散液に均一に分散した水分散液を得ることができる。
【0016】
この第1ステップでは、特に、高密度二酸化炭素とナノ粒子の水分散液(以下、単に「水分散液」ということがある。)とを混合して混合体を形成することが重要となる。通常、高密二酸化炭素と水とは相互に相溶しないため、また、双方の表面張力差が大きいため、これらを混合することがむずかしい。そこで、高密度二酸化炭素と水分散液とを混合機に入れ、高速で混合し、高密度二酸化炭素中に、水分散液がエマルション状態で分散したW/C(Water in Carbon dioxide)エマルションとして混合体を形成しておくのが好ましい。
しかしながら、このように形成されたエマルションでも、上記したように、二酸化炭素と水とは相互に相溶せず、双方の表面張力差が大きいため、エマルションの安定性は低く、寿命が短いものとなる。そこで、形成されたエマルションを高乱流状態にして、エマルションの安定性を高め、エマルションの寿命を長くすることが好ましい。
【0017】
エマルションを高乱流状態で安定化させる方法として、高密度二酸化炭素と水分散液とを混合機に入れ、混合機においてレイノルズ数が8000以上の高せん断場を形成する方法を採用することができる。混合機においてレイノルズ数が8000以上の高せん断場を形成するためには、ミキサーにおけるレイノルズ数が14000以上であることが好ましい。
具体的には、内径0.3〜0.5mmの管を有するT字継手(例えば、スエジロック社製 SS−1F0−3GC)をミキサー7として用い、ガス加圧ポンプ2および二酸化炭素温度調節器3により作製された高密度二酸化炭素を所定の量および圧力でミキサー7のT字継手の一方の流入口へ流入し、また、液加圧ポンプ5および分散液温度調節器6により、水分散液4を所定の量および圧力でミキサー7のT字継手の他方の流入口へ流入し、高密度二酸化炭素と水分散液とが衝突して混合しあうようにして、流出管(T字継手の残りの管)にこれらの高密度二酸化炭素と水分散液とを混合させながら流入させることにより、流出管内でエマルションを形成する方法を採用することができる。
例えば、ミキサー7に流路径0.3mmのT字継手(スエジロック社製 SS−1F0−3GC)を使用し、高密度二酸化炭素と水分散液の供給温度と供給圧力を、それぞれ、20℃、10MPaとし、さらに高密度二酸化炭素と水分散液の配合比率(重量基準)を8:2とすれば、高密度二酸化炭素の流量を60〜100ml/分、水分散液の流量を13〜35ml/分とすることができる。
【0018】
また、図1に示すように、ミキサー(T字継手)7には、配管8が接続されており、この配管8の内径および高密度二酸化炭素と水分散液の混合体の体積流量を調整することにより、混合機におけるレイノルズ数を調整することができる。
そして、この混合機内でのレイノルズ数が8000以上であれば、高せん断場を形成するようにすることができ、これにより乱流状態を形成、維持してエマルションを安定化させることができる。レイノルズ数としては、好ましくは10000以上、さらに好ましくは12000以上である。例えば、レイノルズ数を8000以上とする場合は、配管8の内径を0.5mmとし、流路径0.3mmのT字継手(ミキサー7)を使用し、高密度二酸化炭素と水分散液の供給温度と供給圧力を、それぞれ、20℃、10MPaとし、高密度二酸化炭素と水分散液の配合比率(重量基準)を8:2とする条件では、高密度二酸化炭素と水分散液の混合体の体積流量を55ml/分以上とすればよく、レイノルズ数10000以上とする場合は、混合体の体積流量を65ml/分以上とすればよく、レイノルズ数12000以上とする場合は、混合体の体積流量を70ml/分以上とすればよい。
なお、ミキサーとして、T字継手以外にもレイノルズ数が14000以上の高せん断場を形成できるものであればよく、スタティックミキサー等の工業用汎用ミキサー、マイクロミキサー(例えば、IMM社製)等を使用することもできる。
【0019】
〔第2ステップ〕
本発明の第2ステップは、ノズルから高密度二酸化炭素と水分散液の混合体を噴射させて氷滴粒子を得るステップである。
