説明

難燃性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】難燃剤として低融点ガラスを含有すると共にこの低融点ガラスによる難燃化作用が向上した難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】難燃性樹脂組成物は、マトリクス樹脂100質量部に対して平均粒径10〜500nmの低融点ガラス粒子を1〜40質量部含有する。このような粒径の小さい低融点ガラス粒子を難燃剤として用いると、難燃性樹脂組成物で形成された成形体が高温に曝され、内部の低融点ガラス粒子が融解して成形体の表面に達した際に、融解した低融点ガラス粒子同士が成形体の表面で部分的に溶着するネッキング現象が起こりやすくなる。このため、融解した低融点ガラス粒子は成形体の表面から脱落(ドロッピング)しにくくなり、被膜の形成効率が高くなって、低融点ガラス粒子による難燃化作用が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形材料として使用される難燃性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂とする樹脂組成物に対し、火災時等の安全性を付与するために、臭素等のハロゲン原子を含む難燃剤を配合することがおこなわれている。しかし、近年、環境に負荷をかけないために、ハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物が求められている。
【0003】
そこで、難燃剤として、融解時の吸熱ピークの温度が低い低融点ガラスを使用することが検討されてきている。例えば、特許文献1には融解時の吸熱ピークが401〜700℃の範囲にあるガラス等の無機物を樹脂組成物の難燃剤として使用することが開示され、特許文献2には硫黄成分を含む低融点ガラスを樹脂組成物の難燃剤として使用することが開示され、特許文献3には難燃剤として低融点ガラスを金属炭酸塩等の発泡剤と併用することが開示されている。
【0004】
このような低融点ガラスを含有する難燃性樹脂組成物で形成された成形体が高温に曝されると、内部の低融点ガラスが融解して成形体の表面に達して被膜を形成し、この被膜によって外部から樹脂成分への酸素の供給が遮断されると共に樹脂成分の分解ガスの外部への流出が遮断され、これにより成形体が難燃性を発揮する。
【0005】
低融点ガラスによる難燃化作用は低く、成形体に充分な難燃性を付与するためには多量の低融点ガラスを使用する必要がある。これは、成形体の表面に達した低融点ガラスがかなりの割合で成形体から脱落してしまうためであると考えられる。しかし、難燃性樹脂組成物中に多量の低融点ガラスを配合すると、成形体の靱性等の機械的強度が低下するなどの弊害が生じてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−234168号公報
【特許文献2】特許第3465417号公報
【特許文献3】特開2004−175897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、難燃剤として低融点ガラスを含有すると共にこの低融点ガラスによる難燃化作用が向上した難燃性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、マトリクス樹脂100質量部に対して平均粒径10〜500nmの低融点ガラス粒子を1〜40質量部含有することを特徴とする。
【0009】
このような粒径の小さい低融点ガラス粒子を難燃剤として用いると、難燃性樹脂組成物で形成された成形体が高温に曝され、内部の低融点ガラス粒子が融解して成形体の表面に達した際に、融解した低融点ガラス粒子同士が成形体の表面で部分的に溶着するネッキング現象が起こりやすくなる。このため、融解した低融点ガラス粒子は成形体の表面から脱落(ドロッピング)しにくくなり、被膜の形成効率が高くなって、低融点ガラス粒子による難燃化作用が向上する。また、低融点ガラス粒子の配合量をマトリクス樹脂100質量部に対して1〜40質量部としているのは、低融点ガラス粒子が40質量部を超えると機械的強度が低下するためであり、1質量部未満であると難燃効果が実質的に得られないからである。
【0010】
本発明においては、上記低融点ガラス粒子の含有量は、上記マトリクス樹脂100質量部に対して15〜30質量部であることが好ましい。
【0011】
この場合、低融点ガラス粒子によって、難燃性樹脂組成物で形成された成形体に優れた難燃性が付与されると共にこの成形体の靱性等の機械的強度の低下が充分に抑制される。
