説明

集電舟装置

【課題】 架線と摺り板7bとの接触性を、この摺り板7bの長さ方向全体に亙って良好に保てる構造を実現する。
【解決手段】 車両の幅方向に分割された摺り板素子34a、34bにより構成される上記摺り板7bを、摺り板支持体9の上面に支持する。この摺り板支持体9を構成する中央支持部材12を、上記架線と上記摺り板7bとの接触に基づいて加わる荷重に基づき、長さ方向に亙り下方に向けて凹状に弾性変形するものとする。又、これと共に、この中央支持部材12の両端部を舟体3aに、各端部支持部材13、13を介して揺動自在に支持する。この結果、上記架線が上記摺り板7bの長さ方向両端部に位置する場合でも、上記中央支持部材12の弾性変形、並びに、この中央支持部材12の昇降に基づき、上記摺り板7bを上記架線の変動に追従させる事ができ、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、架線から電力を取り入れる為、新幹線等、高速で運転する鉄道車両の屋根上に設置した状態で使用する集電舟装置の改良に関し、摺り板の架線への追従性の向上を図り、これら架線と摺り板との接触性(適切な接触状態を保ち続ける性能)を確保するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の屋根の上方にはパンタグラフを介して集電舟を支持し、架線から電力を取り入れる様にしている。即ち、上記集電舟の上面に支持した、燒結金属等の導電材製の摺り板を架線の下縁に向け弾性的に押し付け、この架線から車両に電力を取り入れる様にしている。この様なパンタグラフ及び集電舟装置のうち、新幹線等の高速車両に使用するものは、運転時に発生する気流騒音の低減並びに架線への追従性を考慮して、在来線に使用していたものとは異なる構造のものを使用している。
【0003】
図19は、この様な点を考慮して高速車両用に開発された集電舟装置のうち、特許文献1に記載されたものを示している。この従来構造の場合には、パンタグラフを構成する上枠1の上端部に、天井管2の中間部を支持し、この天井管2の周囲に中空の舟体3を、この天井管2に対する若干の昇降自在に弾性支持している。この為にこの舟体3内に、リニアシャフト4、4及びばね5、5、並びに通電の為の導線6、6を設けている。摺り板7は、上記舟体3の上面に設置している。
【0004】
この様な構造であるから、高速運転時にも、天井管2、リニアシャフト4、4、ばね5、5、導線6、6の周囲を空気が流れず、その分、気流騒音の低減を図れる。又、架線の上下位置が細かく変化した場合に、上記舟体3が上記天井管2に対し変位する事で、この変化に追従する。言い換えれば、この天井管2が上下方向に変位する必要がない。従って、上記架線に追従する為に上下方向に変位する部分の慣性質量を少なく抑えて、この架線への追従性を良好にできる。架線の上下位置が大きく変化した場合には、上記上枠1を昇降させて、上記摺り板7をこの架線に追従させる。尚、鉄道車両用集電舟装置の分野で言う天井管とは、パンタグラフの上端部に車両の幅方向に配設する支持枠状の部材の事を言う。以前(在来線で使用されていた菱形のパンタグラフの場合)は実際に管状に構成されていたが、現在は(特に高速鉄道用の場合には)管状とは限らない。
【0005】
上述の様な特許文献1に記載された従来構造の場合には、従前の構造に比べれば、気流騒音の低減と架線への追従性向上とを図れるが、架線への追従性向上の点に関しては、未だ改良の余地がある。即ち、上記従来構造では、上記架線の上下位置が細かく変動した場合には、上記舟体3と、この舟体3に固定された左右1対の枠棒8、8とが、上記摺り板7全体と一緒に昇降する。従って、上記天井管3及び前記上枠1が含まれないとは言え、慣性質量がかなり大きくなる事は避けられない。この為、鉄道車両をより高速化する場合に、上記摺り板7の上面と上記架線との接触性(適切な接触状態を保ち続ける性能)が悪化する可能性がある。上記上枠1に起立方向の弾性を付与する為にパンタグラフに組み込んだばね、並びに、上記天井管2に上記舟体3に対する上昇方向の弾力を付与する上記各ばね5、5の弾力を大きくすれば、上記追従性を向上させる事はできる。但し、この場合には、上記摺り板7の上面と上記架線との接触面圧が高くなり、これら摺り板7及び架線の摩耗が著しくなる為、好ましくない。
【0006】