この第2ステップでは、高密度二酸化炭素と水分散液の混合体(エマルション)をノズルから噴射して、急速に減圧・膨張させて、氷滴粒子を得るものである。混合体がノズルから噴射されると、二酸化炭素のジュール−トムソン(Joule-Thomson)効果及び断熱膨張により、減圧・膨張された混合体の温度は低下するので、混合体中の水分は凍結する。一方、二酸化炭素は気化して、混合体から分離されるため、結果として、内部にナノ粒子を複数個含む微小な氷滴粒子が単独で形成される。
【0020】
氷滴粒子を形成するための高密度二酸化炭素と水分散液との配合比率は、ジュール−トムソン効果の計算により、次式(1)の関係を満たすようにしておくのが好ましい。
水分散液の水の重量/(水分散液の水の質量+高密度二酸化炭素の重量)×100≦30重量%(質量%) ・・・(1)
【0021】
また、形成される氷滴粒子の粒子径は特に限定されないが、乾燥収縮により概ね1/2〜1/3に収縮するので、最終的に得られる集合体粒子の粒子径(0.1〜5μm)を考慮すると、平均粒子径を0.2〜15μmの範囲にしておくのが好ましい。
このような平均粒子径を有する氷滴粒子は、混合体の噴射圧力により調整することができる。噴射圧力は、高密度二酸化炭素の圧力と水分散液の圧力、噴射ノズルの形状(噴射ノズル長さ)による圧力損失により制御することができる。
なお、図1では、高密度二酸化炭素の圧力と水分散液の圧力、および噴射ノズルの形状により噴射圧力を調整する場合を示しているが、噴射ノズル10の手前に圧力調整バルブを設けて混合体の噴射圧力を調整することも可能である。
【0022】
また、ノズルから噴射された混合体は、温度の低下と二酸化炭素の分離により氷滴粒子となるが、氷滴粒子は、空間流動中に氷滴粒子同士の衝突が起こる場合がある。一般に、液滴の衝突による液滴粒子の成長は液滴同士の液架橋力によって引き起こされると考えられており、その液架橋力は次式(2)で表されている。
Fc=[πr22σ(1/r1−1/r2)+2πr2σ](Dp/2) ・・・(2)
ただし、Fcは液架橋力(N)、σは表面張力(mN/m)、Dpは液滴直径(μm)、r1およびr2は液滴間曲率半径(μm)である。
【0023】
すなわち、液滴粒子の場合は表面張力が小さく、また、液滴粒子の直径を小さくすると液架橋力が小さくなり、液滴同士の衝突による粒子成長は小さくなるが、溶媒が水の場合には表面張力が大きく、液滴粒子の成長は避けられず、得られる集合粒子の粒度分布は広いものとなる。
一方、氷滴粒子においては、衝突時の粒子間圧力融解による再凍結による凝集または成長や氷滴粒子表面の水様膜の再配列による凝集がある。氷滴粒子の圧力融解による粒子成長の可能性については、例えば−5℃の氷の融解圧力は560気圧であり、通常の条件下では圧力融解による成長はないと考えられている。すなわち、氷滴粒子の場合には氷滴粒子の凝集は生じるが、液滴の様な粒子成長はほとんど生じない。
したがって、ノズルから噴射された氷滴粒子は粒子成長することなく空間流動し、乾燥部へ導かれることになる。
【0024】
混合体が噴射される環境は、大気中であってもよいが、二酸化炭素の気化の容易性を考慮すると、減圧下に噴射するのがよい。
また、氷滴粒子の回収の容易性から、所定の容器内に混合体を噴射するのが好ましい。図1では、オイルバス12で氷滴粒子11を回収するために、噴射ノズル10からオイルバス12に向けて高密度二酸化炭素と水分散液の混合体(エマルション)を噴射して氷滴粒子11を形成している状態を示している。
【0025】
〔第3ステップ〕
本発明の第3ステップは、氷滴粒子から乾燥により水分を除去するステップである。
このステップでは、この乾燥の際に、氷滴粒子同士が接触しないようにして水分を除去する必要がある。氷滴粒子が接触すると、得られる集合体粒子の粒子径が大きくなったり、粒度分布が広がったりして、均一性の高い集合体粒子を得ることが困難になるからである。
