説明

電力変換装置

【課題】一般的で廉価なコア部材の使用数を減らし、簡単にコモンモードノイズとノルマルモードノイズの両方を低減できるようにする。
【解決手段】図は、ノイズ電流低減用コア11〜13を電力変換装置の入力または出力線21〜23とどのように結合させるかを説明するもので、2つの相に対する組み合わせが互いに重複しないよう、コアに挿入する電線の数が各コアで互いに等しくなるように一括して挿入することで、簡単且つ安価にコモンノイズとノルマルノイズを同時に低減できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パワー半導体素子のスイッチング時に、伝導または放射される伝導性ノイズまたは放射ノイズを低減することを目的に、ノイズ電流が流れる回路にインピーダンスを追加または付加する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EMC(電磁妨害:electromagnetic interference)規制が厳しくなる中、汎用インバータを始め、様々な産業機器で放射および伝導ノイズ(単にノイズとも言う)の低減が技術課題となっている。特に、これらの主部品であるパワー半導体、およびこれらを搭載したパワーモジュールがスイッチングすることにより発生するノイズの低減については、対策が必要とされている。その対策の1つとして、フェライトコアの挿入が挙げられ、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
また、ノイズの発生源となるループは、ノルマルループとコモンループの2種類に分類され、これらはループの経路が異なるため、ノイズ電流を低減するためには、それぞれ個々にインピーダンスを追加する等の対策が講じられるのが一般的である。
そこで、ノルマルループとコモンループによって発生するノイズ電流を一度に低減できれば、インピーダンスを追加する上で必要なフェライトコア等の部材を少なくでき、なおかつコストや設置スペースの削減において有効である。このような効果を目指す技術として、例えば特許文献2〜4に示すものがある。
【0004】
【特許文献1】特許第2851268号明細書
【特許文献2】特許第2671434号明細書
【特許文献3】特開2005−116792号公報
【特許文献4】特開2001−237130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、コモンモードノイズとノルマルモードノイズそれぞれの対策には、コモンループとノルマルループにそれぞれフェライトコアなどのインピーダンスを追加するのが一般的である。
図5に、コモンモードノイズとノルマルモードノイズを抑制するためのコアの挿入箇所例を示す。図5(a)はコモンモードノイズのみの対策例、図5(b)はノルマルモードノイズのみの対策例、図5(c)はコモンとノルマルの両方のノイズの対策例を示す。また、図5(a)〜(c)に示す各記号と、それぞれに対応するコアの具体例を図6(a)〜(c)の右側に示す。
【0006】
上記特許文献1では、ノルマルモードノイズ対策として、例えばダイオードの各端子にアモルファスコアを挿入している。この方法では、それぞれのノイズ発生モードに個別にコアを必要とするため、使用部材の個数が増大する。
そこで、コモンモードノイズとノルマルモードノイズを一括して対策する方法として、特許文献2,3に示す形状のコアが提案されている。
【0007】
図7に特許文献2,3で用いられているコアの形状例を示す。
図示のように、貫通型コア1にギャップの付いた足を設けた形状をしており、ギャップが付いていない側の足に電線(巻線)2を巻き付け、ノルマルとコモンの両方に対してコアのループを作ることで、各モードにおいてインピーダンスを発生できる形状としている。しかし、図7に示す形状のものを採用する場合、中心の足にギャップを持たせるため、コアの加工性能と強度とを両立させることは難しい。
【0008】
具体的には、単純なギャップを形成するにも中足の加工であるため、切削加工では経常的な制約がある上、成型加工でも作製精度として、通常±0.1〜1mm程度の範囲でばらつきが発生する。ギャップ長のばらつきはインピーダンスのばらつきにつながり、微小なギャップの違いであっても、ばらつきは無視できないほど大きくなる。例えば、一般的なリングコアとして外径14mm×内径8mm×高さ7mmのものにギャップを設けて±1mmの誤差が発生した場合、インピーダンスの誤差は50%を超えるほど大きくなる。