一方、架線への追従性向上を図るべく、図20に誇張して示す様な構造が考えられる。即ち、架線と接触する摺り板7a並びにこの摺り板7aを下方から支持する摺り板支持板を、上記架線との接触に基づいて加わる荷重に基づき凹状に弾性変形する(撓む)ものとする。或いは、上記摺り板7aを、車両の幅方向に分割されてこの幅方向に直列に配置された複数個の摺り板素子から成るものとすると共に、これら各摺り板素子を上面に支持する上記摺り板支持板を、上述の様に弾性変形するものとする。そして、この摺り板7a或いは摺り板支持板の長さ方向両端部を舟体(図示省略)に支持する構造が考えられる。この様に構成すれば、上記架線の上下位置が細かく変動した場合に、この架線の細かい上下動に合わせて上記摺り板7a並びに摺り板支持板が弾性変形する事で、これら架線と摺り板7aとの接触性を良好に保てる。ところが、この様な図20に示した構造の場合、上記摺り板7a或いは摺り板支持板の長さ方向両端部を上記舟体に支持する為、この摺り板7a或いは摺り板支持板の両端部の上下方向に関する弾性変形量(撓み量)を確保しにくい。即ち、この摺り板7aの両端部上面の、上記弾性変形に基づく上下方向の変位量(ストローク)が小さくなる事が避けられない。この為、上記架線が上記摺り板7aの両端部近傍に位置する場合に、この摺り板或いは摺り板支持板の弾性変形に基づく追従性向上の作用を得にくくなる。言い換えれば、上記架線が上記摺り板7aの長さ方向両端部近傍に位置した状態で、上記架線が細かく上下動した場合は、上記摺り板7aと共に舟体、延いてはこの舟体を支持するパンタグラフの上枠を昇降させる事になる。この為、前述した図19に示す構造と同様に慣性質量が大きくなり、この摺り板7aの両端部での接触性を良好に保てない可能性がある。
【0007】
【特許文献1】特許第3297355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、架線と摺り板との接触性を、この摺り板の長さ方向全体に亙って良好に保てる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の集電舟装置は、パンタグラフの上端部に車両の幅方向に支持された舟体と、この舟体の上方にこの舟体に沿ってこの車両の幅方向に配置された摺り板支持体と、この摺り板支持体の上面に支持固定され、その上面を架線に接触させる摺り板とを備える。
このうちの摺り板支持体は、上記車両の幅方向に長い中央支持部材と、この中央支持部材の長さ方向両端部に配置された1対の端部支持部材とから成るものとしている。
又、このうちの中央支持部材を、上記架線と上記摺り板との接触に基づいて加わる荷重に基づき、長さ方向に亙り下方に向け弾性変形するものとしている。そして、この様に弾性変形する事により、上記摺り板の上面の上記舟体に対する上下方向の変位を許容している。
更には、上記中央支持部材の両端部を上記舟体に、上記各端部支持部材を介して揺動自在に支持する事により、この中央支持部材全体を上記舟体に対し昇降自在としている。
【発明の効果】
【0010】
上述の様に構成する本発明の集電舟装置によれば、架線と摺り板との接触性をこの摺り板の長さ方向全体に亙り良好に保てる。即ち、上記架線の上下位置が細かく変動した場合に、上記架線の変動に合わせて上記摺り板の上面が、摺り板支持体を構成する中央支持部材の弾性変形に基づき上下方向に変位する。又、これと共に、必要に応じて、舟体に1対の端部支持部材により揺動自在に支持された上記中央支持部材全体が、この舟体に対し昇降する。この為、上記架線が上記摺り板の長さ方向中央に位置する場合だけでなく、この摺り板の長さ方向両端部に位置する場合でも、上記中央支持部材の弾性変形、並びに、この中央支持部材の上記舟体に対する昇降に基づき、上記摺り板を上記架線の変動に追従させられる。又、この様に摺り板が架線の変動に追従する際、この摺り板と共に上記舟体、並びにこの舟体を支持するパンタグラフの上枠を一緒に昇降させる必要がない。従って、慣性質量が大きくなる事もない。この為、上記摺り板の上記架線への追従性の向上を図れ、これら架線と摺り板との接触性を良好に保てる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、摺り板支持体を構成する中央支持部材並びに各端部支持部材と舟体との間にそれぞれ、これら中央支持部材並びに各端部支持部材を上方に押圧する弾性部材を設ける。