乾燥方法としては、氷滴粒子を水と相溶しない溶媒液を予め水の沸点以上の温度に設定しておき、この溶媒液で氷滴粒子を回収して、氷滴粒子から水分を除去する方法、氷滴粒子を0℃以下の雰囲気下で回収して、そのまま凍結乾燥により水分を除去する方法を採用することができる。さらに、真空乾燥、常温乾燥、水の沸点以上の温度に設定した加熱ヒータによる加熱乾燥、加熱気流等の公知の乾燥方法も採用することができる。
図1では、氷滴粒子11を水の沸点以上の温度に設定したシリコーンオイル(氷滴粒子や水と相溶しない溶媒液)のオイルバス12により回収し、そのシリコーンオイル中で、氷滴粒子11から水分を除去するようにしてある。
【0026】
そして、この第1〜第3ステップを経ることにより、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される平均粒子径が0.1〜5μmで、粒度分布の狭い(粒子径が揃った)集合体粒子を得ることができる。
この集合体粒子の平均粒子径および粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、島津製作所社製 SALD−300V)により測定することができる。
そして、例えば、平均粒子径は50%粒子数における粒子径(D50)とし、また粒度分布は60%粒子数における粒子径(D60)と10%粒子数における粒子径(D10)の比(D60/D10)から評価することができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、下記に示す方法に従って測定した。
(1)集合体粒子の外観形状
走査型電子顕微鏡(日本電子(株)社製 JSM−6510)を用いて、得られた集合体粒子の外観形状を観察した。
(2)集合体粒子の平均粒子径
集合体粒子の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 SALD−300V)により測定し、50%粒子数における粒子径(D50)とした。
(3)集合体粒子の粒度分布
集合体粒子の粒度分布は、平均粒子径の場合と同様に、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 SALD−300V)により測定し、60%粒子数における粒子径(D60)と10%粒子数における粒子径(D10)の比(D60/D10)により評価した。
【0028】
実施例1
図1に示すような製造装置を用いて、集合体粒子を作製した。
ミキサー7として、内径φ0.3mmのT字継手(スエジロック社製 SS−1F0−3GC)を用意し、配管8として、内径φ0.5mm、外径φ1.57mm、長さ6mのステンレス製(SUS316)の配管(GLサイエンス社製)を用意し、T字継手の流出管に配管8を接続し、混合機9とした。また、混合機9の配管8と噴射ノズル10とを接続した。
また、ガス加圧ポンプ2として、最大流量100ml/分、最大圧力35MPaのプランジャーポンプ(日本精密科学社製 NP−KX−500)を用い、液加圧ポンプ5として、最大流量50ml/分、最大圧力50MPaのプランジャーポンプ(ISCO社製 100シリンジ)を用いた。
【0029】
水分散液として、ナノジルコニア粒子分散液(住友大阪セメント(株)製、平均1次粒子径3nm、平均分散粒子径9nm、ジルコニア固形分比率10質量%、pH4)を用い、水分散液4とした。この水分散液4は、恒温槽に浸漬して20℃の温度とした。
さらに、ボンベ中の二酸化炭素1をガス加圧ポンプ2および二酸化炭素温度調節器3を用いて高圧にすることにより、高密度二酸化炭素(液化二酸化炭素)とした。
そして、高密度二酸化炭素の圧力をガス加圧ポンプ2および二酸化炭素温度調節器3により調整して所定の圧力(P2)とし、水分散液の圧力を液加圧ポンプ5および水分散液温度調節器6により調整して所定の圧力(P3)とし、高密度二酸化炭素と水分散液とをそれぞれミキサー7のT字継手の両サイドの流入口から流入させ、高密度二酸化炭素と水分散液とが衝突して混合しあうようにして、流出管(T字継手の残りの管)にこれらの高密度二酸化炭素と水分散液とを混合させながら流入させ混合体(エマルション)を作製した。
