説明

難燃性ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】本発明は、難燃性、強度、耐熱性、耐水性に優れる難燃性ポリアミド樹脂組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して、(b)難燃剤1〜50重量部を配合してなる難燃性ポリアミド樹脂組成物であり、難燃剤がリン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤および臭素系難燃剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラメチレンジアミンを主要構成成分とするポリアミド樹脂および難燃剤からなる、難燃性、強度、耐熱性、耐水性に優れた難燃性ポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、その優れた熱的性質、機械的性質、電気的性質、化学的性質などによりエンジニアリングプラスチックとして、自動車部品、電気・電子部品、機械部品として広範囲の分野で利用されている。また、昨今のプラスチック素材の用途の多様化により、ポリアミド樹脂においても難燃性が要求されるようになった。
【0003】
ポリアミド樹脂に難燃性を付与する方法として、特許文献1、2にはポリアミド46に難燃剤を配合する方法が提案されている。特許文献1には、メラミンシアヌレートの使用が記載されているが、ポリアミド46単体とメラミンシアヌレートを混練した場合には難燃剤が分解し優れた難燃性が得られない課題があった。特許文献2には、ナイロン46に臭素化ポリスチレンを使用することが記載されているが、ナイロン46の難燃性ポリアミド樹脂組成物は強度・耐熱性に優れる反面、吸水率が高いために実使用時(大気平衡吸水状態)の強度低下や寸法安定性低下が課題であった。一方、ナイロン610やナイロン612に代表される高級(炭素数が多いことを意味する)ナイロンを使用した場合には、吸水率は低い反面、強度、耐熱性が低いことが課題とされていた。
【0004】
また特許文献3には、テトラメチレンジアミンと炭素数8〜14の脂肪族ジカルボン酸からなる単量体から構成されるポリアミド樹脂の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−509885号公報
【特許文献2】特開昭61−188463号公報
【特許文献3】国際公開第00/09586号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、難燃性、強度、耐熱性、耐水性に優れる難燃性ポリアミド樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、次のような手段を採用するものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して、(b)難燃剤1〜50重量部を配合してなる難燃性ポリアミド樹脂組成物、
(2)前記(a)ポリアミド樹脂の濃硫酸中、25℃、0.01g/ml濃度で測定した硫酸相対粘度が2.0〜5.0であることを特徴とする(1)に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物、
(3)前記炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸がアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸から選ばれる少なくとも1種である(1)または(2)に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物、
(4)前記(b)難燃剤がリン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤および臭素系難燃剤から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物、
(5)前記(b)難燃剤がメラミンシアヌレートである(1)〜(4)のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物、
(6)前記(a)ポリアミド樹脂が溶融重合により製造されたものである(1)〜(5)のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物、
(7)さらに、無機充填剤を配合してなる(1)〜(6)のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物、
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物からなる成形品、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、難燃性、強度、耐熱性、耐水性に優れるため、難燃性、強度、耐熱性、耐水性が必要とされる電気・電子、自動車部品において好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明で使用する(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂とは、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸の総重量が、原料となる単量体の70重量%以上であるポリアミド樹脂である。より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。テトラメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂は、ヘキサメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂と比較して、結晶性が高いために、強度、耐熱性に優れる利点を有する。また、炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を構成成分とするポリアミド樹脂は、炭素数6以下の脂肪族ジカルボン酸を構成成分とするポリアミド樹脂と比較して、疎水性のメチレン基が長いために耐水性に優れるという利点を有する。
