説明

難燃性柔軟樹脂組成物、並びにそれを用いた樹脂チューブ及び絶縁電線

【課題】高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性、加工性をバランスよく兼ね備えた難燃性柔軟樹脂組成物、並びに、この難燃性柔軟樹脂組成物を材料として形成された樹脂チューブ及び絶縁被覆を有する絶縁電線を提供する。
【解決手段】塩素化ポリエチレンを樹脂成分の主体とし、塩素化ポリエチレン100質量部に対してゼオライト系化合物を0.5〜20質量部含有する樹脂組成物を、電離放射線照射架橋してなることを特徴とする難燃性柔軟樹脂組成物、並びに、この難燃性柔軟樹脂組成物を材料として形成された樹脂チューブ及び絶縁被覆を有する絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内、電気機器内等に使用される樹脂チューブや絶縁電線の絶縁被覆等に用いられる難燃性柔軟樹脂組成物に関する。又、本発明は、前記難燃性柔軟樹脂組成物を用いて形成された樹脂チューブ及び絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電気機器では、その内部にある配線の結束部を絶縁保護するために、熱収縮チューブ、絶縁チューブ等の樹脂チューブが用いられている。樹脂チューブには、高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性、加工性が求められるので、この樹脂チューブの形成のために、これらの性質をバランスよく付与することができる樹脂組成物が望まれている。又、自動車内や電気機器内の配線として用いられる絶縁電線(絶縁ケーブルも含む。)にも高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性、加工性が求められる。そこで、絶縁電線の絶縁被覆の形成に用いる樹脂組成物にも、前記の性質をバランスよく付与することができるものが望まれている。
【0003】
特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂90〜30重量%と塩素化ポリエチレン10〜70重量%との混合物に、ヒンダードフェノール系及びチオエーテル系酸化防止剤を配合し、これを架橋してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物が開示されている。そして、この難燃性樹脂組成物は、耐熱老化性や可撓性(柔軟性)、難燃性に優れており、さらに保管中に配合物の表面への析出(いわゆるブルーム)がないので、ケーブル絶縁体材料、すなわち絶縁電線の絶縁被覆材料として有用であることが述べられている。
【0004】
又、特許文献2には、塩素化ポリエチレン等の塩素含有重合体に、(a)ゼオライト系化合物、(b)加硫剤、及び必要に応じて(c)加硫促進剤を配合した樹脂組成物が開示されている。そして、ここで用いられる(a)ゼオライト系化合物としては、天然ゼオライト、A型、X型、Y型の合成ゼオライト、ソーダライト類、天然ないしは合成モルデナイト、ZSM−5、及びこれらの金属置換体であってもよいと述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−295179号公報
【特許文献2】特開2000−63685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の難燃性樹脂組成物は、該文献中では耐熱老化性に優れる旨が述べられているものの、実際には不満足な耐熱性しか得られない。これは、該難燃性樹脂組成物を構成する塩素化ポリエチレンが、高温で脱塩酸を起こした後に酸化分解し主鎖が切断されていくためと考えられる。
【0007】
又、特許文献2に記載の樹脂組成物は、押出線速を上げることが困難であり、樹脂チューブや絶縁被覆の形成等に用いる場合、加工性が低く加工コストが高くなる問題がある。すなわち、この樹脂組成物は加硫剤を含む材料であり150℃以上に上げると架橋反応が進行するので押出温度は150℃未満に抑える必要がある。しかし、150℃未満で押出線速を上げると押出外観が悪くなるので、高い押出線速での加工が困難であった。そこで、より耐熱性が高くさらに機械強度、柔軟性、耐油性、難燃性、加工性にも優れた樹脂組成物が望まれていた。
【0008】
本発明は、この要請に応える樹脂組成物を提供すること、具体的には、高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性、加工性をバランスよく兼ね備えた難燃性柔軟樹脂組成物を提供することを課題とする。本発明は、さらに、この難燃性柔軟樹脂組成物を材料として形成された樹脂チューブ及びこの難燃性柔軟樹脂組成物を材料として形成された絶縁被覆を有する絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために検討を行った結果、塩素化ポリエチレンにゼオライト系化合物を所定の組成範囲で含有する樹脂組成物を、電離放射線照射架橋することにより、高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性、加工性をバランスよく兼ね備えた難燃性柔軟樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、塩素化ポリエチレンを樹脂成分の主体とし、塩素化ポリエチレン100質量部に対してゼオライト系化合物を0.5〜20質量部含有する樹脂組成物を、電離放射線照射架橋してなることを特徴とする難燃性柔軟樹脂組成物である。