このとき、高密度二酸化炭素と水分散液との配合比率(水配合率)〔水分散液の水の重量/(水分散液の水の質量+高密度二酸化炭素の重量)×100(質量%)〕は、17質量%とした。
【0030】
また、噴射ノズル10の圧力(噴射圧力)(P1)は、高密度二酸化炭素の圧力(P2)、水分散液の圧力(P3)および噴射ノズル10の形状により所定の圧力となるように調整した。
そして、噴射ノズル10から噴霧状に噴射されて形成された氷滴粒子11は、150℃に設定したシリコーンオイルのオイルバス12で回収し、シリコーンオイル中で水分を除去した。そして、シリコーンオイル中で形成され集合体粒子を濾紙にて集合体粒子とシリコーンオイルとを分離し、分離した集合体粒子をアセトンにて洗浄した。洗浄後、集合体粒子を集め、120℃の乾燥機で24時間乾燥させて、ナノ粒子が集合して形成される集合体粒子を作製した。
【0031】
得られた集合体粒子について、外観形状の観察、平均粒子径の測定および粒度分布の評価をおこなった。
水分散液中のナノジルコニア粒子の固形分比率、水分散液流量、水分散液圧力P3、高密度二酸化炭素の流量(CO2流量)、高密度二酸化炭素の圧力(CO2圧力P2)、高密度二酸化炭素の密度(CO2密度)、噴射ノズルの圧力(ノズル圧力P1)、水配合率、混合機内でのレイノルズ数(Re数)、得られた集合体粒子の外観形状、平均粒子径(D50)および粒度分布(D60/D10)を表1に示す。
【0032】
実施例2〜8
実施例1の水分散液圧力P3、CO2流量、CO2圧力P2、CO2密度、ノズル圧力P1、水配合率およびRe数を表1に示す値に変えたほかは、実施例1と同様にして、ナノ粒子が集合して形成される集合体粒子を作製した。
得られた集合体粒子の外観形状、平均粒子径(D50)および粒度分布(D60/D10)を表1に示す。
【0033】
実施例9
実施例1の水分散液中のナノジルコニア粒子の固形分比率、水分散液圧力P3、CO2流量、CO2圧力P2、CO2密度、ノズル圧力P1、水配合率およびRe数を表1に示す値に変えたほかは、実施例1と同様にして、ナノ粒子が集合して形成される集合体粒子を作製した。
得られた集合体粒子の外観形状、平均粒子径(D50)および粒度分布(D60/D10)を表1に示す。
【0034】
実施例10
水分散液として、TiO2ゾル(多木化学(株)製、タイノック M−6、平均1次粒子径5nm、平均分散粒子径20nm、TiO2固形分比率6質量%、pH3)を用い、実施例1の、水分散液圧力P3、CO2流量、CO2圧力P2、CO2密度、ノズル圧力P1、水配合率およびRe数を表1に示す値に変えたほかは、実施例1と同様にして、ナノ粒子が集合して形成される集合体粒子を作製した。
得られた集合体粒子の外観形状、平均粒子径(D50)および粒度分布(D60/D10)を表1に示す。
【0035】
実施例11
水分散液水分散液として、ZnOナノ粒子分散液(住友大阪セメント(株)製、超微粒子酸化亜鉛分散液、平均1次粒子径15nm、平均分散粒子径60nm、酸化亜鉛固形分比率10質量%、pH8)を用い、実施例1の、水分散液圧力P3、CO2流量、CO2圧力P2、CO2密度、ノズル圧力P1、水配合率およびRe数を表1に示す値に変えたほかは、実施例1と同様にして、ナノ粒子が集合して形成される集合体粒子を作製した。
得られた集合体粒子の外観形状、平均粒子径(D50)および粒度分布(D60/D10)を表1に示す。
【0036】
実施例12
水分散液水分散液として、CeO2ゾル(多木化学(株)製、ニードラールB−10、平均1次粒子径10nm、平均分散粒子径20nm、CeO2固形分比率10質量%、pH8)を用い、実施例1の、水分散液圧力P3、CO2流量、CO2圧力P2、CO2密度、ノズル圧力P1、水配合率およびRe数を表1に示す値に変えたほかは、実施例1と同様にして、ナノ粒子が集合して形成される集合体粒子を作製した。
得られた集合体粒子の外観形状、平均粒子径(D50)および粒度分布(D60/D10)を表1に示す。
【0037】
比較例1
実施例1と同様のナノ粒子の水分散液を5g/分の流量でスプレーして霧化(エアロゾル)させ、これを高温気流中に導入して乾燥し、得られた球状の集合体粒子をフィルターにより回収した(従来のスプレー法)。
