説明

集電体、電極および蓄電装置

【課題】不働態皮膜の影響が抑えられた集電体、電極および蓄電装置を提供する。
【解決手段】集電体は、アルミニウムよりなる基材と、基材の表面上に形成され、アルミニウムと導電性ともつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有し、導電体層の表面に特定の粗さを有する凹凸が形成されたことを特徴とする。電極および蓄電装置は、集電体を用いてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム集電体、電極およびこれらを用いてなる蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染が地球規模で大きな問題となっており、特に、ガソリン自動車の排気ガスは大気汚染の汚染源の一つとなっている。このため、排気ガスの排出量を低減させた自動車や排気ガスを出さない自動車の開発が進められている。排気ガスの排出量を低減させた自動車の一つとして、内燃機関と電気モータとを組み合わせたハイブリッド自動車がある。また、排気ガスを出さない自動車の一つとして、電気自動車がある。これらの自動車は、二次電池やキャパシタなどの蓄電装置に蓄電された電気を動力源として駆動する。
【0003】
自動車に搭載される蓄電装置には、小型、軽量でありながら、瞬時に大電流を充放電することができることが求められている。すなわち、高出力密度であることが要求されている。高出力密度を得る方法のひとつに、蓄電装置を構成する各種の材質の抵抗(蓄電装置の内部抵抗)を低減する方法がある。
【0004】
一般に、車両に搭載される蓄電装置は、重量エネルギー密度を向上させるために、正極および負極がシート状に形成され、同じくシート状に形成されたセパレータを介して、シート状の正極および負極が巻回あるいは積層された状態で、ケース内に納められた構成を有している。シート状の電極板は、集電体となる金属箔の表面に、活物質を含む合剤層を形成した構造をしている。
【0005】
蓄電装置において、集電体には、アルミニウム箔が用いられている。アルミニウムは、表面に酸化アルミニウムよりなる酸化皮膜が形成されている。つまり、通常のアルミニウムよりなる集電体は、酸化皮膜を有している。また、蓄電装置が駆動して、アルミニウムよりなる集電体が高電位に晒されると、周囲の電解液と反応して高抵抗な皮膜が形成されることが確認された。
【0006】
このように、蓄電装置には、アルミニウムよりなる集電体の表面に形成される酸化皮膜や高抵抗な皮膜により、内部抵抗が増加するという問題があった。内部抵抗が増加すると、大電流で充放電を行ったときに電圧降下を招き、この結果として、蓄電装置の出力の低下を招いていた。
【0007】
酸化皮膜や高抵抗な皮膜等の不働態皮膜の問題に対して、特許文献1〜3が開示されている。
【0008】
特許文献1には、アルミニウム箔の表面に、アルミニウム箔の厚みより小さな粒子径の電子導電性粒子が埋め込むことが開示されている。電子導電性粒子をアルミニウム箔に埋め込むことで、内部抵抗の増大を抑えている。
【0009】
特許文献2には、集電体の表面に、メジアン径が0.8μm以下の微粒炭素が塗布することが開示されている。微粒炭素を付着することで、集電体と電極活物質あるいは電解液との界面の不働態皮膜の形成を阻止する。
【0010】
特許文献3には、集電体の外部表面を、ハフニウムまたはハフニウム基合金によって形成することが開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された集電体は、アルミニウム箔の表面の不働態皮膜が除去されていない(表面に酸化皮膜が形成された状態でさらなる処理を行っている)ことから、内部抵抗低下の十分な効果が得られないという問題があった。
【0012】
さらに、特許文献1〜3においては、アルミニウム箔とその表面に形成される導電性の表面層とは、いずれもアルミニウム箔表面の凹凸のアンカー効果により接合されているのみであり、耐久性・信頼性に問題があった。
【0013】
このような問題に対して、特許文献4には、無酸素雰囲気下でアルミニウム箔表面を研磨して酸化皮膜を除去し、無酸素雰囲気下で活物質層を形成することが開示されている。この特許文献4に開示された方法でも、活物質層とアルミニウム箔(集電体)との接合が、アンカー効果のみであり、接合力が弱いという問題があった。そして、製造された電極のアルミニウムの露出した部分の酸化が発生し、内部抵抗の増大を招くという問題があった。
【0014】
また、アルミニウム箔の表面上に導電性の材料を配置するものとして、アルミニウム箔にアルミニウムカーバイドを種結晶としてカーボンウィスカを形成した製品(東洋アルミニウム株式会社製、商品名:トーヤルカーボ)がある。しかしながら、この製品は、抵抗の大きなアルミニウムカーバイドが介在しており、カーボンウィスカとアルミニウム箔とが直接結合しておらず、耐久性・信頼性に問題があった。
【0015】
上記したように、従来の蓄電装置の集電体に用いられるアルミニウム箔には、表面に酸化皮膜があることにより、内部抵抗の増加や、耐久性・信頼性に懸念があった。
【特許文献1】特開平7−22606号公報
【特許文献2】特開2002−298853号公報
【特許文献3】特開2004−63156号公報
【特許文献4】特開2000−243383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム表面の不働態皮膜の影響が抑えられた集電体およびこの集電体を用いた蓄電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために本発明者らはアルミニウムよりなる集電体の表面に導電材が混在する接合層を形成し、その表面上に導電材を含む導電体層を形成することで上記課題を解決できることを見いだした。
【0018】
すなわち、本発明の集電体は、アルミニウムよりなる基材と、基材の表面上に形成され、アルミニウムと導電性ともつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の電極は、アルミニウムよりなる基材と、基材の表面上に形成され、アルミニウムと導電性ともつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、導電体層上に形成され、導電体層上に形成され、イオンを吸蔵・放出可能なもしくは酸化還元反応に伴う電子の授受が可能なまたは電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極活物質をもつ活物質層と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の蓄電装置は、上記の集電体を用いてなる蓄電装置であり、請求項1〜10に記載の集電体より形成された電極板を用いてなることを特徴とする。