この様に構成すれば、上記各弾性部材の弾力を調節する事により、架線と摺り板との接触に基づいて加わる荷重と上記中央支持部材の弾性変形量並びに昇降量との関係をより細かく規制して、これら架線と摺り板との接触状態をより良好に保てる。
【0012】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した様に、摺り板を、車両の幅方向に分割されてこの幅方向に直列に配置された複数個の摺り板素子から成るものとする。そして、これら各摺り板素子を、摺り板支持体を構成する中央支持部材並びに各端部支持部材の上面に支持固定する。この場合に、好ましくは、請求項4に記載した様に、上記中央支持部材の上面に複数個の摺り板素子(摺り板を構成する総ての摺り板素子とは限らない)を支持固定する。そして、この中央支持部材の弾性変形に基づき、これら各摺り板素子のそれぞれの上面を、舟体に対し上下方向に変位させる。尚、上記中央支持部材の上面に(複数個ではなく)1個の摺り板素子を支持固定する場合には、少なくとも当該摺り板素子として、上記中央支持部材と共に弾性変形するものを使用する。
【0013】
この様に構成すれば、上記中央支持部材の上面に支持固定した摺り板素子と上記各端部支持部材の上面に支持固定した摺り板素子とを独立して変位させる事ができ、上記摺り板が架線の変動に追従する際の慣性質量の低減を図れる。又、上記中央支持部材の上面に複数個の摺り板素子を支持固定した場合には、これら各摺り板素子が弾性変形しないものであっても、上記中央支持部材の弾性変形に基づきこれら各摺り板素子のそれぞれの上面を上記舟体に対し上下方向に変位させる事ができる。
【0014】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、中央支持部材の両端部と、車両の幅方向に関して各端部支持部材の内端部とを、この車両の進行方向に配置された第一の連結軸により揺動変位自在に連結する。又、これと共に、舟体に支持された支持フレームと、同じく上記各端部支持部材の外端部とを、同じく第二の連結軸により揺動変位自在に連結する。又、この場合に好ましくは、請求項6に記載した様に、上記中央支持部材に上記第一、第二各連結軸と平行に昇降軸を設け、この昇降軸を、上記舟体に支持された上記支持フレームのガイド孔に昇降自在に遊合する。
この様に構成すれば、上記中央支持部材を上記舟体に対し昇降自在としつつ、この中央支持部材と各端部支持部材とにより構成される摺り板支持体の姿勢を安定させる事ができる。この為、この摺り板支持体の上面に支持固定された摺り板と架線との接触状態を、より一層安定させる事ができる。
【実施例】
【0015】
図1〜18は、本発明の実施例を示している。本実施例の集電舟装置は、舟体3aと、摺り板支持体9と、摺り板7bとを備える。
このうちの舟体3aは、アルミニウム合金製の素材を削り出し加工する事により、或はダイキャスト成形する事により、船状に形成し、図示しないパンタグラフ枠の上端部に、鉄道車両の幅方向に亙って支持される。これら舟体3aとパンタグラフ枠との間には、従来から鉄道車両用のパンタグラフ装置の技術分野で広く知られている様な、図示しないリンク機構を設けて、上記パンタグラフ枠の起倒に拘らず、上記舟体3aの上面が上記車両の屋根面と平行になる様にしている。
【0016】
又、上記摺り板支持体9は、上記舟体3a内に、アルミニウム合金製の素材を削り出し加工する事により、或はダイキャスト成形する事により造られた、支持フレーム10を介して収納される。この様に舟体3a内に収納された状態で上記摺り板支持体9は、上記支持フレーム10と共に、この舟体3aの底板部11の上方に、この舟体3aに沿って上記鉄道車両の幅方向に配置される。この様な摺り板支持体9は、1個の中央支持部材12と、1対の端部支持部材13、13とから成る。このうちの中央支持部材12は、ばね鋼板等の弾性を有する金属板により造られたもので、上記車両の幅方向に長いばね板(撓み板)状のものとしている。従って、図3に模式的に示す様に、上下方向に加わる荷重に基づき、長さ方向に亙り下方に向けて凹状に(或は上方への凸状の突出量が少なくなる様に)弾性変形する(撓む)。
【0017】
又、上記各端部支持板13、13は、アルミニウム合金製の素材を削り出し加工する事により、或はダイキャスト成形する事により造られたもので、上記中央支持部材12の長さ方向両端部に配置されている。そして、上記中央支持部材12の両端部を、上記舟体3aの底板部11に支持固定した上記支持フレーム10に、上記各端部支持部材13、13を介して揺動自在に支持する事により、上記中央支持部材12を上記舟体3aに対し昇降自在としている。
