説明

難燃性熱可塑性重合体組成物

【課題】 難燃性、成形加工性、耐熱性に優れた難燃性熱可塑性重合体組成物および該組成物からなる成形体を提供すること。
【解決手段】 主としてα−メチルスチレン単位からなる重合体ブロックAと主として共役ジエン単位からなる重合体ブロックBを有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)並びに金属水和物(c)からなり、ポリオレフィン系樹脂(b)の含有量がブロック共重合体(a)100質量部に対して20〜600質量部であり、金属水和物(c)の含有量がブロック共重合体(a)とポリオレフィン系樹脂(b)の合計100質量部に対して50〜300質量部である難燃性熱可塑性重合体組成物により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性熱可塑性重合体組成物に関する。本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物は、高度の難燃性を有し、しかも腐食性ガスや有毒性ガスの発生が無く、耐熱性および成形加工性に優れており、種々の用途に有効に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様に成形加工が可能であることから、近年、自動車部品、家電部品、電線被覆、医療部品、建材部品、履物、雑貨などの広い分野で用いられている。この中で、スチレン−共役ジエンブロック共重合体またはその水素添加物であるスチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟性、成形性に優れた材料として利用されているが、近年、家電部品、自動車部品、建材部品などの利用分野が拡大するに伴い、難燃性の付与、耐熱性の向上が求められている。
【0003】
スチレン系熱可塑性エラストマーを主体とする重合体組成物への難燃性の付与については、塩素化ポリプロピレンおよび三酸化アンチモンを添加した難燃性組成物(特許文献1参照)、塩素化ポリエチレン系樹脂および臭素含有化合物による難燃化組成物(特許文献2参照)が提案されている。また、金属水和物系難燃剤とポリオレフィン系樹脂による難燃化組成物(特許文献3参照)、ポリオレフィン系樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーの混合物においてシランカップリング剤で処理した金属水和物系難燃剤と、スチレン系熱可塑性エラストマーに架橋構造を導入して耐熱性を付与した難燃性組成物(特許文献4参照)、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体に金属水和物系難燃剤とポリオレフィン変性したポリシロキサン系樹脂を添加した難燃性組成物が提案されている(特許文献5参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−206858号公報
【特許文献2】特開平5−239269号公報
【特許文献3】特開昭60−170651号公報
【特許文献4】特開2000−143935号公報
【特許文献5】特開平5-32830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2で提案されているハロゲン系難燃剤は、燃焼時に腐食性ガスや有毒性ガスを発生するという問題点を有している。そのため、近年、ハロゲン系以外の難燃剤として水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水和物系難燃剤を添加した難燃化組成物が特許文献3などに提案されている。しかしながら、特許文献3の難燃性組成物は、難燃性を付与するために多量の金属水和物が必要であり、そのため、成形加工性が充分でない。特許文献4の難燃性組成物は、耐熱性は改良されるが成形加工性が充分ではない。特許文献5の難燃性組成物は、成形加工性は改良されるが、耐熱性が充分でない。また、この組成物は、電気電子製品に使用した場合、ポリシロキサン由来の分解ガスが性能および耐久性に悪影響を及ぼすとともに、ポリシロキサンは高価であるという問題がある。
【0006】
しかして、本発明の目的は、このような従来の問題点を解決し、難燃性に優れ、かつ耐熱性およびカレンダー加工性、押出成形性などの成形加工性に優れた難燃性熱可塑性重合体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記の目的は、
(1)主としてα−メチルスチレン単位からなる重合体ブロックAと主として共役ジエン単位からなる重合体ブロックBを有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)並びに金属水和物(c)からなり、ポリオレフィン系樹脂(b)の含有量がブロック共重合体(a)100質量部に対して20〜600質量部であり、金属水和物(c)の含有量がブロック共重合体(a)とポリオレフィン系樹脂(b)の合計100質量部に対して50〜300質量部である難燃性熱可塑性重合体組成物;
(2)主としてα−メチルスチレン単位からなる重合体ブロックAと主として共役ジエン単位からなる重合体ブロックBを有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)、金属水和物(c)並びに非芳香族系ゴム用軟化剤(d)からなり、ポリオレフィン系樹脂(b)および非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の含有量がそれぞれブロック共重合体(a)100質量部に対して20〜600質量部および10〜200質量部であり、金属水和物(c)の含有量がブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)および非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の合計100質量部に対して50〜300質量部である難燃性熱可塑性重合体組成物;
(3)さらに難燃助剤(e)をブロック共重合体(a)とポリオレフィン系樹脂(b)の合計100質量部に対して10〜50質量部含有する(1)の難燃性熱可塑性重合体組成物;
(4)さらに難燃助剤(e)をブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)および非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の合計100質量部に対して10〜50質量部含有する(2)の難燃性熱可塑性重合体組成物;
(5)ブロック共重合体(a)における重合体ブロックAが、主としてα−メチルスチレン単位からなる数平均分子量1000〜50000の重合体ブロックであり、重合体ブロックBが下記の重合体ブロックb1およびb2からなり、かつブロック共重合体(a)が式:
A−b1−b2
(式中、Aは重合体ブロックA、
b1は主として共役ジエン単位からなり、共役ジエン単位の1,4−結合量が30%未満である数平均分子量1000〜30000の重合体ブロック、
b2は主として共役ジエン単位からなり、共役ジエン単位の1,4−結合量が30%以上である数平均分子量10000〜400000の重合体ブロックを表す)
で示される構造を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性重合体組成物;