【0021】
本発明の集電体は、不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられ、内部抵抗の上昇による蓄電装置の出力特性の低下が抑えられる。また、接合層を有することで、導電体層の剥離が生じなくなり、耐久性・信頼性に優れた集電体となっている。
【0022】
本発明の電極は不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられた集電体を用いてなる電極であり、内部抵抗の上昇による出力特性の低下が抑えられた蓄電装置を得られる。また、接合層を有することで、導電体層の剥離が生じなくなり、耐久性・信頼性に優れた電極となっている。
【0023】
また、導電体層の表面に特定の粗さを有する凹凸が形成することにより、接合性の向上および、電極反応による電気の移動量を増加させることができる。
【0024】
導電体層上に活物質層を形成したときに活物質層に含まれる電極活物質や導電助材などが凹部に入り込み、両層の接合性が向上する。さらに、活物質層に含まれる電極活物質や導電助材と導電体層の接触面積が広くなるため、集電体が取り出すことができる電気量が増加し、この結果、出力性能に優れた蓄電装置を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(集電体)
本発明の集電体は、アルミニウムよりなる基材と、基材の表面上に形成され、アルミニウムと導電性ともつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、を有する。
【0026】
そして、導電体層の表面に特定の粗さを有する凹凸が形成されている。導電体層の表面に凹凸が形成されたことで、導電体層の表面上に電極活物質を有する活物質層を形成したときに、凹凸の内部にまで活物質層が形成され、導電体層と活物質層の接合性が向上する。また、導電体層の表面に凹凸が形成されると、導電体層と活物質層の接触面積が増大し、活物質層の電極活物質での電極反応により生じた電気の移動量が増加する。この結果、この集電体を用いた蓄電装置の出力特性が向上する。
【0027】
導電体層の表面の凹凸は、集電体の使用条件により異なるため一概に決定できるものではない。導電体層の表面の凹凸が小さく表面が滑らかとなると、表面の凹凸を形成する凹部の内部に活物質層に含まれる電極活物質や導電助材などが侵入しなくなり凹部の内部に活物質層を形成することが困難となる。この結果、導電体層と活物質層の接合性が低下する。また、従来の活物質層は、電極活物質粒子が分散した活物質ペーストを集電体の表面(導電体層の表面)に塗布して形成されている。導電体層の表面の凹凸が小さい(算術平均粗さRa(粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値)および、十点平均粗さRz(粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和)が小さい)場合には、導電体層の凹凸の凹部の内部に活物質層に含まれる電極活物質や導電助材などが入らなくなり、電極反応により生じる電気を十分に取り出せなくなる。このため、導電体層の表面は、その表面粗さが、その後の活物質層の形成に用いられる電極活物質粒子の粒径(平均粒径)よりも大きいことが好ましい。
【0028】
一般的に、活物質ペーストには、平均粒径が1.0μmの電極活物質が用いられており、導電体層は、Raが1.0μm以上、Rzが8.0μm以上であることが好ましい。導電体層のRaが1.0μm以上、Rzが8.0μm以上となることで、導電体層の表面上に、接合性に優れた活物質層を形成することができる。
【0029】
導電体層の表面の凹凸が大きくなりすぎると、導電体層の表面が粗くなりすぎ、活物質層を形成するための活物質の目付量が増加する。さらに、導電体層の表面が粗くなりすぎ、十分な強度を確保できなくなる。一般的な電極は、集電体の表面上に活物質層を形成した後にプレスして活物質層の密度を上げているが、凹凸が大きくなりすぎると、このプレス時に加えられる圧力により導電体層が破損する。このため、導電体層は、Raが3.0μm以下、Rzが30μm以下であることが好ましい。
【0030】
すなわち、導電体層は、Raが1.0〜3.0μm、Rzが8〜30μmであることが好ましい。
【0031】
本発明の集電体は、導電性を備えた導電材をもつ導電体層により表面が形成されている。導電体層を持つことで、有機電解液を用いた蓄電装置の電極を形成したときに、基材を構成するアルミニウムが電解液に晒されなくなり、不働態皮膜(高抵抗の皮膜)が形成されなくなる。不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられ、内部抵抗の上昇による蓄電装置の出力特性の低下が抑えられる。
【0032】
また、本発明の集電体は、アルミニウムに導電材が混在する接合層を形成するときに、アルミニウム表面の酸化皮膜が除去されている。つまり、本発明の集電体は、アルミニウム表面の酸化皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられている。
【0033】
さらに、本発明の集電体は、接合層により基材と導電体層とが接合されている。接合層は、基材を構成するアルミニウムと導電体層において導電性を発揮する導電材とが混在しており、接合層と基材および基材接合層と導電体層との接合を同種の材質同士で行うことが可能となり、強固に接合される。これにより、集電体を蓄電装置に使用しても、導電体層の剥離が生じなくなり、耐久性・信頼性に優れた集電体となっている。
【0034】