【0012】
炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸としては、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。特に、耐熱性、溶融滞留安定性のバランスに優れるアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸が好ましい。さらに好ましくは、強度、耐熱性、耐水性のバランスに優れるセバシン酸である。
【0013】
(a)ポリアミド樹脂を構成する、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸以外の共重合体単位としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミン、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられ、これらの少なくとも1種を、全構成成分に対して30重量%未満含有することができる。
【0014】
本発明で使用する(a)ポリアミド樹脂の製造方法としては、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸、またはその塩を、加熱して低次縮合物を合成する工程を経て、固相重合または溶融重合により高重合度化する方法が挙げられる。この方法は、低次縮合物を一旦取り出して、固相重合または溶融重合する2段重合、低次縮合物の製造工程に続いて、同一反応容器内で固相重合または溶融重合する1段重合のどちらを用いてもよい。溶融重合により得られたポリアミド樹脂は、固相重合により得られたポリアミド樹脂と比較して分子量分布が狭く、相対的に低分子量成分の含有量が少なくなるため、引張強度や引張破断歪み等の機械的性質が向上し、より好ましい。なお、低次縮合物とは、後述する硫酸相対粘度が1.05〜1.90のポリアミド樹脂と定義する。また、固相重合とは、100℃〜融点の温度範囲で、減圧下、あるいは不活性ガス中で加熱する工程、溶融重合とは、常圧、または減圧下で融点以上に加熱する工程を示す。
【0015】
本発明で使用する(a)ポリアミド樹脂を製造する際には、テトラメチレンジアミン、およびその環化反応により生成するピロリジンが揮発したり、ピロリジンが末端封鎖剤となるなどの理由で、重合の進行に伴い、重合系内では全カルボキシル基量に対する全アミノ基量が少なくなり、重合速度が遅延する傾向がある。本発明では、テトラメチレンジアミンの揮発を抑制するためには、重合系内の圧力が高い方が好ましいが、反面、縮合水の揮発が抑制されると、テトラメチレンジアミンの環化反応が促進される傾向にあるため、本発明では重合系内の最高圧力を1〜25kg/cmとすることが好ましい。最高圧力を1kg/cm(0.10MPa)以上とすることにより、テトラメチレンジアミンの揮発を十分に抑制し、アミノ基、カルボキシル基の等モル性を維持することができる。2kg/cm(0.20MPa)以上がより好ましい。一方、最高圧力を25kg/cm(2.45MPa)以下とすることにより、重縮合による水の脱離を適度に進め、重合度を容易に高くすることができる。20kg/cm(1.96MPa)以下がより好ましく、15kg/cm(1.47MPa)以下がより好ましく、10kg/cm(0.98MPa)以下がより好ましい。縮合反応の進行により、縮合水が生成し、系内の圧力は上昇するので、重合開始時の圧力はゼロでもよいが、テトラメチレンジアミンの揮発を最小限に抑制する場合には、原料にあらかじめ水を添加する方法、重合開始時にあらかじめ不活性ガスで加圧する方法などにより、系内の圧力が高くなるよう調整することができる。
【0016】
また、原料を仕込む段階で、あらかじめ特定量のテトラメチレンジアミンを過剰に添加して、重合系内のアミノ基量を制御することが、高分子量の(a)ポリアミド樹脂を得るためには好ましい。原料として使用するテトラメチレンジアミンのモル数をA、炭素数7以上のジカルボン酸のモル数をBとしたとき、その比A/Bが1.005〜1.08となるように原料組成比を調整することが好ましい。A/Bを1.005以上とすることにより、重合系内にアミノ基を適度に有するため、より高分子量のポリマーを容易に得ることができる。1.01以上がより好ましい。一方、A/Bを1.08以下とすることにより、重合系内にカルボキシル基を適度に有するため、より高分子量のポリマーを容易に得ることができる。更にジアミン成分の揮散を抑制し、生産性、環境の点からも好ましい。1.05以下がより好ましい。
【0017】
本発明で使用する(a)ポリアミド樹脂を製造するための加熱重縮合においては、テトラメチレンジアミンの揮発や、脱アンモニア反応による環化の抑制に加え、着色を防止するためには、重合工程全体でポリマーが受ける熱履歴を極力小さくすることが重要であり、その手段として、重合系内の最高到達温度を低くすることが有効である。本発明で、低次縮合物を溶融重合する場合には、重合系内の最高到達温度は、ポリアミド樹脂の融点以上、285℃以下にすることが好ましく、より好ましくは融点以上、融点+30℃以下である。最高到達温度を285℃以下とすることにより、テトラメチレンジアミンの揮発や環化を抑制することができる上、得られるポリアミド樹脂の着色を抑制することができる。なお、固相で高重合度化する場合には、減圧下、または不活性ガス雰囲気下で融点−40℃以上、融点未満で固相重合することが好ましい。
【0018】
本発明で使用する(a)ポリアミド樹脂の重合度は、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、2.0〜5.0であることが好ましい。相対粘度が2.0以上であれば、ポリアミド樹脂の靱性がより向上する。2.2以上がより好ましく、2.5以上がより好ましい。一方、相対粘度が5.0以下であれば、成形加工性が向上する。4.5以下がより好ましく、4.0以下がより好ましい。
【0019】