【0012】
また、本発明においては、上記マトリクス樹脂が、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0013】
この場合、難燃性樹脂組成物で形成された成形体が高温に曝された際にこの成形体中の樹脂成分が軟化しやすくなり、これにより成形体内で融解した低融点ガラス粒子が成形体の表面へ移動しやすくなる。
【0014】
また、本発明においては、上記低融点ガラス粒子に、シランカップリング剤による表面被覆が施されていることも好ましい。
【0015】
この場合、難燃性樹脂組成物中及び成形体中における低融点ガラス粒子の分散性を向上してこの低融点ガラス粒子の凝集を抑制することができる。このように低融点ガラス粒子の凝集が抑制されると、成形体が高温に曝され、内部の低融点ガラス粒子が融解して成形体の表面に達した際に、成形体の表面における融解した低融点ガラス粒子同士の溶着が生じやすくなり、低融点ガラス粒子による難燃化作用が更に向上する。
【0016】
また、本発明において、上記難燃性樹脂組成物が、ドリップ防止剤として、ガラス繊維を含有することが好ましい。
【0017】
この場合、難燃性樹脂組成物で形成される成形体が高温に曝されて成形体が融解した場合の融液の垂れ落ちを抑制することができ、これにより火災時の延焼を抑制することができる。
【0018】
また、本発明において、上記難燃性樹脂組成物が、ドリップ防止剤としてフッ素樹脂を含有することも好ましい。
【0019】
この場合、難燃性樹脂組成物で形成される成形体が高温に曝されて成形体が融解した場合の融液の垂れ落ちを抑制することができ、これにより火災時の延焼を抑制することができる。
【0020】
本発明に係る難燃性樹脂組成物の製造方法は、上記難燃性樹脂組成物の製造方法であって、マトリクス樹脂の一部と低融点ガラス粒子とを、前記マトリクス樹脂100質量部に対して低融点ガラス粒子が100〜1000質量部の割合となるように混合してマスターバッチを調製し、このマスターバッチとマトリクス樹脂の残部とを混合することを特徴とする。
【0021】
このようにマスターバッチを調製すると、微粒子化した低融点ガラスが樹脂中に分散する前に凝集してしまう現象を防ぐことができ、その結果、難燃性樹脂組成物における低融点ガラス粒子による難燃化作用を向上することができ、この難燃性樹脂組成物を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、難燃剤として低融点ガラスを含有すると共にこの低融点ガラスによる難燃化作用が向上した難燃性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、低融点ガラス粒子と、マトリクス樹脂とを、必須成分として含有する。
【0025】
低融点ガラス粒子としては、軟化点が150〜800℃の範囲にあるガラス粒子を使用することが好ましい。この低融点ガラス粒子の軟化点は融解時に吸熱ピークが現れる温度であり、示差走査型熱量測定法によって測定される。前記特性を有するガラス粒子であれば適宜の組成を有する有機ガラス化合物や無機ガラス化合物などのガラス化合物で構成される低融点ガラス粒子を使用することができる。ガラス化合物の具体的な構成成分としては、SiO2、B23、P25、PbO、TiO2、CdO、Tl2O、Bi23、CuO、V25、Al23、Ga23、ZnO2、Y23、ZrO2、Fe23、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物などが挙げられる。ガラス化合物の構成成分の種類及び含有量は、低融点ガラス粒子が所望の軟化点を有するように適宜調整される。
【0026】
本実施形態において、この低融点ガラス粒子の平均粒径は、10〜500nmの範囲であることが重要である。この平均粒径は、島津製作所株式会社製の型番SALD3000を用い、分散液としてメチルエチルケトンを使用した場合に測定される数平均粒径である。低融点ガラス粒子の平均粒径が前記範囲にあることで、難燃性樹脂組成物の成形体が高温に曝され、内部の低融点ガラス粒子が融解して成形体の表面に達した際に、融解した低融点ガラス粒子同士が成形体の表面で部分的に溶着するネッキング現象が起こりやすくなる。
【0027】
尚、この低融点ガラス粒子の平均粒径が500nmを超える場合には上記ネッキング現象が起こりにくくなり、融解した低融点ガラス粒子が成形体の表面から垂れ落ちやすくなってしまう。また、この低融点ガラス粒子の平均粒径が10nmより小さくなると、難燃性樹脂組成物中で低融点ガラス粒子が凝集しやすくなってしまい、またこのような粒子径の小さい粒子を粉砕等により作製することは現実的に困難でもある。