【0011】
塩素化ポリエチレンは、機械強度、加工性、耐油性、柔軟性に優れる熱可塑性エラストマーとして知られており、塩素を含有するので難燃性も示す。本発明の難燃性柔軟樹脂組成物は、優れた機械強度と高い押出加工性、耐油性、柔軟性、難燃性を兼ね備えるために、塩素化ポリエチレンを主体として構成される。塩素化ポリエチレンには、結晶性、半結晶性及び非晶性のものがあるが、本発明ではいずれを使用してもよい。
【0012】
本発明の樹脂組成物を構成するゼオライト系化合物とは、シリカ(二酸化ケイ素)とアルミナ(酸化アルミニウム)を主成分とする鉱物で、一般式M2/xO・Al・ySiO・nHO(Mは、アルカリ類金属又はアルカリ土類金属、xは1又は2、yは2〜10、nはゼロまたは正の数)で表されるものである。このゼオライト系化合物には、火山岩が凝固してできた鉱物である天然ゼオライトや、合成(人工)ゼオライト、ソーダライト類、天然ないしは合成モルデナイト、ZSM−5、およびこれらの金属置換体等が含まれる。例えば、下記式(1)の化学構造式で表され、前記一般式のMがCaであるもの又はMgであるものが特に耐熱性が高いので好ましく用いられる。
【0013】
【化1】

【0014】
本発明の難燃性柔軟樹脂組成物では、塩素化ポリエチレン100質量部に対しゼオライト系化合物が0.5〜20質量部含有されていることを特徴とする。塩素化ポリエチレンにゼオライト系化合物を添加することにより、高温で保存されても機械強度が低下しにくい優れた耐熱性を示す樹脂組成物が得られる。塩素化ポリエチレンは、高温で脱塩酸を起こした後に酸化分解し、主鎖が切断されていくため機械強度が低下すると考えられているが、ゼオライト系化合物が、その優れた吸着性能により発生した塩酸(塩化水素ガス)を吸着するので機械強度の低下が抑えられるものと考えられる。
【0015】
又、上記の組成範囲内でゼオライト系化合物が添加されても、樹脂チューブや絶縁被覆を形成するために樹脂組成物を押出加工する際に、発泡等の問題を生じない。すなわち、塩素化ポリエチレンの優れた加工性が保たれる。又、ゼオライト系化合物の使用で発泡が少なくなり油の浸透が抑えられるため、耐油性も向上する。
【0016】
ゼオライト系化合物の添加量が、塩素化ポリエチレン100質量部に対し0.5質量部未満の場合は、耐熱性向上効果が充分得られない。一方、添加量が20質量部を超えると、引張強度、引張破断伸び等の機械的強度が不十分となり、又耐油性、加工性も低下する。さらに、100%モジュラスも規格範囲外となり柔軟性も不十分となる場合がある。従って、本発明の目的とする効果は得られない。
【0017】
本発明の難燃性柔軟樹脂組成物は、塩素化ポリエチレンにゼオライト系化合物を含有させた樹脂組成物に、電離放射線を照射し樹脂を架橋してなるものである。樹脂を架橋することにより、高い機械強度を備えた樹脂組成物が得られる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、前記ゼオライト系化合物が、一般式M2/xO・Al・ySiO・nHO(Mは、アルカリ土類金属、xは1又は2、yは2〜10、nはゼロまたは正の数)で表される合成ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性柔軟樹脂組成物である。
【0019】
合成ゼオライトとしては、シリカとアルミナを主成分とする灰をアルカリ等とともに高温、高圧で化学処理して得られた規則正しい化学構造をもつ人工ゼオライトを挙げることができる。又、特許文献2(段落0025)に記載の方法により製造される合成ゼオライトを挙げることができる。配合や反応条件を調整することにより、天然ゼオライトより高い吸着性能を有する人工ゼオライトが得られる。A型、X型、Y型のいずれの合成ゼオライトも使用することができる。
【0020】
このような合成ゼオライトであって、アルカリ土類金属を保持するものを使用することにより、より高い押出加工性とより高い耐熱性を兼ね備えた樹脂組成物を作製することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明は、前記ゼオライト系化合物が、焼成ゼオライトであることを特徴とする請求項2に記載の難燃性柔軟樹脂組成物である。
【0022】