本発明で使用する(a)ポリアミド樹脂には、必要に応じて、重合促進剤を添加することができる。重合促進剤としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物が好ましく、特に亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムが好適に用いられる。重合促進剤は原料100重量部に対して、0.001〜1重量部の範囲で使用するのが好ましい。重合促進剤の使用量が0.001重量部以上であれば、その添加効果が顕著に奏される。また、1重量部以下であれば、得られるポリアミド樹脂の重合度を適度に抑え、高い溶融成形性を維持することができる。
【0020】
本発明で使用される(b)難燃剤は、本発明のポリアミド樹脂に難燃性を付与できるものであれば特に限定はされない。具体的には、リン系難燃剤、窒素系難燃剤および金属水酸化物系難燃剤などのハロゲン原子を含まない非ハロゲン系難燃剤、臭素系難燃剤に代表されるハロゲン系難燃剤を挙げることができ、これらの難燃剤は単独で使用してもよいし、複数を併用して用いてもよい。
【0021】
本発明における(b)難燃剤の添加量は、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部である。添加量が1重量部に満たない場合は難燃性に劣る傾向にある。また、50重量部を超える場合には、機械的特性、特に靱性が著しく低下する。
【0022】
本発明におけるリン系難燃剤としては、リン元素を含有する化合物であり、具体的には、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミンなどのポリリン酸系化合物、(ジ)ホスフィン酸金属塩、ホスファゼン化合物、芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステル、ハロゲン化リン酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
(ジ)ホスフィン酸塩は、例えば、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物を使用して水性媒体中で製造される。(ジ)ホスフィン酸塩は、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存し、環境によっては縮合度が1〜3のポリマー性ホスフィン酸塩となる場合もある。ホスフィン酸としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−(ジメチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸及びジフェニルホスフィン酸等が挙げられる。また、上記のホスフィン酸と反応させる金属成分(M)としては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及び/又は亜鉛イオンを含む金属炭酸塩、金属水酸化物又は金属酸化物が挙げられる。ホスフィン酸塩としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル―n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。ジホスフィン酸塩としては、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。これらの(ジ)ホスフィン酸塩の中でも、特に、難燃性、電気的特性の観点からエチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましい。
【0024】
ホスファゼン化合物は分子中に−P=N−結合を有する有機化合物、好ましくは、環状フェノキシホスファゼン、鎖状フェノキシホスファゼン、ならびに、架橋フェノキシホスファゼン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。環状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、塩化アンモニウムと五塩化リンとを120〜130℃の温度で反応させて得られる環状および直鎖状のクロロホスファゼン混合物から、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン、オクタクロロシクロテトラホスファゼン、デカクロロシクロペンタホスファゼン等の環状のクロロホスファゼンを取り出した後にフェノキシ基で置換して得られる、フェノキシシクロトリホスファゼン、オクタフェノキシシクロテトラホスファゼン、デカフェノキシシクロペンタホスファゼン等の化合物が挙げられる。鎖状フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、上記の方法で得られるヘキサクロロシクロトリホスファゼンを220〜250℃の温度で開還重合し、得られた重合度3〜10000の直鎖状ジクロロホスファゼンをフェノキシ基で置換することにより得られる化合物が挙げられる。架橋フェノキシホスファゼン化合物としては、例えば、4,4’−スルホニルジフェニレン(ビスフェノールS残基)の架橋構造を有する化合物、2,2−(4,4’−ジフェニレン)イソプロピリデン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−オキシジフェニレン基の架橋構造を有する化合物、4,4’−チオジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等の、4,4’−ジフェニレン基の架橋構造を有する化合物等が挙げられる。架橋フェノキシホスファゼン化合物中のフェニレン基の含有量は、環状ホスファゼン化合物および/または鎖状フェノキシホスファゼン化合物中の全フェニル基およびフェニレン基数を基準として、通常50〜99.9%、好ましくは70〜90%である。また、該架橋フェノキシホスファゼン化合物は、その分子内にフリーの水酸基を有しない化合物であることが特に好ましい。
【0025】