【0028】
また、この低融点ガラス粒子には、シランカップリング剤による表面被覆が施されていることが好ましい。この場合、難燃性樹脂組成物中及び成形体中における低融点ガラス粒子の分散性が向上し、この低融点ガラス粒子の凝集が抑制される。そうすると、成形体が高温に曝され、内部の低融点ガラス粒子が融解して成形体の表面に達した際に、低融点ガラス粒子の凝集が生じている場合と較べて、成形体の表面における融解した低融点ガラス粒子同士の溶着が生じやすくなる。
【0029】
また、難燃性樹脂組成物中には上記低融点ガラス粒子のほか、他の有機フィラーや無機フィラーを含有させてもよい。このような有機フィラーや無機フィラーとしては、成形用の樹脂組成物などに採用される適宜のものを使用することができるが、その種類及び含有量は、低融点ガラス粒子による難燃化作用を阻害しないように適宜設定することが望ましい。
【0030】
シランカップリング剤としては特に限定されないが、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン;p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン;その他エポキシ系、アミノ系、ビニル系等の高分子タイプのシランなどを挙げることができる。
【0031】
また、マトリクス樹脂としては、成形材料として使用される樹脂組成物のマトリクス樹脂として使用されるものであれば、適宜の樹脂を使用することができるが、難燃性樹脂組成物のハロゲン含有量を抑制するという観点からは、マトリクス樹脂がハロゲンを含まないことが好ましい。またマトリクス樹脂としては、特に熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂を使用すると、成形体が高温に曝された際に成形体中の樹脂成分が軟化しやすくなり、これにより成形体内で融解した低融点ガラス粒子が成形体の表面へ移動しやすくなる。
【0032】
熱可塑性樹脂の特に好ましい例としては、ポリエステル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂が挙げられる。ポリエステル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂は、いずれか一方のみを使用しても、双方を併用してもよい。
【0033】
ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサジメチレンテレフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。これらのポリエステル系樹脂のうち、特に好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート及びポリカーボネートが挙げられる。これらのポリエステル系樹脂は、一種のみを使用しても、複数種を併用してもよい。
【0034】
また、ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテン等の単独重合体;エチレン/α−オレフィン共重合体;ビニルアルコールエステル単独重合体;ビニルアルコールエステルを完全加水分解又は部分加水分解して得られるポリオレフィン;エチレンとプロピレンとの少なくとも一方とビニルアルコールエステルとの共重合体を完全加水分解又は部分加水分解して得られるポリオレフィン;エチレンとプロピレンとの少なくとも一方と不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルとの少なくとも一方との共重合体;エチレンとプロピレンの少なくとも一方と不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルとの共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン;共役ジエンとビニル芳香族炭化水素とのブロック共重合体及びその水素化物などが挙げられる。これらのポリオレフィン系のうち、特に好ましい例としては、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、一種のみを使用しても、複数種を併用してもよい。
【0035】