焼成ゼオライト(活性ゼオライトとも言う。)とは、前記のゼオライト系化合物を加熱して脱水(焼成処理)し、実質的に水分のない状態として活性化したものを言う。焼成ゼオライトを作製する方法としては、特許文献2(段落0026)に記載の方法、すなわちゼオライト系化合物を100℃以上の温度で、乾燥空気、窒素気流下で加熱脱水する方法、もしくは、塩素化ポリエチレンを他の成分と共に混練りする際に、ゼオライト系化合物を投入して140℃から200℃の混練温度に晒すことにより活性化する方法等が挙げられる。
【0023】
このような焼成ゼオライトを使用することにより、さらに高い押出加工性とさらに高い耐熱性を兼ね備えた樹脂組成物を作製することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、さらにエチレン−αオレフィン共重合体から選ばれ前記αオレフィンが極性モノマーであるポリオレフィン樹脂を、塩素化ポリエチレンと前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対し、20質量部以下配合したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の難燃性柔軟樹脂組成物である。
【0025】
本発明の難燃性柔軟樹脂組成物の樹脂成分は塩素化ポリエチレンを主体とする。ここで「主体とする」とは、塩素化ポリエチレンのみからなる場合及び塩素化ポリエチレンと本発明の趣旨を損ねない範囲で含有される他の樹脂成分からなる場合のいずれをも含む意味である。
【0026】
請求項4の難燃性柔軟樹脂組成物は、前記の組成に加えて、エチレン−αオレフィン共重合体から選ばれ前記αオレフィンが極性モノマーであるポリオレフィン樹脂を、塩素化ポリエチレンと前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対し、20質量部以下配合することを特徴とする。このポリオレフィン樹脂を配合することにより、樹脂組成物の耐熱性及び柔軟性がより向上する。ただし、このポリオレフィン樹脂の配合量が、塩素化ポリエチレンと前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対し、20質量部を超える場合は、耐油性が低下し、本発明の目的を達成する難燃性柔軟樹脂組成物が得られない。
【0027】
エチレン−αオレフィン共重合体から選ばれ前記αオレフィンが極性モノマーであるポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を挙げることができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、エバフレックスEV360(三井・デュポンケミカル社製)等の商品名で市販されているものを用いることができる。
【0028】
本発明の難燃性柔軟樹脂組成物は、前記の組成に加えて、さらに本発明の趣旨を損ねない範囲で、三酸化アンチモン等の難燃剤、他のポリオレフィン樹脂、充填材、酸化防止剤、滑剤、着色顔料等を添加しても良い。
【0029】
本発明の難燃性柔軟樹脂組成物は、上記の組成を常法により混合したものに、電子線、ガンマ線等の電離放射線を照射して、塩素化ポリエチレン(場合によりさらにポリオレフィン樹脂)を架橋させてなるものである。放射線としては工業的に広く用いられ低コストでの架橋が可能な電子線照射が好ましい。電子線照射量は、30〜500kGy程度が好ましい。電子線照射には、樹脂の架橋等に通常用いられている公知の電子線照射手段を用いることができ、常法により行うことができる。
【0030】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の難燃性柔軟樹脂組成物がチューブ状に形成されていることを特徴とする樹脂チューブである。この樹脂チューブは、本発明の難燃性柔軟樹脂組成物の成形体であるので、高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性をバランス良く兼ね備えたものであり、自動車内や電気機器内の配線の結束部を絶縁保護するための熱収縮チューブや絶縁チューブ等として好適に用いられる。チューブ状に成形する方法としては、押出成形を挙げることができ、公知の樹脂チューブの成形の場合と同様の方法、条件で行うことができる。
【0031】
本発明の樹脂チューブの製造では、前記の組成からなる樹脂組成物を作製し、チューブ状に押出成形した後、電離放射線を照射する方法が好ましい。電離放射線の照射前は成形が容易であり、高い押出速度で成形できるので高い生産性を達成することができる。
【0032】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の難燃性柔軟樹脂組成物からなる絶縁被覆を有することを特徴とする絶縁電線である。この絶縁電線の絶縁被覆は、本発明の難燃性柔軟樹脂組成物から形成されているので、高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性をバランス良く兼ね備えており、自動車内や電気機器内の配線として好適に用いられる。絶縁被覆の形成は、通常の絶縁電線における絶縁被覆の形成と同様にして行うことができる。なお、絶縁電線とは絶縁ケーブルも含む意味である。