【0018】
この為に、上記中央支持部材12の両端部と、車両の幅方向に関して上記各端部支持部材13、13の内端部とを、この車両の進行方向に配置された第一の連結軸14、14により、揺動変位自在に連結している。本実施例の場合、上記中央支持部材12の両端部に1対の支持片15a、15aを固定し、これら各支持片15a、15aに上記第一の連結軸14、14を支持している。この様な支持片15a、15aは、上記中央支持部材12の両端部を固定する平板状の支持板部16と、車両の進行方向に関してこの支持板部16の両端縁から下方に折れ曲がった1対の垂下壁部17、17と、車両の幅方向に関してこれら両垂下壁部17、17の外端縁から上記各端部支持部材13、13に向けて延出した1対の腕部18、18とを備える。そして、このうちの各腕部18、18に上記第一の連結軸14、14の中間部を、それぞれ支持している。
【0019】
一方、上記車両の幅方向に関して上記各端部支持部材13、13の内端部に、この車両の進行方向に関して上記各腕部18、18と重畳する状態(各腕部14、14を挟む状態)で、それぞれ舌片19、19を設けている。これら各舌片19、19は、上記第一の連結軸14、14と整合する位置に支持孔20、20を設けている。そして、これら各支持孔20、20に上記第一の連結軸14、14の両端部を遊合(緩く挿入)する事により、上記中央支持部材12と上記各端部支持部材13、13とを揺動変位自在に連結している。又、上記車両の幅方向に関して上記各端部支持部材13、13の外端部(車両の幅方向に関して中央支持部材12と反対側の端部)と、上記舟体3aに支持された上記支持フレーム10の両端部とを、上記車両の進行方向に配置された第二の連結軸21、21により揺動変位自在に連結している。
【0020】
本実施例の場合、上記支持フレーム10の両端部に、この支持フレーム10を構成する底板部22から上方に突出する状態で支持壁部23、23を設けている。そして、上記車両の幅方向に関してこれら各支持壁部23、23の内側面に、上記各端部支持部材13、13の外端部に向けて延出する状態で1対の腕部24、24を設け、これら各腕部24、24に上記第二の連結軸21、21の中間部を、それぞれ支持している。又、上記各端部支持部材13、13の外端部に、上記車両の進行方向に関して上記各腕部24、24と重畳する状態(各腕部24、24を挟む状態)で、それぞれ舌片25、25を設けている。これら各舌片25、25は、上記第二の連結軸21、21と整合する位置に支持孔26、26を設けている。そして、これら各支持孔26、26に上記第二の連結軸21、21の両端部を遊合(緩く挿入)する事により、上記各端部支持部材13、13を上記支持フレーム10に対し揺動変位自在に連結している。
【0021】
又、上記中央支持部材12に上記第一、第二各連結軸14、21と平行に昇降軸27、27を設け、これら各昇降軸27、27を、上記支持フレーム10に設けたガイド孔28、28に、それぞれ昇降自在に遊合している。本実施例の場合、上記支持フレーム10の底板部22の上面の長さ方向5個所位置に、互いにほぼ等間隔に離隔した状態で、上記各ガイド孔28、28を設けている。又、これと共に、上記中央支持部材12の両端部に固定した前記支持片15a、15a、並びに、この中央支持部材12の下面で上記各ガイド孔28、28と整合する位置に固定した別の支持片15b、15bに、上記各昇降軸27、27を係合させている。
【0022】
上記各支持片15a、15bのうちで、上記中央支持部材12の下面に支持固定した上記別の支持片15b、15bは、矩形枠状の支持枠部29と、車両の進行方向に関してこの支持枠部29の両端縁から下方に折れ曲がった1対の垂下壁部30、30とを備える。この様な別の支持片15b、15bの垂直壁部30、30、並びに、上記中央支持部材12の両端部に固定した上記各支持片15a、15aの垂下壁部17、17に、上記昇降軸27、27の両端部を、それぞれ支持固定している。そして、これら各昇降軸27、27の中間部を上記各ガイド孔28、28に緩く挿通した状態で、上記中央支持部材12を上記舟体3aに対し昇降自在とすると共に、前記各端部支持部材13、13を前記第二の連結軸21、21を中心に揺動自在としている。尚、上記各ガイド孔28、28の内径は、上記中央支持部材12の昇降を許容すべき範囲で、上記各昇降軸27、27の外径よりも大きくしている。即ち、上記各ガイド孔28、28の内径のうちの上下方向に関する大きさを規制する事で、上記中央支持部材12の昇降量を適正値に規制している。