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性重合体組成物からなる成形体;
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性重合体組成物からなる電線用被覆材;
(8)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性重合体組成物からなるシート;
(9)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の難燃性熱可塑性重合体組成物からなる層を含む積層体を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性、成形加工性、耐熱性に優れ、自動車内の配線、電気、電子機器部品などの配線に用いられる電線用被覆材、ケーブル被覆材、電気絶縁部品の被覆材、シート、建築用材料;車両用内装材料等として用いられる積層体などに有効に使用することができる難燃性熱可塑性重合体組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物の構成成分であるブロック共重合体(a)の重合体ブロックAは、主としてα−メチルスチレン単位からなる重合体ブロックである。重合体ブロックAは、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の耐熱性および力学的特性の観点から、その90質量%以上がα−メチルスチレンに由来する構造単位で構成されているのが好ましく、α−メチルスチレンに由来する構造単位のみで構成されているのがより好ましい。ただし、本発明の目的および効果の妨げにならない限り、重合体ブロックAはα−メチルスチレン以外の不飽和単量体、例えばブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、イソブチレン、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N−ビニルカルバゾール、β−ピネン、8,9−p−メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2−メチレンテトラヒドロフランなどに由来する構造単位の1種または2種以上を少量、好ましくは重合体ブロックAに対する割合として10質量%以下の範囲で有していてもよい。重合体ブロックAがα−メチルスチレン以外の他の構造単位を含有する場合の形態は、ランダム、ブロック、テーパード状のいずれでもよい
【0010】
ブロック共重合体(a)の重合体ブロックAの数平均分子量は、1000〜50000の範囲内であるのが好ましく、2000〜40000の範囲内であるのがより好ましい。重合体ブロックAの数平均分子量が1000未満の場合は、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の耐熱性の改良効果が低下する傾向があり、数平均分子量が50000を越える場合は、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の成形加工性が低下する傾向がある。なお、本明細書でいう数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の分子量である。
【0011】
ブロック共重合体(a)における重合体ブロックAの含有量は10〜40質量%の範囲内であるのが好ましい。重合体ブロックAの含有量が10質量%未満の場合には得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の耐熱性が低下する傾向があり、一方40質量%を越える場合には得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の柔軟性が乏しくなる傾向がある。なお、ブロック共重合体(a)における重合体ブロックAの含有量は、例えばH−NMRスペクトルなどにより求めることができる。
【0012】
ブロック共重合体(a)の重合体ブロックBを構成する共役ジエン単位としては、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどに由来する構造単位が挙げられる。これらの共役ジエンは、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ブタジエン単位、イソプレン単位、またはブタジエン単位とイソプレン単位の両方で構成されているのが好ましい。
【0013】
重合体ブロックBは、本発明の趣旨を損なわない限り、少量、好ましくは重合体ブロックBに対する割合として10質量%以下の範囲内で、共役ジエン以外の他のアニオン重合可能な単量体、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N−ビニルカルバゾール、β−ピネン、8,9−p−メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2−メチレンテトラヒドロフランなどに由来する構造単位を含有していてもよい。重合体ブロックBがこれらの構造単位を含有する場合の形態は、ランダム、ブロック、テーパード状のいずれでもよい
【0014】
重合体ブロックBの数平均分子量は10000〜500000の範囲内が好ましく、20000〜400000の範囲内がより好ましい。重合体ブロックBの数平均分子量が10000未満の場合、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の耐熱性が低下する傾向があり、分子量が500000を越える場合、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0015】
ブロック共重合体(a)における重合体ブロックBは、耐熱性、耐候性の観点から、共役ジエン単位に基づく炭素−炭素二重結合の50モル%以上が水素添加(水添)されているのが好ましく、70モル%以上が水添されているのがより好ましく、90モル%以上が水添されているのがさらに好ましい。
なお、上記の水素添加率は、重合体ブロックB中の共役ジエン単位に基づく炭素−炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後において、ヨウ素価測定、赤外分光光度計、H−NMRなどによって測定し、その測定値から求めることができる。
【0016】
ブロック共重合体(a)において、重合体ブロックAと重合体ブロックBは、それらが結合している限りは、その結合様式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状またはそれらの2つ以上が組み合わさった結合形式のいずれでもよい。それらのうちでも、重合体ブロックAと重合体ブロックBの結合形式は直鎖状であるのが好ましく、その例としては重合体ブロックAをAと、重合体ブロックBをBで表したとき、A−B−Aで示されるトリブロック共重合体、A−B−A−Bで示されるテトラブロック共重合体、A−B−A−B−Aで示されるペンタブロック共重合体、(A−B)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表し、nは2以上の整数を表す)などが挙げられる。これらのブロック共重合体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物を用いてもよい。中でも、トリブロック共重合体(A−B−A)が、ブロック共重合体(a)の製造の容易性、柔軟性などの点から好ましく用いられる。