また、フェライトなどの磁性材料の多くは、材質が陶磁器などと同じように粘らず脆性破壊が生じやすいため、中足にギャップを設けることで強度的な低下が著しく、微小な亀裂が生じやすい上に僅かな衝撃で破損し易くなるため、ハンドリングの面でも作業を煩雑化させることになる。
【0009】
さらに、上述のような形状のコアは、EI型やEE型として分割タイプのものが市販されているが、その用途はトランス用にほぼ限定されており、上述のギャップ精度を確保するために、合わせ面やギャップ間に面出しの加工が施されている。その上、E型とI型またはE型のコアを組み合わせて使用するためには、これらを支持・補強する治具が必要となり、磁性体の周囲を樹脂やセラミックスや金属材料などで補強して使用される。以上のように、ギャップや合わせ面の精度確保や補強治具の使用により、ギャップ付きEIコア,EEコア等には問題が残されている。
【0010】
したがって、この発明の課題は、上述のコアの問題に鑑み、一般的で廉価なコア部材の使用数を減らし、簡単にコモンモードノイズとノルマルモードノイズの両方を低減可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、ノイズ電流低減用コアを電力変換装置の入力と出力の少なくとも一方の相線に設置するに当り、3相以上の全相でない2相以上の相線に一括して挿入することを特徴とする。
この請求項1の発明においては、前記コアは、コアに挿入する相線の組み合わせが互いに重複しないようにすることができる(請求項2の発明)。
【0012】
請求項1または2の発明においては、前記コアは、コアに挿入する相線の数が全てのコアで互いに等しくなるようにすることができ(請求項3の発明)、また、請求項1〜3のいずれかの発明においては、前記コアは、各相間でノルマルインピーダンスにアンバランスが生じないように、全ての相で同じ個数のコアが挿入されるようにすることができる(請求項4の発明)。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、これまでコモンモードとノルマルモードで個別に対策していたものについて、コアへの入出力線への挿入方法を工夫することにより、コモンモードとノルマルモードの両ノイズに同時に対処することが可能となる。従来のように、コア自体の中足にギャップを設けるコアでは、インピーダンス精度を確保するために、加工技術や加工精度が要求されるだけでなく、コストやハンドリングの面で取り扱い難いという難点があったが、この発明では汎用性のあるリングコアを用いるようにしたので安価で扱い易く、部品調達や部品交換も容易である。
さらに、コモンモードとノルマルモードで個別に対策する場合に比べ、少ない個数で対処できるため、低コストでかつ少ない部品数で簡単に対処することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はこの発明の原理を説明するための説明図、図2はこの発明の実施の形態を示す回路図である。
図1において、11〜13はコア、21〜23は電線(相線)を示し、3相の場合に適用する例である。すなわち、コア11を電線21,23に、コア12を電線21,22に、また、コア13を電線22,23にそれぞれ組み合わせて用いている。
コア11〜13はリング状(円環状)のものを用いたが、これに限らず、多角形,楕円などの形状でもよい。汎用のリングコアを適用することができるため、これを選択すると安価で扱いやすい。1つのコア内部には後述する必要本数の電線を通すことができる内径
(内寸)を有するものとする。
【0015】
図1ではコア11に電線21,23を挿入しているが、コア12や13には電線21と23を挿入しないよう、その組み合わせが重複しないようにすること、また、各コアにはここでは2本の電線がそれぞれ挿入されるよう、コアに挿入する相線の数を等しくすることなどが必要である。対策する入出力線の総数は3相だけでなく何相でも良いが、1相や2相の場合は成り立たないので、3相以上の場合が対象となる。
また、上記のようにコア11〜13内に電線を通すことにより、3つのコアを用いてノルマルモードコアとコモンモードコアの作用を得るものである。
【0016】
図1のような配置でノルマルモードとコモンモードの両方に効果を生む理由について説明する。例として、インダクタンスを用いて考える。
図1の配置にて、コア1つ当りのインダクタンスをLとすると、コア1つに2本の配線をしているため、コア1つがノルマルモードとして1本の線に与えるインダクタンスは(1/2)Lとなる。図1では1相当り2個のコアを通っているため、トータルでは、