芳香族リン酸エステルはオキシ塩化リン及びフェノール類又はフェノール類とアルコール類の混合物との反応により生成する化合物群である。芳香族リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、またはt−ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(t−ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス−(t−ブチルフェニル)ホスフェートなどのブチル化フェニルホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス−(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス−(イソプロピルフェニル)ホスフェートなどのプロピル化フェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0026】
芳香族縮合リン酸エステルはオキシ塩化リンと二価のフェノール系化合物、及びフェノール(またはアルキルフェノール)との反応生成物である。芳香族縮合リン酸エステルとしては、レゾルシノールビス−ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス−ジキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビス−ジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0027】
ハロゲン化リン酸エステルは触媒の存在下で、アルキレンオキサイドとオキシ塩化リンを反応させる事によって製造される。ハロゲン化リン酸エステルとしては、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、テトラキス(2クロロエチル)ジクロロイソペンチルジホスフェート、ポリオキシアルキレンビス(ジクロロアルキル)ホスフェートなどが挙げられる。
【0028】
本発明におけるリン系難燃剤の添加量は、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部であり、好ましくは2〜40重量部、より好ましくは3〜35重量部である。
【0029】
本発明における窒素系難燃剤としては、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩を形成する化合物が挙げられる。トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸の塩とは、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との付加物であり、通常は1対1(モル比)、場合により2対1(モル比)の組成を有する付加物である。トリアジン系化合物のうち、シアヌール酸またはイソシアヌール酸と塩を形成しないものは除外される。シアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩のうち、特に好ましいトリアジン系化合物の例としてはメラミン、モノ(ヒドロキシメチル)メラミン、ジ(ヒドロキシメチル)メラミン、トリ(ヒドロキシメチル)メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、2−アミド−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジンの塩が挙げられ、とりわけメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンの塩が好ましい。トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩の具体例としては、メラミンシアヌレート、モノ(β−シアノエチル)イソシアヌレート、ビス(β−シアノエチル)イソシアヌレート、トリス(β−シアノエチル)イソシアヌレートなどが挙げられ、とりわけメラミンシアヌレートが好ましい。
【0030】
本発明における窒素系難燃剤の添加量は、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部であり、好ましくは3〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部である。
【0031】
本発明における金属水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどが挙げられ、水酸化マグネシウムがより好ましい。これらは通常市販されているものであり、粒子径、比表面積、形状など特に限定されるものではないが、好ましくは粒子径が0.1〜20im、比表面積が3〜75m/g、形状は球状、針状または小板状のものがよい。金属水酸化物系難燃剤の表面処理については施されていてもいなくてもよい。表面処理法の例としては、シランカップリング剤、アニオン界面活性剤、多価官能性有機酸、エポキシ樹脂など熱硬化性樹脂による被覆形成などの処理法が挙げられる。
【0032】
本発明における金属水酸化物系難燃剤の添加量は、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部であり、好ましくは10〜50重量部、より好ましくは20〜50重量部である。
【0033】
本発明で使用される臭素系難燃剤としては、化学構造中に臭素を含有する化合物であれば特に制限はなく、通常公知の難燃剤を使用することができる。例えばヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモビフェニル、デカブロモビフェニル、ヘキサブロモシクロデカン、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン、エチレン−ビス(テトラブロモフタルイミド)、テトラブロモビスフェノールAなどのモノマー系有機臭素化合物、臭素化ポリカーボネート(例えば臭素化ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネートオリゴマーあるいはそのビスフェノールAとの共重合物)、臭素化エポキシ化合物(例えば臭素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジエポキシ化合物や臭素化フェノール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるモノエポキシ化合物)、ポリ(臭素化ベンジルアクリレート)、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノールA、塩化シアヌールおよび臭素化フェノールの縮合物、臭素化(ポリスチレン)、ポリ(臭素化スチレン)、架橋臭素化ポリスチレンなどの臭素化ポリスチレン、架橋または非架橋臭素化ポリ(α−メチルスチレン)などのハロゲン化されたポリマー系臭素化合物が挙げられ、なかでもエチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、臭素化エポキシポリマー、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルおよび臭素化ポリカーボネートが好ましく、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルおよび臭素化ポリカーボネートが最も好ましく使用できる。
【0034】
本発明における臭素系難燃剤の添加量は、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して、1〜50重量部であり、好ましくは10〜50重量部、より好ましくは20〜50重量部である。
【0035】
また、上記の臭素化難燃剤と併用することによって、相乗的に難燃性を向上させるために使用される難燃助剤を添加することも好ましく、例えば三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、十二酸化アンチモン、結晶性アンチモン酸、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸リチウム、アンチモン酸バリウム、リン酸アンチモン、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、塩基性モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム亜鉛、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、赤燐、膨潤性黒鉛、カーボンブラック等を例示できる。これらのうち三酸化アンチモン、五酸化アンチモンがより好ましい。難燃助剤の配合量は、難燃性改良効果の点から、(a)ポリアミド樹脂100重量部に対して、0.2〜30重量部であり、より好ましくは1〜20重量部である。
【0036】
本発明で使用することができるメラミンシアヌレートの難燃作用は、燃焼によってメラミンシアヌレートがポリアミド中のアミド基と反応してアミド基で分解が生じ熱の蓄積を抑制すること、また消火剤として作用する窒素含有化合物が生成することに起因する。例えば実施例で示したテトラメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド410樹脂は、ヘキサメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド610樹脂と比較して、アミド基濃度が高いために、燃焼時にポリマーの分解がおこりやすく、熱の蓄積が抑制され難燃性が向上したものと考えられる。
【0037】
また、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、要求される特性に応じて前記(a)ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂や他のポリマー類を含有させることができる。具体的にはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。中でも好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン6/12コポリマーなどの例を挙げることができる。
【0038】
また、本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填材)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を任意の時点で添加することができる。
【0039】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物の調製方法は特定の方法に限定されないが、具体的且つ効率的な例として、原料のポリアミド樹脂、難燃剤の混合物を単軸あるいは二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど公知の溶融混練機に供給し、用いられるポリアミド樹脂の融点以上で溶融混練する方法などを挙げることができる。
【0040】
かくして得られる難燃性ポリアミド樹脂組成物は、通常公知の方法で成形することができ、射出成形、押出成形、圧縮成形などの成形品、シート、フィルムなどの成形物品とすることができる。本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、その優れた特性を活かし電気又は電子部品(コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシ、トランス、電磁開閉器、スイッチ部品、コンセント部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子又は導線が組み込まれる箇所に使用される部品など)、家電機器部品[例えば、一般家庭用電化製品のハウジング、コンピューター又はその周辺機器に関連する部品、照明部品、電話又はファクシミリ機器関連部品、エアコン部品、家庭用視聴覚機器(テレビ、デジタルバーサタイルディスクプレーヤー、ビデオデッキなど)用の部品など]、オフィスオートメーション(OA)機器部品(コンピューター関連部品、音響部品、照明部品、電信又は電話機器関連部品、ファクシミリ用部品、複写機用部品、空調部品、光学機器用部品など)、機械機構部品(各種ギヤー、各種軸受、モーター部品など)及び自動車部品(自動車点火装置部品、自動車用コネクター、及び各種自動車用電装部品など)などに有用である。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。特性評価は下記の方法に従って行った。