接合層は、基材の表面から内部に導電材が拡散して形成されたことが好ましい。基材の表面から内部に導電材が拡散すると、接合層の表面近傍は導電材を多量に含有し、表面から内部に進むにつれて導電材の含まれる割合が徐々に減少する。このような構成となることで、基材および導電体層を強固に接合することができる。すなわち、接合層は、基材側から導電体層側に向かって導電材の濃度が増加することが好ましい。また、導電材を基材に拡散させることで、基材と接合層との界面が存在しなくなり、集電体の導電性が向上する。なお、導電材は、基材を構成するアルミニウムマトリックス中に分子レベルで拡散したことが好ましい。
【0035】
また、基材に導電材を拡散させて接合層を形成することで、導電材を拡散させるときに基材を構成するアルミニウムの表面に存在する酸化皮膜が除去され、酸化皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられる。
【0036】
接合層は、0.01μm以上の厚さで形成されたことが好ましい。ここで、接合層の厚さとは、導電材が含まれる部分の厚さを示す。接合層が0.01μm以上の厚さで形成されることで、基材と導電体層を接合する効果を発揮する。
【0037】
基材は、30μm以下の厚さで形成されたことが好ましい。基材の厚さが30μmを超えると、集電体の厚さが厚くなりすぎる。集電体の厚さが厚くなると、蓄電装置を形成したときの電極にしめる基材の割合が多くなり、体積あたりの活物質量が減少することとなり、体積効率が低下する。
【0038】
本発明の集電体において、導電材の材質は特に限定されるものではなく、蓄電装置に用いたときの電解液や使用条件等により適宜選択することができる。集電体が使用される蓄電装置の電解液や使用条件等により、アルミニウム表面に生成される不働態皮膜が異なる。たとえば、リチウムイオン電池にはLiPFを電解質として含む電解液が用いられており、このリチウムイオン電池の集電体において4V程度で生成される不働態皮膜は、フッ化アルミニウムである。このように、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により生成される不働態皮膜の材質や厚さが異なる。このため、導電材の材質は、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により適宜選択できる。たとえば、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種をあげることができる。また、これらを複合して用いてもよい。
【0039】
炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素の少なくとも一種であることが好ましい。これは、硬度が高いため、集電体(の基材)を構成するアルミニウム(箔)との接合強度が高くなるためである。導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種であることが好ましい。導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種であることが好ましい。金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種であることが好ましい。
【0040】
炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料がこれらの材質より選ばれることで、内部抵抗を上昇させることなく導電体層が電気伝導性を持つことが可能となる。
【0041】
本発明の集電体において、基材を構成するアルミニウムは、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金であってもよい。たとえば、マンガンを含むアルミニウム合金は、強度が向上しており、基材の厚さを薄くすることが可能となる。また、基材は、焼きなましなどの熱処理が施されていないことが好ましい。
【0042】
本発明の集電体は、基材、接合層、導電体層を形成できる方法であれば、その製造方法が限定されるものではない。たとえば、導電材を基材に噴射して拡散させる製造方法をあげることができる。このとき、基材を構成するアルミニウムは、酸化を生じやすい金属であるため、常温以下に保持されたことが好ましい。
【0043】
(電極)
本発明の電極は、アルミニウムよりなる基材と、基材の表面上に形成され、アルミニウムと導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、接合層上に形成され、導電材を有する導電体層と、導電体層上に形成され、イオンを吸蔵・放出可能なもしくは酸化還元反応に伴う電子の授受が可能なまたは電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極活物質をもつ活物質層と、を有する。すなわち、本発明の電極は、上記の集電体の接合層上に活物質層を形成してなる電極である。
【0044】
そして、本発明の電極は、導電体層の表面に特定の粗さを有する凹凸が形成されている。導電体層の表面に凹凸が形成されたことで、導電体層の表面上に設けられる電極活物質を有する活物質層が凹凸の内部にまで形成され、導電体層と活物質層の接合性が向上する。また、導電体層の表面に凹凸が形成されたことで、導電体層と活物質層の接触面積が増大し、活物質層の電極活物質での電極反応により生じた電気の移動量が増加する。この結果、本発明の電極を用いた蓄電装置の出力特性が向上する。本発明の電極は、上記の集電体の導電体層上に活物質層を形成してなる電極である。
【0045】
本発明の電極は、導電体層の表面に凹凸が形成されている。導電体層の表面に凹凸が形成されたことで、凹凸の内部にまで活物質層が形成され、導電体層と活物質層の接合性が向上する。また、導電体層の表面に凹凸が形成されると、導電体層と活物質層の接触面積が増大し、活物質層の電極活物質での電極反応により生じた電気の移動量が増加する。この結果、この集電体を用いた蓄電装置の出力特性が向上する。
【0046】
導電体層の表面の凹凸は、電極厚み等の設計や電極の使用条件により異なるため一概に決定できるものではない。導電体層の表面の凹凸が小さく表面が滑らかとなると、表面の凹凸を形成する凹部の内部に活物質層を形成することが困難となる。この結果、導電体層と活物質層の接合性が低下する。また、従来の活物質層は、電極活物質粒子が分散した活物質ペーストを集電体の表面(導電体層の表面)に塗布して形成されている。導電体層の表面の凹凸が小さい(Ra、Rzが小さい)場合には、導電体層の凹凸の凹部の内部に電極活物質粒子が入らなくなり、電極反応により生じる電気を十分に取り出せなくなる。このため、導電体層の表面は、その表面粗さが、活物質層の形成に用いられる電極活物質粒子の粒径(平均粒径)よりも大きいことが好ましい。