(1/2)L+(1/2)L=1…(1)
の値のノルマルモードインダクタンスを与えることができる。
【0017】
一方、コモンモードについては、3相を一本の配線として考えると、コア1つがコモンモードLとして与えるインダクタンスは、2つの相しか通していないため、(2/3)Lとなる。しかし、各相でアンバランスが生じないように3つ配置しているため、
(2/3)L+(2/3)L+(2/3)L=2L…(2)
の値のコモンモードインダクタンスを与えることができる。
よって、コア11〜13を図1の如く配置することにより、ノルマルモードコアとコモンモードコアをそれぞれ設けることなく、ノルマルモードノイズ,コモンモードノイズの双方を同時に抑制することができる。
【0018】
この発明をインバータの入力フィルタとして適用した場合の例を、図2に示す。
図2(a)は未対策時(L型フィルタのみ)、図2(b)はノルマルモードフィルタのみの対策時(ノルマルモード対策コアLdとコンデンサCxを追加)を、それぞれ示す。図2(c)は、この発明により配置したコア11〜13をノルマルモード対策コアLdとコモンモ−ド対策コアLcとして等価的に示したインバータ回路を示す。入力線は3相で、図1のような構成のリングコア11〜13を、2相ずつ3個挿入した場合を示している。なお、挿入するコアは入力側に限らず、出力側でも良い。
【0019】
図2(b)の対策を施したときの伝導ノイズベクトルの例を図3に、また、図2(c)の対策を施したときの伝導ノイズベクトルの例を図4にそれぞれ示す。
すなわち、図3のようにノルマルモードフィルタのみの対策を施した場合は、L型フィルタのみの場合(Y参照)に比べて600kHz付近のノイズが約7dB、4MHzのノイズが約10dB低減しているが、4MHzピークは抑制されずに完全に残っている(Z参照)。
【0020】
これに対し、図4では図1に示すこの発明のコアを挿入することにより、ノルマルモードコアとコモンモードコアを個々に追加することなく、600kHz付近のノイズに加え、4MHzピークも約15dB低減できることを示している(Z参照)。
なお、図3,図4の線XはIEC61800−3 Cat.C3インバータ等の電気機器における国際規格値を示していて、伝導ノイズが線Xを越えないようにすることが求められている。図に示すように、従来対策(Yのカーブ)では本規格を満たせなかったが、この発明を適用することにより、ほぼ規格内に収めることができる。特に規格に対してマージンが殆ど無い4MHz付近のピークを約10dBも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の原理を説明する説明図
【図2】この発明の実施の形態を示すインバータ回路図
【図3】図2(b)の回路の伝導ノイズ評価結果を説明する説明図
【図4】図2(c)の回路の伝導ノイズ評価結果を説明する説明図
【図5】ノイズの発生回路説明図
【図6】ノイズ対策用コアの具体例を説明する説明図
【図7】特許文献2,3で用いられるコアの例を示す構造図
【符号の説明】
【0022】
1,11〜13…コア、2,21〜23…電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズ電流低減用コアを電力変換装置の入力と出力の少なくとも一方の相線に設置するに当り、3相以上の全相でない2相以上の相線に一括して挿入することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記コアは、コアに挿入する相線の組み合わせが互いに重複しないようにすることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記コアは、コアに挿入する相線の数が全てのコアで互いに等しくなるようにすることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記コアは、各相間でノルマルインピーダンスにアンバランスが生じないように、全ての相で同じ個数のコアが挿入されるようにすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−178218(P2008−178218A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9243(P2007−9243)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】