【0017】
ブロック共重合体(a)は、本発明の趣旨を損なわない限り、分子鎖中または分子末端に、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基(式:−CO−O−CO−で示される基)、アミノ基、エポキシ基などの官能基を1種または2種以上含有してもよい。また、ブロック共重合体(a)として、前記した官能基を有するブロック共重合体(a)と官能基を有さないブロック共重合体(a)を混合して使用してもよい。
【0018】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物を構成するブロック共重合体(a)は、アニオン重合法によって製造することができ、例えば次のような製造方法が示される。(1)テトラヒドロフラン溶媒中で1,4−ジリチオ−1,1,4,4−テトラフェニルブタンなどのジアニオン系開始剤を用いて共役ジエンを重合後に、−78℃の条件下でα−メチルスチレンを逐次重合させ、A−B−Aで示されるトリブロック共重合体を得る方法(マクロモレキュールズ(Macromolecules),2巻,453−458頁(1969年)参照)、(2)シクロヘキサンなどの非極性溶媒中でα−メチルスチレンをsec−ブチルリチウムなどのアニオン重合系開始剤で重合させた後、共役ジエンを重合させ、その後テトラクロロシラン、ジフェニルジクロロシランなどのカップリング剤(α,α’−ジクロロ−p−キシレン、安息香酸フェニルなどを用いることもできる)を添加してりカップリング反応を行い、(A−B)nX型ブロック共重合体を得る方法(カウチュック グミ クンストストッフェ(Kautsch.Gummi,Kunstst.),37巻,377−379頁(1984年);ポリマー ブリティン(Polym.Bull.),12巻,71−77頁(1984年)参照)、(3)非極性溶媒中、有機リチウム化合物を開始剤として用い、0.1〜10質量%の濃度の極性化合物の存在下、−30〜30℃の温度にて、5〜50質量%の濃度のα−メチルスチレンを重合させ、得られるリビングポリマーに共役ジエンを重合させた後、カップリング剤を添加して、A−B−A型ブロック共重合体を得る方法、(4)非極性溶媒中、有機リチウム化合物を開始剤として用い、0.1〜10質量%の濃度の極性化合物の存在下、−30〜30℃の温度にて、5〜50質量%の濃度のα−メチルスチレンを重合させ、得られるリビングポリマーに共役ジエンを重合させ、得られるα−メチルスチレン重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックからなるブロック共重合体のリビングポリマーにα−メチルスチレン以外のアニオン重合性モノマーを重合させA−B−C型ブロック共重合体を得る方法。
上記のブロック共重合体の製造方法の中でも、重合条件(温度、溶液粘度等)の温和さ、共役ジエン部のミクロ構造(1,4−結合量)の制御の観点から、(3)および(4)の方法が好ましく、(3)の方法がより好ましく採用される。以下、上記(3)の方法についてさらに詳細に説明する。
【0019】
上記(3)の方法において重合開始剤として用いられる有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどのモノリチウム化合物、およびテトラエチレンジリチウムなどのジリチウム化合物が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
α−メチルスチレンの重合時に使用される溶媒は非極性溶媒であり、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。これらは単独で用いても、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
α−メチルスチレンの重合時に使用される極性化合物とは、アニオン種と反応する官能基(水酸基、カルボニル基など)を有さず、分子内に酸素原子、窒素原子などの複素原子を有する化合物であり、例えばジエチルエーテル、モノグライム、テトラメチルエチレンジアミン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。これらの化合物は単独で用いても、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
反応系中における極性化合物の濃度は、α−メチルスチレンを高い転化率で重合させ、この後の共役ジエンを重合させる際に、共役ジエン重合体ブロック部の1,4−結合量を制御する観点から、0.1〜10質量%の範囲内にあるのが好ましく、0.5〜3質量%の範囲内がより好ましい。
【0023】
反応系中におけるα−メチルスチレン濃度は、α−メチルスチレンを高い転化率で重合させ、また重合後期における反応溶液の粘度の点から、5〜50質量%の範囲内にあるのが好ましく、25〜40質量%の範囲内がより好ましい。
【0024】
なお、上記の転化率とは、未重合のα−メチルスチレンが重合により重合体へと転化された割合を意味し、本発明においてその程度は70%以上であるのが好ましく、85%以上であるのがより好ましい。
【0025】
α−メチルスチレンの重合時の温度条件は、α−メチルスチレンの天井温度(重合反応が平衡状態に達して実質的に進行しなくなるときの温度)、α−メチルスチレンの重合速度、リビング性などの点から−30〜30℃の範囲内であるのが好ましく、より好ましくは−20〜10℃、さらに好ましくは−15〜0℃である。重合温度を30℃以下とすることにより、α−メチルスチレンを高い転化率で重合させることができ、さらに生成するリビングポリマーが失活する割合も小さく、得られるブロック共重合体中にホモポリα−メチルスチレンが混入するのが抑制され、物性が損なわれにくくなる。また、重合温度を−30℃以上とすることにより、α−メチルスチレンの重合後期において反応溶液が高粘度化することなく撹拌でき、低温状態を維持するのに必要な費用がかさむこともないため、経済的にも好ましい
【0026】
上記の方法においては、α−メチルスチレン重合体ブロック(重合体ブロックA)の特性が損なわれない限り、α−メチルスチレンの重合時に、重合体ブロックAが有していてもよい他の構造単位を与える先に例示した不飽和単量体を共存させ、これをα−メチルスチレンと共重合させてもよい。該不飽和単量体は単独で用いても、または2種以上を使用してもよい。
【0027】
これまでに説明した有機リチウム化合物を開始剤とするα−メチルスチレンの重合により、リビングポリα−メチルスチリルリチウムが生成する。次いでこのものに共役ジエンを重合させる。共役ジエンとしては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、または2種以上を混合して使用してもよい。この中でもブタジエンまたはイソプレンが好ましく、これらは混合して用いてもよい。
【0028】