【0047】
一般的に、活物質ペーストには、平均粒径が1.0μmの電極活物質が用いられており、導電体層は、Raが1.0μm以上、Rzが8.0μm以上であることが好ましい。導電体層のRaが1.0μm以上、Rzが8.0μm以上となることで、導電体層の表面上に、接合性に優れた活物質層を形成することができる。
【0048】
導電体層の表面の凹凸が大きくなりすぎると、導電体層の表面が粗くなりすぎ、活物質層を形成するための活物質の目付量が増加する。さらに、導電体層の表面が粗くなりすぎ、十分な強度を確保できなくなる。一般的な電極は、集電体の表面上に活物質層を形成した後にプレスして活物質層の密度を上げているが、凹凸が大きくなりすぎると、このプレス時に加えられる圧力により導電体層が破損する。このため、導電体層は、Raが3.0μm以下、Rzが30μm以下であることが好ましい。
【0049】
すなわち、導電体層は、Raが1.0〜3.0μm、Rzが8.0〜30μmであることが好ましい。
【0050】
本発明の電極は、上記の集電体を用いてなる電極であり、上記の集電体は、アルミニウムよりなる基材の表面上に導電体層が形成されており、内部抵抗の上昇が抑えられ、かつ高い耐久性・信頼性を発揮する電極となっている。
【0051】
本発明の電極は、上記の集電体を用いてなる電極であり、導電体層上に活物質層をもつ電極である。活物質層は、イオンを吸蔵・放出可能なもしくは酸化還元反応に伴う電子の授受が可能なまたは電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極活物質をもつ。電極活物質は、本発明の電極を蓄電装置の電極として用いたときに電極反応を生じる物質である。電極活物質が生じる電極反応は、限定されるものではなく、リチウム電池の電極反応のようにイオンをその結晶構造中に吸蔵・放出する反応や、ラジカル電池のように酸化還元反応に伴う電子の授受を行う反応、電気二重層キャパシタのようにその表面に電気二重層を形成する反応をあげることができる。
【0052】
本発明の電極は、正極と負極のいずれに用いてもよい。たとえば、リチウムイオン電池の電極として用いられるときには、正極であることが好ましい。
【0053】
本発明の電極において電極活物質は、蓄電装置を構成したときに、イオンを吸蔵・放出する電極反応、酸化還元反応に伴う電子の授受を行う電極反応、イオンを可逆的に担持する電極反応の少なくとも一種の電極反応を生じる物質であれば特に限定されるものではない。電極活物質は、金属酸化物系化合物、ラジカル安定化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
【0054】
金属酸化物系化合物としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物であればよい。金属酸化物系化合物が、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な化合物よりなることで、本発明の電極を用いてリチウムイオン電池を形成することができる。金属酸化物系化合物としては、たとえば、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物にコバルト系酸化物、ニッケル系酸化物、マンガン系酸化物、鉄オリビン酸系酸化物を含む化合物やこれらの複合酸化物をあげることができる。すなわち、金属酸化物系化合物は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物にコバルト系酸化物、ニッケル系酸化物、マンガン系酸化物、鉄オリビン酸系酸化物の少なくとも一種あるいはこれらの複合体を含む化合物であることが好ましい。より具体的には、LiCoO,LiNiO,LiMnO,LiMnや、LiNi1−x−yCo(MはAl,Sr,Mg,Laなどの金属元素)のようなリチウム遷移金属酸化物の一種以上、あるいはこれらの複合体をあげることができる。
【0055】
ラジカル化合物は、不対電子を備えており、この不対電子が電極反応に用いられる。つまり、この不対電子が電流として集電体を介して取り出される。この結果、酸化還元反応に伴う電子の授受を行う電極反応が進行する。この電極反応を用いた蓄電装置は、電子の授受の容易さから、高出力が得られる効果を発揮する。ラジカル化合物は、電極反応に寄与する不対電子をもつ化合物であれば特に限定されるものではない。ラジカル化合物は、ニトロキシルラジカルを有する化合物、オキシラジカルを有する化合物、窒素ラジカルを有する化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
【0056】
電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極反応としては、たとえば、キャパシタの電極において生じる反応をあげることができる。電荷を可逆的に蓄えることが可能な活物質としては、従来公知のキャパシタにおいて用いられている活物質をあげることができ、たとえば、活性炭などの炭素質材料をあげることができる。
【0057】
本発明の電極において、接合層は、0.01μm以上の厚さで形成されたことが好ましい。ここで、接合層の厚さとは、導電材が含まれる部分の厚さを示す。接合層が0.01μm以上の厚さで形成されることで、基材と導電体層を接合する効果を発揮する。
【0058】
基材は、30μm以下の厚さで形成されたことが好ましい。基材の厚さが30μmを超えると、集電体の厚さが厚くなりすぎる。集電体の厚さが厚くなると、蓄電装置を形成したときの電極にしめる基材の割合が多くなり、体積あたりの活物質量が減少することとなり、体積効率が低下する。
【0059】
本発明の電極において、導電材の材質は特に限定されるものではなく、蓄電装置に用いたときの電解液や使用条件等により適宜選択することができる。集電体が使用される蓄電装置の電解液や使用条件等により、アルミニウム表面に生成される不働態皮膜が異なる。たとえば、リチウムイオン電池にはLiPFを電解質として含む電解液が用いられており、このリチウムイオン電池の集電体において4V程度で生成される不働態皮膜は、フッ化アルミニウムである。このように、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により生成される不働態皮膜の材質や厚さが異なる。このため、導電材の材質は、蓄電装置内で集電体が晒される電解液の種類や電位により適宜選択できる。たとえば、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種をあげることができる。また、これらを複合して用いてもよい。