【0033】
本発明の絶縁電線の製造では、前記の組成からなる樹脂組成物を作製し、導体を被覆するように押出加工した後、電離放射線を照射する方法が好ましい。電離放射線の照射前は絶縁被覆が容易であり、高い速度で絶縁被覆できるので高い生産性を達成することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の難燃性柔軟樹脂組成物は、高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性を兼ね備えた成形物を与えることができ、加工性に優れる樹脂組成物である。従って、この難燃性柔軟樹脂組成物を用いて形成した本発明の樹脂チューブや絶縁電線も、高い機械強度、柔軟性、耐熱性、耐油性、難燃性を兼ね備えている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明を実施するための形態について説明するが本発明の範囲はこの形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0036】
エチレン−αオレフィン共重合体でありαオレフィンが極性モノマーであるポリオレフィン樹脂としては、前記のエチレン−酢酸ビニル共重合体の他に、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体等を挙げることができる。
【0037】
ポリオレフィン樹脂には、本発明の趣旨を損ねない範囲で、他のポリオレフィン樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等を含ませてもよい。
【0038】
樹脂組成物に難燃性を付与するために添加されてもよい三酸化アンチモンの添加量は、塩素化ポリエチレンとポリオレフィン樹脂の質量の合計に対し、1〜30質量%の範囲が好ましい。三酸化アンチモンの添加量が30質量%を超える場合は、引張強度、引張破断伸び等が低くなり、機械的強度が不十分となる。さらに耐熱性が不十分となり、本発明の目的とする効果は得られない。又柔軟性も低下する。
【0039】
三酸化アンチモン以外の難燃剤としては、臭素系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、等を挙げることができる。充填剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン等の金属酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム、珪酸アルミニウム等の珪酸塩、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、カーボンブラック、タルク等を用いることができる。
【0040】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤等を挙げることができる。又、滑剤としては、ステアリン酸、脂肪酸アミド、シリコーン、ポリエチレンワックス等を挙げることができる。これらの添加剤は、単独で又は併用して含有してもよい。
【実施例】
【0041】
実施例、比較例で用いた塩素化ポリエチレン、ポリオレフィン樹脂、ゼオライト、ハイドロタルサイトを以下に示す。実施例、比較例の樹脂組成物には、さらに、難燃剤としての三酸化アンチモン(日本精鉱社製)、増量剤としての炭酸カルシウム(商品名KS1000、カルファイン社製)、フェノール系酸化防止剤(商品名イルガノックス1010、チバスペシャリティーケミカル社製)、滑剤としてのステアリン酸(日油社製)を添加している。
【0042】
[塩素化ポリエチレン]
・エラスレン252B(商品名、昭和電工社製)
[ポリオレフィン樹脂]
・エバフレックスEV360(商品名、三井デュポンポリケミカル社製、EVA)
[ゼオライト]
・MIZUKALIZER RAD−P(商品名、水澤化学社製、合成活性ゼオライト(主成分:Al、Si、Ca、Mg))
[ハイドロタルサイト]
・DHT−4A(商品名、協和化学社製、合成ハイドロタルサイト)
【0043】
表1に示す配合をオープンロールにて140℃で混練し、その後、140℃10分間、600MPaの条件にてプレスし、厚さ1mmのシート状サンプルを作製した。残りの材料はペレタイザによってペレット状にして50mmφ押出機にて内径3mmφ、外径4mmφのチューブ形状に押出した。シート、チューブともに200kGyの電子線照射を行って架橋体を作製した。チューブについては、引張破断強度、引張破断伸び、柔軟性、耐熱性、耐油性の評価を行い、シートについては難燃性、加工性の評価を行った。結果は表1に併せて示した。評価方法は以下の通りである。
【0044】
(引張破断強度、引張破断伸び)