共役ジエンは反応系に添加することにより重合に供される。共役ジエンを反応系に添加する方法としては、特に制限はなく、リビングポリα−メチルスチリルリチウム溶液に直接添加しても、溶媒で希釈して添加してもよい。共役ジエンを溶媒に希釈して添加する方法としては、共役ジエンを加えた後、溶媒で希釈するか、または共役ジエンと溶媒を同時に投入するか、あるいは溶媒で希釈した後に共役ジエンを加えてもよい。好適には、リビングポリα−メチルスチリルリチウムに対して1〜100モル当量、好ましくは5〜50モル当量に相当する量の共役ジエンを添加して共役ジエンブロック(以下、これを重合体ブロックb1と称することがある)を形成してリビング活性末端を変種した後、溶媒で希釈し、続いて残りの共役ジエンを投入し、30℃を超える温度、好ましくは40〜80℃の温度範囲で重合反応を行い、共役ジエンブロックをさらに形成(以下、これを重合体ブロックb2と称することがある)させる方法が推奨される。リビングポリα−メチルスチリルリチウムの活性末端を変種するに際し、共役ジエンの代りにスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレンなどのビニル芳香族化合物を用いてもよい。
【0029】
ここで希釈に用いることができる溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などを挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いても、または2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
リビングポリα−メチルスチリルリチウムに共役ジエンを共重合させて得られるα−メチルスチレン重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックからなるブロック共重合体のリビングポリマーに、例えば、多官能性カップリング剤を反応させることにより、トリブロックまたはラジアルテレブロック型のブロック共重合体(a)を製造することができる。この場合のブロック共重合体は、多官能性カップリング剤の使用量を調整することにより得られる、ジブロック、トリブロック、ラジアルテレブロック型のブロック共重合体を任意の割合で含む混合物であってもよい。多官能性カップリング剤としては、安息香酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、酢酸エチル、酢酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸フェニル、ピバリン酸エチル、α,α’−ジクロロ−o−キシレン、α,α’−ジクロロ−m−キシレン、α,α’−ジクロロ−p−キシレン、ビス(クロロメチル)エーテル、ジブロモメタン、ジヨードメタン、フタル酸ジメチル、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、トリクロロメチルシラン、テトラクロロシラン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。なお、多官能性カップリング剤の使用量は、ブロック共重合体(a)の数平均分子量に応じて適宜調整すればよく、厳密な意味での制限はない。
【0031】
α−メチルスチレン重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックからなるブロック共重合体のリビングポリマーに多官能性カップリング剤を反応させることにより得られるトリブロックまたはラジアルテレブロック型のブロック共重合体(a)を水素添加(水添)する場合には、必要に応じてアルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素化合物を添加してカップリング反応を停止させた後、後述する公知の方法にしたがって不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水添することにより、水添されたブロック共重合体(a)を製造することができる。
【0032】
また、水添されたブロック共重合体(a)は、リビングポリα−メチルスチリルリチウムに共役ジエンを重合させた後、アルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素化合物を添加して重合反応を停止させ、後述する公知の方法にしたがって不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水添することにより製造することもできる。
【0033】
α−メチルスチレン重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックからなる未水添のブロック共重合体、またはα−メチルスチレン重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックからなるブロック共重合体のリビングポリマーに多官能性カップリング剤を反応させることにより得られる未水添のトリブロックまたはラジアルテレブロック型ブロック共重合体(いずれも本発明で使用するブロック共重合体(a)に包含される)は、その製造に使用された溶媒を置換することなく、そのまま水素添加に供することができる。
【0034】
水添反応は、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Niなどの金属をカーボン、アルミナ、珪藻土などの担体に担持させた不均一触媒;遷移金属化合物(オクチル酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナートなど)とトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物または有機リチウム化合物などとの組み合わせからなるチーグラー系触媒;チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの遷移金属のビス(シクロペンタジエニル)化合物とリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛またはマグネシウムなどからなる有機金属化合物の組み合わせからなるメタロセン系触媒などの水添触媒の存在下に、反応温度20〜100℃、水素圧力0.1〜10MPaの条件下で行うことができる。未水添のブロック共重合体(a)は共役ジエン重合体ブロック中の炭素−炭素二重結合の50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上が飽和されるまで水添されることが望ましく、これによりブロック共重合体(a)の耐候性を高めることができる。
【0035】
本発明に用いるブロック共重合体(a)は、上記方法で得られたものが好ましく用いられ、特に、非極性溶媒中、有機リチウム化合物を開始剤として用い、0.1〜10質量%の濃度の極性化合物の存在下、−30〜30℃の温度にて5〜50質量%の濃度のα−メチルスチレンを重合させ、次いで共役ジエンの重合に際して、まずリビングポリα−メチルスチリルリチウムに対して1〜100モル当量の共役ジエンを重合させて重合体ブロックb1を形成し、次いで反応系を30℃を超える温度として、共役ジエンを追加して重合させて重合体ブロックb2を形成せしめて得られたものであることが、難燃性熱可塑性重合体組成物としての特性が広い温度範囲において優れる点から望ましい。すなわち、この場合、重合体ブロックBは、重合体ブロックb1および重合体ブロックb2より成る。
【0036】
ブロック共重合体(a)の構造は、直鎖状、分岐状などに限定されないが、ブロック共重合体(a)としては、式:A−b1−b2で示される構造を含むブロック共重合体が好ましい。そのようなブロック共重合体としては、A−b1−b2−b2−b1−A型共重合体、A−b1−b2−b2−b1−A型共重合体とA−b1−b2型共重合体の混合物、(A−b1−b2)nX型共重合体(Xはカップリング剤残基を表す、nは2以上の整数である)などが挙げられる。