この方法により得られた集合体粒子の外観形状、平均粒子径(D50)および粒度分布(D60/D10)を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1からわかるように、実施例1〜12により製造した集合体粒子は、外観形状が球状であり、平均粒子径(D50)は0.5〜4.6μmであった。また、集合体粒子の粒度分布(D60/D10)は、2.0〜4.1であり、粒度分布が狭く、粒子径が揃っており、均一性の高いものであった。
これに対し、比較例1により製造した集合体粒子は、外観形状が球状と中凹球状が混在しており、平均粒子径(D50)は7.0μmであった。また、集合体粒子の粒度分布(D60/D10)は、11.3であり、粒度分布が広く、均一性は実施例1〜12に比べ低いものであった。
したがって、本発明によれば、金属アルコキシドや有機溶媒を用いることなく、噴射された氷滴粒子を乾燥するだけで、集合体粒子を作製することができるので、高速で、かつ環境への影響を少なくして集合体粒子を製造することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の集合体粒子の製造方法によれば、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子が集合して形成される、マイクロメートルオーダーの平均粒子径を有し、粒度分布が狭い集合体粒子を、高速で、かつ環境への影響を少なくして製造することができ、セラミック原料や顔料、触媒担体や吸着剤、光触媒、エネルギデバイス電極材等の原料等として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0041】
1 二酸化炭素
2 ガス加圧ポンプ
3 二酸化炭素温度調節器(熱交換器)
4 水分散液
5 液加圧ポンプ
6 水分散液温度調節器(熱交換器)
7 ミキサー
8 配管
9 混合機
10 噴射ノズル
11 氷滴粒子
12 オイルバス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高密度二酸化炭素と、金属酸化物、金属含水酸化物または金属水酸化物のナノ粒子の水分散液とを混合して混合体を形成するステップと、ノズルから当該混合体を噴射させて氷滴粒子を得るステップと、当該氷滴粒子から乾燥により水分を除去するステップとを含む、ナノ粒子が集合して形成される平均粒子径が0.1〜5μmの集合体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記高密度二酸化炭素と前記水分散液とを混合機に入れ、レイノルズ数が8000以上の高せん断場を形成することによって前記混合体を形成する請求項1に記載の集合体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記混合体が、前記高密度二酸化炭素中に、前記水分散液がエマルション状態で分散している混合体である請求項1又は2に記載の集合体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記氷滴粒子を、水の沸点以上の温度に設定した水と相溶しない溶媒液中に回収し、当該氷滴粒子から乾燥により水分を除去する請求項1〜3のいずれかに記載の集合体粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162416(P2011−162416A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29355(P2010−29355)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月16日 社団法人 化学工学会発行の「化学工学会 第41回秋季大会 研究発表講演要旨集(CD)」に発表
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】