【0060】
炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素の少なくとも一種であることが好ましい。これは、硬度が高いため、集電体(の基材)を構成するアルミニウム(箔)との接合強度が高くなるためである。導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種であることが好ましい。導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種であることが好ましい。金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種であることが好ましい。
【0061】
炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料がこれらの材質より選ばれることで、内部抵抗を上昇させることなく導電体層が電気伝導性を持つことが可能となる。
【0062】
本発明の電極において、基材を構成するアルミニウムは、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金であってもよい。たとえば、マンガンを含むアルミニウム合金は、強度が向上しており、基材の厚さを薄くすることが可能となる。また、基材は、焼きなましなどの熱処理が施されていないことが好ましい。
【0063】
本発明の電極は、集電体の導電体層に活物質層を形成できる方法であれば、その製造方法が限定されるものではない。たとえば、基材、接合層および導電体層をもつ集電体を製造し、導電体層上に電極活物質を含むペーストを塗布し、乾燥させて活物質層を形成する製造方法をあげることができる。活物質層は、導電体層上に電極活物質を含むペーストを塗布、乾燥させた後に押圧して圧縮してもよい。
【0064】
(蓄電装置)
本発明の蓄電装置は、上記の集電体を用いてなる蓄電装置であり、請求項1〜10に記載の集電体より形成された電極板を用いてなる。また、上記の電極は上記の集電体を用いてなることから、本発明の蓄電装置は、請求項11〜23に記載の電極を用いてなることが好ましい。蓄電装置とは、二次電池やキャパシタなどの電気を充放電可能な装置である。上記の集電体は、アルミニウムよりなる基材の表面上に導電体層が形成されており、不働態皮膜による充放電性能の低下が抑えられている。そして、本発明の蓄電装置は、上記の集電体を用いてなる装置であることから、内部抵抗の上昇が抑えられ、かつ高い耐久性・信頼性を発揮する。
【0065】
本発明の蓄電装置は、上記した集電体以外は従来公知の蓄電装置と同様な構成とすることができる。
【0066】
つまり、蓄電装置は、上記の集電体を用いて製造された電極を用いて電極体を形成し、この電極体を非水電解液とともに容器に密封した構成とすることができる。
【0067】
本発明の蓄電装置は、二次電池であることが好ましい。二次電池は、充放電を繰り返すことが可能な二次電池であればその種類が特に限定されるものではなく従来公知の二次電池を用いることができる。たとえば、リチウム電池などの電解液に有機電解液を用いた二次電池をあげることができる。エネルギー密度が高いことから、二次電池は非水系二次電池であることがより好ましい。非水系二次電池としては、たとえば、リチウムイオン電池をあげることができ、リチウムイオン電池においては上記の集電体を正極の集電体に用いることが好ましい。
【0068】
本発明の蓄電装置は、キャパシタであることが好ましい。キャパシタも充放電を繰り返すことが可能なキャパシタであればその種類が特に限定されるものではなく従来公知のキャパシタを用いることができる。キャパシタは、充放電時の高速応答性に優れた電気二重層型のキャパシタであることが好ましい。
【0069】
また、二次電池およびキャパシタは、ひとつの電極体をもつ単電池であっても複数の単電池よりなる組電池であってもいずれでもよい。また、一つの電極体がケースに収容された単セル電池であっても、複数の電極体が一つに収容された複数セル電池であってもいずれでもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0071】
本発明の実施例として、アルミニウム製集電体および正極を製造した。
【0072】
(実施例1)
まず、厚さ15μmのH材よりなるアルミニウム箔(日本製箔株式会社製、JIS規定の1N30材)を準備した。このアルミニウム箔は、熱処理が施されていないアルミニウム箔である。
【0073】
このアルミニウム箔を多孔質セラミックス材の表面に固定した。そして、セラミックス材の裏面側から真空吸引してアルミニウム箔をセラミックス材に密着させた。
【0074】
セラミックス材の表面に密着したアルミニウム箔の表面に、平均粒径が1.5μmのチタンカーバイド粒子(新日本金属株式会社製)を常温の条件下で吹き付けた。また、チタンカーバイド粒子の吹きつけは、ノズルを走査してアルミニウム箔表面に50mm四方の面積にチタンカーバイド皮膜(チタンカーバイド層)が形成されるまで行われた。吹き付け時のチタンカーバイド粒子の最大流速は、400m/sであった。
【0075】
これにより、本実施例の集電体が製造できた。
【0076】
本実施例の集電体のチタンカーバイド皮膜の表面粗さ(RaおよびRz)を測定したところ、Raは1.1μm、Rzは9.4μmであった。測定結果を表1に示した。
【0077】
本実施例の集電体の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観測したところ、表面から0.3〜0.5μmの厚さでチタンカーバイド層(導電体層)が形成され、チタンカーバイドがアルミニウムに拡散(混在)してなる接合層が0.1μmの厚さで形成され、残部がアルミニウムよりなる基材層で形成されていることが確認できた。
【0078】