【0037】
上記ブロック共重合体(a)中の重合体ブロックb1の数平均分子量は1000〜30000の範囲内が好ましく、より好ましくは2000〜25000の範囲内であり、かつ重合体ブロックb1を構成する共役ジエン単位の1,4−結合量は30%未満であるのが好ましい。また、重合体ブロックb2の数平均分子量は10000〜400000の範囲内が好ましく、より好ましくは20000〜400000の範囲内であり、かつ重合体ブロックb2を構成する共役ジエン単位の1,4−結合量は30%以上であるのが好ましく、より好ましくは35%〜95%、さらに好ましくは40%〜80%である。
【0038】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物を構成するポリオレフィン系樹脂(b)としては、例えばエチレン系重合体、プロピレン系重合体、ポリ(1−ブテン)、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。エチレン系重合体としては、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどのエチレンの単独重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ヘプテン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体が挙げられる。プロピレン系重合体としては、例えばプロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−4−メチルペンテン共重合体などが挙げられる。これらの中でも、成形加工性の点から、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体;プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体などのプロピレン系重合体が好ましく、プロピレン系重合体を用いるのがより好ましい。
【0039】
ポリオレフィン系樹脂(b)の含有量は、ブロック共重合体(a)100質量部に対して20〜600質量部の範囲内であり、50〜500質量部の範囲内であるのが好ましい。ブロック共重合体(a)100質量部に対するポリオレフィン系樹脂(b)の含有量が20質量部未満では、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の成形加工性または難燃性が低下し、一方600質量部を超えると、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の柔軟性が低下する。
【0040】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物を構成する金属水和物(c)としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基または結晶水を有する化合物が挙げられる。これらの化合物は、脂肪酸またはシランカップリング剤等で表面処理されているのが好ましい。この表面処理に使用される脂肪酸としては、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。このような脂肪酸で表面処理された金属水和物は工業的に製造されて市販されており、容易に入手することが可能であり、例えば、「キスマ5A」、「キスマ5B」(商品名、ともに協和化学工業製)などが挙げられる。また、表面処理に使用されるシランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。このようなシランカップリング剤で表面処理された金属水和物は工業的に製造されて市販されており、容易に入手することが可能であり、例えば、「キスマ5L」(商品名、協和化学工業製)が挙げられる。
【0041】
金属水和物(c)の含有量は、ブロック共重合体(a)とポリオレフィン系樹脂(b)の合計100質量部に対して50〜300質量部の範囲内であり、80〜250質量部の範囲内であるのが好ましい。また、本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物が後述する非芳香族系ゴム用軟化剤(d)をさらに含有する場合には、金属水和物(c)の含有量はブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)および非芳香族系軟化剤(d)の合計100質量部に対して50〜300質量部の範囲内であり、80〜250質量部の範囲内であるのが好ましい。いずれの場合においても、金属水和物(c)の含有量が下限値を下回る場合には、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物に充分に難燃性を付与することができず、一方上限値を超える場合には、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の成形加工性が劣るものとなる。
【0042】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物に含有されることがある非芳香族系ゴム用軟化剤(d)としては、パラフィン系、ナフテン系のプロセスオイル等の石油系軟化剤;パラフィン;落花生油、ロジン等の植物油系軟化剤;エチレン−α−オレフィンオリゴマー、ポリブテン、低分子量ポリブタジエン等の合成軟化剤などが挙げられる。非芳香族系ゴム用軟化剤(d)としては、40℃における動粘度が20〜800mm/sである軟化剤、中でもパラフィン系オイルが望ましい。これらの非芳香族系ゴム用軟化剤(d)は1種を単独で、あるいは2種以上混合して用いることができる。本発明に好適に用いることのできる非芳香族系ゴム用軟化剤(d)として、例えば「ダイアナプロセスオイル」(商品名;出光興産(株))シリーズにおけるパラフィン系プロセスオイルなどが挙げられる。
【0043】
非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の含有量は、ブロック共重合体(a)100質量部に対して10〜200質量部の範囲内であるのが好ましく、30〜180質量部の範囲内であるのがより好ましい。非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の含有量がブロック共重合体(a)100質量部に対して200質量部を超えると、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の難燃性が低下し、また成形体から非芳香族系ゴム用軟化剤(d)がブリードアウトする傾向がある。
【0044】
本発明においては、難燃性を向上させるために、さらに難燃助剤(e)を含有することができる。難燃助剤(e)としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化珪素等の金属酸化物;硼酸亜鉛、硼酸アルミニウム、硼酸ナトリウム等の硼酸化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種を混合して用いてもよい。
【0045】