【0042】
[硫酸相対粘度(ηr)]
98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0043】
[引張特性]
ASTM D638に従い、引張試験機テンシロンUTA2.5T(オリエンテック社製)を用い、厚さ1/8インチのASTM1号ダンベル試験片について、クロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、引張強度、引張破断歪みを求めた。
【0044】
[曲げ特性]
ASTM D790に従い、曲げ試験機テンシロンRTA−1T(オリエンテック社製)を用い、厚さ1/4インチの棒状試験片について、クロスヘッド速度3mm/minで曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率を求めた。なお、吸水時の曲げ特性は、組成物中のポリアミド樹脂成分が以下に示す大気平衡吸水率となるよう吸水処理を行い、同様の測定を行った。
N410:2.0wt%
N610:1.5wt%
N66:2.5wt%
N46:4.0wt%
N49:2.5wt%
N412:1.4wt%
N612:0.9wt%。
【0045】
[高荷重DTUL]
東洋精機社製HDT−TESTERを使用し、厚さ1/4インチの棒状試験片を用いて、試験片に加わる応力18.5kgf/cm(1.82MPa)での荷重たわみ温度をASTM D648−82に準じて評価した。
【0046】
[難燃性]
UL94に定められている厚み1/32インチの難燃性評価用試験片を用いて、UL94に定められている評価基準に従い難燃性を評価した。難燃性レベルはV−0>V−1>V−2>HBの順に低下する。
【0047】
参考例1(テトラメチレンセバカミド塩の製造)
メタノール2375gにセバシン酸(東京化成)300.0g(1.483mol)を添加し、60℃のウォーターバスに浸漬して溶解させた。ここに、あらかじめ調製したテトラメチレンジアミン(広栄化学工業)130.75g(1.483mol)をメタノール554gに溶解した溶液を2時間かけて滴下した。3時間撹拌を続けた後、静置下で室温に放置し、析出した塩を沈降させた。その後、ろ過、エタノール洗浄を行い、50℃で24時間真空乾燥して、ナイロン410塩を得た。
【0048】
参考例2(テトラメチレンアジパミド塩の製造)
エタノール3Lにアジピン酸(東京化成)280.7g(1.92mol)を添加し、60℃で溶解させた。ここに、あらかじめ調製したテトラメチレンジアミン(広栄化学工業)169.3g(1.92mol)をエタノール1Lに溶解した溶液を2時間かけて滴下した。3時間撹拌を続けた後、静置下で室温に放置し、析出した塩を沈殿させた。その後、ろ過、エタノール洗浄を行い、50℃で24時間真空乾燥して、ナイロン46塩を得た。
【0049】
参考例3(ポリテトラメチレンセバカミドの製造(溶融重合))
参考例1で作製したナイロン410塩700g、テトラメチレンジアミン2.12g(ナイロン410塩に対して1.00mol%)、次亜リン酸ナトリウム0.3065g(生成ポリマー重量に対して0.05重量%)を3L圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。加熱を開始して、缶内圧力が5.0kg/cm(0.49MPa)に到達した後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を5.0kg/cm(0.49MPa)で1.5時間保持した。その後10分間かけて缶内圧力を常圧に戻し、更に窒素フロー下で1.5時間反応させ重合を完了した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズし、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.84のナイロン410を得た。
【0050】
参考例4(ポリテトラメチレンセバカミドの製造(固相重合))
参考例1で作製したナイロン410塩700g、テトラメチレンジアミン4.25g、次亜リン酸ナトリウム1水和物0.3065g、イオン交換水70gを、撹拌機付きの内容積が3Lの圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。この圧力容器を密閉したまま、加熱を開始し、内温223℃、15.0kg/cm(1.47MPa)に到達後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を15.0kg/cm(1.47MPa)で30分間保持した。その後、反応容器から内容物をクーリングベルト上に吐出した。これを80℃で24時間真空乾燥して得られた低次縮合物を220℃、100Paで24時間固相重合し、ナイロン410(ηr=3.06)を得た。
【0051】
参考例5(ポリテトラメチレンアジパミドの製造(固相重合))
参考例2で作製したナイロン46塩700g、テトラメチレンジアミン5.27g、次亜リン酸ナトリウム1水和物0.2962g、イオン交換水70gを、撹拌翼付きの内容積3Lの圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。この圧力容器を密閉したまま加熱を開始し、内温225℃、15.0kg/cm(1.47MPa)に到達後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を15.0kg/cm(1.47MPa)で30分間保持した。その後、反応容器から内容物をクーリングベルト上に吐出した。これを80℃で24時間真空乾燥して得られた低次縮合物を260℃、100Paで20時間固相重合し、ナイロン46(ηr=3.10)を得た。
【0052】
参考例6(テトラメチレンアゼラミド塩の製造)
メタノール1Lにアゼライン酸(コグニス製Emerox1144)200.0g(1.06mol)を添加し、60℃のウォーターバスに浸漬して溶解させた。ここに、あらかじめ調製したテトラメチレンジアミン(関東化学)93.7g(1.06mol)をメタノール200mlに溶解した溶液を1時間かけて滴下した。3時間撹拌を続けた後、エバポレーターで濃縮し、塩を析出させた。その後、濾過、メタノール洗浄を行い、50℃で24時間真空乾燥して、ナイロン49塩を得た。