また、難燃性樹脂組成物中にドリップ防止剤としてフッ素樹脂を含有させることも好ましい。この場合、成形体が高温に曝されて成形体が融解した場合の融液の垂れ落ちを抑制することができ、これにより火災時の延焼を抑制することができる。フッ素樹脂の含有量は適宜設定されるが、マトリクス樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲であることが好ましい。
【0036】
また、難燃性樹脂組成物中にドリップ防止剤として、ガラス繊維を含有させることも好ましい。この場合も、成形体が高温に曝されて成形体が融解した場合の融液の垂れ落ちを抑制することができ、これにより火災時の延焼を抑制することができる。ガラス繊維の含有量は適宜設定されるが、マトリクス樹脂100質量部に対して1〜30質量部の範囲であることが好ましい。
【0037】
また、難燃性樹脂組成物中には上記成分のほか、適宜の添加剤を含有させてもよい。このような添加剤としては、成形用の樹脂組成物などに採用される適宜のものを使用することができるが、その種類及び含有量は、低融点ガラス粒子による難燃化作用を阻害しないように適宜設定することが望ましい。
【0038】
このような組成を有する難燃性樹脂組成物を、その組成や用途などに応じた適宜の手法で成形することで成形体を得ることができる。この成形体が高温に曝された際には、内部の低融点ガラスが融解して成形体の表面に達して被膜を形成し、この被膜によって外部から樹脂成分への酸素の供給が遮断されると共に樹脂成分の分解ガスの外部への流出が遮断される。これにより成形体が難燃性を発揮する。このとき、既述のとおり低融点ガラス粒子の粒径が特定の範囲に制御されているため、融解した低融点ガラス粒子同士が成形体の表面で部分的に溶着するネッキング現象が起こりやすくなり、成形体の表面から融解した低融点ガラス粒子が垂れ落ちにくくなる。このため、成形体の表面に融解した低融点ガラス粒子で構成される被膜が維持されやすくなり、低融点ガラス粒子の粒径が制御されていない場合と較べて、低融点ガラス粒子による難燃化作用が著しく向上することになる。
【0039】
また、本実施形態に係る難燃性樹脂組成物では、上記のように低融点ガラス粒子による難燃化作用が高いため、低融点ガラス粒子の含有量が少なくても、その含有量がマトリクス樹脂100質量部に対して1質量部以上であれば、成形体に高い難燃性を付与することが可能となる。低融点ガラス粒子の含有量を低減すれば、成形体の靱性等の機械的強度の低下を抑制することができる。成形体の機械的強度の低下を抑制するためには、低融点ガラス粒子の含有量がマトリクス樹脂100質量部に対して40質量部以下である必要がある。また、特に難燃性樹脂組成物中の低融点ガラス粒子の含有量が、マトリクス樹脂100質量部に対して15〜30質量部の範囲であれば、成形体に充分な難燃性を付与しつつ、この成形体の機械的強度の低下を充分に抑制することが可能になる。
【0040】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、その構成成分を適宜の手法で配合し、混合することにより製造することができる。
【0041】
また特に難燃性樹脂組成物の製造時には、マトリクス樹脂の一部と低融点ガラス粒子とを混合してマスターバッチを調製し、このマスターバッチとマトリクス樹脂の残部とを混合することにより、難燃性樹脂組成物を製造することが好ましい。この場合、難燃性樹脂組成物を容易に製造することができる。尚、難燃性樹脂組成物中にマトリクス樹脂及び低融点ガラス粒子以外の他の成分を配合する場合には、この他の成分はマスターバッチ中に配合してもよく、マスターバッチとマトリクス樹脂の残部とを混合する際に更に他の成分を混合してもよい。
【0042】
マスターバッチの調製時におけるマトリクス樹脂と低融点ガラス粒子との割合は、マトリクス樹脂100質量部に対して低融点ガラス粒子が100〜1000質量部の割合となるようにすることが好ましい。この場合、100質量部未満であればマスターバッチとする意味を成さず、1000質量部を越えるとマスターバッチ内で凝集を起こしたり、樹脂へ混練した際にマクロな分散性が悪くなったりするおそれがある。
【0043】
難燃性樹脂組成物から形成される成形体の用途は特に限定されないが、樹脂としての靭性が求められる部分に好適に用いることができる。例えば給電部品、光反射板カバー、電源端子等を作製するために使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。尚、本発明はもとより下記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
[実施例1−3,6−10]
各実施例につき、表1に示す成分を用いて、難燃性樹脂組成物を調製した。
【0046】