難燃助剤(e)の含有量は、ブロック共重合体(a)とポリオレフィン系樹脂(b)の合計100質量部に対して10〜50質量部の範囲内であるのが好ましく、10〜30質量部の範囲内であるのがより好ましい。また、本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物が非芳香族系ゴム用軟化剤(d)を含有する場合には、難燃助剤(e)の含有量はブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)および非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の合計100質量部に対して10〜50質量部の範囲内であるのが好ましく、10〜30質量部の範囲内であるのがより好ましい。いずれの場合においても、難燃助剤(e)の配合量が下限値を下回る場合には得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の難燃性が不充分となる傾向となり、一方上限値を超える場合には得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の成形加工性が劣る傾向となる。
【0046】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の重合体を含有することができる。含有し得る他の重合体としては、例えばポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・12、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、キシレン基含有ポリアミドなどのポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマーなどのポリオキシメチレン系樹脂;スチレン単独重合体、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂などのスチレン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;エチレン・プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)などのエチレン系エラストマー;スチレン・ブタジエン共重合体ゴム、スチレン・イソプレン共重合体ゴムなどのスチレン系エラストマーおよびその水素添加物またはその変性物;天然ゴム;合成イソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴムおよびその水素添加物または変性物;クロロプレンゴム;アクリルゴム;ブチルゴム;アクリロニトリル・ブタジエンゴム;エピクロロヒドリンゴム;シリコーンゴム;フッ素ゴム;クロロスルホン化ポリエチレン;ウレタンゴム;ポリウレタン系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;軟質塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらの重合体を含有させる場合、その含有量は、得られる難燃性熱可塑性重合体組成物の力学物性が損なわれない範囲が好ましく、ブロック共重合体(a)100質量部に対して200質量部以下であるのが好ましい。
【0047】
さらに、本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物は、必要に応じてα−メチルスチレン樹脂などの補強樹脂、金属水和物(c)以外の難燃剤、滑剤、光安定剤、顔料、熱安定剤、防曇剤、帯電防止剤、シリコーンオイル、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、着色剤などをの1種または2種以上を含有することができる。これらのうち、酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤が挙げられる。
【0048】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物は、通常の樹脂組成物またはエラストマー組成物の製造に際して用いられる方法により製造することができる。すなわち、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール、各種ニーダーなどの溶融混練機を用いて、ブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)、金属水和物(c)、および必要に応じて非芳香族系ゴム用軟化剤(d)、難燃助剤(e)、他の任意添加成分を混合した混合物を溶融混練することにより製造することができる。溶融混練温度は150〜250℃の範囲内であるのが好ましい。
【0049】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物は、例えば、押出成形、射出成形、中空成形、圧縮成形、プレス成形、カレンダー成形などの方法を用いて、シート、フィルム、チューブ、中空成形体、型成形体、その他の各種成形体に成形することができる。また、二色成形法により他の部材(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系エラストマー、ABS樹脂、ポリアミドなどの高分子材料、金属、木材、布など)と複合化することもできる。
【0050】
さらに、本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物は、各種の他の材料、例えば合成樹脂、ゴム、金属、木材、セラミックス、紙、布帛などとの積層体(複合構造体)の製造に有効に使用することができ、かかる積層体も本発明の範囲に包含する。
【0051】
本発明の積層体としては、例えば、難燃性熱可塑性重合体組成物の1つの層と他の材料の1つの層を有する積層体、他の材料を挟んでその両側に難燃性熱可塑性重合体組成物の層を有する積層体、2つの他の材料の層の間に難燃性熱可塑性重合体組成物の層を有する積層体、難燃性熱可塑性重合体組成物の層を少なくとも1層有しかつ同一または異なる他の材料の層を2層以上有する積層体などを挙げることができる。積層体が他の材料からなる層を2つ以上有する場合は、それぞれの層を構成する他の材料は同じであっても、または異なっていてもよい。また、本発明の積層体では、層の数、各層の厚さ、形状、構造などは特に制限されず、積層体の用途などに応じて決めることができる。
【0052】
本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物は、火炎または高熱との接触によっても腐食性ガスや有毒ガスをほとんど発生しないことから、自動車内の配線、電気、電子機器部品などの配線に用いられる電線用被覆材;各種ケーブル、光ファイバー心線、光ファイバーコードなどのケーブル被覆材;電源コード、プラグ、アダプタなどの電気絶縁部品の被覆材;家屋、マンションなどのフローリングやビルなどの床面に敷く保護用のフロアーシート、テントシートなどのシート;ドア材、ベランダの目隠し板などの建築用材料;車両用内装材料等として用いられる積層体などに有効に使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において得られた難燃性熱可塑性重合体組成物の評価は次のようにして行った。
(1)成形加工性
(i)カレンダー加工性:以下の実施例および比較例で得られた難燃性熱可塑性重合体組成物を用いて、ロール温度160℃、ロール間隔0.5mmでシート化し、カレンダー加工性において必要とされる溶融張力の評価を行った。すなわち、溶融張力が不足する場合は、シート化の際、シートに裂けが生じることから、カレンダー加工時にシートが裂けるか否かを評価した。