120mmのチューブを切り取り、引張速度500mm/分で引張破断強度と引張破断伸び(表中では「引張伸び」と表す。以下の測定項目についても同じ。)を測定した。合否の基準としては、引張破断強度が10.4MPa以上、引張破断伸びが225%以上のものを合格と判定した。
【0045】
(柔軟性)
引張破断強度、引張破断伸びを測定する際に、S−Sカーブから100%伸びたときのモジュラスを読み取った。その値が10MPa未満を合格とした。
【0046】
(耐熱性)
120mmのチューブを切り取り、121℃のギア式オーブンに7日間投入し、その後取り出して、引張速度500mm/分で引張破断強度と引張破断伸びを測定した。合否の基準としては、引張破断強度が8.3MPa以上、引張破断伸びが175%以上のものを合格と判定した。
【0047】
(耐油性)
120mmのチューブを切り取り、MIL規格の油圧オイルであるMIL−H−5606に室温×1日浸漬後、引張速度500mm/分で引張破断強度、引張破断伸びを測定した。合否の基準としては、引張破断強度が6.9MPa以上、引張破断伸びが175%以上のものを合格と判定した。
【0048】
(難燃性)
UL94燃焼試験にて評価した。V−2以上を合格とした。
【0049】
(加工性)
200℃10分間、600MPaの条件にてプレスし、発泡の有無を目視で調べ、発泡がない場合を合格とし、表中では○で表わした。発泡が見られる場合は、表中では×で表わした。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示された結果より、塩素化ポリエチレンにゼオライト系化合物(合成活性ゼオライト)を1〜18質量%配合した本発明の難燃性柔軟樹脂組成物(実施例1〜3)は、高い機械強度(引張強度、引張伸び)、柔軟性(100%モジュラス)を有する成形物を与え、又加工時の発泡も見られず優れた加工性を示す。さらに、耐熱性、耐油性、難燃性についても規格を満たす成形物が得られている。
【0052】
なお、EVA(エバフレックスEV360:エチレン−αオレフィン共重合体から選ばれ前記αオレフィンが極性モノマーであるポリオレフィン樹脂)を、塩素化ポリエチレンと前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対し18質量部以下配合した実施例3では、(他の組成が同じである)実施例1に比べて優れた耐熱性が得られている。
【0053】
一方、ゼオライト系化合物の代わりにハイドロタルサイトを使用した比較例1では、他の条件は同一にも係らず、加工時の条件では、発泡が見られ加工性がよくないことが示されている。又、得られた成形物は、耐熱性に関しては引張伸びが、又耐油性に関しては引張強度が、規格を満たしていない。塩素化ポリエチレンから発生した塩酸ガスが、ハイドロタルサイトでは充分吸着されないためと考えられる。
【0054】
又、ゼオライト系化合物の配合量が、塩素化ポリエチレンに対し22質量%である比較例1では、引張強度が規格を満たしていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ポリエチレンを樹脂成分の主体とし、塩素化ポリエチレン100質量部に対してゼオライト系化合物を0.5〜20質量部含有する樹脂組成物を、電離放射線照射架橋してなることを特徴とする難燃性柔軟樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゼオライト系化合物が、一般式M2/xO・Al・ySiO・nHO(Mは、アルカリ土類金属、xは1又は2、yは2〜10、nはゼロまたは正の数)で表される合成ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性柔軟樹脂組成物。
【請求項3】
前記ゼオライト系化合物が、焼成ゼオライトであることを特徴とする請求項2に記載の難燃性柔軟樹脂組成物。
【請求項4】
さらにエチレン−αオレフィン共重合体から選ばれ前記αオレフィンが極性モノマーであるポリオレフィン樹脂を、塩素化ポリエチレンと前記ポリオレフィン樹脂の合計100質量部に対し、20質量部以下配合したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の難燃性柔軟樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の難燃性柔軟樹脂組成物がチューブ状に形成されていることを特徴とする樹脂チューブ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の難燃性柔軟樹脂組成物からなる絶縁被覆を有することを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2013−18935(P2013−18935A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155595(P2011−155595)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】