そして、接合層は、基材層側からチタンカーバイド層に進むにつれて含まれているチタンカーバイドの割合が徐々に増加していることが確認できた。また、チタンカーバイド層と接合層との界面ならびに接合層中のアルミニウムとチタンカーバイドの界面には不働態皮膜は確認できなかった。本実施例の集電体の断面を模式的に図1に示した。
【0079】
(実施例2)
アルミニウム箔の表面に吹き付けられる粒子が、平均粒径が2μmのグラファイト粒子であること以外は、実施例1と同様にして本実施例の集電体が製造された。
【0080】
本実施例の集電体のグラファイト皮膜の表面粗さ(RaおよびRz)を測定したところ、Raは1.3μm、Rzは9.3であった。測定結果を表1にあわせて示した。
【0081】
本実施例の集電体の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観測したところ、表面から0.3〜0.5μmの厚さでグラファイト層(導電体層)が、グラファイト層の内部に0.15〜0.3μmの厚さでグラファイトがアルミニウムに拡散(混在)した接合層が、残部がアルミニウムよりなる基材層が形成されていることが確認できた。
【0082】
そして、接合層においては、基材層側からグラファイト層に進むにつれて含まれているグラファイトの割合が徐々に増加していることが電子エネルギー損失分光法(Electron Energy−Loss Spectroscopy;EELS)により確認できた(図2)。また、グラファイト層と接合層との層間ならびに接合層中のアルミニウムとグラファイトの層間には不働態皮膜は確認できなかった。
【0083】
(実施例3)
アルミニウム箔の表面に吹き付けられる粒子が、平均粒径が4.6μmの土状黒鉛粒子であること以外は、実施例1と同様にして本実施例の集電体が製造された。
【0084】
本実施例の集電体の土状黒鉛皮膜の表面粗さ(RaおよびRz)を測定したところ、Raは1.6μm、Rzは13.3μmであった。測定結果を表1にあわせて示した。
【0085】
(比較例1)
本比較例は、実施例1〜2の製造に用いられたアルミニウム箔よりなる。本比較例の集電体は、常温で大気中に保存されており、その表面に酸化皮膜よりなる不働態皮膜が形成されている。本比較例の集電体の断面を模式的に図3に示した。本比較例の集電体の表面粗さ(RaおよびRz)を測定したところ、Raは0.081μm、Rzが1.89μmであった。測定結果を表1にあわせて示した。
【0086】
【表1】

上記したように、上記の各実施例1〜3の集電体は、Raが1.0以上、Rzが8.0以上となっており、粗面化された表面を有している。これに対し、比較例1の集電体は、Raが0.081μmとかなり小さな値をもつアルミニウム箔である。つまり、実施例1〜3の集電体は比較例1の集電体よりも凹凸が形成された表面を有している。
【0087】
これらの集電体を用いて、たとえば、実施例1の記載の方法で電極体を製造すると、実施例の集電体を用いてなる電極においては、活物質層を構成する活物質や導電助材などが導電体層の表面の凹凸の内部にまで侵入しており、この結果として活物質層と導電体層が高い接合性をもっている。対して、比較例1では表面にほとんど凹凸が形成されていないため、アルミニウム箔表面に形成される活物質層は実施例1の場合ほど強い接合性で接合していない。すなわち、実施例1の集電体を用いてなる電極は、比較例1の集電体を用いてなる電極よりも集電体と活物質層の接合性に優れた電極となっている。
【0088】
さらに、導電体層のRaが1.0μm以上、Rzが8.0μm以上である実施例1〜3の集電体は、活物質層の形成時に活物質ペーストを均一な厚さで簡単に塗布することができ、活物質ペーストの塗布性に優れた集電体となっていた。加えて、活物質層の密度を上昇したときに、導電体層の破損が生じないため、耐久性・信頼性に優れた集電体となった。
【0089】
上記したように、各実施例の集電体は、不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられ、内部抵抗の上昇による蓄電装置の出力特性の低下が抑えられている。また、活物質層の集電体からの剥離が生じなくなり、耐久性・信頼性に優れた集電体となっている。
【0090】
このように、各実施例の集電体は、リチウム電池の出力特性を低下することなく耐久性・信頼性に優れた集電体となっており、この集電体を用いた正極は、リチウム電池の出力特性を低下することなく耐久性・信頼性に優れた正極となった。また、この集電体及び正極を用いたリチウム電池は、出力特性・耐久性・信頼性に優れた電池となる。
【0091】
(比較例2)
まず、実施例1において用いたものと同様なチタンカーバイド粒子をエタノール(アルコール)に分散させた。そして、この溶液を実施例1〜2の製造に用いられたアルミニウム箔の表面に塗布し、乾燥させた。なお、アルミニウム箔表面への溶液の塗布および乾燥は、チタンカーバイド粒子がアルミニウム箔表面を被覆するまで繰り返された。
【0092】
乾燥後、ハンドプレス機で、2MPaの加圧力でチタンカーバイド粒子をアルミニウム箔に圧着した。
【0093】
これにより、本比較例の集電体が製造できた。
【0094】
本比較例の集電体の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観測したところ、アルミニウム箔の表面に1μmの厚さでチタンカーバイド層が形成されていることが確認できた。また、チタンカーバイド層と接合層との界面には、酸化皮膜が確認された。本比較例の集電体の断面を模式的に図4に示した。
【0095】
(評価)
実施例および比較例の集電体の評価として、これらの集電体からリチウムイオン電池の正極およびこの正極を用いた試験用リチウムイオン電池を製造し、高電位を印加した後に接触抵抗を測定した。
【0096】
(正極の製造)
正極活物質としてニッケル酸リチウム(LiNiO)を、バインダとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびカルボキシルメチルセルロース(CMC)を、導電助剤としてカーボンブラックを、それぞれ所定量を秤量し、分散媒の水に分散させて正極合剤ペーストを調製した。
【0097】
調製された正極合剤ペーストを集電体の表面に塗布、乾燥した。そして、ハンドプレスで押圧し、集電板の表面上の電極活物質を高密度化した。これにより、集電体の表面に正極活物質層が形成された正極が製造できた。
【0098】
(負極の製造)