【0053】
参考例7(テトラメチレンドデカミド塩の製造)
メタノール2Lにドデカン二酸(宇部興産)200.0g(0.868mol)を添加し、60℃のウォーターバスに浸漬して溶解させた。ここに、あらかじめ調製したテトラメチレンジアミン(関東化学)76.6g(0.868mol)をメタノール200mlに溶解した溶液を1時間かけて滴下した。3時間撹拌を続けた後、静置下で室温に放置し、析出した塩を沈降させた。その後、濾過、メタノール洗浄を行い、50℃で24時間真空乾燥して、ナイロン412塩を得た。
【0054】
参考例8(ポリテトラメチレンアゼラミドの製造(溶融重合))
参考例6で得たナイロン49塩700g、テトラメチレンジアミン7.836g(ナイロン49塩に対して3.51mol%)、次亜リン酸ナトリウム1水和物0.3065g(生成ポリマー重量に対して0.05重量%)を3L圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。ヒーター温度を285℃に設定して加熱を開始して、缶内圧力が5.0kg/cm(0.49MPa)に到達した後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を5.0kg/cm(0.49MPa)で1.5時間保持した。その後10分間かけて缶内圧力を常圧に戻し、更に窒素フロー下で1.5時間反応させ重合を完了した。このとき、缶内温度は275℃に到達した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズし、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.69のナイロン49を得た。
【0055】
参考例9(ポリテトラメチレンドデカミドの製造(溶融重合))
参考例7で得たナイロン412塩700g、テトラメチレンジアミン6.783g(ナイロン412塩に対して3.50mol%)を用いる以外は、参考例8と全く同様の方法で、ηr=2.81のナイロン412を得た。
【0056】
(実施例1〜6,10、比較例1,8)
シリンダー設定温度270℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、参考例3で得たポリテトラメチレンセバカミド樹脂と難燃剤、難燃助剤を表1〜2に記載の各割合でドライブレンドした後、メインフィーダーより供給し、無機充填剤をスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て約0.35の位置に設置したサイドフィーダーより供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度265℃、金型温度80℃)により試験片を作製した。各サンプルの機械特性、耐熱性、難燃性を評価した結果は表1〜2に示すとおりである。
【0057】
(実施例7)
シリンダー設定温度270℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、参考例4で得たポリテトラメチレンセバカミド樹脂と難燃剤を表1に記載の各割合でドライブレンドした後、メインフィーダーより供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度265℃、金型温度80℃)により試験片を作製した。各サンプルの機械特性、耐熱性、難燃性を評価した結果は表1に示すとおりである。
【0058】
(実施例8,9)
シリンダー設定温度260℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、参考例8で得たポリテトラメチレンアゼラミド樹脂および参考例9で得たポリテトラメチレンドデカミド樹脂と難燃剤を表1に記載の各割合でドライブレンドした後、メインフィーダーより供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度255℃、金型温度80℃)により試験片を作製した。各サンプルの機械特性、耐熱性、難燃性を評価した結果は表1に示すとおりである。
【0059】
(比較例2、3)
シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用いて、硫酸相対粘度が2.70であるナイロン610樹脂(東レ製CM2001)と難燃剤を表2に記載の各割合でドライブレンドした後、押出機メインフィーダーより供給し、溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度250℃、金型温度80℃)により試験片を作製した。各サンプルの機械特性、耐熱性、難燃性を評価した結果は表2に示すとおりである。
【0060】
(比較例4)
シリンダー設定温度280℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、硫酸相対粘度が2.78であるナイロン66樹脂(東レ製CM3001)と難燃剤を表2に記載の各割合でドライブレンドした後、押出機メインフィーダーより供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度280℃、金型温度80℃)により試験片を作製した。各サンプルの機械特性、耐熱性、難燃性を評価した結果は表2に示すとおりである。
【0061】
(比較例5)
シリンダー設定温度310℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、参考例5で得たポリテトラメチレンアジパミド樹脂と難燃剤を表2に記載の各割合でドライブレンドした後、メインフィーダーより供給して溶融混練を行った。しかし、310℃で溶融混練を行うと、メラミンシアヌレート自身が分解し分解ガスを生成するため、ダイから吐出されるガットは激しく発泡しペレタイズできず、成形不可能であった。
【0062】
(比較例6)