カレンダー加工性;
○:シート裂けなし
×:シートが裂ける
(ii)押出成形性:以下の実施例および比較例で得られた難燃性熱可塑性重合体組成物を、ラボプラストミル二軸押出機を使用し、210℃の温度で、幅25mm×厚さ0.5mmのスリットダイを用いて押出成形してリボン状成形体を得、そのときの押出成形性、押出成形品の表面性の評価を行った。評価は、下記基準で行った。
押出成形性;
○:トルクの上昇が小さく、幅、厚みが一定したリボン状の成形体が得られる
×:トルクの上昇が大きく、リボン状成形体の幅、厚みの変化が大きいかまたはリボン状成形体が得られない
表面性;
○:表面全体が平滑であり、表面のざらつきやすじの発生がない
×:表面のざらつきまたはすじが見られる
【0054】
(2)硬度
以下の実施例および比較例で得られた難燃性熱可塑性重合体組成物をカレンダー成形して得たシートを用いて、JIS K−6253に準じた方法で、タイプA硬度を測定した
【0055】
(3)耐熱性
以下の実施例および比較例で得られた難燃性熱可塑性重合体組成物をカレンダー成形して得たシートから、長さ150mm×幅10mm×厚さ0.5mmの試験片を作製し、該試験片の長さ方向に10gの荷重をかけ、内温120℃の熱風オーブンで15分加熱した後、試験片の荷重を取り除いて室温まで冷却し、試験片の変形伸びの長さを測定した。評価は下記基準で行った。
○:熱変形伸びの長さが10mm未満
△:熱変形伸びの長さが10mm以上20mm未満
×:熱変形伸びの長さが20mm以上または溶断
【0056】
(4)難燃性
以下の実施例および比較例で得られた難燃性熱可塑性重合体組成物をカレンダー成形して得たシートを切り出して、100mm×350mmの試験片を作製してJIS D 1201に準じた方法により燃焼性試験を行い、等級を評価した。
燃焼性1級:燃焼速度≦50mm/分
燃焼性2級:50mm/分<燃焼速度≦75mm/分
燃焼性3級:75mm/分<燃焼速度≦100mm/分
【0057】
また、実施例および比較例で用いた各成分は次の通りである。
ブロック共重合体(a)
参考例1(ブロック共重合体(a)−1の製造)
窒素置換した攪拌装置付き耐圧容器に、α−メチルスチレン90.9g、シクロヘキサン138g、メチルシクロヘキサン15.2gおよびテトラヒドロフラン5.7gを仕込んだ。この混合液にsec−ブチルリチウム(1.3Mシクロヘキサン溶液)2.1mlを添加し、−10℃で3時間重合させた。重合開始3時間後のポリα−メチルスチレン(ブロックA)の数平均分子量をGPCにより測定したところ、ポリスチレン換算で30000であり、α−メチルスチレンの重合転化率は88%であった。次いで、この反応混合液にブタジエン4.4gを添加し、−10℃で30分間攪拌して、ブロックb1の重合を行った後、シクロヘキサン930gを加えた。この時点でのα−メチルスチレンの重合転化率は88%であり、ポリブタジエンブロック(b1)の数平均分子量(GPC測定、ポリスチレン換算)は4000であり、H−NMR測定から求めた1,4−結合量は17%であった。
次に、この反応液にさらにブタジエン158.0gを加え、50℃で2時間重合反応を行った。この時点のサンプリングで得られたブロック共重合体(構造:A−b1−b2)のポリブタジエンブロック(b2)の数平均分子量(GPC測定、ポリスチレン換算)は129000であり、H−NMR測定から求めた1,4−結合量は53%であった。
【0058】
続いて、この重合反応溶液に、ジクロロジメチルシラン(0.5Mトルエン溶液)2.7mlを加え、50℃にて1時間攪拌し、α−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレントリブロック共重合体を得た。この時のカップリング効率を、カップリング体(α−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレントリブロック共重合体:A−b1−b2−X−b2−b1−A;式中Xはカップリング剤残基(−Si(Me)−)を表す)と未反応ブロック共重合体(α−メチルスチレン−ブタジエンブロック共重合体:A−b1−b2)のGPCにおけるUV吸収の面積比から算出すると92%であった。また、H-NMR解析の結果、α−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレントリブロック共重合体中のα−メチルスチレン重合体ブロック含有量は33%であり、ブタジエン重合体ブロックB全体(すなわち、ブロックb1およびブロックb2)の1,4−結合量は51%であった。
【0059】
上記で得られた重合反応溶液中に、オクチル酸ニッケルおよびトリエチルアルミニウムから形成されるZiegler系水素添加触媒を水素雰囲気下に添加し、水素圧力0.8MPa、80℃で5時間の水素添加反応を行ない、α−メチルスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物(以下、これをブロック共重合体(a)−1と略称する)を得た。得られたブロック共重合体(a)−1をGPC測定した結果、主成分はMt(平均分子量のピークトップ)=326000、Mn(数平均分子量)=320000、Mw(重量平均分子量)=327000、Mw/Mn=1.02であるα−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレントリブロック共重合体の水添物(カップリング体)であり、GPCにおけるUV(254nm)吸収の面積比から、カップリング体は92%含まれることが判明した。また、H-NMR測定により、ブロックb1およびブロックb2から構成されるブタジエンブロックBの水素添加率は99%であった。これらの分子性状を表1にまとめて示す。
【0060】
参考例2(ブロック共重合体(a)−2の製造)
参考例1においてテトラヒドロフランの使用量を5.7gから3.1gに、sec−ブチルリチウム(1.3Mシクロヘキサン溶液)の使用量を2.1mlから5.7mlに、ブタジエンの使用量合計を162.4gから164.3gに、ジクロロジメチルシラン(0.5Mトルエン溶液)の使用量を2.7mlから7.3mlに変え、他の操作は参考例1と同様にして反応を行い、ブロック共重合体(以下、これをブロック共重合体(a)−2と略称する)を得た。分子性状を表1にまとめて示す。なお、α−メチルスチレンの重合転化率は89%であった。また、得られたポリα−メチルスチレンブロック(ブロックA)の数平均分子量(GPC測定、ポリスチレン換算)は10600、ポリブタジエンブロックb1の数平均分子量は1500、H-NMR測定から求めた1,4−結合量は17%、ポリブタジエンブロックb2の数平均分子量は48000、1,4−結合量は56%であった。
【0061】
参考例3(スチレン系ブロック共重合体(i)−1の製造)
窒素置換した攪拌装置付き耐圧容器に、スチレン81gおよびシクロヘキサン1100g、テトラヒドロフラン3.1gを仕込んだ。この溶液に、sec−ブチルリチウム(1.3M、シクロヘキサン溶液)2.1mlを加え、50℃で1時間重合させた。次いで、この反応混合物にブタジエン165gを加え、50℃で1時間重合を行った。その後、この反応混合物にさらにジクロロジメチルシラン(0.5M、トルエン溶液)2.7mlを加えて50℃で1時間攪拌することにより、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応混合液を得た。この反応混合物にオクチル酸ニッケル/トリエチルアルミニウムからなる水素添加触媒を添加して、水素圧力0.8MPaで、80℃で5時間の水素添加反応を行い、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、これをブロック共重合体(i)−1と略称する)を得た。分子性状を表1にまとめて示す。