負極活物質として黒鉛を、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシルメチルセルロース(CMC)を、それぞれ所定量を秤量し、分散媒の水に分散させて負極合剤ペーストを調製した。
【0099】
調製された負極合剤ペーストを銅箔よりなる集電体の表面に塗布、乾燥した。これにより、銅箔の表面に負極活物質層が形成された負極が製造できた。
【0100】
(試験用電池)
上記の正極および負極を、ポリエチレン製の多孔質膜よりなるセパレータを介して積層させ、電解液とともにアルミニウムよりなる電池ケース内に挿入し、ケースを封口して試験用電池が製造された。電解液は、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)が体積比で1:1:1の割合で混合した混合溶媒にLiPFを1mol/Lの割合となるように添加して製造された。
【0101】
(高電位の印加)
つづいて、試験用電池を、試験機の電極に接続し、4.1Vまで充電した後、この電池を500時間放置した。放置後、試験用電池を放電した。
【0102】
(接触抵抗の測定)
高電位の印加終了後の正極を取り出し、洗浄、乾燥した。乾燥後の正極をφ15mmの円板状に切り出し、2枚の銅材で挟み込んだ。このとき、正極は、2枚の銅材の間を1MPaの加圧力で圧縮しており、正極は2枚の銅材のそれぞれに圧着している。
【0103】
そして、この2枚の銅材の間に一定の電流を印加して電圧を測定した。測定結果を表2に示した。なお、表2においては、比較例1の電圧の測定値を1.0としたときの比で示した。
【0104】
【表2】

表2に示したように、表面に導電体層を有する実施例1〜2の集電体の接触抵抗(内部抵抗)は、比較例1の集電体よりも大幅に低下している。そして、接合層を有する実施例1〜2の集電体は、比較例2の集電体よりも低下している。つまり、アルミニウムとチタンカーバイドまたはグラファイトとの界面に不働態皮膜が存在しなくなったことで、内部抵抗が減少した。
【0105】
上記したように、実施例1〜2の集電体は、不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられ、内部抵抗の上昇による蓄電装置の出力特性の低下が抑えられている。また、接合層からの導電体層の剥離が生じなくなり、耐久性・信頼性に優れた集電体となっている。
【0106】
また、実施例1の集電体からは、上記のリチウム電池用正極だけでなく、以下に示したようリチウム電池用正極を製造することができる。
【0107】
(実施例4)
まず、実施例1と同様な方法で集電体を製造した。
【0108】
つづいて、正極活物質としてLiNiOを87重量部、導電助剤としてグラファイト10重量部、CMCを1重量部、ポリエチレンオキサイド(PEO)を1重量部、バインダとしてPTFEを1重量部で準備し、水に分散させて正極合剤ペーストを調製した。
【0109】
調製された正極合剤ペーストを集電体の表面の両面に塗布し、80℃で30分間保持して乾燥した。そして、加圧力が12kNでハンドプレスした。プレスにより、集電板の表面上での電極合剤の密度が2g/cmとなった。
【0110】
これにより、本実施例のリチウム電池用正極が製造できた。
【0111】
(実施例5)
まず、実施例1と同様な方法で集電体を製造した。
【0112】
つづいて、正極活物質として安定ラジカル化合物である2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシメタクリレート(PTMA)を64重量部、導電助剤としてグラファイト33重量部、CMCを1重量部、ポリエチレンオキサイド(PEO)を1重量部、バインダとしてPTFEを1重量部で準備し、水に分散させて正極合剤ペーストを調製した。
【0113】
調製された正極合剤ペーストを集電体の表面の両面に塗布し、70℃で40分間保持して乾燥した。そして、加圧力が12kNでハンドプレスした。プレスにより、集電板の表面上での電極合剤の密度が2g/cmとなった。
【0114】
これにより、本実施例のリチウム電池用正極が製造できた。
【0115】
(実施例6)
まず、実施例3と同様な方法で集電体を製造した。
【0116】
つづいて、正極活物質としてLiNiOを87重量部、導電助剤としてグラファイト10重量部、CMCを1重量部、ポリエチレンオキサイド(PEO)を1重量部、バインダとしてPTFEを1重量部で準備し、水に分散させて正極合材ペーストを調製した。
【0117】
調製された正極合材ペーストを集電体の表面の両面に塗布し、80℃で30分間保持して乾燥した。そして、加圧力が10kNでハンドプレスした。プレスにより、集電板の表面上での電極合材の密度が2g/cmとなった。
【0118】
これにより、本実施例のリチウム電池用正極が製造できた。
【0119】
(比較例3)
本比較例は、実施例1の製造に用いられたアルミニウム箔を集電体として用い、それ以外は実施例3と同様にして製造されたリチウム電池用正極である。
【0120】
(比較例4)
本比較例は、実施例1の製造に用いられたアルミニウム箔を集電体として用い、それ以外は実施例4と同様にして製造されたリチウム電池用正極である。
【0121】
(評価)
実施例4〜5および比較例3〜4の電極の評価として、実施例1の時と同様に電極の接触抵抗を測定した。測定結果を表3に示した。なお、表3においては実施例4および5の電圧の測定結果を比較例3の電圧の測定値を1.0としたときの比で示した。
【0122】
【表3】

表3からわかるように、測定された正極の接触抵抗は、実施例4および5は比較例3よりも低かった。特に、実施例5は比較例3とは活物質が異なっているため単純な比較はできないが、比較例3よりもかなり接触抵抗が低下している。つまり、実施例4〜5の電極は、集電板の不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられ、内部抵抗の上昇による蓄電装置の出力特性の低下が抑えられている。また、集電板の接合層からの導電体層の剥離が生じなくなり、耐久性・信頼性に優れた電極となっている。
【0123】
また、実施例4、6および比較例3の電極の評価として、実施例1の時と同様に電極の接触抵抗を測定した。測定結果を表4に示した。なお、表4においては実施例4、6の電圧の測定結果を比較例3の電圧の測定値を1.0としたときの比で示した。
【0124】
【表4】