【0023】
又、上記中央支持部材12並びに上記各端部支持部材13、13の下面と、上記舟体3aに支持固定された上記支持フレーム10の底板部22の上面との間に、特許請求の範囲に記載した弾性部材である、圧縮コイルばね31、31を、それぞれ設けている。本実施例の場合、上記支持フレーム10の底板部11の上面の一部に、上記各圧縮コイルばね31、31の下端部を内嵌する為の、円形若しくは円環状の凹部32、32を設けている。又、これと共に、上記中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13の下面に、上記各圧縮コイルばね31、31の上端開口部を外嵌する為の、円形若しくは円環状の凸部33、33を設けている(ねじ止め固定している)。
【0024】
そして、この様に各凹部32、32と各凸部33、33との間に上記各圧縮コイルばね31、31を設置した状態で、上記中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13に、上方に向かう方向の弾力を付与している。尚、この弾力に基づき、これら中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13が過度に上方に変位するのを防止する為に、前述の様に、上記各昇降軸27、27を上記各ガイド孔28、28に遊合させている。そして、この様に構成する事により、上記各中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13に、上方に向かう弾力を付与した状態で、若干の(例えば中立位置に対して、端部支持部材13、13の内端部で±3mm程度、中央支持部材12の中央部で±5mm程度の)昇降を自在に支持している。
【0025】
上述の様にして、上記舟体3aの上面に支持フレーム10を介して設置した、上記摺り板支持体9の上面に、前記摺り板7bを設置している。本実施例の場合、この摺り板7bは、車両の幅方向に分割されてこの幅方向に直列に配置された複数個(12個)の摺り板素子34a、34bから成る。これら各摺り板素子34a、34bは、後述する通電板35を介して、上記支持フレーム10の両端部に設けた支持壁部23、23の上面に1個ずつ、上記各端部支持部材13、13の上面に1個ずつ、上記中央支持部材12の上面に8個、それぞれ載置された状態で、下方から挿通したねじ36、36により支持固定されている。従って、上記各摺り板素子34a、34bのうちで、上記中央支持部材12並びに上記各端部支持部材13、13の上面に支持固定された各摺り板素子34b、34bはそれぞれ、これら中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13と共に、若干の昇降並びに揺動自在である。
【0026】
この様な各摺り板素子34a、34bの上面は、鉄道車両が平坦部に存在し、且つ、上記各中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13が中立位置に存在する場合に、同一の水平面上に位置する。尚、上記車両の幅方向に関するこれら各摺り板素子34a、34bの端縁は、この車両の進行方向に対し傾斜し、且つ、微小隙間を介して近接対向している。この様に構成する理由は、架線が隣り合う摺り板素子34a、34bの不連続部に位置した場合でも、この架線が不連続部に沈入する事を防止し、これら摺り板素子34a、34bと架線との擦れ合い部分に、過大な面圧が作用しない様にして、これら摺り板素子34a、34bや架線が損傷を受ける事を防止する為である。
【0027】
又、上記摺り板7bの下面と、上記中間支持部材12、各端部支持部材13、13の上面、並びに、上記支持フレーム10の両端部に設けた支持壁部23、23の上面との間に、通電板35を挟持している。この通電板35は、銅又は銅系合金製の薄板で、1個の集電舟装置に就いて1枚だけ設けている。又、この通電板35のうちで上記中央支持部材12と各端部支持部材13、13とを跨ぐ部分、並びに、これら各端部支持部材13、13と上記支持フレーム10の支持壁部23、23とを跨ぐ部分を、下方に突出する状態で湾曲させている。そして、この様に湾曲させる事により、この部分の曲げ剛性を小さく、且つ、伸縮を可能とし、上記中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13が上下方向に相対変位する際に要する力を小さくしている。尚、上記通電板35の一部には、架線から取り入れた電力を、車両側に取り入れる為の、図示しないケーブルの端部を接続する。