【0062】
【表1】

【0063】
ポリオレフィン系樹脂(b)
(b)−1:「三井ポリプロB221WA」(商品名、三井ポリプロピレン社製、エチレンランダム共重合ポリプロピレン樹脂;メルトインデックス(MI)=0.5g/10分)
(b)−2:「エンゲージ8480」(商品名、デュポンダウエラストマーズ社製、オクテン共重合ポリエチレン;オクテン含有量9.5モル%;MI=1.0g/10分)
(b)−3:「ノバテックLE425」(商品名、日本ポリプロピレン社製、低密度ポリエチレン樹脂;MI=2.0g/10分)
【0064】
金属水和物(c)
(c)−1:「キスマ5L」(商品名、協和化学工業社製、シランカップリング剤で処理した水酸化マグネシウム)
(c)−2:「キスマ5B」(商品名、協和化学工業社製、ステアリン酸処理した水酸化マグネシウム)
【0065】
非芳香族系ゴム用軟化剤(d)
(d)−1:ダイアナプロセスPW−380(商品名、出光興産(株)製、パラフィン系プロセスオイル、動粘度:381.6mm/s(40℃))
【0066】
難燃助剤(e)
(e)−1:酸化亜鉛(堺化学工業(株)製)
【0067】
<実施例1〜5、比較例1〜3>
(1)参考例1〜3で得られたブロック共重合体(a)またはブロック共重合体(i)、上記したポリオレフィン系樹脂(b)、金属水和物(c)、非芳香族系ゴム用軟化剤(d)、難燃助剤(e)を表2に示す配合量(全て質量部)で、二軸押出機を用いて230℃、スクリュー回転200rpmの条件で混練した後、ストランドを押出し、次いでペレタイザーでストランドをカットすることによりペレット状の難燃性熱可塑性重合体組成物を得た。
(2)上記(1)で得られた難燃性熱可塑性重合体組成物を用いて、ロール温度160℃、ロール間隔0.5mmの条件でカレンダー加工することによってシート化し、同時にカレンダー加工性の評価を行った。得られたシートを用いて、上記した方法で硬度、耐熱性評価、難燃性評価を行った。結果を表2に示す。
(3)上記(1)で得られた難燃性熱可塑性重合体組成物をラボプラストミル二軸押出機で、210℃の温度で、幅25mm×厚さ0.5mmのスリットダイを用いて押出成形してリボン状成形体を得、そのときの押出成形性、押出成形品の表面性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2の結果から、実施例1〜5の本発明の難燃性熱可塑性重合体組成物は成形加工性、耐熱性、難燃性に優れる材料であることが分かる。
これに対して、α−スチレン重合体ブロックを有しない比較例1の組成物は、成形加工性、耐熱性に劣る。また、金属水和物(c)の含有量が少ない比較例2の組成物は充分な難燃性を有しておらず、金属水和物(c)の含有量が多い比較例3の組成物は成形加工性が充分でない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によって得られる難燃性熱可塑性重合体組成物は、高度の難燃性を有し、成形加工性、耐熱性に優れ、燃焼時にもハロゲン化合物による有毒ガスを発生しないため、安全で、テントシート材等のシート製品、電線等の各種被覆材、レザー類などの産業部品、家電部品、自動車部品、建材部品に好適に用いることができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてα−メチルスチレン単位からなる重合体ブロックAと主として共役ジエン単位からなる重合体ブロックBを有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)並びに金属水和物(c)からなり、ポリオレフィン系樹脂(b)の含有量がブロック共重合体(a)100質量部に対して20〜600質量部であり、金属水和物(c)の含有量がブロック共重合体(a)とポリオレフィン系樹脂(b)の合計100質量部に対して50〜300質量部である難燃性熱可塑性重合体組成物。
【請求項2】
主としてα−メチルスチレン単位からなる重合体ブロックAと主として共役ジエン単位からなる重合体ブロックBを有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)、金属水和物(c)並びに非芳香族系ゴム用軟化剤(d)からなり、ポリオレフィン系樹脂(b)および非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の含有量がそれぞれブロック共重合体(a)100質量部に対して20〜600質量部および10〜200質量部であり、金属水和物(c)の含有量がブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)および非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の合計100質量部に対して50〜300質量部である難燃性熱可塑性重合体組成物。
【請求項3】
さらに難燃助剤(e)をブロック共重合体(a)とポリオレフィン系樹脂(b)の合計100質量部に対して10〜50質量部含有する請求項1に記載の難燃性熱可塑性重合体組成物。
【請求項4】
さらに難燃助剤(e)をブロック共重合体(a)、ポリオレフィン系樹脂(b)および非芳香族系ゴム用軟化剤(d)の合計100質量部に対して10〜50質量部含有する請求項2に記載の難燃性熱可塑性重合体組成物。
【請求項5】
ブロック共重合体(a)における重合体ブロックAが、主としてα−メチルスチレン単位からなる数平均分子量1000〜50000の重合体ブロックであり、重合体ブロックBが下記の重合体ブロックb1およびb2からなり、かつブロック共重合体(a)が式:
A−b1−b2
(式中、Aは重合体ブロックA、
b1は主として共役ジエン単位からなり、共役ジエン単位の1,4−結合量が30%未満である数平均分子量1000〜30000の重合体ブロック、
b2は主として共役ジエン単位からなり、共役ジエン単位の1,4−結合量が30%以上である数平均分子量10000〜400000の重合体ブロックを表す)
で示される構造を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性重合体組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性重合体組成物からなる成形体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性重合体組成物からなる電線用被覆材。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性重合体組成物からなるシート。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性重合体組成物からなる層を含む積層体。




【公開番号】特開2006−233126(P2006−233126A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53122(P2005−53122)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】