この難燃性樹脂組成物の調製時には、まず低融点ガラス粒子を溶剤(メチルエチルケトン)と混合し、平均粒径500μmのビーズミルを用いた湿式法により5時間粉砕して、低融点ガラス粒子の平均粒径を約500nmになるように調整した。
【0047】
この溶剤と混合した状態のままの低融点ガラス粒子と、シランカップリング剤とを混合することで、低融点ガラス粒子の表面をシランカップリング剤で被覆した後、溶剤を真空乾燥により揮発させた。次に、この低融点ガラス粒子とマトリクス樹脂とを、マトリクス樹脂100質量部に対する低融点ガラス粒子の割合が500質量部となるように混合して、マスターバッチを調製した。
【0048】
このマスターバッチに更にマトリクス樹脂を加え、二軸押し出し機(東洋精機株式会社製)で混練溶融し、空冷した後、ペレタイザーを用いて切断することで、表1に示す成分組成を有するペレット状の樹脂組成物を得た。
【0049】
[実施例4,5]
各実施例につき、表1に示す成分を用いて、難燃性樹脂組成物を調製した。
【0050】
この難燃性樹脂組成物の調製時には、まず低融点ガラス粒子を溶剤(メチルエチルケトン)と混合し、平均粒径500μmのビーズミルを用いた湿式法により5時間粉砕して、低融点ガラス粒子の平均粒径を約500nmになるように調整した。低融点ガラス粒子の平均粒径の実測値は表1に示すとおりである。
【0051】
この溶剤と混合した状態のままの低融点ガラス粒子と、シランカップリング剤とを混合することで、低融点ガラス粒子の表面をシランカップリング剤で被覆した後、溶剤を真空乾燥により揮発させた。次に、この低融点ガラス粒子とマトリクス樹脂とを、マトリクス樹脂100質量部に対する低融点ガラス粒子の割合が500質量部となるように混合して、マスターバッチを調製した。
【0052】
このマスターバッチに更にマトリクス樹脂と、表1に示す割合のフッ素樹脂またはガラス繊維を加え、二軸押し出し機(東洋精機株式会社製)で混練溶融し、空冷した後、ペレタイザーを用いて切断することで、表1に示す成分組成を有するペレット状の樹脂組成物を得た。
【0053】
[実施例11]
表1に示す成分を用いて、上記実施例1−3と同じ手法で樹脂組成物を調製した。但し、ビーズミルを用いた低融点ガラス粒子の粒径制御の際に、平均粒径500μmのビーズミルを用いた湿式法により10時間粉砕して、低融点ガラス粒子の平均粒径を約300nmになるように調整した。
【0054】
[実施例12]
表1に示す成分を用いて、上記実施例1−3と同じ手法で樹脂組成物を調製した。但し、ビーズミルを用いた低融点ガラス粒子の粒径制御の際に、平均粒径50μmのビーズミルを用いた湿式法により5時間粉砕して、低融点ガラス粒子の平均粒径を約50nmになるように調整した。
【0055】
[実施例13]
表1に示す成分を用いて、難燃性樹脂組成物を調製した。
【0056】
この難燃性樹脂組成物の調製時には、まず低融点ガラス粒子を溶剤(メチルエチルケトン)と混合し、平均粒径500μmのビーズミルを用いた湿式法により5時間粉砕して、低融点ガラス粒子の平均粒径を約500nmになるように調整した。
【0057】
この溶剤と混合した状態のままの低融点ガラス粒子と、シランカップリング剤とを混合することで、低融点ガラス粒子の表面をシランカップリング剤で被覆した後、溶剤を真空乾燥により揮発させた。次に、この低融点ガラス粒子とマトリクス樹脂とを、二軸押し出し機(東洋精機株式会社製)で混練溶融し、空冷した後、ペレタイザーを用いて切断することで、表1に示す成分組成を有するペレット状の樹脂組成物を得た。
【0058】
[比較例1,2]
各比較例につき、表1に示す各成分を表1に示す割合で配合し、二軸押し出し機(東洋精機株式会社製)で混練溶融し、空冷した後、ペレタイザーを用いて切断することで、表1に示す成分組成を有するペレット状の樹脂組成物を得た。
【0059】
[比較例3,4]
各比較例につき、表1に示す成分を用いて、上記実施例1−3と同じ手法で樹脂組成物を調製した。但し、ビーズミルを用いた低融点ガラス粒子の粒径制御はおこなわなかった。
【0060】
[比較例5]
表1に示す成分を用いて、上記実施例1−3と同じ手法で樹脂組成物を調製した。但し、ビーズミルを用いた低融点ガラス粒子の粒径制御の際に、平均粒径500μmのビーズミルを用いた湿式法により3時間粉砕して、低融点ガラス粒子の平均粒径を約700nmになるように調整した。
【0061】
[評価試験]
上記各実施例及び比較例について、下記のような評価試験をおこなった。その結果を下記表1に示す。
【0062】
・難燃性