【0028】
又、車両の幅方向に関して、前記舟体3aの両端部には、1対の枠棒8の基端部を固定している。これら各枠棒8は、鉄道車両がポイントを通過する際等に、稀に架線が舟体3aの上方から側方に外れる可能性があるので、外れた場合に、鉄道車両の進行に伴って上記架線を、再度上記舟体3aの上方にすくい上げる為に設けている。
【0029】
上述の様な本実施例の集電舟装置は、上記舟体3aの下面中央部を、図示しないパンタグラフ枠の上端部に支持し、摺り板7aの上面に架線を摺接させる状態で使用する。通常走行時にこの架線は、上記摺り板7aを構成する各摺り板素子34a、34bのうちで、中央支持部材12並びに端部支持部材13、13の上面に支持固定されたものの何れかの上面と擦れ合う。上記架線が支持フレーム10の支持壁部23、23の上面に支持固定された、両端の摺り板素子34a、34aの上面と擦れ合うのは、ポイント通過時等、低速走行時に限られる。そして、通常(高速)走行時に上記架線と擦れ合うのは、上記中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13の上面に支持固定された上記各摺り板素子34b、34bのうち、1枚乃至2枚の摺り板素子34bのみである。即ち、多くの場合に上記架線は、何れか1個乃至2個の摺り板素子34bの上面と擦れ合う。
【0030】
この状態でこの架線の上下位置が細かく変化した場合、この架線と擦れ合う当該摺り板素子34bが、上記中央支持部材12の弾力並びにこの中央支持部材12並びに各端部支持部材13、13の下面と上記支持フレーム10の上面との間に設けた各圧縮コイルばね31、31の弾力に基づいて上昇したり、或いは、これら中央支持部材12の弾力並びに圧縮コイルばね31、31の弾力に抗して下降する。即ち、上記架線の変動に合わせて上記摺り板7bを構成する上記摺り板素子34bの上面が、摺り板支持体9を構成する上記中央支持部材12の弾性変形並びに上記各圧縮コイルばね31、31の弾性変形に基づき上下方向に変位する。又、この際、上記端部支持部材13、13が必要に応じて、上記舟体3aに固定された支持フレーム10との間に設けた第二の連結軸21、21を中心として揺動する事により、上記中央支持部材12を上記舟体3aに対し昇降させる。
【0031】
この様な本実施例の場合、前述の図20に示した構造の様に、上記架線が上記摺り板7aの両端部近傍に位置する場合に追従性が悪化する事はない。即ち、上記架線が上記摺り板7bの長さ方向中央に位置する場合だけでなく、この摺り板7bの長さ方向両端部に位置する場合でも、上記中央支持部材12の弾性変形、並びに、この中央支持部材12の上記舟体3aに対する昇降に基づいて、上記摺り板7bを上記架線の変動に追従させる事ができる。又、この様に摺り板7bが架線の変動に追従する際、この摺り板7bと共に上記舟体3a、延いてはこの舟体3aを支持するパンタグラフの上枠が一緒に昇降する必要はない為、慣性質量が大きくなる事もない。
【0032】
即ち、上記架線との接触に基づいてこの架線と擦れ合う何れかの摺り板素子34bが上下方向に変位する場合に、上記中央支持部材12(必要に応じて各端部支持部材13、13)並びにこの中央支持部材12(必要に応じて各端部支持部材13、13)の上面に支持固定された別の摺り板素子34b、34bも多少これにつられて昇降するが、この様な場合でも、昇降する部分の慣性質量は、摺り板7b全体と舟体3aとを合わせた慣性質量に比べて遥かに小さい。この為、上記摺り板7bの上記架線への追従性の向上を図れ、これら架線と摺り板7bとの接触性を良好に保てる。
尚、一般的に集電舟装置を構成する摺り板は、鉄道車両の進行方向に2分割する場合が多い。そこで、本発明を実施する場合にも、必要に応じて、上記各摺り板素子34a、34bを、進行方向に2分割しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1を、鉄道車両の進行方向から見た状態で示す部分正面図。