表4からわかるように、測定された正極の接触抵抗は、実施例4、6は比較例3よりも低かった。つまり、実施例4、6の電極は、集電板の不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられ、内部抵抗の上昇による蓄電装置の出力特性の低下が抑えられている。また、集電板の接合層からの導電体層の剥離が生じなくなり、耐久性・信頼性に優れた電極となっている。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】実施例1の集電体の断面の構成を示した図である。
【図2】実施例2の集電体の断面のTEMの観察図である。
【図3】比較例1の集電体の断面の構成を示した図である。
【図4】比較例2の集電体の断面の構成を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムよりなる基材と、
該基材の表面上に形成され、アルミニウムと導電性ともつ導電材とが混在した接合層と、
該接合層上に形成され、該導電材を有する導電体層と、
を有することを特徴とする集電体。
【請求項2】
前記接合層は、前記基材の表面から内部に前記導電材が拡散して形成された請求項1記載の集電体。
【請求項3】
前記接合層は、前記基材側から前記導電体層側に向かって前記導電材の濃度が増加する請求項1記載の集電体。
【請求項4】
前記接合層は、0.01μm以上の厚さで形成された請求項1記載の集電体。
【請求項5】
前記基材は、30μm以下の厚さで形成された請求項1記載の集電体。
【請求項6】
前記導電材は、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種よりなる請求項1記載の集電体。
【請求項7】
前記炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素の少なくとも一種である請求項6記載の集電体。
【請求項8】
前記グラファイトは、鱗片状黒鉛、人造黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛の少なくとも一種である請求項7記載の集電体。
【請求項9】
前記導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種である請求項6記載の集電体。
【請求項10】
前記導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種である請求項6記載の集電体。
【請求項11】
前記金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種である請求項6記載の集電体。
【請求項12】
前記導電体層の表面に凹凸が形成されており、
該導電体層の算術平均粗さ(Ra)が1.0〜3.0μm、十点平均粗さ(Rz)が8.0〜30μmである請求項1記載の集電体。
【請求項13】
アルミニウムよりなる基材と、
該基材の表面上に形成され、アルミニウムと導電性をもつ導電材とが混在した接合層と、
該接合層上に形成され、該導電材を有する導電体層と、
該導電体層上に形成され、イオンを吸蔵・放出可能なもしくは酸化還元反応に伴う電子の授受が可能なまたは電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極活物質をもつ活物質層と、
を有することを特徴とする電極。
【請求項14】
前記接合層は、前記基材の表面から内部に前記導電材が拡散して形成された請求項13記載の電極。
【請求項15】
前記接合層は、前記基材側から前記導電体層側に向かって前記導電材の濃度が増加する請求項13記載の電極。
【請求項16】
前記接合層は、0.01μm以上の厚さで形成された請求項13記載の電極。
【請求項17】
前記基材は、30μm以下の厚さで形成された請求項13記載の電極。
【請求項18】
前記導電材は、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料の少なくとも一種よりなる請求項13記載の電極。
【請求項19】
前記炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素の少なくとも一種である請求項18記載の電極。
【請求項20】
前記グラファイトは、鱗片状黒鉛、人造黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛の少なくとも一種である請求項19記載の電極。
【請求項21】
前記導電性セラミックスは、チタンカーバイト、チタンナイトライドの少なくとも一種である請求項18記載の電極。
【請求項22】
前記導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛、酸化タングステンの少なくとも一種である請求項18記載の電極。
【請求項23】
前記金属材料は、ニッケル、銀、金、白金の少なくとも一種である請求項18記載の電極。
【請求項24】
前記電極活物質は、金属酸化物系化合物、ラジカル安定化合物の少なくとも一種である請求項13記載の電極。
【請求項25】
前記金属酸化物系化合物は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物にコバルト系酸化物、ニッケル系酸化物、マンガン系酸化物、鉄オリビン酸系酸化物の少なくとも一種あるいはこれらの複合体を含む化合物である請求項24記載の電極。
【請求項26】
前記ラジカル化合物は、ニトロキシルラジカルを有する化合物、オキシラジカルを有する化合物、窒素ラジカルを有する化合物の少なくとも一種である請求項24記載の電極。
【請求項27】
前記導電体層の表面に凹凸が形成されており、
該導電体層の算術平均粗さ(Ra)が1.0〜3.0μm、十点平均粗さ(Rz)が8.0〜30μmである請求項13記載の電極。
【請求項28】
請求項1〜12に記載の集電体より形成された電極板を用いてなることを特徴とする蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−123664(P2009−123664A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301598(P2007−301598)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】