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を成形して試験片(寸法1.2mm×130mm×13mm)を作製し、この試験片についてUL−94試験法による難燃性試験をおこなった。
【0063】
・表面被覆性
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を成形して試験片を作製し、この試験片の上記難燃性試験後の表面を顕微鏡で観察し、試験片のほぼ全ての表面が低融点ガラスの被膜で覆われているものを「高」、被覆されていない部分が確認されるものを「低」と評価した。
【0064】
・引張破断伸び
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を成形して試験片を作製し、この試験片に対して、JIS K7113に準拠する方法で引張試験をおこない、引張破断伸びを計測した。試験条件は、試験間距離115mm、引張速度1mm/minとした。そして、同一種類のマトリクス樹脂が使用されている試験片同士の結果を比較し、実施例1〜6,9、11,12,13及び比較例1,3、5については実施例9の引張破断伸び、実施例7,8,10及び比較例2,4については実施例10の引張破断伸びを基準として、引張破断伸びが基準に対して150%以上であるものを「○」、150%未満のものを「×」と評価した。
【0065】
【表1】

【0066】
上記結果によると、平均粒径500nm以下の低融点ガラス粒子を使用した実施例1−13では、燃焼試験時の成形体表面における低融点ガラスによる被覆性が高く、高い難燃性を発揮するものであった。このうち低融点ガラス粒子の配合量をマトリクス樹脂100質量部に対して20質量部とした実施例2−8、11、12、13では、引張破断伸びが高く、成形体の高い機械的特性が維持された。
【0067】
これに対して比較例1−5では成形体の機械的強度は維持されているものの、低融点ガラス粒子を使用していない比較例1,2では燃焼試験時の成形体表面に低融点ガラスによる被膜は形成されず、平均粒径500nmを超える低融点ガラス粒子を使用した比較例3−5では低融点ガラスによる被覆性が充分ではなく、いずれも難燃性が悪いものであった。
【0068】
また、ドリップ防止剤を加えている点のみ実施例1と相違する実施例4及び5は難燃性試験において、ドリップ現象が起こりにくく、燃焼試験中に垂れ落ちた樹脂組成物の量が少なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス樹脂100質量部に対して平均粒径10〜500nmの低融点ガラス粒子を1〜40質量部含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
上記低融点ガラス粒子の含有量が、上記マトリクス樹脂100質量部に対して15〜30質量部であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
上記マトリクス樹脂が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
上記低融点ガラス粒子に、シランカップリング剤による表面被覆が施されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
ドリップ防止剤として、ガラス繊維を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに該当する難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
ドリップ防止剤としてフッ素樹脂を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに該当する難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法であって、マトリクス樹脂の一部と低融点ガラス粒子とを、前記マトリクス樹脂100質量部に対して低融点ガラス粒子が100〜1000質量部の割合となるように混合してマスターバッチを調製し、このマスターバッチとマトリクス樹脂の残部とを混合することを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−254824(P2010−254824A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107064(P2009−107064)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】