【図2】同略正面図。
【図3】架線から加わる荷重に基づいて摺り板支持体が弾性変形した状態を誇張して示す正面図。
【図4】舟体から取り外した状態を示す正面図。
【図5】摺り板並びに通電板を取り外した状態で示す、図4と同様の図。
【図6】摺り板のみを上方から見た図。
【図7】図4の上方から見た図。
【図8】摺り板を省略して、図7と同方向から見た図。
【図9】図8のA部拡大図。
【図10】図8の下方から見た図。
【図11】図10のB部拡大図。
【図12】図7のC−C断面図。
【図13】同D−D断面図。
【図14】同E−E断面図。
【図15】同F−F断面図。
【図16】図10のG−G断面図。
【図17】同H−H断面図。
【図18】同I−I断面図。
【図19】従来構造の1例を、鉄道車両の進行方向から見た状態で示す略断面図。
【図20】架線から加わる荷重に基づいて摺り板が弾性変形した状態を誇張して示す略正面図。
【符号の説明】
【0034】
1 上枠
2 天井管
3、3a 舟体
4 リニアシャフト
5 ばね
6 導線
7、7a、7b 摺り板
8 枠棒
9 摺り板支持体
10 支持フレーム
11 底板部
12 中央支持部材
13 端部支持部材
14 第一の連結軸
15a、15b 支持片
16 支持板部
17 垂下壁部
18 腕部
19 舌片
20 支持孔
21 第二の連結軸
22 底板部
23 支持壁部
24 腕部
25 舌片
26 支持孔
27 昇降軸
28 ガイド孔
29 支持枠部
30 垂下壁部
31 圧縮コイルばね
32 凹部
33 凸部
34a、34b 摺り板素子
35 通電板
36 ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンタグラフの上端部に車両の幅方向に支持された舟体と、この舟体の上方にこの舟体に沿ってこの車両の幅方向に配置された摺り板支持体と、この摺り板支持体の上面に支持固定され、その上面を架線に接触させる摺り板とを備え、このうちの摺り板支持体は、上記車両の幅方向に長い中央支持部材と、この中央支持部材の長さ方向両端部に配置された1対の端部支持部材とから成るものであり、このうちの中央支持部材は、上記架線と上記摺り板との接触に基づいて加わる荷重に基づき、長さ方向に亙り下方に向け弾性変形する事によって、上記摺り板の上面の上記舟体に対する上下方向の変位を許容するものであり、更に、上記中央支持部材の両端部を上記舟体に、上記各端部支持部材を介して揺動自在に支持する事により、この中央支持部材全体を上記舟体に対し昇降自在とした集電舟装置。
【請求項2】
摺り板支持体を構成する中央支持部材並びに各端部支持部材と舟体との間に、これら中央支持部材並びに各端部支持部材を上方に押圧する弾性部材を設けている、請求項1に記載した集電舟装置。
【請求項3】
摺り板が、車両の幅方向に分割されてこの幅方向に直列に配置された複数個の摺り板素子から成るものであり、これら各摺り板素子を、摺り板支持体を構成する中央支持部材並びに各端部支持部材の上面に支持固定した、請求項1〜2の何れかに記載した集電舟装置。
【請求項4】
中央支持部材の上面に複数個の摺り板素子が支持固定されており、この中央支持部材の弾性変形に基づき、これら各摺り板素子のそれぞれの上面が、舟体に対し上下方向に変位する、請求項3に記載した集電舟装置。
【請求項5】
中央支持部材の両端部と、車両の幅方向に関して各端部支持部材の内端部とが、この車両の進行方向に配置された第一の連結軸で揺動変位自在に連結されており、舟体に支持された支持フレームと、同じく上記各端部支持部材の外端部とが、同じく第二の連結軸により揺動変位自在に連結されている、請求項1〜4の何れかに記載した集電舟装置。
【請求項6】
中央支持部材に第一、第二各連結軸と平行に昇降軸が設けられており、この昇降軸が、舟体に支持された支持フレームのガイド孔に昇降自在に遊合されている、請求項5に記載した集電舟装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−296070(P2006−296070A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112400(P2005−112400)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(390014775)株式会社工進精工所 (4)
【Fターム(参考)】