シリンダー設定温度310℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、参考例5で得たポリテトラメチレンアジパミド樹脂と難燃剤、難燃助剤を表2に記載の各割合でドライブレンドした後、メインフィーダーより供給し、無機充填剤をスクリューの全長を1.0としたときの上流側より見て約0.35の位置に設置したサイドフィーダーより供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度265℃、金型温度80℃)により試験片を作製した。各サンプルの機械特性、耐熱性、難燃性を評価した結果は表2に示すとおりである。
【0063】
(比較例7)
シリンダー設定温度240℃、スクリュー回転数200rpmに設定した日本製鉄所社製TEX30型2軸押出機を用い、ナイロン612樹脂(デュポン社製ザイテル151L)と難燃剤を表2に記載の各割合でドライブレンドした後、押出機メインフィーダーより供給して溶融混練を行った。ダイから吐出されるガットは即座に水浴にて冷却し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットは80℃で12時間減圧乾燥し、射出成形(住友重機社製SG75H―MIV、シリンダー温度240℃、金型温度80℃)により試験片を作製した。各サンプルの機械特性、耐熱性、難燃性を評価した結果は表2に示すとおりである。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
本実施例および比較例に用いた(b)難燃剤は以下の通りである。
(b−1):メラミンシアヌレート(日産化学工業製MC−4000)
(b−2):赤燐(燐化学工業製ノーバエクセル140)
(b−3):臭素化ポリスチレン樹脂(GLC社製:商品名PDBS)
(b−4):水酸化マグネシウム(協和化学工業製キスマ5E)
(b−5):ポリリン酸メラミン、メレム、メラム化合物(日産化学工業製PMP−200)
同様に、(c)難燃助剤は以下の通りである。
(c−1):三酸化アンチモン(日本精鉱製ATOX)
同様に、(d)無機充填剤は以下の通りである。
(d−1):ガラス繊維(日本電気硝子製T289)。
【0067】
本実施例は比較例1よりも引張強度、靱性(引張破断歪み)、耐水性、耐熱性(高荷重DTUL)に優れるものであった。
【0068】
実施例2と実施例7を比較して、原料として溶融重合により製造されたポリアミド樹脂を用いた方が、ポリアミド樹脂組成物の引張強度、靱性(引張破断歪み)、耐熱性(高荷重DTUL)に優れる。
【0069】
実施例1,2と比較例2,3の比較より、ポリアミド410はポリアミド610よりも大気平衡吸水率が高いにも関わらず、大気平衡吸水時の曲げ特性に優れ、耐水性に優れるものであり、難燃性にも優れる。また、結晶性が高く、引張強度および耐熱性(高荷重DTUL)にも優れる。
【0070】
実施例2と比較例4の比較より、ポリアミド410はポリアミド66よりもアミド基濃度が低いにも関わらず同レベルの曲げ強度、曲げ弾性率を有し、且つ耐熱性(高荷重DTUL)、耐水性にも優れるものであった。
【0071】
実施例4と比較例6の比較より、ポリアミド410はポリアミド46よりも吸水時曲げ特性は優位であり耐水性に優れるものであった。
【0072】
実施例9と比較例7の比較より、ポリアミド412はポリアミド612よりも難燃性に優れ、引張強度、靱性(引張破断歪み)、耐水性、耐熱性(高荷重DTUL)に優れるものであった。
【0073】
比較例1は本発明で規定した量以上の難燃剤を配合したため、引張強度、靱性(引張破断歪み)、耐熱性(高荷重DTUL)が劣るものであった。また、比較例8は本発明で規定した量未満の難燃剤を配合したため、耐熱性(高荷重DTUL)、難燃性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の難燃性ポリアミド樹脂組成物は、通常公知の射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルム、シート、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維などとして利用することができる。特に、本発明においては難燃性、強度、耐水性に優れる点を活かし、各種電気・電子部品、自動車部品などに加工することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体から構成されるポリアミド樹脂100重量部に対して、(b)難燃剤1〜50重量部を配合してなる難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(a)ポリアミド樹脂の濃硫酸中、25℃、0.01g/ml濃度で測定した硫酸相対粘度が2.0〜5.0であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸がアゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(b)難燃剤がリン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤および臭素系難燃剤から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(b)難燃剤がメラミンシアヌレートである請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(a)ポリアミド樹脂が溶融重合により製造されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、無機充填剤を配合してなる請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の難燃性ポリアミド樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2011−174051(P2011−174051A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10677(P2011−10677)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】